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Policy(提言・報告書)  科学技術、情報通信、知財政策 育成から飛躍へ:スタートアップ育成5か年計画の先を見据えた基本戦略

2026年4月14
一般社団法人 日本経済団体連合会

1.はじめに

経団連は「スタートアップ躍進ビジョン」#1(2022年3月公表)において、5年後の2027年までにスタートアップの裾野(起業の数)と高さ(成功レベル)をともに10倍する目標「10X10X」を掲げ、起こすべき7つの変化とアクションを提言した。この目標は政府の「スタートアップ育成5か年計画」(同年11月策定)にも組み込まれ、官民連携により様々な取組みを展開してきた。

5か年計画の下、従来にない規模で集中的に施策が展開され、計画策定から3年が経過した現在、わが国のスタートアップ・エコシステムの裾野は1.7倍に広がった。他方、ユニコーン企業数は微増にとどまり、エコシステムの高さに大きな変化が見られない。スタートアップはわが国の経済競争力を取り戻すための切り札であり、エコシステムの活性化に一層取り組むことが不可欠である。

折しも、高市政権において設置された日本成長戦略会議の下、分野横断的課題のひとつにスタートアップが位置づけられ、本年夏の成長戦略取りまとめに向けて検討が進められている。

そこで、本提言では、5か年計画の先を見据えた中長期的なわが国のスタートアップ戦略、およびこれを踏まえて現5か年計画を強化する観点から至急取り組むべき施策について、以下のとおり提言する。

2.5か年計画の先を見据えた基本戦略

  • 戦略1:政府の継続的なコミットメント

イスラエル#2や英国#3、シンガポール#4、韓国#5など先行する他国の例を見ても、スタートアップ・エコシステムの発展には、政府の継続的なコミットメントが不可欠である。

わが国では過去3年間、政府の体制によらず主要な政策文書にスタートアップ振興が継続的に盛り込まれ、政策メニューが拡充されてきた。この背景には5か年計画の存在があり、その意義は大きい。

そこで、現5か年計画が終期を迎えるにあたっては、その達成状況の検証と足らざる点のレビューを踏まえ、さらなる政策の強化と継続を担保する「第二次5か年計画」を策定すべきである。その際、AI技術の急速な進歩に伴い、スタートアップを巡る事業環境が抜本的に変容することも想定されるため、計画の見直しを予め組み込んでおくべきである。

  • 戦略2:グローバルへの「飛躍」を支える政策とエコシステム

高さが伸び悩む要因として、海外からの大型資金調達が不十分であることや、海外市場を狙う大きな野心を持つスタートアップが少ないこと、小規模な上場(IPO)が多いことなどが指摘されている。これらを踏まえれば、グローバルへの飛躍を支える政策とエコシステムが不可欠である。

そこで、「第二次5か年計画」においては、教育のあり方も含め、起業当初からグローバルを目指す野心を持ち、資金調達と市場獲得の両面において「グローバル」に戦えるスタートアップを数多く生み出すことに特に重点を置いた政策を推進すべきである。その際、海外を拠点に起業・投資を行う日本人や、日本を拠点に起業・投資を行う外国人など、国内外を問わずに支援対象とすることで、よりオープンなエコシステムの形成を目指すべきである。

こうしたグローバル起点の政策を展開する中核的な拠点として、「グローバル・スタートアップ・キャンパス(GSC)構想」#6を積極的に活用すべきである。同構想においては、グローバルハブとして、「多様な専門性やキャリア、個性を持つ人々が参画可能な文化的基盤のもと、研究者と起業家が主役として躍動できる拠点を目指す」といったビジョンを明確に打ち出すことが必要である。そして、これを実現するために、世界トップクラスの研究者やベンチャーキャピタル(VC)の招聘、国内中心でないグローバルレベルの組織運営が可能な多国籍・多様性に富んだ運営体制・事務組織の確立が不可欠である。

