1. トップ
  2. Policy(提言・報告書)
  3. 税、会計、経済法制、金融制度
  4. 改正公益通報者保護法に基づく体制整備に係る指針案等に対する意見

Policy(提言・報告書) 税、会計、経済法制、金融制度 改正公益通報者保護法に基づく体制整備に係る指針案等に対する意見

2021年5月31
一般社団法人 日本経済団体連合会
経済法規委員会企画部会

Ⅰ.総論

日本経済団体連合会(以下、経団連)は、会員企業・団体にSociety 5.0の実現を通じたSDGsの達成やESG(環境・社会・ガバナンス)重視の経営とともに、「企業行動憲章」において、相談しやすい職場環境や内部通報体制の整備等を、経営トップが率先して目を配るべき重要項目として位置づけ、不祥事の早期発見や自浄機能の強化を呼びかけてきた。

今般、通報者の一層の保護を通じて、事業者のコンプライアンス経営や自浄機能を強化する法改正の趣旨を実現するために、事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針が定められることは、大変意義深く、また、企業の経営、実務に密接に関わるため注目している。

経団連は、とりわけ、改正法において刑事罰で担保された守秘義務によって、公益通報対応業務に従事する者が過度な委縮をせずに調査・是正を実施できることが肝要であり、従事者として定めなければならない者の範囲(改正法第11条第1項関係)が事業者の予見性なく広がることのないように明確にされることを要望してきた。

その指針及び解説の基となる、消費者庁の公益通報者保護法に基づく指針等に関する検討会報告書(以下、報告書)は、上記の問題意識がおおむね反映され、公益通報に対応する事業者の内情と実務を踏まえて練られたものと評価する。指針の成案においても、方向性が維持されることを期待する。

以下では、その他の論点も含め、事業者が改正法の趣旨に沿った対応をとることができるよう、明確化を要する事項を中心に、指針やその解説の在り方について、提言・要望する。

また、事業者が内部公益通報対応体制を実効的に機能させるためには、労働者、役員、退職者に対する本制度の教育・周知が欠かせない。消費者庁による教育ツールの開発や広報活動の充実に期待する。

Ⅱ.各論

内部公益通報受付窓口の設置等

〈対象〉報告書6頁・注釈12

内部公益通報の受付、調査、是正に必要な措置の全て又はいずれかを主体的に行う業務及び当該業務の重要部分について関与する業務を行う場合に、「公益通報対応業務」に該当する。

〈内容〉
  1. ① 例えば、以下のような場合は「主体的」ではなく、外部窓口を従事者として指定することは不要であることを明確化すべきである。
    • 外部窓口は通報の受付のみを行っており、当該外部窓口宛の通報内容は全て事業者内で内部通報対応について責任を負っているコンプライアンス専門部署にそのまま共有(パススルー)され、その後の通報対応は当該専門部署で行うことになっており、かつ当該専門部署が従事者として指定されている場合。
  2. ② 外部窓口における従事者を法人等の単位で指定することも認められることを明確化すべきである。
〈理由〉
  1. ① 全ての外部窓口を従事者として選定する義務が課された場合、刑事罰を伴う守秘義務が課される従事者として選定されることを嫌うことや、日本を含むグローバルの通報窓口業務を海外の事業者に委託している場合に、当該海外事業者に公益通報者保護法を理解してもらうことが困難を極めることなどが予想され、外部委託先の確保が難しくなる可能性がある。ひいては、通報者に対して複数の窓口の選択肢を提供し、通報し易い体制を整備することが困難になる虞があるため、外部窓口を従事者として指定する義務が生じる場合を限定すべきと考える。
  2. ② 外部に通報窓口を委託する場合、特に相手が専門事業者(会社)である場合は、特定の担当者(個人)を指定せずに会社に対して受付業務を委託している場合が多い。この場合、当該会社のどの担当者がオペレーターとして電話で通報を受けるか、Webのポータル上で通報を受け付けている場合は委託先の会社のどの範囲の従業員がポータルへのアクセス権限を有しているか把握することが困難である。実務上外部の事業者については個人を従事者として指定することは難しいが、指針案では法人等の単位で従事者を選定できるか明確ではない。

