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Policy(提言・報告書) 環境、エネルギー グリーン成長の実現に向けた緊急提言

2021年6月15
一般社団法人 日本経済団体連合会

菅総理が、昨年10月の2050年カーボンニュートラル(CN)宣言に続き、本年4月に2030年度の温室効果ガス排出量46%削減を表明された。この野心的なゴールの実現には、官民の総力を挙げた取組みが不可欠であり、これをわが国の経済成長につなげ、経済と環境の好循環(グリーン成長)を創出していくことが重要である。地理的制約が大きく、エネルギー資源に恵まれているとは言い難いわが国が、2050年CNを目指しながら、豊かな国民生活を次世代に残していく上で、時間的な余裕はなく、今がまさに正念場である。イノベーション、投資の好循環、エネルギーシステムの次世代化を通じて、経済社会全体の根底からの変革(GX:グリーン・トランスフォーメーション)を進めていかなければならない。

政府は、時間軸によって取り得る対策の違いを十分考慮しつつ、産業の空洞化への懸念を払拭し、エネルギーコストの上昇をいかに抑え、産業競争力の強化につなげていくのか、グリーン成長への明確な道筋を示す必要がある。各界各層の知恵を結集し、自然科学・社会科学双方のサイエンスに基づく政策の策定を強く求めたい。

経済界としても、経済と環境の好循環を創出しながら2050年CNの実現を目指すことが、サステイナブルな資本主義を構築するための重要な課題と強く認識し、政府と一体となって不退転の決意で取り組んでいく。その一環として、この程、かねてより取り組んできた「経団連 低炭素社会実行計画」を「経団連 カーボンニュートラル行動計画」と改め、経済界の主体的な取組みを強力に推進する決意である。

既に、経団連では、「。新成長戦略」(2020年11月)#1、提言「2050年カーボンニュートラル(Society 5.0 with Carbon Neutral)実現に向けて」(2020年12月)#2を公表してきた。気候変動対策が新たなフェーズを迎えた今、経団連の新たな取組みを打ち出すとともに、グリーン成長実現に向けて、必要な施策について、下記の通り提言する。

〔総論 ─グリーン成長の実現に向けた基本方針─〕

1.経済界の主体的取組みの強力な推進(カーボンニュートラル行動計画)

経団連は、1997年からおよそ四半世紀にわたり、「経団連 環境自主行動計画」「経団連 低炭素社会実行計画」に取り組んでいる。これらは、現行の地球温暖化対策計画をはじめ、これまでの政府の計画における経済界の対策の柱として、わが国の温室効果ガス削減目標の達成に重要な役割を果たしてきた。

低炭素社会実行計画では、①国内の事業活動における排出削減、②主体間連携の強化(製品・サービスを通じた削減)、③国際貢献の推進、④革新的技術の開発を4本柱に掲げ、技術動向や生産見通し等を最もよく知る業界自らが、最大限の削減目標をコミットし、削減努力を進め、毎年度の成果について第三者による検証を行い、次年度の取組みの見直し・改善等につなげていくPDCAサイクルを回すことで着実な成果をあげている。直近の2019年度の実績では、2013年度比で10.7%のCO2の削減を達成した(全業種合計)。

他方、同計画は、パリ協定の下での日本の中期削減目標への貢献等の観点から、2030年に向けたCO2削減に力点を置いてきた。2050年CNの実現に対する世界の関心と期待がより一層高まる中、経団連は、その実現を今後目指すべき最も重要なゴールと新たに位置づけ、「経団連 低炭素社会実行計画」を「経団連 カーボンニュートラル行動計画」へ改め、以下の通り、強力に推進することとする。

  1. 2050年CNに向けたビジョンおよび革新的技術の開発・導入:2050年CNに向けた各業種のビジョン(基本方針等)を明らかにするとともに、その実現に必要な革新的技術の開発を複線的に進める。
  2. 国内の事業活動における排出削減:2030年に向けBAT(Best Available Technologies:利用可能な最善の技術)の最大限導入による削減努力を着実に進め、さらなる技術開発・導入も図りながら、低炭素社会実行計画で定めた2030年目標の不断の見直しを行い、わが国の新たな2030年目標の実現に寄与する。
  3. 主体間連携の強化および国際貢献の推進:自らの事業場からのCO2の排出削減に止まらず、製品・サービスの使用(利用)段階やサプライチェーン全体での削減の取組み、海外への技術移転等を通じ、脱炭素化へのトランジション、地球規模での2050年CNの実現に貢献する。

