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会長コメント/スピーチ  記者会見における会長発言 定例記者会見(12/23)における筒井会長発言要旨

2025年12月23
一般社団法人 日本経済団体連合会

【柏崎刈羽原子力発電所の再稼働】

〔本日(12/23)、東京電力柏崎刈羽原子力発電所の再稼働に向けた新潟県の判断が行われたことへの受け止めを問われ、〕花角新潟県知事が新潟県として、東京電力柏崎刈羽原子力発電所6・7号機の再稼働方針への理解要請について了解されたことを心より歓迎する。花角知事はじめ県政を担う皆様が長年にわたり、安全・防災対策の検証とともに、県民の声の丁寧な聴取を重ね、今般の結論を導かれたことに対し、深く敬意を表する。

柏崎刈羽原子力発電所は、わが国のエネルギー安定供給とカーボンニュートラルの実現に寄与し、日本海側から首都圏へ電力を届けることで広域のレジリエンス強化にも資する重要電源である。経団連として、新潟県の皆様のご理解に改めて感謝を申しあげるとともに、今後、新潟経済界との交流・連携を深めることで、地域の活力向上に貢献していきたい。

東京電力と国においては、花角知事が政府に対して確認された項目を踏まえ、安全・防災対策等の着実な実行、継続的な情報発信による県民理解の更なる醸成等に尽力されたい。併せて、東京電力には、今後の原子力規制委員会による検査、起動工程への対応、継続的なセキュリティ確保や運営改善を通じ、再稼働を着実なものとするとともに、その後の安定的な発電所運営を強く要請したい。

〔各地で再稼働の準備等を進めている原子力発電所に対する所見を問われ、〕北海道電力泊原子力発電所が再稼働に向けた動きに入っていると理解している。こうした動きは、半導体メーカーであるラピダス、データーセンターの立地・稼動、そして国民生活の向上にも寄与すると考えている。こうした動きの一つひとつがつながって良い方向に向かうことを期待している。今後、経団連として原子力政策に関し、産業基盤・産業競争力の強化、経済成長、脱炭素化の観点とともに、クリーンエネルギーの安価で安定的な供給が国民生活に大きく寄与するという点をより強調して発信していきたい。

〔今後「エネルギー基本計画の見直しに向けた提言」(2024年10月)について原子力発電所の再稼働の状況等を踏まえ、ブラッシュアップする考えがあるかを問われ、〕同提言を取りまとめた際の問題意識は基本的に変わっていない。中長期でのエネルギー源のあり方に関する提言であり、2040年代以降の時間軸では既設炉の再稼働を前提としても、リプレース・新増設が行われない場合、原子力の設備容量はいわば崖のように急速に減少するとの見通しを示した。あくまで原子力政策について、安全性の確保と地元の理解を大前提に進めていくべきとの提言の根幹自体は揺るがないと考えている。今後、再稼働に向けた動きがさらに進捗する中で新たな課題が生じた場合、何らかの対応が必要という段階となれば、上記提言の基本的な考え方に基づき、各論への提言も含めて柔軟な対応を検討していきたい。

〔花角新潟県知事との面会時に言及していた新潟県への「恩返し」に関する検討状況を問われ、〕既に検討を行っており、それを加速すべき状況にあると認識している。まずは、新潟経済界の方々とのコミュニケーションが重要と考えている。すなわち、経団連から新潟経済界に対して、どのような貢献や協力が必要なのかというニーズをしっかりと聴取する必要がある。そうしたニーズに沿って、できることをできる限り実施していきたい。例えば、スピード感を持って実行できるのは、新潟県産品の首都圏への紹介や販路の拡大等であろう。既に経団連副会長はじめ会員企業にも呼びかけるとともに、私の属する日本生命でも具体化に向けた指示を先日行ったところである。

