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Policy(提言・報告書) 税、会計、経済法制、金融制度 「収益認識に関する包括的な会計基準の開発についての意見募集」へのコメント

企業会計基準委員会御中

「収益認識に関する包括的な会計基準の開発についての意見募集」へのコメント

2016年5月27日
(一社)日本経済団体連合会
金融・資本市場委員会 企業会計部会
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我々は、企業会計基準委員会(ASBJ)が、日本基準の高品質化を目的に、IFRS15号を出発点として収益認識に関する日本基準(以下、新基準という)を開発することを支持する。一方で、収益認識は、企業業績の根幹をなすものであり、新基準を開発することは、広範な企業を含む市場関係者に影響を及ぼす。よって、ASBJには、新基準を開発する意義を今一度明確にして市場関係者の理解を得ること、様々な業種・業態の企業と十分に対話を行った上で丁寧に基準開発を進めることを強く求める。

以下、各質問への回答である。

(質問1)-回答者の立場

財務諸表作成者の立場から回答する。

(質問2)-基準開発の進め方

IFRS15号は、米国会計基準とコンバージェンス済みの内容であり、また、基準開発過程においては、経団連を含む日本の市場関係者からも積極的に意見を発信し、過剰な開示規定を除いた会計処理については概ね受入れ可能な内容となったと理解している。よって、IFRS15号の内容を出発点として日本における収益認識基準を開発することは、国際基準との整合性を確保するとともに、日本基準の高品質化に資する可能性があり、賛同する

一方で、ASBJの開発する新基準は、国際的な事業展開・資金調達を行う企業のみならず、広く、上場企業、会社法上の大会社、及びその関係会社等に影響が及ぶことになる。加えて、収益認識基準は売手企業に適用される基準ではあるものの、契約の結合・分割といった基準の要求事項に対応するため、場合によっては契約の態様を見直す等、取引そのものに影響する可能性もあり、中小企業を含む買手企業にも影響を及ぼす可能性がある。

こうした社会的に広範で大きなコストを伴う基準開発であるからこそ、IFRS15号にコンバージェンスすることで、いかに日本基準が高品質化されるのか、社会的なコストを上回るどの様なベネフィットが得られるのか(これまでに比べて具体的にどの様な点が財務情報の透明化につながるのか、経営におけるベネフィットがあるのか 等)について、十分に説得できる説明が必要である。しかし、意見募集文書に示された基準開発を行う理由は一般的なものに留まっており不十分である。ASBJには、今後の審議の過程で、基準開発に対する広範な市場関係者の理解を得るために、基準開発を行うことの具体的な意義(ベネフィット)について議論を尽くすことを強く求めたい#1

なお、今後の検討において、単体財務諸表への適用の是非が問題になると考えられる。業績の根幹である収益認識の基準を開発する以上、単体まで適用することを念頭に置いて検討すべきである。しかしながら、単体財務諸表は税制と密接な関係にあり、日々膨大な数の売上取引について、会計と税制との数値が大きく異なり、多くの申告調整を要すれば、実務対応に困難をきたすことになることから、単体への適用においては、税制との整合性についても十分かつ慎重に検討する必要がある

(質問3)-17の論点へのコメント

日本における収益認識の現行の会計実務は、企業会計原則の「実現主義」の考え方を軸に、「工事契約に関する会計基準」、税務上の取扱い等を踏まえて運用されている。こうした日本における収益認識の会計実務は、日本企業の取引の実態を踏まえたものであり、かつてEUにおける同等性評価が行われた際にも大きな問題を指摘されていないことを踏まえると、国際的な枠組みから大きく逸脱しているとは考えられず、現行実務の大部分が新基準下でも受け入れ可能であると考えられる。基準開発に対する広範な市場関係者の理解を得るために、今回の意見募集や業界へのヒアリングを通して、この点を明確化すべきである#2

提示された17の論点に関連して、企業から以下の意見が寄せられた。今後の基準開発においては、十分に検討して欲しい。

○ 論点3 [約束した財・サービスが別個のものか否かの判断]

