一般社団法人 日本経済団体連合会
Ⅰ.はじめに
わが国経済は、新型コロナウイルス感染症(以下、感染症)等に伴う経済活動の落ち込みから、持ち直しの動きが見られる。先行きについては、経済社会活動の正常化や、政府の各種政策の効果等を通じて、引き続き景気の持ち直しが期待される。ただし、感染症の動向や、ロシアによるウクライナ侵略、台湾情勢、海外経済の先行き懸念等、不透明感が強い。原油価格等の高騰、サプライチェーンの寸断、為替相場の急変動に伴い、企業や家計へのマインド面の悪化と経済活動の停滞のリスクには引き続き注意を払うことが必要である。
こうした中、岸田政権初となる「経済財政運営と改革の基本方針2022」(令和4年6月7日閣議決定、以下「骨太方針2022」)及び同政権の目指す「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」(令和4年6月7日閣議決定、以下「新しい資本主義実行計画」)では、「課題解決を成長のエンジンに変え、持続可能な経済を実現」する旨が記載された。そのための重点投資分野として、人、科学技術・イノベーション、スタートアップ、グリーントランスフォーメーション(以下、GX)及びデジタルトランスフォーメーション(以下、DX)が掲げられた。
これらの方向性は、経団連が「。新成長戦略」(令和2年11月)で謳った「サステイナブルな資本主義」と軌を一にするものである。わが国企業・経済界としても、GX、DXをはじめとする変革を実現し、将来に渡る価値創造力及び競争力の維持・強化を果たし、わが国における「成長と分配の好循環」のエンジンを力強く駆動させていきたい。
こうした観点から、令和5年度税制改正においては、「骨太方針2022」や、「新しい資本主義実行計画」に示された施策や、社会変容を実現するための大胆かつ強力な税制措置を講じるべきである。そして、企業の研究開発、人、スタートアップ、GX及びDXへの果敢な投資を通じて成長と分配を促し、更なる税収増につなげるとともに分厚い中間層の構築に資する税制を目指すべきである。
また、国際課税制度については、デジタル課税「第1の柱」(利益配分ルール)、「第2の柱」(ミニマム課税)に係るOECD/IF(包摂的枠組)での検討が鋭意進められている。引き続き納税者である企業の実務負担を軽減する観点から、納得性のある制度設計とすることが必要不可欠である。更に、令和5年度税制改正以降の「第2の柱」の国内法制化に伴い、企業の実務対応が付加される見通しである。これを見据えれば、制度としては類似し、手続き面においても重複感のある、わが国外国子会社合算税制(CFC税制)についても、事務負担の軽減及び過剰合算の適正化の観点から、抜本的な簡素化を図ることが極めて重要である。
更に、上記国際課税制度の大変革に伴い、グローバルに活動を展開する企業が税負担及び事務負担の増大に直面することは避けられない。産業の空洞化を避け、わが国における「成長と分配の好循環」の構築に対して、企業として積極的に貢献していく観点からも、法人課税のあり方は企業にとって極めて重要な課題と認識している。今後増大する政府歳出のファイナンスを検討するに際しては、受益と負担、経済への影響等を十分に踏まえた慎重かつ丁寧な議論が求められることを強調する。
なお、サステイナブルな資本主義の実現に向けて、地球環境・エネルギー問題、格差是正、働き方の変化、ダイバーシティ、人口減少、社会保障の適正な給付と負担、経済安全保障等、諸課題が密接に関連してくる。各種課題に伴う経済社会の構造変化に着目しつつ、毎年度の税制改正と並行して、あるべき税制の姿について骨太の議論を深めていくことが必要不可欠である。
Ⅱ.成長のエンジンの駆動に向けた税制
本章では、令和5年度税制改正を含む時間軸において、わが国企業・経済界として重視する、「法人税制」、「土地・都市・住宅税制」、「期限切れ租税特別措置の延長等」、「地方税」の4分野について提言を行う。
1.法人税制
企業・経済界は、働き手をはじめとするマルチステークホルダーに配慮した経営を一層推進している。業績がコロナ前の水準を回復した企業では、3%を上回る月例賃金の引上げ#1が実現された。また、賞与・一時金支給(夏季)については過去最高となる8.77%増(前年同期比)となった#2。本年度以降も賃金引上げのモメンタムを維持し、賃上げ促進税制の積極的な活用を視野に入れつつ、「成長と分配の好循環」の実現に寄与する所存である。併せて、国内経済への波及効果も意識しつつ、「未来への投資」として、GX、DXにとどまらず、「人への投資」も積極的に推進し、「コロナ後の新しい社会の開拓」に取り組んでいきたい。
昨今の法人税収の動向から明らかな通り、税収の中長期的な安定には、企業業績の持続的かつ安定的な拡大が必要不可欠である。成長を原資とした分配は、働き手等の経済活動の更なる活性化を通じて、所得税、消費税の更なる税収増に波及することが期待される。
こうした観点を踏まえ、法人実効税率については、ポスト・コロナ時代のわが国企業の国際競争力の維持・強化、民間の投資拡大の視点を最大限重視し、OECD主要国及びアジア近隣諸国の平均水準を目指すことを基本とすべきである。なお、今後増大する政府歳出のファイナンスを検討するに際しては、受益と負担の関係はもちろんのこと、経済への影響等を十分に踏まえた慎重かつ丁寧な検討が必要であることを強調したい。
(1)研究開発税制の拡充・維持
人口減少の下でも、わが国が確固たる経済的地位を確保し、社会課題を成長のエンジンの駆動へとつなげていくためには、「骨太方針2022」、「新しい資本主義実行計画」で示された通り、科学技術・イノベーションへの投資を官民連携で抜本的に拡充していくことが必要である。
そのためには、研究開発税制というインセンティブが将来に渡って安定的に継続されることが企業の研究開発投資に係る意思決定の前提となっていることを踏まえ、政府は国家戦略としての科学技術立国を主導し続けることが不可欠である。こうした観点から、制度そのものの簡素化を含めて、次の軸に沿った制度の拡充・維持を図るべきである。
① ポスト・コロナ時代のイノベーション創出に係るインセンティブ機能の確保
まず、一般型における控除上限を維持した上で、その上乗せ措置(令和4年度末で適用期限到来、一定の要件下で法人税額の5%の控除上限を上乗せ)について、経済環境にかかわらない形で要件の見直しを行いつつ、延長を図るべきである。
次に、一般型における増減試験研究費割合に応じた控除率について、控除率10%超14%までの上乗せ措置の延長を図るべきである。その上で、増減試験研究費割合に応じた控除率のあり方についての議論が行われるのであれば、企業の予見可能性が損なわれないことを前提とすべきである。
この他、令和4年度末で期限切れを迎える、売上高試験研究費割合10%超の場合の控除上限上乗せ措置及び控除率の上乗せ措置も延長すべきである。
なお、GX、半導体等の特定分野における試験研究費について、一般型とは別枠での控除率及び税額控除を一定期間設定することも選択肢の1つとして検討すべきである。
② OI型の改善を通じたオープンイノベーションの裾野の拡大
各種新規技術のシーズを有するスタートアップとのオープンイノベーションを一層推進し、スタートアップの更なる飛躍を実現する観点も踏まえ、OI型の相手方としての「新事業開拓事業者等」(いわゆるスタートアップ)に係る定義の拡充を図るべきである。
この他、OI型について、手続き面で相手方の確認・認定を得るプロセスや、第三者による監査について、廃止を目指しつつ、まずは一層の簡素化を含めた見直しを行うべきである。
③ ビジネスモデルの変革に即した試験研究費の範囲等の見直し
経済活動の変化に即して、スタートアップを含めて、本税制の適用の裾野を広げる観点から、試験研究費の範囲について、次の通り所要の見直しを図るべきである。
- 対価を得て提供する新たな役務の開発に係る要件緩和
