1. トップ
  2. Policy(提言・報告書)
  3. 税、会計、経済法制、金融制度
  4. IASB公開草案「財務報告に関する概念フレームワーク」に関する意見

Policy(提言・報告書) 税、会計、経済法制、金融制度 IASB公開草案「財務報告に関する概念フレームワーク」に関する意見

2015年11月25日

国際会計基準審議会(IASB)御中

経団連経済基盤本部
(PDF版はこちら

IASB公開草案「財務報告に関する概念フレームワーク」に関する意見

我々経団連は、IASBが「財務報告に関する概念フレームワーク」の改訂への取組みを支持するとともに、精力的な取り組みに敬意を表する。

現在、日本では、IFRSの任意適用が進展し、既に100社を超える企業がIFRSの適用を表明し、時価総額ベースでは全上場企業の4分の1に迫る勢いである。今後、より多くの日本企業がIFRSの適用に踏み切るためには、IFRSの高品質化が不可欠である。そこで、IFRSの基準開発の拠り所となる「財務報告に関する概念フレームワーク」の見直しの方向性は、これから日本においてIFRSの適用が順調に進展するかどうかの試金石となると考えている。IASBは、日本を含めた市場関係者の意見によく耳を傾けて、本プロジェクトを成功させて頂きたい。

Ⅰ.公開草案に対する我々の最も重大な関心事項は、以下の通りである。

我々は、本公開草案に先立つディスカッション・ペーパー(DP)にも、コメントを提出した。DPでコメントした内容について、公開草案に反映した頂いた点もあり(例えば、認識、測定、表示及び開示などにおいて、コスト・ベネフィットの考え方を取り入れたこと)、DPからの改善点も見受けられ、真摯な検討に感謝したいと思う。しかしながら、我々が求めている基準開発の拠り所となる堅牢かつ高品質な「財務報告に関する概念フレームワーク」とはまだ大きなギャップがあるため、時間をかけて再度の検討を強くお願いしたい。

第1に、純損益概念の整理が不十分なままで、公開草案が公表されたことは、極めて残念である。「純損益は、企業の財務業績に関する主要な情報源である」(7.21)と記載されたことは評価するが、そうであればこそ、純損益を、財務諸表の構成要素として定義付けるべきである。我々は、純損益を「特定の期間中に投資のリスクから解放された実現損益」と定義し((質問12)への回答参照)、OCIを「投資のリスクから未だ解放されていない未実現損益」と定義し((質問13)への回答参照)、OCIから純損益へのリサイクリングの必要性及び論理付けを記載している((質問14)への回答参照)。是非とも、これらの提案を参考にして、最重要の利益指標たる純損益概念を再度整理していただきたい。我々は、純損益の定義無しには、堅牢で高品質な概念フレームワークたり得ないと考えている。

第2に、資産・負債の認識規準から、「蓋然性」要件及び「測定の信頼性」の考え方が外されたことは大変残念である。公開草案の内容では、将来のキャッシュ・フローが流出・流入する可能性が低い場合にも、また信頼性の低い見積りしか出来ない場合にも、資産・負債の認識が要求される可能性があり、これは実質的に認識規準の意味が無くなることと同義である。よって、我々は、資産・負債の認識規準に、「蓋然性」要件及び「測定の信頼性」の考え方を存置することを強く求める((質問6)への回答参照)。

Ⅱ.質問事項に対する我々の意見は以下の通りである。

(質問1)-「第1章及び第2章の変更点」

  1. (a) 「受託責任」を明記することに同意する

    • 経営者が経営資源をいかに効率的・効果的に用いたかをステークホルダーに説明することは経営者の責務であり、財務報告の目的に「受託責任」を明記することに同意する。
    • なお、「受託責任」の考え方は、投資家のみならず、企業経営の観点からも有用である。「受託責任」の評価のために必要とされる情報の提供により、「企業経営に規律をもたらし、企業の持続的成長、長期的な企業価値の向上に資する」という点を明記して頂きたい。
  2. (b) 「慎重性」を明記することに同意する

