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Policy(提言・報告書) 総合政策 震災復興の今後の方向性に関する意見

2014年10月14日
一般社団法人 日本経済団体連合会

「震災復興の今後の方向性に関する意見」(概要)
震災復興に関する経団連の主な取組み

東日本大震災の発災から3年半余りが経過した。官民を挙げた関係者の懸命な努力により、多くの被災地域において災害廃棄物の処理や各種インフラの復旧等については目途がつき、まちづくりやなりわいの再生をはじめとする復興に向けた取組みも進みつつある。ここに改めて関係者の尽力に敬意を表したい。

しかしながら、本格復興の観点からは依然道半ばであるといわざるを得ない。被災自治体のマンパワー不足や雇用のミスマッチ、風評被害、住宅整備の遅れ等、従前より指摘されてきた課題は未だに解消されていない。また、震災の記憶の風化を懸念する声も日増しに強まっており、国民全体で風化させないための仕組みづくりも必要である。とりわけ福島県では、多くの住民が今なお先の見えない生活を余儀なくされている。除染廃棄物の中間貯蔵施設の受入れという福島県自身の決断に象徴されるような復興に向けた思いを真摯に受け止め、原子力事故災害の克服に向け、国を挙げての息の長い取組みが求められる。

加えて、地方の共通課題であり、震災前から被災地に重くのしかかっていた人口減少・少子高齢化・産業の空洞化等も、震災後さらに拍車がかかっている。復興需要の縮小も見据え一日も早く本格復興に向けた道筋をつけ、いかに被災地が自立した形で持続可能な成長を実現していくかが大きな課題となっている。

5年間の集中復興期間も残すところ1年半を切り、これまで政府が展開してきた震災復興への取組みに対する評価に基づき、生活や事業活動の基盤の早期再生に向けて重点的に取り組むとともに、集中復興期間後を見据えた戦略と具体的施策の本格的な検討に着手する重要な局面を迎えている。「新しい東北」の実現がわが国の構造的課題の突破口となるよう、国、自治体、企業、NPO、大学・研究機関、市民等関係者が一丸となり、地方創生に向けた取組みと一体的に復興の加速に向けた取組みを強化していく必要がある。

そこでこの機に、今後の本格復興に向けた被災地域共通の課題に対する考え方について下記のとおり提言する。

経団連としても、これまで提言活動、義援金・救援物資の提供、人的支援、被災地産品の消費拡大、情報提供活動等に取り組んできた。今後も福島県を含む被災地に必要な具体的な制度・施策について検討を深め、被災地が自らの足で立たんとする取組みへの支援を中核として、官民一体で復興を積極的に推し進めていく所存である。

1.復興に関する方針・計画の見直し

集中復興期間満了まで生活や事業活動の基盤の早期再生に全力を挙げて取り組むとともに、集中復興期間後も引き続き本格復興に集中的に取り組む環境を維持することが肝要である。「東日本大震災からの復興の基本方針」(2011年8月11日改定、東日本大震災復興対策本部決定)を踏まえ、各復興事業の進捗状況と地域毎の復興の実態を速やかに精査・総括し、積み残し課題の特定と集中復興期間後の対応に関する検討を早期に行う必要がある。その際、東北地方の活性化や持続的成長の観点から、従来の復旧から本格復興を主とした施策体系へと移行を図るとともに、各被災地域の復興状況と課題に即して、復興期間が満了する2020年の「新しい東北」の姿を描き、上述の基本方針や各被災自治体が策定した復興計画の見直し・重点化を進め、必要な財源を確保することが不可欠である。

新たな施策体系への移行にあたっては、個別の復興事業の必要性や効果、支援規模・期間等に関する検証を踏まえ必要な見直しを行い、事業の効率化を図るとともに、資機材やマンパワー不足等が原因で事業の進捗に遅れがみられる分野には必要な予算を集中投下するなど、メリハリを付けた形で真に必要な事業を実施すべきである。併せて、復興特区や復興交付金、各種補助金等の制度については、当面は制度の柔軟化を図りつつ、集中復興期間後の推進体制を含め、本格復興の促進に資する後継措置の検討に着手する必要がある。

同時に、被災3県をはじめとする被災自治体には、到来する人口減少社会を見据え、域外からの人材獲得等をはじめ人口減少・少子高齢化への対策をより強く意識した地域のグランドデザインを描くとともに、個別の市町村による取組みの選択と集中や広域連携の推進等を通じて、本格復興に向けてより主体的な役割を果たすことが求められる。政府においては、こうした自治体のイニシアティブや地方自治体間の連携を後押しする取組みが期待される。

