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Policy(提言・報告書) 産業政策、行革、運輸流通、農業 次期「総合物流施策大綱」に対する意見

2020年12月4日
一般社団法人 日本経済団体連合会
ロジスティクス委員会物流部会

経団連では、最先端技術の活用拡大を通じた物流の効率化・高度化に向けて、2018年10月に提言「Society 5.0時代の物流―先端技術による変革とさらなる国際化への挑戦―」(以下、「2018年提言」)を取りまとめた。それから2年が経過した現在、新型コロナウイルス感染症によって物流を取り巻く環境は大きく変化している。特に、接触機会を削減しなければならない状況下でも、経済・社会が機能し、持続的な成長が可能となるよう、デジタルによる強靭化を進める必要性が高まっている。

こうしたなか、現在、政府の「2020年代の総合物流施策大綱に関する検討会」において、2021年度から5年間をターゲットとした新たな「総合物流施策大綱」(以下、「大綱」)の策定に向けた議論が進められている。現行の大綱では、ニーズ等の変化に的確に対応し、効率的・持続的・安定的に機能を発揮する「強い物流」の実現が打ち出され、そのための施策が一定の成果を挙げてきた。次期大綱では、DX(デジタルトランスフォーメーション)の進展、大規模自然災害の頻発・激甚化、新型コロナウイルスの感染拡大など、ここ数年での変化を踏まえた大胆な施策が打ち出されることが強く期待される。

そこで、今般、新型コロナウイルス感染症による影響も踏まえつつ、2018年提言で提示した物流の将来像の実現に向けて必要となる施策を改めて整理した。

1.データ連携と標準化

政府ではこれまで、内閣府「物流・商流データ基盤」、内閣官房・国土交通省「港湾関連データ連携基盤」といった物流に関するデータ連携基盤の構築に向けた取り組みを展開してきた。各社においても、これまで社内で輸配送管理システム(TMS)、倉庫管理システム(WMS)等が整備されてきたほか、近年、物流マッチングシステム、SaaS型バース管理システム等を提供するスタートアップが登場し始めている。

今後は、企業・業界の枠を超えて物流をデータでつなぐことで、手続のワンストップ化、共同配送による物流効率化、データを活用した新ビジネスの創出など、ステークホルダー全体にとってのメリットの実現を目指していくことが求められる。そのために、各社によるシステム投資やデータ連携を促すとともに、企業間でのハード・ソフト両面の標準化を推進することが重要である。その際、スマートシティ、MaaSなど隣接領域の取り組みとも連携を図ることが望ましい。

(1)ハード・ソフト両面での標準化の推進

企業間でのデータ連携を進めることで、マッチングシステムを活用した共同物流、RFID#1での管理を前提としたパレットの共有化・共同利用など、企業間連携による物流効率化の取り組みが広がることが期待される。その実現に向けて、輸送機材(コンテナ、パレット、通い箱等)の規格、梱包の資材・形状、取引条件(納品時間・方法等)、データ(マッチングに必要となる荷量データ等)の仕様・コードといったハード・ソフトの双方における標準化が不可欠であるが、現状では取り組みがごく一部にとどまっている。

将来的には業界・分野を超えて、GS1#2等の国際基準に基づいた標準化を実現することを目指しながらも、まずは政府との連携の下で業界・分野ごとにガイドラインを策定し、取り組みを推進すべきである。

また、標準化の推進主体を明確化する必要がある。その際、現場の事情をよく理解し、かつ公平に判断できる主体を中心とすることが望ましい。

(2)データプラットフォームの構築

政府が構築を進めている「物流・商流データ基盤」、「港湾関連データ連携基盤」も含めて全体をいかにつないでいくかといった、データ連携・共有の全体像(グランド・デザイン)の明確化が欠かせない。その上で、国が標準化、ルール策定等の調整を行い、複数のプラットフォーム間の相互接続性・業務連続性の確保を図ることが期待される。

