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Policy(提言・報告書) 税、会計、経済法制、金融制度 経済の電子化に係る課税上の課題への対応 公開諮問文書に対する意見

2019年3月6日

OECD租税政策税務行政センター
 租税政策・統計課 御中

一般社団法人 日本経済団体連合会
税制委員会企画部会

経済の電子化に係る課税上の課題への対応 公開諮問文書に対する意見

1.はじめに

経団連は包摂的枠組における経済の電子化に係る課税上の課題に対する精力的な検討を歓迎する。これまで税源浸食と利益移転(BEPS)プロジェクトは、各国に対して一貫性のある行動を促すとともに、紛争の防止・解決を確実なものとし、納税者にとっての税の安定性を確保するという点で重要な役割を果たしてきた。今般の電子経済に係る検討についても、同様の成果が得られることを期待する。

デジタル技術の進展は、今後の世界経済の成長・変革を推進するエンジンであり、社会全体の課題解決にも資するものである。デジタル技術およびデジタル技術を利用する産業の発展を阻害することのないよう留意しつつ、簡素で、一貫性のある、二重課税の生じない、公平な競争に資する長期的解決策を見出すべきである。電子経済への対応を超えて、追加的な税負担を企業に求めることは不適切である。二重課税・紛争の防止・排除が不可欠であり、OECD及びG20のリーダーシップに期待する。各国は、長期的解決策に合意するまでは一国主義的な課税を控えるべきである。

今回の公開諮問文書における提案は、従来の国際課税原則に少なからず変更を加えるものとなっている。電子経済の囲い込みが不可能であるとの指摘は正しいが、課税上の対応策としては一部、大掛かりに過ぎる内容も含まれている。直面する課題とその処方箋との間には比例原則が適用されて然るべきであり、バランスのとれた議論が求められる。仮にマーケティング上の無形資産提案を軸に検討を進めるならば、真に対処すべき問題の特定と、その解消に必要な程度での制度の見直しがプロポーショナルな長期的解決策につながるのではないかと考える。結果として、既存の移転価格算定方法が機能する場合も多いのではないか。

かかる観点を踏まえ、以下のとおり、質問項目に回答する。

2.ネクサス及び利益配分に係る国際課税原則の見直し(第1の柱)

(1) 各提案についての見解はどのようなものか

  1. ① 「ユーザー参加」提案
    本提案については、まずユーザー参加と価値創造との関係について、更なる検討が必要と思われる。仮にユーザー参加によるデータの蓄積という事実があるとしても、価値創造の大部分はデータを分析し、製品・役務の改良に結び付けている事業者が行っていると考えるのが自然である。例示されているソーシャル・メディア・プラットフォーム、検索エンジン、オンライン・マーケット・プレイス以外にも、IoTや自動車走行による情報の蓄積等、潜在的にはユーザー参加を伴うと呼びうる活動を行っている事業者もあるが、同様である。また、製品の販売に伴うアフターサービス等を充実させるため、情報を収集する場合、その情報そのものから、直接収益が生まれているわけではない。

    実際に課税を行う局面でも、課題があると思われる。例えば、企業がユーザーのデータを精緻に収集することは困難が予想される。ダミーで登録されているユーザー、複数登録を行っているユーザーをどうカウントするかという問題もあろう。

    また、仮にユーザーの参加に一定の価値が認められるとしても、どの程度のウェイト付けが行われるべきかについては、業種によってだいぶ異なると考えられる。

    なお、一部の国・地域で提案されている売上への課税は、外国税額控除が不可能と見られ、二重課税を生じさせるおそれがある。長期的解決策は、あくまでも所得課税とすべきである。

  2. ② 「マーケティング上の無形資産」提案
    本提案は、長期的な解決策を検討するうえで、比較的議論の余地のある提案だと認識している。しかし、制度設計によってはBEPS最終報告書で確認された基本原則である「経済活動の行われた場所での課税」「移転価格と価値創造との一致」に沿わず、過度に市場国へ課税権を配分する結果となる可能性がある。また、二重課税及び事務負担増加の懸念もある。このため、仮に本案を軸に検討する場合でも、比例原則に従った見直しが適切である。

