Policy(提言・報告書) CSR、消費者、防災、教育、DE&I  ワクチン接種記録(ワクチンパスポート)の早期活用を求める

2021年6月24
一般社団法人 日本経済団体連合会
新型コロナウイルス会議

Ⅰ.はじめに

新型コロナウイルス感染の世界的な拡大は、人々の生活、あらゆる社会経済活動を一変させた。感染の拡大を抑制するため社会経済活動は制約を余儀なくされてきたが、ワクチンの接種は、コロナ禍において停滞した社会経済活動を正常化させる大きな鍵となる。経団連でも冬の到来までの集団免疫の獲得を目指したワクチン接種体制を早急に確立し、一気呵成にワクチン接種を進めることを政府に求めている#1

ワクチン接種が進む諸外国・地域では、科学的な知見に基づいた感染対策を打ちつつ、社会経済活動を正常化させつつある。新型コロナウイルス感染症への集団免疫の獲得までの間、感染の拡大を防ぎつつ、社会経済活動を早期に回復に導く際に有効なのが、個人のワクチン接種記録を簡便かつ真正性を担保できるデジタル形式で示すワクチンパスポートである。わが国でも、感染防止と両立させる形で、早期にグローバルな社会経済活動の回復に向けて、ワクチン接種を加速し、世界の動きとも連携をはかりながら、ワクチンパスポートの導入や活用を進めることが重要である。

そこで今般、経団連は、医療関係者ら有志とともに、わが国におけるワクチンパスポート活用の可能性、活用にあたっての様々な懸念や疫学的・倫理的・技術的な課題、それらの解決策等についての検討を行った。検討内容を踏まえ、ワクチンパスポートの活用に関する基本的な考え方(Ⅱ)、出入国時と国内における活用に向けて政府、医療界、経済界が取り組むべきこと(Ⅲ、Ⅳ)、コロナ収束後を見据えた項目(Ⅴ)――を取りまとめ、以下に提言する。

Ⅱ.基本的な考え方 ―ワクチンパスポートの活用に向けて―

一口にワクチンパスポートとはいってもその活用の目的によって、課題や必要な取り組みが変わることに留意が必要である。わが国における活用のニーズや諸外国での活用事例を踏まえると、ワクチン接種記録の活用には、

  1. 1) 出入国の際にワクチン接種記録を提示することで、空港での検疫手続きの迅速化、隔離の免除、または隔離期間が緩和されるなどの出入国時の活用
  2. 2) ワクチン接種記録の提示によって会場やイベントへの入場時の要件が緩和されたり、さまざまなサービスやキャンペーンが受けられたりするなどの国内における活用

の二つの方向があると考えている。技術的には、デジタル化された接種記録を真正性が担保される形で個人が携行できるよう、スマートフォン等のアプリに搭載するものを想定している。搭載データは、ワクチン接種記録のほか、抗体を獲得した場合の抗体検査の記録、陰性証明の記録も視野において検討した。

それぞれの活用のスケジュールについては、

  1. 1) 出入国時の活用は、ワクチン接種段階とは切り離し、現時点から早急に検討を進め、なるべく早い時期から活用を進めるべきもの
  2. 2) 国内における活用は、早期に準備して、ワクチン接種が進んだタイミングから活用を進めていくべきもの

と整理した。

それらに共通し、政府、医療界、産業界が連携して取り組むべき課題として以下の3点が考えられる。

① 社会経済活動の正常化に向けた出口戦略の打ち出し

政府においては、集団免疫の獲得#2ならびにコロナの収束などの明確なゴールを設定し、ゴールを起点に現在を振り返り、ワクチン接種記録の活用も盛り込んだ形で、社会経済活動の正常化に向けた出口戦略を描くべきである。そうしたロードマップは、全ての事業者が将来を見通し、今後の事業計画や投資計画を立てるための基盤となる。同時に、国民が、コロナ禍にあっても、漠然とした不安を解消し、将来への希望をもってその段階での対策に納得感をもって協力することにもつながる。