- 人文・社会科学に係る活動(例えば、ロボット、アプリケーション開発における心理学の活用等)
- アジャイル開発への対応
- 業務改善目的の研究開発の範囲の明確化 等
また、自社利用ソフトウェア(とりわけクラウド環境により顧客に利用させるソフトウェア)に係る試験研究費について、DXの進展の下で、クラウド環境を介したビジネスモデルが普及・定着しつつあることを踏まえて、発生時損金処理を実現すべきである。
なお、グループ通算制度における研究開発税制のグループ調整計算について、増額修更正に対応した控除額の拡大を可能とすること等を検討すべきである。
(2)スタートアップ振興税制等
経団連は、「スタートアップ躍進ビジョン~10X10Xを目指して~」(令和4年3月)において、スタートアップが生まれ成長するために必要な資金と人材が国内外から潤沢に供給されるエコシステムが構築されるべきことを提言した。同提言では、各種税制措置を含めた制度面の大胆な見直しも掲げた。これを受けて、政府の「骨太方針2022」、「新しい資本主義実行計画」においても、スタートアップの「5年10倍増」が示された。
令和5年度税制改正においては、次の措置を講じるべきである。
① ストックオプション税制
スタートアップによる優秀な人材確保に向けて、役員・従業員等の権利行使期間(現行は付与決議から2~10年以内)を15年程度以内に延長すべきである。
また、上場前に権利行使により取得した株式に係る保管委託要件について、所要の見直しを行うべきである。
② オープンイノベーション促進税制
スタートアップエコシステムの構築のために、スタートアップの「イグジット」、いわば出口戦略としてのM&Aを促進する観点から、資本金額の増加を伴う株式の取得だけではなく、M&A時には発行済株式の取得も対象にする等の見直しを行うべきである。
③ 研究開発税制(再掲)
経済活動の変化に即して、試験研究費の範囲について所要の見直しを行うべきである。
また、OI型について、相手方としての「新事業開拓事業者等」に係る定義を拡充すべきである。
④ スピンオフ税制
今後更なる機動的な事業再編を通じたイノベーションを創出する観点から、スピンオフを行う企業に持分を一部残す場合の類型にも譲渡損益の繰延を可能とする等、拡充を行うべきである。
⑤ 国外転出時課税制度
スタートアップの国境を越えた活躍を一層後押しする観点から、適正課税に留意しつつ、納税猶予に係る担保猶予手続きの簡素化等の所要の見直しを行うべきである。
⑥ その他
エンジェル税制について、まずは申請に必要な書類の削減・簡素化、手続きのオンライン化等を行うべきである。その上で、エンジェル投資家のニーズを見極めつつ、優遇措置の対象となる特定中小会社等について所要の拡充を検討すべきである。
また、web3、NFT(Non-Fungible Token: 非代替性トークン)、DAO(Decentralized Autonomous Organization: 分散型自律組織)、メタバース等について、Society 5.0 for SDGs実現に向けた活用のあり方を含む制度・環境の整備も必要である。その際、web3時代に即して、例えば自社で発行し保有する暗号資産に係る期末時価評価課税の見直し等、所要の税制措置を検討すべきである。
(3)企業の投資拡大と事業再編の円滑に向けた税制措置
① 投資拡大に向けた税制措置
前述の科学技術・イノベーションへの投資、スタートアップの起業加速の他、政府の掲げる重点分野である「人へ投資」、GX及びDXへの投資に関しても、税制措置により民間投資の促進を図るべきである。
その観点から、本年度末に適用期限の到来するDX投資促進税制について、延長をまずは実現すべきである。その上で、適用要件(生産性向上の判定単位及び比較対象期間等)に係る所要の見直しを行い、使い勝手の良さを更に高めるとともに、「人への投資」の観点も踏まえ、DX人材育成への投資等を対象に含めるべきである。
また、政府の示した通り、今後10年間に官民協調で150兆円規模の投資を実現する観点から、GX推進に向けた投資減税の深掘りとして、次の3つの税制措置を講じることを検討すべきである。
1つ目に、カーボンニュートラル(以下、CN)に資する投資については、固定資産税に係る既存の減免措置を維持しつつ、その対象の裾野の拡大を検討すべきである。
2つ目に、令和3年度税制改正で創設されたCN投資促進税制について、既存の需要開拓商品、生産工程効率化等設備に係る類型について、例えば、各種素材関係設備の追加を行う等、対象設備の拡充を検討すべきである。併せて、新たな類型を設けて、CNへの貢献度合いを踏まえて、当該税制の対象に他の取得資産を加えることも検討すべきである。例えば、電気自動車に係る充電設備及びその他構成機器関連設備、蓄電池、鉄道車両、航空機等を追加することが考えられる。
3つ目に、住宅・建築物分野において、新築・既存ストックの脱炭素化に向けた省エネ対策(改修、設備更新等)に対する特例を創設すべきである。
なお、償却資産に係る固定資産税については過去提言を重ねてきた通り、本来的には廃止すべきである。
この他、土地・都市関連税制(後述)においても、企業の投資拡大に資する税制措置を次の通り提言する。
まず、長期保有土地等に係る事業用資産の買換特例について、国内における企業立地及び産業立地の転換の円滑化や、地方発のスタートアップへの支援等の観点も踏まえつつ、堅持の上、延長を図るべきである。なお、買換資産の土地面積要件の緩和等を行うべきである。
次に、まちづくりを通じた様々な社会課題の解決に向け、まちなかへの機能集積を図り、都市の国際競争力強化やイノベーション創出等を促進する観点から、都市再生促進税制を延長すべきである。
② 事業再編の円滑化に資する税制措置
スピンオフ税制について、スピンオフを行う企業に持分を一部残す場合の類型にも譲渡損益の繰延を可能とする等、拡充を行うべきである(再掲)。
また、事業再編をさらに促進すべく、LLP(Limited Liability Partnership、有限事業責任組合)に対する現物出資時の簿価譲渡を可能とする制度を創設すべきである。
なお、他の法人への出資に伴う受取配当の益金不算入制度については、二重課税の排除という趣旨を堅持することが重要であり、益金不算入割合を少なくとも維持すべきである。
(4)税務手続きのデジタル化
規制改革実施計画(令和4年6月7日閣議決定)では、国税・地方税についてオンライン利用率引上げに係る方針が示されている。また、公金納付のデジタル化に向けた検討体を政府内に立ち上げ、令和4年度末までに結論を得ることを目指し、結論を得た論点から速やかに措置するとされた。このように書面・押印・対面原則の見直しが加速度的に進められており、歓迎する。マイナンバー制度等これまで構築した基盤も活用しながら、官民一体の取り組みを加速させ、デジタル化の推進による生産性の向上や、テレワーク等の柔軟な働き方を実現すべきである。具体的には、優先度が高い以下の課題に取り組むべきである。なお、税務関係手続きについては、単なる電子化のみならず、電子証明付与を必要とする提出資料の精査等も含め、真に必要なものに絞り込む等の手続き自体の合理化、簡素化も不可欠である。
① 国税に関するデジタル化
大法人では法人税や消費税について令和2年度から電子申告が義務化される等、制度の整備がなされる一方、実際に電子化に伴い利用するe-Tax等のシステム等には更なる改善の余地がある。デジタル化を推進するためにも、企業の申告・納税に関する業務がe-Taxによって、一元的に実行、管理できるシステムの構築を実現すべきである。
1法人複数ID利用の許容、データ送信時の容量の拡充、データ形式の柔軟化、e-Taxのデータベース化等、引き続き機能・操作性の向上や改善・拡充を行うことを求める。最終的には、手続状況の可視化等まで含めた、全ての実務が電子的に完結する体制を整備することを目指すべきである。
