一般社団法人 日本経済団体連合会
経済法規委員会競争法部会
現在、金融庁が「保険会社向けの総合的な監督指針」の一部改正(案)についてパブリックコメントを実施している#1。経団連としては、2024年12月に公表された「損害保険業等に関する制度等ワーキング・グループ」の報告書を受けて、監督指針の改正に早期に着手した対応を評価する。また、本年5月30日に成立した改正保険業法とあわせて、顧客本位の業務運営の徹底や健全な競争環境が実現することを期待する。
そのうえで、監督指針の文言および趣旨を明確化し、実務上の適切な運用を実現する観点から、下記のとおり意見を提出する。なお、本意見の項目は、監督指針の改正(案)の該当箇所に対応している。
Ⅱ-4-2-9 保険募集人の体制整備義務(法第 294 条の 3 関係)
(5) 比較推奨販売に関する説明義務
二以上の所属保険会社等を有する保険募集人の比較推奨販売に関する説明義務については、特約を含む補償内容について詳細に比較する説明が求められると、資料作成や顧客対応に要する業務量が著しく増大するおそれがある。すべての契約者が詳細な説明を求めているとは限らないことを踏まえ、説明内容や方法に一定の柔軟性を認めるなど、保険募集人の業務量が著しく増大しない措置を検討すべきである。
(6) 過度の便宜供与の防止
二以上の所属保険会社等を有する保険募集人が、保険会社等に対して過度の便宜供与を求めることの防止について、「過度」の判断基準が不明確なままでは、保険募集人ごとに解釈が分かれ、厳しい社内規定を整備することが必要になるなど、過大な負担が生じるおそれがある。また、比較推奨販売に影響を与える行為についても、各社の判断が異なることが想定される。
したがって、過度の便宜供与の判断基準や、比較推奨販売に影響を与える行為について、損保業界全体で参照可能な統一的なルールを示すべきである。
(10) 体制整備状況に関するモニタリング等の実施主体
ヒアリング等のオフサイトモニタリングの実施や、保険業法第305条に基づく報告や立入検査の実施等の対応について、実施主体は規制当局の金融庁であるという理解でよいかを確認したい。なお、本項で引用されている保険業法第305条、第306条、第307条の主語は、「内閣総理大臣」とされている。
仮に、モニタリングや検査等の実施主体が損害保険会社である場合、乗合代理店は複数の保険会社から個別に対応を求められる可能性があり、過度な負担が生じるおそれがある。損保業界統一の検査チェックリストの活用と情報共有、デジタル化の推進など損保業界全体の施策により、モニタリングや検査等の質を維持しつつ、保険代理店、保険会社、規制当局いずれにも過度な負荷を生じさせない取り組みをすべきである。
Ⅱ-4-2-12保険代理店等に対する便宜供与
(1)注1および②イ 企業内代理店と親会社の取引と「過度の便宜供与」
企業内代理店およびその親会社(保険契約者)が、保険契約とは異なる事業で特定の保険会社と取引関係にある場合、自社の代理店を通じて当該保険会社に保険契約を依頼する行為が、本項における「過度の便宜供与」に該当するのかを明確化すべきである。例えば、A社(建設会社)がB社(損害保険会社)の社屋建設を受注し、両社の取引関係の強化を目的に、A社の企業内代理店を通じてB社と保険契約を締結する場合が対象となるかを確認したい。
本項の規制対象が企業の通常の取引まで含むと、企業の経済活動を不当に制限するおそれがある。したがって、本項の適用は、親会社に対する便宜供与が保険代理店の比較推奨販売の方針に著しく影響し、顧客の適切な商品選択を実質的に阻害すると認められる場合に限定すべきである。
(1)注1 保険代理店の主要な取引先
「保険代理店の主要な取引先」とは、具体的にどのような取引先を想定しているのか、「主要な」の定義や、「取引先」に保険契約者が含まれるのかを明確化すべきである。
「保険代理店の主要な取引先」の範囲の解釈の余地が大きいと、実務上の判断に負担が生じるおそれがあるため、明確な定義や具体的な事例を追記すべきである。
(1)① ウ 保険代理店に対する監査
保険会社が保険代理店に対して監査を実施することが求められているが、保険会社と保険代理店との契約関係を前提としつつも、保険代理店は独立した事業主体である。この関係を踏まえ、監査の対象や項目は、保険募集に関連する法令遵守状況など、保険業法に定められた範囲に限定すべきである。
Ⅱ-4-2-13 保険代理店に対する出向
