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Policy(提言・報告書) 環境、エネルギー 地球温暖化対策に関する提言 -日本の環境外交力への期待-

2014年11月18日
一般社団法人 日本経済団体連合会

1.基本的な考え方

  1. (1) 温暖化は、人類が長期的に取り組まなければならない地球規模の問題である。温暖化問題の解決に向けては、新興国・途上国を含むすべての主要排出国が責任あるかたちで参加する公平で実効ある国際枠組みの構築が不可欠である。

  2. (2) また、途上国・新興国をはじめ各国が経済成長を享受しながら温暖化を防止するためには、技術開発とその地球規模の普及が鍵を握る。新たな枠組みは、技術開発・普及を促進するものとする必要がある。

  3. (3) 日本産業界は、1997年以来、環境自主行動計画低炭素社会実行計画を策定して主体的な温暖化対策を着実に推進し、わが国の京都議定書第一約束期間(2008~2012年度)の目標達成にも大きな貢献を果たした。すでに、2030年の目標を含む低炭素社会実行計画フェーズIIの策定にも取り組んでいる。

    産業界は今後も、世界最高水準の省エネ・低炭素技術の普及や革新的技術の開発に取り組み、積極的に温暖化対策に貢献する決意である。

2.実効ある国際枠組みの構築に向けて

(1) 第20回気候変動枠組条約締約国会議(COP20)への期待

気候変動を巡る国際交渉では、2015年末のCOP21で、すべての国に適用される2020年以降の国際枠組みについて合意することとされている。昨年のCOP19では、自国の目標や対策等を含む「約束草案」を各国が自主的に提示する方式とすることで合意しており、すべての主要排出国の責任ある参加を促すうえで有効な仕組みと評価できる。COP20においては、以上のようなこれまでの交渉成果を踏まえ、着実に交渉を進めることが重要である。

国際交渉の論点の一つである先進国から途上国への技術・資金支援は、優れた環境技術の国際的な普及が真に促進されるようなものとする必要がある。特に、環境性能に優れた製品の普及を促すには、買い手側ヘの支援が重要であることを踏まえ、緑の気候基金(Green Climate Fund:GCF)について、効果的に機能するよう制度設計することが重要である。

(2) 日本政府への期待

わが国も、真に実効性ある国際的な枠組みの実現に向け、積極的に議論に参加することが必要である。

約束草案提出からレビュー、そして最終的な枠組み合意に至る交渉の全過程に亘り、各国が説明責任を果たしつつ、自ら目標を決定できることを主張することにより、すべての主要排出国の責任ある参加を確実に担保すべきである。

総排出量の増加が著しい新興国については、事前事後のレビューを通じ、実効ある取り組みを確保する必要がある。

併せて、昨年11月の攻めの地球温暖化外交戦略や、本年9月の国連気候サミットでの安倍総理スピーチ、10月のICEF(イノベーション・フォー・クール・アース・フォーラム)などこれまでの環境外交の成果を踏まえ、優れた技術の国際的な普及や革新的な技術の開発への取組みが正当な評価を得る枠組みとすることも重要である。

特に、世界の温室効果ガス排出量に占めるシェアが3%に満たないわが国においては、他国での抑制・削減に資する国際貢献や革新的技術開発に関する行動計画について適切に評価されるよう積極的な提案を行うべきである。

こうした観点から、日本政府が推進している二国間オフセットメカニズムについては、優れた環境技術・製品の普及策として有効な施策となるよう制度設計を行うことが求められる。また、引き続き賛同を得られる相手国を拡大するとともに、国際社会からの認知を得られるよう、国際交渉の場等において積極的にアピールを行っていくべきである。

排出削減努力の国際的公平性を担保するため、各国の約束草案および温暖化対策等の内容を十分に分析し、国益に沿った効果的な国際交渉を行うことが求められる。地球環境産業技術研究機構(RITE)や日本エネルギー経済研究所、国立環境研究所などの国内外の叡智を総動員し、科学的な分析を行うとともに、基準年からの削減率の多寡に拘るのではなく、限界削減費用やセクター別のエネルギー効率など様々な指標を用いて多角的に評価することを通じて、わが国の国益に資する戦略的な環境外交の展開に向けた準備を行うべきである。

実効ある温暖化対策の観点からは、国毎の削減に焦点が当てられることが多く参加国が多数に及ぶ国連の気候変動枠組条約と並行して、実排出削減に繋がる先進的な技術・ノウハウを有する国や主要排出国による議論・情報共有の場を設け、国連プロセスと組み合わせていくことも求められる。

また、これまでの国連気候変動の法的枠組みで対象外とされているフロン類の対策も有効である。わが国の優れた回収・破壊・再生の技術・ノウハウを通じて途上国での削減に貢献できるよう、政府には政策面での後押しを期待したい。