    本提案は、高度に電子化されたビジネスに加え、それ以外の消費者向け製品事業のリスク限定販社を通じたビジネス・モデルも射程に入れているが(パラ42)、それら全てを対象とすることが適切かについては疑問がある。第1に、リスク限定販社を市場国に設置していることを以って直ちに市場国における利益配分が不十分な結果となっているわけではない。第2に、消費者向け製品事業であるからといって一律に価値創造におけるマーケティング活動の果たす役割が高いとは言えない。第3に、公開諮問文書でも一部、指摘のある通り(パラ61)、市場国外で行われるマーケティング活動が市場国の無形資産に貢献していない場合もある。

    本提案がそのまま採用されれば、複雑な計算過程を経る必要がある。例えば、対象となる事業に係る多国籍企業グループの利益を全体合算した上で通常利得を控除し、残余利益を特定、その中からマーケティング無形資産に係る部分を抽出し、市場国に一定の算式により按分する必要がある(パラ47、48)。これは全世界残余利益分割法とも呼ぶべきものであり、従来の独立企業原則とは著しく乖離している。また、どの国の基準で全体利益を算定するのか、企業グループの内、残余利益分割の対象となる事業とそうでない事業をどう切り分けるのか、誰がその正確性を担保するのかの問題も大きい。このような手法でしか解決できない問題は、一体どの程度あるのだろうか。

    いわゆる伝統的な消費者向け製品事業においては、リスク限定販社を含む国外関連取引において、取引単位営業利益法(TNMM)等の片側検証による移転価格算定方法が基本的には機能しており、従来のアプローチを変更する理由が乏しい。軽課税国に無形資産を移転した上でリスク限定販社を市場国に設置(パラ13)するようなことを行っていない企業にとってはなおさらである。理論上は、各国がマーケティング無形資産等の各種の用語の意義、計算方式について詳細に合意できれば紛争は生じないが、現実的にはそのような展開は想定しにくい。このままでは、我々を待ち受けているのは税の安定性ではなく、二重課税・紛争及び事務負担の増加であると言わざるを得ない。

  3. ③ 「重要な経済的存在」提案
    既存の国際課税原則が機能している分野においても抜本的な制度変更をもたらすものであり、射程が広がりすぎ、問題が大きい。我々は本提案を支持しない。

    本提案では、売上高に全世界の利益率を乗じる按分法で算出することとしている(パラ52)が、どの国のどの基準で算定するのか、この公正な監査は誰が行うのか。「マーケティング上の無形資産」提案と比べれば簡素な方法とも言えるが、利益の配分における公平性とはトレード・オフの関係となる。本来、移転価格税制に基づき、国外関連者の機能・リスクに応じて行われるべき各国間の利益配分が、多国籍企業の利益率をベースに外形的な基準で行われる結果、課税の公平性も失われてしまう。また、売上に対して課税することは、結果的に所得のないところに課税することになりかねない。さらに、市場国ですでに恒久的施設(PE)が存在し、全世界平均よりも低い利益率であった場合に、当該国から重要な経済的存在を認定されて課税を受けることがあれば、課税関係を著しく不安定にさせるものと考える。

    税の徴収方法として、源泉徴収課税が提案されているが(パラ55)、一部の国では、源泉徴収について適切な還付がなされていない事例がある。また、実際には還付までに数年かかることが実情である。

    また、源泉徴収をする側の立場に立てば、支払先が重要な経済的存在の認定を受けているかどうかの確認が必要となり、事務負担の増加が見込まれる。

    公正な利益の算定方法と監査機関、確実かつ適時な還付が担保されるまでは本提案は採用できない。

(2) どのようなビジネスが、経済の電子化の結果、現在の利益配分・ネクサスルールで捕捉できないといえるか/どのような配分法をとるべきか

現在の利益配分・ネクサスルールで捕捉できていない業種として、「質量なき規模」との特徴が該当する事業等が指摘されていること自体は認識している。

(3) 各提案に沿った新たな利益配分及びネクサスルールを検討するにあたって、対象範囲・閾値・損失の扱い・利益配分ファクター等、制度設計するうえで一番重要な考慮すべき点は何か。

特に「マーケティング上の無形資産」提案についてコメントする。制度設計する上で最も重要なのは対象範囲と課税手法である。

まず、一律に伝統的な消費者向け製品事業も対象とするのではなく、価値創造におけるマーケティング無形資産への依存度が相応に高い企業や軽課税国に無形資産関連所得を集中させる事業者に限定すべきである。また、全ての企業間取引にまで対象を拡充することは、パラ61にも記載がある通り、極めて慎重な検討が必要である。加えて、中小企業やスタート・アップ企業などの事務負担等を軽減する観点から、一定の閾値を設ける必要がある。

