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Policy(提言・報告書) 環境、エネルギー エネルギー政策に関する第2次提言

2011年11月15日
(社)日本経済団体連合会

エネルギーは経済の血液といわれるように、国民生活や企業活動に不可欠の要素であり、エネルギー政策は、国家戦略の根幹といっても過言ではない。

大震災後、わが国のエネルギー供給力が大きく毀損されるなかで、経団連は、7月に「エネルギー政策に関する第1次提言」#1をとりまとめ、当面の電力供給の確保に向けた政府の取り組みの強化を求めるとともに、中長期的なエネルギー政策のあるべき姿について見解を示した。

その後政府は、エネルギー・環境会議において来年夏の「革新的エネルギー・環境戦略」の策定に向けた議論を本格化させると同時に、総合資源エネルギー調査会の下に基本問題委員会を設置し、エネルギー基本計画の見直し作業に着手した。また、先般、当面の電力供給の確保に向け、「エネルギー需給安定行動計画」を策定したところである。

今後、政府は、各会議での検討を更に続け、年末までに革新的エネルギー・環境戦略の「基本方針」およびエネルギー基本計画のベストミックスの基本的考えを示すこととしている。

こうした検討を含め今後の政府のエネルギー政策に産業界の意見が十分反映されるよう、経団連では、改めて以下の意見をとりまとめた。

1.当面のエネルギー政策について

  1. (1) 何よりも最優先すべきは、福島第一原子力発電所の事故の収束である。引き続き、関係者が一丸となって事故収束に向けた工程表の着実な実現に取り組むことが強く求められる。併せて、被災者が一刻も早く元の生活を取り戻せるよう、その生活再建や地域の復興への最大限の支援が必要である。

  2. (2) 本年夏は、東京電力、東北電力管内において電力使用制限令が発動されたのをはじめ、各地で電力需給がひっ迫する事態を生じた。
    停電の回避に向け、企業は懸命の努力を行ったが、自家発電設備の導入・活用や省エネ設備の新規導入によるコスト増、休日や早朝・深夜への事業活動のシフトによる従業員の生活への多大な影響など、非常に大きな負担を伴う結果となった。本年の冬や来年の夏に向けて引き続き電力不足が懸念されるが、こうした状態が続けば、国民生活に多大な影響を与えるとともに、国内産業の空洞化をさらに加速化させることとなる#2

  3. (3) 政府が発表した「エネルギー需給安定行動計画」では、電力消費の見える化の徹底、需要家の省エネの促進、多様な主体による供給力の増強支援といった対策が盛り込まれたが、関連する予算措置や規制緩和を着実に実行すべきである。

  4. (4) また、内閣の施政方針にもある通り、地元自治体との信頼関係の構築を前提に、定期点検終了後、安全性の確認された原子力発電所の再稼働が非常に重要である。政府には、一貫した方針のもと全力で地元自治体の信頼回復に取り組む責務がある。

  5. (5) 同時に、今夏の取り組みを通じ、国民や企業のなかに省エネや節電の重要性に対する意識が高まり、様々な具体的行動となって表れた。これを一過性に終わらせないためにも、政府は、引き続き、省エネ、節電に関する国民運動を強化すべきである。

2.中長期のエネルギー政策のあり方

(1) 解決すべき重要課題

  1. 東日本大震災に伴う事故により、原子力発電所の安全性に対する国民の信頼は大きく損なわれた。同時に、わが国のエネルギー供給体制の脆弱性も顕在化した。安全性・信頼性を確保し、国民が安心できる体制の確立は、エネルギー政策の大前提といえる。

  2. 雇用の維持・創出、財政再建などの諸課題に対応するためには、2020年までの平均で名目3%、実質2%という政府の成長戦略目標の実現が不可欠である。そのためには、国民生活や経済活動の基盤的インフラであるエネルギーの安定供給と経済性の確保が欠かせない。

  3. わが国のエネルギー分野の技術力は国際的に見て極めて高いレベルにある。これをさらに向上させ、国内のみならず海外への普及を図ることにより、地球温暖化防止、原子力の安全性向上、化石燃料の確保といった地球規模の諸課題解決に貢献することは、国際社会におけるわが国の責務といえる。