今後、「経団連 カーボンニュートラル行動計画」を、政府や国民も巻き込みながら、強力に推進することにより、2050年CNの実現に向けて、最大限の取組みを行っていく。

2.経済と環境の好循環に向けた政策リソースの総動員

経済と環境の好循環、すなわち持続的な成長と脱炭素化を同時に進めていくためには、国家戦略として気候変動政策・エネルギー政策と成長戦略を一体的に捉え、グリーン成長戦略として政策リソースを総動員すべきである。

まず、足もとの経済環境を好転させることが、民間による自律的な投資を促す前提となる。

そのうえで、第一に、長期にわたり活用する、次世代電力システムや水素供給システムといった大規模インフラ投資、輸送機器、建物・住宅等の普及支援などを行うべきである。特に大規模インフラ投資については、足もとの需要の拡大と、投資の成果として社会全体の効率向上がもたらされ、競争力強化に資するものとなるよう、設計・実施されるべきである。

第二に、個別企業のエネルギー効率改善等を通じた競争力強化を促すため、企業の省エネ・脱炭素化に資する設備の導入などを支援すべきである。

第三に、2050年CNを見据えた革新的技術の開発や社会実装、すなわちイノベーションの創出に向けた企業の挑戦を、税財政支援や規制緩和など企業の創意工夫を活かしやすい仕組みによって強力にバックアップすることで、わが国の産業競争力強化につなげるべきである。

第四に、CNを目指すことによる、再エネ、水素等のエネルギー供給やエネルギーマネジメント、脱炭素型の製品・サービスの提供といった新たな産業の育成である。

すでに欧米は、気候変動政策を国家戦略の重要な柱に位置づけ、かつてない規模で財政支援等の対策を講じてきている#3。残り9年余りとなる中、2030年目標の達成を目指すためには、需給両面において、BATの大規模な導入・活用を、最大限行っていくとともに、2050年CNを見据えた革新的技術の開発と早期の社会実装、長期にわたり活用される大規模インフラ投資等を強力に推進していく必要がある。政府には、欧米に劣ることなく、掲げた目標の野心度にふさわしい規模の政策リソースを確保し、効果的・効率的に投入することで、2030年目標、および2050年CNに向けての決意を、具体的な行動に移していくことが求められる。

経済界の主体的取組みと政府の効果的な政策がシナジーを生むことで、官民一体となって、経済と環境の好循環(グリーン成長)を実現していくことが可能となる。

3.具体的な将来像の提示とコストを含めた国民理解の醸成

新たな2030年目標、その先にある2050年CNの実現は、国を挙げた挑戦であり、あらゆる主体の行動変容を促すためにも、新技術の社会実装に伴う追加の国民負担も含めて、国民の理解醸成が不可欠である。政府には、2050年CNを目指すことの意義、目指すべき経済社会やエネルギー構造の将来像、その一里塚としての2030年目標実現に求められる取組みとそれに伴うメリットやコスト等について、国民各層の理解を得るべく、ロードマップを示しながら、ストーリー性のある分かりやすい説明を尽くすことが求められる。その上で、コストの社会全体での負担のあり方や、中小サプライチェーンを含む脱炭素への円滑な移行に向けた方策についても併せて検討していく必要がある。

一方、新たな2030年目標の野心度に応じて、対策そのものの実現可能性・社会的受容性の不確実性も高まっていく。また、費用対効果の低い対策に莫大な資金が投じられる恐れも否定できない。単純に目標達成ありきで強引に施策を推進すれば、将来世代に禍根を残すことにもなりかねない。新たな2030年目標の達成に向けて誠実に取り組むことは当然のことだが、個々の対策の実現可能性や費用対効果、安定供給・経済性等への影響を踏まえつつ、不断の見直し、検証を行い、柔軟に運用していく姿勢が重要である。

〔各論 ─グリーン成長の実現に向けた対策・施策─〕

4.経済界の自主的取組みを基軸とした削減努力の追求

前述の通り、「経団連 低炭素社会実行計画」は、経済界におけるBATの最大限の導入等により着実な成果を挙げており、わが国の削減目標の達成に重要な役割を果たしてきた。経団連の第三者評価委員会、あるいは政府審議会による厳格なフォローアップが毎年実施されるなど、計画の信頼性・透明性を担保する仕組みも整備されており、単なる自主的取組みの枠を超えた、社会システムとしても機能している。こうした仕組みは、2050年CNの実現を最も重要なゴールと位置付けた「経団連 カーボンニュートラル行動計画」にも継承されることが必要である。