    • 「慎重性」を明記することで、「忠実な表現」に関する説明への理解が深められ、概念フレームワークの改善に繋がると考える。
    • 一方で、「慎重性」の非対称性(損失は利得よりも早く認識される)については、概念フレームワークの結論の根拠で示唆されている(BC2.11項後段、BC2.14項前段 等)が、本文への記載がない。重要な考え方であるので、概念フレームワーク本文においても明確化すべきである。
  3. (c) 「忠実な表現」は、法的形式ではなく、経済的現象の実質を表現するものであるという点に同意する

  4. (d) 「測定の不確実性」は、「目的適合性」ではなく「忠実な表現」に影響を与える要因として整理するほうが、作成者としては理解しやすい。「測定の不確実性が一定以上に高い場合の見積りは、忠実な表現とはならず、結果として目的適合性のある情報とはならないだろう」という点を明確にしていただきたい

  5. (e) 「目的適合性」と「忠実な表現」を有用な財務情報の2つの要素とすることに同意する

(質問2)-「報告企業の境界の記述」

(a)には同意するが、(b)において、非連結財務諸表においてどのようにして利用者が連結財務諸表を入手できるのかを開示する必要がある(3.25)としている点については反対する。この要求は、各国、法域の財務諸表開示規制に関わる事項であり、概念フレームワークで規定する類のものではないと考える。

また、3.9の「財務諸表は、投資者、融資者又は他の債権者の特定の集団の視点からではなく、企業全体の視点から作成される」の趣旨が不明瞭であり、誤解を生む。よって、BC3.3の、財務報告書が会計処理すべき対象は企業であるという点、負債と持分の区分を無くすことを意図しているのではないという点を、本文で明記してほしい。

(質問3)-「構成要素の定義」

  1. 1. 純損益・OCI・包括利益を財務諸表の構成要素として定義することを強く求める。詳しくは、(質問12)への回答をご覧頂きたい。

  2. 2. (a)資産、(b)負債の定義については、概念フレームワークの認識基準に「蓋然性」が言及されることを前提に同意する。今回、資産・負債の定義から、「期待される資源の流入又は予想される流出」という「蓋然性」への言及を削除したが、蓋然性基準については認識規準で明確に記載していただきたい。詳しくは、(質問6)への回答をご覧頂きたい。

(質問4)-「現在の義務」

4.32項の「移転を回避する実際上の能力がない」ことの説明として、「企業の経営者が移転を行うことを意図していることや移転の可能性が高いことでは十分ではない」とあるが、これは、企業が負債・引当金の計上を意図している場合においても、その計上を否定しかねない不適切な表現であり、削除すべきである。

(質問5)-「構成要素に関するその他のガイダンス」

「未履行契約」の4.40~4.42の記述に賛成する。ただし、基準策定においてばらつきを生じさせないために、以下の点については概念フレームワークにおいて明確化することを提案したい

「未履行契約そのもの、または、未履行契約によって生じうる資産又は負債(報告時点では生じていないが、将来にわたり生じる可能性がある資産又は負債)について、注記等において説明的開示を要求することは、報告企業に多大なコストを発生させる。その結果、作成者側のコストが財務諸表利用者にとっての便益に見合わない場合がある。」

(質問6)-「認識規準」

資産・負債の認識規準から「蓋然性」要件を外すことに、強く反対する。また、本公開草案では、「測定の信頼性」要件を外し「測定の不確実性」という概念を導入しているが、「測定の信頼性」の考え方が変質しており、現在の提案には同意できない。資産・負債の認識要件から「蓋然性」及び「測定の信頼性」の考え方を外すことは、実質的に概念フレームワークから認識規準が無くなることと同義であり、再考を強く求めたい。なお、資産・負債の認識規準に、コスト・便益の比較考量を含めた(5.9(c))点には強く同意する

[蓋然性]

  • 認識規準から「蓋然性」要件を削除した場合、認識時点で結果が不確実な資産・負債を将来キャッシュ・フローが存在するかのように会計処理することを強いられ、結果として、翌期以降に戻入れが頻繁に生じることとなり、財務諸表の「目的適合性」「忠実な表現」を損なうこととなる。企業の経営管理の観点からも有用な情報とはならない

