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Policy(提言・報告書)  環境、エネルギー サーキュラー・エコノミーの実現に向けた提言

2023年2月14
一般社団法人 日本経済団体連合会

1.はじめに

わが国においては、循環型社会形成推進基本法をはじめとする各種リサイクル法が施行されてきており、政府・地方公共団体・経済界・NPOなど関係者の努力に加え、国民の主体的な協力により、資源の循環が推進され、大きな成果を挙げてきた。

こうした中、世界的な人口増加や経済発展に伴う資源需要の拡大に加え、ロシアによるウクライナ侵略等の国際情勢の変動に伴い、資源供給の不安定化への懸念が高まっている。資源の安定的な確保は持続可能な経済活動の土台であり、限られた資源を循環させて活用する取り組みの重要性が再認識されている。

加えて、カーボンニュートラルへの取り組みが大きな課題となる中、幅広い環境問題の解決に向け、資源の循環を一層推進する必要性が指摘されている。

さらに、EU(欧州連合)においては、2015年から「サーキュラー・エコノミー・パッケージ」を打ち出し、資源の循環を拡大させながら新たな市場や雇用の創出、競争力強化を図り、環境への取り組みを産業政策として位置付ける動きも出てきている。

そこで、わが国においても、これまで循環型社会#1形成で培ってきた強みを活かし、資源の確保や環境負荷の低減の取り組みを競争力の強化や成長戦略につなげる循環経済(サーキュラー・エコノミー)の実現を目指すことが極めて重要である。

経団連は、2021年3月に、環境省、経済産業省とともに、サーキュラー・エコノミーの実現を促進するための官民連携プラットフォームである「循環経済パートナーシップ(略称:J4CE〔ジェイフォース〕)」を創設し、日本企業による先進的な取組事例を国内外に発信するとともに、サーキュラー・エコノミーを実現するうえでの課題を整理するための官民対話や、業種や企業の垣根を越えた連携を見据えた「ビジネス交流会」を行ってきた。その成果は、2022年4月に「循環経済パートナーシップ(J4CE)2021年度活動報告」#2として公表している。

政府においては、2050年カーボンニュートラル宣言や、資源供給途絶リスクへの懸念の高まり等を背景に、サーキュラー・エコノミーの実現に向けた議論が加速している。環境省では、2022年9月に「循環経済工程表」を取りまとめ、2050年を見据えて目指すべき方向性と2030年に向けた施策の方向性を打ち出した。また、経済産業省では、2022年10月に「成長志向型の資源自律経済デザイン研究会」を立ち上げ、「資源制約」「環境制約」への対応を「成長機会」の創出につなげる「資源自律経済戦略」を策定すべく検討を開始した。

そこで、この機会を捉え、経団連として、成長戦略としてのサーキュラー・エコノミー実現に向けた提言を行う。

2.目指すべき方向性

(1)資源制約の克服

前述の通り、資源需要の拡大や国際情勢の変動に伴い資源制約が強まることが予想されている。特に、わが国は、グリーン・トランスフォーメーション(GX)の実現に不可欠なレアメタルをはじめとする鉱物資源を輸入に依存している一方、ニッケル、マンガン、コバルトをはじめ、世界的に供給が特定国に偏っているものも多く、これらの地域の情勢変化に大きく影響を受けやすい体制となっている#3。そこで、サーキュラー・エコノミーの実現により資源の確保を図り、資源制約の克服、経済安全保障の強化を行うべきである。

経済界においても、国内における資源循環体制の構築に一層貢献するとともに、事業の持続可能性やレジリエンスを高めるため、資源循環型ビジネスモデルの実現を促進する必要がある。

資源制約の克服に向けては、国内で収集した循環資源を可能な限り国内で再生材として利用することが重要であり、その認識を官民で共有すべきである。

(2)環境制約の克服、カーボンニュートラルへの貢献

サーキュラー・エコノミーの実現により、廃棄物の発生抑制、天然資源の利用抑制を図ることは当然であるが、これに加え、資源の循環を通じたカーボンニュートラルの実現にも取り組むべきである。