また、中小企業を含む納税者、税務当局、金融機関等が負っている、現金納付に伴う社会的なコストを削減するためにも、今後の電子申告および電子納税の利用率を向上させる取り組みの検討を期待する。
- <複数IDの利用>
e-TaxにIDが原則一法人につきひとつしか割り当てられないことから、以下のような問題が発生している。
- データ送信時にID(及びそのパスワード)の管理部署の担当者による入力作業が必要になり送信データ作成部署への往来が必要などの実務的な負担が発生
- 異なる税目を担当する複数の部署間での同じIDの使い回しや各担当者がシステム上全ての税目について作業ができてしまうこと等の内部統制上問題が発生
この問題を解消するため 、複数IDの利用により法人の負担軽減を実現する仕組みを検討すべきである。
- <データ送信時の容量の拡充>
電子申告において納税者側から多くの添付資料の送付にあたり、送信可能な容量に制約があるために分割して送信する必要がある。受領側でも、不必要にデータが分割されていることによる非効率が生じていると推察する。双方の事務負担を軽減する観点から、e-Taxにおいて送信可能なデータ容量を拡大すべきである。なお、電子的な送信ではなく光ディスク等での提出となると、従来の書面での提出と大差のない手間が生じることからもe-Taxの容量の拡充等によりオンライン上で対応ができる体制の整備が必要と考える。
- <データ形式の柔軟化>
膨大な入力が必要な別表・付表については、XML形式のファイルでの提出は実務的に困難であるため、CSV形式での取り込み・入力を可能にすべきである。
(別表・付表の例)
- 組合事業等に関する別表9(2)、外国子会社合算税制に係る別表17(3の7)付表1及び2、別表17(3の8)、特別償却の付表(18)、会社事業概況書 等
また、現状e-TaxにおいてPDFのみが添付可能となっているもの(例えば外国子会社合算税制における外国関係会社の財務諸表等の添付資料)については、CSVによるアップロードも可能とすべきである。
- <e-Taxのデータベース化>
国税の電子化に際し、e-Taxを企業の税務業務のデジタル基盤とすべく、機能・操作性の改善を図るべきである。
そのために、例えば以下の通知・納付書等をはじめとする各種書面について、授受をe-Taxに集約し、内容を確認することができるようにすべきである。
- 法人税・消費税の更正通知書(当局が更正を行う場合)
- 法人税・消費税の中間申告の納付書
- 法人税・消費税の還付通知書
また、これら通知・納付書等がe-Taxの受信ボックスに入った場合に、納税者へのメール等による通知が発出されるシステムの構築を要望する。一部通知については受領をもって納期限が定まるところ、発信主義ではなく到達主義に基づいたシステム・制度設計が必要だからである。
更に、納付・還付手続や通算親法人・通算子法人による通算グループへの加入・離脱等の届出書等の各種申告・申請・手続について、その受付・進捗状況を画面上で確認できるよう、e-Taxをデータベース化することを要望する。
- <その他機能・操作性の改善・拡充>
令和4年度税制改正提言で指摘した事項#3に加え、以下の点について、e-Taxの機能改善を図るべきである。
- 電子化未対応の別表・届出表の電子化に対応するようにすること
(例)分割等に係る移転試験研究費・移転売上金額に係る各種申請・届出書 - Web版e-Taxの機能を拡充し、ダウンロード版と同様の機能を具備するようにすること
- 現状1ページずつしか印刷ができないe-Taxの印刷機能について、一括印刷を可能にするなどの改善を図ること
- 追加納付時の利息について、e-Tax上で自動計算できるようすること
- 更正通知について、ワンス・オンリーの観点から地方税との連携を行うこと
なお、e-Taxの機能拡充については、基本的にはeLTAXについても同様である。
- 電子化未対応の別表・届出表の電子化に対応するようにすること
申告等の税務手続きの電子化が進む一方、税務調査については未だ原則対面での調査、郵送やFAXによる資料の授受のみとされており、これらの制限が納税者側の負担となり、税務調査の効率化への障害となっている。今後は国税庁の「税務行政のデジタル・トランスフォーメーション」等も踏まえ、税務調査やそれに付随する関係会社への反面調査等について、Eメール、クラウドの活用、及び前述のe-Taxの機能拡充による資料の授受といったオンライン化を強力に進めるべきである。
また、それと並行し、納税者と税務当局のコミュニケーションの円滑化を図り、税務調査の効率化を図るべく、電話受付時間の拡大や担当者直通の電話への架電、調査官への携帯電話の支給等の方策を推し進めることや、案件によってはリモート調査をさらに活用すること(実地調査の範囲の見直し)などを要望する。
また、更正通知(当局が更正を行う場合)についてもオンライン化を進めるべきである(再掲)。
税務行政のデジタル化の必要性については、地方税についても同様である。
優良な電子帳簿について、過少申告加算税の軽減措置の適用を受けるために必要となる帳簿の範囲を限定した上で、明確化すべきである。 会計監査・内部統制の観点から重要であることも踏まえ、現行の過少申告加算税の軽減措置の他、更なるインセンティブ措置の拡充等を検討すべきである。
スキャナ保存制度についても、ペーパーレス化・省力化を一層促進する観点から、引き続き所要の見直しを検討すべきである。
また、電子取引の電子保存について、宥恕期間における各社の準備状況を踏まえ、デジタル化原則の流れに逆行しないよう配意しつつ、引き続き所定の要件に従い電子保存を行うことができないことにつき一定の理由がある事業者に配慮する措置や保存要件の緩和等、必要に応じ更なる対応を検討すべきである。
所得税についても、手続きの電子化・簡素化の観点から、以下の課題に取り組むべきである。
- 給与所得の源泉徴収票等の電子化に向けた本人承諾の見直し
- 年初における所得税の扶養控除等申告書提出の廃止
- 非居住者の支払調書、合計表の提出の電子化
- 源泉徴収に係る所得税及び復興特別所得税の納税証明願の申請・発行の電子化
- 所得税及び復興特別所得税の更正の請求手続きにおける「更正の請求書」提出の電子化
② 地方税に関するデジタル化
規制改革実施計画では、地方税の処分通知等のデジタル化について、可能なものから速やかに必要な措置を講ずるとされており、歓迎する。経済界としてとしては、固定資産税(土地・家屋)のデジタル化のニーズが高い。
固定資産税は令和3年度税制改正で地方税共通納税システムの対象税目とされ、令和5年度から一括的な電子納税が可能となった。しかしながら、書面による納付書(QRコードが付されたものを含む)の継続が前提とされており、現状では自治体ごとの様式の不統一等による処理・保存等の作業効率の低下の問題がある。また、固定資産税については、社内の設備管理システムへの効率的な評価額等の入力の観点から、課税明細書等の電子化ニーズがあるが、対応は一部の自治体に留まっている。
このため、固定資産税に係る各種書類(納付書、納税通知書、課税明細書等)について、完全電子化に向けたロードマップを早期に示すべきである。また導入に際しては、本人の真正性、実在性の確認を確実に実施しつつも、既存のeLTAXを活用しつつ、企業の実務に照らし事務負担が過大にならない制度設計とすることを要望する。
この他、法人事業税・法人住民税の還付通知書、充当通知書、「自治体からの申告手続きのお知らせ」などを早期に電子化すべきである。
個人住民税特別徴収税額通知(納税義務者用)の電子化については、令和6年度分からの電子化に向けて、準備が整った段階で前広にシステムの仕様等を事業者に公開すべきである。
「行政手続等の棚卸結果等(令和2年度調査)」を踏まえ、地方税の申告・申請手続のうち電子化が未対応のものについて、優先順位をつけながら今後デジタル化を実現していくと理解している。決定したものから随時実装されていくことを期待する。例えば、納税証明書の交付申請は、一部の自治体では既に電子化に対応しているが、全国一律、eLTAXで申請できることが望ましい。