  • また、結果が不確実であるほど測定が困難となり、財務諸表の作成コスト・監査コストを増大させる。よって、認識規準の削除は、財務諸表の「目的適合性」「忠実な表現」を損なうばかりでなく、コスト制約の観点(5.24)からも不適切である

  • 本公開草案では、認識規準として、一般的な財務諸表の質的要件たる「目的適合性」「忠実な表現」「コスト便益の比較考量」の充足のみを掲げ(5.9)、「資産・負債の存在が不確実な場合」「蓋然性が低い場合」「測定の不確実性のレベルが非常に高い場合」には、「認識によって目的適合性のある情報が提供されないかもしれない」としているのみであり(5.13)、斯様な複雑で曖昧な規定は、会計基準の開発にも会計基準の実務の運用にも有用ではなく、むしろ恣意的な解釈・運用を生み、有害でさえある

  • 5.13 (b)では、「蓋然性が低いものでしかない場合は目的適合性のある情報が提供されない可能性がある」とし、それを説明する5.17では「資産又は負債が、たとえ経済的便益の流入又は流出の蓋然性が低い状態であっても存在する場合がある」とし、更に、5.19では、「財務諸表利用者は、場合によっては、蓋然性が非常に低い資産及び負債を企業が認識することは有用でないと考えるかもしれない」としている。現行概念フレームワークは、蓋然性が「高い」場合に「認識する」と規定しているところ、これらの3つの規定は、蓋然性が「低い」場合には「認識しない(かもしれない)」と反対から規定を行っていることから、結果として「蓋然性」の閾値は下がり、認識の範囲が大幅に広がる結果となる。よって、公開草案の規定ぶりには同意できない

  • IASB関係者は、デリバティブ等の一部の規定について、「蓋然性」が低いが資産・負債の認識を求めているケースがあり、この規定との整合性をはかるために「蓋然性」を削除すべきと主張している。しかし、これら一部の会計処理との不整合を救うために、「蓋然性」を廃止し、IFRS全体に重大な影響を与えるような改訂をすべきではない。これらの項目については、「蓋然性」の例外として取り扱う(例外とする範囲を概念フレームワークで規定する)というアプローチを採ることで、堅牢な認識規準を開発することが出来ると考える

[測定の信頼性]

  • 財務報告の「忠実な表現」を達成するためには、「測定の信頼性」を確保することが不可欠であり、認識規準に「測定の信頼性」の考え方を残すことを強く求めたい。本公開草案では、「測定の信頼性」に替えて「測定の不確実性」という概念を用いているが、現行の概念フレームワークの「測定の信頼性」の考え方が大きく変質しているため、同意できない。なお、BC5.43に「測定の信頼性」を維持すべき理由が記載されているが、BC5.44の「測定の信頼性」を維持すべきでない理由よりも説得的である。

  • 5.13 (c)では、「資産又は負債の測定が利用可能である(又は入手できる)が、測定の不確実性のレベルが非常に高い」場合に目的適合性のある情報が提供されないとあり、これを説明する5.21(a)では、「結果の範囲が極端に広く、それぞれの確率の見積もりが異常に困難なとき」に、目的適合性のある情報を提供しない場合があるとしている。更に、同項(b)は「キャッシュ・フローの異常に困難な配分又は非常に主観的な配分が必要となるとき」に、測定の不確実性により目的適合性のある情報を提供しないとしている。これらの記載ぶりでは、「測定の信頼性」の低さを理由に非認識とする対象はほぼないとしか解し得ず、すなわち、現行概念フレームワークの「測定の信頼性」の考え方を著しく毀損していると考えられるため、同意することはできない。現行概念フレームワークの「測定の信頼性」の考え方に即して公開草案の記載を再検討して頂きたい

(質問7)-「認識の中止」

以下の点の明確化を検討してほしい。

  • 認識の中止の考え方については、DPで議論した支配アプローチとリスク・経済価値アプローチとがあると考えられるが、どちらを採用すべきなのか概念レベルで検討・整理していただきたい。

  • 上記とも関連するが、認識の中止を行うかどうか明確ではない部分がある場合に、注記で開示する(5.31)場合と、認識を継続する(5.32)場合の使い分けが明確ではないので、整理していただきたい。