日本の温室効果ガス排出量のうち、資源循環を進めることによって削減可能な排出量は全体の約36%#4という試算も出されている。ただし、サーキュラー・エコノミーに向けた個々の取り組みと温室効果ガス排出量削減への取り組みがトレードオフとなる場面もあるため、資源循環とカーボンニュートラルの両課題間における事案に応じた優先度に配慮しつつ取り組む必要がある。

(3)経済成長、産業競争力の強化

わが国においては、環境対策として3Rの推進や適正処理の徹底に取り組んできたが、資源の循環への取り組みを経済成長や産業競争力強化につなげていくべきである。

サーキュラー・エコノミー関連ビジネスの市場規模は、今後大幅な拡大が見込まれている。世界全体では、サーキュラー・エコノミーの市場規模が2030年までに4.5兆ドルにのぼるという予測も出されている#5。日本においても、成長戦略フォローアップ工程表にて、2030年までに同ビジネスの市場規模を、現在の約50兆円から80兆円以上にする目標が掲げられた#6

経済界としては、サーキュラー・エコノミーの実現に向けた取り組みを、従来のように環境保全活動としてではなく、経営戦略・事業戦略として位置づけ、競争力の強化につなげるとの意識改革を図ることが重要となる。

政府には、消費者をはじめとする需要者側の意識改革を通じたサーキュラー・エコノミー市場の形成や、投資の呼び込みを含むビジネス環境の整備とともに、意欲ある企業への積極的な支援が求められる。

3.取り組むべき課題

(1)環境配慮設計の促進

サーキュラー・エコノミーの実現を図るうえでは、環境配慮設計への取り組みが重要となるが、製品分野ごとに環境配慮設計のあり方はさまざまであり、日本においては、製品の特徴を熟知した業界団体等において製品分野別の設計ガイドライン#7が自主的に整備されてきている。2022年4月、「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」が施行され、「プラスチック使用製品設計指針」に基づくガイドラインが策定された際にも#8、これらの自主的ガイドラインがベースとされた。

環境配慮設計に関するガイドラインが未整備の製品分野においても引き続き取り組みを行っていく必要があるが、その際にも、これまで同様、自主性を尊重しながら行うべきである。

政府には、各業種における製品分野別のガイドライン策定に向けた議論を促すとともに、環境配慮設計を促進するうえで競争事業者やサプライチェーン上の事業者の間での協調領域の整理に関し、必要に応じて各業種との対話を求めたい。

各業種における製品分野別設計ガイドライン策定の検討に際しては、製品の安全性・機能性の確保を前提としたうえで、表1に示したさまざまな視点を踏まえることが重要である。

その際、例えば減量化と耐久性や易解体性と安全性のように、現状ではトレードオフが生じることとなる場合も多い。トレードオフの克服に向けては、新素材や新技術の開発等が不可欠であり、政府には研究開発に係る負担軽減策等の支援を求めたい。

(表1)
Reduceの視点
減量化
* 製品に使用する資源量を減らす 等
包装の簡素化
* 過剰な包装を抑制する 等
Reuseの視点
易解体性
* 部品ごとに容易に解体できる構造とする 等
Recycleの視点
易解体性
* (同上)
単一素材化等
* 使用する素材の種類を抑制する 等
再生材利用
* 再生材を利用した製品づくり
長期使用の視点
耐久性
* 製品の耐用年数を長くする 等
修理性
* 入手しやすい代替部品
* 標準工具で作業ができるようにする 等

(2)再生材の活用、部品リユースの普及促進

再生材の活用や部品リユースは、新たな天然資源投入量を削減するうえで重要であり、普及促進を図っていくべきである。

① 再生材の活用

再生材については、市場に受け入れられている製品はあるものの、「原材料確保」、「需要拡大」、「品質規格・基準」、それぞれに関して課題が存在する。そこで以下の取り組みを並行的に行う必要がある。

