帝国ホテル東京 2階「孔雀西の間」
はじめに
経団連会長の筒井でございます。
長い歴史を有する、読売経済懇話会において、お話しさせていただく機会をいただき、大変光栄に存じます。本日は、「『投資牽引型経済』の確立-経団連の成長戦略-」と題し、経団連の目指す方向性をお話ししたいと思います。
就任してから1年間の印象は2つあります。1つめは、驚くほど世の中の事態の変転のスピードが早く、スケールが大きいということです。2つめは、その中で経済界の提言、発信等への期待が想像以上に大きいということです。
まず、内外情勢について、簡単に申し上げます。
米国のトランプ大統領は、昨年4月に自国第一主義を色濃く反映した関税措置を打ち出し、自由貿易体制の根幹が大きく揺らいでいます。また、ロシアによるウクライナ侵攻、米中の緊張関係、さらには、中東情勢については、戦闘終結に向けた動きはあるものの、ホルムズ海峡の封鎖が実際に解除されるかどうかは注視が必要な状況であり、世界の地政学リスクはかつてなく高まっております。
国内情勢は、昨年10月に自民党と日本維新の会の連立により、高市政権が発足してから約8ヵ月が経過しました。高市総理が強力なリーダーシップを発揮し、官民連携を旗印に掲げ、危機管理投資・成長投資を通じて、「強い経済」を目指されています。この方針は、経団連の掲げる「投資牽引型経済」と軌を一にするものであり、心強く感じています。
一方で、国内は、少子高齢化・人口減少、激甚化・頻発化する自然災害をはじめとした複合的な危機に直面しています。さらには、これらの危機を乗り越え、力強い成長の基盤を構築するために、複合的な政策パッケージが必要ではありますが、経済界としては、何よりも、企業による国内投資の積極果敢な実行が不可欠と考えています。
以降、経団連が、「投資牽引型経済」というコンセプトを打ち出した背景をご説明します。
1.経団連はなぜ「投資牽引型経済」の確立を目指すのか
日本経済は、デフレと経済成長の停滞が続く「失われた30年」を経験しました。さまざまな時代背景、環境要因があったにせよ、その根源には、企業経営者のマインドセットの過度な萎縮があったということを省みなければならないと思います。バブル期に積み上がった、「債務」「設備」「雇用」の「3つの過剰」の解消が、当時の企業経営者の最優先事項となり、新たな国内投資や賃金引上げに対して必ずしも前向きではない、いわば「防衛的な」経営方針が、バブル経済崩壊以降、企業経営者のマインドにしみついてしまったと言えます。この間、企業は、国内よりもグローバルに利益を獲得できる対外投資を拡大しました。これは投資家サイドから見ると合理的な企業行動であったことは間違いありません。また、事業の存続と従業員の雇用の維持・安定、つまり日本型雇用慣行を守ることを最優先にする一方、ベースアップを核にした賃金引上げを過度に抑制する動きもみられ、結果として、日本経済全体でみれば、企業部門は、貯蓄が投資を上回る、貯蓄超過の状態が続きました。企業は内部留保をためすぎているという批判が聞かれますが、これは貯蓄超過の状態が背景にあります。投資による資本ストックの蓄積やイノベーションの創出、さらには供給力の強化が国内で進まないことを意味しており、日本経済の将来を左右する重大な問題を提起していると思います。
一方で、足もとではデフレからの完全脱却に向けた兆しがみられます。2022年、ロシアによるウクライナ侵攻による輸入物価の上昇は、国内物価に波及し、長らく経験してこなかったインフレ局面に突入しました。こうした中、経団連は、物価高への対応に加え、既に顕在化しつつあった人手不足に対して、人材の確保・定着の観点から、わが国全体の賃金引上げの気運醸成に向け、全力で取り組んでまいりました。結果として、スライド3頁で大手企業の月例賃金の引上げ額とアップ率をお示ししている通り、2023年を「起点」とする賃金引上げの力強いモメンタムは、2024年に「加速」し、2025年に「定着」が実感しそうな状況になりました。そして、2026年については、そのモメンタムの「さらなる定着」を掲げてきました。第1回集計ではありますが、金額で+1万9,964円、アップ率で+5.46%を記録し、何より、3年連続で1万円台後半の引上げ額と5%台のアップ率となりました。この点について、確かな手応えを感じております。
