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Policy(提言・報告書) 国際協力 提言「国際貢献の視点から、官民一体で海外インフラ整備の推進を求める」

2010年10月19日
(社)日本経済団体連合会

提言「国際貢献の視点から、官民一体で海外インフラ整備の推進を求める」【概要】

世界経済の発展のためには、その牽引役として期待されるアジア諸国をはじめとする新興国の安定的な経済成長を実現することが重要であり、成長のボトルネックとなっている基幹・都市インフラを整備することが当面の課題である。

こうしたインフラ整備にあたり、わが国は省エネ、低炭素技術をはじめとする世界最先端の技術やノウハウを積極的にこれら諸国に提供し、環境と両立する持続可能な経済成長の達成に貢献していくことが大切である。また、現地産業の活性化や民生の向上への貢献を通じて、わが国もともに成長することが可能となる。こうした考えは政府の新成長戦略とも合致するものである。

他方、このような海外のインフラ整備は莫大な資金を要する。そこで、基礎インフラ部分をわが国のODAをはじめとする公的資金で整備し、採算性の見込まれる部分への投資や運用を民間で行うといったような官民連携(PPP)で対応する制度を構築し、活用していくことが有効である。併せて、これに対応できるよう政府開発援助(ODA)やその他の公的資金(OOF)等の制度を抜本的に見直すことが必要となる。

また、円滑なインフラ整備とその運営を実現するために、相手国の関連する法制度や手続きの整備、改善、インフラの建設と運営にあたる現地人材の育成等のいわゆるソフト・インフラ整備での支援を並行して進めることが不可欠である。相手国のビジネス環境の改善も重要である。

ところで、海外のインフラ整備をめぐる受注競争の中で、近年、OECDガイドラインなどの国際ルールとは相容れない条件を発注国に提示する、あるいは、受注側企業に要求する新興国(企業)が見られる。こうした国際環境の下で、わが国の有する優れた技術の競争力を最大限発揮できるよう、今回、経済産業省がインフラ・プロジェクトをパッケージで提供する仕組みを構築し、官民連携のイニシアティブで推進していく方針を打ち出したことを歓迎したい。

以上の認識にたち、官民が一体となって海外インフラ整備を推進する上で必要な下記事項の実現を改めて政府に求めたい。また、経済界も自らできることに全力で取り組んで参りたい。

1.官民連携によるトップセールスの全面的展開

海外における大規模インフラ・プロジェクトの受注を政府首脳が発注国に働きかけることが国際的な潮流となっている。国際受注競争において、わが国もスピード感をもって官民連携を一層強力に推し進めることが重要である。特に、政府は外交政策の中にわが国企業等による海外インフラ・プロジェクトの推進を戦略的に位置づけ、相手国の官民枢要との人脈構築も視野に入れて取り組んでいくことが必要である。
具体的には、既に進められている政府首脳と民間経済人のハイレベルミッションの相手国訪問を頻繁に行うことに加えて、民間交渉の場に必要に応じて政府首脳が出席することが求められる。また、日常的に日本国大使が日本企業のビジネスを支援することが求められる。
官民連携による海外インフラ整備の推進を目的に最近設置された「パッケージ型インフラ海外展開関係大臣会合」に対する期待は大きい。各省庁の取り組みをここに一元化して集約して進めるべきである。また、具体的推進策について経団連と定期的かつ頻繁に意見を交わすことが求められる。特に、民間企業が提案する個別のインフラ・プロジェクトのうち、貧困撲滅や地球温暖化対応などわが国の援助政策と合致する案件については、国家プロジェクトに認定し、既存の制度に縛られることなく必要な措置を機動的に講じていくことが求められる。

2.相手国との政策対話の推進

わが国の有する最先端の技術やノウハウが、国民経済、中長期的な費用対効果、さらにはグローバルな課題への対応という視点から優位性のあることを、インフラ整備を進める相手国に正当に評価してもらうため、政府は、首脳会談、ハイレベル経済対話、経済連携協定の下に設置されている小委員会などの場を活用して、政策対話を緊密に行うことが大切である。
また、その際、(1)公正で透明度の高い入札制度の導入、(2)省エネ法やエコポイント制度などの省エネ政策導入、(3)インフラ整備に関する一貫した政策の遂行、(4)関連国内法(環境・品質基準、土地収用のルール等)の整備や各種許認可手続の迅速化・透明化、(5)インフラ整備に関するキャパシティ・ビルディングや人材育成の推進、(6)ビジネス環境の整備、(7)国際標準化の推進(4.を参照)を働きかけるとともにわが国の支援を積極的に提案すべきである。
なお、民間経済界としても日越共同イニシアティブなどの官民対話の場を通じて、積極的に同様の働きかけを進める。

3.新たなリスクテイク機能の整備

近年、インフラ・プロジェクトの大型化や発注国の新たな要求に伴い、従来、考えられなかった大型リスクを負担することが受注の前提となる事例が増えている。例えば、発注国側の原因による大規模工事の遅延、超長期の投資案件に関する相手国の政策変更(新たな環境政策の遡及適用や土地収用など)、過去のトラック・レコードのない長期プロジェクトに関る稼動保証や水準以上の機能保証などがあげられる。これらに対応できるリスクテイク機能を官民の叡智を結集して構築することが必要である。その際には貿易保険やJBICの保証機能の拡充、柔軟化を進め、これらの全面的な活用を図ることが必要である。

