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Policy(提言・報告書) 北米 日米経済関係の強靭化に向けた基本的考え方

2017年4月18日
一般社団法人 日本経済団体連合会

エグゼクティブ・サマリー

はじめに

‘The U.S.-Japan relationship is the most important bilateral relationship in the world, bar none.’    Mike Mansfield

かつて、マンスフィールド元駐日大使が述べたように、日米関係は、他に比肩するもののない、最も重要な二国間関係である。日米両国は、自由、民主主義、法の支配、人権尊重、市場経済といった基本的価値観・原則を共有する重要なパートナーである。

近年、両国は良好な関係を継続してきているが、それは、両国関係者のたゆまない努力によって実現されているものであって、そうした努力なくして、今後も自動的に継続されるものと考えるべきではない。日米両国を取り巻く政治経済環境は大きく変化するとともに、複雑化しており、複眼的で戦略的な対応が求められている。新興国の台頭に伴い、経済、政治・安全保障面においてアジア太平洋地域の重要性が増していることは、その最たる例である。

こうした中、本年1月、米国においてトランプ政権が発足し、2月に行われた日米首脳会談において、日米同盟を何よりも重視するという政治的メッセージを世界に発信することができたことは大きな成果である。共同声明(2017年2月10日)において、「揺らぐことのない日米同盟はアジア太平洋地域における平和、繁栄及び自由の礎」であり、「アジア太平洋地域において厳しさを増す安全保障環境の中で、米国は地域におけるプレゼンスを強化し、日本は同盟におけるより大きな役割及び責任を果たす」ことが確認されたことは、両国関係の将来の大きな方向性を示しており、日本経済界として高く評価するものである。

この上は、この揺るぎない同盟関係を基盤に、経済面においてより強靭な関係を構築していかなければならない。そして、日米両国が、アジア太平洋地域に質の高いルール・基準に裏打ちされた貿易・投資関係を構築するとともに、共に手を携えてグローバルな課題解決に取り組み、自由で開かれた国際経済秩序の維持・強化にリーダーシップを発揮していかなければならない。

Ⅰ.両国経済の包摂的・持続的成長の必要性

既に良好な日米経済関係をさらに高い水準に引き上げるためには、日本、米国それぞれが、包摂的で持続的な経済成長を実現することが前提となる。

まず、わが国経済について、内にあっては、世界で最もビジネスの行いやすい事業・投資環境を目指して、国際的なイコールフッティングを確保するとともに、対外的には、経済連携協定や投資協定の推進など制度的な基盤を整備し、企業の国際展開を支えることが不可欠である。

事業・投資環境の整備に関して、かねて経団連は、(1)法人実効税率の早期引き下げ、(2)設備投資促進策、(3)規制改革の更なる推進、(4)安価で安定的な電力の確保、(5)次世代技術の開発・実用化に向けた政府のイニシアティブ発揮、(6)研究開発促進税制の維持・拡充、(7)労働規制の更なる緩和を求めている。日本政府には、これら構造改革の早期実現に向け、取組みの一層の強化を期待する。また、女性・若者・高齢者の活躍推進、外国人材の積極的受け入れなどを通じて多様な人々が参画、活躍する包摂的で持続的な成長を目指すべきである。

さらに、少子・高齢社会に突入したわが国にとって、グローバリゼーションを推進し、海外市場の活力を取り込むことも、国内構造改革と並んで持続的な経済成長に不可欠の要件である。今日、ヒト、モノ、資本、サービスおよび情報が国境を越えて自由かつ円滑に流通することなくして、事業は成り立たない。わが国企業のサプライチェーンもグローバルに広がっているのが実態である。特にアジア太平洋地域は、わが国の貿易・投資の約7割を占めており、上述の経済連携協定等の締結はもちろんのこと、自由で開かれた貿易投資を支えるためのルールづくりが強く求められる。

