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Policy(提言・報告書)  科学技術、情報通信、知財政策 理工系人材育成戦略の策定に向けて

2014年2月18日
一般社団法人 日本経済団体連合会

安倍政権は、人材育成を成長戦略の重要な柱と位置付け、昨年11月には「国立大学改革プラン」を公表した。これを受け経団連では、昨年12月に「イノベーション創出に向けた国立大学の改革について」を公表し、改革のさらなる具体化を求めたところである。

同プランには、イノベーションの創出や産業競争力の維持・強化に不可欠な理工系人材の育成戦略を年度内に策定する旨が記されている。

既に、欧米をはじめ各国ではSTEM#1教育やMINT#2教育を、創造性や起業家精神の涵養までも加味しながら強化している#3。他方、わが国においては、「理科離れ」が進むなかで、大学が輩出する理工系人材の質の低下が懸念されている。今こそ理工系人材の育成を国家の重要戦略の一つとして積極的に推進すべきである。

理工系人材育成のためには、初等教育から高等教育まで含めた包括的な施策が求められるが、以下では、主として大学・大学院教育を中心に、われわれの考えを記す。

1.大学の機能分化と特色ある教育の実践

わが国においては、理工系に限らず、大学・大学院の改革が不可避である。昨年12月の「イノベーション創出に向けた国立大学の改革について」で指摘したとおり、国立大学は再編・統合を伴う形で「研究重点型」「教育重点型」「地域貢献重点型」等への機能分化を進め、各々の強みを活かした特色ある研究・教育方法により、多様かつ優秀な人材を社会に輩出する必要がある#4。その際、特に優秀な人材については、その能力、資質をさらに伸ばすための教育#5も重要である。

大学・大学院は、人材育成に関する目標、必要な履修科目、具体的な教育内容、教育の成果等に関する情報公開を進めるべきである。

2.教育内容の充実と質保証

諸外国では高等教育政策を強化し、教育内容の質を保証するための取り組みが本格化している。例えば、欧州においては、域内の高等教育の質保証と制度の共通化による「欧州高等教育圏#6」の構築が進められている。

わが国においても、質保証の議論が行われてはいるものの、教育内容がグローバル水準に達していると認められず、海外の大学・大学院との単位互換が進まない事例も生じている。

今後は、国際的な質保証をも視野に入れながら教育内容、制度を充実させるとともに、海外の大学・大学院との連携強化、優秀な外国人教員および学生のわが国への招聘、留学を積極的に進めることで教育環境をグローバル化し、教育の国際的通用性を高めることが強く求められる。その上で、卒業要件の厳格化等により、卒業生の質の保証を行う必要がある。とりわけ博士課程については、高度理工系人材と呼ぶに相応しい人材の輩出が求められる。

具体的な方策としては、基礎科目の修得に加え、幅広い能力を十分に涵養するため、大学の学部間の壁を取り払い、プログラムを機動的かつ柔軟に編成することも必要である。個々の大学・大学院には、教育内容に対し、産業界出身者から意見を採り入れる仕組みを構築することも求めたい。

3.若手の育成を目的とした継続的施策の実施

次代の国づくりを担う優秀な若手理工系人材の育成に向け、諸外国では様々な施策が講じられている。わが国でも若手の育成を目的とした施策の充実が不可欠である。

特に、未だ「徒弟制度」の色彩の強いわが国の大学・大学院の講座制の現状に鑑みれば、ポスドクを含む若手の有望な研究者に対し、自らの発意による研究に果敢にチャレンジできる研究資金や研究環境を継続的に支援するファンディングの仕組み#7が不可欠である。併せて、国立大学教員の評価を厳格化することで新陳代謝を促し、優秀な若手がポストを得やすい環境を整備することも必要である。

4.女性理工系人材の重要性

本格的な人口減少社会を迎えたわが国においては、女性の活躍の推進が、経済成長の大きな鍵を握る。わが国の理工系では、圧倒的に男性比率が高いが、革新的イノベーション創出に向けて多様な英知を活かしていくためにも、ダイバーシティの確保が重要な課題となっている。

世界が注目する研究成果を出した女性研究者が登場し、理工系分野の女性の潜在力への期待が高まっている。近年、女性比率の引き上げを目指し、中高生を対象に理工系分野の魅力をわかりやすく説明するといった活動を産学官それぞれに行っているが、こうした取り組みのさらなる拡大に向けた政策支援#8が求められる。

産業界は、能力と意欲のある女性の理工系人材を強く求めている#9。今後は、企業における女性の活躍の状況やキャリアパスをより明確に示すとともに、女性理工系人材が一層活躍できる環境の整備に努めていきたい。

5.産業界との連携・対話の強化

理工系人材のうちアカデミアの世界にとどまる人数は限定的であり、多くは産業界に活躍の場を見出すことに鑑みれば、産業界との意思疎通・共通認識醸成に向けた連携・対話を強めることが不可欠である。