次に、民間企業による国内設備投資について、経団連は、スライド4頁に記載の通り、2030年度に135兆円、2040年度に200兆円という名目値の目標を掲げています。足もとにかけて企業収益は底堅く推移しており、5年度連続で増加しています。このように賃金引上げと設備投資が積極的に行われてきた中で、2025年度の実質GDPは591兆円と、過去最高を記録しました。
今重要なのは、デフレからの完全脱却を果たしつつある、この千載一遇の機会を逃すことなく、日本経済を本格的な成長軌道に乗せることです。日本の潜在成長率は、足もとで0.68%前後にとどまり、スライド5頁の赤い線で示している通り、先進国の中でも劣位で推移しています。これを1%台に着実に引き上げていくことが必要です。
そのためのカギを握るのは、「イノベーション」であり、その創出につながる「投資」に他なりません。経団連は、企業のマインドセットを大胆に転換し、国内での設備投資、研究開発投資、さらには賃金引上げを含む人的投資の積極的な実行を呼びかけてまいります。その上で、これらの「三位一体の国内成長投資」により潜在成長率を引き上げ、中長期的な成長基盤を確立した姿を、「投資牽引型経済」と位置付けています。官民連携を一層強化しつつ、民が自律性・主体性をもってその確立に取り組んでいきます。そして、「成長と分配の好循環」の実現、拡大を目指してまいる覚悟です。
折しも、高市政権は、日本成長戦略会議を立ち上げ、AI・半導体をはじめとする17の戦略分野と8つの分野横断的課題の検討を力強く推進しています。私も、経済財政諮問会議、日本成長戦略会議のメンバーに名を連ねており、経済界の意見を積極的に発信してまいります。
以降、「投資牽引型経済」の実現に向けて、経団連が今後特に注力する7つの主要政策分野についてご紹介したいと思います。なお、これらの課題は「入れ子構造」になっており、相互に複雑に絡み合っているため、ひとつの課題を解決することが他の課題の解決にもつながっていくものであり、それぞれの課題は独立ではないと考えております。
2.「投資牽引型経済」確立のための主要施策
(1)「科学技術立国」の実現
第1は、「科学技術立国」の実現です。
世界では、先端技術の開発競争が激化しております。官が巨額の予算を投じる形で進んでおり、国力の強化に向けて、科学技術の重要性がこれまでになく高まっています。そこで、会長就任と同時に「科学技術立国戦略特別委員会」を新設して、議論を重ねてきました。スライド9頁でお示ししている通り、現在、わが国の基礎研究力は国際的にみて低迷しております。こうした中で、日本が将来にわたって、豊かで競争力ある国であるためには、研究開発投資を起点に「成長と分配の好循環」を回していくことが不可欠です。また、科学技術の力で価値を提供し、必要とされる国であるという国際社会での地位を確保することが重要となります。科学技術立国の実現に向けては、教育、科学研究、社会実装、さらには産業競争力強化、そしてその先の社会課題の解決までを一気通貫で捉えた中長期的な国家戦略を描き、実践することが重要です。
こうした認識の下、5月に提言「科学技術立国戦略」を公表し、日本の目指すべき科学技術立国の姿とそこに至る道筋を示しました。その全体像を示したのがスライド10頁の図です。ポイントを4点に絞ってご説明します。
第1に、研究開発投資の目標額です。官民合わせて2040年に年間で50兆円を目指します。この時に、民間設備投資は200兆円を目指します。また、年間50兆円の研究開発投資は対GDP比5%という水準になります。これは世界トップ水準になります。
第2に、基礎研究から社会実装まで一気通貫で切れ目なく政策を推進できる政府の体制構築が不可欠であり、「科学技術省」の設置を提言しております。
第3に、産学「連携」では不十分であり、「産学融合」に発展させることを提言しています。研究開発と社会実装の間に横たわる「死の谷」を超えるため、産学官の人材流動化を加速度的に促進する必要があると考えております。
第4に、思想・哲学の基盤強化です。生成AIの時代にあって、AI中心、あるいは人間中心という一方向的な認識から、人間とAIはじめ技術が相互に作用する「双方向的」な人間観・技術観への転換を図る必要があります。