③ 公金のデジタル化
地方税共通納税システムの対象が令和4年度税制改正で全税目に拡大される等、eLTAXを活用した納税業務の電子化は進展しており、歓迎する。その一方で、地方税に該当しない公金(道路占用料、行政財産使用料等)については、依然として、紙媒体の納入告知書または納入通知書により徴収され、収納も金融機関窓口での納付が前提である。規制改革実施計画で掲げられた政府検討体での議論が進展し、令和4年度に成案が得られることを期待する。地方公共団体に共通して活用できる基盤の整備を進めるに際しては、既に民間事業者が活用しているeLTAXの対象範囲が公金に拡大されることが望ましい。
④ インボイス制度
適格請求書等保存方式(インボイス制度)において、令和5年10月からの円滑な導入に向け、少額取引に係る適格請求書交付義務の免除範囲の拡大や、端数処理の緩和、免税事業者に係る経過措置の検証等、必要に応じ所要の措置を行うべきである。
⑤ 印紙税
印紙税について、電子商取引が一般化し、経済取引のペーパーレス化が著しく進展する中、その合理性は失われている。消費税と実質的に二重課税となる可能性のある第2号文書や第17号文書をはじめとする全ての印紙税について、本来的には廃止すべきである。
2.土地・都市・住宅税制
(1)土地関連税制
まず、長期保有土地等に係る事業用資産の買換特例について、国内における企業立地及び産業立地の転換の円滑化や、地方発のスタートアップへの支援等の観点も踏まえつつ、堅持の上、延長を図るべきである。なお、買換資産の土地面積要件の緩和等を行うべきである(再掲)。
また、土地に係る固定資産税について、事業者の経営環境、経済情勢、地価動向等を踏まえつつ、来年度の固定資産税の負担増の発生状況が納税者に与える影響に十分留意し、総合的な検討を行った上で、必要に応じて機動的な対応を講じるべきである。また、土地に係る固定資産税の負担を適正化し、納税者の信頼に足る制度とすべく、中長期な観点から所要の対応を行うべきである。なお、都市計画税についても同様の取扱いとすべきである。
この他、次の特例措置について、延長等を図ることが求められる。
- 土地の売買等に係る登録免許税の特例措置の延長。
- J-REIT等に係る登録免許税、不動産取得税の特例措置の延長・拡充等。
- 個人の優良長期譲渡所得の軽減税率特例の延長。
- 法人等の土地譲渡益重課の課税停止期間の延長。
- 所有不明土地問題等に係る特例の延長。
- 不動産市場の活性化等に向けた所要の対応。 等
(2)都市関連税制
まちづくりを通じた様々な社会課題の解決に向けて、都市再生を引き続き強力に推進し、まちなかへの機能集積を図ることが必要である。グローバル企業や、スタートアップ等も含めた多様なニーズに応えるビジネス環境を整備し、都市の国際競争力強化や、イノベーションの創出等を促進するために、都市再生促進税制について延長すべきである(再掲)。
また、次の都市関連税制について、延長等を行うべきである。
- 防災性能向上や、物流効率化の実現に向けた支援措置の延長・創設。
- 市民緑地認定制度に係る固定資産税等の特例の延長。
- CNや、DXの技術進展も踏まえたまちづくりに対する支援措置の延長・創設。 等
(3)住宅関連税制
未来志向の豊かな住生活を実現する観点から、次の特例措置について、延長等を実現すべきである。
- 住宅の買取再販に係る不動産取得税の特例措置の延長。
- サービス付き高齢者向け住宅に係る特例措置の延長。
- 更新等による良質な住宅ストック形成に資する特例措置の延長・創設。
- 多様化する住宅ニーズ等に対応するための税制の延長・創設等。 等
3.期限切れ租税特別措置の延長等
(1)海運関連税制
わが国外航海運事業者の国際競争力強化を図るため、来年度税制改正においては、トン数標準税制、外航船舶の特別償却制度及び買換特例制度を延長するとともに、特別償却制度について、経済安全保障に資する一定の要件を満たした外航船舶について拡充すべきである。
(2)自然災害に対し強靭な経済社会を構築するための税制措置
頻発化・激甚化する自然災害に対して、企業のレジリエンスを確保することは、喫緊の課題であり、事業者の自主的な対策を税制上側面支援することが重要となる。その観点から、次の措置を講じるべきである。
火災保険等に係る異常危険準備金制度について、より持続可能性の高い制度に拡充するべく、適用区分、積立率、洗替保証率等について、所要の見直しを行うべきである。
また、首都直下地震・南海トラフ地震に備えた耐震対策により取得した鉄道施設に係る固定資産税の課税標準の特例措置について延長を行った上で、対象資産の範囲の拡充を図るべきである。
更に、水害等の発生後の都市間輸送の正常化等を期して、被災代替資産の特別償却対象資産への鉄道車両の追加を行うべきである。
(3)安定的な航空輸送の維持・確保に資する税制措置
航空機燃料税の軽減措置について、令和4年度税制改正において税率の引き上げを行いつつ延長されたものの、引き続き残存する感染症の影響下でも安定的な航空輸送を維持・確保する観点から、当該措置の延長を図るべきである。併せて、SAF(Sustainable Aviation Fuel)の利活用促進に向けて、非課税化も選択肢から排除せずに税制上の配慮を行う等、税負担や環境負荷軽減の観点も踏まえつつ、所要の拡充を検討すべきである。
また、航空等の運輸分野における、特定用途石油製品に係る地球温暖化対策税の還付措置について、延長を行うべきである。
(4)役員報酬に係る見直し
役員報酬に係る各企業内の制度設計に照らして、損金算入できる範囲の明確化等、実務上の判断に資する所要の措置を不断に検討すべきである。
また、サステナビリティ経営の浸透に伴い、ESGや、SDGsに関する非財務指標をインセンティブ報酬のKPIとして設定する企業が今後も増加することが見込まれる。指標の客観性の確保や企業の開示負担に関する検証を十分踏まえつつ、損金算入が認められる業績連動給与の算定基礎となる業績連動指標の範囲に追加することを検討すべきである。
更に、特定譲渡制限付株式による給与について、企業の実態を踏まえつつ、事前確定届出給与の届出期限又は届出不要に係る日数要件について、所要の見直しを行い、損金算入可能とすることを検討すべきである。
(5)投資法人に係る税制措置の整備
感染症の長期化する影響を踏まえ、投資法人等がテナントに対して賃料の支払いを猶予した場合において、導管性要件の緩和を行う等、所要の措置を講じるべきである。
また、投資法人について、税会不一致による二重課税の解消手段を行使する際の任意積立金等の取り扱いについて、所要の措置を講じるべきである。
更に、投資法人に係る課税の特例について、再生可能エネルギー発電設備の取得期限の延長等を行うべきである。
(6)債券現先取引(レポ取引)の非課税措置の恒久化又は延長
わが国の短期金融市場・金融機関の資金調達の安定化を図る観点から、わが国金融機関等と海外ファンド等との間におけるレポ取引に係る非課税措置を恒久化又は延長すべきである。
(7)特定原子力施設炉心等除去準備金制度の延長
事故炉廃炉の確実な実施を確保する観点から、特定原子力施設炉心等除去準備金制度を延長すべきである。
(8)グループ通算制度に関する所要の見直し
グループ通算制度の適用開始後の企業実務を踏まえつつ、離脱時時価評価制度、投資簿価修正制度等について所要の見直しを検討すべきである。なお、税務調査に関しては、通算グループ単位での調査を原則とすべきである。
(9)中小企業税制の延長等
わが国のサプライチェーン等の基幹を成す中小企業を下支えする観点から、中小企業者等の法人税率の軽減措置を延長すべきである。また、サイバーセキュリティの充実を含めて、サプライチェーンの強靭化等の観点も踏まえつつ、中小企業経営強化税制、中小企業投資促進税制を延長・拡充すべきである。
