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Policy(提言・報告書) 総合政策 「。新成長戦略」でサステイナブルな資本主義を目指す -2021年度事業方針-

2021年6月1
一般社団法人 日本経済団体連合会

資本主義は大転換期を迎えている。地球規模で蔓延した新型コロナウイルス感染症により、世界経済は大打撃を受けただけでなく従来型の資本主義のもとで進行していた経済的格差や環境問題が深刻化し、その限界が明らかになった。まずは、各国の連携・協調の下、ワクチンの早期開発・調達、ワクチン接種をはじめ感染症の収束に政策資源を大胆に投入することが急務である。同時に、ポストコロナの新たな時代を見据え、様々な社会課題を解決するための政策を提示し、国民各層の理解や共感を得てそれを実現していく必要がある。

経団連は、これまでの成長戦略の路線に一旦終止符を打つ新たな構想として、昨年11月、「。新成長戦略」を公表した。その中で新しい資本主義の形として、「サステイナブルな資本主義」を掲げ、コロナ禍を乗り越えて持続可能な成長を実現するために、多様化・複雑化するステークホルダーの要請に応え、価値の包摂と価値の協創によって資本主義を進化させていくことの必要性を強く訴えた。

この新たな指針の下、経済界も資本主義社会の重要なプレイヤーとして、自らの事業活動を通じて格差や気候変動等をはじめとする社会課題の解決に、これまで以上に迅速かつ積極的に取り組む責務がある。産学官、スタートアップを含めた様々な主体との多面的・重層的な連携を基盤として、未来志向の取り組みにより次元の異なるイノベーションを起こし、成長のモメンタムを取り戻す。その際、カギとなるのは人間の英知と経済社会のあらゆる分野におけるデジタル化の推進であり、デジタルトランスフォーメーション(DX)による課題の可視化とソリューションの創出である。こうした取り組みは、経団連が提唱してきた人間中心のSociety 5.0 for SDGsに他ならない。同時に、戦後の国際秩序が大きく変容し、保護主義の台頭やわが国を取り巻く安全保障環境が大きく変化する中で、自由で開かれた国際経済秩序の再構築を促すことが急務である。

経団連は、「。新成長戦略」に示した「DXを通じた新たな成長」「働き方の変革」「地方創生」「国際経済秩序の再構築」「グリーン成長の実現」への取り組みを加速化し、Society 5.0 for SDGs実現を目指す。併せて、持続的な成長につながる適切な資源配分の必要性や有事への備えの観点から、財政健全化への取り組みを求める。また、国内はもとより米国、中国、欧州、アジア諸国等、各国経済界との対話促進に努め、国際協調・連携の強化に向けた我が国のリーダーシップの発揮に経済界の立場から貢献する。

1.新型コロナウイルス感染拡大防止と経済活動の両立

新型コロナウイルス感染症の収束に向けて引き続き総力を挙げて対応する。ウィズコロナの長期化が予想されるなか、感染防止対策の徹底と効果的・効率的な病床確保策等を通じた医療提供体制の強化を図りつつ、経済への影響を最小限に抑えるための方策に官民一体となって取り組む。感染症の早期収束とその後の経済回復を見据えつつ、検査体制の拡充、速やかなワクチン接種に伴うロジスティクス体制の整備や国民へのワクチン接種の働きかけ、感染状況の迅速な把握や感染防止対策のための情報収集・分析基盤の活用とともに、出入国制限の緩和、陰性証明・ワクチン接種履歴のデジタル化・国際連携を通じた国際的な経済活動の再開を推進する。科学的知見を踏まえ、経団連の感染予防対策ガイドラインの適時改訂を行う。

2.DXを通じた新たな成長

世界中でDXによって産業構造の転換が進む中、コロナ対策としてもDX推進の重要性に注目が高まっている。引き続き、ヘルステック#1やEdTech#2の活用を通じたDXを加速させることでWell-being#3の向上を実現する。行政、金融、産業等の各分野において徹底した規制改革とデジタル化・データの共有等を進め、強靭な経済社会を構築する。初等中等教育から大学教育にいたるまで、EdTechを活用し、多様な人々が場所や空間を問わず新しい学びを実現するための教育改革を推進する。DXにより生活者が暮らしやすさを実感する社会を目指して、生活者の価値実現に向けた企業横断の協創プロジェクト(経団連DX実装プロジェクト)を加速・強化する。わが国政府の「データ戦略」検討への参画等データ活用促進に向けた環境整備、サイバーセキュリティ強化、マイナンバー制度の徹底活用とマイナンバーカードの普及促進、デジタル・ガバメントの実現、AI(人工知能)の活用促進、新たな成長産業の生み手、担い手であるスタートアップの振興に取り組む。Society 5.0のモデルとなるスマートシティーの社会実装支援を推進する。