  • 戦略3:官需を成長ドライバーとするスケールアップ

スタートアップにとって、政府・企業による資金提供や協業だけでなく、製品・サービスの調達が成長(スケールアップ)への大きな弾みとなる。とりわけ、防衛、宇宙、防災などの分野は、公共性が高い一方で、事業化の初期段階では市場原理のみによる需要創出やスケール拡大が難しい場合も多く、公共調達が成長の足掛かりとして有効な手段のひとつである。

そこで、「第二次5か年計画」では、こうした分野を中心に、戦略的に伸ばすべきスタートアップについて、政府はアンカーテナンシー#7として、集中的かつ長期的な公共調達を通じて成長を後押しする政策を推進すべきである。その際、スタートアップの選定には、スタートアップの成長に責任を持つ、民間の知見や目利きを活用することが不可欠である。

3.現5か年計画の強化

前項のとおり、5か年計画の策定を契機として、政府において様々な政策が展開され、支援メニューは拡充してきたことは意義深い。しかし、海外ではAI分野を中心とした巨額投資を背景に急速に技術が進歩する中、わが国エコシステムの国際的地位は伸び悩んでいる#8

そこで、前項の戦略を踏まえ、第二次5か年計画を待たず、現5か年計画後半戦に高さ10倍の目標達成に少しでも近づけるために、5か年計画を強化する観点から至急取り組むべき施策を以下に提言する。その際、「諸外国並み」では追いつかず、「諸外国を上回る」取り組みで巻き返しを図ることが肝要である。また、地方を含めて必要なところに支援が行き届くように、各種施策に関する情報を一元化し、周知を強化していくことも重要である。

(1)シーズの掘り起こし強化

経団連は提言「Science to Startup」#9(2024年9月公表)において、大学の研究成果をディープテック・スタートアップとして社会実装につなげる道筋(パス)の整備が急務であるとして、大学・地域横断的かつ分野別に、大学の知を外部から能動的に掘り起こす「イグニッションチーム」の組成を提言した。イグニッションチームはグローバル水準の専門家集団を想定しており、①事業構想、②知財戦略、③スタッフィング、④資金調達の4つの能力が求められる。

このような能力を具備する人材を集約する観点から、例えばVC#10が国内外から人材獲得をするにあたり政府が呼び水的に資金援助を行うことが考えられる。とりわけ、海外から人材獲得をする場合には、グローバル水準の報酬を勘案し、資金援助をより手厚くすべきである。

また、研究成果を社会実装する上で、市場獲得に向けて起業前後の早期の段階で潜在的な顧客への調査を実施し、将来の顧客ニーズを踏まえた研究開発へと軌道修正することも重要である。こうしたカスタマーディスカバリーについても政府の支援策に組み込むべきである。

(2)事業化

①公共調達に係る政府目標の早期達成と目標引上げ

現行の5か年計画では、公共調達におけるスタートアップの調達比率目標として3%を掲げている一方、足下の実績は1.5%程度にとどまっており#11、目標から大きく乖離している。

そこで、5か年計画の政府目標である3%を至急達成するとともに、さらに、「スタートアップ躍進ビジョン」で提言した「10%」へと目標を引き上げるべきである。そのためには、予見可能性向上や負担軽減のため、複数年契約や、契約保証金#12を課さない運用を、省庁横断的に実施すべきである。また、加速度的に進歩するAI技術などについては、アジャイル型の調達を促進することも必要である。加えて、本格調達前に試作品を初期導入・実証できる仕組みを設けることにより、大規模調達に向けた後押しとなることが期待される。

また、近年、防衛用途に転用可能な先端技術(いわゆるデュアルユース技術)を有するスタートアップが防衛分野への参入を志向する例が増えている。この点、政府において、スタートアップの技術を迅速に導入するための調達スキーム「ファストパス調達」が整備されることを歓迎する。そのうえで、ユーザーであるスタートアップのニーズを踏まえ、真にスタートアップ・フレンドリーな制度とすることが肝要である。

なお、大企業も自社の競争力強化に向けて、ベンチャークライアントモデル(VCM)の活用などを通じて、積極的にスタートアップの製品・サービスの調達を進めていくことが重要である。