4.インフラ整備に向けた国際標準化の推進

海外インフラの整備とその運営をより効率的に進めていくためには、関連する制度、基準認証等の標準化を進めることが必要である。環境規制、エネルギー効率、低炭素システムをはじめとする各分野で、東アジア・ASEAN経済研究センター(ERIA)などの場で各国と共にアジア域内の標準化の導入を推進していくことを検討すべきである。

5.ODA等の国際協力スキームの抜本改革

(1)ODA予算減額の歯止め

海外のインフラ需要が拡大し、また、国連のミレニアム開発目標に世界の関心が向き、先進国のODAが国民総所得(GNI)比で0.7%の目標に向かって進む中、我が国のODA予算は年々減額されている。世界第一位の供与国の地位から転落して久しい。官民連携で海外のインフラ整備を進めていく上で、ODAの活用分野が益々拡大していくことが期待されており、こうした内外の要請に応えていくためにはODA予算の拡充が望まれる。緊縮財政が求められる時期であることを考慮してもなお、当初予算の減額に歯止めをかけることが不可欠である。
なお、ODA予算の策定にあたっては、分野別、用途別の配分を予め内外に明示し、実行する姿勢を明確にすることが求められる。

(2)官民連携推進のための国際協力スキームの確立

海外のインフラ整備や資源開発で、わが国企業が優れた技術を活用して積極的に参画していくためには、ODAやその他の公的資金(OOF)を投入し、採算を確保することが必要である。そのためにも活用の幅の広いJICAの海外投融資の可及的速やかな再開やバイアビリティ・ギャップ・ファンディング(VGF)の具体化(実施方針の策定を含む)が求められる。特に、JICAの海外投融資の再開にあたっては、そのスキームを機動的に運用できるものとすべきである。また、海外プロジェクトの推進にあたっては、量的補完で実績を積んでいるJBICの投資金融を一層活用していくために、対象を拡大すると共に金利の一層の引き下げを検討すべきである。さらに、官民連携案件での一社(特定事業者)支援を正式に容認し、具体的な支援の仕組みを構築すべきである。

(3)特別無償資金協力と特別円借款

当面、新たな一般会計財源を探すことが困難な中で、官民連携案件を推進していくために、たとえば、円借款返済に伴う剰余金を財源として、追加的に年間1,000億円規模の無償資金協力もしくは譲許性の高い(例えばCL80%以上)低利円借款を3年程度の時限立法で創設し、積極的に投入していくことが必要である。

(4)円高対応

国際競争においてわが国の優れた技術・ノウハウの競争力を減殺する円高への対策が緊急に講じられるべきである。
加えて、為替水準にわが国の競争力が左右されることのないよう、JICAによる外貨建て借款やJBICによる現地通貨建て投資金融の実施が求められる。その際、担保の提供を含め為替リスクが受け取り国や民間企業に転嫁されることのないようにすべきである。

(5)温室効果ガス削減に関する二国間オフセットメカニズムの整備

排出削減に寄与する高効率石炭火力発電などのインフラ整備や技術移転など、日本の低炭素技術による海外での温室効果ガス削減分をわが国の貢献分として評価する二国間オフセットメカニズムを整備することによって、受け入れ国のファイナンス手段が多様化し、結果として日本および受け入れ国双方にとって有用な制度となる。相手国との間で検討を加速するよう期待する。

(6)FSへの公的資金の積極活用

官民連携によるインフラ整備を推進する上で、民間提案案件のFSを公的資金で支援することが有用であり、今春新設されたJICAのスキームを一層充実すべきである。
なお、わが国が高い競争力を有する地熱発電プロジェクトのボーリング費用もFSの一環として支援対象とすることが求められる。

(7)円借款手続きの迅速化と具体的制度設計の促進

円借款執行の迅速化のためにその手続きの見直しを進めることが必要である。たとえば、FSの採択時に資金協力の意図表明を行う、手続きのプログラム化を徹底してFSから設計までの流れを切れ目無く実施することが求められる。また、プロジェクトの工程全体をJICAおよびそのコンサルタントが一元管理するべきである。

以上

【参考:官民連携で推進すべき重点プロジェクトの事例】

  1. 物流関連(道路、港湾、空港、高速鉄道、都市交通)、上下水道、地域開発等の基幹・都市インフラ案件
  2. 原子力発電、高効率石炭火力発電、地熱発電、太陽光発電等、わが国の最先端の省エネ、低炭素技術が活かせる案件
  3. 地域の総合開発、スマート・コミュニティの構築、機能的で景観等に配慮した都市開発、リサイクル事業(家電・自動車等)、エコ住宅の供給等、民生の向上や生活環境の充実に貢献する案件
  4. 電子政府、遠隔医療、防災通信等、わが国のIT技術が活かせる案件
  5. 地球観測衛星等わが国の最先端技術を用いた防災・環境関連の案件
  6. 資源開発、エネルギー安全保障や食糧の安定供給(コールドチェーンを含む)に貢献する案件
  7. ホスト国の関連国内法制、許認可制度、税関手続き等の整備・改善、インフラ・プロジェクトに携わる人材育成、等のソフト・インフラ整備案件
以上

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