一般社団法人 日本経済団体連合会
現在、わが国は、大きな岐路に立っている。地政学、人口動態、エネルギーはじめ様々なリスクと制約要因を克服し、イノベーションの創出を通じて、持続的に強靭で成長し続ける経済社会を、将来世代に残すことができるのか。その鍵は、企業・経営者が、自らのマインドセットを転換し、国内の設備投資、研究開発投資、賃金引上げを含む人的投資を積極的に拡大し、潜在成長率の引き上げを牽引していくことにある。
経団連は、国内民間設備投資額を2040年度に250兆円に拡大する目標を掲げ、「投資牽引型経済」への転換を主導し、その確立により「成長と分配の好循環」の実現を目指す。とりわけ研究開発投資は、官民合わせて「対GDP比5%」という世界トップ水準に引き上げ、2040年に年間投資額50兆円を達成すべきである。これに向け、①科学技術立国の実現、②税・財政・社会保障の一体改革、③人的投資の拡充・促進に向けた労働改革、④地域経済社会の活性化、⑤自由で開かれた国際経済秩序の維持・強化と経済安全保障への配慮、⑥エネルギーの安価で安定的な供給確保とグリーン・トランスフォーメーションの推進、⑦コーポレートガバナンス改革に重点的に取り組む。
企業は自社の経営資源の戦略的配分を通じ成長投資を果敢に推進する。政府においてはいかにして国内需要を持続的に創出し、これまで築き上げてきた同志国とのネットワークの活用を通じて経済安全保障も確保しながら、わが国の産業基盤や経済社会の自律性を強化していくかが肝要である。
経団連夏季フォーラム2026では、「投資牽引型経済の実現~将来世代に明るい未来を~」を統一テーマに、活発な議論を行った。4名の講師との対話を通じ、わが国の対外関係・安全保障、産業構造、科学技術等を取り巻く内外の環境変化や課題の本質への理解を深めた。そのうえで、分科会では、「エネルギー分野を含む、絶え間ないイノベーション・産業競争力強化」「骨太方針2026を踏まえた税・財政・社会保障のあり方」「労働改革の観点からの企業の自立的な改革推進」「地域経済社会の活性化」の4つの切り口から、民主導による投資牽引型経済の実現に向けた方策を検討した。
これらの議論を踏まえ、経済界の役割や政府への期待を下記のとおり取りまとめた。
① 絶え間ないイノベーション・産業競争力強化(エネルギー分野を含む)
経済界の役割
- 経済界が投資牽引型経済の実現を主導
- 国内の研究開発拠点・生産拠点・市場を今後のグローバル市場確保に向けた基盤として位置付け、国内の技術・生産基盤を戦略的に維持・回帰
- 産学官連携のもと、スタートアップを含めた絶え間ないイノベーションのエコシステムを構築し、競争力強化・生産性向上を図るとともに、産業基盤を支える技術・技能・ノウハウ等を維持・継承。さらに、フィジカルAI等の日本の勝ち筋を見極め、研究開発から社会実装を加速
- S+3Eの高度化やGX・CEの加速に資するイノベーションの創出。低炭素ソリューションや多様なトランジション技術の活用を含め、環境価値を有する製品・サービスの積極的な供給・調達
政府への期待
- 民間投資を力強く後押しするため、国内需要の創出・投資環境の整備を促進(規制・制度改革、コーポレートガバナンス改革、人材育成、研究開発、スタートアップ振興、公共調達、標準化、税制・金融措置等)
- 経済安全保障の観点から、日本が不可欠性や自律性を確保するため、「官民投資ロードマップ」を踏まえ、研究開発への重点的な投資に向けた施策を断行。加えて、日本単独では限界がある分野については、同志国との役割分担・補完関係の形成を通じて、国際連携を通じたサプライチェーンの強靭化を推進
- ソブリンAI実現への取り組み強化や、デュアルユースに向けた産業基盤(生産・技術)の構築
- 地政学リスクやAIの活用拡大による電力需要の増大も考慮し、GXのもと、環境価値が適切に評価される市場・制度の整備、エネルギー調達先の多角化等によるエネルギー供給強靱化、国際的に遜色ない電気料金水準、クリーンエネルギーの拡大を、時間軸と移行過程を考慮しつつ一体的に推進
- 原子力を含む低・脱炭素電源の推進に向けて、電力システム改革の成果を踏まえつつ、長期投資に必要な予見可能性と安定供給の確保を両立させる制度設計の構築と推進
② 骨太方針2026を踏まえた税・財政・社会保障のあり方
経済界の役割
- 民主導による経済・投資活動の活性化を軸とした「強い経済」の実現
- 経済安全保障の観点も踏まえた成長投資・危機管理投資の実行
- 官民連携の戦略投資における企業と政府の役割分担を踏まえた、企業による積極的な設備投資・研究開発投資・賃金引上げを含めた人的投資の実行と、それをサポートする民間金融の機能発揮
- 人的投資の一環としての健康経営の推進、医療・介護DXや診療データの整備・利活用
政府への期待
- 骨太方針2026で示された「責任ある積極財政」の具体化と、真に効果性のあるワイズスペンディングや資源配分の全体最適化に資する制度整備(独立財政機関等)、それらを通じた財政の持続可能性と市場の信認の確保