以上の観点から、わが国のエネルギー政策は、「国民の安全・安心の確保」、「持続的な経済成長」、「国際社会への貢献」という三つの重要課題の解決を目指して展開すべきである。

(2) 柔軟かつ多様なエネルギー利用計画の策定

  1. エネルギー政策や計画は、時間軸を考慮して策定されなければならない。特に2020年においては現在の最先端の技術がどこまで普及するのか、また、2030年においては革新的技術がどこまで利用可能となるのか等の、冷静な見極めが重要である。
    例えば、省エネ、蓄エネ、再生可能エネルギーなどの製品や技術の開発・普及に関し、過大な見通しに基づいた電力の供給計画を立て、結果として未達成に終われば、需給に乖離が生じ、供給不安を招来しかねない。新たな大型の発電所の建設には長期間を要することを勘案すれば、こうした見通しはむしろ保守的でなければならない。

  2. 現行のエネルギー基本計画は、2030年の発電電力量を大幅な省エネ(約3割の効率改善)を進めることにより2007年度と同程度に抑制しようとしている。そのうえで、電力量全体に占める原子力の比率を53%、再生可能エネルギーの比率を21%とし、残りを化石燃料で補う計画となっている。

    1. (ア) 原子力発電については、まず、事故原因の徹底究明と万全の再発防止策を行うことで、国民の信頼を回復する必要がある。このためには、今後取りまとめられる「東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会」の報告に基づき、徹底した議論が求められる。
      中長期のエネルギー政策における原子力の位置づけについては、国民が安心できる事故の再発防止策の確立、規制体制の再構築等を踏まえ、原子力事業に対する国の関与や使用済み核燃料の処理、核燃料サイクルのあり方等とあわせて、本格的な検討を行う必要がある。
    2. (イ) 再生可能エネルギーについては、既に現計画において非常に野心的な導入量が想定されている#3。しかし、低い経済性、出力の不安定性、地理的な制約等といった現状を踏まえれば、改めて全国的な調査を行ったうえで、立地の裏付けも踏まえた現実的な導入目標を具体的に策定する必要がある。こうした点は、省エネの目標についても同様である。
    3. (ウ) 化石燃料については、非在来型の資源への期待が集まる一方、新興国の急成長等に伴う価格上昇や供給不安などが懸念されるなど、先行きが不透明である。
  3. 以上を踏まえ、当面、エネルギーおよび電源構成についての新たな目標は、一定の幅をもった柔軟な計画とすべきである。そのうえで、安全性及び経済合理性の確保を前提に、徹底した省エネを進め、原子力、化石燃料、再生可能エネルギーといった多様なエネルギーそれぞれについて、最大限に効率的、効果的な利用を可能とするための諸施策を提示することが重要である。
    わが国が、柔軟で多様なエネルギーの選択肢を保持し続けることが、リスク分散とともに、わが国の資源国に対する交渉力を維持・強化する観点からも重要である。

(3) 安定した電力需給の実現

  1. エネルギー政策の見直しにおいては、大きく毀損したベース電源#4をどのように確保していくかが最も重要な課題の一つとなる。特に、原子力は、わが国の電源構成の中で、これまでベース電源として基幹的な役割を担ってきた。政府は、原子力が今後とも一定の役割を果たせるよう、国民の信頼回復に全力を尽くさなければならない。

  2. 再生可能エネルギーの開発・普及は、地球温暖化対策、自然資源の有効活用等の観点から重要である。しかし、風力や太陽光は、コストが高く出力も不安定であることから、とりわけ短・中期的にベース電源等の役割は期待できない。
    将来的に、わが国の電源構成において基幹的な役割を担えるようにするためには、コストの低減、高効率化や蓄電池等を含めた系統安定化のための技術革新を進めることが不可欠である。また、地熱発電や風力発電等については、現在政府部内でも検討が行われている通り、思いきった立地規制の緩和等が不可欠である。