② デジタル化の推進

感染対策を徹底するためには、個々人の正確なワクチン接種履歴に基づいた活用が不可欠である。そのため、ワクチンパスポートは、簡便かつ真正性を担保できるデジタル形式での実装を進めることが重要である。政府においては、あらゆる国民が自身のワクチン接種記録を自身の判断に基づいて活用できる仕組みを早急に整備すべきである。その際、プライバシーに配慮をした上で、マイナンバーを軸に、個人のマイナポータルにワクチン接種履歴を連携できるようにすることが求められる。ワクチンの接種後には本人の意思のもとで接種履歴をマイナポータルからアプリ等に連携し、活用できる仕組みにすべきである。経済界としても、ブロックチェーン等の技術活用によってプライバシーを確保した上で効果的に活用できる仕組みづくりに貢献する。

③ 活用における合理的な配慮の確認とさらなる検討

今後わが国において、ワクチンの接種対象者は段階的に拡大されることから、地域、あるいは世代や職種によって、ワクチン接種率に差が生じる。また、アレルギーや健康状態によってワクチン接種が困難な方もいる。もちろん、ワクチン接種自体は努力義務とは定められているものの、強制されるものであってはならない。そうしたことから、ワクチン接種記録の活用にあたっては、ワクチンを受けていない方、受けられない方への差別や偏見、不利益な取り扱いに繋がらないよう、合理的な配慮を行うことが不可欠である。

なお、あいまいな基準をもとに闇雲に差別や偏見の防止を謳っていても、本来の目的において、望ましい活用を委縮させるだけであるため、どういった活用が合理的かそうではないかを切り分ける必要がある。政府においては、活用の目的に資する形で、利用者が合理的に活用するためのガイドラインの作成を行うべきである。

合理的と考えられる活用の事例

  • 自らの意思とは関係なく、アレルギーなどの理由で接種できない方に代替措置(検査による証明)を用意すること
  • 選択肢や代替案なしに、ワクチンの非接種を理由に、会場やイベントへの入場や使用を断られる(排除される)ことがないようにすること

Ⅲ.出入国時の活用に向けて

各国において厳しい出入国制限が課されるなか、一年以上もの間、グローバルな経済活動や国際交流の停滞を余儀なくされている。グローバルな経済活動はわが国の企業活動の生命線である。諸外国において、ワクチン接種記録や陰性証明等を活用することで国境を越えた出入国を再開する動きが加速するなか、わが国においても、諸外国の取り組みとの連携をはかりながら、可能な限り早い時期から出入国時の活用を進めるべきである。

① 政府が取り組むべきこと

  • 省庁間および政府・自治体間の連携と役割分担を明確化し、取り組みを強力に推進するため、内閣官房のワクチン接種証明推進室#3に政府の司令塔としての機能を持たせる
  • コモンパス#4、トラベルパス#5などのイニシアティブも踏まえ、出入国の際に必要なデータやシステムに関する国際標準化#6を推進する。
  • 入国要件におけるワクチン接種記録等の活用を、諸外国との標準化も視野に検討する#7。並行して、諸外国とも連携し、ワクチンパスポートを活用した隔離等の出入国時の制限緩和を進める。
  • 各国の出入国規制情報を集約し、安全安心な越境に資するよう、適切な方法により適時に開示する。
  • 迅速性の観点から、早急に和英併記の書類などのアナログな手法でワクチン接種証明を渡航時に活用できるようにする。並行して、TeCOT#8等の既存の仕組みも活かしつつ、渡航者にとっての利便性を最優先し、入国用、出国用、長期的には国内用のアプリを一元化#9する。

② 医療界が取り組むべきこと

  • 従来株、変異株に関するワクチン接種の効果(予防効果、免疫保持期間等)、抗体検査やPCRの検査の結果と感染拡大のリスク等について、研究を進め、最新の研究成果をもとに政府や企業に知見を提供する。