3.優れた技術を生み出す国内環境の整備に向けて

わが国の約束草案および温暖化対策については、中央環境審議会・産業構造審議会の下に新たな合同会合が設置され、本格的な検討が開始されたところである。

わが国は、少子高齢化が進展する中での社会保障の確保、財政の健全化など、経済成長なくしては解決困難な課題を抱えており、約束草案および温暖化対策は、成長戦略と整合性を確保することが極めて重要である。とりわけ温暖化対策のあり方次第では、現在でも経済の足かせとなっているエネルギーコストの大幅な上昇につながることが懸念される。

検討を進めるにあたっては、以下を求めたい。

(1) 約束草案の検討に向けた考え方

わが国の温室効果ガスの約9割がエネルギー起源CO2である実態に鑑み、数値目標は、わが国の成長戦略を支えるエネルギーミックスを踏まえたものでなければならず、エネルギーミックスの策定を待たずに目標数値を設定するようなことがあってはならない。

現在、総合資源エネルギー調査会では、新エネルギー、原子力、省エネルギーの小委員会で検討が進められており、同調査会での検討結果を、約束草案を検討する産業構造審議会と中央環境審議会の合同会合に報告した上で、具体的な施策について議論を行うべきである。

エネルギーミックスについては、原子力を含めたエネルギー源の多様性を維持し、安全性の確保を大前提に、エネルギーの安定供給、経済性、環境適合性(S+3E)のバランスが取れたものとする必要がある。再生可能エネルギー、省エネルギー等の見通しを含め、実現可能性を確保し、国民負担について、妥当な水準とすべきである。

また、責任ある目標を策定するには、特定の基準年からの削減率に拘泥せず、個々の取組みを積上げて目標を設定すべきである。2020年以降の国際枠組みにおけるクレジットの扱いが決まっていないこともあり、海外からのクレジットを含めない「真水」で設定すべきである。資金負担の帰属が明らかでないクレジットによるオフセット分を目標に含め、結果的に経済界に購入を求めるようなことがあってはならない。

加えて、国民の理解を得るため、温暖化対策全体について必要な総コストを示すとともに、炭素リーケージの回避、事業環境のイコール・フッティング確保の観点から、国際的公平性を確保することも不可欠である。

(2) 国内政策

産業界の主体的な取組みは、競争力の維持・強化と温暖化対策を両立させることに大きく貢献することを踏まえ、経団連低炭素社会実行計画を政府の政策の柱に位置づけるべきである。また、同計画を推進する基盤を整備するため、省エネ技術の開発・導入や、省エネに資する製品開発に対する政府支援の拡充、さらには日本の先進的な技術の海外への普及・促進に貢献し得る二国間オフセットメカニズムの制度設計と推進にも取り組むことが求められる。

キャップ・アンド・トレード型の排出量取引制度については、(ア)企業による製品のライフサイクル全体での取組を阻害する、(イ)排出枠の購入で目標が達成できるため研究開発を停滞させる、等の問題があり、導入すべきではない。二国間オフセットメカニズムに関しても、排出量取引を目的とする制度設計が行われることについては強く反対する。

また、再生可能エネルギーの固定価格買取制度と地球温暖化対策税は、優れた技術の開発・普及の原資を奪うものであり、抜本的に見直す必要がある。

さらに、実効的な対策を講じるためには、過去の取組みの効果を検証し、費用対効果の観点も含め、問題点の改善に取り組むことが求められる。産業部門は、自主行動計画に精力的に取り組んだこともあり、京都議定書目標達成計画(以下、目達計画)で「2010年の排出量の目安」とされた排出量を上回る削減を実現した。一方、家庭部門においては、チームマイナス6%をはじめとする各種の活動が展開されたにも関わらず、目達計画で、2010年度の目安は1990年度比「+8.5~+10.9%」とされていたことに対し、2012年度の排出実績は+59.7%であった。こうした過去の取組みの検証を行い、今後、実効ある対策を推進していくことが不可欠である。家庭部門対策としての国民運動に関し、期待される削減量を約束草案に位置づけるとともに、環境大臣が中心となって積極的に展開していくことが求められる。

また、CO2排出は、国民生活のさまざまな場面に関連しており、特に民生・運輸部門については、多くの省庁の所管に関わりがある。そこで、政府が一体となって対策を推進することが求められる。とりわけ、2030年に向け15年以上先を視野に入れた温暖化対策において効果を上げていくためには社会インフラの整備が重要となる。各省庁の所管事項と予算のミスマッチにより、費用対効果の観点からの最適な対策が阻害されることがないよう、関係省庁が連携して対策を講じることが必要である。

4.おわりに

日本産業界は今後も、イノベーションを推進し、世界最高水準の低炭素技術にさらに磨きをかけ、環境と経済が調和する社会の構築に向けて取り組んでいく。

政府には、わが国が技術を通じ地球規模で温暖化対策に最大限貢献できるよう、国内対策を推進するとともに、攻めの環境外交を展開することを期待したい。

以上

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