仮に、本提案の対象となった場合も、一律に全世界残余利益分割法をデフォルトとするのではなく、伝統的な移転価格算定方法の使用余地を残すべきである。さらに、残余利益を分割する局面においては、マーケティング無形資産の価値を過大に評価してはならない。例えば、製造業では研究開発や設備投資等の成果(営業上の無形資産)が顧客の購入を促す大きな要素になる。加えて、市場国の購買力が企業の利得配分において重要ではないとの指摘(パラ33)は改めて認識する必要がある。これらの結果として、市場国への新たな利得配分は、あったとしてもごく穏当なものになるべきである。なお、残余利益を分割するならば、残余損失についても当然、分割すべきである。

実務的には、ビッグ・データを解析する拠点等を移転価格分析においてどのように取り扱うかが課題となる。

また、現行制度下で既に蓄積された無形資産を保有する国において、新たな残余利益分割により利益が国外に移転する結果となることにつき、無形資産が国外に移転したと見なされ、当該国において出国税を含め、課税が生じることがないよう担保する必要がある。

加えて、ビジネス・ライフ・サイクルに応じたスタート・アップ時の損失の適切な回収方法を考慮する必要がある。具体的には、本店所在地国において事業開発に係る初期の損失(例えばデータ収集等のための莫大なリスク投資に係るもの)が負担される一方、利益に転じた後は複数の市場国にその配分が行われることになる。このミスマッチを解消するために、例えば累計で事業損益を管理し、それが利益に転じた一定期間以降に各国に配分する等の方法にて、適正な残余利益をその事業を開発した国に計上することも考えられるのではないか。もっとも、その際には、事務負担とのバランスにも留意する必要があろう。

なお、国別報告事項(CbCR)における追加データの活用を示唆する文言があるが(パラ85)、ハイレベルなリスク評価というCbCRの本来の趣旨・目的と整合していない。事業ラインの情報となると、もはや国ごとのデータとは言えない。個別の情報申告制度に比べれば事務負担が軽減されるとの考え方もあろうが、長期的解決策が適用される対象につき相応の絞り込みが必要であるので、一定の閾値以上のすべての多国籍企業に提出が求められるCbCRの拡充は、比例原則に合致しておらず、支持できない。

(4) 複雑性の除去、税の安定性の確保、及び多国間での紛争防止・紛争解決に一番適切なアプローチは何か。

第1の柱に基づき、長期的解決策を実施するならば、税の安定性を確保する観点から、対象事業所得の算定方法を確立するとともに、ミニマム・スタンダードとして義務的仲裁制度を導入し、その実施状況をモニタリングすることが不可欠である。また、全世界残余利益分割法を導入するならば、紛争は多国間に及ぶ恐れがあるため、多国間の紛争防止・解決メカニズムが必要となる。国際コンプライアンス保証プログラム(ICAP)等の取り組みに加え、常設の監査機関、紛争解決処理機関の創設も検討する必要があるのではないか。

3.税源浸食への対抗措置(第2の柱)

(1) 各提案についての見解はどのようなものか

税源浸食への対抗措置については、米国におけるグローバル無形資産低課税所得(GILTI)や税源浸食濫用防止税(BEAT)の導入を踏まえ、租税競争の緩和も目的として検討されているものと理解している。もっとも、租税回避の防止という意味では、移転価格税制(行動8~10)、外国子会社合算税制(CFC税制)(行動3)、利子控除制限(行動4)、条約の濫用防止(行動6)等、既存のBEPS勧告の実施により十分に対処できる領域が多くあり、重複感が強い。また、近年、BEPS勧告への対応により企業の事務負担が急増している中、新たなる負荷が懸念される。無税又は軽課税の状態のみに着目した、経済実態を考慮しない制度が導入されるならば、クロスボーダーの貿易・投資にマイナスの影響が生じることとなる。

第1の柱に基づく長期的解決策の合意が先決であり、第2の柱を急いで採用する必要性を感じない。

(2) 当提案に関連して、(所得合算ルール及び税源浸食的支払いへの課税を検討するにあたって、)制度設計上、一番重要な考慮すべき点は何か。undertaxed payment rule及びsubject to tax ruleそれぞれへの見解の他、実務的観点・執行的観点・コンプライアンス的観点からもコメントいただきたい。