更に、地域未来投資促進税制は、地方創生の観点からも一定の役割を果たしており、確実に延長すべきである。
(10)留保金課税の見直し
企業の自己資本の充実による投資促進の観点から、特定同族会社の留保金課税は廃止すべきである。
4.地方税
(1)法人事業税における外形標準課税の簡素化
外形標準課税付加価値割について、計算等が複雑になっており、企業実務にとって負担となっていることから、簡素化すべきである。また、外形標準課税資本割については、企業資本の充実や競争力を阻害する要因になり得ること等を踏まえ、所要の見直しを検討すべきである。
なお、外形標準課税のあり方について検討する際には、まずは丁寧に適用実態を分析する必要がある。
(2)電気供給業・ガス供給業における法人事業税の課税標準の見直し
当該両業種における法人事業税の課税標準について、地域独占と総括原価主義を根拠として収入割が適用されてきたが、平成28年度(電気)、平成29年度(ガス)の小売全面自由化によって地域独占・総括原価主義は撤廃された。これに伴い、一般の事業とは異なる収入割を適用する根拠は消失した。
こうした中、電気供給業については、令和2年度改正において、発電・小売事業の一部に外形標準課税等の組み入れが行われた。また、ガス供給業については、令和4年度税制改正において、大手3社等の製造・小売事業の一部に外形標準課税の組み入れが行われ、全ての中堅・中小事業者の製造・小売事業は一般の事業と同様の課税方式へ見直された。しかしながら、電気供給業・ガス供給業ともに、法人事業税収入割の見直しは道半ばという状況である。
これらの点を踏まえ、「令和4年度与党税制改正大綱」(令和3年12月10日)に則り引き続き検討を進め、両業種における法人事業税の課税方式を早期に一般の事業と同様のものに統一すべきである。
(3)地方法人所得課税のあり方の見直し
地方法人所得課税は、地域間の偏在性が大きく、税収も不安定という課題を抱えている。また、税目の多さは、納税者の申告作業を複雑化させ、労働生産性の向上の妨げとなっている。
このため、地方の法人所得に対する課税部分、とりわけ地方法人税及び特別法人事業税は国税の法人税に統合し、地方交付税により各自治体に配分する仕組みへと一本化すべきである。
また、地方法人所得課税の現実的な課題として、法人の負担水準のあり方について最終的に廃止の方向で段階的な引き下げを検討すべきである。
(4)事業所税の整理・統合・簡素化
事業所税の従業者割は、法人事業税付加価値割や法人住民税均等割と同様、賃金・雇用への課税となっており、実質的な二重課税である。感染症や、度重なる自然災害等を経験する中でも、企業は雇用の維持に努めており、従業者割は足かせとなっている。更に、資産割は、固定資産税及び都市計画税との二重課税である。これらに加えて、「みなし共同事業」の免税点判定に要する実務負荷は大きい。
これらの点を踏まえ、事業所税は、他の税目と整理・統合・簡素化すべきである。
Ⅲ.サステイナブルな経済社会の構築に向けた税制
本章では、より中長期の時間軸を見据えつつ、経団連が「。新成長戦略」で謳うサステイナブルな資本主義・経済社会の構築に向けて、各種重要政策課題に即した税制措置のあり方を提言する。
1.自動車関係諸税
産業全体の成長・競争力強化、更には「2050年カーボンニュートラル(CN)」の実現や、CASE#4の進展が社会にもたらす効果を見据えて、自動車関係諸税の中長期のあるべき姿について、自動車の枠にとどまらない国民的議論・検討を進めるべきである。その際、複雑な自動車関係諸税を簡素化するとともに、ユーザーの過重な負担を軽減し、CO2排出削減に貢献する制度を目指すことが求められる。
そのための第一歩として、令和5年度税制改正においては、次を実現することが必要不可欠である。
- 自動車重量税のエコカー減税の拡充・延長。
- 自動車税・軽自動車税のグリーン化特例の拡充・延長。
- 自動車税・軽自動車税の環境性能割(取得時)の廃止。
- 自動車税の月割課税の廃止。
- 充電/充填インフラの設置に係る固定資産税の特例措置の拡充・延長。
2.GXに向けた税制
(1)GXの実現に向けた税制の基本的な考え方
「2050年カーボンニュートラル(CN)」の実現に向けて、官民を挙げて、経済社会全体の変革であるGXを推進することが必要不可欠である。
既に、多くの企業は、GXに向けた研究開発投資や、設備投資を行っており、今後その更なる拡大が求められている。こうした中、政府は、「新しい資本主義実行計画」において、「今後10年間に官民協調で150兆円規模のグリーン・トランスフォーメーション(GX)投資を実現する」ことを記載した。その上で、企業の投資予見性を高める観点から、「規制・市場設計・政府支援・金融枠組み・インフラ整備等を包括的に『GX投資のための10年ロードマップ』として示す」こととされた。更に「成長志向型のカーボンプライシング構想」を最大限に活用するとともに、十分な規模の政府資金を将来の財源の裏付けをもった「GX経済移行債(仮称)」により先行して調達し、複数年度に渡り予見可能な形で、脱炭素実現に向けた民間長期投資を支援していくこととしている。
官民連携で今後数十年に渡るGXを実現するためには、税制面での環境整備が重要である。まずは各種研究開発投資や、設備投資を重点的に支援し加速するように、GXに前向きな企業の取り組みに資する税制措置を各企業・業界の投資や、取り組みの実態に即した形で講じるべきである。
現行の地球温暖化対策税については、排出削減効果に係る定量的評価等を丁寧に行った上で、課税の廃止を含むあらゆる選択肢を排除せず、所要の見直しを行うことが求められる。
その上で、炭素税の新規導入や、既存の地球温暖化対策税の税率引き上げについては、企業の投資原資を損なうこと、わが国のエネルギー価格の更なる高騰による産業の国際競争力の低下を招くこと、CO2の削減効果が必ずしも担保されないこと等から、少なくとも現時点では合理的とは言えない。
なお、上記「GX経済移行債(仮称)」については、GXが投資を通じた持続的成長を実現する成長戦略と位置付けられていることを踏まえ、使途、受益者、負担者、経済的影響等を勘案しつつ、償還期間のあり方を含めて総合的に検討を行うべきである。
今後、既存のエネルギー関係諸税全体について、暗示的なものも含めたカーボンプライシング全体のあり方に係る議論の進展を踏まえつつ、総合的な見直しを進めるべきである。また、原料用途免税の本則非課税化、石油関係諸税と消費税の二重課税(いわゆるTax on Tax)の解消、揮発油税等に係る「当分の間税率」のあり方等について、負担軽減の観点も踏まえつつ、引き続き検討すべきである。併せて、温室効果ガスの削減に資する軽油代替燃料の導入の促進に向けて、租税回避行為につながらないこと、安全・品質上の問題を生じさせないことを前提とした上で、地方税法上の混和・譲渡・消費等に必要とされている手続きを簡素化すべきである。
この他、製油所で発生する非製品ガスに係る石油石炭税還付制度の適用期限の延長等を行うべきである。
なお、産業部門に匹敵するCO2排出量を占める業務・家庭部門においても、「2050年CN」の実現に資する所要の税制措置の創設等についても検討すべきである。
(2)GXに前向きな企業の取り組みの促進
企業にとってGXに積極的に取り組むことは、グローバルな国際競争を勝ち抜く上でも、不可欠な前提条件である。まずは、前述の通り、GXの推進に向けた投資減税の深掘りを講じることが重要である。
こうした企業の取り組みを側面支援する観点から、次の通り、自らの事業リスクを取りつつ、脱炭素化に積極的に取り組む場合において、事業戦略を支援する所要の税制措置を検討すべきである。
- 新規の再エネ発電事業への参画。
- 環境への負荷軽減に貢献する半導体投資。
- 国内に立地するデータセンターの再エネ化。
- 地域全体の脱炭素化とレジリエンス強化に資するコージェネレーションシステム(CGS)の導入。 等
