一般社団法人 日本経済団体連合会
経済法規委員会競争法部会
現在、公正取引委員会が「特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合の特定の不公正な取引方法」改正案等(以下、告示案等)について、意見募集(パブリックコメント)を実施している#1。
経団連としては、昨年5月16日に成立した中小受託取引適正化法(取適法)を高く評価しており、本年1月1日の同法の施行を契機として取引適正化が一層推進されることを期待している。加えて、サプライチェーン全体での適切な価格転嫁の環境整備や支払条件の適正化、物流に関する商慣習の問題に対する更なる対応などの観点から、優越的地位の濫用規制の在り方について、規制を整備していくことは、実務への影響について十分に留意する必要があるものの、取引適正化の観点からは評価できる。
そのうえで、告示案等について、文言および趣旨を明確化し、実務上の適切な運用が行われるようにする観点から、下記のとおり意見を提出する。なお、本意見の項目は、告示案等の該当箇所に対応している。
別紙1「特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合の特定の不公正な取引方法」改正案
「1 七」(協議に応じない代金の一方的決定)
「1 七」の違反行為に該当する場合については、代金に関する協議のプロセスにおいて、特定荷主が特定物流事業者に対して「当該コストの増加に関する根拠資料」の提出を求めることは、直ちに違反行為に該当しないかについて、解釈を示すべきである。
別紙4「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」改定案の「(5) その他取引の相手方に不利益となる取引条件の設定等 ア 取引の対価の一方的決定 ⑬」において、違反の想定例として、「取引の相手方が当該コストの増加に関する資料に基づき単価の引き上げに関する協議を求めたにもかかわらず、理由の説明や根拠資料の提供をすることなく、従前の単価と同一の単価を一方的に定めること」が挙げられている。
この点からは、委託側が受託側に対して根拠資料の提出を求めること自体を否定するものではないと解釈される。したがって、物流特殊指定においても、特定荷主が特定物流事業者に対し、協議の過程において根拠資料の提出を求める行為は、通常の交渉の範囲内のものとして、直ちに違反行為に該当するものではない旨を明確化すべきである。
「3 一」(運送以外の役務等の提供の要請)
「3 一」の違反行為に該当する場合については、特定発荷主または特定発荷主から運送を受託した事業者の責めに帰すべき理由がある場合には、当該行為が規制対象に含まれない旨を明記すべきである。
取適法においては、「中小受託事業者の責めに帰すべき理由がないのに」という要件が明示されているのに対し、「3 一」には同様の限定が明記されていない。このため、特定発荷主またはその運送を委託された事業者に帰責事由がある場合にも、形式的に禁止行為に該当すると解釈されることが懸念されるため、明確化する必要がある。
「3 一」の適用範囲について、発荷主と着荷主の間の契約において、運送事業者が一定の荷役作業(例:配送に伴う荷下ろし)を行うことが規定されている場合には、当該行為が「特定発荷主の利益を不当に害する」ものには該当しないかについて、解釈を示すべきである。
また、発荷主と着荷主の間の契約において事前に規定されていない行為についても、「特定発荷主の利益を不当に害する」ものには該当しない場合があり得るかについて、解釈を示すべきである。例えば、着荷主施設で庫内事故等が発生したような緊急時において、着荷主が運送事業者へ同契約で定めるより遠い荷卸場所を案内する行為等が挙げられる。
加えて、着荷主が物流事業者に対して発荷主と着荷主間の契約に定めがない荷役作業を要求した場合でも、当該物流事業者が発荷主に確認せずに、独断で当該作業を提供した場合は、「特定発荷主が運送を受託する事業者に当該提供の行為をさせる場合」には該当せず、規制対象とならないかとの点について、解釈を示すべきである。
「3 二」(運送内容の変更又は運送のやり直し)
「3 二」の違反行為に該当する場合についても、「3 一」と同様に、特定発荷主または特定発荷主から運送を受託した事業者の責めに帰すべき理由がある場合には、当該行為が規制対象に含まれない旨を明記すべきである。