③ 経済界が取り組むべきこと

  • 国内のワクチンパスポートのシステム構築、真正性の担保といった技術開発等に協力する。
  • 航空会社、空港等を中心に、利用者の利便性を第一に、ワクチンパスポートの運用プログラム全体を準備する。
  • 航空会社や旅行会社等の出入国に係る企業を中心に、各国の出入国に関する的確な情報を、渡航者へ提供する手段を構築する。

出入国時の活用に必要な項目

  • 氏名、生年月日
  • 接種日、接種回数、メーカー、製造ロット

Ⅳ. 国内における活用に向けて

コロナ禍で強い影響を受ける多数の企業から、集団免疫の獲得が期待される冬まで持ちこたえられないとの声がある。そうした企業を救うために、感染防止と経済活動を両立するためのグランドデザインが求められている。その中心に位置づけられるのは、ワクチンを受けていない方、受けられない方への差別や偏見に繋がらないよう、合理的な配慮を行った上でのワクチン接種記録の効果的な活用である。ワクチン接種記録の活用を通じて、ワクチン接種者の需要喚起を促し、自粛などによって委縮した地域経済や各業界の活性化が期待される。

そこで経団連では、企業におけるワクチンパスポートの具体的な活用のニーズを調査し#10、その結果をもとにワクチン接種の対象者や進捗に応じて3つの段階に分類し、それぞれの段階における提言を取りまとめた。

1.活用の方向性

企業によるワクチンパスポートの具体的な活用のニーズについて、以下の通り4つに分類した。

① 各種割引、特典の付与
  • ワクチン接種記録の提示によって各種割引、特典が付与される。
② 国内移動、ツアーでの活用
  • 陰性証明等も利用#11しながら、国内ツアー等の参加制限の緩和、移動自粛等の緩和を行う。
③ 優先入場
  • 陰性証明等も利用し、イベント会場、施設等への入場時の制限や要件を緩和する。また、接種者についての社会的距離等の制限の緩和も行う。
④ 活動制限の緩和
  • 介護施設や医療機関の面会制限の緩和、イベントの開催制限を緩和、会社への出社制限や入所制限の緩和などを行う。

陰性証明の利用について

  • イベント会場等において集団感染を発生させないためには、陰性証明をワクチン接種証明の完全な代替案として扱うのではなく、主催者側で活用・運用の全体像のデザインを描くことが必須である。専門家の知見も活かしながら、主催者側の運用上の工夫が求められる。
  • 例えば、イベント開催であれば、イベント集団として集団免疫を達成するため、①入場者の80%以上はワクチン接種者としつつ、当日時点で他人に感染させるリスクの高い人を除外するために、②非ワクチン接種者は、当日に抗原定性検査(15分程度で結果判明)で陰性確認者とすることなどの運用を行うことが考えられる。そのため、複数日にイベントがある場合は、非ワクチン接種者は各日に抗原定性検査を行うことが望ましいことになる。

図1 国内における活用の方向性

2.ロードマップ

政府は、集団免疫の獲得ならびにコロナ収束などの明確なゴールを設定し、ゴールを起点に現在を振り返り、ワクチン接種記録の活用も盛り込んだ形で、社会経済活動の正常化やさらなる活性化に向けた出口戦略を描くべきである。

ここでは、政府公表のワクチン接種スピード、ワクチンの効果や各種活動のリスク等に関する医療関係者の助言も踏まえ、現時点で経済界として、ロードマップの大枠を提案したい。