また、ESG債市場の健全な発展を促進する観点から、ESG債の発行体事業者及び投資家(個人・法人)に対して、税制上の優遇措置の創設を検討すべきである。
3.「成長と分配の好循環」の実現に向けた税制
(1)「資産所得倍増」に向けた税制措置
「骨太方針2022」において、本年末に総合的な「資産所得倍増プラン」を策定することとされている。分厚い中間層の形成に向けて、実践的投資教育の推進を図りつつ、既存のNISAとつみたてNISAの抜本的拡充を図ることが重要である。その具体的な方向性としては、より広い国民各層が利便性の良い形で利用できるように所要の改組を行いつつ、制度期限の恒久化と非課税保有期間の無期限化、非課税投資枠の拡大、対象商品の拡充等を講じるべきである。
また、勤労者が資産形成を開始するきっかけを身近な場で得て、職域を通じた投資家の裾野の拡大を図る観点から、従業員持株会、職場つみたてNISA奨励金等への税制優遇措置や、企業の職場環境整備(例えば、金融経済教育の実施等)に対するインセンティブ措置等についても検討すべきである。
(2)年金税制
長寿化が進み、働き方が多様化する中で、老後の所得確保を図る観点から、公的年金の上乗せとなる企業年金制度等を改善・充実し、普及・拡大を図ることが必要不可欠である。
運用段階の課税に相当する退職年金等の積立金に係る特別法人税は、令和4年度末まで課税凍結されているが、課税の再開等はあってはならない。もし課税が再開されれば、企業年金制度等の普及・拡大をはじめ、国民の資産所得を増やす方向性と逆行する。これに加えて、国際的にも稀な税であることから、速やかに廃止すべきであり、少なくとも課税凍結措置を延長すべきである。
また、中長期的な投資による資産形成を支援するとともに、日本の資本市場を活性化させる観点から、確定拠出年金制度を拡充すべきである。具体的には、拠出限度額の大幅な引き上げ、中途引き出し要件の緩和等を行うべきである。
(3)労働移動の円滑化と生産性向上に向けた税制措置
多様で複線的なキャリア形成や、人材の流動化等の状況を踏まえつつ、個人の職業の選択に対して中立的な所得税制が検討されるべきである。こうした観点から、退職所得控除について、業種・業界の雇用慣行や、労働者の権利関係(労働条件)、労働者の勤続年数の選択に対する影響等を検証しつつ、見直しを進めるべきである。
なお、副業・兼業の一層の増加を見据えつつ、源泉徴収と確定・還付申告のあり方についても、不断に検討していくことも今後の課題と認識している。
これに加えて、労働者の生産性向上の観点も踏まえつつ、テレワークの普及に関連して、新しい働き方としてワーケーションのニーズが拡大している。こうした中、給与所得者が就業規則等に従ってワーケーションを実施する場合、交通費又は宿泊費等の支給は、非課税の旅費となることを明確化すべきである。
(4)その他金融・証券・保険税制
① 金融所得課税の一体化
金融所得課税については、令和2年7月に総合取引所が発足したことも踏まえ、高齢化社会における金融資産の効率的な運用、金融資本市場の活性化、企業の円滑な資金調達等の観点から、実務面の課題に十分配慮しつつ、今後も更なる一元化を検討すべきである。
その一環として、デリバティブ取引と上場株式等との損益通算化を実現すべきである。また、上場株式等の譲渡損失の繰越控除期間を現行の3年間から延長することも検討すべきである。
なお、金融所得課税のあり方の見直しについては、税制の所得再分配機能の重要性のみならず、市場の価格形成、経済社会に与える影響、投資家の資産選択への影響等にも十分に留意しつつ、慎重に検討すべきである。
② 教育資金、結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置の延長等
高齢者が保有する資産の若年層への世代間移転の促進を通じた経済活性化、教育機会の充実・人材育成の観点から教育資金贈与信託に係る贈与税の非課税措置について、更なる活用に資する所要の措置を講じた上で、延長を図るべきである。
また、若年層の結婚・出産・子育て支援の観点から、結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置を延長すべきである。
③ 上場株式等の相続税評価の見直し
上場株式(ETF及びREITを含む)並びに公募株式投資信託について、価格変動リスク等を考慮すれば、他の相続財産と比較して、相続税の負担感が相対的に高いため、相続税評価額を見直すべきである。
④ 生命保険料控除制度の拡充
持続可能な社会保障制度の確立と国民生活の安定に資するために、生命保険料控除制度を拡充すべきである。
Ⅳ.企業のグローバル活動を下支えする税制
経団連「。新成長戦略」の重要政策分野の1つは、「国際経済秩序の再構築」である。国際情勢が厳しさを増す今こそ、わが国と価値観を共有する国々とグローバルな課題を解決するために連帯を形成し、取り組みを進めることが不可欠である。
国際課税制度についても、企業活動のグローバル化、経済社会全体のデジタル化の進展、これらに伴うビジネスモデルの変化等を背景に、一国内での制度のみでは公平性や中立性を確保することが困難となると同時に、一国主義の下で新たな課税を先行する弊害が明らかとなっている。このため、OECDをはじめとする多国間での調整、国際的な整合性の確保が極めて重要である。
こうした観点から、OECD/IFによるデジタル課税「第1の柱」、「第2の柱」の円滑な導入に向けた詳細な制度設計の進展を期待する。経団連は、今後とも、官民連携の下で、わが国企業の国際的なレベル・プレイング・フィールド確保の観点から、積極的な意見発信を継続していく。本章では、デジタル課税の導入後も見据えつつ、わが国企業・経済界が直面する国際課税制度の諸課題に対する基本的な意見を提示する。
なお、国際課税制度に関しては、今後、GX等、一国では解決不可能な地球規模の課題に関する議論も予想される。このような分野における議論においても、わが国として国際的な議論をリードしていくことが期待される。
1.デジタル課税「第1の柱」、「第2の柱」の円滑な実施に向けて
令和3年10月のOECD/IFによる政治合意後、経団連は、「第1の柱」の利益A(対象となる多国籍企業グループの利益のうち市場国に配分される利益に係るルール)に係る各構成要素、そして「第2の柱」のモデルルールに関するコメンタリに係る公開市中協議に対して意見を発信してきた。
令和4年7月のG20財務大臣・中央銀行総裁会議を経て、「第1の柱」の利益Aについて、令和5年前半の多国間条約の調印及び令和6年の発効が新たな目標とされた。他方で、「第2の柱」の実施フレームワークについては、引き続き本年末までの完成が目指され、国内法制化は令和5年度税制改正以降に行われると理解している。
わが国企業・経済界としては、「第1の柱」、「第2の柱」ともに、対象企業に対して、システムの構築・改修等を含めて、新たなコンプライアンス対応を要請するものと認識している。こうした観点から、制度の設計に際しては、実務の煩雑さを最大限低減し、かつ実務の予見可能性を十分に確保することが必要不可欠である。
とりわけ、「第1の柱」の利益Aについて、対象グループは、「早期の安定性レビュー(An Advance Certainty Review)」を経て税務当局からの確認を得た上で、利益A対応のシステム構築に初めて取り組むことが認められるようにすべきである。なお、確認が得られるまでの期間は、極めて簡便的な対応が必須となることを強調する。また、デジタルサービス税(DST:Digital Services Tax)及びインドの平衡税(Equalisation Levy)を含む一国主義的な税制措置(unilateral measures)については、検討中のものを含めて、多国間条約発効後、早急にかつ確実に取り下げられるべきである。