  1. (ⅰ)良質な再生材原材料の確保
    一定の品質の再生材を活用可能な価格で安定的に供給するためには、良質な再生材原材料(循環資源)の十分な確保が不可欠である。このため、前述の環境配慮型設計の促進や、後述の循環資源の効率的な回収、再資源化の拡大に取り組むことが重要となる。

  2. (ⅱ)再生材および再生材を用いた製品に対する需要拡大
    現状においては、再生材を用いた製品は価格が高くなる可能性が高い一方、これに対する需要が読めないため、再生材を調達する事業者は製品への使用を躊躇したり、再生材製造事業者は新たな設備投資に踏み切れなかったりする実情がある。
    そこで、政府においては、後述の消費者の行動変容を促す施策に加え、グリーン購入法等を活用した積極的な公共調達等を行っていくべきである。

  3. (ⅲ)品質に関する規格・基準
    再生材によっては品質に関する規格や基準が存在しないため、特定の製品の製造にあたりどの再生材が原材料として適切であるか判断することが困難である。これにより、再生材の活用が進んでいない状況である。そこで、政府においては、事業者が自らコストをかけずとも品質に関し一定の判断が可能となるよう、再生材の品質に関する規格・基準のあり方について検討すべきである。

② 部品のリユース

部品リユース普及促進の観点からリマニュファクチャリング#9の取り組みが重要である。

リマニュファクチャリングを効率的・安定的に行うためには、製品の使用状況や回収可能時期を把握することが必要である。企業は、デジタル技術を積極的に活用しながら、リマニュファクチャリングを想定したビジネスモデルや企業間連携の構築に取り組む必要がある。

政府においては、後述の情報流通プラットフォーム構築やリマニュファクチャリングに取り組む事業者に対する負担軽減策等の支援、必要に応じた安全確保策の実施に加え、リマニュファクチャリング製品のグリーン購入法等を活用した積極的な公共調達等を行っていくべきである。

(3)「利用型ビジネスモデル」の普及促進

サーキュラー・エコノミーの実現に向けては、シェアリングやサブスクリプション、サービス化等、付加価値を生みながら社会全体で最大限の製品利用を図るビジネスモデル(以下、利用型ビジネスモデル)の拡大が重要である。シェアリング、サブスクリプションの市場規模は増大傾向にあるとの調査#10もあり、現在、一部の事業では、利用型ビジネスモデルへの転換が進みつつある。

この流れを促進するため、政府においては、利用型ビジネスモデルの環境負荷低減の価値(以下、「環境価値」)に対する社会的認識の向上に向けた啓発活動や、「環境価値」の高い利用型ビジネスモデルのサービスに関しては、グリーン購入法等の活用により公的部門による積極的な利用を推進すべきである。

(4)消費者の行動変容促進

資源循環型製品・利用型ビジネスモデルの普及を推進するためには、消費者の価値基準に新たに「環境価値」を加えることが重要である。

内閣府の調査によれば、消費者は、製品を選択する際「価格」「品質」を重視するとされる#11。また、サブスクリプション・サービスを利用している理由として「価格」「利便性」を重視する傾向にある#12

消費者が製品・サービスの持つ「環境価値」を付加価値と捉える認識が高まることで、「環境価値」の高い製品・サービスの選択や製品の長期使用といった行動変容につながる。その際、事業者が魅力的な製品・サービスの提供に努めることや、品質に係る情報提供を消費者に適切に行うことが重要となる。

そこで、消費者に対する「環境価値」への理解醸成を図るため、官民が協力して、サーキュラー・エコノミーの実現につながる制度等の情報発信を通じた啓発活動や、環境教育の促進に取り組むべきである。また、「環境価値」に関する評価方法に加え、認証制度、表示制度の検討を行い、デジタル技術を積極的に活用しつつ、製品・サービスにおける「環境価値」の見える化に取り組むべきである。その際、素材・製品ごとの特性も十分踏まえ検討することが重要である。