  1. ① 所得合算ルール
    行動3を踏まえ、すでに強固なCFC税制を有する国は、所得合算ルールを導入する必要性は高くない。導入する場合でも、経済実体のある外国子会社の所得は対象外とすべきである。また、最低税率を課されているか否かの判定に当たり、所得が赤字である場合や正当な優遇税制(研究開発税制や投資減税)・資本参加免税の適用を受けている場合に不利な結果とならないよう留意すべきである。

    親会社(A国)、子会社(B国)、孫会社(軽課税C国)の関係の中で、A国とB国に所得合算ルールが導入されれば、C国孫会社の所得につき多重課税の恐れがある。親会社所在地国の制度を優先するなど適用関係を明確にすべきである。

  2. ② undertaxed payment rule
    居住地国で益金算入される支払について、源泉地国で損金算入が否認されれば両国で二重課税となる。仮に本ルールを導入する場合には、居住地国で課税されていない支払に限定する、あるいは最低税率を充分に低く設定すべきである。

    また、制度設計に際しては、当事者の経済実体の有無や支払いに係る事業上の必要性を考慮すべきである。そもそも関連者間で取引が生じるのは、事業にとって最適かつ効率的なサプライ・チェーンを構築しているからである。国外への支払といっても、例えば売上原価を構成するものは除外すべきである。また、親会社における研究開発コストを回収する子会社からのロイヤルティが否認されることのないようにすべきである。支払利子についても、過大支払利子税制や過小資本税制、移転価格税制の規律に服していることから、更なる制限が必要か大いに疑問である。

    現在、一部の法域で存在するハイブリッド・ミスマッチ・ルールでは、支払側で配当が一部損金算入となる場合、受領側ではその一部に対応する部分が益金算入となるという例もある。従って、パラ105にある通り、undertaxed paymentであっても全額否認するのではなく、比例的に否認するという方法も考えられる。

    外国子会社配当は多くの国で免税となっているため、そもそも適用対象外とすべきである(③も同様)。

  3. ③ subject to tax rule
    条約の濫用防止(行動6)を踏まえ、多国間協定(MLI)や個別の条約改定により、主要目的テスト(PPT)や特典制限条項(LOB)が導入される。まずはその実施状況をレビューすることが先決である。なお、7条(事業所得)において、帰属主義の適用が解除され、総合主義となるのは問題が大きいのではないか。

(3) 適用対象を限定することが考えられるか

所得合算ルール及びundertaxed payment ruleでは25%以上の直接・間接の支配関係にある者が関連者と定義されているが(パラ96、103)、資本関係の薄い取引相手から情報を直ちに得ることは難しい。また、Subject to tax ruleでは、基本的には関連者(25%)を対象としつつ、租税条約11条~13条(利子、ロイヤルティ、キャピタル・ゲイン)については、それよりも対象を広げることが示唆されているが(パラ107)、こちらも情報の入手可能性に疑義がある。そもそも、25%程度の資本関係では税源浸食のリスクも低い。関連者の定義は少なくとも50%超とすべきである。

所得合算ルールでは、外国税額控除を含め、事業体ごとではなく法域ごとに適用するとされているが(パラ96)、制度設計によっては複雑化の懸念がある。

所得合算ルールにおいて、合算対象所得に対し国内税率をフルで乗じる(パラ100)のは過剰である。制度を導入する場合には、より低い税率で課税すべきである。

(4) どのように当提案のルール間の適用を調整すべきか

外国税額控除による二重課税の排除が可能という意味では、理論的にはundertaxed payment ruleに比べれば、所得合算ルールやsubject to tax ruleには救済の余地があるように見える。もっとも、事務負担や執行可能性の問題が別途存在する。

undertaxed payment rule及びsubject to tax ruleについては、同一の取引に対して重畳的に適用すべきではない。

(5) 複雑性の除去、税の安定性、紛争防止・解決に一番適切なアプローチは何か

各国で制度が導入される場合には、二重課税の除去を徹底するため、外国税額控除制度の充実・強化が欠かせない。法域によっては、例えば、税額控除限度額の拡充や繰越期間の延長などが課題となろう。

以上

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