米国経済は緩やかに回復しつつあるが、その陰でジニ係数は80年代の0.3前後から現在は0.4近くにまで上昇#1しているなど、グローバル化の時流を捉えて成功した人々とその流れから取り残された人々との間の所得格差が拡大しており、それが既存政治やエスタブリッシュメントへの不信感や反グローバリズムの風潮につながっている。こうした構造的な格差問題を是正するためには、たとえば、社会のニーズに対応した労働者のエンプロイヤビリティ(就業能力)を高めるための教育・訓練などの機会を充実させる必要がある。そうすることは産業構造の転換を促し、ひいては、さらなる国内投資の促進につながるものである。また、米国経済の強さの根源は、開かれた経済社会を維持し、国外からも高度な人材、技術、資金等の経済活力を積極的に取り込んできたことにあり、それを可能にしてきた社会の垂直的・水平的なモビリティは今後も維持されることが望ましい。さらに、企業の投資判断は長期的な視点に立って行われることから、政策の透明性・安定性・予見可能性を確保することは、米国への投資意欲をさらに高める上で必須の要件である。

以上に加えて、トランプ政権が掲げる規制改革、法人税引き下げ・中間層減税などの税制改革、ならびに1兆ドル規模のインフラ投資など企業の投資意欲を掻き立てるような産業促進的な政策が着実に実現されれば、米国経済のみならず世界経済にも追い風となる。米国政府には、議会と連携し、これらをスピーディに実行に移すことを期待する。

対外的には、北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉をはじめとする通商政策の行方をとりわけ注視している。NAFTAは、発効以来20年以上に亘って、北米地域に多くの投資を呼び込み、同地域の経済社会全体に多くの利益をもたらしてきた。今次見直しによって、そのような効果が一層促進されることを期待している。また、アジア太平洋地域の活力を米国経済に取り込んでいくためには、地域全体に広がる自由貿易投資の枠組みが不可欠であり、米国政府においては、そのような視点に立って対外通商政策を展開することが望まれる。

Ⅱ.両国経済関係の一層の強靭化に向けた取組み

現在の日米経済は、かつての貿易摩擦の時代と大きく異なり、互いに重要な貿易・投資パートナーとして、密接不可分の関係にある。特に、日本企業の米国への直接投資は順調に拡大を続け、フローはG20中最大となる約311億ドル#2、ストック(残高)も英国に次ぐ世界第2位の約4,110億ドル#3に達している。その結果、米国に進出する日系企業の直接雇用は英国に次いで世界第2位となる約84万人#4であり、間接雇用も含めた雇用創出効果は約174万人にのぼる。特に製造業は、日系企業が最多の約38万人#5の雇用を生み出している。雇用面に加え、日系企業は米国の輸出にも貢献しており、在米外資系企業の中でもトップの約790億ドル#6の輸出額を誇っている。このように、日本企業は全米各地にしっかりと根ざした事業活動を展開しており、良き企業市民(Good Corporate Citizen)として、各地の経済社会に安定的な雇用と成長をもたらし、もって米国経済の発展に貢献している。長年にわたって各地域において教育支援やジョブ・トレーニングなどを通じた雇用支援を行っている日本企業も多い。

世界最大の成熟したマーケットである米国に対する日本企業の期待は大きく、今後も日本企業の米国での事業活動拡大の傾向は続くと予想されている。JETROが行った調査によると、米国に進出している日本企業の事業拡大意欲は着実に増加を続けており、2012年以降、5割以上の企業が米国内での事業拡大投資を検討している。#7

また、現状、米国企業によるわが国への直接投資については、国別では1位#8であるものの、日本企業の米国への投資残高と比べると14%にすぎない。しかし、今後は、成長著しいアジア市場にアクセスするための足がかりとして、日本への直接投資や日本企業との戦略的な連携関係の構築を考えている米国企業もあり、双方向の投資の拡大が期待される。

このように強固な同盟関係の上に築かれてきた日米経済関係を、さらに強靭なものとしていくために、日米経済対話などの枠組みも必要に応じて活用しながら、両国が協力を推進していくべき具体的分野を見出し、その裾野を更に広げていく必要がある。そうした協力を通じた両国経済関係の強靭化は、同盟関係をも一層強靭なものとする。

(1) グローバル・ガバナンスの強化に向けたリーダーシップの発揮

まず、台頭する新興国が新たなグローバル・ルールの形成を模索する中、価値観を共有する日米両国がリーダーシップを発揮して、国際連合や国際通貨基金(IMF)、世界貿易機関(WTO)など既存のグローバル・ガバナンスの維持・強化に努める責務がある。加えて、グローバリゼーションの進展に伴い、難民やテロ、サイバー攻撃など国境を越えた取組みが求められる地球規模の課題が増加している。こうした課題解決についても、日米両国での協力を模索すべきである。