産業界側も、大学・大学院に対する研究開発ニーズや人材育成への期待を明確にするとともに、求める人材像や習得が不可欠と考える科目の明示や、大学への企業人講師の派遣、さらには中長期インターンシップの充実等、従来以上に明確な情報発信や具体的協力の実践等が必要である。インターンシップ拡大に向けては、大学・大学院には企業との対話の窓口や責任者を置く等、体制の強化が期待される。併せて、諸外国の事例#10を参考とした政策支援の充実も必要である。大学院には、従業員の能力の向上に資する社会人向けプログラムの提供を期待する。高等教育専門学校は、実践的な技術者教育が産業界から評価されているところであり、今後も教育の一層の充実により産業界の求める人材を輩出することが期待される。

産業界としても、優れた能力を発揮し、大きな成果を出した理工系人材に対し、適切な処遇を行うことが重要である。

6.初等中等教育における理数科目の関心の向上

理工系人材育成に向けては、初等中等教育における取り組みも重要である。理数系に優れた教員の育成、生徒の関心をひきつける魅力ある授業づくり、スーパーサイエンスハイスクールによる優秀な生徒の能力を伸ばす試み、科学技術分野における海外との青少年交流等、各種の取り組みが求められる。

また、世界トップレベルの日本人研究者が科学技術の意義、素晴らしさ、面白さを若者に伝えることも大きな効果があり、こうした場を増やすべきである。

7.重要な国家戦略としての推進

理工系人材育成は、イノベーション創出にとって極めて重要な課題であり、国家戦略の一翼を担うものである。文部科学省内で局を超えた取り組みが求められることはもとより、総合科学技術会議#11や産業競争力会議と連携し、政策を推進すべきである。

産業界としても、理工系人材育成に関し、イノベーション創出に貢献する人的資本への投資という観点から、これまで以上に積極的に関与していく所存である。

以上

  1. 科学(Science)・技術(Technology)・工学(Engineering)・数学(Mathematics)の略。
  2. 数学(Mathematics)・情報科学(Informatics)・自然科学(Natural Science)・技術(Technology)の略。
  3. OECDのレポート(Educatig Higher Education Student for Innovative Economies:What International Data Tell Us (2014)、Promoting Skill for Innovation in Higher Education (2014))においても、理工系人材に期待されるのはイノベーションへの貢献であると記されており、専門分野のスキル以外にも創造性、起業家精神等が必要であり、課題解決型の教育や分野横断的な教育の方法が必要と指摘されている。
  4. 再編・統合や重点化については、国立大学のみならず公立大学等にも適用できる。
  5. 例えばフランスにおいてはグランゼコール(Grandes Écoles)があり、少人数で高度な専門知識を授けるエリート教育を施しており、理工系分野も存在。
  6. 1999年に29カ国の高等教育担当大臣により署名された「ボローニャ宣言」に基づいた欧州の取り組み。域内の学生は、幅広い分野から質の高い教育課程を選択でき、学位が国境を越えて円滑に評価されることが可能。
  7. 例えば英国においては、王立協会(The Royal Society)が実施しているUniversity Research Fellowshipが有名。大学において終身雇用ポストを有していない優秀な自然科学系(除:医学)の若手研究者を、当初5年、延長3年あり、例外的な場合は10年にわたり支援。ドイツにおいては、エミー・ネーター・プログラム(Das Emmy Noether Programm)が有名。分野を問わず、卓越した若手研究者を5~6年にわたり支援。
  8. 例えばドイツにおいては、「理数系教科支援プログラム(Perspective MINT)」により、子供の頃からMINT科目に親しませることで、将来的に同分野を専攻する学生、特に女性の学生を増やす取り組みを実施。また、連邦教育研究省(BNBF)では、MINT系職種の女性割合の大幅増加を目指し、経済界・学会・メディア等を含めた100団体・機関が参加する「女性のMINT系職種への就業促進全国協力協定」を実施し、助成金も支出。
  9. 近年、理工系女子を対象とした就職セミナーを開催する企業も増えてきている。
  10. 例えば英国においては、CASE(Collaborative Awards in Science and Engineering)という博士課程学生のトレーニングのための奨学金プログラムを実施。学生は大学と企業の指導者の下で研究(最低3カ月間は企業で研究)を行い、博士号を取得。財政支援の大部分は、研究会議(Research Council)から支出。フランスにおいては、CIFRE(Les Conventions Indutrielles de Formation par la Recherhe:研究を通じた育成のための企業との協定)により、企業での研究活動に基づいた博士号取得を支援する取り組みを実施。博士課程学生と雇用契約を締結し給与を支給する企業に対し、高等教育研究省より運営資金を得た研究技術全国協会が補助金を支給。
  11. 米国大統領科学技術諮問委員会(PCAST)は、2012年に「優越を目指して取り組め:100万人の科学技術工学数学の学位をもつ大学学部卒業生の新たな輩出 Engage to Excel: Producing One Million Additional College Graduates with Degrees in Science, Technology Engineering, and Mathematics」と題するレポートを大統領に提出。米国が今後も科学技術分野での優位性を保つために、STEM分野の専門家を今後10年間において100万人増員する必要があるとし、それを実現するための大学教育改革に関する5項目の方策を提言。

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