②SBIR制度における民間リスクマネーとの接続強化

概念実証#13の実施後、社会実装を目指すものの、量産化において壁に直面するスタートアップも多い。政府のSBIR制度#14はスタートアップなどによる研究開発を後押しする枠組みであり、2022年度より、大規模技術実証段階を支援するフェーズ3基金事業も創設された。調達・市場化をより実効的に進めるには、研究開発にとどまらず、事業化に向けた資金供給に繋げることが必要だが、実際には、フェーズ2の技術実証止まりとなりがちな事例も多い。

そこで、SBIR制度とVC、事業会社(CVCも含む)など民間リスクマネーとの連動を強化し、官による技術育成支援から、民による事業化に向けた資金供給を接続させる仕組みを整備すべきである#15。民間のリスクマネーが入ることでスタートアップ自身の事業化に向けた成長意識が高まり、いわゆる「死の谷」を越える推進力が高まることが期待される。また、事業化に向けては、大企業が保有する海外ネットワークを活用することも一案である。

③規制・制度改革

スタートアップが新たな製品・サービスを事業化するにあたっては、既存の規制制度が阻害要因になる場合も多い。

そこで、経済産業省の「スタートアップ新市場創出タスクフォース」の周知徹底や利用機会の拡大を通じて、関係省庁が連携強化し、迅速かつ大胆な規制制度改革により後押しすることが肝要である。

(3)資金

①海外VCの積極的な誘致

2.(2)で述べたとおり、高さを出すためには海外からの大型の資金供給拡大が不可欠である。その際、こうしたトップティアの海外VCを創業段階などのより早いステージから参画させることも重要である。

そこで、シンガポール#16や韓国#17の例も参考に、政府や公的機関によるファンドへの魅力的なマッチング拠出の仕組みを構築するなど、わかりやすく大胆な経済インセンティブを用意し、クロスオーバー投資家も含め、特に大規模な資金を供給できるトップティアの海外VCを中心に積極的に誘致すべきである。海外のベンチャーキャピタリストの来日にあたっては、円滑に投資活動が行えるよう、配偶者・子女も含め暮らしやすい生活基盤を整備することも重要である。

また海外に国内のベンチャーキャピタリストを多数送り込むことで、海外投資家とのネットワークを有し、かつ、グローバルレベルのプラクティスが可能な人材を育成することも肝要である。

さらに、ディープテック・スタートアップに対する資金調達を促進する観点から、欧州特許庁による「Deep tech finder」#18も参考に、海外投資家へのビジビリティを高める施策を展開すべきである。

②出口戦略の多様化

ミドル・レイター期以降の資金供給力を拡大するためには、M&Aをはじめ、IPO以外の出口の多様化が不可欠である。

この点、2025年5月に施行された改正金融商品取引法において非上場株式の仲介を行う証券会社の登録要件の緩和などの見直しが行われ、また日本証券業協会においても私設取引システムにおける非上場有価証券の取引等に関する規則の一部改正#19などが実施されているところ、大企業や機関投資家による取引を拡大し、セカンダリーマーケット#20を活性化すべきである。

加えて、グローバル競争力の強化を目指す上で、大企業によるM&Aを積極的に推進していくことが重要である。また、スタートアップ間のM&Aも有効な手段のひとつである。オープンイノベーション促進税制について、2026年度よりM&A型における対象が50%以下のマイノリティ株式取得についても対象が拡充されたところ、積極的な活用が重要である。また、株式対価M&Aの推進をはじめ、スタートアップ間の統合・再編を後押しする支援も検討すべきである。