  • 輸入代行取引においては、許認可の申請・取得、通関、荷役や検量の立会、決済等、複数の役務が単一の契約に含まれているケースがある。IFRS第15号では、財又はサービスを履行義務毎に分割し、各履行義務に契約の取引価格を配分することを求めているが、数多くの細かい役務が多岐に亘っている場合の履行義務の範囲(どこまでを分割すべき履行義務と扱うか)についての判断は、27項や29項に記載はあるものの、実務上非常に煩雑であると考えられる。よって、必要に応じてIFRS第15号から逸脱しない範囲においてガイダンスや指針等を開発して欲しい。

○ 論点4 [追加的な財・サービスに対する顧客のオプション(ポイント制度)]

  • 影響を受けると想定されている事例が自社発行のポイントを自社に対して使用するものとなっているが、実際は、企業を跨いで使用されるポイントが多数あり、基準を適用する場合には、事務処理が繁雑になる可能性もある。実態の把握も含めて慎重かつ広範な検討をする必要がある。また、円滑な基準適用・企業間の比較可能性を担保するためには、基準内に詳細なガイダンスが必要であり、具体的な事例およびその会計処理等を示して欲しい。
  • ポイントを付与する取引については、IFRS第15号と同様の処理を日本基準に導入すると実務が複雑になり、企業負担が大きくなる点を懸念する。重要性を考慮し、現行の日本の会計慣行のポイント引当金の実務を容認する余地はあると考える。

○ 論点5 [知的財産ライセンスの供与]

  • IFRS第15号では、知的財産に対して、それを提供する企業の活動が著しい影響を与える場合は、一定の期間で収益を認識し、知的財産に対して、それを提供する企業の活動が著しい影響を与えない場合には、一時点で収益を認識する。ところが、企業が著しい影響を与えるかどうか明確でないケースも多い。また、仮に企業が知的財産に著しい影響を与えなくても、使用者の観点からは、一定の期間にわたって便益を受けていると認識するほうが妥当なケースもある。よって、知的財産の提供企業だけでなく、「使用者の観点も考慮して、収益認識時期を判定できる」といった規定の開発も検討して欲しい。

○ 論点6 [変動対価]

  • IFRS15号では、変動対価に該当する場合、企業が権利を得ることになる対価の金額を見積もるものとされており、その対象には需要家と交渉中の価格も含まれると考えている。しかしながら、当該価格は需要家との折衝によって決まるものであり、不確実性が高いため、重大な戻入れが生じない範囲で合理的に金額を見積もることが困難である場合には、見積もりが不要であることを明確にすべきである。
  • 変動対価の場合、IFRS第15号では、「重大な戻入れが生じない可能性が高い範囲」に取引価格が制限される。しかし、この金額を見積ることが困難なケースも多い。ASBJの意見募集文書では、IFRS第15号において、値引き、リベートなどのケースを変動対価として扱うとしているが、これらに対して変動対価の規定を適用することが適切かどうかは検討の余地があると考える。日本における一般的な実務のように、売上リベートを支払う可能性が高くなった時点で収益を減額する処理や、顧客との交渉状況に応じて収益金額を見直す会計処理が、日本基準としては妥当であり、IFRS第15号においても否定されることはないと考える。

○ 論点7 [返品権付き販売]

  • 出版物や音楽用ソフトのように返品の割合が高いケースは、ある程度、会計処理が変更になることは理解できるが、返品の割合が少ない場合には、現行の返品調整引当金の会計処理が、新基準の下でも容認されることを明確にして欲しい。

○ 論点9 [一定の期間にわたり充足される履行義務①]

  • 「一定の期間にわたり充足される履行義務」の判定要件のうち、「企業が現在までに完了した履行に対する支払を受ける強制可能な権利を有しているか」については、個別の契約書における解約時報酬請求権の記載の有無により、会計処理に制約が生じることのないように、民法など国内法上の取扱いや過去解約事例、解約発生時の求償方針などを含めた解釈が可能であることを明確にして欲しい。
  • 鉄道業における具体例として、定期乗車券による旅客運輸収入が該当する。現行においても、1日1往復をするものとして月割計算し、一定の期間にわたり収益を認識する会計処理となっており、翌期に役務の提供が行われると算定した金額は前受運賃(前受収益)として計上するため、コンバージェンスを行っても、大きな問題はない。ただし、定期乗車券は有効開始日以前から発売しているため、発売日と有効開始日が一致せず期を跨る場合(※)がある。前受運賃の計上金額の算出方法は、発売日を基準とする方法、有効開始日を基準とする方法があり、発売日と有効開始日が期を跨る場合には差異が生じるが、現行ではどちらも合理的な見積り方法として認められている。仮に新基準下で発売日を基準とする方法が認められない場合、現行において両者の差異について重要性が乏しいことを理由として発売日を基準とする方法を採用しているケースでは、他社との連絡精算の仕組みの見直し、追加のシステムの開発が必要になるなど、影響を受ける可能性がある。