部門横断的な窓口の設置等

〈対象〉報告書7頁・注釈15

「子会社や関連会社において、企業グループ共通の窓口を自社の内部公益通報受付窓口とするためには、その旨を子会社や関連会社自身の内部規程等において「あらかじめ定め」ることが必要である(法第2条第1項柱書参照)。また、企業グループ共通の窓口を設けた場合であっても、当該窓口を経由した公益通報対応業務に関する子会社や関連会社の責任者は、子会社や関連会社自身において明確に定めなければならない。」

〈内容〉
  1. ① 「明確に」定めなければならないとされているが、具体的な定め方については従事者の定め方ほどの厳格さを要さず事業者の裁量に委ねられているとの理解でよいか。
  2. ② グループ共通窓口を利用する子会社・関連会社における「従事者の定め」は「責任者」を定めることとは別の問題で、第2.1.「従事者として定めなければいけない者の範囲」に該当するか否かで判断するとの理解で良いか。すなわち、子会社において親会社窓口で受け付けた公益通報対応業務を行う者であっても、通報者を特定させる事項を伝達されるということでなければ、予め従事者の定めは不要(個別事案で通報者情報の伝達が必要な場合のみ、都度従事者として定める)という扱いで良いか。
  3. ③ 「その旨を子会社や関連会社自身の内部規程等において「あらかじめ定め」ることが必要である」については、「その旨を子会社や関連会社の従業員等が見ることが出来るイントラネット等において親会社等があらかじめ周知すること」も含まれるとの理解で良いか。
  4. ④ 親会社の責任者が子会社や関連会社の責任者を兼ねることが出来るとの理解で良いか。
〈理由〉
  1. ①、② 趣旨の確認。
  2. ③、④共通 製造業の生産子会社や販売子会社では現場の作業員や店舗へ派遣している社員数が多いが、これを管理している社員は極めて少人数である会社もあるので、グループ全体の公益通報窓口を設置し対応を一元化することにより対応の効率化、対応品質の維持を図っている。このような子会社にまで、従業員が300名超であることをもって内部規程等において公益通報窓口をあらかじめ定めることや、責任者を定めることは実態にも合わず、煩雑ではないかと考える。
  3. ③ 上記のような子会社に「内部規程等において「あらかじめ定めること」を求めるのは過大な負担を強いるものである。また、従業員等に公益通報窓口を了知させることが重要であると考えるので、イントラネット等を通じた周知も認めるべきである。
  4. ④ グループ全体として対応の一元化を図っており、実際には子会社で通報対応をしていない場合においてまで、子会社独自に責任者の設置義務を課すのは過大な負担であり実態とも異なるため、実際に子会社に関する通報への対応等を行う親会社の責任者が子会社の責任者も兼務できるようにすべきである。

組織の長その他幹部からの独立性を確保する措置

〈対象〉報告書8頁
  • 単一の内部公益通報受付窓口を設ける場合には当該窓口を通じた公益通報に関する公益通報対応業務について独立性を確保する方法のほか、複数の窓口を設ける場合にはそれらのうち少なくとも一つに関する公益通報対応業務に独立性を確保する方法等、事業者の規模に応じた方法も考えられる。
〈内容〉

子会社や関連会社については、親会社の通報窓口を利用可能とすることで独立性を確保する措置とすることは許容されるか。

〈理由〉

趣旨の確認。

受付、調査、是正に必要な措置

〈対象〉報告書9頁
  • 匿名の公益通報者との連絡をとる方法として、受け付けた際に個人が特定できないメールアドレスを利用して連絡するよう伝える、匿名での連絡を可能とする仕組み(外部窓口から事業者に公益通報者の氏名等を伝えない仕組み、チャット等の専用のシステム等)を導入する、といった方法が考えられる。
  • 調査を実施しない「正当な理由」がある場合の例として、解決済みの案件に関する情報が寄せられた場合、公益通報者と連絡がとれず、事実確認が困難である場合等が考えられる。
〈内容〉
  1. ① 匿名での通報について、通報者がフリーメールアドレスから通報を行った場合にフリーメールアドレスであることのみをもって排除しない運用とすれば、事業者において特段の措置(匿名のメールアドレスの設置、内部規則の改訂等)を取ることまでは求められないとの理解で良いか。
  2. ② 調査を実施しない「正当な理由」には、通報者による意見表明等が明らかに根拠を欠くと合理的に判断される場合も含まれるとの理解で良いか。
〈理由〉
  1. ① 通報者が利用可能な匿名のメールアドレスを内部統制の一環として設けておくことや、フリーメールアドレスからの匿名での通報を許容する旨を内部規則で定めることは不要であることを確認したい趣旨。
  2. ② 趣旨の確認。