(質問8)-「測定基礎」

公開草案では、単一の測定基礎の考え方はとらずに、(a)歴史的原価(原価)と(b)現在価額(時価)とに分けて複数の測定基礎を前提に分析をしており(6.4項)、この点は同意する。一方で、公開草案では、(a)歴史的原価(原価)と(b)現在価額(時価)の長所・短所を記載することに多くの記載を費やしているが、むしろ重要なのは、どの様なケースにどの様な測定基礎を用いるかである((質問9)(質問10)に関連)。長所・短所を記載するのであれば、測定基礎の選択方法との関係を明確にしないと、記載の意味が無くなると考える。

(質問9)-「測定基礎を選択する際に考慮する要因」

「測定基礎を選択する際に考慮すべき要因」について、以下の点から同意しない。尚、6.50で、測定基礎の選択にあたってコスト・ベネフィットを考慮することについては、強く同意する。

  • 6.54では、資産・負債及び関連する収益・費用について、測定基礎を選択する際に考慮すべき要因として、(a)当該資産又は負債のキャッシュ・フローへの寄与と、(b)当該資産又は負債の特徴を掲げているが、測定基礎の選択は、(a)資産又は負債のキャッシュ・フローへの寄与(=投資の性質)のみに拠るべきであり、(b)資産又は負債の特徴は慮外とするべきである。例えば、ボラティリティの大きい株式の場合、(b)の要件を適用すれば、財務業績の観点からも専ら公正価値で評価して事後測定における評価差額の全額を損益に計上すべきとの議論になりかねないが、むしろ株式の保有目的(投資の性質)によって、適切な測定基礎を選択すべきである。

  • 本公開草案では、測定規準においても「蓋然性」の基準を明らかにせず、「測定の不確実性のレベルが高いことは、最も目的適合性の高い見積りの使用を妨げるものではない」(6.55)などと、現行概念フレームワークの「蓋然性」の閾値を下げるかのような記載ぶりとなっている。現行概念フレームワークの「蓋然性」の考え方が相当であり、6.55の記載は削除すべきである。

(質問10)-「複数の目的適合性のある測定基礎」

6.74の規定は、測定基礎は、財政状態を表す観点から目的適合的なものと、財務業績を表す観点から目的適合的なものとの2つに切り分けて検討すべきとの考え方を示しており、この点は同意する。しかし、以下の3点を改善していていただきたい。

  • 6.75、6.76の記述は、補強的な特性である理解可能性を、目的適合性に対して優先させるような誤解を与えるため表現を工夫していただきたい。あくまで、財政状態計算書、財務業績の計算書のそれぞれに目的適合性の高い、かつ忠実な表現となる測定基礎を使用することを前提として、その結果として、単一の場合もあれば異なる測定基礎を使用することもあるというように記述を変更すべきである。

  • 結果として単一の測定基礎を合理的であると判断した場合、それで測定の目的は充足しているため、他の測定基礎を使用した結果を注記として開示するという6.75(b)の記述は不要であり、削除すべきである。

  • 現状の記載では、どの様なケースで、どの様な測定基礎を用いるかの記載が不十分であるので、DPの記載(資産の事後測定:DP6.73~6.96、負債の事後測定:DP6.97~6.109)を参考に、具体的な測定基礎の記述を充実させてほしい。

(質問11)-「財務諸表の目的及び範囲並びに伝達」

  1. 1. 我々は、現在のIFRSの開示は、作成者のコストに見合わない便益の乏しい開示が数多く要求されていると考えており、「概念フレームワーク」及び「開示イニシアティブ」の取組みを通して、現行IFRSの過剰な開示を抑制することを期待したい。以下、本公開草案において、評価する点を2.で記載し、改善すべき点を3.で述べる。なお、「概念フレームワーク」と「開示イニシアティブ」との住み分けが不明瞭であり、IASBの開示プロジェクトの全容が見えないことから、それぞれが分担する内容を明確にして欲しい

