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Policy(提言・報告書) 税、会計、経済法制、金融制度 市中協議文書「第1の柱 利益A 執行および税の安定性に係るプログレスレポート」への意見

2022年11月11
一般社団法人 日本経済団体連合会
経済基盤本部

1.はじめに

意見提出の機会に感謝する。本意見は「Pillar 1 Amount Aに関する企業連絡会」#1におけるこれまでの検討を基礎に経団連経済基盤本部として提出するものである。

2.執行

(1) 総論

執行はビジネスの実務負担に直接影響するため、今回の公開討議草案の内容は重要である。

まず、利益Aは定式配分を志向する全く新しい制度であり、その税務執行や二重課税の排除方法も、既存の税制や執行フレームワークにとらわれず、最も簡素で、二重課税に至らない方法を採用すべきである。各法域の制度および税務プレゼンスの有無に依存するのではなく、グローバルに標準化された制度となるよう、利益Aに関する計算・申告・納税および二重課税の排除の方法や期限をMLCにおいて規定し、各国が遵守するものとすべきである。

実務負担の軽減の観点からは、2021年10月の国際的合意にもあるとおり、一つの事業体を通じて、申告手続を完結できるかたちが望ましい。8月に提出した経団連の意見でも、「納税・申告の際には、事務負担の軽減のため、One Stop Shop方式で行うことを要望する」と記載していたが、その見解に変わりはない。今回の執行に関する公開討議草案でも、関係するすべての法域で、申告・納税および二重課税の排除も含め、一括の手続きを実現するかたちが望ましい。

また、市場法域への納税のタイミングと、二重課税救済のタイミングを同時にして、MNEにおけるキャッシュフロー影響を排除することが求められる。その観点から二重課税の排除については、8月に提出した経団連の意見のとおり、共通して所得免除方式を採用することが最も望ましい#2。仮に、所得免除方式が実現しない場合、各救済法域において、税額控除による還付(年度をまたいだ場合の対応も含む)が必要と考えられ、非常に複雑となる。各国の既存の制度では、控除額や繰越期間に制限があることも考慮すると、二重課税が完全に排除できない可能性がある。

加えて、以下、各論につき、詳細を述べる。

(2) 各論

① 各国における税務登録(Part Ⅰ, 2.3. para 14)

公開討議草案では、税務登録をすべての市場国で行うことが要求されている。これは大きな事務負担となる。また、税務登録を行うことで利益A以外の課税および調査を招きうることを懸念する。納税についても基本的に親会社所在地国の法人で手続面は一本化し、市場国における手続きを求めるべきではない。なお、利益Aの申告・納税を専門かつ統一的に行う法人を指定し、当該指定代理法人の利益Aに係る納税の原資のための資金の移動については、課税を生じない扱いとすべきである。また、仮に上記法人から各国に納税を行う制度となった際には、各国における納税先の口座等をあらかじめ明示し、各国の送金規制等の対象としないことが求められる。

② 単一納税者方式及び複数納税者方式(Part Ⅰ, 2.8.-2.9.)

納税の方法については、救済法人による直接納付やグループ納税代理人による納付(複数納税者方式)、最終親会社や特定のグループ指定納税義務法人(トレジャリー法人)による納付(単一納税者方式)といった様々な方法が提案されている。納付方法の設計においては、①の指定代理法人の考え方を取り入れ、二重課税の排除や納税の原資となる資金の融通に係る課題の解決を図るべきである。各国における税務登録や口座開設等が求められる複雑かつ実務負担が大きくなる制度は希望しない。それぞれの制度のメリットおよびデメリットを考慮したうえで判断する必要があるため、今後、さらなる議論の進展や詳細な制度設計の提示を期待する。なお、各MNEの様々な実務に配慮すべく、納税者が納付法人を選択できることが望ましい。

③ 共同責任(Part Ⅰ, 2.8.2. para 60)

市場国への納税に係る共同責任を負う場合において、各法域の事業体に税務当局が個別にコンタクトして混乱が生じることは望ましくない。単一の事業体を代理人とすることを通じて税務当局からの連絡窓口および手続を一本化することが可能であることを明確化すべきである。

④ 救済法人からの支払いの取り扱い(Part Ⅰ, 2.9. para 69)

単一納税者方式は、救済法人から払い戻しを受ける際に、源泉徴収税やその他の税金の影響があることを示唆している。しかしながら、特定の法域が納税資金の再配分額に追加的な課税を行うことは、第1の柱利益Aの公平かつ統一的な再配分の仕組みを歪めるものである。このような課税は不適切であり、課税が行われないよう措置する必要がある。

⑤ 連結納税(Part Ⅰ, 2.10.)

連結納税グループには、各構成事業体まで救済の割り当てを要求すべきではない。連結納税グループの代表者のみを救済を行う法人とすべきである。

⑥ 救済法域の法人への救済額の配分方法(Part Ⅰ, 2.10.)