段階1:65歳以上の8割以上が接種を済ませる
  • 重症化しやすい65歳以上の高齢者における一定程度の免疫の獲得によって、医療機関への負荷軽減が期待される。また、接種された方の間での活動が活発化する可能性がある(2回目の接種から2週間後が望ましい)。
  • 7月末の「65歳以上の8割以上接種」からのスタートに向け、現時点から準備を進め、意欲・関心のある自治体と民間が連携し、ワクチン接種をされた65歳以上の高齢者や医療従事者等を対象としたキャンペーンを実施する。部分的な社会経済活動の活性化とともに、後の段階における全国展開に向けた好事例を創出する。
  • なお、この段階では社会一般的な集団免疫の獲得には至っておらず、防疫対策の継続が必要であることから、地域を限定した取り組みに限る等、繁華街などの人流の増加を避けるなどの一定の配慮が必要となる。
時期:現在~/本格実装:7月中下旬~
  • 6月21日時点で高齢者の接種回数は約2,180万回#12。菅首相は「6月中旬以降は1日100万回の体制」と言及しており、職域接種が開始された6月21日時点では実数として1日100万回の接種が達成されていると仮定する。65歳以上の高齢者は約3,600万人であるため、7月中には達成可能である。
(必要な取り組み)
① 政府
  • 政府が承認したワクチンは、高い効果を誇り、重篤な副反応の少ないものであることを、科学的知見に基づくメッセージとして発信し、国民が進んで接種を受ける機運を高めていく。また、国民の間でワクチン接種が自分のみならず、社会を守ることに繋がるという公衆衛生に係る意識醸成を進める。
  • ワクチン接種記録については、現状、接種券の半券、あるいは自治体ごとに管理するワクチン接種記録システム(VRS)から個別に連携するしかない。この段階では迅速性が重要であるため、まずは紙などのアナログな形式での導入を行い、並行してワクチン接種記録の国内外での連携をはかるために、デジタル化やシステム構築を検討する。
  • 地方自治体と民間が主体となった好事例の創出を後押しし、優れた取り組みを横展開するためにも、政府による補助金や支援のスキームを検討する。
  • ワクチン接種の有無により個人が差別や偏見ならびに不利益な取り扱いを受けないようにし、かつ、社会全体が合理的にこの仕組みを早急に活用できるようにするためのガイドライン等の作成を行う。
② 医療界
  • 従来株、変異株に関するワクチン接種の効果(予防効果、免疫保持期間等)について、研究を進めるとともに、最新の研究成果をもとに政府や企業に知見を提供する。
  • ワクチン接種の効果(予防効果、免疫保持期間等)に関する研究を踏まえ、ワクチン接種者の行動ガイドラインを作成する。
  • ワクチンパスポートに関して、既に感染した人のリスクなどを踏まえ、感染歴や陰性証明との組み合わせによるワクチンパスポートの活用ガイドラインを作成する。
③ 経済界
  • 利用者にとって魅力的な活用アイデアを検討し、活用に意欲のある自治体と連携し具体的なプロジェクトやキャンペーンを実行する。
  • 活用のプロジェクトやキャンペーンにおいて、ワクチンを受けていない方、受けられない方への職場における差別や偏見、不利益取り扱いに繋がらない仕組みを検討し実装する。
  • 職域接種におけるワクチン接種を進めながら、並行して、個人と接種記録を早急に紐づけられるようにスピード感をもってワクチン接種記録のデジタル化を推進する。その際、自治体や中小企業が活用しやすい経済的な負担の少ない仕組みの構築に努める。
  • ワクチンパスポートのシステムに関するセキュリティやプライバシー、真正性の担保に関して、技術開発や実装を行う。

