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Policy(提言・報告書) 環境、エネルギー 新たな気候変動枠組みの構築に向けた提言 -京都からパリ、そして次世代の地球へ-

2015年9月11日
一般社団法人 日本経済団体連合会

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国際社会は、年末にパリで開催される国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)において、気候変動問題に関する2020年以降の新たな国際枠組みについて合意することを目指している。これに向け、わが国は7月、気候変動対策に関する「約束草案」を決定し、国連に登録した。

気候変動の国際枠組みについて、これ以上の空白は許されない。COP21において、すべての主要排出国の参加のもと、経済と両立する公平で実効ある国際枠組みについて合意することが強く求められる。

温室効果ガスの削減を図るためには、国民に痛みを伴う施策を講じる必要性が生じるなど、経済活動や国民生活に多大な影響を与えることから、各国とも厳しい姿勢で交渉に臨む。わが国政府は、国益を十分踏まえつつ、COP21で各国の合意が得られるよう、国際交渉に貢献すべきである。

COP21の後も、わが国は諸外国と連携し、新たな国際枠組みが効果的に実施され、各国の取組みがさらに進化していくよう、努力を重ねていくことが重要である。

そこで、経団連は、COP21を成功させ、その後も地球規模・長期での実効ある取組みを着実に進める観点から、気候変動対策について、下記の通り提言する。

1.すべての主要排出国が参加する公平で実効ある国際枠組みの実現

(1) すべての主要排出国の参加の確保

実効ある気候変動対策のためには、すべての主要排出国が参加する、環境と経済成長を両立させた持続可能な国際枠組みの構築が不可欠である。そのため、(1)各国が主体的に目標を設定する仕組みとすること、(2)各国の最終的な「約束」(NDC: Nationally Determined Contribution)の位置付けについて、柔軟性を確保し、法的義務を課すものとしないこと、の2点が極めて重要となる。

1997年に合意された京都議定書は、先進国のみにトップダウン方式で総排出量規制を課し、目標未達成の場合には罰則も伴う法的拘束力の強い枠組みである一方、途上国には温室効果ガスの削減義務を負わせなかった。加えて、当時の排出量世界一の米国が、自国経済への影響を懸念し、2001年に離脱したことは、京都議定書の意義を大きく低下させた。

京都議定書のような硬直的かつ厳しいルールを追求するばかりでは、各国の同意を得られにくく、かえって地球規模での温室効果ガスの削減が実現しないことは明らかである。また、中国、インドなどの新興国における経済成長は著しく、1997年時点に比べ、途上国の温室効果ガス排出量は倍増している。実効ある国際枠組みを構築するためには、まず、米国や中国、インドを含むすべての主要排出国の参加を確保すべきである。

2010年にカンクンで開催されたCOP16の初日において、日本政府が「米国・中国が削減義務を負わない京都議定書の第二約束期間には参加しない」と断固たる姿勢を示したことにより、国際交渉を主導し、ポスト京都議定書の国際枠組みをすべての国に適用されるもの(applicable to all)とするという、今日の交渉の土台を構築したことは、国際交渉に対する極めて大きな貢献であった。今回、わが国が合意・批准する新たな国際枠組みは、すべての主要排出国の参加を得たものであるという意思を明確にし、政府は交渉に臨むべきである。

(2) 実効性・国際的公平性の確保に資する国際レビューの実施

すべての主要排出国の参加を実現したうえで、地球規模での温暖化対策の実効性および国際的公平性を確保するため、国連の場で継続的なレビューを行っていく必要がある。その際、先進国・新興国・途上国共通のものとするとともに、特定の基準年からの削減率や削減量を検証するのみならず、単位GDP当たり排出量や、セクター別のエネルギー効率、経済的に利用可能な最善の技術(BAT: Best Available Technologies)の導入状況、限界削減費用など、ボトムアップの観点から、多角的な視点からレビューを行うべきである。各国の目標水準の前提に大きな変更が生じた場合には、レビューの場で説明責任を十分果たしたうえで、目標を柔軟に修正できるものとすべきである。

また、今後の技術革新の可能性を踏まえれば、2050年や2100年といった長期の削減に向けた排出パスを描く際にも、トップダウンのアプローチを採用すべきではない。

わが国は、約束草案において、BAT等を踏まえ実現しうる個々の対策を積み上げて目標設定を行った。この手法や知見を活用し、BATリストの提供や、ある国が今後取組むことができる対策の具体的な指摘などを通じ、わが国は、各国の気候変動対策への取組み強化を含む、実効あるレビューの実施に積極的に貢献すべきである。

経団連が1997年から開始した「環境自主行動計画」では、産業部門とエネルギー転換部門の34業種が、2008年度から12年度の5年間の平均CO2排出量を、「1990年度の水準以下に抑える」との統一目標を掲げ、主体的に削減努力を行ってきた。その結果、「90年度比12.1%減」と、目標を大幅に超える削減を実現し、大きな成果を挙げることとなった。さらに、経団連は世界の経済界に先駆け、2013年1月に2020年に向けた「低炭素社会実行計画(フェーズⅠ)」を、本年4月には2030年に向けた「低炭素社会実行計画(フェーズⅡ)」を、それぞれ策定し、公表した。

「環境自主行動計画」「低炭素社会実行計画」は、参加者自らが目標を設定し、レビューを実施することによって、実効性を確保していく「プレッジ&レビュー型」のアプローチをとっている。このアプローチは、今回のCOP21で合意を目指すべき国際枠組みそのものである。わが国は、この経験や知見を国際社会に積極的に発信することにより、新たな国際枠組みの構築に貢献すべきである。