また、大企業のみならず中小企業においてもデジタル化が進むよう、支援の充実が必要である。

(3)貿易手続のデジタル化

  1. ① 港湾物流
    貿易・港湾物流に関する行政・民間の手続については、究極的にはすべてオンライン・ワンストップで行われるようにすることが望ましい。
    通関手続に関しては、遅くとも2025年10月に予定されている第7次NACCSへの更改までには、港湾関連データ連携基盤とNACCS(輸出入・港湾関連情報処理システム)とのシングルウィンドウ化を実現すべきである。
    民間手続に関しても、港湾関連データ連携基盤と、民間で構築が進みつつある商流・金流のデータ基盤を連携できるようにすべきである。同時に、船荷証券のデジタル化に向けた法整備等も必要である。
    なお、各データ基盤の利用を促進するため、基盤に登録されたデジタルデータを原本とみなして税関の事後調査における書類提出を免除するなどの措置を講じることが望ましい。

  2. ② 航空物流
    航空物流に関しても、e-AWB#3のさらなる普及など、デジタル化に向けた取り組みを推進すべきである。
    AEO制度#4とKS/RA制度#5については、管理や手続に重複や非効率が生じないよう、税関と国土交通省との連携を一層強化し、デジタル化を前提とした制度の一体的な運用を実現すべきである。

2.新技術の活用拡大

これまでもトラック隊列走行、自動走行ロボット、ドローン、RFIDをはじめとする様々なデジタル技術の社会実装に向けて、研究開発・実証実験が一定程度進展してきた。

今後は、これらの新技術の社会実装を着実に進めるべく、他国の先進事例も参照しつつ、政府がインフラ整備や規制・制度改革に取り組んでいくことが欠かせない。同時に、将来的なビジネスモデルのあり方について官民で検討を進めていく必要がある。

(1)高速道路におけるトラック自動走行・隊列走行の商業化

政府では、早ければ2022年にも高速道路におけるトラック隊列走行を商業化することとしており、その早期実現が大いに期待される。そのためには、専用レーンの確保などインフラ面での支援が必要であり、例えば、東名高速道路において、夜間に1レーンを専用化することも検討に値する。

また、隊列走行トラックによる中長距離幹線輸送のビジネスモデルのあり方については、官民で詳細な検討が必要である。

(2)ロボット・ドローンの実用化

市街地や建物内の物流においては自動走行ロボット、中山間地域や離島への物流においてはドローンの活用が期待される。

自動走行ロボットについては、道路使用許可申請等を経なくても歩行者道等を低速で自由に走行できるよう、道路交通法や道路運送車両法等において新たな車両区分を設けるなど、必要な制度を整備すべきである#6

また、ドローンについては、2022年度の有人地帯での目視外飛行(レベル4)実現という政府目標の達成に向けて、必要な制度整備等を着実に推進すべきである#7。また、長期的にはドローン自律飛行の社会実装に向けた制度整備も求められる。

(3)物流施設の機械化・自動化促進

物流施設の機械化・自動化の取り組みはごく一部にとどまる。物流施設におけるデジタル技術の普及促進を図る観点から、その導入に対する補助金による支援の充実や、妨げとなる規制の見直しが必要となる。

(4)RFIDの活用拡大に向けた検討

RFIDの活用拡大に向けては、引き続きタグの製造コストの低減を図るのみならず、データ連携のあり方、データ活用による付加価値創出の方法、タグの貼付主体とコスト負担のあり方等について、官民共同で、製造から卸・小売までサプライチェーン全体で検討する必要がある。

(5)人材育成の推進

新たな技術・サービスの実証実験・社会実装を進めるにあたり、人材不足が課題となっていることから、産学官が連携して、技術開発やシステム・サービスの運用に必要な人材育成を行うことも求められる。とりわけ、IoT、AI、ビッグデータ分析等のデジタル技術と物流の双方を上手くコーディネートして、新たなビジネス・サービスをマネジメントできる人材が求められており、経営・経済のみならず法律、AI、IoT、ビッグデータ分析なども含め分野横断的な育成教育が重要である。

3.労働力不足対策と構造改革

従来、わが国の物流においては、荷主の要望に応じた短いリードタイムでの納品、厳しい時間指定があたかも当然のこととされてきた。しかし、トラック運送業、内航海運業をはじめ、物流業における担い手の高齢化・人手不足が深刻化するなか、このままでは早晩立ち行かなくなることは明白である。