政府は、新たな2030年目標の達成に向けて、「経団連 カーボンニュートラル行動計画」を引き続き経済界の対策の柱として位置付け、BATの最大限の導入等、エネルギー需要・供給の脱炭素化に向けた取組みを後押ししていくとともに、2050年CNを見据えた革新的な技術開発に対して世界をリードするため、大胆な施策を推進していくべきである。

経団連としても、「経団連 カーボンニュートラル行動計画」のカバー率向上を図りつつ、国内の事業活動からの排出削減、ライフサイクルを通じた削減、国際貢献、革新的技術開発を4本柱に、最大限の削減努力を追求する。政府には、以下に述べる各部門に係る政策も含め、ペナルティではなく、経済界の主体的な取組みを促進する、インセンティブとなる施策を求めたい。

5.産業・運輸・民生部門でのさらなる取組みの促進

(1) 産業部門

産業部門は、すでに世界的にも高いエネルギー効率を誇る中、設備の一層の高効率化、DX等を通じた運用・プロセスの改善、エネルギー回収等を通じた省エネの加速を図るとともに、電化や分散型リソースの導入拡大、水素化・メタネーションといった合成燃料化によるエネルギー転換等を推進する必要がある。企業の主体的な取組みを後押しする各種補助制度や税制措置の拡充などの政策支援が求められる。

他方、排出削減が困難な産業(Hard-to-Abate産業)の脱炭素化に向けては、カーボンリサイクル技術や水素還元製鉄に象徴される生産プロセス革新に向けた革新的技術の開発はもとより、後述する水素等のクリーン・エネルギーの安価かつ安定した大量の調達が不可欠である。グリーンイノベーション基金の効果的に活用しつつ、そのさらなる拡充をはじめ、2050年CNに向けたトランジションを強力に後押しする他国にひけを取らない規模の追加的かつ継続的な財政支援、環境整備を強力に推進すべきである。

また、足もと、再エネ賦課金による国民負担は2.7兆円に達している。これは、すでに国際的に割高な水準にある産業用電気料金を平均で15%以上押し上げる要因となっており、電力多消費産業を中心に甚大な影響が生じている。再エネの大量導入に伴い、今後は統合費用の増大も見込まれる。追加のコスト負担が大きい産業の国際競争力を棄損しないよう、諸外国で採られている制度等も参考に、思い切った産業用電気料金の低減策の検討が必要である#4

(2) 運輸部門

運輸部門については、環境性能に優れた自動車・船舶・航空機・鉄道車両等の導入および、その効率的な運用、物流の効率化等、着実な対策を行っていくことが重要である。特にCO2排出の大宗を占める自動車に関しては、当面はカーボンニュートラルへの選択肢を拡大していくことが重要であり、CASE (Connected=コネクティッド、Autonomous/Automated=自動化、Shared=シェアリング、Electric=電動化)への対応を図りつつ、技術中立的な形での電動化や燃料対策を加速し、必要に応じて普及支援策も講じながら、低・脱炭素化を推進することが求められる。共同配送やモーダルシフトの推進も有効であり、物流総合効率化法等による支援の拡充や、鉄道貨物の利用拡大に向けた大型コンテナに対応したインフラの整備促進等の施策も期待される。

運輸部門におけるボトルネックの一つは、蓄電池の低コスト化・小型化・軽量化といった課題に加え、カーボンフリー電気・水素、合成燃料、SAF(Sustainable Aviation Fuel: 持続可能な航空燃料)等、安価かつ安定的な脱炭素エネルギーのサプライチェーンの構築にある。また、現下の国際情勢を踏まえれば、蓄電池の製造等に不可欠なレアアースを安定的に確保することも重要である。これらの対策を、エネルギー需要側の対策と両輪で進めることが不可欠であり、業種・府省の垣根を越えた取組みが欠かせない。政府には、これらの研究開発や設備投資を促すための大胆な補助金や税制措置等のインセンティブを講じることを期待したい。