更に、「第2の柱」の導入の下で、企業間の公平な競争環境を整備し、わが国企業の国際競争力の強化を実現することも重要な課題である。その観点から、諸外国におけるパテントボックス税制や米国税制も参考としつつ、データ等の無形資産の集積を後押しする税制措置についても引き続き検討を行うべきである。
(1)「第1の柱」関係
「第1の柱」利益Aのプロレスレポートが本年7月に公開市中協議に諮られ、申告実務を担う企業の実務負担を軽減する観点からの意見提出を行った#5。現時点でも同様の考え方である。
(2)「第2の柱」関係
企業の実務負担の簡素化の観点からはセーフハーバーの導入を確実に行った上で、国内法制化を行うべきである。また、対象企業グループのシステム構築や、実務対応(会計上の対応を含む)に係る準備作業に要する十分な期間を設け、かつ諸外国の動向を見極めた上で、国内法制化されたGloBE(Global Anti-Base Erosion)ルール(グローバルな税源侵食防止ルール)を施行すべきである。その際、適用除外となる国際海運業所得以外の取り扱いを含めて、対象企業グループが行うべき実務について、執行面での十分なガイダンスが提供されることが重要である。
こうした観点を踏まえつつ、実施フレームワークに向けて、改めて考慮すべき事項を次の通り提言する。
① 申告義務
GloBE情報申告書について、最終親事業体又は指定申告事業体による当該事業体所在法域当局への提出に統一すべきである。その際、最終親事業体又は指定申告事業体所在法域の当局から各構成事業体所在法域の当局への情報提供の機密保護を徹底する観点から、GloBEルールを実施する全ての法域間で適格当局間協定の締結を義務化することが適当である。
また、GloBE情報申告書については、税の安定性を確保する観点から、標準的なテンプレートを開発する際、提供すべき情報を標準化することが必要不可欠である。
更に、GloBE情報申告書の提出期限については、適用開始初年度以降も実務の安定性が確認されるまで、15か月を上回る月数(例えば18か月以上)が確保されるべきである。
なお、GloBE情報申告書の修正に関するガイドラインが各国の国内法制化に先立ち提示されるべきである。これに加えて、GloBE情報申告書に係る罰則等の適用について、実務が安定するまでの相応の期間において、延滞税、利子税、加算税等は課されるべきではない。
② セーフハーバー
「第2の柱」の実務負担を大きく軽減させる観点から、複数の簡素化措置を確実に、かつ恒久的に導入することが極めて重要である。
最も簡素化に資するのは、税務行政ガイダンス、とりわけホワイトリストと理解している。例えば、法定実効税率が明らかに15%を大幅に超える法域については、そもそも国・地域別のETR(Effective Tax Rate:実効税率)計算、GloBE情報申告書の作成・提出を不要とすべきである。
また、CbCR(Country-by-Country Report:国別報告書)上の租税負担割合を用いたセーフハーバーについても、調整項目を最小限とした上で、事後的な紛争リスクの低い簡素な仕組みとした形で恒久措置として導入すべきである。
この他、一定の条件の下で、法域別ETR計算を簡素な形で行うことも許容されるべきである。
③ 適格国内ミニマムトップアップ税額(QDMTT)
適格国内ミニマムトップアップ課税(QDMTT)に係る適格要件は、今後明確化されるべきである。
また、法域としての日本に対する他国からのUTPR(Undertaxed Payment Rule:軽課税支払ルール)の適用を回避する観点から、国内法制化の中で、QDMTTの導入に係る議論を行うことを否定するものではない。仮に導入する場合、法域としての日本のETR判定は、わが国に所在する子会社数が膨大であることを踏まえ、何らかの簡素かつ合理的な手法が認められるべきである。
更に、外国子会社が所在法域で支払ったQDMTT税額がわが国法人税法上の外国税額控除対象となる「外国法人税」に該当すると理解しており、明確化を図ることが求められる。
④ その他主要事項
GloBE所得又は損失の計算に関して、各国の対象税目については、多国籍企業グループによるGloBE情報申告書の作成に係る実務に配慮して、今後OECD/IFで一覧化を図るべきである。
また、会計原則の変更に基づく調整方法についても、実務の予見可能性の観点から、具体的な調整内容に係る図解を含めて、より詳細なガイダンスを準備することが必要である。
更に、子会社法域へのプッシュダウンについても重要な論点を2つ指摘する。
1つ目に、親会社が欠損の状態でCFC所得の合算があった場合、CFC税額が発生したものとみなして子会社法域にプッシュダウンされることが許容されるべきである。
2つ目に、各国CFC税制との関係において、CFC税額が子会社法域のどの事業年度にプッシュダウンされるかを明確化すべきである。
この他、恒久的施設(以下、PE)に配賦すべき本店所在地国におけるPE所得に係る課税額の取り扱いを明確化すべきである。また、トップアップ課税に係る国・地方の財源配分について検討する場合には、複雑化を回避することを前提とすべきである。
2.「第2の柱」の導入に伴う外国子会社合算税制(CFC税制)の見直し
「第2の柱」の国内法制化に向けて、令和5年度税制改正において、わが国CFC税制に係る事務負担の大幅な軽減及び過剰合算の適正化を行うべきである。その際、租税回避行為の定義の明確化及び例示を図った上で、当該行為の防止に特化する方向で見直すことが必要不可欠である。例えば、わが国で本来生じる所得を節税目的で事業実体のない国外関連者の所得として移転することを通じて、わが国の税源を侵食する行為がいわゆる租税回避行為に該当すると認識している。
わが国CFC税制について、租税負担割合20%基準の堅持を前提とした上で、エンティティアプローチとトランザクショナルアプローチとのハイブリッド型を基調として、次の4つの軸に即して、見直しを行うべきである。
(1)判定対象の大幅な絞り込み等を通じた制度の簡素化
平成29年度税制改正後に、租税負担割合20%以上30%未満の判定対象となる外国関係会社が大幅に増加したとの指摘が多くの企業から寄せられている。しかしながら、合算税額が発生している企業数及びそれら合算税額の規模は決して大きいものとは言えない。これに加えて、同一の外国関係会社をある事業年度で判定したとしても、その後続事業年度において、例えばペーパーカンパニーの実体基準、管理支配基準への該当有無に変更がないかを毎年確認する必要がある。これを踏まえると、租税回避の意図がないにもかかわらず、合算税額が生じないことを証明するために、膨大な事務負担が生じているのが現状であると言わざるを得ない。また、租税負担割合の計算に係る実務も煩雑であるとの企業側の指摘も多い。
こうした背景から、判定対象の大幅な絞り込みは必須である。まずは、租税負担割合20%以上30%未満のレンジを廃止し、20%基準への一本化を図ることが望ましい。
ただし、合算課税が発生していることや、租税回避リスク自体は残存することを踏まえつつ、合理的かつ租税回避リスクの増大を招かない形での指標を用いて、判定対象からの除外を行う方向性も追求すべきである。例えば、「第2の柱」の対象企業グループについて、企業グループ全体の中では決して規模が大きいとは言えない、財務諸表等の税引前利益額が1億円未満の外国関係会社を適用除外とする等、一定の閾値を下回る外国関係会社を判定対象から除外することも考えられる。その際、閾値判定に用いるデータは追加的な調整項目を排除した上で、財務諸表上の数値をそのまま簡便的に適用できるようにすべきである。
なお、米国をはじめとして連結納税グループを導入する法域に所在する場合には、連結納税グループ単位での判定が認められるべきである。
(2)経済活動基準の抜本的な見直し
経済活動基準に係る本質的な課題は、外国関係会社所在法域で、実体を有して事業展開を行っているにもかかわらず、全部合算の対象事業・取引とみなされかねない問題があることである。これを避けるためにも、経済活動基準については、抜本的な簡素化を基本とすべきである。
