2026年7月30日、アジアの11の経済団体がシンガポールに集い、「アジアの次なる成長の章:デジタル、グリーン、そしてつながる未来」をテーマに、第15回アジア・ビジネス・サミットを開催した。
保護主義的・一国主義的な傾向の継続、中東情勢の不安定化などを背景に、国際情勢の不確実性が一層高まっている。アジアが成長の基盤としてきた、ルールに基づく自由で開かれた国際経済秩序ならびに広域かつ高度に統合されたサプライチェーンは大きな危機に直面している。
同時に、アジア共通の課題である気候変動に加え、AIの急速な進化・普及により、経済社会に非連続的かつ予測困難な変化と新たなリスクが生じており、これらへの対応も不可欠である。
本日の会合では、こうした認識を共有し、アジアの持続的な繁栄に向けて、第一に、アジアにおけるサプライチェーンの強靭化・安定化、第二に、ルールに基づく自由で開かれた国際経済秩序の維持・強化、第三に、デジタル・AIイノベーションによる競争力の強化、第四に、カーボンニュートラルの実現に向けた取り組みの推進において協力を深化していくことで一致した。
なお、これらの協力を進めていく上で、地域の競争力を牽引する人材をアジアから継続的に輩出していくことが不可欠であり、アジアの経済界が連携し、域内の人材交流および人材育成の促進を一層図っていくことが重要である。
1.アジアにおけるサプライチェーンの強靭化・安定化
本年2月以降の中東情勢の変化は、原油をはじめとするエネルギーや資源について、世界的な供給不安および価格高騰をもたらした。特に、エネルギー供給の大宗を中東湾岸諸国からの輸入に依存するアジア各国・地域においては、その影響が顕著に表れ、サプライチェーンの脆弱性が浮き彫りとなった。
また、アジア各国・地域の産業はサプライチェーンを通じて相互に深く結び付いているため、域内のいずれかの国・地域でエネルギー供給に支障が生じた場合、その影響はサプライチェーンを通じて域内全体に波及する。さらに、アジアは世界のサプライチェーンの中核を担っており、その停滞や混乱は世界経済に大きな影響を及ぼし得る。
このような状況を踏まえ、アジアにおけるサプライチェーンの強靭化・安定化に向けて、「アジア・エネルギー・資源供給力強靭化パートナーシップ(パワー・アジア)」、「アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)」、その他多国間のエネルギー・気候メカニズム等複数の協力枠組みを通じて、原油備蓄システムの構築など、エネルギーの安定供給体制の強化を図る必要がある。加えて、LNGの活用や再生可能エネルギーの導入拡大によるエネルギー源の多様化および省エネルギー技術の普及を進めることにより、域内経済の持続的な発展につなげていくことが重要である。
また、中小企業はアジア経済の基盤を成す存在であり、エネルギー価格の変動やサプライチェーンの寸断による影響を最も受けやすいことから、中小企業が地域サプライチェーンの強靭化に向けた取り組みに十分に参画し、その成果を享受できるようにすることが重要である。
2.ルールに基づく自由で開かれた国際経済秩序の維持・強化
アジアは、各種の経済連携協定(EPA)、自由貿易協定(FTA)、地域的な包括的経済連携(RCEP)協定等を通じた経済統合の深化により、グローバルサプライチェーンを構築し、経済発展を遂げてきた。アジアが持続的な成長を実現していくためには、これらの通商枠組を更に発展・拡大し、地域の経済基盤を強化していくことが求められる。さらに、こうした取り組みは、開かれたダイナミックで強靭、平和なアジアのコミュニティの構築にも資するものである。
「地域的な包括的経済連携(RCEP)協定」は、GDP、貿易総額、人口が世界全体の約3割を占める大型FTAであり、サプライチェーンの強靭化の観点からも重要である。2027年に予定されている「一般的な見直し」に向けて、関税削減における対象拡大とスケジュールの前倒しや、貿易歪曲措置の防止に取り組むべきである。
「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)」については、高水準のルールの履行、既存のルールを十分に遵守している実績、参加国の合意の「CPTPP加入3原則」を前提として、加入エコノミーの拡大を推進する必要がある。同時にルールの一層の拡充、ASEANおよびEU双方との連携に取り組むことが必要である。
また、WTOを中核とする多国間貿易枠組は、ルールに基づく自由で開かれた国際経済秩序を維持・強化する上で引き続き重要であり、アジアの経済界としてWTO体制の改革推進を強く求める。具体的には、紛争解決機能の回復に加え、公平な競争条件の確保、また、電子商取引協定や開発のための投資円滑化協定を早期にWTO協定に組み込むことが求められる。
3.デジタル・AIイノベーションによる競争力の強化
アジアの生産性の向上、新たな価値創造、産業競争力の強化において、デジタル・AIの活用が不可欠である。近年、生成AIやAIエージェント、フィジカルAIといったAI技術が飛躍的に発展し、科学の世界でもAIの利活用(AI for Science)が急速に進んでいる。他方、サイバー攻撃の高度化など、新たな脅威も拡大しており、関連する国際枠組の下、アジア各国・地域が連携して、安全安心で信頼できるAIエコシステムを構築していくことが重要である。その際、「人間中心のAIの原則」に立ち、過度な制約を課すことは避けつつ、AIガバナンスの向上に取り組むことが求められる。
また、AIの発展の基盤となるのは、膨大なデータの蓄積・分析であり、そのためには国境を越えたデータの流通が不可欠である。このため、越境データ流通の円滑化、デジタル取引に対する企業・消費者の信頼の強化、データ保護およびプライバシーの確保に向けた協力を継続することが重要である。併せて、国際的に相互運用可能なルールの整備に向けた取り組みを強化するとともに、電子的送信に対する関税不賦課モラトリアムを恒久化する必要がある。
4.カーボンニュートラルの実現に向けた取り組みの推進
カーボンニュートラルの達成に向けて、世界の温室効果ガス排出量の約半分を占めるアジアの役割が極めて重要である。一方で、人口増加やデジタル技術・AIの進化に伴い、電力需要の大幅な増加が見込まれる中、エネルギーを経済的かつ安定的に確保する必要性が一段と高まっている。このため、アジアにおいては、脱炭素化・経済成長・エネルギー安全保障を同時に実現していくことが不可欠である。
こうした課題に対処するためには、アジア各国・地域の実情に即した、現実的かつ多様な道筋によるトランジションの推進が重要である。AZEC等の枠組みを活用して、アジアにおける政策協調を推進するとともに、LNG、水素・アンモニア、バイオ燃料の活用や、再生可能エネルギーの導入拡大等に係る各国・地域の個別プロジェクトについて、その形成および実行を一層加速していくことが求められる。
加えて、アジアにおけるサーキュラーエコノミーの実現に向けた取り組みを推進することも重要である。廃棄物の適正処理やリサイクル促進に向けた制度整備を進め、脱炭素化・資源有効利用等の環境問題の克服と資源の安定供給・サプライチェーンの強靱化の両立を図るべきである。