公益通報対応業務における利益相反の排除

〈対象〉報告書10頁
  • 「事案に関係する者」とは、公正な公益通報対応業務の実施を阻害する者をいう。典型的には、法令違反行為の発覚や調査の結果により実質的に不利益を受ける者、公益通報者や被通報者と一定の親族関係がある者等が考えられる。想定すべき「事案に関係する者」の範囲については、内部規程において具体的に例示をしておくことが望ましい。
  • 「関与させない措置」の方法として、「事案に関係する者」を調査や是正に必要な措置の担当から外すこと等が考えられる。
〈内容〉
  1. ① 「一定の親族関係」については、例えば2親等の親族が該当すると明確化すべきである。
  2. ② 親族に該当するかの確認方法は、予め従事者の親族を会社に開示、一覧化させた上で管理することによることはプライバシーの観点からも現実的でないため、個別事案において都度、関係者に親族がいるか当該担当者に確認するとの運用で足りるとの理解で良いか。
  3. ③ 「事案に関係する者」は類型を定めることで足り、具体的な者を定める必要まではないとの理解で良いか。
〈理由〉
  1. ① あまりに広くなれば、従事者が「事案に関係する者」であることがわからなくなる懸念がある。
  2. ②~③ 趣旨の確認。

不利益な取扱いを防止する体制の整備

〈対象〉報告書11頁・柱書

「退職者」に対する不利益な取扱いに関する記載について。

〈内容〉

具体的にどのようなケースが不利益取扱いと想定されているか明確化すべきである。

〈理由〉

「退職者」は既に退職していることから、労働者や役員と異なり、解雇等の取扱いは公益通報を躊躇させるような不利益な取扱いには当たらないと思われる。

範囲外共有等の防止に関する措置

1.
〈対象〉報告書13頁
  • 特に、ハラスメント事案等で被害者と公益通報者が同一の事案においては、公益通報者を特定させる事項を共有する際に、被害者の心情にも配慮しつつ、書面によるなど同意の有無について誤解のないよう、当該公益通報者から同意を得ることが望ましい。
  • 範囲外共有及び通報者の探索を防止すべき「労働者及び役員等」には内部公益通報受付窓口に関する外部委託先も含む。
  • 懲戒処分その他適切な措置を行う際には、範囲外共有が行われた事実の有無については慎重に確認し、範囲外共有を実際に行っていない者に対して懲戒処分その他の措置を行うことのないよう留意する必要がある。
〈内容〉
  1. ① グループ会社からの通報を受け付ける窓口を設置している場合におけるグループ会社の内部通報窓口との情報共有や、同一事業者内に複数の内部公益通報受付窓口が存在する場合における当該窓口間の情報共有は、必要最小限であれば範囲外共有にあたらないという理解で良いか。
  2. ② 「書面」による場合の方式の1つとして、音声記録も含まれる(認められる)、との理解で良いか(なお、指針第4 3(2)の「是正措置等の通知に関する措置」における「書面」についても同様)。
  3. ③ 外部委託先が範囲外共有を行った場合の「適切な措置」とは、典型的には損害賠償との理解で良いか。
〈理由〉
  1. ① 内部通報窓口が各グループ会社に設置されている内部通報窓口との間で、通報者の氏名を共有することは、「必要最小限の範囲」の情報共有に含まれると考えられる。
  2. ② 通報手段の1つとして広く認められている電話においては、別途電子的・磁気的方式での承諾の提出を通報者に求めるのは困難であり音声記録が最も合理的かつ十分な方式と考えられ、仮にこれが認められないと、特に他の手段が難しいゆえに電話を選択している通報者にとっては、通報の妨げにもなりかねない。
  3. ③ 外部業者として起用できる会社は限られ、契約解除までは行いづらい実情がある。
2.
〈対象〉報告書13頁・注釈23