(5)循環資源の効率的な収集、再資源化の拡大

これまで、廃棄物処理法の規制のもと適正処理の徹底及び3Rの推進への取り組みがなされてきたが、サーキュラー・エコノミーの実現のためには、循環資源の収集や再資源化を一層効率的に行う必要がある。そこで以下の取り組みを行うべきである。

① 効率的な収集

循環資源の確保に加え、収集運搬コスト・燃料資源・CO2排出を削減する観点からも、循環資源の効率的な収集を行う必要があり、「広域的な収集」と「動脈物流の活用」が重要である。

「広域的な収集」に関しては、廃棄物処理法の規制により、収集運搬の許可や積み替え保管の許可を地方公共団体ごとに取得する必要がある。この許可取得にかかる労力と時間の負担により、再生材の原材料となる循環資源の十分な確保が困難となる場合が少なからず存在する。また、「動脈物流の活用」については、収集運搬の許可なくしては不可能な状況である。

このため、廃棄物処理法においては、製造事業者等自身が自社の製品の再生又は処理の工程に関与することで、効率的な再生利用等を推進するとともに、再生又は処理しやすい製品設計への反映を進め、ひいては廃棄物の適正な処理を確保することを目的として広域認定制度#13が設けられ、各事業者によって活用されている。

政府においては、サーキュラー・エコノミーの実現に向け、あらゆる製品の循環的な利用が求められる中、広域認定制度を積極的に周知するとともに、適正処理の確保や「生活環境保全上の支障が生じるおそれがない」ことを前提として、活用が一層促進されるよう制度のあり方を検討すべきである。これにより、多くの廃棄物において効率的収集が可能となる。

② 再資源化の拡大

現状において再資源化率の低い廃棄物も存在し、再資源化の取り組みをさらに進める必要がある。

廃棄物の減量化を推進するため、生活環境の保全上支障がない等の一定の要件に該当する再生利用に限って環境大臣が認定する再生利用認定制度#14が設けられ、各事業者によって活用されている。

政府においては、サーキュラー・エコノミーの実現に向け、あらゆる製品の循環的な利用が求められる中、再生利用認定制度を積極的に周知するとともに、適正処理の確保や「生活環境の保全上支障が生ずるおそれがない」ことを前提として、活用が一層促進されるよう制度のあり方を検討すべきである。これにより、より多くの廃棄物において再資源化の拡大が可能となる。

こうした廃棄物処理法における取り組みに加え、循環資源の選別・再資源化に関する技術開発や設備投資への支援も重要である。

③ 許可・認定取得にかかる時間の短縮

サーキュラー・エコノミーの実現が求められる中、資源循環ビジネスに機動的に取り組めるようにする必要がある。

しかしながら、廃棄物処理業や廃棄物処理施設設置にかかる地方公共団体等による許可制度をはじめ、廃棄物処理法に関する許可・認定の取得には時間がかかるとの指摘が少なからずある。

地方公共団体、政府においては、廃棄物処理法の目的#15を担保したうえで、サーキュラー・エコノミーの実現を促進すべく、デジタル技術の積極的活用などを通じて、審査項目の定型化や審査プロセスの見直しなど、審査の効率化を図り、事業者の許可・認定取得までの時間を短縮すべきである。

(6)海外における資源循環体制の構築への協力

地球規模での環境負荷低減の観点からは、海外における資源循環体制構築への協力に取り組むことも重要であり、わが国は、技術・ノウハウの移転や、各国の文化や国情に十分配慮した仕組みづくりへの協力を通じ、廃棄物の適正処理の徹底を含む途上国における資源循環体制の構築に貢献していくべきである。

例えば、「廃棄プラスチックを無くす国際アライアンス(Alliance to End Plastic Waste、略称:AEPW#16)」 は、30か国で50を超えるプロジェクトを展開しており、その中で東南アジア諸国での技術支援を行っている。

