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Policy(提言・報告書) 産業政策、行革、運輸流通、農業 わが国航空貨物のセキュリティ対策に関する意見

2014年4月15日
一般社団法人 日本経済団体連合会

わが国の航空貨物のセキュリティ強化の一環として、米国政府の要請に応じて国際旅客便搭載貨物を対象に導入された新KS/RA制度#1は、2012年12月から米国向け旅客便に実施され、本年4月からは全世界向けの国際旅客便を対象に完全施行された。それに伴い、爆発物検査の対象となる貨物量は米国向けのみの場合と比べて大幅に増えることが見込まれている。#2

本来、テロ対策等を含め、航空のセキュリティ確保は国の責務において取り組まれるべきであり、こうした取組みに対して民間企業として必要な協力を行うことに異論はない。しかしながら、新制度は、RAを中心に関連業界の努力に多くを依存しており、また、現行体制が破たんした場合の補完体制がないことから、セキュリティ対策に係る負担の増大#3に加え、リードタイムの延長や物流の遅延・滞留リスクの拡大の恐れ#4が高まっていると言わざるを得ない。

そもそも航空輸送の主たる貨物は、わが国企業の競争力を支える高付加価値品であることが多く#5、配送の迅速性が求められる。他方、新KS認定企業数が伸びない中にあって、4月以降は2012年の制度導入時とは比較にならない量の非KS貨物を、RAの限られた検査機器で検査処理しなければならない。空港における物流の遅延・滞留が一度でも発生すれば、多数の企業のオペレーションに深刻な影響を与え、わが国企業の国際競争力を損なうのみならず、物流拠点としてのわが国の地位を失いかねない。

こうした状況に鑑み、わが国政府においては、円滑な物流とセキュリティ確保のための体制整備は国の責務であるとの基本認識の下、検査体制の充実を急ぐと同時に、適切な航空貨物保安体制の確立に向けた改革に早急に着手することが求められる。

喫緊の課題として、新KS/RA制度の完全施行によるわが国物流への影響や民間企業の負担等の実態を把握するとともに、そこから浮き上がった問題を官民で解決していくための協議の実施、KSを新たに取得する荷主やRAに対する検査機器やセキュリティ確保にかかる費用の支援、非KS貨物の円滑な物流の確保に向けた空港施設での検査機器導入支援および検査スペース等の確保に取り組むべきである。

また、現在の運用では、航空機搭載前までの間、悪意の第三者による貨物へのアクセスを効率的かつ効果的に排除することは難しいとされている。そのため、国が主導する形で、非KS貨物の爆発物検査を空港一帯の区域において集中的に行う体制の整備に向けた検討を開始する必要がある。併せて、セキュリティ確保に係る国の管理体制を一元化する観点から、十分な予算・人員の下で国がKS認定を行う制度への移行についての検討も求められる。

以上

  1. 新Known Shipper/Regulated Agent制度:航空貨物のセキュリティレベルを維持し物流の円滑化を図るため、航空貨物について荷主から航空機搭載までの過程を一貫して保護することを定めたICAO(国際民間航空機関)の国際標準に基づき制定された保安対策制度。米国政府は米国に直接向かう旅客便の出発空港において、航空貨物の100%爆発物検査を求めており、それに代わるものとして2012年12月から米国向け旅客便に施行され、2014年4月から全ての国際旅客便に施行された。国土交通省から認定を受けた特定フォワーダー(RA)により貨物に爆発物が紛れ込まないよう保安管理ができていると認定された荷主(KS)の貨物は、空港施設等において航空会社による爆発物検査が軽減あるいは免除される。
  2. 2012年度の米国向け航空貨物量(航空輸送全体)は約15万トンであったのに対し、全世界向け貨物量は約85万トン。空港施設等において爆発物検査を受けるのは非KSからの貨物が大半となることから、本年4月以降、爆発物検査の対象となる貨物量は相当程度増えると予測される。
  3. 新制度は事業者認定要件を厳格化したことから、KSやRAでは、制度の維持のために必要な施設の整備や機器の導入、人員・貨物の保安措置・管理、教育に対する追加負担が発生することとなった。その結果、セキュリティ確保のコストと物流のリードタイム縮小のメリットのバランスを著しく損なうこととなり、2005年から実施されてきた旧KS/RA制度においては約16万社あったKSが約500社弱へと大幅に減少したと言われている。
  4. 米国向けに本制度が導入された際に、物流の遅延・滞留が表面化しなかった背景には、リーマンショック等の経済事情の影響、米国向け貨物量の低迷、荷主による出荷時期の調整、新KS認定のかけこみ増加、フォワーダーの入念な準備等、民間企業の自主的な協力があったと言われている。本年4月から全世界向けの国際旅客便が対象となるに際しても、荷主やフォワーダー等による自主的な協力の動きが行われるとしても、新KS/RA制度を補完する体制が十分整っていないと、空港での滞貨が発生しかねないと懸念される。
  5. 財務省が公表する貿易統計では2012年度の航空貨物輸出額(航空輸送全体)は約14兆円であり、うち機械関係製品が約10兆円を占める。また、集積回路、半導体デバイス、情報通信機器等は、輸出額の80%以上を航空輸送に委ねているものが多い。

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