- 企業の投資活動の活性化や潜在成長力の向上に寄与する規制緩和など構造改革的施策の推進
- 応能負担の原則の徹底、現役世代(特に若年層/子育て世帯)重視を基軸とする税・社会保障一体での給付と負担の抜本的な見直し・世代間公平性の確保に向けた基盤整備(ガバメント・データ・ハブ、マイナンバーの徹底活用)、効率的かつ将来にわたって持続可能な医療・介護提供体制の確立
- 防災・減災投資を含む将来危機への備え(巨大地震・地政学的リスク)の重要性と、社会の構成員による自分事化に向けた国民意識の醸成
③ 人的投資の拡充・促進に向けた労働改革
経済界の役割
- DX(AI・リモート・ロボット(AI+))の活用など、人間とAIの相互作用を前提とした双方向型のAI活用モデルの実装とそれを通じた役割分担・働く意味の再定義
- 各産業が置かれている状況を踏まえながら、付加価値の最大化と労働投入の効率化などを実現するための、仕事・業務プロセスの再定義を起点とした自立的な「労働改革(働き方改革)」の推進
- 旧来の雇用慣行にとらわれず、わが国全体の生産性向上に資する社内外の労働移動の積極的な推進に必要な企業における環境整備の主体的な断行(採用方法の多様化、ジョブ型雇用の導入・活用、職務やスキルに応じた人材の最適配置の推進 など)
- DXの活用・進展等によって生じる「労働の量的・質的変化」と「労働者のスキル・職務と処遇」におけるミスマッチ解消に向けた「人的投資(人への投資)」の拡大(多様な方法による賃金引上げ、総合的な処遇改善)
- 労働市場と教育の円滑な接続に資する教育機関との積極的な連携
- 人口減少が進む中で持続的な労働力を確保するため、DX活用による柔軟な働き方の拡充など、すべての働き手が能力を発揮できる環境整備
政府への期待
- 政府の掲げる「戦略産業クラスター計画」実現に向け、STEAM人材をはじめとする成長産業とサプライチェーンを支える人材を育成するためのリ・スキリング
- 労働市場の柔軟性を高める観点から、人材移動を後押しする環境整備に向け、わが国全体の生産性向上に資する円滑な労働移動の促進に重要な「労働移動推進型」雇用のセーフティーネットへの移行とマッチング機能の強化・高度化
- 働き方改革の効果はあったが、上限規制の画一的適用は支障が強く、撤廃の意見もある。こうした中、政府の成長戦略や投資牽引型経済の実現に向けて、労働供給制約の克服のため、働き方の選択肢を増やすべく、濫用防止策と併せた裁量労働制の拡充、業態を踏まえた、自律的かつ柔軟に働ける新しい労働時間法制の創設が必要
④ 地域経済社会の活性化
経済界の役割
- 地域を成長投資と価値創造の場と位置づけ、核となる戦略産業のみならず関連産業(農業・観光・コンテンツ等含む)やR&D、人材、インフラへの投資・集積を主導。地場産業との水平・垂直双方での連携、サプライチェーンの最適化、エネルギーの地産地消、労働力や生活機能を補完するDXの社会実装等を進め、人や企業が地域に根付く不可逆的な地域エコシステムを形成
- 国・地方自治体と一体となり、都道府県域を超えた広域ビジョンを策定・実行。持続可能な経済圏の確立に向け、新たな道州圏域構想も踏まえた柔軟かつ機動的な広域連携の推進
政府への期待
- 地域経済社会の活性化を成長戦略ととらえ、地域ごとの特性を生かし、17の戦略分野と連動した戦略産業クラスターの形成をはじめとする「地域未来戦略」の着実な実行、国全体としての最適な機能分担の実現。「均衡ある発展」から、交通・情報通信等のネットワーク化を前提とする「成長戦略拠点への集中投資」への転換に向けた国土に関する計画の見直し(国内需要創出)
- 戦略的な公共投資を通じたコンパクトシティ等の生活空間の集約化・効率化、およびデジタル・フィジカルAI・ロボット基盤の社会実装によるまちづくりとウェルビーイングの実現、危機管理投資を通じた災害対応力を含むレジリエンスの強化
- 多様な広域連携の推進や国・都道府県・市町村の有機的連携、各種計画・施策の省庁横断的・一体的な実行、民間投資の誘発およびサプライチェーンの最適化に資する産業用地の確保と機動的なインフラ整備、規制・制度改革の推進
経済界は、フロントランナーとして、絶え間ないイノベーションの創出に資する成長投資を積極的に推進するとともに、国際的な競争力・レジリエンス強化との両立を図り、国内回帰を含め国内のサプライチェーンの強化に努める。
政府には、国土に関する計画の抜本的見直し等を通じた国内需要創出への主導的役割とともに、規制改革、標準化を含めた科学技術・産業政策を一体的に推進できる体制を整備するため、省庁再編等を期待する。
加えて、技術の発展に起因する課題への対応や、技術の受容・社会実装・国際的な共感と信頼の醸成を図る上でソフトパワー(思想・哲学、デザイン、文化、コンテンツ等)が重要であり、わが国の強みでもある。こうしたソフトパワーの更なる充実・ナラティブとしての発信を官民連携で積極的に推進する。
経団連は、将来世代への責任を果たすべく、本総括に挙げた事項を中心に、投資牽引型経済の実現に精力的に取り組む所存である。