こうした取り組みを通じて海外における資源循環体制が整備されることは、日本企業が、環境負荷の最小化に配慮しながら、適切な形で国を跨いだサプライチェーンを構築するうえでも重要となる。加えて、文化や生活習慣が相対的に近いアジア域内で、相互に連携した体制構築に貢献していくことは、地域の実情に応じたサーキュラー・エコノミーの推進に資することとなる。

(7)情報流通プラットフォームの構築

サーキュラー・エコノミーを実現するためには動静脈産業間を含めたサプライチェーン全体での企業間連携が不可欠であり、デジタル技術を利用した情報流通プラットフォームの構築が必要となる。これにより、例えば以下のような効果が期待できる。

  1. (ⅰ)環境配慮設計
    静脈産業側にとって、どのような原材料、設計であればリサイクルがしやすいのかという情報を動脈産業側が活用することにより、環境配慮設計の高度化につながる。

  2. (ⅱ)広域的な収集
    静脈産業側が廃棄物の発生場所や種類に関して情報を得ることにより、効率の良い収集方法を検討することが可能となる。

  3. (ⅲ)効率的なリユース、リサイクル
    静脈産業側が原材料や易解体性に関する情報を得ることにより、部品リユースの促進や、リサイクル作業の効率化に加え、製造する再生材の品質向上につながる。

  4. (ⅳ)希少資源の確保
    例えば、EVの普及により、車載用バッテリーの安定的な製造が求められる中、希少資源の確保は不可欠である。ライフサイクルの各段階で情報共有を行い、製品のトレーサビリティを確保することで希少資源の循環の徹底が可能となる。

  5. (ⅴ)需要供給の予測
    動脈産業側が必要とする再生材の品質・量と静脈産業側が供給可能な再生材の品質・量について動静脈産業間において情報共有を行うことで、再生材の需給の予測を立て、円滑に事業を行うことが可能となる。

情報流通プラットフォームの構築にあたっては、材料構成・設計情報といった機密情報の共有のあり方についても検討をすることが不可欠となり、事業者間で個々に交渉・調整することは困難であることが予想されるため、政府の役割が重要となる。

経済界においては、官民連携のもと、機密情報の扱いを含め共有する情報を整理しルール化することが重要であり、特に動静脈産業間で十分協議をする必要がある。

併せて、情報漏洩防止の観点から、セキュリティ技術を実装したデータ連携・データ認証のあり方についても検討すべきである。

情報流通プラットフォーム構築の移行期においては、業種や製品ごとに複数のプラットフォームが構築されることも考えられる。政府においては、先行的なプラットフォームが構築される際には、その取り組みを支援するとともに、可能な限りプラットフォーム間の相互連携が行われるよう留意すべきである。

(8)企業の「循環度」等の評価

企業のサーキュラー・エコノミーの実現に向けた取り組みが、投資家や消費者、取引先をはじめとするステークホルダーから適正に評価されるための環境整備が必要である。

現状においては、企業の取り組みがどの程度サーキュラー・エコノミーに貢献しているか(以下、「循環度」)を評価する広く認められた方法が存在しない。ISO/TC323では、企業・製品の各レベルのサーキュラー・エコノミーの計測・評価に関する検討が行われている。また、EUを始めとした各地域・国のタクソノミーにおいてサーキュラー・エコノミーの視点を取り入れる動きもあることから、日本においても国際的な議論と整合性をとる形で、官民連携のもと企業の「循環度」の評価方法について検討を深めるべきである。「循環度」の評価方法は、企業の競争力にも大きく影響を与えることから、検討にあたっては、業種・業態の特性等を十分に踏まえる必要がある。

また、サーキュラー・エコノミーの実現に向けた取り組みが、喫緊の課題であるカーボンニュートラルへの貢献につながることを定量的に示す観点から、リサイクルや熱回収等を通じた温室効果ガス削減効果についても、評価方法の検討を行うことが必要である。