提言公表後には、本提言を高市総理に直接お持ちしました。高市総理からは、研究機器などの基盤強化を通じた研究費の実質的倍増を図るといった力強いお言葉をいただきました。また、提言内容の実現に向けて、より一層官民連携を強化していくことを確認したところです。
先端技術の国際競争が激化する中、日本の強みは、長年培われてきた「信頼」と「品質」にあります。また、製造業をはじめとする企業の現場で蓄積されたリアルデータや、運用・改善のノウハウといった現場に根付いた知見、いわゆる「現場知」、「暗黙知」が、わが国産業競争力の誇るべき源泉です。そのような意味において、国際的に高く評価されてきた産業用ロボットをはじめとするロボット技術と、AIが融合した「ロボット(AI+)」は、日本の優位性を発揮できる、あるいは自律性と不可欠性を確保できる分野の1つと考えています。
今後は、AIが経済社会にもたらす構造的変化を見据えることも極めて重要です。そこで、今年度中に、日本として取り組むべきAI戦略における制度改革・政策対応の方向性を提言として取りまとめ、発信することを目指しております。
(2)税・財政・社会保障の一体改革の推進
第2は、税・財政・社会保障の一体改革の推進です。
スライド14頁の左側のグラフは、国民負担率の推移を示しています。オレンジ色の棒グラフは社会保険料の負担率です。医療費や年金給付といった社会保障給付費が増加する中、負担率が年々高まってきていることが分かります。右側のグラフは、年齢階層別人口の将来推計です。グレーの折れ線は高齢化率です。少子高齢化・人口減少が今後加速することに伴い、左のグラフでみた現役世代の社会保険料負担が、さらに増加することが懸念されます。
こうした現役世代への負担の偏りを解消するには、社会保障制度だけでなく、税、財政も含めた、一体改革に取り組んでいく必要があります。そこで、本年4月に、「税・財政・社会保障の一体改革に関する基本的な考え方」を公表しました。
一体改革においては、政府だけでなく、企業の役割も大変重要になってきます。スライド15頁では、内閣府の中長期試算をもとにした今後のシナリオとして、「成長移行ケース」と「過去投影ケース」、すなわち成長せずに横ばいが続いたケースを示しております。左側の資金過不足の推移をみると、企業はいまだ貯蓄超過傾向が続いています。したがって、企業がマインドセットを転換し、積極的に「三位一体の国内成長投資」を拡大することで、投資超過へと転換、つまり、「投資牽引型経済」の確立によって、「成長移行ケース」を実現することが不可欠です。
経済成長は、税収等の増加を通じ、債務残高対GDP比をさらに低下させ、財政健全化や社会保障の持続可能性を高めることにつながります。この債務残高対GDP比は、高市首相の掲げる「責任ある積極財政」において、プライマリー・バランスに代わる、財政運営の中核目標に位置付けられています。経団連としては、債務残高対GDP比の安定的な引下げは最重要ではありますが、加えて、複眼的な視点で財政状況をモニタリングする観点から、プライマリー・バランスについても、3年程度といった複数年度の平均値が均衡することを念頭に、毎年確認していくことの必要性を提言しています。これは、財政運営にあたって、市場の信認を確保することが国益の観点で不可欠という考えに立っているからです。
経団連は、かねてより、税・財政・社会保障の一体改革の検討に着手するべきと主張し、「国民会議」の設置を求めてまいりました。そして、2月に高市政権の下で、超党派の「社会保障国民会議」が発足しました。
この会議の最大のミッションは、消費税減税や給付付き税額控除といった各論にとどまることなく、高齢者人口がピークを迎える2040年以降においても、公正・公平で持続可能な中福祉・中負担程度の制度を構築することにあります。そのために、中長期の給付と負担の見通し、それも所得や年代、世帯構成ごとのミクロレベルでの見通しや改革の効果などを分かりやすく見える化し、中福祉・中負担程度の制度を構築するとのビジョンを広く国民で共有することが重要と考えます。また、公平・公正な制度を実現するためには、個々人の負担能力の正確かつ迅速、効率的な把握が重要です。こうした観点から、マイナンバーの徹底活用等も働きかけていきます。あわせて、医療・介護の担い手不足という問題が差し迫っていることから、効率的で効果的な医療・介護の提供体制等の問題についても、「社会保障国民会議」で早期に検討すべきと考えています。