〔原子力損害賠償制度について、万が一大規模な事故が発生した場合の事業者の賠償責任を有限とし、それを超える部分は国が賠償する制度に改めるべきとの主張は、発災後の多大な国民負担につながるのではないかと問われ、〕まず、原子力損害賠償制度について、現行では発災事業者が無過失・無限責任を負うため、発災後は通常の民間企業としての存続は現実的に困難であり、原子力事業への投融資判断上、大きな課題となっている。こうした認識から、事業者の責任範囲を有限に改め、超過分は国が補償する制度とする方向で見直すべきと過去に提言を行った。既設発電所の再稼働に向けて大きな前進がみられる中、万が一、大規模な事故が発生した場合の民間企業と国の適切な役割分担に係る議論を再び行うべき段階に来ているとの考えの下、改めて主張した。今後、原子力発電所の再稼働が軌道に乗っていく限りは、安価で安定的なエネルギー供給が実現すると考えている。

〔さらに、仮に国が一定の補償を行う方向で原子力損害賠償制度が見直された場合、国民負担につながる可能性があるため、決して安価なエネルギーとは言えないのではないかと問われ、〕エネルギー価格の水準は、日本国内だけで考えるべき問題ではなく、産業ならびに国民の生活水準の面での国際競争力という観点も重要であろう。実際に、国内では電気料金に地域差が生じていると理解している。昨今の物価高に直面する国民にとって、安価で安定的な電気料金の実現は、極めて重要である。国際的にみても、国民生活や、産業基盤の国際競争力を維持・強化する観点から、欧米の主要国をはじめ多くの国が原子力を再評価しつつある。

柏崎刈羽原子力発電所は、わが国のエネルギー安定供給とカーボンニュートラルの実現に寄与し、日本海側から首都圏へ電力を届けることで広域のレジリエンス強化にも資する重要電源である。経団連として、新潟県の皆様のご理解に改めて感謝を申しあげるとともに、今後、新潟経済界との交流・連携を深めることで、地域の活力向上に貢献していきたい。

【金融市場の動き】

〔金融市場では財政状況の悪化を懸念して円安傾向と長期金利の上昇がみられるとされる中、日本経済に与える影響について問われ、〕仮に、財政状況の悪化が日本に対する信認の失墜につながれば、企業経営はもちろん国民生活にも大きな影響をもたらすため、市場の信認は何よりも重視すべき基本と考えている。ただし、足もとの為替や長期金利の動きは、財政健全化に関する思惑が全くないとは言い切れないものの、それ以上に日米の金融政策の方向性の違いや日本の金融政策の先行きに対する思惑の影響がより大きく発現しているのではないか。直近では、為替も長期金利も若干の落ち着きを取り戻している。

令和8年度税制改正や令和8年度予算編成は、高市総理の掲げる「責任ある積極財政」との考え方の下、潜在成長力の引上げを通じて「強い経済」を実現するという方向性にある。こうした考えを市場に粘り強く発信し、市場の信認をしっかりと意識しているということも併せて継続的に訴求していくことが重要である。こうした観点から、私としても政府に対して今後ともしっかりと意見を述べていきたい。経団連としては、金融市場の変動に一喜一憂することなく、「投資牽引型経済」への転換を図る観点から、設備投資、研究開発投資、人的投資の拡大に向けて、企業のマインドセットを変革していく。こうした取組みを通じて、潜在成長力を引き上げ、経済のファンダメンタルを強化することが、円安基調の是正に確実に結び付くと確信している。

【上場廃止の動き】

〔本年上場を廃止する企業が過去最多となる見通しの中、株主偏重の経営とは一線を画す動きが背景にあるのではないかと問われ、〕当該企業が、株主偏重を忌避して上場を廃止したと言えるのかについては検証が必要と考える。株式市場は、企業の社会的あるいは国際的認知度の向上や企業の成長ストーリーの実現という点で極めて重要な存在である。コーポレートガバナンス改革も株式市場を前提としている。先般の意見書「持続的な成長に向けたコーポレートガバナンスのあり方」も、株式市場の更なる活性化等を通じて中長期的な企業価値の向上を目指すことを主眼としている。同意見書は、近年の株主偏重傾向も意識しながら、あくまでも株式市場を前提として、企業の自律的な経営を促し、そのための環境整備を投資家や政府に求めるものである。足もとの上場廃止の理由は各社各様であり、株式市場を嫌ってのこととは言い切れないと思う。