また、着荷主が物流事業者に対して運送内容の変更又は運送のやり直しを要求した場合でも、当該物流事業者が発荷主に確認せずに、独断で対応した場合は、「3 一」と同様に、「特定発荷主が運送を受託する事業者に当該変更又はやり直しの行為をさせる場合」には該当しない場合があり得るかについて、解釈を示すべきである。
さらに、「3 二」に規定する「運送の内容の変更又はやり直し」に係る禁止行為の解釈については、「荷待ち」のように複数の主体が関与して発生する事象については規制対象としない旨を明確にすべきである。
2026年3月10日に開催された「第4回企業取引研究会」の資料において、「不当な給付内容の変更・やり直し」の具体例として「荷待ち」が挙げられているが、物流における荷待ちは、発荷主、着荷主、運送事業者、倉庫事業者等の複数の主体が相互に影響し合う中で発生する複合的な現象であり、特定の主体の行為のみに起因するものではない。したがって、これを一律に本号の「変更」または「やり直し」に該当する行為とすることは、実務の実態に即していない。
実務においては、運送の指示は発荷主が直接行う場合に限られず、多様な形態が存在するため、当該規定の適用範囲について解釈をめぐる混乱が生じている。さらに、発荷主と着荷主との契約において、受渡要件等の安全確保に関する事項を除き、詳細な条件を網羅的に規定することは現実的ではなく、過度な規制はかえって実務の混乱を招くおそれがある。
加えて、長時間の荷待ちについては、改正物流効率化法やトラック物流Gメンによる是正指導等により、既に業界全体で改善に向けた取組みが進められており、令和8年度からは発荷主及び着荷主双方に対する中長期計画の提出義務も課される予定である。このような状況において、本規定により同様の事象を重ねて規制することは、制度間の整合性が確保されず、規制の実効性を低下させるおそれがある。
したがって、発荷主と着荷主の契約を物流特殊指定の対象とする場合であっても、荷役に係る受渡要件等の安全に関わる事項に限定して規制対象とする一方、「荷待ち」のような複合的要因により生じる事象については、本号の適用対象から除外する旨を明確化すべきである。
備考 3(特定着荷主の定義)
「備考 3 一~四」における適用対象について、現行の物品の販売、製造請負、修理及び情報成果物の作成請負に加え、物品賃借や無形サービスの提供も含めるべきである。
物流現場においては、商習慣を背景として、本来の取引において支払われるべき対価が十分に認識されていないケースが存在する。特に、取引関係において着荷主が優越的地位を有する場合には、対価負担の在り方が不明確となりやすく、結果としてコストの負担が偏在している。例えば、パレット等のリターナブル容器については、着荷主(買主)が発荷主(売主)等に対して優越的地位を有する関係の下で、無償利用(いわゆるフリーライド)が発生するとともに、着荷主の拠点における紛失も生じている。また、これらがレンタル形態である場合には、着荷主における無償利用期間に係る賃借料や紛失に伴う補充費用等が、発荷主やレンタル事業者に帰属する構造となっている。
このような実態を踏まえると、「継続的な取引」の範囲が限定的に解釈される場合、適正な対価負担を求めるべき取引関係が規制の対象外となるおそれがある。したがって、サプライチェーン全体における適正な課金環境の形成および利用者による適切なコスト負担を促進する観点から、物品賃借や無形サービスの提供を含むよう適用対象を拡大すべきである。
別紙2「製造委託等に係る代金の支払に関する特定の不公正な取引方法」
製造委託等に係る代金について、給付の受領日から起算して60日以内の支払が原則とされ、当該期間を超える場合には「正当な理由」が必要とされている。一方、別紙3の運用基準案においては、「正当な理由がある場合」として、合理的な理由に基づき支払条件を定める場合に限られる旨が示され、その具体例として「給付の完了の確認又は検査に時間を要する場合」が挙げられている。これらを踏まえると、単に従来の契約慣行を理由として、受領から60日を超えて支払うことは「正当な理由」には該当しないとの理解でよいか、明確化すべきである。
また、告示の適用にあたり、取適法と同様の運用が認められるか否かについて、以下の5点を確認したい。