(3)(注1) 「企業グループ」の定義
「企業グループ」の定義は、「保険会社の親会社・子会社・親会社の子会社のほか、保険会社との関係で持分法適用会社となる会社」とされており、広範な例外規定が設けられている。
しかし、企業グループ内であっても、当該保険代理店が二以上の所属保険会社等を有する乗合代理店である場合、出向元である保険会社の商品が優先的に取り扱われるおそれがある。また、当該代理店において他の保険会社の顧客情報等に接する機会があるため、個人情報保護法等の観点から不適切な情報共有につながるリスクもある。
加えて、持分法適用会社には、保険会社が保険代理店に少額の出資をして、社員を出向させることで実質的に影響力を行使する場合がある。当該代理店への出向が形式的な資本関係を通じて正当化され、出向制度の趣旨が実現しないおそれがある。
したがって、顧客の適切な商品選択機会の確保および不当な情報共有の防止のため、本項における例外規定を再検討すべきである。特に以下の措置のいずれか、あるいは両方を講じる必要である。
第一に、「二以上の所属保険会社等を有する保険募集人」に該当する保険代理店については、企業グループ内であっても例外の対象から除外すること。
第二に、企業グループの定義については、「親会社・子会社・親会社の子会社」に限定し、「持分法適用会社」を除外すること。
以上を踏まえ、(3)(注1)より「持分法適用会社」に関する記載を削除し、そのうえで文末に、「ただし、二以上の所属保険会社等を有する保険募集人に該当する保険代理店は除く。」という文言を追加すべきである。
Ⅱ-4-2-14 代理店手数料の算出方法
本文 コンプライアンス上疑義のある事案
「コンプライアンス上疑義のある事案の発生状況等を考慮しているか」という表現については、保険募集業務とは無関係の事案まで対象に含まれるおそれがあるため、「保険募集に関する業務の健全かつ適正な運営を確保する観点から、疑義のある事案の発生状況等を考慮しているか」に修正すべきである。
本文 個々の代理店手数料の算出方法
本来、代理店手数料は、保険会社と保険代理店との間の委託契約に基づき、保険代理店が提供する業務の内容・品質・サービスに応じて、個別に設定されるべきものである。しかし、現状では、保険種目ごとの手数料率が保険会社から保険代理店に対して一律に通知されており、個々の協議や合意による設定が行われていない。
また、代理店手数料ポイント制度においても、実際の保険代理店の事業形態(例:リテール型と企業内代理店)に応じた評価がされていない。現行制度では、ペーパーレス化や保険会社のWebシステム利用などの保険会社側の業務効率化に資する項目が評価の対象となり、保険代理店の顧客に対する価値提供やサービス品質の向上が十分に考慮されていない。
さらに、代理店手数料ポイントにおいて保険料規模や増収率が評価項目の大半を占めており、この評価基準を継続すると保険代理店における顧客への最適な保険商品の提供を阻害するおそれがある。これは、顧客にとって最適な商品提供を行うことが阻害されかねず、手数料ポイント制度の趣旨に反する。
したがって、代理店手数料ポイント制度においても、顧客への価値提供や業務品質を正当に評価する基準について、双方で協議と合意をした上で設けるべきである。
(1)「業務品質」の評価
「業務品質」の定義および評価方法は、必ずしも明確に定まるものはなく、顧客の属性や時代等により変化するものである。そのため、業務品質の評価にあたっては、顧客の状況や時代の変化に応じた柔軟性を持たせる必要がある。例えば、現在はWEB化率が評価指標として活用されることが多いが、高齢の顧客層にとっては必ずしも利便性が高いとは言えず、顧客からの評価や顧客の声の収集状況等の定性的な情報も評価項目として取り入れることが考えられる。
業務品質が高い保険代理店は、顧客に選択された結果として、規模や増収率の拡大につながる傾向がある。一定の規模以上の保険代理店については、組織として業務品質への取り組みがなされている可能性が高い。したがって、「業務品質」を重視しつつ、規模や増収率との適切なバランスに配慮した評価が行えるようにすべきである。
(2)「事務効率化」の評価指標
「損害保険会社の事務効率化」を業務品質の具体的な指標としているが、実際の保険代理店業務、特に乗合代理店における業務の非効率化が懸念される。例えば、保険代理店が独自に工夫して効率化した業務に対し、保険会社が指定する独自のシステムの使用が求められると、二重作業や他社のシステムとの違いにより業務が複雑化する。