  2. 2. まず、今回の「概念フレームワーク」の公開草案において、表示及び開示における「コストと便益の比較考量」の必要性が明確化されたこと(7.9)、基準の中に具体的な表示及び開示の目的を記載することの必要性が明記されたこと(7.16)は、強く支持したい。その実を上げるために、「開示イニシアティブ」において、有効な「開示原則」を打ち立てていただきたい。財務諸表作成者としては、以下の点を「開示原則」に組み込んでいただきたいと考える。

    • 開示の要求事項は、開示の必要性及び有用性が適切なデュー・プロセスのもとで検討されるべきである。

    • 具体的にどの様な分析においてどの様に開示が活用されるのか、開示が要求されない場合にはどの様な分析上の不都合が生じるのかが検討されるべきである。

  3. 3. 一方で、本公開草案では、投資家にとっても有用性の乏しい情報開示を要求している箇所があり、改善をお願いしたい。

    • .7.3 (a)では、財務諸表注記には、「認識した構成要素と未認識の構成要素の両方から生じるリスクに関する情報」が含まれるとの記載がある。このような記載ぶりは、あらゆるリスク情報の財務諸表上での注記を正当化するものであり、注記の範囲が広すぎる。注記の役割を考えると、「未認識の構成要素」は削除して頂きたい。加えて、(7.3)の「リスクに関する情報」には、「感応度分析」が含まれると理解するが、「感応度分析」は数多くの仮定の中の一つにすぎない情報であり、投資家に有用な情報を提供するとは考えられず、財務諸表注記としてふさわしくないと考えている。

    • .7.4に、目的適合性があれば、「将来予測情報」を財務諸表の注記事項とする提案がなされているが、この記載には反対する。注記の目的は、基本財務諸表を補完することであるので、基本財務諸表における数値の見積りの基礎となる定性的情報を除き、財務諸表注記に「将来予測情報」を含めるべきではない。定量的な「将来予測情報」の開示レベルは、各国法規制・証券取引規制等のあり方に大きく依存するため、基本的には非財務情報として取り扱うのが相当である。仮に7.4の記載を残す場合でも、「未認識項目」にまで「将来予測情報」の注記を徒に拡大すべきではなく、「たとえ未認識項目であっても」の記載は削除すべきである

    • .7.5に、「他の種類の将来予測的な情報は、例えば、経営者による説明など、財務諸表外で提供される場合がある」とあるが、概念フレームワークにおける記載は不要である。

(質問12)-「純損益計算書の記述」

  1. 1. 7.23、7.24の規定により、純損益とOCIとを峻別することには、反対する

    • .7.23において、一旦は「全ての収益・費用が純損益に含まれると推定」しており、OCIの使用を徒に制限する提案であり、賛同できない。

    • 「目的適合性」という抽象的で曖昧な概念で純損益とOCIとを峻別しようとしており、基準設定主体の裁量でいかようにも解釈することが可能であり、概念フレームワークの堅牢さを損なう提案である。

  2. 2. 我々は、財務業績を表す指標として、純損益が最重要と考えており、公開草案の7.21において、「純損益計算書に含められる収益及び費用は、企業の当期の財務業績に関する主要な情報源である」と書き込まれたことは、高く評価する。だからこそ、純損益は第4章「財務諸表の構成要素」において定義するのが論理的な帰結であるはずだが、定義付けが行われず、7.23、7.24の規定に留まったことには、失望している

  3. 3. 公開草案の7.22において、財務諸表利用者の多くが、純損益を、当期の財務業績の分析及び経営者の受託責任の分析に組み込んでいると記載されており、財務諸表利用者にとっての純損益の有用性が強調されている。日本でも、修正国際基準(JMIS)を開発する過程で、企業の総合的な業績指標としての純損益の重要性が再認識され、純損益という指標が、財務諸表利用者のみならず、企業経営の規律付けの観点からも重要であることが確認された。よって、我々としては、財務諸表利用者及び企業経営の双方にとって最重要の指標である純損益の定義付けを強く求めたい

  4. 4. 我々は、DPでも主張したとおり、次のように純損益を定義すべきと考える。
    「純損益」とは、特定の期間中に投資のリスクから解放された実現損益である

    (ガイダンス)