3.働き方の変革

日本型雇用システムの見直しを視野に入れつつ、働き手のエンゲージメントと労働生産性の向上を図る観点から、働き手の自律性を重視した多様で柔軟な働き方の実現を目指す。具体的には、女性をはじめ若者、高齢者、障がい者、外国人、LGBTなど多様な人々のさらなる活躍につながる、場所と時間に捉われない働き方を推進し、多様性を経営の力に変える。企画業務型裁量労働制の対象業務拡大の早期実現やその他労働時間法制の見直しに向けた機運を醸成するとともに、副業・兼業の一層の促進を図る。また、ポストコロナを見据えて、成長産業への円滑な労働移動を推進するための方策を検討する。加えて、大学等が実施するリカレント・プログラムの策定支援等を通じて、リカレント教育の拡充を後押しする。コロナ禍への対応に伴い雇用安定資金が枯渇していることから、一般財源の投入による雇用保険財政の早期再建を働きかける。

4.地方創生

地方の強みを活かし価値を生み出し続ける社会を目指して、DXを梃子に、地方の経済団体、自治体、大学をはじめ地域で中核的な役割を果たしている主体との連携を強化する。日本全体で人口減少が続くなか、コロナ禍で定着したテレワークなど新たな働き方の拡大は地方創生の追い風となる。地方への人の流れを創出することで大都市への過度な集中を是正し、地域経済社会の強靭性を高めるために、地方自治体間の広域連携の促進に向けて望ましい行政システムのあり方を検討する。製造業の競争力強化はもとより、地域経済のけん引役である農業の成長産業化、輸出産業化、持続可能な観光産業の実現に向けた構造改革に資する施策を検討し政府に働きかける。

5.国際経済秩序の再構築

ポストコロナに向けて自由で開かれた国際経済秩序の再構築が急務となっており、グローバルな諸課題について各国・地域の緊密な連携・協調が必須である。経団連は、米国、中国、欧州、アジア諸国等、各国の政府・経済団体との連携・対話を進めるとともに、B7サミット・B20サミット等への主体的な参画を通じて、民間外交を精力的に展開する。WTO(世界貿易機関)改革やDFFT#4の実現をはじめとする様々な国際ルールの策定に積極的に関与していく。安全保障とグローバルな事業活動の両立に向けて、先端技術の開発・実装基盤の強化、機微技術の流出防止の徹底など、経済安全保障の確保に関する施策について、わが国政府との対話を通じて連携しながら検討を深める。

6.グリーン成長の実現

喫緊の課題である気候変動対策を中心に、総合的な国家戦略として、経済と環境の好循環(グリーン成長)を創出する。2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、わが国の取り組みへの内外からの理解と信頼を得ながら、政府と一体となって不退転の決意で取り組む。アジア諸国も含めたグローバルな取り組みを加速させるとともに、「チャレンジ・ゼロ」#5等を強力に推進し、産業における生産プロセスの革新、脱炭素に資する製品・サービスの大規模な普及など、経済社会に抜本的な改革をもたらす異次元のイノベーション創出を加速させる。脱炭素エネルギーの安価で安定的な供給の実現に取り組み、とりわけ電力について、投資環境の整備、送配電網の次世代化、再生可能エネルギーの主力電源化、原子力の継続活用等を図る。サステイナブルな社会の構築と新たな成長機会に向け、循環経済(サーキュラーエコノミー)、生物多様性、環境リスク管理等に関する取り組みを統合的に推進する。

上記を実現するためには、民間投資の喚起・生産性向上に資する環境整備や、経済構造の改革を促す国家戦略的な課題への政策支援が不可欠である。また、全世代型社会保障制度改革、企業活動の活性化に資する国内税制改正・デジタル経済活動の進展に即した各国間の合意に基づく国際課税ルールの見直し、中小企業を含む国内外のサプライチェーンの強靭化・取引適正化、国際金融都市構想実現に向けた機運醸成、大学改革、コーポレートガバナンスやデジタル経済下での競争政策のあり方、ダイバーシティ&インクルージョンの推進など、企業を取り巻く諸課題について経済界の意見を集約し、政府に対して必要な政策の実現を求めていく。

以上

  1. HealthとTechnologyを組み合わせた造語。主に医療や介護、病気の予防、健康管理の分野において、デジタル技術とデータを活用して様々な課題を解決しようとする概念のこと。
  2. EducationとTechnologyを組み合わせた造語。学びのDXのためのデジタル技術の活用技法。
  3. 身体的、精神的、社会的に良好な状態にあること。
  4. Data Free Flow with Trust:信頼性のある自由なデータ流通。
  5. 経団連が日本政府と連携し、脱炭素社会の実現に向けて、企業・団体が挑戦するイノベーションの取り組みを国内外に力強く発信し後押ししていく新たなイニシアティブ。
    2021年4月現在、183社・団体が参加、385事例を公表。

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