(3) 地球規模の省エネ・低炭素型技術・製品等の普及を促す環境の整備

地球規模の削減を進めるためには、削減ポテンシャルの大きい途上国への削減支援が極めて重要である。また、気候変動問題の究極的解決のためには、革新的技術開発が不可欠となる。新たな国際枠組みに関する議論では、専ら国内での削減に焦点が当てられているが、これらの取組みが評価されるようにすべきである。

その際、資金や技術等の支援に係る議論においては、1990年代初頭以降の各国の経済力の伸長を踏まえ、当時「先進国」であったかどうかではなく、現時点で十分な能力を持った国かどうかを基準として、「支援国」、「非支援国」を分けるべきである。従来の「附属書Ⅰ国」と「非附属書Ⅰ国」の硬直的な分類にこだわるべきではない。

世界全体に占める温室効果ガス排出割合が2010年時点で3%に満たない日本は、気候変動問題の解決に積極的に貢献していくため、約束草案において、国内での排出削減のみならず、世界最高水準の省エネ・低炭素型の技術・製品・ノウハウの海外への展開・普及や、革新的技術の開発についても言及している。二国間オフセット・メカニズムやODA、国際協力銀行の輸出金融・GREEN、環境エネルギー技術革新計画等の推進を通じ、省エネ・低炭素製品や、高効率火力発電等の低炭素技術の普及等を推進すべきである。加えて、こうした取組みを促進するとともに、削減貢献分を「見える化」して示していくなど、その意義を国際社会に積極的に発信し、新たな枠組みにおける主要な評価対象のひとつとなるよう、交渉を展開する必要がある。

また、途上国に対する低炭素型技術の支援は、地球規模の気候変動対策推進の観点から大きな意義がある一方で、環境性能に優れた技術・製品は、一般にコストが高く、途上国への普及には困難を伴うといった課題が存在する。そこで、気候変動対策技術の移転の促進を目指す「気候技術センター・ネットワーク」(CTCN: Climate Technology Centre & Network)と、途上国の排出削減や適応策を支援する「緑の気候基金」(GCF: Green Climate Fund)を有機的に連携させていくことが重要である。わが国は、産業界が有する低炭素型技術に係る知見の提供と、拠出した資金のモニタリング等を通じ、両メカニズムの実効ある運営に貢献すべきである。

さらに、温暖化係数が高いにもかかわらず、これまでの国際枠組みの対象外とされてきたフロン類の対策も有効である。わが国の優れた回収・破壊・再生の技術・ノウハウを通じて途上国での削減に貢献できるよう、政策面での後押しを期待したい。

2.多層的な国際推進体制の構築

世界の大部分の国が参加するという意味で、国連の枠組みは極めて重要である。しかし、(1)国連の場は参加国が多く、合意形成において全会一致が求められるため機動性に欠けること、(2)上位10カ国だけで世界の温室効果ガス排出量の65%以上を占めること、(3)気候変動対策を推進するにあたり技術の開発・普及の担い手となれる国が限られていることから、国連以外のさまざまな場を活用し、気候変動対策に関する国際的取組みを推進していくことが有効である。

具体的には、来年わが国がホストする伊勢志摩サミットをはじめとしたG7や、G20に加え、環境・エネルギー問題に特化したMEF(The Major Economies Forum on Energy and Climate)といった場が考えられる。また、政府のみならず、学界・産業界のリーダーが集まるICEF(Innovation for Cool Earth Forum)も、地球規模での実効ある気候変動対策を推進していくための場として活用すべきである。

3.今後の国内対策のあり方

COP21で新たな国際枠組みが構築された後は、国内対策の検討が本格化するものと考えられる。経済界の対策の柱として「低炭素社会実行計画」を位置づけ、政府はこの取組みを後押しすべきである。

他方、排出量取引制度や地球温暖化対策税、再生可能エネルギーの固定価格買取制度をはじめとする規制的な手法は、民主導の活力ある経済社会の実現を阻害する懸念があることから導入すべきではなく、すでに導入されている施策については、廃止も含め抜本的な見直しを行うべきである。

今般、環境アセスメント手続において、電力業界による低炭素社会実行計画に詰めるべき課題があるとして、石炭火力発電所の建設を是認できないとする環境大臣意見が提出された。これは、民間の主体的な取組みを活用しながら、経済と両立する形で実効ある対策を推進してきた従来の気候変動政策や今回の約束草案の考え方を否定しかねないものである。環境アセスメント法は、大気や水質等への影響を念頭に周辺住民等とのコミュニケーションを図る手続法であり、本法を地球規模の課題であるCO2排出対策に用いることの是非を含め、再検討を求めたい。

2030年におけるわが国のCO2排出量の削減に向けて、実効ある対策の推進を担保する観点から、今後、部門・対策毎にPDCAサイクルを展開し、フォローアップを実施すべきである。とりわけ、京都議定書目標達成計画で十分な成果が上げられなかった家庭部門については、新たに開始された国民運動「COOL CHOICE」を強力に実行するため、責任主体を明確にしたうえで、総理を中心とした推進体制を整備すべきである。なお、特定部門において想定される成果が上げられなかった場合に、他部門にさらなる削減を求めるべきではない。

経団連は引き続き、「低炭素社会実行計画」を着実に推進することにより、国内での温室効果ガスの更なる削減を図るとともに、低炭素型技術の普及や開発を通じて、地球規模・長期の気候変動対策に最大限取組む決意である。

以上

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