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Policy(提言・報告書) アジア・大洋州 日印ビジネス・リーダーズ・フォーラム2013共同報告書

(和文仮訳/英文正文
2013年5月29日

はじめに

日印のビジネス・リーダーは、インフラ開発や貿易投資での両国間の協力が活発に進められていることを歓迎する。2011年8月に発効した日本・インド包括的経済連携協定(CEPA)が、日本で発給された原産地証明が約3万件に達する等、積極的に活用されていることは、その証左である。両国はCEPAを土台に自由貿易を促進することが重要である。

また、日印のビジネス・リーダーは、アジアが欧州の金融不安や他の先進国の景気減速の影響を克服し、世界の期待に応えて世界経済の成長エンジンとしての役割を果たすよう、日印両国が協力してこれに貢献していくべきであると考える。

日本の民間部門のインドに対する関心は高く、日系企業の進出が増加するだけでなく、業種の拡がりも見えるようになっている。2012年10月現在で進出日系企業数は926社となっており、前年同月より114社増加している。インドのIT、製薬企業の多くが、日本市場への足がかりを築こうとしている。

日印のビジネス・リーダーは、2011年12月のニューデリーでの前回会合に引き続き、両国が共有する民主主義と自由貿易という普遍的価値観に立脚して、日印間の貿易・投資を強化し深化させるために意見交換を行った。その成果を基に、両国首脳に以下のとおり共同報告書を提出する。

1.これまでの成果

日印のビジネス・リーダーは、両国間の経済関係の強化に資する以下の成果を歓迎するとともに、さらなる進展を期待する。

  1. (1) 日本のメガバンクのインド都心部での支店開設許可
  2. (2) 社会保障協定の署名
  3. (3) インドにおける複数ブランド小売業の規制緩和(10の州・連邦直轄地)
  4. (4) 45億米ドルのDMICファシリティの立ち上げと、DMIC開発公社への日本政府の資本参加と役員派遣

2.ビジネス環境の改善のための日印CEPAの活用の促進

CEPAは重要な制度的インフラとして、日印間のビジネスを一層活性化し磐石にする上で必須のものである。日本側は、インドの通関当局に対し、CEPAの規定の周知徹底が必要である旨を強調した。また、CEPAの枠組みにおいて設置されているビジネス環境の整備に関する小委員会の第1回会合が2012年10月16日に開催されたが、今後は、これを定期的に開催し、さらなるビジネス環境の改善に活用していくべきである。

CEPAに基づき、ビジネス・リーダーは、両国政府の規制当局に対し、サービス分野での二国間貿易の促進という観点から、資格承認に関する国内規制について議論を開始することを求める。

インド側からは、海産物・農産物の日本市場へのアクセスと、非関税障壁の除去が課題であることを指摘するとともに、インドから日本への食品輸出、特に海産物の輸出における、試検、検査、記録管理義務の合理化を求めた。

また、ビジネス環境の整備によって、インドにおいて国際競争力ある産業を育成すること並びに、日本の中小企業のインド進出を促進することが重要である。日本の中小企業は、インドの若年労働者の雇用機会を増大し、裾野産業の育成に貢献する。日本側は、円滑な土地収用、物品サービス税(GST:消費税相当の間接税)の早期導入、中央政府と州の間における不整合な徴税方針・制度の解消、みなし課税における実際の利益とみなし利益とのかい離の是正、通関・州際貿易手続のワンストップサービス化、都心部での外国金融機関の開設規制の撤廃、対外商業借入(ECB)の規制緩和や金融・保険分野での規制緩和などのビジネス環境に関する当面の課題の早期解決の重要性を強調した。

両国のビジネス・リーダーは、日印間の社会保障協定が2012年5月に実質合意、11月に署名されたことを歓迎した。インドは発効に必要な手続きを全て済ませ、その旨を発表している。両国のビジネス・リーダーは、日本政府に対し、早期に所要の手続きを済ませ、その旨を発表し、ビジネス環境の改善、両国間の人の移動の促進に向けて協働していくよう求めた。

あわせて、インド政府による複数ブランド小売業への外国企業による直接投資受入れの決断を高く評価した。

インドのIT、ITES(IT Enabled Services)、専門職分野等のサービス部門は、日本市場に強い関心を有している。世界的な高い評価を裏付けとしたビジネス実績を有するインドの製薬会社も、日本の市場に高い関心を示している。インド側は、インド企業が日本国内で日本企業と対等に活動できるような市場アクセスの実現に期待を表明した。

両国間の人的交流の拡大には、商用・就労査証の円滑な取得が不可欠である。今後、日印間の人的交流が一層拡大していくことが期待される中、両国のビジネス・リーダーは、査証発給の一層の簡素化・迅速化を求めた。

3.インドにおけるインフラ整備の重要性と日印協力の推進

日印のビジネス・リーダーは、電力、道路、鉄道、港湾等の産業・社会インフラ整備や、ロジスティクス、工業団地等の整備がインドの産業発展にとって喫緊の課題であるとの認識を共有し、インド政府の第12次5カ年計画のインフラ整備の方針を評価した。