とりわけ、次の事項について、期限を定めながら、実現していくべきである。
- 事業基準からの著作権提供事業の除外や、株式保有業に係る所要の見直し。
- 卸売業に係る非関連者基準の更なる見直し(物流統括会社の特例に関して、被統括会社に係る保有比率の判定を間接出資分も含めてグループ全体で行うことを認める等)。 等
(3)合算範囲の見直し
合算範囲の見直しについても、過剰合算の軽減及び事務負担の適正化の方向で検討すべきである。
例えば、「第2の柱」との平仄を合わせる観点も踏まえると、配当(部分合算における配当と、全部合算における合算対象外となる配当の双方を指す)に係る持株割合要件については、「第2の柱」のポートフォリオ配当の定義から、現行の25%から10%へと引き下げるべきである。その上で、間接出資も含むグループ全体での持株割合の判定も認めるべきである。
また、異常所得について、現状では経済活動基準を全て充足しており、かつ必要となる資産規模や、人件費は企業により異なるにもかかわらず、一定の算式により機械的に部分合算課税の対象とされている。このため、当該所得の部分合算は本来的には廃止すべきであり、少なくとも外国子会社清算時の債務免除益を除外することが適当である。
更に、全部合算における、ペーパーカンパニー等の整理に伴う一定の株式譲渡益の免除特例、いわゆるPMI特例の譲渡期間に係る要件(現行原則2年以内)や、譲渡対象株式についても所要の緩和を検討すべきである。
なお、受動的所得について、部分合算課税金額の上限を会社単位の合算課税額とすること、受取利子を稼得するために要した間接費用の控除を認めることを検討すべきである。
(4)事務負担の軽減に向けたその他の措置
合算時期について、制度の簡素化の観点も踏まえ、「第2の柱」におけるCFC税額のプッシュダウンの時期に配意しながら、後ろ倒しを行う方向で見直すべきである。例えば「外国関係会社の事業年度終了の日の翌日から1年を経過する日を含む内国法人の事業年度」#6に見直すこと等が考えられる。
また、「第2の柱」の要素の活用について、真に納税義務者である企業の事務負担軽減に資するものを見極めつつ、検討すべきである。
更に、各種書類について添付要件から保存要件に改めるべきである。仮に添付要件が残存する場合には、各種書類の添付に際し、PDF(イメージデータ)形式のみならずCSV形式も許容されるべきである。
なお、「第2の柱」の導入に併せて、CFC税制で用いられる概念及び定義をグローバル標準に即して不断に見直すべきである。
上記の4つの軸に即した見直しの他、二重課税排除に向けた所要の措置を引き続き検討すべきである。
3.その他国内法関係の税制措置に係る所要の見直し
(1)外国子会社配当益金不算入制度の見直し
現行25%以上となる持株割合要件について、海外主要国の水準等を踏まえて緩和するとともに、判定のあり方についても外国法人経由を含むグループ全体で実施すべきである。なお、外国子会社からの受取配当に係る益金不算入割合の引き上げも併せて検討すべきである。
(2)子会社株式簿価減額特例の所要の見直し
令和4年度税制改正において既に見直しが行われているところ、今後企業の海外展開の状況等を踏まえつつ、引き続き所要の見直しを検討すべきである。
(3)「第2の柱」の導入を契機とした支店/子会社形態の税制上のイコールフッティングの確保の検討
わが国企業の国際競争力の観点からも、関係法令の制約や、ビジネス上の理由により、やむを得ない支店及び子会社形態での進出に対する税務上の取り扱いについて、関係業界への影響等に十分配意しつつ、「第2の柱」の導入を契機として、イコールフッティングの確保に向けた検討を行うべきである。
4.租税条約関係
(1)租税条約の改定、新規締結に係る要望
投資交流の促進と二重課税の排除という租税条約の本来の目的を貫徹し、使用料・配当・利子に係る源泉税の一層の減免を実現する方向で、以下の国・地域との交渉を推進すべきである。その際、PEの範囲の明確化、適格者判定のあり方にも留意が必要である。
また、技術上の役務対価(FTS:Fees for Technical Services)条項について、既存の租税条約に盛り込まれている場合には見直しを行うとともに、新規締結時にも慎重に検討すべきである。
この他、OECDモデル租税条約から逸脱している内容については、可能な限りOECDモデルに近づける形で交渉を行うとともに規定を確実に執行することに強制力を持たせる仕組みの導入を検討すべきである。
併せて、BEPS防止措置実施条約(MLI)、適格当局間多国間合意(MCAA)への各国・地域の積極的な参加について、OECD等を通じて働きかけるべきである。更に、MLIにおける仲裁規定の導入に向けた働きかけを進めるとともに二重課税排除に向けて実効性のある形での相互協議の円滑な運用・推進を行うことが求められる。なお、納税者がこれらの制度を一層利用できるように、相互協議(Mutual Agreement Procedure)や、事前確認制度(Advance Pricing Agreement)の手続きの迅速化、簡素化をすることも重要である。
<改定国・地域>
- アジア:
- 中国、インド、タイ、インドネシア、ベトナム、韓国、台湾、シンガポール、フィリピン、マレーシア、パキスタン、バングラデシュ、スリランカ
- 大洋州:
- オーストラリア
- 欧州:
- アイルランド、イタリア、ポーランド、チェコ、エストニア、ドイツ、ロシア、英国
- 中東:
- サウジアラビア、クウェート
- 中南米・北米:
- ブラジル、メキシコ、カナダ
<新規締結国・地域>
- アジア:
- カンボジア、ラオス、ミャンマー、モンゴル、ネパール
- 大洋州:
- パプアニューギニア
- 中東・北アフリカ:
- イラン、チュニジア
- サブサハラアフリカ:
- ケニア、ナイジェリア、ガーナ、モザンビーク、エチオピア、セネガル、アンゴラ、ウガンダ、コートジボワール、ブルキナファソ、マダガスカル、タンザニア
- 中南米:
- パナマ、ベネズエラ、ボリビア、グアテマラ、エルサルバドル、ドミニカ共和国、ホンジュラス
(2)多法域にまたがる労働移動に伴う課税関係に係る要望
外国居住の執行役への役員報酬に対する二重課税排除の観点から、当該国との租税条約や関係する国内規程の見直しを検討すべきである。
また、リモート勤務を活用して、わが国にいながら海外現地法人の社員として勤務を行う場合(いわゆるバーチャルアサインメント)、わが国での現地法人のPE認定の有無に係る法令の解釈を明確化すべきである。
- 経団連「2022年春季労使交渉・大手企業業種別妥結結果(最終集計)」(令和4年7月)
- 経団連「2022年夏季賞与・一時金 大手企業業種別妥結結果(最終集計)」(令和4年8月)
- 令和4年度税制改正に関する提言のⅡ 1 (3) ①<機能・操作性の改善>参照
- Connected(コネクテッド)、Autonomous(自動運転)、Shared & Services(シェアリングとサービス)、Electric(電動化)の略称。
- 経団連「市中協議文書『第1の柱 利益Aプログレスレポート』への意見」(令和4年8月)
- この場合、「外国関係会社の事業年度終了の日の翌日から1年を経過する日」とは、3月決算法人(X事業年度)の場合、X事業年度終了の日は、X+1年3月31日となり、その翌日から1年を経過する日とは、X+2年3月31日を指す。したがって、この日を含む親法人の事業年度は、X+1事業年度となる。その結果として、3月決算法人の外国関係会社の所得と12月決算法人の外国関係会社の所得は、内国法人(3月決算法人を念頭)の同一の事業年度において益金算入されることになる。3月決算法人の外国関係会社の所得の益金算入時期は現状から変更がなく、12月決算法人の外国関係会社の所得の益金算入時期は現状よりも後ろ倒しとなる。