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Policy(提言・報告書) 科学技術、情報通信、知財政策 職務発明の法人帰属をあらためて求める ~わが国企業の産業競争力強化に向けて~

2013年5月14日
一般社団法人 日本経済団体連合会
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政府が6月にとりまとめる成長戦略に向け、多様な政策分野から具体策の結集が求められており、知財政策についても重要な役割が期待される。

経済成長の実現に資するイノベーションの創出のためには、民間企業の研究開発投資を最大限に引き出すことが不可欠である。こうした観点から知財面で大きな制約となっているのが、わが国の職務発明制度である。

職務発明制度については、経団連が2月の提言#1において、わが国企業の競争力強化の観点から法人帰属への改正を求めた。政府の知的財産戦略本部が近くとりまとめる「知的財産政策ビジョン」においても、そのあり方について言及され、法人帰属が今後の方向性のひとつとして示される見込みである#2

経団連では、今次の成長戦略の策定を視野に、職務発明の法人帰属の重要性に関し、あらためて考え方を以下に記す。

1.わが国の職務発明制度の現状

(1)訴訟リスクのある予見性の低い制度

職務発明とは、従業者が職務上行った発明のことである。わが国においては、職務発明に係る特許を受ける権利は原始的に従業者に帰属し、使用者である企業は、その権利を従業者から譲り受けるため「相当の対価」を従業者に支払うことが特許法で規定されている。

わが国の職務発明制度は、特に2000年代初頭から高額の対価の支払いを認める判例が相次ぎ、「相当の対価」の算定基準の不明確さによって企業に偶発的に生じる債務リスクが問題となったため、2004年に改正された。しかし、制度の根幹に関する議論が十分なされることなく部分的改正を急いだため、依然として訴訟リスクのある予見性の低い制度#3となっている。

(2)国際競争上不利な制度

職務発明規定を有している国の大半は、特許を受ける権利を原始的に法人に帰属させている。米国のように職務発明規定を有していない国も、個々の契約や判例の積み重ねによって、法人帰属と呼べる実態となっており、また報奨は企業の自由裁量である。さらに、職務発明に対する「報酬」の請求権を認めていても、その「報酬」は、契約等で予め定めた賞与や報奨を指すため、企業にとって予見可能なものとなっている。

これに比べ、わが国では、特許を受ける権利を原始的に発明者に帰属させ、発明者が企業に権利を譲渡する際は、他国のような「報酬」ではなく「対価」が得られることが法定されている。「対価」は、特許権の財産的な価値とされ、事業化に成功した場合にはその利益まで勘案して算定されている。さらに、「対価」の算定の妥当性については、最終的に裁判所で判断されるため、企業は長期にわたりリスクを抱えることとなる。わが国の職務発明制度は、国際競争上不利なものであり、海外企業とのオープンイノベーションや事業再編等を行う際の支障となっている。

2.わが国職務発明制度の改正の方向性

(1)「特許を受ける権利の法人帰属化」の必要性

職務発明は、従業者が企業の有する設備や情報を活用しつつ、職務として行った業務の結果発生するものである。さらに事業化に至るまでは、発明者以外の他の従業者の貢献が不可欠である。

こうしたなか、発明者のみが「対価」を請求できる現在の枠組みは、従業者間の不公平感の醸成にもつながるものである。わが国の職務発明の法人帰属への改正は、この改善に資するものであり、早期に実現することが必要である。

われわれの提案する法人帰属への改正により、発明者への「対価」の支払いは法的義務ではなくなるが、職務発明は企業にとって極めて重要であり、引き続きその奨励に努めることは当然である。対価請求権のない職務発明の法人帰属への改正は、企業が自らの創意工夫によって、発明者を含めた全ての従業者のモチベーション向上のための施策を充実させる契機となる。

(2)「職務発明規定の廃止(=契約への移行)」の懸念

職務発明規定を廃止し、米国同様、雇用契約に規定する報酬のみ認める制度とすべきとの主張もある。しかし、職務の内容、報酬や職務発明に係る権利の帰属等が雇用契約の中で明確となっている米国とわが国の状況は異なっており、こうした契約を個々の従業者と取り交わすことは容易でない。また、これまでの職務発明制度の延長線上で取り決められる可能性も否定できないため、企業の訴訟リスク低減や予見可能性向上が実現できないおそれがある。

3.職務発明の法人帰属への改正を成長戦略に

産業競争力強化に向けて、わが国企業がイノベーションのフロントランナーとなるための世界最高水準のビジネス環境整備が必要である。対価請求権のない職務発明制度の法人帰属への改正は、そのための重要な制度改革である。

経団連では、6月の成長戦略のなかに職務発明の法人帰属化が盛り込まれることを強く求める#4とともに、従業者のモチベーション向上に資するインセンティブ設計についても、積極的に検討を深める所存である#5

以上

  1. 「『知的財産政策ビジョン』策定に向けた提言」(2013年2月19日)
  2. 「知的財産政策ビジョン」においては、職務発明について「法人帰属」と「契約」の二つの選択肢が例示された上、「産業競争力に資する措置を講じる」と記される見通しである。
  3. 「相当の対価」の決定にあたっては、当事者間の自主的な取り決めに委ねることを原則としたものの、基準を定めるプロセスなどから対価の支払いが「不合理」であった場合には裁判所が対価を算定するとされ、且つ「不合理」であるか否かの基準が明確でない。
  4. 今回の提言においては、企業における権利の帰属の問題を念頭に置いており、大学や研究機関等が契約によって権利帰属や報酬内容を定めることを排除するものではない。
  5. 日本知的財産協会からも「成長を加速するイノベーションのための職務発明制度のあるべき姿」が4月26日に公表され、対価請求権のない法人帰属化が求められている。

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