経団連も「社会保障国民会議」の有識者会議に委員として参画しています。この会議の議論が真に将来世代を見据えた有意義なものになるよう、積極的にコミットしていく所存です。
(3)労働改革
第3は、労働改革です。
国際的に見て、わが国の実質賃金は伸びず、横ばいで推移してきました。また、冒頭に申し上げた潜在成長率に関して言えば、その低迷の最大の要因は、労働投入がマイナスに寄与していることであります。人口減少に加え、総労働時間の減少が影響しています。
他方で、これまで約30年間にわたって経験してこなかった急激な物価上昇の中で、GDPの5割強を占めている個人消費の喚起が極めて重要な課題となります。そのためにも、賃金引上げが必要不可欠であることは論をまちません。
スライド19頁は、春季労使交渉における経営側の基本方針として経団連が毎年公表している「経営労働政策特別委員会報告」の本年版の概要図です。紫色のボックスの通り、経団連自らが「賃金引上げの力強いモメンタムの『さらなる定着』」の実現を掲げて取り組んでいます。ここ数年、経団連は、ベースアップを含めた賃金引上げの前向きな検討を企業に呼びかけ続けてきました。今では「ベースアップ実施の検討」が賃金交渉のスタンダードと位置付けられるほど浸透してきました。長いデフレの時代には、私の出身の日本生命でも同様ですが、「ベア」という言葉を知らない若者が増えてきました。今年も大手企業を中心に、大幅なベースアップや労働組合の要求通りの満額回答が多く提示されています。実は、労働組合の要求を上回る会社回答もありました。
今後も賃金引上げの力強いモメンタムを強化し、持続可能なものとするためには、働き手の約7割を雇用する中小企業がその原資を安定的に確保することが不可欠です。そのためには、適正な価格転嫁をサプライチェーン全体に波及させること、そしてそのための政府・地方自治体による支援が重要です。現在、中小企業の価格転嫁率は53%程度であり、一定程度進展してきたものの、道半ばです。特に、発注企業から見て取引段階が深くなるほど、すなわち最終商品に近くなるほど、価格転嫁率は低下傾向にあります。中小企業の多くは消費者と直接取引を行っており、したがって、企業間取引における適正な価格転嫁は当然重要であるものの、最終消費者である国民、すなわち社会全体で適正な販売価格アップを受け入れてもらうことも極めて重要です。それが結果として、賃金引上げ原資の安定的な確保につながり、働き手でもある消費者にさらに還元される、この循環がまさに「賃金と物価の好循環」であります。古くから日本には、「風が吹けば桶屋が儲かる」ということわざがありますが、これは経済の好循環を象徴した、ある種の日本人の知恵でもあります。かくいう私も、そして皆様も、日頃の消費活動の中で、この販売価格アップの受入について強く意識することが求められていると思います。
現在、多くの中小企業においても賃金交渉が続いています。その最中、米国とイランが戦闘終結の合意を発表したものの、石油・石油関連製品の供給の安定化にはなお時間を要すると見られます。この点が交渉にマイナスの影響を与えることが懸念される状況であろうと思います。
しかしながら、こうした状況にあっても、経団連は、賃金引上げを「人への投資」と位置付けて、各企業の実情に適した賃金引上げを呼びかけ、力強いモメンタムの維持・定着に力を尽くす決意です。さらに、中小企業に限らず、各企業が労働改革を通じて生産性向上につなげることが不可欠です。その柱として、経団連は、労働移動の積極的な推進、労働時間法制の見直し、さらには多様な人材の活躍推進を掲げています。提言、報告書、あるいは私自身の発信を通じて、取り組むべき施策を示してきました。
労働時間法制の見直しでは、とりわけ、働き手の能力の最大発揮と成長意欲の一層の喚起に向けて、柔軟で自律的な働き方を推進していく必要があります。そのためには、裁量労働制の拡充が不可欠です。労働側の懸念の強い、長時間労働防止と働き手の健康確保等の濫用防止策を組み込んだ形での見直しが行われるよう、引き続き取り組んでまいります。
また、これを嚆矢として、潜在成長率向上のネックとなっている労働供給制約を克服する、全般的な労働改革につなげていきたいと考えております。
(4)地域経済社会の活性化
第4は、地域経済社会の活性化です。