(3) 民生部門

民生部門のうち、低炭素社会実行計画に参加する業務部門にあっては、着実な成果があがっている。既存建物や住宅についても、改修や建替等を積極的に進め、高断熱化、省エネ化・高効率化、創エネによるZEB/ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル/ハウス)化の促進、電化、使用電力のグリーン電力化、建物単位のBEMS/HEMS(ビル/ハウス・エネルギー・マネジメント・システム)導入および地域で融通しあうAEMS(エリア・エネルギー・マネジメント・システム)の導入等、さらなる取組みが必要である。また、DXは、データセンター等を中心に電力消費量のさらなる増大が予想される一方で、効率化といった波及効果も大きい。データ利用に係る省エネを徹底しつつ、わが国の成長戦略の柱として国を挙げた取組みが期待される。

家庭部門においては、テレワーク等の新たなライフスタイルの浸透により、足もとで電力消費量の増加傾向がみられている。こうした新たな課題も踏まえつつ、政府が中心となって国民運動を展開し、エネルギーの効率的な利用や脱炭素化に関する国民の意識啓発・行動変容を促すことが重要である。

政府には、都市・地域・住宅政策、デジタル政策等とも有機的に連携し、補助金・税制措置の新設や延長・拡充等、省エネ・脱炭素設備の普及のための措置も含め民生部門に対する総合的な支援策を講じていくことが求められる。

6.水素等の安価・安定供給、利活用拡大の加速

2050年CNに向けて、必要な調整力を確保しつつ、再生可能エネルギーの主力電源化、安全性確保を大前提とした原子力の最大限の活用等による電源の脱炭素化を推進することが必要であることは論をまたない#5。加えて、産業向け熱需要など、電化が難しいエネルギー需要の脱炭素化に向け、水素が重要な柱となることが期待される。現状、技術的・経済的課題が大きく、足もとでの活用は限定的とならざるを得ないが、新たな2030年目標の実現を見据え、需給両面での取組みを加速する必要がある。

実用化が視野にある水素・アンモニア発電技術の向上や、開発に着手したばかりである水素還元製鉄等の生産プロセスの抜本的な革新をはじめとする用途拡大に向けた技術開発を支援すべきである。併せて、これらの技術を社会に実装する際に不可欠となるゼロエミッション水素の大量かつ安価で安定した供給に向け、インフラ整備を含めた国際サプライチェーンの構築、制度基盤整備等を加速する必要がある。また、支援コストの低減および早期実現の観点から、サプライチェーン構築にあたって既存供給インフラを活用することも欠かせない。さらに、海外における水素・アンモニアの開発・製造や、サプライチェーンの海外展開への積極的支援にあたっては本邦制度金融の果たす役割も大きい。

特に前述したように、安価で潤沢な水素供給が実現できるかは、産業部門のゼロエミッション化の成否を占う極めて重要な要素となる。2017年に世界に先駆け「水素基本戦略」を策定したわが国として、政府が前面に立ち、グリーン成長に向け、一般財源によるインフラ整備支援等、水素エネルギーを担うわが国の業界・企業を全面的にバックアップすべきである。

産業・民生部門におけるガス・熱需要を脱炭素化する有効な手段として、メタネーションの活用が挙げられる。都市ガス導管等の既存インフラ・既存設備を有効活用できるなど、経済性の観点からも大きなポテンシャルがあることから、将来の実用化に向けて、コスト低下に向けた技術開発、研究実証に足もとから取り組む必要がある。

また、運輸部門を中心とした動力源のエネルギー需要や石油化学製品の原料をCN化する方法として、既存の石油供給インフラや、製造および利用機器を活用できる観点から、合成燃料(e-fuel)#6も注目されている。合成燃料の生産に関わる既存技術の高効率化・低コスト化に加え、革新的新規技術・プロセスの開発による、商用化に向けた一貫製造プロセス確立のための応用研究に取り組む必要がある。

7.成長に資するカーボンプライシングの検討

2050年CNを目指す政府のグリーン成長戦略において、カーボンプライシング(炭素への価格付け)について、様々な課題が指摘される炭素税や排出量取引に限らず、自主的なクレジット取引市場をはじめとする多様な類型を示すとともに、成長に資するものについて躊躇なく取り組むという明確な方向性が示されたことは重要である。現在、環境省と経産省において、成長に資するかどうかという評価軸でカーボンプライシングに関する検討が進められており、経団連としても、積極的に議論に参加している。

