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Policy(提言・報告書) 科学技術、情報通信、知財政策 産業構造審議会 知的財産政策部会 特許制度小委員会報告書
「特許制度に関する法制的な課題について」(案)に対する意見

2010年12月28日
(社)日本経済団体連合会
知的財産委員会 企画部会

今般、産業構造審議会知的財産政策部会特許制度小委員会でとりまとめた報告書案は、「特許制度に関する法制的な課題について、イノベーションを通じたわが国の成長・競争力強化に貢献するという観点から検討した」旨、記されている。こうした観点は、経団連の考え方と軌を一にするものであり、極めて重要である。
報告書案の内容は、イノベーション促進に向けた画期的な方向転換が示されたと評価しうる内容もある一方、本質的な議論が不十分なままに実務的な制度変更のみを念頭に置いたものも存在していると思われる。
以下、報告書案に記された論点のうち、特に重要と思われる三つの論点について意見を述べる。

1.登録対抗制度の見直し

現在のわが国の登録対抗制度の下では、通常実施権が譲渡された場合や通常実施権者が破産した場合、通常実施権を登録していなければライセンシーは通常実施権の存在を第三者に対抗することができない。一方、主要諸外国においては、登録を備えずに第三者に対抗できる「当然対抗制度」ないしは「悪意者対抗制度」となっている。
わが国の登録対抗制度は、ライセンシーの地位を不安定にするものであり、国際的にも特異であることから、イノベーション促進の観点からも、また国際的な制度調和の観点から、早急に見直す必要がある。
こうした観点から、経団連では予てより「当然対抗制度」の導入を求めてきたところであるが、本報告書案において「当然対抗制度」導入の方向性が明示されたことは高く評価できる。経団連としては本報告書案に沿った法改正が速やかに実現することを強く期待する。

2.職務発明訴訟における証拠収集・秘密保護手続の整備

わが国の職務発明制度は、主要諸外国に殆ど見られない特異な制度であることから、イノベーション促進に向け、その制度設計につき根本的な見直しが不可欠である。しかしながら、報告書案における職務発明に関する言及は、証拠収集・秘密保護手続の整備という論点を中心に据えており、制度の根幹についての本質的な議論が十分なされていない。
また、議論の中心であった、証拠収集・秘密保護手続の内容については、いわゆる特許侵害訴訟とは当事者の構図が異なる職務発明訴訟の本質を踏まえた議論をすべきである。特に、提出義務の対象となる文書を裁判所のみならず当事者等へも開示することを認める105条3項のインカメラ審理手続によって、営業秘密が流出する懸念が極めて大きいため、強く反対する。
報告書案における本論点の扱いが「継続検討」となったことは極めて妥当である。継続検討にあたっては、職務発明制度自体の課題について、本質的な議論を行うことが優先されるべきであり、証拠収集・秘密保護手続については訴訟手続の中での営業秘密流出の懸念を払拭する観点から検討されるべきである。

3.差止請求権の在り方

特許制度は独占排他的な権利を前提とした制度であるが、米国等においては他との連携・協調が必要な領域において、いわゆるパテント・トロールと呼ばれるタイプの権利行使が横行し、イノベーション創出の阻害要因となっている。既にその被害事例は多く、わが国においても同様の被害が起きつつあるとの指摘がなされている。
こうした状況に鑑み、経団連では、技術が複雑化し、一つの製品に多くの特許発明が含まれているような分野において協調領域に相応しい新しい権利体系を検討すべきこと、検討にあたってはいわゆるパテント・トロール対策という視点を有するべきことを主張してきたところである。
報告書案では、「差止請求権の在り方について多面的な検討を加速化しつつ、引き続きわが国にとってどのような差止請求権の在り方が望ましいか検討する」とされている。今後の検討にあたっては、いわゆるパテント・トロールによる内外の被害実態を踏まえ、総合的な検討がなされることを期待する。

以上

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