4.おわりに

10X10Xの実現への道のりは平坦ではないが、スタートアップがわが国経済の成長と変革を牽引する中核的存在であるとの認識に些かの揺らぎもない。

経団連も経済界全体の行動変容を促すべく「スタートアップフレンドスコアリング」などの取組みを実施し、大企業においてもスタートアップ連携の重要性も広く認識されるようになった。大企業側もスタートアップ・エコシステムの発展に向け、スタートアップからの調達、M&A、事業のカーブアウトや人材流動性の向上などに弛まず取り組むことが重要である。経団連としても、大企業のアクションを一層推進するとともに、スタートアップのニーズを丁寧にすくい上げ、規制改革要望や提言の形で政府に届け、実現に向けフォローしていく。

経団連は、本提言で示した戦略に基づいて、2027年春を目途に、第二次5か年計画に向けた具体的な提言を取りまとめるべく検討を深めていく。

以上

  1. https://www.keidanren.or.jp/policy/2022/024_honbun.html
  2. イスラエル政府は1993年に民間VCを振興するYOZMAプログラムを開始。
  3. 英国政府は2010年11月に「East London Tech City」構想を発表し、ロンドンをシリコンバレーに匹敵するテクノロジーハブとすべく、海外企業・投資家の誘致やアクセラレーター施設の整備などを実施。
  4. シンガポール政府は「Startup SG」のブランドの下、官民共同投資スキーム「Startup SG Equity」のほか、起業家・アクセラレーター支援プログラム、海外投資家の呼び込みなどを実施。
  5. 韓国政府が2023年8月に発表した「スタートアップコリア総合対策」では、グローバル競争力を有する企業の創出の一層強化を掲げ、韓国人による海外での起業および外国人による韓国内での起業に対する支援拡大や官民共同投資ファンドの創設といった施策を展開。
  6. https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/global_startup_campus_initiative/index.html
  7. 最初の主要顧客としての新たな技術やサービスの調達・導入を通じて企業の成長を支えること。
  8. Startup Genomeが公表する「Global Startup Ecosystem Report」において、東京は、2024年に前年から5つ順位を上げて10位となったが、2025年には上海に抜かれ11位と順位を下げている。
  9. https://www.keidanren.or.jp/policy/2024/060_honbun.html
  10. ディープテック投資を行うVC、創薬など特定の技術領域に特化したVC、先端技術共創機構(ATAC)のような取組み主体を想定。
  11. 「令和6年度中小企業・小規模事業者向け契約実績」
    https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/jisseki/r6.pdf
  12. 会計法第29条の9では契約金額の1割以上の契約保証金の納付を規定。
  13. PoC:Proof of Concept
  14. Small/Startup Business Innovation Research。スタートアップ等による研究開発およびその成果の社会実装を促進するための補助金制度。https://sbir.csti-startup-policy.go.jp/
  15. 例えば、フェーズ3において民間からの資金調達を要件とすることも一案。
  16. シンガポールの「Startup SG Equity」では、政府がシンガポールに拠点を置くまたは設置予定のファンドにLP出資(1社あたりの投資上限はファンド総額の20%以内)。
    https://www.enterprisesg.gov.sg/resources/media-centre/media-releases/2026/march/mr01026_startup-sg-equity
  17. 韓国の「Tech Incubator Program for Startup」(TIPS)では、民間VCが選定したスタートアップに対し、政府が研究開発、事業化、海外マーケティングについて最大約7億ウォンを支援。2023年に新設された「ディープテックTIPS」制度では、民間VCがディープテック・スタートアップに3億ウォンを投資した際、政府が最大3年間で15億ウォンを共同出資。https://www.jointips.or.kr/global/
  18. 欧州特許庁(EPO, European Patent Office)が提供するディープテック・スタートアップの検索・調査ツール。特許データとスタートアップ情報を結び付け、技術分野やステージ、特許出願状況などから検索をかけ欧州地図上にマッピング可能。
  19. 2026年3月、特定投資家向けPTS銘柄(私設取引システムで取引される非上場株式)について、適時情報の公衆縦覧や価格情報公表を不要とし、顧客提供で代替可能とするなど情報開示・公表義務を緩和。https://www.jsda.or.jp/about/public/kekka/files/20260316_pts_syushi.pdf
  20. 既に発行されている株式や債券などを取引するマーケット

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