(9)企業と投資家・金融機関の建設的対話

ESG投資は国内外で急速に拡大しており、世界のESG投資額は、2020年に35.3兆ドルまで増加したとのデータが出されている#17。ESG投資の中心は今まで気候変動分野等が中心であったところ、近年ではサーキュラー・エコノミーをテーマとしたファンドが組成され始めるなど、当該分野への関心の高まりを見せている。こうした中で、国内外のESG資金を取り込み、わが国のサーキュラー・エコノミーの実現に向けた大きな原動力とすることが期待される。

そこで、企業が自社の「循環度」や具体的な戦略等を開示してサーキュラー・エコノミーの実現に向けた取り組みを着実に進めるとともに、投資家・金融機関が建設的対話を通じて企業の当該取り組みを適切に評価することが重要となる。

政府においては、「サーキュラー・エコノミーに係るサステナブル・ファイナンス促進のための開示・対話ガイダンス」#18の普及に努め、企業と投資家・金融機関の協創関係構築を促進すべきである。その際サーキュラー・エコノミーの実現に向けた取り組みは、短期的には必ずしも企業収益に結びつくとは限らないことから、投資家・金融機関には、中長期的視点での資金供給が求められる。また、サーキュラー・エコノミーに係るサステナブル・ファイナンスのベストプラクティスを蓄積し、企業と投資家・金融機関双方に共有していくことが重要である。同時に、日本におけるベストプラクティスの積極的な海外発信にも努めるべきである。

4.おわりに

サーキュラー・エコノミーの実現は大きな挑戦となるが、「もったいない」という言葉に代表されるように、資源を大切にする日本の文化との親和性は高い。国民各界各層が移行の重要性を理解し、行動変容につなげることが必要である。

企業においては、大量生産・大量消費・大量廃棄のリニア・エコノミーに依存するリスクを踏まえ、サーキュラー・エコノミーの実現をコストとして捉えるのではなく、持続可能な成長のための機会として捉え、積極的に取り組むことが期待される。

サーキュラー・エコノミー関連ビジネスへの取り組みは、一社だけでは限界があり、企業や業種の垣根を越えた連携が重要となる。資源の循環への取り組みはこれまで静脈産業を中心に進められてきたが、動脈産業を含むサプライチェーン全体、バリューチェーン全体に着目し、動静脈産業間や動脈産業同士の連携を深化させることが重要である。また、サーキュラー・エコノミーの実現に向けては官民連携が不可欠であり、J4CE等の場を活かして対話を継続する。

政府においては、企業の取り組みを後押しすべく、サーキュラー・エコノミーの実現に向けた施策の道筋を早期に示すべきである。

経団連としても、わが国のサーキュラー・エコノミーの実現への取り組みを「サステイナブルな資本主義の実践」のひとつと位置づけ、グリーン・トランスフォーメーション(GX)、ネイチャー・ポジティブ(NP)と一体的に捉えて推進していく所存である。

