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Policy(提言・報告書)  環境、エネルギー 2050年カーボンニュートラル(Society 5.0 with Carbon Neutral)実現に向けて -経済界の決意とアクション-

Keidanren (Policy & Action) Challenge Zero
2050年カーボンニュートラル(Society 5.0 with Carbon Neutral)実現に向けて
-経済界の決意とアクション-
2020年12月15日
一般社団法人 日本経済団体連合会

1.はじめに

今年10月、菅内閣総理大臣は所信表明演説において、「2050年カーボンニュートラル」を目指すことを宣言された。

環境は事業活動や国民生活の基盤であり、サステイナブルな社会の実現は経済界の最大の関心事である。「気候危機」が叫ばれる中、気候変動問題の解決に真摯に取り組む方針を総理が内外に示されたことは英断である。経済界として高く評価するとともに、「2050年カーボンニュートラル」に向け政府とともに不退転の決意で取り組む。

言うまでもなく、2050年カーボンニュートラル実現は極めてチャレンジングな課題である。産業革命以来の人類とエネルギーの関わりは根本的な変革が不可欠となる。また、歴史上長く文明を支えてきた主要産業の生産プロセスの革新も必要だ。運輸・民生部門の脱炭素化に資する革新的製品等の大規模な普及や生活様式の転換も求められる。つまり、経済社会全体の根底からの変革が不可欠であり、新しい経済社会、いわば “Society 5.0 with Carbon Neutral”の実現が必要となる(イメージは下図)。

この挑戦は、現時点でどの国も成し遂げていないが、未来に向けて人類が避けて通ることのできない課題である。経済界として大きな覚悟をもって先駆的な役割を果たしていく。

Society 5.0 with Carbon Neutral

2.カーボンニュートラル実現に向け取り組むべき課題と経済界の役割

2050年カーボンニュートラルに向け、電力・水素等のエネルギー転換、産業、運輸、民生といった経済社会の各分野で取り組むべき課題は、省エネルギーの徹底はもとより、多岐に亘る。

<取り組むべき課題の例>

〔電力〕

  • 電源の脱炭素化(再エネ+蓄電池、原子力、脱炭素化された火力#1等)
  • 電力システムの次世代化
  • 産業・運輸・民生の各需要部門における電化の推進 等

〔水素〕

  • エネルギー需要の水素化に向けた研究開発・実証
  • 安価で潤沢な水素供給の実現
  • メタネーションの商用化 等

〔産業〕

  • 水素還元製鉄等のゼロカーボン製鉄技術の確立
  • セメント製造におけるカーボンリサイクルの確立
  • CO2を原料に用いたプラスチック製造の確立
  • バイオマス燃料を用いた紙製造の確立 等

〔運輸〕

  • 電気自動車・燃料電池車等の電動車の開発・普及
  • 水素等のゼロエミ船の開発・普及
  • 合成燃料(e-fuel)の大量生産に向けた技術開発 等

〔民生〕

  • ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)の普及
  • ネット・ゼロ・エネルギー・ビルディング(ZEB)の普及
  • エネルギーの面的利用(スマートエネルギーネットワーク)の普及 等

社会全体でこれらの課題に取り組む中で、経済界は、(1) 電力・水素を含む脱炭素エネルギーの安価で安定的な供給、(2) 産業部門における脱炭素生産工程の確立、(3) 電動車やZEH/ZEBといった運輸・民生部門における脱炭素化に資する革新的製品・建物の供給などにおいて、積極的な役割を担う。

3.2050年カーボンニュートラルを推進する際の視点

菅政権は、2050年カーボンニュートラルへの挑戦を、日本の新たな成長戦略と位置づけるとともに、これを産業構造や経済社会の発展につなげ、「経済と環境の好循環」を生み出すとの方針を掲げている。

経済界が活発なイノベーションや投資に取り組み、カーボンニュートラルに向けた役割を自律的かつ円滑に果たしていくためには、この「経済と環境の好循環」を回していく視点が極めて重要となる。

主要国・地域はグリーン成長を国家戦略・産業政策の柱と位置付け、新たな競争に乗り出している#2。現状に手をこまねいていれば、「経済と環境の好循環」の実現はおろか、グリーン成長をめぐる国際的な競争に大きく劣後し、わが国の産業競争力や立地拠点としての競争力を一気に喪失することになりかねない。

そこで、第一に、わが国産業の競争力強化につながるよう、研究開発や初期投資を支援しながら、イノベーションの創出とその内外市場への展開を図るとともに、ゼロエミッション・エネルギーが安価で安定的に供給される環境を整備する必要がある。

第二に、コロナ禍で疲弊した経済に対する需要刺激策として、次世代電力システムや水素供給システムといった大規模インフラや、省エネ・脱炭素化に資する生産設備、輸送機器、住宅等への投資促進に今から積極的に取り組むべきである。足もとの経済環境を好転させることは、民間部門による自律的な投資を促すうえでも重要である。