電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録を含む。以下同じ。

〈内容〉

電子メール、チャット等の例示を追加すべきである。

〈理由〉

明確化のため。

労働者及び役員並びに退職者に対する教育・周知

〈対象〉報告書15頁・解説及び注釈26
  • 公益通報者保護法について教育・周知を行う際には、権限を有する行政機関等への公益通報も公益通報者保護法において保護されているという点も含めて、公益通報者保護法全体の内容を伝えることが求められる。
  • 退職者に対する教育・周知の方法として、在職中に、退職後も公益通報ができることを教育・周知すること等が考えられる。
  • 従事者に対する教育については、定期的な実施や実施状況の管理を行うなどして、通常の労働者及び役員と比較して、特に実効的に行うことが求められる。
  • 従事者に対する教育については、公益通報対応業務に従事する頻度等の実態に応じて、内容が異なり得る。
〈内容〉
  1. ① 教育・周知の内容・頻度については、最低限実施すべき水準は特に定めず、事業者の裁量に任されるとの理解で良いか。
  2. ② 出向者や派遣社員、(グループ会社や取引先も含めたホットラインを設けている場合の)グループ会社社員や取引先社員等、自社の労働者と比べて教育・周知の方法に制約がある者については、出向先、派遣元事業者等を通じて教育・通知を行うことによっても適切に対応したものと評価できる旨を明確化すべきである。
  3. ③ 改正法の施行日において退職後1年以内となる者については、たとえ「在職中に教育・周知すべき」とされる内容が通知されていなくとも、違反に問われることはないとの理解で良いか。
  4. ④ 「在職中に、退職後も公益通報ができることを教育・周知」とあるが、具体的にどのような方法が想定されているか明確化すべきである。また、在職中に教育・周知すべき内容は、「退職後も1年間(但し、改正法の施行後に限る)は公益通報ができること」であり、その他の内容については、事業者の判断に委ねられるとの理解で良いか。事業者において教育・周知すべき内容に不足が生じないよう、最低限教育・周知すべき内容を、(たとえばモデルを示す等の方法により)明確化すべきである。
〈理由〉
  1. ① 趣旨の確認。
  2. ② 出向者については、実際上、出向先事業者において教育・周知を行う対応の方が効果的である場合が考えられる。また、派遣社員等については、個人情報保護の観点等から、自社の労働者と比べて採り得る教育・周知の方法に制約もある。特に、退職後の通知先は会社ごとに管理している事項であり、これをすべて自社で管理することは不可能である。
  3. ③ 仮に、改正法の施行日(2022年6月11日までの間)時点で過去に遡り教育・周知すべき義務が生じることとなれば、実務への悪影響が懸念される。特に、退職後の通知先は事業者において必ずしも把握できるものではないこと等を踏まえると、改正法の施行日までの間に発生する退職者に対しては、たとえ「在職中に教育・周知すべき」とされる内容が通知されていなくとも違反に問われないこととされるべきと考える。
  4. ④ 事業者が構築すべき内部公益通報対応体制に関わる点であることから、解釈を明らかにしていただきたい。

是正措置等の通知

〈対象〉指針案3頁 第4 3.(2)

「適正な業務の遂行及び利害関係人の秘密、信用、名誉、プライバシー等の保護に支障がない範囲」

〈内容〉

公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン(以下、ガイドライン)6項・2では、「是正措置等の通知」に関しても、「通報者が通知を望まない場合や匿名による通知であるため通報者への通知が困難である場合、その他やむを得ない理由がある場合」は通報者への通知の対応を行う必要がないとされている。指針案においても、ここで挙げたような場合が含まれるとの理解で良いか。

〈理由〉

匿名の通報者への通知については、通報者の身元を誤った場合には、通知することによって通報の秘密を漏洩してしまうこととも考えられるため(民間事業者向けQ&A集A48参照)、事業者に裁量に与えていただきたい。

記録の保管、見直し・改善、運用実績の労働者及び役員への開示

1.
〈対象〉指針案4頁 第4 3.(3) ハ

事業者は、内部公益通報受付窓口に寄せられた内部公益通報に関する運用実績の概要を、適正な業務の遂行及び利害関係人の秘密、信用、名誉、プライバシー等の保護に支障がない範囲において労働者及び役員に開示しなければならない。