以上

  1. 製品等が廃棄物等となることが抑制され、並びに製品等が循環資源となった場合においてはこれについて適正に循環的な利用が行われることが促進され、及び循環的な利用が行われない循環資源については適正な処分(廃棄物(ごみ、粗大ごみ、燃え殻、汚泥、ふん尿、廃油、廃酸、廃アルカリ、動物の死体その他の汚物又は不要物であって、固形状又は液状のものをいう。以下同じ。)としての処分をいう。以下同じ。)が確保され、もって天然資源の消費を抑制し、環境への負荷ができる限り低減される社会をいう。
    (循環型社会形成推進基本法第2条第1項)
  2. 循環経済パートナーシップ(J4CE)2021年度活動報告
    https://www.keidanren.or.jp/policy/2022/040_J4CE2021.pdf
  3. 資源エネルギー庁ウエブサイト掲載資料
    https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/kokusaisigensenryaku_03.html
  4. 第四次循環型社会形成推進基本計画の進捗状況の第2回点検及び循環経済工程表に関する参考資料集(P.49)「我が国全体における全排出量のうち資源循環が貢献できる余地がある部門の割合」
    https://www.env.go.jp/content/000071599.pdf
  5. アクセンチュア株式会社「無駄を富に変える:サーキュラー・エコノミーで競争優位性を確立する」
    https://www.accenture.com/jp-ja/services/strategy/circular-economy
  6. 【別添】成長戦略フォローアップ工程表(令和3年6月18日閣議決定)
    https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/seicho/pdf/fu2021.pdf
  7. PETボトル自主設計ガイドラインやプラスチック製容器包装、家電製品等、業界団体ベースで多数策定されている。
    (PETボトル)https://www.petbottle-rec.gr.jp/guideline/jisyu.html
    (プラスチック製容器包装)
    https://www.pprc.gr.jp/activity/environmental-consideration/index.html
    (家電製品)https://aeha.or.jp/environment/about.html
  8. 文具・事務用品や食品容器等で策定済み。
    (文具・事務用品)http://www.zenbunkyo.jp/pdf/plastic-guide.pdf
    (食品容器)https://www.japfca.jp/guideline_02.html
  9. 使用済みの製品を解体、検査、洗浄、修復、再組立、最終検査をして新品同様の機能状態にするプロセス。((出典)国立研究開発法人 産業技術総合研究所 製造技術研究部門)
  10. 令和2年度年次経済財政報告 第4章デジタル化による消費の変化とIT投資の課題
    https://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je20/h04-01.html
  11. 内閣府の調査(環境問題に関する世論調査、2019年)では、代替製品の購入について、「価格と品質ともに、こだわらず代替製品を購入」と答えた者の割合が13.7%、「従来品と比べて、品質が同等以上であれば、多少価格が高くても購入」と答えた者の割合が22.9%、「従来品と比べて、価格が同じか安ければ、多少品質が低くても購入」と答えた者の割合が20.8%、「従来品と比べて、品質も価格も同等であれば購入」と答えた者の割合が35.5%、「代替製品を購入してもよいとは思わない」と答えた者の割合が3.4%となっている(https://survey.gov-online.go.jp/r01/r01-kankyou/2-1.html)。
  12. 消費者庁第35回インターネット消費者取引連絡会資料(サブスクリプション・サービスの動向整理)
    サブスクリプション・サービスを利用している理由では、「多くの商品・サービスを利用できる」(57.3%)、「安価に利用できる」(56.5%)、「使いたいときにだけ利用できる」(41.7%)が多い
    https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/meeting_materials/assets
    /internet_committee_200205_0002.pdf
    )。
  13. 【広域認定制度】廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和45年法律第137号)第9条の9及び第15条の4の3に規定され、環境大臣が廃棄物の減量その他その適正な処理の確保に資する広域的な処理を行う者を認定し、この者について廃棄物処理業に関する地方公共団体ごとの許可を不要とする特例制度。
    広域認定制度申請の手引き(P.2):https://www.env.go.jp/content/900534135.pdf
  14. 【再生利用認定制度】環境省令で定める廃棄物の再生利用を行い、又は行おうとする者は、当該再生利用の内容が生活環境の保全上支障がないものとして環境省令及び告示で定める基準に適合している場合に環境大臣の認定を受けることができるものとし、この認定を受けた者については、処理業の許可を受けずに当該認定に係る廃棄物の処理を業として行い、かつ、施設設置の許可を受けずに当該認定に係る廃棄物の処理施設を設置することができる制度。
    再生利用認定制度の手引き(P.1):https://www.env.go.jp/content/900536147.pdf
  15. 廃棄物処理法第1条:この法律は、廃棄物の排出を抑制し、及び廃棄物の適正な分別、保管、収集、運搬、再生、処分等の処理をし、並びに生活環境を清潔にすることにより、生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図ることを目的とする。
  16. https://endplasticwaste.org/ja
  17. Global Sustainable Investment Review 2020
    http://www.gsi-alliance.org/
  18. https://www.meti.go.jp/press/2020/01/20210119001/20210119001-2.pdf

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