わが国の総人口は、2040年には、約1億1300万人となり、50年前の1976年と同程度まで落ち込む見込みです。
一方で、地域ごとの人口分布と年齢構成は1976年と2040年とで大きく様相が異なります。特に、生産年齢人口は、全体で約2割減少すると予測されています。さらに、地域別にみると、生産年齢人口が増加するのは首都圏のみで、それ以外の地域は大きく減少する見込みです。とりわけ、東北圏や、四国圏等の減少率は5割に迫る勢いです。
このように、首都圏への一極集中が顕著ななか、人口減少によって真っ先に影響を受けるのは地方部の規模の小さな自治体です。
あわせて、全国の老朽化した社会資本の更新も欠かせません。建設後50年以上経過するインフラは、スライド23頁の通り、今後2040年にかけて全国的に増加を続ける見通しです。他方、インフラのメンテナンスの担い手不足が深刻化しています。市区町村における土木部門の職員数は、ピークの1996年と比べて、約30年で約26%減少しています。
こうした状況にあっては、既存の地方自治体ごとの対応には限界があると言わざるを得ません。自治体の垣根を越えた広域連携により、広域同士が切磋琢磨することが重要です。経団連は、「新たな道州圏域構想」を提唱しています。都道府県より広域のブロックを1つの仮想単位、すなわち「道州圏域」と捉え、バーチャルな道州圏域ごとに、独自施策を実行できる仕組みです。かつて、区割りや権限の話がまとまらず頓挫した道州制とは異なるものです。形式よりも実質を意識した施策です。
具体的には、概ね人口500万人以上の道州圏域規模を全国で8~9個ほど想定しており、この下で、中心となる都市や、人口10万人程度を想定した地域生活圏などが重層的に連携し、既存の行政区域にとらわれない、フレキシブルな広域連携が進むことを目指しております。自然体でいけば、ヒト・モノ・カネの資源は減少していきます。この減少していく資源を広域で共有化し、さまざまな政策遂行に取り組んでいくことが重要です。
高市政権は、「地域未来戦略」を掲げ、「戦略産業クラスター計画」の策定を進めています。これは都道府県域をまたぐ地域ブロック単位の取組みであり、経団連の考え方とも重なるものと期待しております。
経団連では、毎年、各地域の経済連合会と懇談の機会を持ち、時には自治体の首長の方々とも意見交換を行っています。特に、人口減少、とりわけ首都圏への人口流出に対する強い問題意識と危機感に接してまいりました。
各地域の経済団体は、こうした危機感から、スライド25頁の通り、地域の特色を生かした独自のビジョンを策定され、産官学金労連携の下、高市政権の「地域未来戦略」への施策の反映やビジョンの実行に向けた非常に真摯な取り組みを進めておられます。
経団連は、政府はもちろん、各地の経済連合会などとともに、広域連携による地域課題の解決実績を積み上げることで、「新たな道州圏域構想」のコンセプトの認知度向上と社会への浸透を目指しています。
(5)自由で開かれた国際秩序の維持・強化と経済安全保障への配慮
第5は、自由で開かれた国際秩序の維持・強化と経済安全保障への配慮です。
国際秩序が大きく揺らぐ中、国連や世界貿易機関(WTO)等によるグローバル・ガバナンスの仕組みは十分には機能しておりません。
日本は資源を持たない島国であり、日本が目指すべき国家像は、「科学技術立国」と「貿易・投資立国」です。分断と対立が進む世界にあっても、ルールに基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化に、日本が率先して取り組んでいく必要があります。
国際ルールの形成には、二国間・複数国間の枠組みの経済連携協定(EPA)と自由貿易協定(FTA)、そして多国間の枠組みのWTOが「車の両輪」を担っています。まず、前者のEPA/FTAの筆頭になるのが、環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)です。世界GDPの約15%をカバーするCPTPPは、日本が主導したことに加え、貿易投資の自由化やルールの面でレベルが非常に高く、まさにわが国が世界に誇る外交資産です。また、CPTPPは、今日の世界にあって、安全保障の面でも極めて重要な意義を持っています。したがって、CPTPPを「自由で開かれた国際秩序」の柱と位置付け、ルールの一層の整備と参加国・地域の拡大に取り組むことが不可欠です。