カーボンプライシングが成長に資するものとなるよう、化石燃料に対する既存税制の評価を行った上で、次の視点から、専門的・技術的な検討を重ねていくことが重要と考える。

第一に、CO2排出に対するペナルティではなく、企業のCNに向けた主体的な取組みを促進するインセンティブとなるものであることである。とりわけ、今般のグリーンイノベーション基金の造成など、国を挙げてイノベーションの創出に注力する中、企業による革新的技術の研究開発投資や、その社会実装に向けた設備投資余力を削ぐものではなく、むしろ一層促進する仕組みが求められる。

第二に、エネルギーコストが国際的に高く、当面、新型コロナウイルス感染症の影響により経済活動が大きな停滞を余儀なくされる中、国民生活や産業の国際競争力に深刻な影響を及ぼさないことである。

これまで政府においては、企業はCO2削減にかかるコスト負担を自らは内部化しないとの考えに立ち、カーボンプライシングの議論がされてきた。しかし、最近ではグローバル企業を中心に、「CO2の削減そのものが価値である」との認識のもと、クレジット市場の価格などを参考に、自ら価格付けを行うなど、そのコストを内部化する動きが強まっている。さらに、ESG投資等は、こうした動きを後押しするものとなっている。

政府内で検討が進められている多様なカーボンプライシングの類型のうち、非化石証書やJ-クレジットといったクレジット取引は、適切に設計されれば、自主的かつ市場ベースのカーボンプライシングの有力なオプションとして、企業による主体的取組みを補完する役割を果たし得るものである。また、インターナル・カーボンプライシングも、環境価値を個社の経営判断・投資判断等に統合していく有効な手段として期待される。

政府には、引き続き、グリーン成長戦略にあるように炭素税や排出量取引制度の導入にとらわれることなく、多様な類型について、前述の視点から、真に成長に資するカーボンプライシングを丁寧に検討・精査し、最適なポリシーミックスを追求していくべきである。

なお、EUなどで検討が進められている国境調整措置については、「炭素国境調整措置に関する基本的な考え方」(2021年4月)#7にあるように、WTOルールと整合的であることが前提であり、国際的な貿易上の悪影響を回避しつつ、新興国を含む世界各国が、実効性のある気候変動対策に取り組む誘因となるものでなければならない。わが国として、積極的な気候変動外交を通じて各国の能力に応じた最大限の削減努力を促すとともに、わが国製造業の国際競争力確保の観点も踏まえ、上記「基本的な考え方」に基づく機動的な対応が取れるよう、準備を進めるべきである。

8.サステナブル・ファイナンスの推進

近年、資金動員を通じて持続可能な社会を形成しようとする「サステナブル・ファイナンス」が、気候変動分野を中心に、国際的な大きなうねりとなっている。カーボンニュートラル実現に向けた取組みを金融面から促進する観点から、発行体において積極的な情報開示や投資家・金融機関等との建設的対話が求められるとともに、投資家・金融機関等においても一律・形式的な評価ではなく、実態を踏まえた投融資が必要となる。

サステナブル・ファイナンスのインフラとも言えるTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の開示枠組みについて、わが国の賛同機関数は世界一(401機関、2021年5月28日時点)である。今般改訂されるコーポレートガバナンス・コードでは、2022年4月開始のプライム市場上場企業にTCFDまたはそれと同等の枠組みに基づく開示の質と量の充実を求めることも新たに明記される。引き続き、わが国として、開示のベストプラクティスを蓄積するとともに、国内外のESG投資家等の啓発、TCFD開示企業の裾野の拡大、評価手法の確立などに取り組み、サステナブル・ファイナンスの一層の基盤整備を進める必要がある。併せて、今後のIFRS財団におけるサステナビリティ報告基準開発の議論にも積極的に参画し、グローバルな開示の基盤整備にも貢献すべきである。

実効ある気候変動対策を推進する上では、温室効果ガス排出量が実質ゼロの水準にある技術へのファイナンスに加えて、イノベーションや、CNへのトランジションに必要となる幅広い技術・活動にも資金が動員されることが重要となる。政府は、イノベーションに取り組む企業へのファイナンスを促す「ゼロエミ・チャレンジ」企業リスト#8のアップデートや海外発信強化を行うとともに、今年5月にとりまとめた「クライメート・トランジション・ファイナンスに関する基本指針」#9の国内普及および海外発信にも努め、イノベーションやトランジションに向けたファイナンスに対する理解醸成を図るとともに、本基本指針に基づく分野別ロードマップを策定していくことで、信頼性と透明性を確保し、グローバルな資金動員を図るべきである。加えて、S+3Eを追求する観点から、エネルギー供給のレジリエンス向上に必要なファイナンスを適切に確保する必要もある。