    (※)多くの鉄道事業者において、「継続定期」の場合、有効開始日の14日前から発売している。例:4月1日から有効開始となる定期券を3月18日から発売

○ 論点9 [一定の期間にわたり充足される履行義務②]

  • IFRS第15号では、進捗度を合理的に測定できない場合は、工事原価回収基準を適用し、収益を工事原価と同額で認識することを求めているが、進捗度を合理的に測定できない場合に、収益を認識することには違和感がある。こうした場合は、日本基準のように、工事完成基準を適用することは合理的な処理であると考えられる。この会計処理を新基準に含めるかどうかについては、企業への影響を含めて慎重な検討が必要である。

○ 論点11 [顧客の未行使の権利(商品券等)]

  • IFRS第15号を適用した場合、非行使部分の金額を見積ることが困難であり、その部分について、顧客が行使する可能性がほとんどなくなった時点まで収益を認識できないという問題がある。新基準において、一定期間経過後に残存している負債の認識を中止して収益を計上し、必要に応じて引当金を計上する現行実務を容認する余地はあると考える。

○ 論点13 [本人か代理人かの検討]

  • IFRS第15号の本人か代理人かの判断は、「支配の原則」に基づくB35項や、支配に基づく判定が困難な場合に参照するB37項の諸指標を勘案し、総合的に判断することが求められるが、諸指標の一部分のみを満たすケースも多く、現状のB37項の指標(主たる責任、在庫リスク、価格設定の裁量権)だけでは実務上の判断が難しい。よって、特に総合判断に迷う場合の取り扱いについて、踏み込んだ記載(本人・代理人のいずれを優先的に選択するかを示す 等)を加えることや細かい設例を加えることを検討して欲しい。

○ 論点16 [契約コスト]

  • IFRS第15号では、一定の要件を満たす場合、資産計上を求めている。しかし、資産計上、償却、減損などの実務負担は大きいと思われる。新基準に、この規定を入れるかは、コスト・ベネフィットの十分な検討をして欲しい。

(質問4)-その他の論点

その他の個別具体的な論点は企業から寄せられていないが、日本には様々な業種・業態の企業があり、無数の種類の取引がある中で、(質問3)の17の論点のみで、全ての適用上の課題を識別できているわけではない(全ての課題を識別すことは不可能である)ことには留意していただきたい。

(質問5)-開示

作成者の立場から、経営の観点で、新たに追加すべきと考える開示は無い。よって、IFRS15号の開示規定を日本基準に取り込む場合には、開示の目的、その開示が無ければどの様な不都合が生じるのか、現行の開示での代替可能性等について、徹底的に議論を行い、連単の開示の取扱いも含めて、コンセンサスを得る必要があると考える。また、新基準は、上場会社のみならず、会社法のみが適用される会社等も適用することが想定されている点も踏まえ、全体としてのコスト・ベネフィットを考慮した上で、開示規定を検討すべきである。企業のコストと利用者のベネフィットを勘案すると、全ての企業に一律に全ての開示を求めるのではなく、企業の業種・業態を考慮して、開示要求を限定するといった対応も検討すべきである。

さらに、IAS第1号第31項において、「IFRSで要求されている具体的な開示がもたらす情報に重要性が無い場合には、当該開示を提供する必要は無い」とある一方、日本基準にはこうした開示の包括的な規定が存在しないことから、IFRSと同様に重要性の勘案が可能であることを明確化するために、こうした包括的な重要性に係る規定を格別に盛り込むことを検討すべきである。

