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Policy(提言・報告書)  税、会計、経済法制、金融制度 「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律の運用基準」案に対する意見

2025年8月6
一般社団法人 日本経済団体連合会
経済法規委員会競争法部会
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現在、公正取引委員会が「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(「中小受託取引適正化法」、以下では「取適法」という。)に関連する6件の規則や運用基準の案について、意見募集(パブリックコメント)を実施している#1。本意見は、そのうちの(別紙4)「製造委託等に係る中小受託事業者に関する代金の支払の遅延等の防止に関する法律の運用基準」案に対するものである。

経団連としては、本年5月16日に成立した取適法を高く評価しており、来年1月1日の同法の施行を契機として、取引適正化が一層推進されることを期待している。

そのうえで、取適法の文言および趣旨を明確化し、実務上の適切な運用が行われるようにする観点から、下記のとおり意見を提出する。なお、本意見の項目は、運用基準案の該当箇所に対応している。

第1 運用に当たっての留意点
1 留意すべき点

貨物や業界ごとの物流特性や現場実態を十分に理解し、業界団体等が策定した物流に関する自主行動計画(「物流の適正化・生産性向上に向けた自主行動計画」)に即した取組みについて考慮した上で、事業者に対する指導・助言等が行われるようにすべきである。荷主事業者に対しては、トラック・物流Gメンや改正物流効率化法による措置等も行われており、事業者にとって規制が重複しないよう、他の法律や施策の状況を踏まえた運用を検討すべきである。

3 違反行為が既になくなっている場合の措置

「違反行為が現にある場合(中小受託事業者の利益侵害状態がある場合)のみならず、既になくなっている場合(中小受託事業者の利益侵害状態がなくなっている場合)においても委託事業者及び承継事業者に対して所要の措置をとるべきことを勧告することができることが規定されたことを踏まえ、これらの事業者についても対応を図ることとする。」と記載されている。しかし、違反行為が既になくなっている場合において、委託事業者および承継事業者に求められる「所要の措置」とは如何なるものかについて、実務上の予見可能性を確保する観点から、具体的な措置の例を示すべきである。

第2 法の対象取引・事業者
1-1 製造委託
(1)「工作物保持具その他の特殊な工具」

改正法で製造委託の対象として追加された「工作物保持具その他の特殊な工具」について、各企業で解釈が異なることを避けるため、可能な限り具体例を示して解釈を明確化すべきである。また必要に応じて、今後も継続的に具体例を追加することも考えられる。

(3)物品の定義、治具の該当性

「物品」の定義は、現行の運用基準では動産に限り、不動産は含まれないものとされていたが、運用基準案において「有体物」と変更されたことにより、「不動産」も「物品」に含まれると解釈できる。例えば、修理委託の類型の中に「不動産の修理」が含まれることとなり、本法の適用対象となる取引が拡大されると考えられる。この解釈の変更は企業の取引や行動に影響を与えるため、定義の変更の趣旨および具体的な内容について明確にすべきである。

治具が本法の対象に該当するかについて、具体的な事例を示すべきである。例えば、自社工場で製品の製造に使う機械の部品について、外部の機械メーカーに特注して製造を委託している場合、当該部品が治具に該当するかについて、各企業の判断が異なることが懸念される。

(4)類型1-4における「自家使用」

類型1-4において「自家使用」が対象に含まれているが、金型に加えて、改正法で追加された治具や特定運送委託において、「自家使用」に該当する場合の具体例を示すべきである。

1-5 特定運送委託
(3)取引の相手方(当該相手方が指定する者を含む。)に対する運送

改正物流効率化法の運用において「輸送の安全を確保するために運転業務と一体的に行われる養生作業、固縛、シート掛け等については、荷役等に該当せず荷役等時間に含まれない」とされている点を踏まえ、これらの作業が「運送以外の荷積み、荷下ろし、倉庫内作業等の附帯業務」に含まれないことを明確にすべきである。

2 規模に係る要件(資本金基準及び従業員基準)
(2)「常時使用する従業員の数」の確認方法

「常時使用する従業員の数」が労働基準法第108条に規定する賃金台帳の調製対象となる者の数によって算定されるとされているが、その情報は一般に公開されておらず、かつ中小受託事業者には非上場会社も多いため、委託事業者が発注の時点で正確な従業員数を把握することは困難である。

また、委託事業者が取引の都度、従業員の数を確認することは、過度な負担となる。例えばホームページなどに公表されている情報を基に取引を行ってもその情報が期末時点のものであり、更新が行われていない場合も想定される。実際には従業員数が300名を下回っていたことが判明した場合、直ちに行政指導や行政処分等の対象とされるのは不合理である。

