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Policy(提言・報告書) 環境、エネルギー 「原子力損害賠償制度の見直しについて」の取りまとめに向けた意見 ― パブリックコメント募集に対する意見 ―

2018年9月10日
一般社団法人 日本経済団体連合会
環境エネルギー本部

東日本大震災以降、原子力損害賠償制度の見直しは大きな課題と認識され、2011年8月に成立した原子力損害賠償・廃炉等支援機構法(機構法)の附則においては、同法施行後できるだけ早期に、「原子力損害の賠償に係る制度における国の責任の在り方、原子力発電所の事故が生じた場合におけるその収束等に係る国の関与及び責任の在り方等について、これを明確にする観点から検討を加える」(附則第6条第1項)ことが規定された。

政府は2015年5月、原子力損害賠償制度の見直しを検討するため、原子力委員会の下に原子力損害賠償制度専門部会を設置し、望ましい制度のあり方について検討を開始した。経団連としては、経済性ある価格での電力の安定供給確保や地球温暖化対策のため、安全性の確保を大前提に、引き続き原子力を重要なベースロード電源として活用すべきとの考えのもと、迅速かつ確実な被害者救済と原子力事業の予見可能性確保が両立する原子力損害賠償制度の実現を求めてきたところである。

今般意見募集に付された「原子力損害賠償制度の見直しについて(案)」は、同専門部会の検討の成果であり、新たな原子力損害賠償制度の姿を提示することが期待されるものであった。しかしながら実際には、被害者救済に資する複数の制度改正について方向性が示された一方で、原子力事業の予見可能性向上に関しては特段の改善が見込めない内容となっている。

震災後7年以上が経過するなか、見直しの検討がこうした形で一つの区切りを迎えようとしていることは大変遺憾である。特に見直しを要する点について、改めて、以下の通り意見を述べる。

2.(1)原賠制度における国の役割〔p.6~7〕

〔意見〕

「国の役割」に代えて「国の責務」と記載するとともに、「事業者任せにせず、国が前面に立って取り組んでいく必要性」について書き込むべきである。

〔理由〕

競争原理のさらなる導入や総括原価方式の撤廃をはじめとする電力の全面自由化が進むなかで、原子力損害の確実な填補を図るとともに原子力事業の民間による担い手を確保していくため、万が一大規模な原子力事故が起こった場合には、国が被害者保護に万全の措置を講じることとする必要がある。原子力損害賠償法に国の責務を明記し、国が現状よりも積極的な責任を果たすことを示すべきである。

第20回原子力損害賠償制度専門部会における文部科学省の説明によれば、直近の原子力損害賠償法改正では損害賠償措置のあり方に関して成案を得られず、原子力損害賠償制度全体の見直し議論は途上のまま、検討に区切りをつけることになる。こうした状況に鑑みれば、原子力を取り巻く複数の課題を乗り越え、わが国として、安全性の確保を大前提に重要なベースロード電源として活用を続けていくうえで、国が前面に立って責務を全うする姿勢を示すことの重要性は、より一層高まっているといえる。

2.(4)原子力事業者の責任の範囲〔p.8~9〕

〔意見〕

原子力事業者の責任に一定の上限を設け、それを超える賠償が発生した場合には国が補償することとすべきである。

仮に、報告書案p.9に記載されているように「原子力事業者を有限責任とすることについては、法的、制度的に短期的に解決できない課題が多く、現行の原子力事業者の責任の範囲を変更する状況にはない」ため、短期的には制度変更を見送るとしても、継続的な検討課題である旨を明記すべきである。

〔理由〕

原子力事業を民間で実施していく観点からは、万が一の重大事故の際に原子力事業者が負う責任を、一定程度予見可能かつ私企業が対処し得る範囲に制限することが望ましい。国と事業者が連携し、相当因果関係がある原子力損害の完全な填補や、原子力設備に対する重層的な安全対策を通じた必要な安全投資の確保等に取り組むことを前提に、原子力事業者の責任に上限を設けるべきである。

仮に、報告書案が指摘するように「原子力事業者を有限責任とすることについては、法的、制度的に短期的に解決できない課題が多」いとしても、最終的に国が責任を持つ体制を構築することが安心につながるとの指摘もあることや、原子力を活用する諸外国において有限責任を採用している例があることなどを踏まえれば、継続的な検討が必要である。この点を報告書に明記すべきである。

3.(1)賠償資力確保のための枠組み〔p.11~12〕

〔意見〕

原子力事業者の責任の範囲を引き続き無限責任とする場合、保険的スキームを拡充し、賠償措置額を引き上げることとすべきである。

直近の原子力損害賠償法の改正に併せて賠償措置額の見直しを行うことが難しいとしても、間断なく検討を継続し、迅速に結論を得ることが不可欠であることを報告書に明記すべきである。とりわけ報告書案p.12 l.20の「引き続き慎重な検討が必要である」という記述は、「迅速に検討を進める必要がある」といった表現に改めるか、少なくとも「慎重な」という語を削除すべきである。また、今回は見直しを見送らざるを得ない理由について、報告書に具体的に記載すべきである。

なお、賠償措置額を引き上げる際は、電気料金を通じた国民負担が過大とならないよう配慮が必要である。そのため、各事業者が機構法に基づき将来の事故への備えとして支払っている一般負担金の一部分を保険的スキームに置き換えることとし、追加の負担を抑制すべきである。また、東日本大震災後の規制強化や事業者の自主的取り組みによる原子力設備の安全性向上を反映し、補償料率を引き下げるべきである。

〔理由〕

現行の原子力損害賠償制度は、重大事故への備えの大部分を機構法に基づく原子力事業者の相互扶助制度に依っている。同制度は、電力システム改革によって総括原価方式が撤廃され事業者間競争も進展するなか、制度の持続可能性が不透明であるうえ、非発災事業者も予見可能性に乏しい負担を求められるという課題がある。こうした観点から、負担に予見可能性がある保険的スキームを拡充し、賠償措置額を引き上げるべきである。

第20回原子力損害賠償制度専門部会において、文部科学省は、「法制上、原子力損害賠償法を2019年中に見直す必要がある一方、現時点で賠償措置額に係る具体的な見直し案を得られる状況にないため、直近の法改正には見直しを盛り込まないが、文部科学省を中心に賠償措置額のあり方に関する検討を継続していく」との方針を示した。併せて、現時点で具体的な見直し案が得られない理由として、

  1. 1,200億円を超える賠償を民間保険契約で手当てすることは困難であり、従前同様に民間保険と政府補償を等しく積み増す形で賠償措置額を引き上げることはできない。
  2. 電力システム改革による競争の進展が相互扶助スキームに与える影響について、さらなる検討・評価が必要である。
  3. 福島第一原子力発電所事故後の安全規制の強化による事故リスクの低減を補償料率等にどのように織り込むか、評価が途上にある。

との趣旨の説明が行われたところである。

原子力事業者の予見可能性確保の観点から、引き続き賠償措置額の見直しに向けた検討を続けることは極めて重要である。報告書案p.12 l.20の「引き続き慎重な検討が必要である」という文言は、早期に検討し結論を出す必要性を全く表現できておらず、見直す必要がある。

また、賠償措置額の見直しが見送られた理由は、今後の検討を進めるうえで重要な論点になると考えられるため、報告書に盛り込むべきである。

以上

(ご参考)意見募集URL
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/pressrelease/pressrelease20180809.html

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