2.立地競争力・成長力の強化

被災地域が本格的な復興を果たすためには、自立的で持続可能性の高い地域経済の再生が不可欠である。本年6月に政府がとりまとめた「産業復興創造戦略」の理念や目標像を踏まえ、各種施策を迅速に実行するとともに、地域の立地競争力と成長力強化に向けた大胆な取組みも求められる。

被災地が企業の投資先として選択されるためには、魅力的な投資環境の整備を通じて、グローバルな立地獲得競争を勝ち抜く必要がある。投資判断は一義的には事業の将来性等に基づくが、国内外の厳しい投資誘致競争下において充実したインセンティブなしには、企業が投資先の候補とすることすら困難といわざるを得ない。事業環境の一層の充実を図るとともに、復興特区制度の積極的活用はもとより、国家戦略特区等も活用するなど、域外から投資を呼び込むための大胆なインセンティブを積極的に導入すべきである。

また、東北地方は従来から、電子部品、デバイス・電子回路等の製造や大学での材料、光、ナノテク分野を対象とした研究に強みを有しており、先進的研究の拠点化に向けた動きもある。この他、官民連携の下、全国に先駆け、再生可能エネルギー利用に伴う系統安定化と、地域の需要調整を兼ね備えた災害に強いエネルギー管理システムの確立に向けた取組みも行われている。これら地域の強みを組み合わせた研究開発や実証を産学官連携により推進し、東北発の新産業や事業の創出につながるよう、大学や研究機関等を核としたイノベーション・クラスターを形成していくべきである。同時に、投資に対してより機動力が高く、将来の地域経済の担い手としても期待できるベンチャーを積極的に受入れることも有用と考えられ、ベンチャーの立地を促進するための方策を講じることも求められる。

併せて、地域経済の底上げに向けては、6次産業化等を通じた一次産業の活性化・高付加価値産業化を図るとともに、地域商業の再生・集積や地域資源を活用した観光等の産業の振興を図ることが重要である。

同時に、本年6月に政府がとりまとめた「風評対策強化指針」に基づいて、被災地産品や観光等の分野で影響が大きい風評対策の強化に官民を挙げて取り組むべきである。とりわけ、風評被害の克服には、現地の放射線の状況や放射線による健康リスクへの正しい理解増進が極めて重要であることから、科学的見地に立った国内外への積極的な情報発信を推進する必要がある。

3.まちづくり

政府の見通しによると、集中復興期間後には一定数の住居が確保される見込みであり、むしろ人口減少・少子高齢化等を見据えた今後の課題について、より深刻な影響が懸念される沿岸部を中心に、対応が急務となっている。高齢者・若者を問わず住みやすく、サステナブルなまちづくりを実現するためには、行政や生活機能のネットワーク化を推し進め行政サービス等の機能の維持と効率化を両立することが重要である。東北全域でまちのコンパクト化・スマート化を図るとともに、相互連携を推進する必要がある。甚大な津波被害を受けた被災地における防災・減災措置に加え、人口減少下における最も効率的なまちづくりの実現に向けた具体的な道筋を早期に検討し、工程表を作成すべきである。

同時に、被災者に対する心のケア、共助を可能とするコミュニティの形成、医療・介護・健康サービスの充実等、ソフト面での地道で粘り強い取組みが一層重要となることから、政府による継続的な後押しが求められる。

4.人材不足・人口減少への対応

被災自治体における人材不足、建設分野をはじめとする技術者・技能者の不足、雇用のミスマッチ、人口の流出に加え、少子化・高齢化という日本全体の構造的な問題への対処も、本格復興に向けた本質的な課題である。

被災自治体の業務支援に関しては、すでに政府や全国の地方自治体、独立行政法人、経済界、個人等から協力が行われているところであるが、引き続き人材ニーズを適切に把握し、人材派遣の継続拡充を図ることが期待される。また、雇用に対する政府支援の継続拡充や、きめ細かな就職支援や職業訓練、広域的な職業紹介等を通じて雇用のミスマッチの解消に努めるとともに、建設分野の技能実習修了者を活用した「建設等分野における外国人受入れの緊急措置」の着実な実施等を進める必要がある。

同時に、生産性の向上、高齢者や女性の一層の活躍の推進、地域で人材が不足する分野における外国人受入れのあり方の検討、少子化対策等を含め、日本全体の課題である人口減少社会への対応に向けた総合的な取組みが俟たれる。

以上

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