(2) アジア太平洋地域における自由で開かれた貿易・投資ルールの形成

とりわけ日米両国のリーダーシップへの期待が高いのは、アジア・太平洋地域における自由で開かれた貿易・投資ルールの形成である。TPP協定の成果も十分に活かしながら、関税分野の自由化のみならず、サービス、投資の自由化も進めるとともに、デジタル貿易、知的財産、国有企業など幅広い分野で21世紀型のルールを構築し、将来的にアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)を実現していくべきである。こうした取組みに日米両国がリーダーシップを発揮することが、各地で広がりつつある反グローバリズム・反自由貿易の風潮の抑止にもつながる。

(3) インフラ投資における協力

日米両国の経済界が、具体的な成果を期待している協力分野として、トランプ政権が強い意欲を示しているインフラ投資がある。これには、両国の政府や民間企業が叡智を結集して協力連携し、それぞれが持つ高い技術力を存分に活かしながら、電力、高速鉄道、スマートシティなど米国内におけるインフラ整備を推進するとともに、第三国におけるインフラ投資促進のための取組みを進めることが、win-winの成果をもたらす。

(4) イノベーション創出に向けた協力

日米両国は、インフラやエネルギー、サイバーセキュリティ等の分野に加え、IoT(Internet of Things)やAIなどの最先端技術を活用したイノベーションの創出に向けた幅広い協力が可能である。例えば、インターネット・エコノミー政策協力対話(IED)や日EU業界対話の取組みなども参考に、日本が提唱するSociety 5.0の実現に資するグローバルな環境整備について、日米各層の間で包括的に対話を深めることも有益である。

(5) 社会的課題の解決に向けた協力

日米両国が、国内で抱える社会的課題に協力して取り組むことも有効である。たとえば、あらゆる人々が活躍できる包摂的な経済社会の実現に向け、少子高齢化対応や女性の社会進出支援、障がい者等の社会参画など、互いの知見や経験を活かしながら、効果的な解決策を見出していくことも期待できる。

Ⅲ.経団連としての取組み

日米の強固なパートナーシップは、両国の安寧や経済発展にとって不可欠なだけでなく、アジア太平洋地域の平和と繁栄の基盤である。その基盤をより強靭なものとしていくためには、上に掲げたような課題について、日米両国の経済界が認識を共有し、連携協力することで、日米両国政府の取組みを促していくことが重要である。この点、経団連、全米商工会議所が参加して、先月末にローマで開催されたG7ビジネス・サミット(B7サミット)の共同宣言は、日米経済界の現時点での共通認識を示している。同宣言を具体化、深掘りしていくことが重要である。

われわれ日本経済界・日本企業自身が果たすべき役割は大きい。上述のように、日本企業による投資や雇用などを通じた米国経済への貢献は非常に大きく、これらによって育まれた交流は将来につながる貴重な資産である。今後も、日本企業が、より良い企業市民として米国経済に関与・貢献し続けていけるよう、経団連としても日米両国関係者への働きかけを続けていく。

また、経団連は、引き続き、訪米ミッションの派遣や来日する要人との意見交換、米国経済団体等との連携を通じて、連邦レベル・州レベル双方での対話を積極的に実施し、交流と相互理解の一層の進展に努める所存である。さらに、日本企業の米国経済への貢献の実態についての米国社会における理解を広げるべく、戦略的に情報を発信していく。

以上

  1. OECD "Income Distribution and Poverty" による。ジニ係数は、可処分所得(税引き後の所得)を基準としたもの。
  2. 米国商務省経済分析局による(2015年)。
  3. 米国商務省経済分析局による(2015年)。
  4. 米国商務省経済分析局による(2014年)。「日系企業」とは株式の過半数所有子会社を指す。なお、株式の10%以上を所有する企業を対象とした場合、雇用者数は約90万人。間接も含めた雇用創出効果の推計は、10%以上所有の日系企業のデータをベースに経団連事務局が行ったもの。
  5. 米国商務省経済分析局による(2014年)。
  6. 米国商務省経済分析局による(2014年)。
  7. JETROが行った「米国進出日系企業実態調査」によると、2012年以降、調査時点において、今後1、2年間で事業展開が拡大すると予測している企業が、全体の57.1%、60.1%、60.3%、56.7%、53.4%とコンスタントに多数を占め続けている。
  8. JETRO「世界と日本の貿易統計資料」による。

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