〈内容〉
  1. ① グループ会社からの通報を受け付けている場合、どの会社からのものであるかの開示は不要であり、合計で何件あったかのみを開示すれば足りるとの理解で良いか。また、実績を開示する場合、複数の窓口の件数を合算して開示することも許容されるとの理解で良いか。
  2. ② 「プライバシー等の保護に支障がない範囲において労働者及び役員に開示するよう努めなければならない。」とすべき。
〈理由〉
  1. ① 趣旨の確認。
  2. ② 規模が大きい事業者において、受付件数が多ければ問題ないかと思われるが、中小規模の事業者で受付実績がない場合、開示をしていないのか、受付がないのか分からなくなる。「開示しなければならない」ということがそぐわない。
2.
〈対象〉報告書18頁
  • 記録の保管期間については、個々の事業者が、評価点検や個別案件処理の必要性等を検討した上で適切な期間を定めることが求められる。記録には公益通報者を特定させる事項等の機微な情報が記載されていることを踏まえ、文書記録の閲覧やデータへのアクセスに制限を付すなど、慎重に保管する必要がある。
  • 運用実績とは、例えば、過去一定期間における通報件数、是正の有無、対応の概要、内部公益通報を促すための活動状況等が考えられる。開示の内容・方法を検討する際には、公益通報者を特定させる事態が生じないよう十分に留意する必要がある。
〈内容〉

「対応の概要」の前提となる「事案の概要」の開示が求められるものではないとの理解で良いか。

〈理由〉

仮に、「事案の概要」が含まれるとなると、それ自体が公益通報者を特定させる虞がある。

内部規程の策定及び運用

〈対象〉指針案4頁 第4 3.(4)

この指針において求められる事項について、内部規程において定め、また、当該規程の定めに従って運用する

〈内容〉

「規程」とは、「〇〇規程」を作り定めることを指しているのではなく、広い意味で、しかるべき社則・ガイドライン等に定めることが求められる、との理解で良いか。

〈理由〉

施行後の実務運営上、万が一「〇〇規程」でなければならないとすると、極めて重大な影響がある。

従事者として定めなければならない者の範囲

1.
〈対象〉指針案2頁 第3 1.

事業者は、内部公益通報受付窓口において受け付ける内部公益通報に関して公益通報対応業務を行う者であり、かつ、当該業務に関して公益通報者を特定させる事項を伝達される者を、従事者として定めなければならない。

〈内容〉

内部公益通報窓口とは別に、ハラスメントや職場の人間関係に係る相談窓口を設置している場合、当該窓口の担当者については、受付事象の重度にかかわらず、「内部公益通報受付窓口において受け付ける内部公益通報に関して公益通報対応業務を行う者」でないため、従事者ではないとの理解で良いか。同様に、ハラスメントの訴えを受けた人事部員も、従事者ではないとの理解でよいか。

〈理由〉

趣旨の確認。

2.
〈対象〉報告書19頁・脚注32

脚注32 従事者が公益通報者を特定させる事項を漏らしたことについて「正当な理由」がある場合には法第12条の違反とはならない。「正当な理由」がある場合とは、漏らす行為に違法性がないとして許容される場合をいい、例えば、公益通報者本人の同意がある場合のほか、法令に基づく場合や、調査等に必要である範囲の従事者間で情報共有する場合等が想定される。また、ハラスメントが公益通報に該当する場合等において、公益通報者が通報対象事実に関する被害者と同一人物である等のために、調査等を進める上で、公益通報者の排他的な特定を避けることが著しく困難であり、当該調査等が法令違反の是正等に当たってやむを得ないものである場合には、「正当な理由」が認められるといえる。なお、特に、ハラスメント事案等で被害者と公益通報者が同一の事案においては、公益通報者を特定させる事項を共有する際に、被害者の心情にも配慮しつつ、書面によるなど同意の有無について誤解のないよう、当該公益通報者から同意を得ることが望ましい。