    • 「実現」とは、一定の確実性をもったキャッシュ・フローが流入した時点、すなわち、「投資の成果の確定時点」である。「不可逆的な成果(irreversible outcome)が獲得された時点」(ASBJがASAF会議にて主張)とも通じる。

    • 企業としての重要な判断(critical decision)がなされたか否かが、「実現」を判断する1つの重要なメルクマールとなる。

(質問13)-「収益又は費用の項目のその他の包括利益での報告」

  1. 1. (質問12)の回答1.に記載の通り、7.23・7.24の規定により純損益とOCIとを峻別することには反対する。(質問12)の回答4.の通り、純損益を「投資のリスクから開放された実現損益」と定義付ければ、未実現損益を含んだ利益概念である包括利益との差異がOCIであるので、OCIは、「投資のリスクから未だ解放されていない未実現損益」と定義することができる

  2. 2. 一方で、7.25の、財政状態計算書上の資産・負債の測定基礎と損益計算書上の収益・費用の測定基礎とが異なる場合の差異(以降、「二本立ての測定の差異」という。) をOCIとする考え方に同意する。この考え方は、(質問14)の「リサイクリング」の観点から、重要な示唆を与える規定である。というのも、「二本立ての測定の差異」をOCIと捉えている以上、資産・負債が消滅すれば(ゼロになれば)、OCIもゼロとなり、これまでOCIに含められていた累計額は、必然的に純損益にリサイクリングされることになる。つまり、7.25のOCI=「二本立ての測定の差異」と捉える考え方は、「フルリサイクリング」の結論に通じるのである。BC.7.52に記載の通りである。

  3. 3. しかし、OCIを用いるのは、「二本立ての測定」を行う場合のみであると考えており、7.25の「一例は」は削除すべきと考える。また、「二本立ての測定の差異」の考え方を採用しないOCIの事例として、BC7.50(b)において「従業員給付」の数理計算上の差異を掲げているが、この記載も削除すべきである。「従業員給付」の数理計算上の差異は、確かに仮定計算を反映したものであるが、この点を理由に「二本立ての測定」の事例から除外するのは根拠が無い。重要なのは、財政状態計算書上の資産・負債の測定基礎と損益計算書上の収益・費用の測定基礎とが異なっている=「二本立ての測定」を行っているという点である。よって、「従業員給付」の数理計算上の差異もOCIとして認識した上で、当然に純損益にリサイクリングされるべきである。

(質問14)-「リサイクリング」

  1. 1. ノンリサイクリングの余地を残している7.27の記載に反対する

    • まず、7.27前段については、リサイクリングの有無を「目的適合性」という抽象度の高い質的特性で規定すること自体、概念フレームワークの堅牢さを損ねることとなると考える。

    • .7.27後段について、リサイクリングの明確な基礎がなければ、もともとOCIを使用することは適切ではない(=純損益とすべきであった)というのは、根拠のない記載であり、削除すべきである。OCIと純損益との明確な線引き(定義付け)が行われれば、このような無責任な記載は出来なくなるはずである。

  2. 2. 我々は、企業経営・財務諸表利用者の両方の観点から、全てのOCIは必ず純損益にリサイクリングされるべきであるであると考える

    • ゴーイング・コンサーンで事業を行っている企業にとって、業績認識は企業経営そのものであり、業績実感に対して財務諸表における報告損益が乖離することは、企業経営にとって致命的な悪影響を及ぼすことから、企業経営の観点から、OCIは必ず純損益にリサイクリングされるべきである。

    • フルリサイクリングにより、中長期的に、純損益の総額とキャッシュ・フローの総額とが一致することで、純損益の情報を用いて将来キャッシュ・フローを予測する合理性が担保できる。すなわち、フルリサイクリングによって、中長期的には、純損益情報が提供する「目的適合性」が確保できることになる。フルリサイクリングされない場合には、all inclusivenessという純損益の性質が変質してしまい、純損益の確認価値が損なわれ、投資家の投資意思決定に悪影響を及ぼす。