この他、現在EPA/FTAでカバーされていないブラジル等の南米各国、いわゆる南米南部共同市場(メルコスール)等とのEPAの締結が求められます。先般、高市総理がG7首脳会議の機会を捉え、メルコスールとの交渉入りを表明されました。こうした動きを経団連として大いに歓迎するとともに、日本メルコスールEPAの早期実現に向けて、政府の強力なリーダーシップの発揮を期待しております。二国間・複数国間のネットワークの構築は、貿易のルール形成のみならず、重要物資の安定調達のような経済安全保障の観点からも重要なものです。
次に、多国間の枠組みに関しWTOの機能強化に向けた改革が不可欠です。WTOは、世界166の加盟国・地域に自由貿易の共通のルールを提供するハブの役割を担っていますが、全会一致の原則の中で、意見がまとまらないという弊害に直面しています。私は、昨年10月、経団連会長就任後初の海外出張でジュネーブを訪問し、WTO改革に関する提言をオコンジョ事務局長に直接お渡ししました。具体的には、スライド29頁の下段の真ん中の図の通り、自由で公正な貿易投資に積極的な有志国で「クラブ」を結成します。その上で、まずは有志国間の「クラブ」で新たなルール作りを先行させ、これをいずれWTO協定に反映していく、「WTO2.0」の実現を図っていくという提言です。
実際、今年3月のWTO閣僚会議において、「電子商取引に関する協定」をまず有志国の間で暫定的に発効させ、将来的にWTO協定に取り込むことが決定しました。これは、全体でコンセンサスがとれないという弊害を克服する上で、有志国による取組みが効果を発揮する証左です。
また、先月、来日されたオコンジョ事務局長と再び懇談する機会を持ちました。私から「経団連が提唱するクラブがWTO改革の現実的な解となり得るのではないか」と改めてお伝えしたところ、「今後のルール作りは有志国が中心となるであろう」との反応があり、心強く感じた次第です。それは米中対立が激化する中でも、有志国連携において日本がリーダーシップを発揮することへの期待であると感じました。
今般の中東情勢を見ても、今後は特定の国・地域に依存しない強靭な経済構造を確立することが必要です。近年では、グローバルサウスが国際関係の中で大きなアクターとして台頭しております。わが国にとって、食料・資源・エネルギーが豊富で、潜在成長力が高いグローバルサウスとの連携強化は不可欠です。そこで、昨年12月に、提言「グローバルサウスとの連携強化に向けて」を公表しました。わが国が国際的なルールづくり等でリーダーシップを発揮するためには、同志国に加えて、グローバルサウスと連携し、グローバルサウスから必要なパートナーとして選ばれることが必須です。
米国と中国と日本の関係についても一言申し上げます。
日米関係について、唯一の同盟国として、今後も良好な状態を維持・強化することが、民間経済外交においても極めて重要です。こうした観点から、来年2月頃に私自身がワシントンDCを訪問予定であり、連邦政府関係者、連邦議会議員、そして日本企業が実際に事業展開している主要州の知事と面会し、日米関係強化に取り組んでまいります。
また、日中関係は、引き続き緊張関係が続いておりますが、中国が重要な隣国であることに変わりはありません。対話を通じた意思疎通の再開に向けて、あらゆる分野で努力を継続する必要があります。経団連としても、様々な切り口から、中国との対話の機会を模索し、関係改善に向けた糸口を見出すように努めてまいります。
(6)エネルギーの安価で安定的な供給確保とGXの推進
第6は、エネルギーの安価で安定的な供給確保とグリーントランスフォーメーション(GX)の推進です。
わが国の最大の制約は、「資源を持たない島国」であるということです。化石燃料がほとんど採れず、エネルギー自給率は15%に留まります。国土構造上、太陽光や風力のポテンシャルにも制約があります。特に、原油については、輸入の9割超がホルムズ海峡経由でした。ホルムズ海峡がどのように開放に向かっていくかについては、わが国の経済と国民生活に大きな影響を及ぼすものとして、引き続き注視が必要です。
一方で、備蓄の放出と、官民を挙げた必死の代替調達により、国内需要を満たすだけの供給量は、来年春まで確保できる見通しです。加えて、経団連としては、日頃からの省エネ・温暖化対策の重要性も踏まえ、先般、各社の自主的な省エネ対策を改めて推進いただくよう、会員に呼びかけました。