9.積極的な気候変動外交の展開

言うまでもなく、気候変動問題は、特定の国・地域で閉じない地球規模の課題であり、その解決には、先進国・新興国・途上国を含むすべての排出国による野心的かつ真摯な取組みが不可欠である。わが国が2030年目標実現に真摯に取り組むに際しても、各国の国情に応じた多様な対策を尊重しつつ、各国の対策の実効性および国際的公平性を確保していくことは、カーボン・リーケージ抑止、さらには自由で公正な貿易体制の維持の観点からも重要である。

折しも、本年4月の日米首脳会談において、「日米気候パートナーシップ」の立ち上げに合意し、両国が脱炭素化に向けた国際社会の取組みを主導していく方針を示したことや、5月の日EU定期首脳協議において、「日EUグリーン・アライアンス」の立ち上げに合意し、途上国の気候中立で強靭な社会への移行に向けた日本とEUの協力を促進していく方針を示したことは、高く評価できる。わが国として、米国や欧州といった主要国・地域とも連携を図りつつ、パリ協定のもと、積極的な気候変動外交を展開し、新興国・途上国を含むグローバルな野心の向上に一層取り組むべきである。

また、国内での最大限の削減努力を行うことと並行して、日本の優れた省エネ・脱炭素型の技術・製品・サービス、インフラシステムを、海外に向けて展開・普及させることで、地球規模での温室効果ガスの大幅削減に積極的に貢献していくとともに、わが国企業にとっての大きなビジネス機会とすることが求められる。CEFIA(Cleaner Energy Future Initiative for ASEAN)等の枠組みを活用しつつ、アジア諸外国等におけるビジネス環境整備に、官民連携して積極的に取り組むことも重要である。同時に、真に気候変動対策に資する技術が適正に評価されるよう、国際基準・標準作りに積極的に参画することも重要である。こうした認識の下、経団連としても、質の高いインフラを認証するスキームとして日米豪が主導するブルー・ドット・ネットワークの制度設計に参画していく。

JCM(二国間クレジット制度)を含む海外における削減貢献量の「見える化」のための制度や方法論の確立・普及を図ることで、各国が国内での削減を超えて、世界全体の削減貢献量の多寡を競うゲームチェンジを図るべきである。さらに、日本企業による国際貢献とわが国の削減目標実現を同時に追求すべく、JCMの一層の活用拡大も求められる。現在17か国ある対象国の戦略的拡大、排出減が見込めるプロジェクトの大規模化、案件組成を加速化するための制度運用面のさらなる拡充等を行うべきである。

併せて、COP26における市場メカニズムに関するパリ協定の詳細ルール(第6条)交渉の早期妥結を図るとともに、環境保護および気候変動対策に貢献する物品の普及を多国間で推進すべく、WTOにおける環境物品協定(EGA)について早期に交渉を再開することも求められる。

以上

  1. http://www.keidanren.or.jp/policy/2020/108.html
  2. http://www.keidanren.or.jp/policy/2020/123.html
  3. EUは、新型コロナウイルス感染症からの復興基金を通じて、約35兆円を気候変動対策に投じると表明。米国は、バイデン大統領1期目の任期4年間に、2兆ドルを上回るクリーン・エネルギー投資を行うことを選挙期間中に公約。
  4. 例えば、再エネの導入が進展しているドイツでは、国内産業の競争力を維持する観点から、産業用電気料金にかかる公租公課・賦課金、託送料金等について、業態に応じた減免措置が採られている。
  5. 詳細は、提言「Society 5.0 with Carbon Neutral 実現に向けた電力政策」(2021年3月)参照。
    http://www.keidanren.or.jp/policy/2021/025.html
  6. 発電所や工場等から回収したCO2と水素を合成して作られる液体燃料。
  7. 「第4回 世界全体でのカーボンニュートラル実現のための経済的手法等のあり方に関する研究会」事務局資料 p.28参照。
    https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/carbon_neutral_jitsugen/pdf/004_02_00.pdf
  8. https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/zero-emission_challenge/index_zeroemi.html
  9. https://www.meti.go.jp/press/2021/05/20210507001/20210507001.html

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