インド側は、インド政府の国家製造業政策による包括的な枠組みの中でDMIC関連プロジェクトを推進することは、両国に大きな利益を得るとの考えを示した。

日印双方は、DFC(デリー・ムンバイ間の貨物専用鉄道)の完成に向け、確実かつ迅速な推進を図るべきであるとの認識で一致した。また、デリー・ムンバイ間産業大動脈構想(DMIC)及びインド南部中核拠点開発構想で提案されているプロジェクトについては、インフラ全般に亘って日本企業の技術と専門知識、日本の長期的な資金を活用する観点から、閣僚級の官民政策対話、DMIC次官級タスクフォース、セクター別の協議等の場を活用し、日本企業のプロジェクトを速やかに推進するために、課題を確実に解決するよう、日印政府に継続して要請していくことで一致した。さらに、45億ドルのDMIC Facilityの立ち上げ、国際協力銀行(JBIC)からの資本参加とDMIC開発公社への日本政府からの役員派遣といった環境整備が進展していることを歓迎した。これらは、スマート・コミュニティ開発を含むインフラ分野において革新的な最先端の技術をもたらす。

両者は、チェンナイ・バンガロール間産業大動脈(CBIC)の前進に向けて対策を講じる必要があることを指摘し、ムンバイ・バンガロール等のその他の開発構想についても早期に着手することへの期待を示した。

日本側は、インドでの省エネ・環境配慮型社会の早期実現のためには、各プロジェクトに関連する法制度・規制の実効性を高めることや、公害のない開発への財政的インセンティブが必要であると指摘した。

日印のビジネス・リーダーは、インフラ整備に関連する法規制の緩和、ファイナンス面の支援、PPP参加条件の改善等について、引き続き日印両政府に要請していくことで合意した。そのためにも、定期的な官民対話の場を設置し、話し合うことが必要である。

なお、インド国内の電力不足解消に対応し、日本企業が協力していくうえで、スムーズな許可、主要な燃料である天然ガス、石炭供給の安定的確保、発電・送電・配電・消費者への売電に関連する中長期的な契約の締結が必要である。

4.戦略的分野における協力の強化

日印のビジネス・リーダーは、日印間のエネルギー分野での商業ベースの協力の必要性を認識し、日本のエネルギーセクターの技術力のインドでの普及に向けた方法をさらに検討していくことを求めた。インド側は、エネルギー分野での協力を強化するため、インドにおいて日本の環境技術を紹介する見本市を開催するよう求めた。日印のビジネス・リーダーは、日印のエネルギー対話の着実な進捗を期待している。

加えて、自動車、機械、化学等の分野に加え、電気機器、通信機器、重工業、鉄道管理システムなどの分野における先端技術の導入や、農業や環境管理における技術交流を重視することが必要である。

インドにおける電力部門のインフラ改善の一環として、原子力発電プラント建設における日印協力は戦略的に重要である。こうした観点から、日印のビジネス・リーダーは、両国政府が原子力発電所の安全性を最大限確保しつつ、原子力協定の締結を含む一層の協力に取り組むことを求める。

希少資源をめぐる国際的な競争を踏まえ、レアアースのような戦略的に重要な資源をインドで開発する新たな日印共同イニシアティブの実現が期待される。

このような戦略分野での共同事業を推進する上で、ソフトインフラとしての良質な人材の育成が不可欠である。日印のビジネス・リーダーは、既に成功例が報告されている日印人材育成協力を基礎として、技能の訓練と認定、日印の学生の相互交流や企業でのインターンシップ等を通じたスキルの向上のための協力を進めることの重要性を認識した。

インド側は、最近東京にて政府レベルで話し合われた通り、インドにおける技能開発センターの設置に対する日本の投資の必要性を強調した。

5.アジア・太平洋地域における日印協力

日印のビジネス・リーダーは、2015年のASEAN経済統合やミャンマーの民主化と国際社会への復帰により、両国の貿易・投資協力にとって面的広がりの可能性が高まっていることを認識し、日印戦略的グローバル・パートナーシップがアジア・太平洋地域の経済発展に好ましい影響を及ぼすと考える。

日印のビジネス・リーダーは、交渉が開始された東アジア地域包括的経済連携(RCEP)について幅広く有益なものとなるよう、引き続き共同でイニシアティブを発揮することで合意した。RCEPは物品貿易、サービス貿易、投資の自由化のほか、原産地規則の統一を通じて同地域における生産ネットワークの拡大やサプライチェーンの強化に貢献する。

総括

日本とインドは、相互の尊敬と協力の精神に基づき、歴史的に強い結びつきを構築してきた。加えて、両国には、相互補完的な関係及び地政学的重要性に基づいて戦略的経済連携を発展させうる大きな潜在性がある。例えば、インド洋における海賊問題への対応では、日印の連携が有効であり、シーレーンの確保の観点からも重要である。このような観点から、2012年6月、海上自衛隊とインド海軍が初めて二国間の合同演習を行い、相互理解を深めたことを歓迎する。また、両国のビジネス・リーダーは、サイバー・セキュリティ、テロ対策の分野での協力関係を強化することも求めた。

日印官民は、CEPAを土台に両国企業に利益をもたらす強靭な経済アライアンスが育つように、協力して努力をする必要がある。

日印のビジネス・リーダーは、アジアでも主要な二つの民主主義国家の共同の取り組みが、アジア太平洋地域の安定と繁栄に寄与することを確信する。

最後に、本フォーラムのメンバーは、日本の安倍首相とインドのマンモハン・シン首相が我々に寄せていただいた信頼に対し、深い謝意を表するものである。

印日ビジネス・リーダーズ・フォーラム共同議長
ババ・カリヤニ
日印ビジネス・リーダーズ・フォーラム共同議長
米倉 弘昌
以上

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