こうした視点を踏まえ、下記の具体的取組みを行っていくべきである。

4.イノベーションの創出

これまで述べてきたとおり、新たなイノベーションの創出なくして“Society 5.0 with Carbon Neutral”は実現しえない。グリーン成長を巡る国際的な競争が激化する中、イノベーションの創出は、今後のわが国の競争力強化にとっても死活的に重要な課題である。

経団連が今年6月に開始した「チャレンジ・ゼロ」では、既に約170の企業・団体が、カーボンニュートラルに向けたイノベーションの創出や、これに取り組む企業に対するファイナンスなど、約360のプロジェクトに挑戦することを表明している。経済界は、こうした挑戦のさらなる拡大・深化に取り組むと同時に、国際社会への情報発信を強化する。

政府においては、2050年に向けたイノベーションとそれを踏まえたエネルギーミックスについて、複線のシナリオと採り得る技術・政策の選択肢を具体的に示し、それぞれの課題やコスト等を検証することで、具体的かつ技術的・経済的に実現可能な技術分野への重点的な投資を行っていくアプローチを取るべきである#3

特に重要な技術分野については国家プロジェクト化し、長期にわたり大規模な支援を行うべきである。具体的には、2050年よりも手前、例えば2030年に中間のマイルストーンを設定し、明確かつ野心的な価格目標・性能目標等を官民で共有し、これらの目標実現に向けたイノベーションに挑戦する企業に対し、国費による長期にわたる大規模な支援を継続的に行うべきである。イノベーションに繋がる研究開発投資は元来リスクが極めて大きいことを踏まえれば、具体的な制度設計にあたっては、企業の挑戦を委縮させることなく、企業が大胆にイノベーションに挑戦できる環境整備に主眼を置くべきである#4。イノベーション支援に関して、先般、菅総理が過去に例のない2兆円の基金を創設し、10年間の支援を打ち出されたことは高く評価できる。企業の思い切った取組みを後押しするような運用を期待したい。

さらに、カーボンニュートラルに向けたイノベーションへの取組みを後押しする税制面での強力な支援、技術の社会実装・インフラ整備への大規模政府投資、市場創出、ゼロエミッション・エネルギーの調達における国際的なイコール・フッティングの確保、規制・制度改革等を総合的に推進する必要がある。

他方、カーボンニュートラルへの移行に伴うコスト上昇や、産業構造・雇用構造の変化についても十分認識する必要がある。コストの社会全体での負担のあり方や、中小サプライチェーンを含む脱炭素への円滑な移行に向けた各種支援についても併せて検討していくことが求められる。

5.投資循環による電力システムの次世代化

電力の脱炭素化やエネルギー需要の電化の基盤として、電力システムの次世代化が重要な役割を果たす。しかし、足もとで電力関連の新規投資は停滞しており、次世代インフラへの転換が十分に進まない状況にある。

電力分野における投資のうち、ネットワーク投資については、今年6月に成立した「エネルギー供給強靱化法」に基づく手当が行われることとなったところである。国として将来のネットワークの姿を明確化し、投資循環を促すとともに、ネットワークの設備形成や利用が効率的に行われるように制度面や資金面からの支援を継続していくべきである。

また、電源投資については、制度的支援を受けた再生可能エネルギーが卸電力価格の下押し圧力となり、同等の支援を受けない電源の投資回収の予見可能性に深刻な影響を及ぼしている。現状のままでは、大型水力、原子力、脱炭素化された火力等の大型電源への投資は停滞を続ける可能性が高い。大規模な初期投資を要する電源新設のリスクを軽減し、電源の脱炭素化を加速するとともに将来にわたる電力の安定供給を確保することが求められる。電源の建設には相応の時間を要することを踏まえれば、対策の検討を急ぐ必要がある。

とりわけ原子力は、2050年カーボンニュートラルに不可欠である。規制当局の監督・連携のもと、事業者が不断の安全性向上に取り組むことを前提に、国が前面に立って原子力への国民理解の醸成を図っていくとともに、安全性が確認された既設の原子力発電所の再稼働と有効活用はもとより、リプレース・新増設を国策として明確に位置付け、早急に推進していく必要がある。また、既設の原子力発電所の再稼働等の議論とは別に、国際的な主導権争いが激化しているSMR(小型モジュール炉)をはじめとする新型原子炉等の研究開発を含めた、今後の原子力活用の方針についても、速やかに議論を開始すべきである。

再生可能エネルギーに関しては、世界的な価格の低下傾向にもかかわらず、わが国においては、需要家からの安価なアクセス機会が著しく不十分な状況にある。このことは、個別企業に対する取引先や金融機関からの脱炭素化の要請がますます強まる中、再生可能エネルギー利用を前提とするグローバル競争を視野に入れた企業にとり、わが国での事業活動継続に対する大きな懸案事項となっている。これまでのFIT制度(固定価格買取制度)のような、すべての再生可能エネルギーに対する漫然とした支援から早期に脱却し、競争力を有するものの導入を促す環境整備に官民の資源を重点的に投入することで、欧米並みの価格で供給される再生可能エネルギーの拡大を図る必要がある。