  3. 原子力や再生可能エネルギーを取り巻く現状に鑑みれば、当面、供給能力の弾力性に優れた化石燃料による、エネルギーの安定供給の確保が重要となる。他方、化石燃料は、引き続き世界的な需要拡大が見込まれ、高価格で推移するリスクがある。特に新興国の需要拡大に伴い資源調達におけるわが国のシェアが低下する中、十分な調達力(価格、量、質)を確保することが大きな課題となる。
    そこで、わが国のエネルギーの選択肢の多様性を維持しつづけることで資源国に対する交渉力を確保するとともに、官民協力による資源外交を積極的に進めることが重要である。また、民間企業としての経営判断の尊重を前提に、複数の企業による共同の資源調達の促進も議論されるべきである。
    さらに、化石燃料の一層の高効率利用に向けた技術開発の推進を図ることが必要である。

  4. 電力に対する需給を緩和するうえで、高効率家電やLEDなどの省エネ製品の普及や、省エネ技術・製品の開発に対する政策的支援など最大限の努力を行う必要がある。他方、本年夏の節電対策が事業活動に多大な影響を与えたことから、経済性を無視した省エネを課す政策はとるべきではない。
    中長期的には、スマートメーター等の活用により、きめ細かな供給情報に基づいて、効率的に電力需要を管理することが可能となる。各地でスマートコミュニティ等の実証実験も進められているが、政府は積極的に支援すべきである。経団連としても、未来都市モデルプロジェクト等を通じ、最先端の技術の開発や内外への普及に努めていくつもりである。

  5. 今回のエネルギー政策の見直しでは、送配電システムの機能強化や電力市場におけるさらなる競争原理の導入、発送電部門の分離を含む電力システム改革が論点として挙げられている。
    地域間、東西間の電力系統網に関しては、連系強化について具体的な検討を進め、電力供給の強靭性、柔軟性を確保すべきである。
    また、発送電の分離については、電力の安定供給や経済性に多様な影響を及ぼす。電力の安定供給の確保、電力料金の抑制といった政策目的を達成する観点から、他国の経験を十分踏まえ、メリット・デメリットの両面を客観的に分析すべきである。とりわけ、現在のわが国のように電力供給力が毀損されている状況下で発送電分離がどのような効果をもたらすのか、十分な検討が必要となろう。

(4) 技術を活かした国際貢献の推進

エネルギー分野の技術力をさらに向上させ、海外に普及させることは、国際貢献の観点からも、また、世界的な化石燃料需要の抑制を通じたわが国の資源調達力の維持・強化という観点からも極めて重要である。

  1. わが国は、化石燃料の高効率利用に関し、様々な分野ですぐれた技術を保持している。例えば、石炭火力発電については、既に確立している超臨界、超超臨界技術の海外への普及に官民協力して取り組むことが期待される。また、IGCC(石炭ガス化複合発電)、IGFC(石炭ガス化燃料電池複合発電)、CCS(炭素の回収・貯留)などの技術の開発・実用化をさらに推進し、国内外への普及を図ることも重要である。

  2. 原子力分野では、新興国を中心に原子力発電の増加が見込まれるなか、日本の技術への国際的な期待は現在でも大きい。わが国は、これまでの研究・開発の成果や、福島第一原発事故に関する対応・教訓を活かし、原子力発電の安全性を世界最高水準に高めながら、原子力利用を模索する国々の関心に応え、世界の原発の安全利用に貢献していく必要がある。
    そのためには、原子力発電所事故への対応や安全性の向上に資する研究開発および人材の育成・確保に引き続き取り組むべきである。
    また、安全性の強化に向けた国際的なルール作りや緊急時の国際協力体制整備に積極的に貢献すべきである。

  3. わが国の技術の海外への普及を後押しするうえで、二国間オフセット・メカニズム#5の具体化が重要である。今後、関心ある途上国との間の二国間協議を加速し、途上国側のニーズを十分勘案しながら省エネ・低炭素化プロジェクトを形成していくことが重要である。
    また、途上国において日本の技術を活かした高効率設備の導入を促すうえで、ODA(政府開発援助)をはじめとする公的資金を戦略的に活用していく必要がある。