石垣市でのワクチンパスポートの活用計画

  • 石垣市の高齢者接種率は85%を超えており、次なる課題は、観光客受け入れによる地域経済復興である。
  • 今後、観光オフシーズンにおけるワクチン接種済み高齢者の観光需要を取り込むべく、8月から高齢者、10月から一般観光客に対するワクチンパスポートの活用を検討している。
  • 具体的には、空港や港において「ワクチン接種記録を示すことができる人」を市職員が確認し、石垣市のワクチン接種証明の仕組みにエントリーすることで、市内で観光客がインセンティブを受けられるような仕組みを検討している。
段階2:国民の5割以上が接種を済ませる
  • 国民の5割以上が接種を済ませることで、医療体制への負担、急激な感染拡大への懸念を大幅に軽減できる。ワクチン接種記録を活用することで、より低いコストで社会経済活動の相当程度の正常化を行うことが期待できる。
  • 一方、諸外国の事例に鑑みるに、これくらいの時期から接種率の伸び悩みに直面する懸念もある。政府、あるいは自治体や民間が主体にいかに接種率を向上させるための魅力的なキャンペーンや取り組みを打ち出すことができるかが集団免疫獲得に向けた一つの鍵となる。
時期:9月下旬~
  • 国民が2回接種を受けるとすると、5割以上の接種に必要な回数は約1億2,500万回となる。6月21日時点での国民への接種回数は約3,290万回。1日100万回の接種が進めば、9月下旬には完了する計算である。
(必要な取り組み)
① 政府
  • 引き続き、接種の推進と、国民が進んで接種をする機運を高めていく。また、国民の間でワクチン接種が自分のみならず、社会を守ることに繋がるという公衆衛生に係る意識醸成を進める
  • ワクチンパスポートの活用について出入国用と国内用という2つの観点で議論が行われているが、利便性の観点から、アプリの一本化を検討し、実行する。
  • 自治体や民間を対象に、接種率向上に向けて、ワクチン接種記録活用に係る取り組みに対して、補助金等の支援を行う。
  • 政府主体の取り組みにもワクチン接種記録の活用を取り込み、委縮した業界の活性化と感染拡大防止を両立させる。
② 医療界
  • 作成した行動ガイドライン、接種記録の活用ガイドライン等について、社会経済活動の緩和が感染拡大へ与える影響等を考慮し適宜更新する。
  • 従来株、変異株に関するワクチン接種の効果(予防効果、免疫保持期間等)について、研究を進めるとともに、最新の研究成果をもとに政府や企業に知見を提供する。
③ 経済界
  • 接種率の向上に向け、自治体と連携し魅力的な活用アイデアを実行する。
  • 自治体との連携や民間の好事例について横展開を行う。併せて、共通する取り組みについては連携を推進する。
  • ワクチンパスポートのシステムに関するセキュリティやプライバシー、真正性の担保に関して適宜改善をはかりつつ、新たな変異種の登場や次なる感染症など将来の課題への活用を見越して技術開発を継続する。
段階3:国民の8割以上が接種を済ませる
  • 集団免疫を獲得すると考えられる全国民の8割以上が接種を済ませた後であれば、ほとんどの社会経済活動において、ワクチン接種記録の活用自体が不要になることも期待される。
  • 一方、ウイルスの変異スピード、変異株の特徴によっては、定期的なワクチン接種による免疫の更新が必要になる可能性もあるため、そうした可能性も考慮した上で、グランドデザインを描いていく必要がある。
時期:今冬~
  • 菅首相は「10月から11月には希望する全国民への接種を済ませる」と言及。全国民が2回接種を受けるとすると、約2億5,000万回の接種が必要になる。2億5,000万回の8割は約2億回であり、1日100万回以上の接種と職域接種等が進めば、11月中には完了する。
(必要な取り組み)
① 政府
  • コロナの感染拡大の状況や変異スピード、変異株の特徴等を踏まえ、ワクチンパスポート活用の終了時期等の出口戦略を検討する。
  • ワクチン接種記録システムに係るデジタル化の遅れ、システム構築に関して取り組みを総括し、次なる感染症への備えを行う。
  • mRNAワクチンなどの新たなワクチンも含めて、国民に対してワクチン接種に関する正確かつ分かりやすい情報発信を継続する。
② 医療界
  • ウイルスの変異の状況やスピード、感染拡大状況を注視しながら、政府などの戦略に対して適時の助言を行う。
  • 変異株に関する研究を継続し、免疫の効果や適切な対策に関して、最新の研究成果をもとに政府や企業に知見を提供する。
③ 経済界
  • ワクチン接種記録を活用したプロジェクトやキャンペーンを実行しつつ、社会経済活動の正常化につとめる。
  • セキュリティ、プライバシー、真正性の担保に関する技術開発を継続する。
  • ワクチン接種記録のほか、個人の健康医療に係るライフコースデータ#13を集約し個人の判断のもとで活用するプラットフォーム(PHR#14)の構築を検討する。