こうした点について、経済界としても、事業の実態を踏まえた実務的な視点から議論に貢献していく。

6.サステナブル・ファイナンスの推進

近年では、資金動員を通じて持続可能な社会を形成しようとする「サステナブル・ファイナンス」が、気候変動分野を中心に内外の金融機関において大きなうねりとなっている。カーボンニュートラル実現に向けた取組みを金融面から促進する観点から、発行体において積極的な情報開示や対話が求められるとともに、金融機関においても一律・形式的な評価ではなく、実態を踏まえた投融資が必要となる。

こうした中、サステナブル・ファイナンスのインフラとして、情報開示基盤の整備や、評価手法の確立などの仕組み作りも重要となる。

サステナブル・ファイナンスでは、EUにおいて、主として温室効果ガス排出量が実質ゼロの水準にある技術(グリーン技術)へのファイナンス促進を目指すタクソノミーの仕組みが検討されている。こうしたグリーン・ファイナンスに加え、イノベーションや、脱炭素社会へのトランジションに必要となる幅広い技術・活動にも資金が動員されるよう取り組んでいくべきである。

政府がとりまとめた「クライメート・イノベーション・ファイナンス戦略2020」や経団連国際環境戦略ワーキング・グループがとりまとめた「気候変動分野のサステナブル・ファイナンスに関する基本的考え方と今後のアクション」では、「イノベーション」、「トランジション」、「グリーン」のすべての分野でのファイナンス促進を提案しており、欧米やアジア等の諸外国政府、経済団体との連携を図り、こうした考え方の具体化を図るべきである。

7.イノベーションの海外展開

日本として、脱炭素化に資するイノベーションの成果を、アジア諸国をはじめとする海外に展開し、地球規模のカーボンニュートラルに積極的に貢献していくことも求められる。JCM(二国間クレジット制度)の一層の活用も見据えたパリ協定の詳細ルール交渉やWTOにおける環境物品交渉の早期妥結などを通じた制度基盤構築を図るとともに、わが国企業の重要な生産拠点・市場であるアジア等におけるビジネス環境整備を進める必要がある。また、質の高いインフラ・プロジェクトを認証する「ブルー・ドット・ネットワーク」といった国際枠組みの構築などを通じて、日本の環境技術の質の高さが評価されるようにしていくことも有効である。

なお、日本のカーボンニュートラル技術が国際的な技術競争を勝ち抜き、国際市場における商機を獲得し、日本経済の成長につなげていくためには、国内の電力・エネルギーコストを競合諸国に比べて高くない水準に抑制していくことが前提となる。

8.おわりに

今回の提言では、2050年カーボンニュートラルに関する経済界としての決意とアクションを示した。

政府においては先般、成長戦略会議の「実行計画」がとりまとめられ、また菅総理が記者会見でグリーンを成長の軸として打ち出されるなど、概ね望ましい方向での議論が行われている。今後、政府では、年末に向け、成長戦略会議やグリーンイノベーション戦略推進会議などの場において、2050年カーボンニュートラルに向けた「グリーン成長戦略の実行計画」の取りまとめが予定されている。本提言を踏まえ、政府の決意が伝わる実効的な政策の取りまとめを強く期待したい。

さらに、来年にかけては、エネルギー基本計画や地球温暖化対策計画の改訂の議論も予定されている。

今後、経団連は、環境安全委員会、資源・エネルギー対策委員会を中心に精力的な検討を行い、こうした政府の議論に積極的に働きかけていく。さらに、2050年カーボンニュートラルの実現に向けた施策等について累次の提言を行っていくとともに、「チャレンジ・ゼロ」をはじめとする経済界の主体的な取組みを推進する所存である。

以上

  1. 高効率火力+CCUS、水素専焼火力など。
  2. 例えばEUでは、新型コロナウイルス感染症からの復興基金を通じて、約35兆円を気候変動対策に投じると表明しており、米国においても、バイデン次期大統領は、1期目の任期4年間のうちに、2兆ドルを上回るクリーンエネルギー投資を公約している。
  3. 不確実性のある2050年の経済社会やイノベーションの動向を、現時点で正確に見通すことは困難であることから、2050年から直線的に中間年の削減率等を設定し、硬直的な進捗管理を行うことには慎重であるべきである。
  4. イノベーション創出には、政府による短期間の細かい介入ではなく、十分な移行期間を設けて予測可能かつ安定的な政策をとることが有効との指摘もある(2020年11月11日「第3回 グリーンイノベーション戦略推進会議」事務局資料)。

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