【日中関係】

来年1月の訪中団の実現に向けた状況を問われ、〕先日、日中経済協会の進藤会長が駐日中国大使館に赴き呉駐日大使と面会し、訪中団の重要性を説明されたと聞いている。引き続き、事務局の日中経済協会が駐日中国大使館等を通じて調整中と理解しているが、見通しは必ずしも明るくないと聞いている。政治的に難しい局面にあるからこそ、これまで繰り返し発言してきた通り、あらゆるレベルにおける幅広い分野での対話を粘り強く継続していくことに尽きると考えている。今後の状況を注視したい。

〔さらに、来年1月の訪中団の実現に係る判断をどのように行う想定かを問われ、〕11月28日に呉駐日大使を私が訪問した際、訪中団が歴史的に日中両国の重要な財産となっているとお伝えした。直近では日中経済協会の進藤会長も同趣旨のことを呉駐日大使に伝えたのではないか。進藤会長の大使との面会からまださほど時間が経過していないので、現時点では状況を注視することに尽きる。

〔さらに、訪中団の時期について、日中関係の動向を見極めた上で検討する選択肢を有しているかを問われ、〕訪中団の歴史を振り返ると、各般の事情により時期がずれたこともあったが、コロナ禍を除き一度も中断せず、日中関係が難しい局面にあっても派遣を毎年継続してきた。訪中を通じて、時々の懸案や課題について両国が対話を行ってきた。したがって、来年もしかるべき時期に訪問することは重要と考えている。現在は政治的に難しい局面にあるが、引き続き日中経済協会は訪中団の実現に向けた調整を続けており、状況を注視したい。

【17の戦略分野における官民の役割分担】

〔高市政権の掲げる17の戦略分野における官民の役割分担のあり方を問われ、〕17の戦略分野は様々であり、官民の役割分担を一概に明示できるものではないと考えている。ただし、民間が主体的に投資する場合でも、経済安全保障に関連する分野は、官が政府の方針等を示し、民間と意思疎通を図りながら主導すべきと考えている。

また、例えば、コンテンツは、民間の創意工夫や斬新な発想で成長してきた分野だが、国際競争にさらされる中で、国内の人材不足や海外から流入する海賊版対策への取組みが、今後産業育成の課題となるとの認識が高まっている。コンテンツ産業成長の主役はあくまで民間であるが、現在6兆円規模とされる日本コンテンツの海外売上を20兆円へと押し上げるためには熾烈な国際競争を勝ち抜く必要があり、課題解決に向け官民連携が不可欠となる。

17分野において民間が投資の主役となる必要があるが、経済安全保障という点で官が主導すべき分野もある一方で、国際競争を生き残るために適切な形で官民連携を行うべき分野もあろう。

さらに、今後は民間企業による投資の目利きが一層重要になるかを問われ、〕過去約30年以上にわたって「縮小均衡型経済」にあり、コストカットが優先され、賃金引上げよりも雇用維持が優先されてきたことは否めない。こうした企業のマインドセットの転換を前提として、「投資牽引型経済」を実現していくことが重要である。私の金融業界の経験に照らしても、各業界、各企業では、投資にあたって個別案件への目利き力、案件探索力、そしてデューデリジェンスに係る知見やノウハウが培われてきたと考えている。今後は、粘り強さを具備しながら、投資の個別案件に係る目利き力や案件探索力の向上が一層重要となろう。

【今年の漢字】

〔今年を象徴する漢字1字を問われ、〕2025年を総括する漢字として、国内外ともに大転換の1年であったため、「転」を挙げたい。転換によって、日本経済が新たなステージに転成する、すなわち次の新しいステージに上がるというイメージも有している。

折しも、経団連は企業のマインドセットの転換を通じて、「投資牽引型経済」の実現を目指している。来年に向けての抱負という意味も込めて、「転」を今年の漢字として選びたい。

以上

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