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Policy(提言・報告書)  経済連携、貿易投資 米国・メキシコ・カナダ協定の見直しに関する意見

英文
2026年2月17
一般社団法人 日本経済団体連合会

今日、ルールに基づく自由で開かれた国際経済秩序は危機に瀕している。WTOが本来の機能を十分に果たせていないなか、経済連携協定(EPA)・自由貿易協定(FTA)は、自由で公正な貿易投資の推進を通じて更なる成長を目指す、志を同じくする国・地域が協調・協力を深めるものであり、国際経済秩序を維持・強化する上で不可欠である。

2020年7月の発効から6年目の見直しの時期を迎えつつある米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)は、そのようなEPA・FTAの一つであると同時に、次のような固有の意義を有している。

第一に、USMCAは、協定を構成する3か国間の貿易・投資の拡大および域内の雇用の創出にも寄与しており#1、今後も継続した効果が期待できる。日本を含む第三国の企業も、USMCAによる予見可能性が高く、安定した事業環境の下で、米国・メキシコ・カナダへの投資を行ってきており、これを通じて、北米における産業基盤の強化と雇用の創出・拡大に貢献してきている。即ちUSMCAは北米経済の高い強靭性と競争力を支えるとともに、公正で予見可能性の高い競争環境を確保する制度的基盤となっている。

第二に、北米を終点とする強靭なサプライチェーンは、特定国への過度の依存を防ぐとともに、経済的威圧のリスクを低減し、リスクが顕在化した際の対応力を高めている。日本は、これまでも特定国への依存度を引き下げ、サプライチェーンの一層の強靭化に貢献してきており、今後も貢献し得る立場にある。USMCAはこうした経済安全保障の観点からも重要な役割を果たしている。

第三に、現状にあっても、北米域内の貿易に関して、USMCA準拠品は優遇されており、域内の貿易・投資の活性化における同協定の価値が改めて認識されている。現にUSMCAの利用率は大幅に上昇している#2

第四に、USMCAは、北米自由貿易協定(NAFTA)からの近代化を経て、デジタル貿易などの追加された新分野において、高水準のルールを規定しており、他のEPA・FTAの範となり得る協定である。

以上を踏まえれば、本年のUSMCAの見直しにあたっては、現状の3か国による枠組みを維持するとともに、2042年までの協定延長に合意することが極めて重要である。また、協定に盛り込まれたルールについても、現行の内容を基本的に維持することが望ましく、改訂する場合であっても、現行をベースとして、現実的に適用可能かつ明確であり、中長期に亘って安定的なものとすべきである。われわれは、そのようなUSMCAを前提とした、引き続き予見可能性が高く、安定的で可能な限り開かれた北米市場において、日本企業による事業活動を通じた地域の経済社会への貢献を促していく。

下記では、以上の基本的な考え方に立って、協定の個別規定に関して意見を述べる。

1.原産地規則

北米市場の一体化が進むなかにあって、それに逆行するような見直しは、上述のUSMCAが有する意義を減殺しかねないことから、これを回避すべきであり、むしろ、一体化を促すような見直しが望まれる。

具体的には、自動車分野の原産地規則において、特恵関税の恩恵を受けるためには、「RVC(域内原産割合)が75%以上」、「直接工の賃金(時給)が16ドル以上の地域における付加価値が40%以上(乗用車・SUVの場合)」など、4要件#3を全て満たす必要があるが、こうした要件が更に厳格化・複雑化される、あるいは自動車分野以外にも拡大するとなると、重要な物品の域内での調達が困難になるおそれがあり、結果的にUSMCAの利用率を引下げ、域外への依存を高めることにつながりかねない。関税分類変更(CTC)基準についても、同様である。

さらに、域外部材の比率や原産国に応じた関税算出は、実務上困難であることから、対象品の定義は現行を維持すべきである。その上で、経済安全保障上の強い必要性が認められ、特定国を念頭に置いて対象品の見直しを行う場合には、例えば同盟国・同志国が供給する、そうした懸念の無い物品までが対象とならないように留意すべきである。

