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Policy(提言・報告書) 税、会計、経済法制、金融制度 公開市中協議「第2の柱 GloBEルールの税の安定性」に対する意見

2023年2月3
一般社団法人 日本経済団体連合会
経済基盤本部

意見提出の機会に感謝する。

各国国内法で導入されるGloBEルールについて、税の安定性の確保は、日本企業・経済界にとっても極めて重要な課題である。すなわち、制度の実効性並びに適正性を担保する観点から、各国が結果に服する形での強力な紛争予防・解決の手段を確保し、二重課税を防止・排除することが極めて重要と考えている。

その観点から、IIR、UTPR、QDMTTの適用開始時期について、各法域に所在する多国籍企業グループの会計年度のズレにも配慮する形で国際的な調和を確保すべきである。例えば、日本においては2023年3月末にはIIRの国内法制化が行われる見込みであり、2024年4月1日以後に開始する対象会計年度から適用される。仮に、2024年1月以降にIIR及びUTPRの適用が開始する法域が存在する場合に、当該法域が日本に最終親事業体の所在するMNEグループ(とりわけ12月決算法人等)に対してIIR及びUTPRの適用を行わないことを要請する。

これに加えて、税の安定性に向けては、OECD/IFが不断のガイダンスの更新及び充実を図り、税務当局及び納税者双方の予見可能性を高める努力を加えるべきである。

以下、公開市中協議文書に即して、日本企業・経済界の意見を述べる。

1. 紛争(dispute)の定義

本公開市中協議では、対象となる紛争の性質について言及が行われているが(Section 3.1.3)、想定される紛争の詳細については言及がない。どのような事例が対象となり得るかについて明確化を図ることが重要である。理屈の上では、ルールの解釈に係る紛争や、事実認定の差異による紛争が該当する。企業の立場から、例えば、次のような状況を紛争として懸念する。

  • IIRに関して、部分被保有親事業体(POPE)と最終親事業体(UPE)が所在する法域でトップアップ税額が発生する場合が想定される。POPE所在法域に配賦されるトップアップ税額を巡って、POPE、UPE所在法域の税務当局の間で合意が得られない可能性がある。
  • UTPRの発動により複数法域にトップアップ税額が配分される場合における、同税額や、その配分方法に係る計算に関して、複数法域の税務当局で見解が異なる可能性がある。
  • 国内ミニマムトップアップ税額(DMTT)が適格であるか否かを巡って、IIRを適用する最終親事業体所在法域の税務当局とDMTTを適用する構成事業体所在法域の税務当局による二重課税のリスクが懸念される。
  • QDMTTの適用法域において、現地構成事業体が現地会計基準及び現地監査済みの数値をベースとして現地税務当局に納税申告した税額が最終親事業体所在法域の税務当局の見込む税額を超過した場合には、計算根拠等を巡る紛争が懸念される(このため、各法域で均質なQDMTTが導入されるように税務当局及び多国籍企業グループ向けのガイダンスの公表や、QDMTT導入法域でのIIRに基づくETR計算及びトップアップ税額の計算を不要とするセーフハーバーの導入が必要不可欠)。
  • GloBE情報申告書(GIR)の記載内容の過不足・正確性等を巡る見解の相違により、何度もGIRの修正が要求される場合や、法域毎に異なる情報の記載が要求される可能性を懸念する。

なお、少なくとも制度が安定的に運用されるようになるまでは、最終親事業体所在法域におけるルールの解釈や、IIRの運用に起因する紛争も含めて、可能な紛争の対象を広く確保した上で、強力かつ拘束的な紛争解決手段が提供されることが必要不可欠である。

2. 紛争予防のメカニズム(Dispute prevention mechanisms)

2.1. ルールの適格性(パラ6~8)

各法域で採用されるIIR、UTPR、DMTTの各ルールの適格性自体は、具体的にどの主体により、どのような手続き、頻度により審査が行われるのかを明確化すべきである。その上で、各法域で国内法制化されたルールの適格性について、OECDは適時に公開・更新を行うべきである。共通の解釈を確実に担保するためには、よりフォーマルかつ罰則規定を伴う多国間でのピアレビュープロセスの構築も選択肢から除外されるべきではない。

併せて、適格とされたルールであっても、モデルルールからの乖離がある場合には、その情報も併せて公開対象とすべき考える。

なお、各国税制に関連して、Covered Tax、Eligible Distribution Tax System、Qualified Imputation Tax、Qualified Refundable Tax Creditの範囲について、個々の納税者の確認・解釈に依拠するのではなく、OECDにおいてリスト化を図り、公開・更新していくべきである。

2.2. BEPS IFへの照会(パラ9~10)

モデルルールや、コメンタリの解釈に係る照会事項がIFに持ち込まれた場合、IFの示した解釈に関係法域の税務当局が服することとなるのかを明確にしていただきたい。

なお、各法域間でのGloBEルールの解釈の差異等に基づく紛争の発生を予防する観点からも、今後生じる事案については、IFで集積を行い、匿名化を施した上で、公開することが有効なガイダンスとなる。

2.3. 拘束的な安定メカニズム(パラ13~14)

具体的なメカニズムの一例として、移転価格事前確認制度(APA)に類する制度が挙げられているが、具体的な合意項目等の案を明示すべきである。もし、類似する項目があれば、既存のAPAとの関係についても明確化を図るべきである。これに加えて、手続きに要する期間に係る目標を設定するとともに二国間の場合には、一方の当局が情報を収集・検討して、当局間で情報の共有を行い、納税者の事務工数の効率化を図るべきである。また、計算方法や、利用する情報に係る合意等については匿名化を行った上で、公表・共有を行うことが望ましい。

なお、中長期的には執行面での税の安定性の確保の観点から、各国間のルールの解釈や、適用に齟齬が生じないように適切な調整を行う機関の設立も視野に入れるべきである。

2.4. 情報申告及び納税申告後の対応

税務調査について、各構成事業体所在法域の当局の求めがあった場合でも、申告主体(最終親事業体又は指定申告事業体)の所在法域の当局が一元的に各当局に対応し、必要性を加味して実施すべきである。また、各国の制度や、当局の調査対応方針に差異が生じないように適切な国際間協調が図られるべきである。

また、申告に修正を行うこととなった場合、過年度申告の修正ではなく、当該対象会計年度以降の申告に反映する形で統一することを検討すべきである。各法域独自のルールの下で過年度修正等を行えば、GloBE所得全体の経年での算定に混乱が生じる恐れがあるためである。

3. 紛争解決メカニズム(Dispute resolution mechanisms)

多国間条約(MLC)による紛争解決メカニズムを措置することを強く支持する。国際的な二重課税等、法域間での紛争を防止するためには、義務的かつ拘束的なメカニズムが提供されるべきである。仮に、GloBEルールの適用後になったとしても、MLCの策定及び関係法域の批准を目指すべきである。なお、MLCの批准までの間は、上述の通り、ピアレビュープロセスの強化に加えて、既存の租税条約や、MAAC条約の下での適格当局間協定の活用が選択肢となる。

以上

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