昨今の感染症拡大下において物流の担い手が「エッセンシャルワーカー」と位置づけられてきたように、物流は市民の日常生活や企業の事業活動にとって不可欠な機能である。その物流を持続可能なものとすべく、これまでも官民が連携して、物流業の働き方改革・取引適正化に向けた様々な取り組みを展開してきたが、抜本的な解決は見られていない。

他方、コロナ禍を契機に物流ニーズにも変化が見られており、今後の動向を見極めながら的確に対応していく必要がある。

このような環境を踏まえた上で、わが国の物流を持続可能で柔軟なものとするために、前述のような業務のデジタル化だけでなく、大胆な構造・規制改革にも取り組まなければならない。

(1)取引適正化・働き方改革の推進

トラック運送業の働き方改革・取引適正化に向けては、2019年3月より、官民連携で「ホワイト物流」推進運動を展開しており、2020年1月末までに800超の企業が「自主行動宣言」を提出しているものの、宣言の実効性を確保する仕組みが不足している。受発注のデジタル化を通じた契約内容の明確化・記録、トラックの走行データによる荷待ち時間の把握など、データの積極的な活用によって施策の実効性を高めるべきである。

内航海運についても、交通政策審議会海事分科会基本政策部会「令和の時代の内航海運に向けて」(2020年9月)で示されているように、トラック運送と同様、船員の確保・育成と働き方改革の推進、荷主等との取引環境改善などに取り組むことが重要である。

(2)物流結節点の効率化

働き方改革や生産性向上を図る上では、陸運・空運・海運の各輸送モード間の接続性(モーダルコネクト)の向上も重要である。ハード面では、港湾・鉄道駅・空港と高速道路とのアクセス向上、港湾におけるオンドックレールの導入などの取り組みを進め、ソフト面では、各輸送モード相互の情報連携に加え、結節点の役割分担について検討すべきである。

特に港湾のコンテナターミナルにおける渋滞は、コロナ下での貨物量の減少で一定程度緩和しているものの、依然として深刻である。その解消に向けて、まずは国際コンテナ戦略港湾も含めて各港の位置づけを明確化し、役割分担を徹底するとともに、広域における複数港湾の経営一元化を推進すべきである。わが国産業の国際競争力強化の観点から特に重要な港湾については、国が直接管理することも検討に値する。併せて、「AIターミナル」の実現など、オペレーションの効率化に向けた施策を着実に推進すべきである。

また、東京2020大会に向けた実証実験として行われている港湾のコンテナターミナルのゲートオープン時間拡大、高速道路における時間帯別の料金設定等については、その結果を検証して今後の取り組みにつなげることが期待される。

(3)物流ニーズ変化への柔軟な対応

コロナ禍の影響も受けて様々な働き方・ライフスタイルが広がるなか、宅配等の物流に対するニーズの多様化も進んでいる。そこで、ラストワンマイル輸送において多様で柔軟な手段が利用できるよう、都市部における貨客混載の拡大など規制改革を推進すべきある。

4.強靱化と環境対応

わが国は、平成の時代に阪神・淡路大震災、東日本大震災を筆頭に多くの地震災害に見舞われた。また、近年、豪雨災害が激甚化し、毎年のように日本各地で深刻な水災害が発生している。今後も様々な大規模自然災害が発生する可能性を想定し、現行の災害対策を抜本的に見直すことが求められる。

また、持続可能性の確保という観点からは、地球環境問題への対応も欠かせない。菅政権では、成長戦略の柱に経済と環境の好循環を掲げて、「2050年カーボンニュートラル」の実現を目指している。物流分野においても、従来から低炭素化の取り組みを課題として掲げてきたが、国全体の目標が明確に示されたことを受けて、優先度の高い課題として、政府、物流事業者、荷主等の連携を通じた様々な施策によるCO2排出量削減に取り組むことが求められる。

このような課題認識のもと、レジリエントでサステナブルな物流ネットワークを構築すべく、前述のデータ・新技術活用に加え、以下の施策が求められる。

(1)ハード・ソフト両面での強靱化

道路・鉄道に関しては、ネットワークの多重化に向けて、新型コロナウイルス感染症や人口減少・過疎化の影響も加味した費用対効果に配慮しつつ、大都市圏環状道路をはじめとする幹線道路等のミッシングリンクの解消を推進すべきである。また、災害時における救援物資の輸送ルートを確保するため、危険物積載車両(タンクローリー等)が通行可能な長大トンネルおよび水底・水際トンネルの一層の拡大が必要である。

