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会長コメント/スピーチ 会長スピーチ 経団連定時総会における十倉会長挨拶 サステイナブルな資本主義を実践する

2022年6月1日

定時総会の開催にあたり、私から一言ごあいさつを申し上げます。

昨年6月1日に経団連会長に就任いたしました。今日でちょうど1年になります。

この間、新型コロナウイルス感染対策と経済活動の両立を最優先に取り組んでまいりましたが、いまや世界はロシアによるウクライナ侵略という新たな脅威に直面しております。

力による一方的な現状変更、ならびに一般市民を巻き添えにする非人道的な行為は、断じて許されるものではありません。

現下の危機に対し、わが国として、自由・民主主義・法の支配といった基本的な価値観を共有するG7加盟国との結束を一層強化する必要があります。さらに、関係各国とも緊密に連携することで、世界の分断を回避していかなくてはなりません。

われわれ企業がグローバルな経済活動を行えるのも、国際社会の平和と安定のもと、自由で開かれた国際経済秩序があってこそであります。経済、外交、安全保障を一体的にとらえた取り組みを進めていくことが肝要です。

先月、岸田文雄内閣総理大臣は、バイデン大統領との首脳会談において、地域の平和および安定を維持するための抑止力の強化に向けて、協力することで一致されました。また、QUAD首脳会合では、実践的な協力を積み重ね、自由で開かれたインド太平洋の実現に貢献していく重要性を確認されました。大変心強く、引き続き、岸田首相の力強いリーダーシップを期待しております。

新型コロナ対策として、経団連は、これまでに5本の提言を取りまとめました。政府の皆さまのご協力を得て、ワクチン接種の加速や、ワクチン・検査パッケージの導入、国際的な人の往来の再開等、多くの要望を実現することができました。

今後も感染の波が繰り返すことを前提に、出口戦略を策定・実行する必要があります。わが国の水際対策が長引けば、多くの海外の日本のファンを失うことになりますし、何より、わが国の未来を担う若い方々に、将来へのマイナスの影響を及ぼすことを非常に危惧しております。

世界規模の流行である「パンデミック」から、インフルエンザのように、特定の地域内で起きる周期的な感染である「エンデミック」への移行に向けて、かじを切るべきと考えます。経団連は引き続き、科学的、論理的、客観的な観点から、これからもタイムリーに意見を発信してまいります。

同時に、ポストコロナにおける、持続可能で活力ある経済社会の実現を進めていかなければなりません。そのカギとなるコンセプトが、岸田首相が提唱されている「新しい資本主義」であり、経団連の目指す「サステイナブルな資本主義」であります。

あらためて申し上げるまでもなく、資本主義は優れた制度であり、自由で活発な競争、効率的な資源配分、イノベーションの創出など、わが国の経済活動の大前提です。

しかし、近年、行き過ぎた株主資本主義や市場原理主義により、地球環境や生態系の崩壊、格差の拡大・再生産など、さまざまな社会課題がもたらされております。そこで、資本主義をアップデートし、「サステイナブルな資本主義」を実践することで、社会課題の解決につなげ、成長と分配の好循環、地球環境の保全、公正で公平な社会の実現を図っていきたいと考えます。

サステイナブルな資本主義の実践に向けて、私は経団連会長就任直後より、2050年カーボンニュートラルに向けた経済社会の変革であるグリーントランスフォーメーション(GX)の課題や道筋について議論を重ねてまいりました。

その成果として、先般、提言「グリーントランスフォーメーション(GX)に向けて」を取りまとめました。提言では、政府に対し、官民の投資を最大限引き出し、産業競争力を維持・強化する観点から、国家のグランドデザインとなる「GX政策パッケージ」の策定と実行を求めています。

このパッケージの実行により、2050年のわが国はカーボンニュートラルを達成し、実質GDPは1000兆円を超えると試算しております。

GXは成長戦略の柱であるとともに、わが国の経済社会に大規模な変革を求めるものです。今こそ、国全体でグランドデザインを共有し、GXに向けてあらゆる主体が協働していく必要があります。決してたやすいことではありませんが、経団連として、GXに向けて果敢に挑戦してまいります。

並行して、デジタルトランスフォーメーション(DX)にも、引き続き、取り組んでまいります。

経団連は、Society 5.0 for SDGsの実現を目指して、DXを推進し、多様な個人のウェルビーイングと、社会全体の最適化を両立させ、誰一人取り残さないオールインクルーシブな社会の実現に取り組みます。

日本の経済社会全体の仕組みをデジタルベースに転換するには、この数年間の取り組みが、最大にして最後のチャンスと考えており、デジタル臨調と今後も協働していく所存です。

スタートアップ振興にも力を入れてまいります。日本経済を浮揚させ、競争力を取り戻すためには、スタートアップエコシステムを抜本的に強化する必要があります。そこで、経団連は、提言「スタートアップ躍進ビジョン」を取りまとめました。5年後の2027年までに、スタートアップの裾野、起業の数を10倍にするとともに、最も成功するスタートアップのレベルも10倍に高めるという野心的な目標を掲げました。確実な達成に向けて、実現状況をしっかりモニタリングしてまいります。

さらに、ソフトパワー、バイオ、モビリティといった、今後の日本経済の成長をリードすることが期待される産業の国際競争力を一層強化するために、このたび、「クリエイティブエコノミー委員会」「バイオエコノミー委員会」「モビリティ委員会」を立ち上げることといたしました。

新しい分野への挑戦と並行して、これまでの来し方にも目を向けます。2002年5月に経団連、日経連が統合いたしました。

経済産業分野から社会労働分野まで、企業活動にかかわる広範な問題に取り組む総合経済団体としてスタートを切ってから、今年で20年になります。あらためて統合の原点に立ち返り、「人への投資」や「働き手との価値協創」という視点を大切に、「成長と分配の好循環」を実現してまいります。

このほかにも、「科学技術立国の実現と産業競争力の強化」「地方の経済・社会の活性化」「財政健全化と全世代型社会保障・税制の改革」など、重要政策課題があります。政府の検討に経団連の意見が反映されるよう取り組みを進めてまいります。

最後になりますが、昨年の経団連総会における就任あいさつにおいて、私は、三つのキーワードを申し上げました。

一つは「from the social point of view=社会性の視座」、一つは「国際協調」、一つは「デジタルとグリーン」であります。ロシアのウクライナ侵略に代表されるように内外の情勢が激変するなかにあって、この三つのキーワードの重要性は、いささかも変わることなく、むしろ、高まっているとすら感じております。

わが国経済社会の持続的な発展、サステイナブルな資本主義の実践に向けて、皆さまのご理解とご協力をお願い申し上げます。

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