従業員数の確認については、委託事業者に法的に義務付けられてはいないものと理解しているが、仮に何らかの事由で委託事業者への行政措置の検討がなされた場合において、確認できなかったことについて合理的な理由がある場合においても行政指導や行政処分等の対象となり得るのかを明確にすべきである。

また、公正取引委員会や中小企業庁等からの調査において、委託事業者に対して中小受託事業者の従業員数の情報提供が求められた場合に、その回答が義務であるのか、回答しないことにより委託事業者に不利益が生じるのかを明確にすべきである。従業委数の確認については、委託事業者のみに責任を負わせるのではなく、中小受託事業者の対応も明確にすべきである。中小受託事業者は、委託事業者から従業員数の確認を受けた場合、真摯に回答すべきであり、従業員数が100人や300人などの閾値を超える見込みがある場合には、事前に委託事業者に見通しを伝達することが望ましい旨を明確にすべきである。

(3)確認の時点および対応手法

「規模にかかる要件の適用は委託取引ごとに判断するが、従業員基準は資本金基準が適用されない場合に適用する。」とあるが、いつの時点の資本金および従業員を基準として判断すべきであるかを明確にすべきである。

また、発注件数が多い企業において、取引の都度、従業員基準を確認することは困難である。中小受託事業者には非上場の会社も多いため、従業員数の情報を把握するには相手企業に直接確認するしかなく、双方にとって大きな負担となる。例えば、委託契約締結時に中小受託事業者に確認した際の従業員数が従業員基準を超えていたものの、その後に従業員数が変動し、かつ中小受託事業者が従業員数の変動を通知しない場合には、委託事業者が従業員数の変化を把握することが困難である。

したがって、今後、ガイドライン等を策定し、委託事業者側による対応方法の例(セーフハーバー)を明確にすべきである。例えば半期に一度など一定の期間ごとに確認を行う、中小受託事業者との契約書や注文書などにおいて従業員数の基準に該当する場合の通知義務を課す、中小受託事業者の従業員数情報を公的機関で収集し一般に開示する、リアルタイムで資本金や従業員数を確認できる専用のウェブサイトを整備するなどの措置が考えられる。

なお、委託事業者が上記を踏まえた対応を行っていたにもかかわらず、中小受託事業者が取適法上の「中小受託事業者」に該当するに至ったことに気づかないまま、取適法に沿わない委託を行った場合、委託事業者が行政指導や行政処分等の対象にならないことを明確にすべきである。

同様に、中小受託事業者からの従業員数の回答に誤りがあった場合、回答を拒否した場合、回答がなかった場合において、委託事業者が行政指導や行政処分等の対象にならないことを明確にすべきである。

第4 委託事業者の禁止行為
2 支払遅延
(6)改正法の適用対象

改正法が適用される対象を明確にすべきである。例えば、今年度(2025年4月1日~2026年3月31日納入)について、2025年3月31日までに手形支払を含む支払条件で合意した注文書を交付している場合、2026年1月1日~3月31日の納入分についても、既に合意済みの支払条件で支払いを継続してもよいかについて、企業によって判断が異なる可能性がある。

仮に契約の変更が必要となる場合、多数のサプライヤーとの間で膨大な作業が発生することが想定される。したがって、施行日前に締結された契約など合理的な理由がある場合については、施行日前の契約条件を引き続き適用しても行政指導や行政処分等の対象とはしない措置を設けるべきである。

〈特定運送委託において想定される違反行為事例〉
2-12 支払日が金融機関の休業日に当たることを理由とした支払遅延

「書面による合意(当該合意の内容を記録した電磁的記録の作成を含む)がされていないにもかかわらず」との記載について、同様のケースと考えられる2-6(カ)においては、「書面で合意していないにもかかわらず」と記載されているため、表現を統一すべきである。「書面による合意(当該合意の内容を記録した電磁的記録の作成を含む)」が、特定運送委託以外の類型には適用されないのかについても、明確にすべきである。

また、2-6(カ)で記載の事例と同じ事例であれば、「支払期日を金融機関の翌営業日に順延することについてあらかじめ書面で合意していないにもかかわらず」という表現を統一して用いるべきである。

さらに、毎月の特定日(支払期日)に金融機関を利用して支払っている場合において、金融機関の休業日により、支払期日が月によって2日程度順延されることは、委託側と受注側のいずれの責任でもない。仮にあらかじめ書面の合意があっても支払遅延と認定されるのであれば、多くの企業でシステムの改修を強いられる可能性があるため、意味を明確にすべきである。