こうした短期的な対応はもちろんのこと、構造的なエネルギー需給構造の改革にも取り組む必要があります。経団連は2021年から、GXの推進を掲げ、取組みを進めています。GXは、単にカーボンニュートラルを目指すのではありません。省エネやエネルギー源の多様化によって自立的なエネルギー供給を経済安全保障につなげるとともに、脱炭素への投資を産業競争力強化につなげる、まさに成長戦略であります。
今般の中東情勢の緊迫化により、GXを通じた産業構造の変革の重要性が改めて浮き彫りになっています。この危機をバネにして、日本としてGXを推進していくべきと考えます。
GXの推進の重要な柱として、スライド33頁の通り、3つ掲げており、たとえば、GX投資の推進があります。10年間に官民で150兆円規模の投資を実現すべく、政府が20兆円の先行投資支援を実施しています。脱炭素経済への移行に向けたトランジション・ボンド発行による資金調達や、複数年度にわたる支援の実施など、これまでの国家予算にはない、世界的にもユニークな取組みが行われています。革新的技術の研究開発・社会実装、市場創出に向けて、官民の投資を推進すべきであり、これは「投資牽引型経済」の実現にも大きく資すると考えております。
エネルギー安全保障の強化に向けては、ゼロエミッション電源の確保が重要です。DXの進展、AIの加速度的な普及等により電力需要の増加が見込まれる中、S+3E、特に安全性の確保を大前提に、再生可能エネルギーも、原子力も、脱炭素火力も、全てを活用していくことが必須です。
特に、原子力は引き続き大きな課題に直面しています。政府は、2040年に電力の2割を原子力で賄う見通しを示していますが、現時点の原子力の比率は9.4%と、半分以下にとどまっており、政府が前面に立って、まずは再稼働から、着実に推進していく必要があります。その意味で、柏崎刈羽原子力発電所が14年ぶりに再稼働したことは、大きな意義があると考えています。その他の原子力発電所についても、福島第一原子力発電所の事故の反省と教訓を踏まえた新規制基準のもとで安全性が確認されたものについては、地元の理解を大前提に、着実に再稼働を進めていく必要があります。
また、再稼働を着実に進めたとしても、新増設・リプレースがなければ、スライド34頁の通り、2040年代から原子力の設備容量が急激に減少するという現実も直視しなければなりません。また、運転開始までのリードタイムに20年程度を要するため、原子力発電所のリプレースはまさに今から待ったなしの状況です。
こうした中、先般「今後の原子力政策の方向性と行動指針」の改定案において、政府として初めて、時系列を示した上で必要となる原子力設備の容量や基数の見通しを示しました。これは極めて大きな意義があり、経団連として大いに歓迎するものであります。
あわせて、原子力の継続的活用に向け、革新軽水炉の建設の具体化が、今この時点からの急務です。さらに、高速炉・高温ガス炉・核融合炉といった次世代革新炉の開発・実装に取り組むことが肝要です。これらの取組みとともに、核燃料のリサイクルと廃棄物減容に繋がる再処理工場の竣工や、高レベル放射性廃棄物の最終処分など、バックエンド対策も着実に推進していく必要があります。
(7)持続的な成長とマルチステークホルダーへの還元を志向したコーポレート・ガバナンス改革
第7は、コーポレート・ガバナンス改革です。
「投資牽引型経済」を実現していく上で、今こそ企業のガバナンスのあり方が問われている、といっても過言ではありません。わが国におけるコーポレート・ガバナンス改革は、約10年前にアベノミクスの成長戦略の一環として始まりました。その後、日本企業のガバナンスへの取組みは、大きく前進しました。
スライド36頁で日経平均株価の推移を示している通り、株価上昇をはじめ日本市場の地位向上にも寄与する等、改革がもたらした多岐にわたる成果を株式市場は評価しております。さらに、2023年の東証による「資本コストや株価を意識した経営」の要請を契機に、ROE(自己資本利益率)等の指標を踏まえた経営が浸透しつつあり、企業の意識改革も進んでおります。