- 第一に、役務提供委託等において、月締めによる支払制度を採用することが許容されるか。
- 第二に、請求書の受領を基準として支払期日を定める実務を踏まえ、以下の2点を明確化すべきである。
① 請求書の受領を起点に、合理的な期間(例:受領後60日以内)に支払期日を事前合意で定める場合、受託事業者の利益を不当に害しないものとして許容されるか。
② 請求書の内容について争いがあり協議が行われる場合、当該支払条件に従って支払がなされる結果、役務提供から60日を経過することとなる場合であっても、許容されるか。 - 第三に、「60日以内」の解釈について、実務上「2か月以内」として取り扱うことが可能か、すなわち、例えばX月1日納品の場合にX+1月末日(翌月末日)に支払うことが許容されるか。
- 第四に、年間契約に基づく役務提供委託について、従来、年末に一括して支払う取扱いがなされている場合に、告示適用後も当該支払条件を維持することが可能か。
- 第五に、親子会社間又は同一企業グループ内における取引について、取適法と同様に、運用上問題とならない取扱いが維持されるか。
これらの点を明確化することで、事業者における支払実務の適正な運用に資するものと考えられる。
別紙3「『製造委託等に係る代金の支払に関する特定の不公正な取引方法』の運用基準」案
第1 適用対象について
2 受託事業者
受託事業者の該当性の判断については、取引依存度や市場における地位等の要素を総合的に勘案する枠組みが示されている。一方、実務上、支払条件は個別取引ごとではなく、継続的な取引の共通条件として設定されることが通常であるため、各取引において受託事業者の該当性を事前に判断することは困難であるケースも存在する。このため、事業者の予見可能性を確保する観点から、典型事例や非該当事例を示すべきである。
他方、委託事業者に比して事業規模が小さい事業者が当該行為を受け入れている場合、例外的な場合を除き、原則として受託事業者に該当するとされている。しかし、事業規模のみをもって受託事業者の該当性を判断することは、実務において形式的な運用が行われるおそれがある。
現行の優越的地位の濫用に関する考え方においても、事業規模の差はあくまで考慮要素の一つにとどまり、「事業規模が著しく大きい場合」に取引依存度の高まり等を通じて優越的地位が認められやすいとされているにすぎず、事業規模の差のみで画一的には判断されていない。また、運用基準案においても、「取引上の地位が当該委託事業者に対して劣っていないと認められる」かどうかの具体的な判断に当たっては、具体的事実を総合的に勘案するとされている。したがって、大企業同士の取引や小規模事業者同士の取引についても、正常な商慣行および取引の実情に即して個別に判断すべきである。
第2 禁止行為について
1 禁止行為の内容 (1)
給付の受領日から起算して60日以内の支払が原則とされているが、連続して提供される役務に係る支払日の起算点については、取適法の運用基準第4の2(4)但書きと同様の取扱いを明記すべきである。
取適法の運用基準においては、役務が継続的に提供される場合に、支払日の起算点について一定の例外的な整理が設けられており、実務に即した柔軟な運用が可能となっている。他方、本告示において当該部分の取扱いが明確でない場合、同様の取引であっても取適法との間で規制内容に差異が生じ、事業者の実務に混乱を招くおそれがある。
したがって、本告示は取適法の適用対象外の取引についても適正化を図る趣旨であることに鑑み、少なくとも取適法の運用基準と同等の柔軟性を確保する観点から、同様の規定を設けることが適当である。
2.「正当な理由がある場合」
「合意」とは当事者の実質的意思が合致していることであって、形式的な合意があれば足りるものではないとし、受託事業者が納得して合意していることを求めている。一方で、「納得」「十分な協議」といった評価要素が、どのような客観的事実によって充足すると判断されるかが明確でない。このため、事業者が事前に適法な運用設計を行うことが困難となり、結果として60日超の支払条件に関する例外規定が実務上機能しないおそれがある。
したがって、実質的合意と評価する際に考慮される客観的要素(例:支払条件が60日を超える合理的理由の説明、協議機会の付与、検討期間の確保、協議記録の保存、合意拒否に対する不利益示唆の不存在等)を、運用基準において例示すべきである。