〈内容〉
  1. ① 内部統制システムの整備・運用のために必要不可欠な範囲(例:通報者情報秘匿義務の履行状況を内部監査部門が監査する場合等)で、従事者以外の者(例:内部監査部門の者)に通報者特定情報を開示することは、正当な理由に当たる理解で良いか。関連して、内部通報窓口におけるOJTを目的に、特定の事案における主たる従事者が従たる従事者に技能伝承を行うにあたり通報者特定情報を伝えることは、「調査等に必要である範囲の従事者間で情報共有する場合等」に該当することを明確化すべきである。
  2. ② 通報者自らが精神疾患の既往歴を示した場合や、通報者の発話態様から精神疾患の可能性が疑われる場合などに、従業員等に対する安全配慮義務の履行として産業医に通報者を特定したうえで見解を求めることに「正当な理由」があるとの理解で良いか。
  3. ③ 公益通報者が通報対象事実に関する被害者と同一人物である場合において、必要な調査を行う目的で、通報者の同意なく、同一企業で働く派遣社員や、専門家(弁護士、システム業者など)からヒアリングを行うことが想定される。これらの従事者でない者に対し、公益通報者を特定させる事項を共有することは「正当な理由」がある場合に該当する理解で良いか。
  4. ④ 被通報者に対して処分を行う場合、処分権を有する部署(例えば人事部)へ公益通報者を特定させる事項の共有は「正当な理由」がある場合に該当するか。
  5. ⑤ 士業で守秘義務が課されている者に通報者を特定して見解を求めることに「正当な理由」があるとの理解で良いか。
〈理由〉
  1. ① 内部統制システムの構築は、取締会役が監督義務を果たすにあたり不可欠であるため。本改正法により、事業者には公益通報対応体制の構築義務が課されるため、法令順守の観点で通報者情報が適切に秘匿されているかを確認するための監査が益々重要になる。また、人事異動によって新たに公益通報対応業務に従事する者に、仕掛りのものを含めて過去の事案を引き継ぐことや、必要最小限の者に限定しながらも、組織として適切に公益通報制度を運営するための対応力を向上させるために、実務の中でノウハウを伝承する必要がある。
  2. ② 特に、通報者の発話態様から精神疾患の可能性が疑われる場合は通報者から同意を得ることは困難である。
  3. ③~⑤ 趣旨の確認。
3.
〈対象〉報告書20頁・脚注35、36、38

脚注35 「公益通報者を特定させる事項」とは、公益通報をした人物が誰であるか「認識」することができる事項をいう。公益通報者の氏名、社員番号等のように当該人物に固有の事項を伝達される場合が典型例であるが、性別等の一般的な属性であっても、当該属性と他の事項とを照合されることにより、排他的に特定の人物が公益通報者であると判断できる場合には、該当する。「認識」とは刑罰法規の明確性の観点から、公益通報者を排他的に認識できることを指す。

脚注36 調査等に当たって通報内容を他の者に伝える際に、調査等の契機が公益通報であることを伝えなければ、基本的には、情報伝達される相手方において、公益通報がなされたことを確定的に認識することができず、公益通報者が誰であるかについても確定的に認識することを避けることができる。そのため、結果として、公益通報者を特定させる事項が伝達されるとの事態を避けられることから、必要に応じて従事者以外の者に調査等の依頼を行う際には、当該調査等が公益通報を契機としていることを伝えないことが望ましい。

脚注38 社内調査等におけるヒアリングの対象者、職場環境を改善する措置に職場内において参加する労働者、製造物の品質不正事案に関する社内調査において品質の再検査を行う者などであって、公益通報の内容を伝えられたにとどまる者等は、公益通報の受付、調査、是正に必要な措置について、主体的に行っておらず、かつ、重要部分について関与していないことから、たとえ調査上の必要性に応じて公益通報者を特定させる事項を知ることとなったとしても、従事者として定めるべき対象には該当しない。ただし、このような場合であっても、事業者における労働者及び役員として、内部規程に基づき範囲外共有をしてはならない義務を負う。