  3. 3. リサイクリングのタイミングについては、(質問12)の回答4.に記載の通り、「特定の期間中に投資のリスクから解放された時点」と考える。しかし、この表現が分かりにくければ、(質問13)の回答2.にも記載したとおり(BC.7.52にも記載があるが)、OCI=「二本立ての測定の差異」の解消のタイミング、即ち対象となる資産・負債の消滅のタイミングでリサイクリングすることが適当であると考える

  4. 4. ここで、7.27の前段において、「振替が純損益計算書における情報の目的適合性を高めることとなる期間を識別するための明確な基礎がない場合には、リサイクリングしない」とあるが、本問回答3.に記載の通り、OCI=「二本立ての測定の差異」の解消のタイミング、即ち対象となる資産・負債の消滅のタイミングでリサイクリングを行うので、「情報の目的適合性を高めることとなる期間を識別するための明確な基礎がない場合」はそもそも存在しない。よって、ノンリサイクリング項目は論理必然として存在し得ない

  5. 5. BC7.50では、「年金負債の処理は、二本立ての測定の事例ではない」(BC7.50)とし、その理由としてリサイクリングの基礎がないことを挙げている。具体的には、「数理計算上の差異の累計額は、独立した意味を持たない年金資産の測定値に対応するものであり、純損益計算書に含められた金額の累計額としてしか記述できない」(BC7.50)と記載している。しかし、当該OCIの累計額は、突き詰めれば、従業員個人の確定給付制度債務又は年金資産に対応する数理計算上の差異の集合体であり、従業員に退職金を支払った時点において、その従業員に対応する確定給付債務又は年金資産は減少することから、当該従業員に対応するOCIも解消することとなる。この様な考え方をとれば、各従業員に退職給付を払った時点で、OCIは純損益にリサイクリングされるべきであると考えることができる。OCIを従業員の平均残存勤務年数で償却するのは、その簡便的な会計処理である

  6. 6. なお、本問回答2.のコメントにおいて、フルリサイクリングによって、中長期的に、純損益情報が提供する「目的適合性」を確保することが出来ると記載したが、「忠実な表現」の観点からも、フルリサイクリングの妥当性を主張したい。例えば、数理計算上の差異は、従業員の勤務の提供に対して支払われる従業員給付の一部を構成しており、これを一度もリサイクリングせず純損益として認識しなければ、中長期的に企業業績を過大又は過小に計上することとなる。これは即ち、中長期的な企業の実態を忠実に表現することにはならず、「忠実な表現」を歪める結果となる。よって、中長期的には、「忠実な表現」の観点からも、OCIは必ず純損益にリサイクリングされるべきであると考える

(質問15)-「概念フレームワーク」の変更案の影響

  1. 1. IASBによる「概念フレームワーク」の見直しが現行の会計基準に与える影響の分析は網羅的なものではないため、本EDに記載するべきではない。我々としても、「概念フレームワーク」の公開草案には改善していただきたい点が多々あり、IASBは、市場関係者の意見を聞いて最終基準化した上で、現行の会計基準に与える影響を網羅的に検証していただきたい。

  2. 2. BCE14項に記載の通り、本公開草案7.16において、基準の中に具体的な表示及び開示の目的を記載することの便益を述べているが、多くの基準では、具体的な表示及び開示の目的を記載していない。これは、我々としては、「軽微な不整合」ではなく「重要な不整合」と考えており、納得性の無い表示及び開示を無くすためにも、具体的な目的について記載の無い表示及び開示項目についての表示及び開示の有用性について、十分な検証を行っていただきたい。

(質問16)-「事業活動」

- コメントはしない。

(質問17)-「長期投資」

- コメントはしない。

(質問18)-「その他のコメント」

  1. 1. コストの制約(コストと便益の考量)は、会計単位、認識、測定、表示及び開示に関する決定において重要な役割を果たす。この点、本公開草案において、コストの制約についての追加の言及がこれらのトピックにおいて記載されたことを強く支持する。

  2. 2. DPにあった「負債と資本性金融商品の区別」(セクション5)は現行の考え方からはかけ離れた提案であり、公開草案で提案されなかったことを支持する。

※「概念フレームワークへの参照」について:
本公開草案において強く反対する点があるため、(質問1)~(質問3)にはコメントしない。

以上

「税、会計、経済法制、金融制度」はこちら