こうした実態を踏まえ、「事務効率化」は保険会社だけでなく、保険代理店や顧客を含めた全体的な視点で評価すべきである。これにより損害保険業界全体のコストが削減され、保険契約者のコストの最適化にもつながる。
(3)乗合代理店における割増引率
第一に、顧客の視点からは、乗合代理店を通じた保険募集において、保険会社間で代理店手数料の割増引率に差がある場合、結果として割増引率が高い保険会社の提案に偏る傾向がある。このような状況が継続すれば、既存シェアの高い保険会社が優位となり、新規参入や商品・サービスの多様性が失われ、保険契約者にとっての選択肢やサービス水準の低下につながるおそれがある。
一方で、代理店手数料の割増引率の追随を一律に制限することは、保険会社間の競争を不当に抑制する可能性がある。顧客サービスや業務品質、法令遵守に問題がない代理店に対して、他社が追随的に同水準の割増引率を設定することは、むしろ保険会社間の競争促進につながり、顧客の利益にも資する。
第二に、乗合代理店においては、シェアが最も高い保険会社(いわゆる「代申会社」)が、当該代理店の業務実態を最もよく把握しており、業務品質や法令遵守の状況を踏まえた割増引率の設定を行っているケースが多い。その他の保険会社が、当該評価に準じて割増引率を設定することは、業務品質を軽視するものではなく、合理的な判断といえる。
実際に、同一の保険代理店に対する業務品質の評価は、保険会社ごとに大きく異なるものではなく、適切な評価に基づいた割増引率の「横並び」は自然な結果である。したがって、追随的な運用を一律に問題視すべきではない。
以上を踏まえ、(3)の記述について、「ただし、当該代理店について業務品質や法令遵守等に問題がないと評価している場合は、この限りではない」等の規定を追記することを検討すべきである。
Ⅴ 保険仲立人関係
Ⅴ-4 他の募集人等との関係
Ⅴ-4-4
(1)再保険契約以外の保険契約の締結の媒介に係る手数料等の請求方法
(1)①企業分野の保険契約の媒介に係る手数料等の請求
ア. 保険会社等にのみ手数料を請求する場合、イ. 顧客および保険会社等の双方に手数料等を請求する場合の2つの場合のみが示されており、「顧客のみに手数料等を請求する」場合の取扱いが明示されていない。例えば、契約者が共同保険を組成するにあたって、元受保険会社の選定や損害保険会社との価格交渉等を保険仲立人に依頼するケースが想定される。
このような場合、保険仲立人が提供するサービスは媒介行為とは異なるため、(2)手数料等以外に受領するサービスの対価として、契約者(顧客)のみから報酬を受け取ることができるという理解でよいか、明確化すべきである。 また、(1)媒介に係る手数料等と(2)手数料等以外に受領するサービスの対価の具体的な区別について、参考となる事例を明示すべきである。
(1)① 企業分野の保険契約の締結の媒介に係る手数料等の請求
保険仲立人が手数料を契約者から収受する場合には、その分だけ保険会社の保険料が減額されることがあるが、これについて一定の基準を設けるべきである。
保険代理店と保険仲立人では、手数料の決定における裁量や、保険募集に関する業務内容や責任の範囲が異なる。具体的には、保険代理店の手数料は保険会社が決定するのに対し、保険仲立人は顧客との合意に基づき手数料を設定することが一般的である。そのため、保険料の減額が過度なものとなれば、実質的に保険料の不当な値引きにつながるおそれがある。
こうした不当な値引きを防止するためにも、保険種目別の標準的な手数料率や、仲介業務に応じた標準業務単価を明確にするなど、実態を踏まえた検討をすべきである。
(1)イ 顧客及び保険会社等の双方に手数料等を請求する場合(イ)
保険仲立人は、顧客の代理人として行動する保険会社から独立した立場にあり、顧客との契約に基づいて、保険契約の媒介をおこなう。これに加えて、顧客の要請に応じ、媒介と異なるサービス提供を行う場合もある。こうした場合において、顧客との契約内容に基づいて定められる媒介手数料以外の手数料対価を保険会社にまで開示する必要性は低い。
顧客に対しては、保険会社と顧客から受領する手数料の合計額を説明すれば十分である。このため、「保険会社等に対しても、適切な方法により顧客から受領する手数料等の金額を開示しているか」との規定を見直すべきである。