港湾・空港においては、被災時の機能停止・機能低下を最小化できるよう、直近の災害を踏まえて防災計画を適宜見直しながら取り組みを推進することが重要である。例えば、海沿いの空港においては、護岸・防潮壁の嵩上げなど浸水対策に直ちに取り組むべきである。また、ある港湾・空港が被災して一定期間使用が困難となった場合に、他の港湾・空港での代替が速やかに行えるよう、災害時の役割分担について広域で事前に検討することが欠かせない。

物流施設についても、災害時に機能不全に陥って物流の停滞を招くことも未然に防止する必要がある。国際港湾・空港周辺の物流施設を中心に、老朽化施設の共同建替えにおける容積率割増し措置、免震装置導入に対する支援などにより災害対策を促進することが望ましい。

災害発生時における情報連携も欠かせない。とりわけ政府においては、災害時における物流の維持・復旧に関連する情報を、ダッシュボード形式にするなど省庁間で統合した形で提供すべきである。

(2)物流における省エネルギー・低炭素化

地球環境問題への対応としては、まず、共同配送やモーダルシフトなど複数事業者の連携による取り組みを拡大していくことが重要である。中小事業者の参加を得ていく観点からも、物流総合効率化法#8等による支援を継続、拡充していくことが望ましい。また、特にモーダルシフトの拡大に向けては、トレーラー(被けん引車)における自動車検査証の有効期間の延長、特殊車両通行許可申請手続のデジタル化・迅速化の着実な実現、連結検討手続の簡素化といった行政手続の見直しも重要である。

また、EV・FCV、LNG燃料船など、環境負荷の小さい輸送手段の普及も重要である。現行大綱に基づく具体的施策を整理した「総合物流施策推進プログラム」では、輸送モードの省エネ化・低公害化に関する施策(トラック輸送の省エネ化・低公害化、船舶の省エネ対策、LNGバンカリング#9拠点の形成促進等)について、KPIが設定されていない。次期大綱に基づく施策を展開する際には、KPIに基づく進捗管理を行うべきである。

以上

  1. RFID(Radio Frequency Identification):無線データ通信を利用した認識技術。リーダーライタとRFタグにより構成され、リーダーライタから離れた位置(非接触)からRFタグに対してデータの読み取り、書き込みを行う。
  2. GS1:流通コードの管理及び流通標準に関する国際組織。世界110以上の国・地域の組織が加盟している。
  3. e-AWB(Electronic-Air Waybill):AWB(航空貨物運送状。航空会社または混載業者が発行する航空貨物の受取証)をデジタル化したもの。
  4. AEO(Authorized Economic Operator)制度:国際物流におけるセキュリティ確保と円滑化の両立を図り、わが国の国際競争力を強化するため、貨物のセキュリティ管理と法令順守の体制が整備された事業者に対し、税関手続の緩和・簡素化策を提供する制度。
  5. KS/RA(Known Shipper/Regulated Agent)制度:航空貨物のセキュリティレベルを維持し物流の円滑化を図るため、荷主から航空機搭載までの過程を一貫して保護することを定めたICAO(国際民間航空機関)の国際標準に基づき制定された保安対策制度。国土交通省から認定を受けた特定フォワーダー(RA)により貨物に爆発物が紛れ込まないよう保安管理ができていると認定された荷主(KS)の貨物は、空港施設等において航空会社による爆発物検査が軽減あるいは免除される。
  6. 経団連提言「改訂 Society 5.0の実現に向けた規制・制度改革に関する提言」(2020年10月)No. 41参照。
  7. 同上、No. 8, 18参照。
  8. 国土交通省では、同法に基づき、二以上の者が連携して、流通業務の総合化および効率化を図る事業であって、環境負荷の低減および省力化に資するものを「流通業務総合効率化事業」として認定するとともに、同事業に対して支援を行っている。
  9. LNGバンカリング:船舶へのLNG(液化天然ガス)燃料の供給。

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