しかし、こうした、いわば形式面の整備が着実に進んだ一方で、「企業利益が株主還元に偏重し、成長投資が十分に拡大していない。さらに労働分配率が変わらず低い」といった指摘がございます。また、一部のアクティビストなどの存在を背景に、中長期の企業価値向上や「稼ぐ力」の強化に資する経営資源の配分が、企業の自律性の下に行われてこなかったとの指摘も寄せられています。今後の企業経営には、マルチステークホルダーへの適切な分配を果たしつつ、持続的な成長で企業価値を向上する戦略、まさにバランスある資源配分戦略を取れるかどうかが問われています。
こうした課題認識を踏まえ、経団連は、昨年12月に「持続的な成長に向けたコーポレート・ガバナンスのあり方」に関する意見書を取りまとめ、公表しました。スライド37頁で全体の概要図を示しています。本来あるべきコーポレート・ガバナンス改革は、法令・規範の遵守にとどまらず、持続的な経済成長を支える自律的・主体的な企業行動を定着させるべきものでなければなりません。企業が成長投資から生み出された付加価値・リターンを、株主・投資家のみならず、従業員や地域社会といった多様なステークホルダーに自律的かつ戦略的に配分し、それをさらに新たな投資へとつなげていく好循環の実現が極めて重要です。これがまさに「投資牽引型経済」の確立に確実につながるものです。
こうした企業の自律的なガバナンス改革を後押しすべく、政府には、会社法や金融商品取引法、コーポレート・ガバナンスコードなどの制度面における環境整備に引き続き取り組んでいただきたいと考えます。
3.GREEN×EXPO 2027
加えて、「GREEN×EXPO 2027」について申し上げます。GREEN×EXPO 2027は、2027年に横浜で開催予定の国際園芸博覧会であり、私はGREEN×EXPO協会会長を務めております。
GREEN×EXPO 2027は、「地球と。咲きに行こう。」というキャッチコピーのもと、「幸せを創る明日の風景」をテーマに、生物多様性の喪失や気候変動等の地球規模の課題に対する解決策を世界に発信することを目指しています。2027年3月より約半年間、横浜の米軍旧上瀬谷通信施設で開催されます。公式マスコットキャラクターはトゥンクトゥンクです。はるか宇宙の彼方から地球に憧れてやってきた好奇心いっぱいの精霊です。大阪・関西万博の成功の余韻が非常に強い中、GREEN×EXPO 2027の機運醸成は不十分な状況です。多くの方々にご来場いただけるよう、現在、数々のプロモーション活動を行い、機運醸成を図っているところです。会場には、海外や自治体による庭園や、企業・団体による出展が予定されています。現在、お得な前売り券を発売しておりますので、ご購入、ならびに来年の来場をお待ちしています。
4.終わりに
最後に、私が経団連会長として大切にしていることについて申しあげたいと思います。
まずは、スライド42頁に記載の通り、「中長期の視点」と「日本全体の視点」です。これは、日本生命での約50年間の仕事を通じて、私自身の思考体系、行動様式として染みついているものです。
「中長期の視点」については、保険商品も資産運用も、常に中長期の視点に立って考える必要があります。そうして培った視点を、経団連会長という立場でも活かしていきたいと考えています。
「日本全体の視点」について、私自身が全国ネットワークでの様々な地域で顧客、企業、自治体およびその地域で働く職員と接する中で得たものです。世界を見据えつつ、日本全体の視点を忘れずにいたいと思います。
この2つの視点にこだわる中で、経済界がいかにフロントランナーとしての役割を期待されているのかを肌で感じてきました。そのフロントランナーとしての覚悟を、まさに「投資牽引型経済」に反映しています。企業自らがマインドセットを大胆に変革し、積極的に国内投資を行うことで経済の好循環を牽引していく。経団連はその先導役を担っていく決意です。
加えて、「将来世代への責任を果たす」、このことを常に念頭に置かなければならないと考えています。社会保障制度の持続可能性の問題を1つの背景に、現役世代、特に若年世代に漠然とした不安が広がっています。そうした不安を1つずつ希望に変え、希望を形にして実現していくことが必要です。
折しも今年は経団連創立80周年の節目です。今後も、経済界の公正な意見をもとに政策提言に努め、日本経済を着実に発展させ、国民一人ひとりが物質的・精神的豊かさを享受し続けることのできる社会を目指し、一層の努力を重ねてまいります。ご清聴ありがとうございました。