以下の定量的な開示規定には、特に強い懸念を持っている。

○ 収益の分解

  • 現行のセグメント情報の開示は、経営上の意思決定や業績評価のために使用する情報を開示しており、財務諸表利用者の理解に役立っていると考えているが、海外投資家も含めてそれ以上の情報開示を求められることはない。よって、セグメント情報以上の詳細な収益の分解の開示は、情報収集やシステム投資のコストを超えるベネフィットがあるとは考えられないため、新基準において開示を盛り込むべきではない。

○ 契約残高

  • 期首・期末の契約残高だけでなく、その重大な変動についての開示など、詳細な開示を求めており、作成者に大きな負担をかけるが、経営者はこのような情報を必要とはしておらず、その有用性については、極めて疑問である。新基準での開示規定の要否については、利用者がなぜ分析に必要なのかについて慎重に検討すべきである。

○ 残存履行義務

  • 企業は、投資家に対して、必要に応じて、IRやMD&A等のコミュニケーションを通して、経営者が利用している「受注残高」等の情報を伝えており、経営者が利用していない「残存履行義務の満期分析」の情報を、一律に要求すべきではない。
  • 「残存履行義務が収益として認識される時期」の開示は、将来情報であり、利用者の利便足りうる正確な情報を開示できるのか極めて疑問である。また、監査可能性の観点からも問題がある。

(質問6)-その他

○ 今後のスケジュール

  • IFRS15号及びTopic606の強制適用日である2018年度に、新基準の早期適用が認められるように基準開発を行うことに賛同する。
  • 新基準の内容によっては、広範な影響を及ぼす可能性があることから、企業が前倒しで準備を行うことを可能にするために、できるだけ早い時期に強制適用までの基準開発のスケジュールを明らかにするとともに、基準開発の状況を適時に情報提供すべきである。

〇 追加で検討すべき課題

  • 今後の新基準の検討にあたっては、我が国の財務諸表作成・監査の実務全体のプロセス効率化のため、新基準の表現方法(文言レベルでIFRS15号とどの程度コンバージェンスを行うか)、適用スコープ(適用が強制される企業の範囲)、連単の取扱い、JMISとの関係などについて、議論を尽くすべきである。

○ 新基準の適用範囲

  • IFRS15号第5項では、IFRS15号を適用しない取引を限定列挙している。新基準においても、ここで列挙された取引は適用除外とすることを、早期に明確にすべきである。

○ 重要性の考慮

  • 収益認識は、膨大な売上取引を対象とすることから、新基準に一般的な重要性の規定を書き込むことは有用である。例えば、「本会計基準の全ての項目について、財務諸表利用者の意思決定への影響に照らした重要性が考慮される」(企業会計基準第24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」第35項)といった文言を新基準に盛り込むべきである。
  • そのうえで、個別的な重要性の基準値を一律に定めるかべきか、企業が個々の監査人との間で判断すべきかについては、夫々のメリット・デメリットを踏まえて議論を尽くすべきである。
以上

  1. 「新基準における5つのステップにより収益を認識するという新たな実務プロセスに加え、「予備的に識別した適用上の課題」に記載がある現行の日本基準の実務と大きく異なる可能性がある論点(注)は、管理プロセスの見直しや、システム改訂、会計監査証憑の整備など、移行期はもとより、決算実務の運用に伴うコスト増が懸念されることから、こうした実務上の懸念を十分に踏まえて基準開発を行う必要がある。また、基準開発の具体的な意義(ベネフィット)について議論を尽くして欲しい。」との意見がある。
     (注) 論点1「契約の結合」、論点3「約束した財又はサービスが別個のものか否かの判断」、論点9①「一定の期間にわたり充足される履行義務(進捗度を測定できる場合)」、論点9②「一定の期間にわたり充足される履行義務(進捗度を合理的に測定できない場合)」、論点10「一時点で充足される履行義務」、論点13「本人か代理人かの検討(総額表示又は純額表示)など。
  2. 「現行の日本基準の実務を考えれば、新基準は原則とそれを補足する簡単なガイダンスから構成されることがベストであり、あまり細かな論点を突き詰めることは適切ではないことから、適用上の課題の抽出が「木を見て森を見ず」にならないように、今後の進め方には十分気をつけるべき」との意見がある。

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