〈内容〉
  1. ① 脚注35「排他的に特定の人物が公益通報者であると判断できる場合」とは、伝達された事実のみから客観的かつ排他的に通報者が特定可能な場合を指し、伝達された事実のみでは特定できない場合(例:通報者=被害者であることが多いハラスメント事案や通報事実の内容の知る者が実質的に通報者に限られることも想定される合理化が進んだ製造業における品質不正事案など、通報があった旨の情報が伝達されることにより通報者が実質的に特定されるような事案であっても、特定に際し「想像」や「推測」が必要とされる場合)は、「公益通報者を特定させる事項」に当たらないとの理解で良いか。
  2. ② また、上記①の事例において、調査から是正を行う場合は、検査技師、顧客へ説明する営業、品質保証と、短期間に大人数を動員することも想定される。これらの者は、公益通報に対応する従事者からの指示に基づいて調査、是正に必要な措置に関わることになるため、脚注38「主体的に行う者」に該当しないことを明確化すべきである。
  3. ③ 内部通報制度に対する信頼性向上策の一環として、関連部門や労働組合等と通報者を特定させる事項を伝達することなく、通報内容に関して意見交換を行うことがある。もし、通報者が関連部門や労働組合等に同一内容の相談をしていた場合や、関連部門や労働組合等に通報者自ら内部通報受付窓口に通報済みである旨を伝えていた場合、通報内容を共有しただけで関連部門や労働組合等は通報者を特定し得る。このように内部通報窓口に伺い知れない事情で通報者を特定させる事項が知られた場合は、「特定させる事項」の伝達にはあたらないとの理解で良いか。
  4. ④ 親会社設置の通報窓口をグループ会社も利用している。当該通報窓口に入る情報は、子会社案件であっても親会社の窓口担当社員は、その通報内容を知ってしまう。そのような場合、当該親会社担当者は子会社の内部通報制度の従事者となるか。あるいは、グループガバナンスの観点から子会社案件に関わることになると捉えて親会社の従事者である(子会社の従事者とはしない)と考えることは適法か。
〈理由〉
  1. ① 製造業においては、国内生産拠点の合理化が進んでおり、製品の検査工程を担う職場には、従業員が2人しかいないケースが一般化している。製造ラインを細分化し、その検査工程を管理者と担当者の2人で担う場合、品質に係るデータの改ざんが疑われる等、有事の際に通報することができるのは担当者に限定される。この事例が「公益通報者が通報対象事実に関する被害者と同一人物である等のために、調査等を進める上で、公益通報者の排他的な特定を避けることが著しく困難。
  2. ② 趣旨の確認。
  3. ③ 仮に、記載のように解すことができない場合、関連部門や労働組合等との意見交換自体を断念せざるを得ない。
  4. ④ グループ窓口の担当者を親会社の従事者として定めることには疑義を生じないが、実質的に一連の受付、調査、是正対応はしないが、グループガバナンスに係る情報管理として子会社案件情報に触れる場合、その者を子会社の従事者とすべきかどうか疑問であるため。

従事者を定める方法

〈対象〉指針案2頁 第3 2.

「事業者は、従事者を定める際には、書面により指定をするなど、従事者の地位に就くことが従事者となる者自身に明らかとなる方法により定めなければならない。」

〈内容〉
  1. ① 従事者の地位につくことを従事者となる者自身に明らかにする必要があるとのことだが、その具体的な方法を明確化すべきである。
  2. ② 外部弁護士や外部専門業者に委託する場合、これらの者は、専門家として従事者の地位に就くことを十分認識していると考えられるが、事業者からも文書もしくは口頭で従事者の地位に就くことを明示する必要があるか。また、その具体的な方法について明確化すべきである。
〈理由〉
  1. ① 実務上、どのような方法であれば「従事者の地位に就くことを従事者となる者自身に明らかに」しているといえるか、明らかにするため。例えば社内規則において従事者を部署等の特定の属性で指定している場合、社内規則として社内イントラ等に掲載されていれば足りるのか、従事者となる者に一度社内規則を周知することが必要なのか等、事業者として採るべき対応を把握したい。
  2. ② 専門家に公益通報対応業務を委託する場合において、外部専門家及び外部専門業者などの専門家は、公益通報者保護法上の「従事者」に就くことを十分認識していると考えられるが、このような場合においても、文書もしくは口頭にて公益通報者保護法上の「従事者」に就くことを特に明示する必要があるのか明らかにしたいもの。またその具体的な方法についての例示が望まれる。
以上

「税、会計、経済法制、金融制度」はこちら