■ 日本経済を取り巻く状況
まず日本経済について、今年1-3月期の実質GDP成長率は年率換算2.2%と5四半期連続のプラス成長となりました。日本経済は緩やかながら着実な回復基調を辿っております。今後は、この景気回復の足取りをより加速させ確かなものとする。そのため、政・官・民が、あらゆる政策やあらゆる手立てを総動員しなければならないと考えております。これが大事なことであります。
そのなかで、世界の政治経済情勢はまさに激動の時期、非常に不透明で不確実性の高い時代に入りつつあると認識しております。欧米における保護主義や反グローバリズムの台頭は、大きな懸念材料です。この流れを断ち切り、自由で開かれた国際経済秩序を維持・発展させていくことは、日本の使命であります。
こうしたなか、経団連はこの1年間、さまざまな課題解決に積極的に取り組んできました。後ほど「2016年度事業報告」の中で説明いたしますが、経団連が一昨年策定した長期ビジョン「『豊かで活力ある日本』の再生」を行動指針として、Policy & Actionを果敢に進め、着実な成果を上げることができたと考えております。
■ 今年度の優先課題
本日から、私の会長としての4年目、最終年のスタートとなります。国内・海外の重要政策課題への取り組みの総仕上げの年とすべく、先頭に立って改革を進めていく決意です。
第1に、国内では、デフレ脱却と経済再生を確実に実現し、GDP600兆円経済に向けての確固たる道筋をつける。これが、最も重要な課題であります。そのためには、成長戦略の柱である、「官民戦略プロジェクト10」のすべてのプロジェクトの確実かつ早期の具体化が不可欠です。
その1番目のプロジェクト、Society 5.0を強力に進めてまいります。また、2番目のプロジェクト、健康立国について、経営トップが率先して健康経営を推進するよう産業界に向けて呼びかけてまいります。4番目はスポーツの成長産業化であり、観光等の他産業との融合などに取り組んでまいります。8番目の農業については、経済界と農業界との連携強化により農業の成長産業化を後押しします。さらに、10番目のプロジェクト、消費喚起の一環としてのプレミアムフライデーを継続して実施し、地方への浸透を図りながら、国民的行事として定着させたいと考えております。以上が、官民プロジェクトへの取り組みの概要です。
同時に、国内の構造改革を進めることも必須課題でございます。安倍政権には、政権基盤が安定している今だからこそ、社会保障制度改革や財政健全化など、痛みを伴う改革にも真正面から取り組んでいただき、国民の将来不安の払拭を図っていただきたいと思います。
第2に、海外では、自由で開かれた国際経済秩序の維持・発展に貢献する。そのため、経済界としても経済外交を積極的に展開してまいります。
アメリカについては、トランプ政権や議会、州政府との関係構築を進め、日本企業がアメリカ経済に多大な貢献をしていることをしっかりと発信してまいります。この点については、先月、ペンス副大統領と会談した際にも私から強調しました。今年秋には、3年連続、しかも今年3回目となる訪米経済ミッションを、私自身も参加して派遣したいと考えております。アメリカとの経済協力関係を一層強靭なものにしたいと考えております。
欧州については、イギリスのEU単一市場からの離脱により、企業活動に大きな支障が生じることのないよう、イギリス・EU双方に適切な対応を求めてまいります。また、日EU EPAを早期に実現していくために働きかけます。
アジアについては、緊密で互恵的な関係をさらに強化してまいります。特に中国については、本年は日中国交正常化45周年、来年は日中平和友好条約締結40周年という記念すべき節目となります。今月、習近平国家主席と会談した際、習主席も「未来志向で両国関係を発展させたい」と話しておられました。経団連では、来月、周年交流事業の第一弾として、北京で「日中グリーンエキスポ」を6年振りに開催いたします。中国における環境問題の解決に向けた相互協力の機会にしたいと考えております。
第3に、国家的イベントの成功に向けて、オールジャパンの一翼を担ってまいります。3年後に迫った東京オリンピック・パラリンピックについては、「オリンピック・パラリンピック等経済界協議会」の活動などを通じて、大会の成功に向けた機運の醸成、レガシーの形成を積極的に進めてまいります。さらに、2025年の大阪・関西での万国博覧会の開催に向けて、誘致活動に全力で取り組みます。私は誘致委員会の会長を務めております。大阪・関西万博では、Society 5.0を通じてグローバルな課題を解決した未来社会、国連が掲げる「持続可能な開発目標(SDGs)」を達成した社会の姿を世界の人々に発信していくとの趣旨で、誘致を進めたいと考えております。
こうした取り組みを確実に進めるためには、政治との連携強化が不可欠であります。政治と経済が車の両輪として、それぞれの役割を果たしながら、共に前進してまいりたいと思います。
ご来賓の皆さま方、ならびに、会員の皆さま方におかれましては、経団連の活動に対して、一層のご支援・ご協力をいただきますようお願い申し上げます。