加えて、利用者に意図せざるコンプライアンス上の負担を課すことのないよう、運用を含めた規則の簡素化・透明化を進めるべきであり、そうすることは行政効率の向上にも資するものである。

2.デジタル貿易

USMCAには、自由な越境データフロー、デジタル・プロダクト無差別待遇など、デジタル貿易や電子商取引の促進に寄与する高水準の規定が盛り込まれている#4。それら規定は、創意工夫をこらした自由闊達な企業活動を可能にするとともに、データの共有やAIの発展を通じた産業競争力の強化にとって不可欠であり、現行規定を維持すべきである。

3.公正衡平な投資紛争解決

予見可能性を高め、域内への投資をさらに活性化させる観点から、カナダ・米国間のISDS条項設置の検討を含めて、公正衡平な投資紛争解決に資するメカニズムを構築すべきである。

4.不正貿易への対処

不正貿易は、正規製品の市場アクセスを阻害するとともに、域内への投資意欲を殺ぐことになりかねない。こうした懸念を防ぐべく、不正貿易防止とマネーロンダリング対策を規定すべきである。さらに、不正貿易問題に特化した専門ワーキンググループを協定の枠組みのもとに設置すべきである。

5.運用の改善

現地に進出する企業からは、税関手続きが第7章で規定されている税関・貿易円滑化のルール通りに運用されていないために、検査や書類審査が遅延し、顧客への納期が守れないといった事態が生じているケースがあるとの懸念の声が聞かれる。

こうした運用上の問題を解消するため、税関当局間の協力や情報共有の強化をさらに進めるとともに、協定に規定されている委員会#5の活動に、関心を有するステークホルダーの恒常的な参加を可能にすることや、政府と貿易関係者の対話の場を設けるなどの対応が考えられる。

最後に、USMCAは、予見可能性が高く、安定的で開かれた北米の市場環境を支える上で不可欠なものであると改めて強調しておきたい。本年の見直しにおいて、現在の3か国による枠組みを維持しつつ、建設的かつ将来志向の議論が進められることで、USMCAのより効果的な運用が可能となり、北米経済の競争力がさらに強化され、共通のグローバル課題への対応力も高まることが期待される。

経団連は、米国・メキシコ・カナダとの対話を継続し、そのような北米経済の強靭化に引き続き貢献していく。

以上

  1. CSIS(2025)によると、USMCA発効前の2019年と比較し、2024年までの5年間で、3か国の貿易額は37%増加、雇用は18%増加、対内直接投資は16%増加している。
    出典:CSIS (2025), USMCA Review 2026 Pathways, Risks, and Strategic Considerations for North America’s Economic Future, CSIS(戦略国際問題研究所)ウェブサイト
    https://www.csis.org/analysis/USMCA-review-2026 (2026年2月10日アクセス)
  2. 米国国際貿易委員会(USITC)データベースによると、米国の対メキシコ輸入に占めるUSMCA利用比率は、2024年の49.6%から2025年9月には87.6%に増加している。
  3. 4要件は以下の通りである。
    ①RVC(域内原産割合)が純費用方式で75%以上
    ②重要な自動車部品(コアシステム)が全て北米原産品
    ③完成車メーカーが購入する鉄とアルミニウムの7割以上が北米原産材料
    ④直接工の賃金(時給)が16ドル以上の地域における付加価値が40%以上(乗用車・SUV)もしくは45%以上(ピックアップトラック)
  4. 自由な越境データフロー、デジタル・プロダクト無差別待遇のほか、例えばコンピュータ設備要求禁止、電子的送信に係る関税不賦課、ソース・コードやアルゴリズム開示要求禁止等
  5. 例えば、Chapter 7に関する活動を行う、USMCA Committee on Trade Facilitation

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