図2 ロードマップ

Ⅴ.おわりに ―コロナ収束後を見据えて―

ここからはワクチン接種も進み、感染対策も新たなフェーズを迎える。ここに提言した通り、ワクチン接種を加速しつつ、産学官の連携のもと、ワクチン接種記録を有効に活用することで、感染対策と両立するかたちでの経済の再生、社会経済活動の正常化を進めていくことが必要である。まずは、産学官医で知恵を出し合いながら、2021年を乗り越えなければならない。

新たな感染症に対しては、デジタル技術やmRNAワクチン等の新技術を活用しながら試行錯誤を繰り返していくしかない。今回の経験を振り返り、新型コロナウイルス感染症に対しても定期的なワクチン接種が必要になる可能性もあることも念頭に、浮き彫りになった課題を解決し、次なる感染症に備えた体制整備も重要である。

優先すべきは、今般の感染拡大のもと浮き彫りになった健康医療分野のデジタル化の遅れの挽回である。迅速かつ的確な感染対策に必要なデジタル化を早急に進める必要がある。

さらに、ワクチン接種の推進にあたっては、異なる管理主体の複数のシステムが乱立するなどし、現場に混乱が生じた。そうした反省も踏まえ、ワクチン接種履歴についても、プライバシーに配慮をした上で、マイナンバーを軸に、個人のマイナポータルにワクチン接種履歴を連携できるようにしていただきたい。接種後には本人の意思のもとで、アプリ等に連携し、活用できる仕組みにすべきである。

ワクチンパスポートが、長期的には、個人が、リアルタイムに近い形で自身のライフコースデータにアクセスし、医療従事者と共有しながら医療を受けたり、自身で健康管理をしたり、個人に合わせた予防行動や未病段階からの対応ができる将来社会の実現の契機になることを期待したい。

以上

  1. 提言「新型コロナウイルスワクチン接種に関する緊急提言」(2021年6月1日)
  2. 国民の7~8割以上が必要回数のワクチンを接種した状態。
  3. 政府では、加藤勝信官房長官のもと、内閣官房に木原稔総理補佐官、和泉洋人総理補佐官、ほか非常駐を含め審議官級以下の体制を構築。
  4. 世界経済フォーラムと非営利団体のコモンズ・プロジェクト・ファンデーションが中心となり、各国の民間企業が参加して開発を推進する検査結果等をデジタル証明する仕組み。
  5. 世界の航空会社が加盟するIATA(国際航空運送協会)を中心に、安全な国境往来に向け、安全な情報管理を行うデジタル証明書アプリ。
  6. 世界の代表的なベンダーを中心に、ワクチン接種記録や陰性証明等の医療情報を便利かつプライバシーに配慮した環境下で、様々なシステムと相互運用するために「SMART Health Cards」という規格が推進されている。
  7. EUではいわゆるワクチンパスポートにおいて接種記録、陰性証明、完治証明を併用することを検討している。
    (参照:https://www.schengenvisainfo.com/news/all-details-on-eu-covid-19-passport-revealed-heres-what-you-need-to-know/
  8. 海外渡航者新型コロナウイルス検査センター。厚生労働省と経済産業省が運営する。海外渡航時に必要な陰性証明に必要な検査をオンラインで予約できるシステム。
  9. 過去の接種記録に基づいて証明書を発行するという手順も想定される中で、現状の接種記録体制がこうした遡及的な手続きに適切に対応できるかどうかが課題である。
  10. 2021年5月18日から5月24日の期間において、社会基盤強化委員会企画部会委員を対象にアンケートを実施した。
  11. 集団感染発生のリスクを下げるためには、陰性証明の利用には注意が必要である。次ページを参照されたい。
  12. 首相官邸ウェブサイト「新型コロナワクチンについて」より。
    https://www.kantei.go.jp/jp/headline/kansensho/vaccine.html
  13. 胎児期から亡くなるまでの生涯にわたり発生する健康医療介護に係るデータ。
  14. Personal Health Record。個人のライフコースデータを蓄積し、個人による閲覧や、医療機関との共有を可能とする仕組み。