5 買いたたき
〈特定運送委託において想定される違反行為事例〉
5-18 製造委託等代金を据え置くことによる買いたたき

「十分に協議をすることなく、一方的」、「通常の対価を大幅に下回る製造委託等代金の額」について、企業によって判断が異なる可能性があるため、具体的な例を示して解釈の明確化を図るべきである。

5-19 その他の買いたたき

5-18と同様に、「十分に協議をすることなく、一方的」、「通常の対価を大幅に下回る製造委託等代金の額」について、企業によって判断が異なる可能性があるため、具体的な例を示して解釈の明確化を図るべきである。

7 不当な経済上の利益の提供要請
〈特定運送委託において想定される違反行為事例〉
7-13 従業員の派遣要請

自身の事業所の構内での事故防止のため、従業員を派遣することが契約の範囲に含まれる場合は、「不当な経済上の利益の提供要請」には該当しないと考えられる。したがって、事例の記載を「委託事業者は、製造を請け負う物品の運送を委託している中小受託事業者に対し、委託の範囲外であるにもかかわらず、自身の事業所の構内での事故防止のためとして、荷役作業や車両移動時の立会のために従業員を派遣させた。」と修正すべきである。

7-14 労務の提供要請

運送以外の荷下ろし等の作業が契約の範囲に含まれる場合は、「不当な経済上の利益の提供要請」には該当しないと考えられる。したがって、事例の記載を「委託事業者は、自己の販売する商品の運送を委託している中小受託事業者に対し、委託の範囲外であるにもかかわらず、運送以外の荷下ろし等の作業をさせた。」とすべきである。

7-15 関税・消費税の立替え要請

立替え後の支払いに応じなかったことが違反行為に該当すると考えられるが、立替えを要請する行為自体も違反行為に該当するのか、立替えに要した金銭を委託者側が適切に支払った場合は違反行為には該当しないのか、基準を明確にすべきである。

8 不当な給付内容の変更及び不当なやり直し
〈特定運送委託において想定される違反行為事例〉
8-12 取引先の都合を理由とした発注内容の変更

「自社の都合」は文脈から「取引先の都合」とも読み取れるため、意味が明確になるように、「委託事業者の都合」など主体を明示した表現に修正すべきである。

(1)長時間の荷待ち

「長時間の荷待ち」については、着荷主のオーダーのタイミングが適切ではないため、発荷主側で発生したり、トラックの運転手がサイクルタイムを短縮したりするために自主的に早期に到着して、その結果として待ち時間が長くなるケースも多い。このように、物流の諸問題は発荷主・着荷主・運送事業者の各主体が複雑に影響し合い、サプライチェーンが連鎖しながら発生するものである。したがって、明確な契約違反のものに限り、違反行為とみなすべきであるため、「その待ち時間について必要な費用を負担しなかった」から、「その待ち時間について契約通りの費用を負担しなかった。」と修正すべきである。

9 協議に応じない一方的な代金決定
(1)協議の水準と必要な資料

委託事業者として、中小受託事業者とはどの程度までの協議を行い、どのような資料を保管しておけば、「協議に応じない一方的な代金決定」と判断されないのか、具体的な例を示して解釈の明確化を図るべきである。

(3)協議を希望する意図

「協議を希望する意図が客観的に認められる場合」について、実務上の予見可能性を確保する観点から、判断基準となる具体的な事例を示すべきである。

(6)「中小受託事業者の利益を不当に害」するもの

取適法第5条2項4号にて、「中小受託事業者の給付に関する費用の変動その他の事情が生じた場合において、中小受託事業者が製造委託等代金の額に関する協議を求めたにもかかわらず、当該協議に応じず、又は当該協議において中小受託事業者の求めた事項について必要な説明若しくは情報の提供をせず、一方的に製造委託等代金の額を決定すること。」と定められていることから、費用の変動などの事情に伴う引上げ要請に伴う協議を前提にした条項であることを明確にすべきである。

また、中小受託事業者から引き上げの要請がない場合については、禁止事項には該当しないものと理解しているが、仮に引上げ要請がない場合についても、本項が適用される場合の考え方を明示すべきである。

(7)イ 合理的な範囲

「合理的な範囲を超えて詳細な情報の提示を要請」と記載されているが、「9-2 詳細な情報提示要求により委託事業者が協議に応じない例」においては、「コスト上昇の根拠として具体的に算定することが容易でない詳細な情報の提示」と記載されている。「具体的に算定することが容易でない」ことは「合理的な範囲を超えて」と同義と考えられるが、両者の文言の関係を整理して、「合理的な範囲を超えて」の意味を明確にすべきである。

以上

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