救済法域において法域内の事業体レベルへの救済額の配分は、法域毎個々の運用とせずに、配分対象となる事業体を限定するなど、簡素なかたちでグローバルに標準化させるべきである。

⑦ 安定性審査が終了するまでの税務調査および支払い停止について(Part Ⅰ, 2.2. para 9および2.11. para 99-100)

税務調査は、税の安定性のレビューの間、停止されるべきである。市場国における移転価格税制の調査についても、利益Aに関係する部分に係る調査については制限することが望ましい。また、複数の法域にまたがる再申告や金額調整の煩雑さを避けるため、利益Aに関する税金の支払いは早期安定性レビュー及び包括的安定性レビューの間、停止されるべきである。

審査の遅延によって生じた支払が遅れた場合であっても、納税者に利息を課すべきではない。少なくとも、最初の早期安定性審査の段階では、すべての罰金と利息を免除すべきである。

⑧ 第1の柱と第2の柱の相互作用(Part Ⅰ,2.12. para 111)

第1の柱における課税権の配分による第2の柱に対して与える影響、具体的には、第1の柱の利益配分結果をどのようにして第2の柱における実効税率計算に反映させるのかについて、早期に明確化することが必要である。第1の柱利益Aの申告期限が事業年度終了後12ヶ月以内、第2の柱の申告期限が15ヶ月以内(初年度については18ヶ月以内)となっており、3ヶ月しか猶予期間がなく準備期間が不十分である。第1の柱利益Aの結果が第2の柱に影響を与えることになれば、第2の柱の申告が確定できないことも想定されうる。

3.税の安定性

税の安定性では、これまでのパブリックコンサルテーションを踏まえ、産業界などの意見を踏まえて、制度を改善していることを歓迎する。さらに内容を改善する観点から、とりわけ、以下の点についてコメントする。

なお、税の安定性に関しても、取り扱うデータの秘匿性を確保することが重要となる。秘匿性に係る違反や不適切な使用時の罰則も含め、MLCにも明記すべきである。また、各種安定性レビューの結果は、匿名化の上、ガイダンスとして提供することが有用である。

(1) 利益Aのための税の安定性枠組み

① 早期安定性レビューの範囲の拡大(Part Ⅱ, 1.4.)

MNEは不確定性を排除し、より包括的なシステムを構築すべく、早期安定性レビューを非常に重視している。早期安定性レビューの範囲は、現在の記載に留まらず、MDSHや源泉税の取り扱い、救済法域の特定、セグメンテーション、スコープの適用除外、企業再編の取り扱いなど、幅広い内容を対象とすべきである。

② 申請手続(Part Ⅱ, 2.2.1. para 2)

Scope Certainty Documentation Package の内容について、全ての Group Entity の合意の確認まで求めることは、当初案の委任状(PoA)よりも改善してはいるものの、行き過ぎかもしれない。単に最終親会社が決定できるとすれば十分ではないか。

③ 早期安定性レビューの申請における「重要な前提条件」(Part Ⅱ, 2.3.1. para 11 and 2.6.3. para 15)

重要な前提条件(Critical Assumption)にどのような場合に該当するのか、例などを追加し、定義をより明確化する必要がある。Para 11は依然一般的な表現に留まる。何をもって “no material changes” とするのか不透明であり、主観的で拡大解釈の余地が残る。各項目に具体的な事例を挙げて、material changesのスコープを明確化させる必要がある。

④ 安定性レビューの適用要件(Part Ⅱ, 2.3.2. para 24)

安定性レビューにおける納税者への変更提案の要件として、関連当事国への調整後税引前利益の配分額の5%という閾値は低すぎる可能性がある。5%または一定額のどちらか大きい方がより現実的な閾値かもしれない。

⑤ 内部統制の専門家パネル(Part Ⅱ, 1.4. para 14 and 2.3.2. para 57d)

専門家パネルについては、MNE毎にユニークなシステムへの理解、コミュニケーション言語の問題等に起因しうるレビュープロセスの遅れ、効率性の問題が生じるおそれがあることを懸念する。

また、専門家パネルを設置する趣旨を踏まえれば、関係国から結論に異議を唱えることは制限的であるべきである。

⑥ レビューパネルの結論後のシステム変更の期間等への配慮(Part Ⅱ, 2.3.2. para 66)

早期安定性レビューは、企業が複雑なシステムを構築する前に、事前に確認に至ることを想定したものである。したがって、レビューパネルの結論が出た後に詳細なシステムの設計・変更を行う可能性が高く、その期間を十分に考慮して、レビューの有効期間を設定すべきである。すなわち、申請期間中におけるMNEの内部統制の準備状況やその成果物、取り組みに要する期間の妥当性等を踏まえ、それらが妥当と判断される場合には、カバー対象期間が短縮されない宥恕措置が認められることが望ましい。

また、安定性レビューの結果、過年度申告内容の修正が必要な場合には、進行年度調整となると理解しているが、その点を明確化すべきである。

⑦ 決定パネルの構成(Part Ⅱ, 2.4.2.)

決定パネルは、より中立性や公平性が期待できることもあり、すべてまたは少なくとも過半数を独立専門家(Independent Experts)で構成されるべきである。

⑧ 関係当事国を決定するための補助的文書(Part Ⅱ, 2.6.3. para 7)

レベニューソーシングでは取引アプローチを採用しないため、関係当事国の決定のためのソーシングに関する資料でも、単一の取引に関するものを含めるべきではない。

(2) 利益Aに関連する税の安定性枠組み

① 適用範囲(Part Ⅲ, 2.1.)

利益Aに関連する税の安定性枠組みについて、既存の二国間条約の相互協議で対象としていない多国間の状況にも適用対象を広げるべきである。紛争の防止・解決のプロセスをより確実にすべく、MLCにおいて、多国間で適用することを明示すべきである。

② 紛争解決パネルの拘束性(Part Ⅲ, 2.7.17. para 126)

紛争の早期解決という趣旨を踏まえれば、関係する法域について、紛争解決パネルの決定から離脱し、異なる解決策に合意することを認めることは不適切かもしれない。紛争の蒸し返しとなり、税の安定性が確保できないことを懸念する。

以上

  1. 経団連意見(https://www.keidanren.or.jp/en/policy/2022/018.html)の脚注1参照
  2. 経団連意見(https://www.keidanren.or.jp/policy/2022/076.html)参照

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