(5) 温暖化政策とエネルギー政策の一体的推進

  1. 中期目標の見直し
    わが国の温室効果ガスの約9割はCO2であり、温暖化政策はエネルギー政策と表裏の関係にある。温暖化の中期目標の国内削減分(いわゆる真水部分)は、エネルギー政策に明確に裏打ちされたものでなければならない。
    しかし、現在のエネルギー基本計画が2030年のわが国のエネルギー需給の姿を描いているのに対し、温室効果ガス削減の中期目標は2020年を目標年としているなど、双方の関係は不透明である。このことが、国民が中期目標を現実感をもって理解できない最大の要因といえる。
    そこで、今回の中長期のエネルギー政策の議論のなかで、温室効果ガスの中期目標も一体的に検討し、ゼロベースで見直すべきである。
    また、温暖化交渉の中で、目標見直しに着手する日本の事情を速やかに国際社会に説明し、理解を得る努力を誠意をもって行うことが重要である。

  2. 地球規模での温暖化対策の重要性
    温暖化対策については、わが国は、2050年に世界の温室効果ガスを半減するという目標に国際的にコミットしており、この実現に向けてわが国の優れた技術で積極的に貢献を行う必要がある。また、第1次提言でも述べたように、温暖化対策については、国内に閉じた政策ではなく、地球規模の温室効果ガス削減に貢献していく取り組みに重点を置くべきである。
    産業界は引き続き世界最高水準の環境・エネルギー技術の開発・実用化と国内外への普及に主体的に取り組むが、政府の税や規制等がこの足枷とならないようにすべきである。
    特に、地球温暖化対策税は、エネルギーコストを上昇させ、産業界から、技術開発の原資を奪い、国際競争力を削ぐことから導入すべきではない。
    また、先の国会で法案が成立した再生可能エネルギーの全量固定価格買取制度の設計にあたっては、国民・企業が買取費用を長期間負担することをふまえ、国民生活や事業活動に過度な負担とならないようにすべきである。

3.おわりに

今回の提言では、政府における「革新的エネルギー・環境戦略」等の検討の開始を受けて、エネルギー政策において取り組むべき重要課題と、主たる論点について意見をとりまとめた。経団連では、政府の検討の進捗状況に合わせて、引き続き産業界としての意見を発信していくつもりである。

エネルギー政策は国民生活や企業活動に密接に関連する。政策の立案にあたって、政府には、エネルギー・環境会議の議事録を含め、あらゆる情報を開示し、透明で国民に開かれた議論を行うことを改めて求めたい。

以上

  1. http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2011/078/index.html
  2. 経団連が行ったアンケートによれば、製造業が今夏の需給対策として行った対策において、自家発電設備の活用や休日や早朝・深夜への事業活動のシフトが効果があったとする回答が多かったが、燃料費等のコスト増や従業員の生活への影響等に鑑み、同様の取り組みが今後も可能とする回答は、極めて少数であった。また、製造業の6~8割が、今夏のような電力需給のひっ迫が今後2~3年続いた場合、生産や投資、収益に悪影響が出ると回答している。
    http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2011/101.pdf
  3. 現行のエネルギー基本計画の再生可能エネルギーの導入計画に関し、日本エネルギー経済研究所は以下を推計。(1) 太陽光発電について、同計画は、2030年1200万世帯導入を想定しているが、耐震基準等を勘案すれば、導入限度は約1000万戸。また、2030年1200万世帯導入には、毎年55万世帯への導入が必要だが、2009年度導入実績は15万件。(2) 風力発電については、2030年に1000万kWの導入が想定されているが、陸上での建設ポテンシャルは640万kW。したがって、自然公園や洋上への大規模立地が必要。
    (同研究所「大震災後のエネルギー政策のあり方」http://eneken.ieej.or.jp/data/3993.pdf
    省エネに関して、1987年度から2007年度の20年の間に1.65倍となっている電力量(発電ベース)について、現行エネルギー基本計画では、2030年に、2007年度とほぼ水準となると推計している。
  4. 電力供給においては、コスト、出力の安定性、需要変動に対する機動的な出力調整能力といった電源の特性に応じて、各電源を、ベース電源、ミドル電源、ピーク電源として活用し、最適な組み合わせ(ベストミックス)を構築していくことが重要である。ベース電源とは、一定量の電気を安定的に供給する役割を担うもの、ピーク電源とは、需要の変化に応じて供給を調整する役割を担うもの、ミドル電源とは、ピーク電源とベース電源の二つの役割を担うものである。
  5. 二国間約束の下、技術移転の結果実現した排出削減分を、わが国の貢献分として評価する仕組み。現在、多くの実施可能性調査(Feasibility Studyプロジェクト)が進みつつある。

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