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Policy(提言・報告書) 労働政策、労使関係、人事賃金 DX時代の労働安全衛生のあり方に関する提言
【別紙】 企業事例

DX時代の労働安全衛生のあり方に関する提言(目次)

1.大和ハウス工業株式会社【建設業】
本社所在地:大阪府大阪市
社員数:16,535人(2022年4月1日)*有期契約者を除く
事業概要:戸建・賃貸住宅、分譲マンション、商業施設等の企画・設計・施工・販売等

大和ハウス工業は、建設工程におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)推進の一環として、戸建住宅や賃貸住宅、商業施設等の各工事現場にWEBカメラを導入し、現場の見える化を通じた遠隔での効率的・効果的な施工管理・安全管理を実施している。

◆ 背景・経緯

同社は従来から、防犯を目的に大規模な工事現場で定点カメラを設置していた。当初、安全管理や品質管理等を目的とした活用はしていなかったが、社員の長時間労働や高齢化等に伴い建設業界の担い手不足が深刻な課題となるなか、2019年7月に「デジタルコンストラクションプロジェクト」を立ち上げ、カメラ映像による現場の可視化を通じた生産性向上や業務効率化の取り組みを開始した。

特に、工事担当者(工事現場の監督)が複数の小規模な現場を兼務することが多い戸建住宅の分野は、現場監督の負担軽減と生産性向上を両立するために、事務作業や間接業務を省力化し、技術者としての業務に集中できる環境を整えることが課題となっていた。また、共同住宅の場合、請負金額が一定水準を超えると技術者を専任で配置する必要があり、戸建住宅同様に雑務を含めた間接業務の負担軽減が求められていた。そこで、一部の工事現場での実証実験を経て、2022年2月からWEBカメラを活用した遠隔からの業務支援も含めたチームによる施工管理を開始した。

◆ 取り組みの内容とその効果

具体的には、各工事現場に設置したWEBカメラの映像を「スマートコントロールセンター(SCC)」で一元的に把握・管理するとともに、同社専用のクラウドサービス「D-Camera(現場設置カメラ閲覧システム)」を通じて、工事担当者がスマートフォンやパソコン等から映像を常時確認できる仕組みを整備した。WEBカメラには、全方向(360度)の撮影が可能なものを選定しているため、各担当者は、スマートフォンやタブレット端末から遠隔でカメラを操作し、角度を変えて必要な箇所の映像を確認できる。カメラが向いていなかった箇所も含めて、360度分の映像が一定期間(現在は90日間)保管される。

WEBカメラによる現場の可視化を通じて、次のような安全衛生活動を実施している。

1.遠隔での安全確認

D-Camera上で選定した各物件について、作業者の不安全行動や設備・安全対策の不備等がないか遠隔で確認し、必要に応じて現場に是正指示を出している。

WEBカメラで現場の状況が可視化され、常に見られている環境になったため、安全装備の着用が徹底されるなど、現場作業者の安全意識は大きく向上した。また、D-Cameraに保管された画像や映像を活用し、工事現場の「安全衛生協議会」で関係者に具体的な事案として共有し、不安全行動等の未然防止を図っている。

2.統一的な安全指示・安全指導

コロナ禍を契機に、2021年からSCCと施工現場をオンライン会議ツールで繋ぎ、同社や協力企業(施工店)主体による安全朝礼を実施している。朝礼では、ラジオ体操や出欠確認、災害情報の共有、指差呼称、KY(危険予知)活動、作業間連絡調整等を行う。

現場監督が自らの担当場所を全て訪問し、朝礼に参加することは物理的に困難である。複数の現場を繋ぎリモートで朝礼を開催することで、元方事業者からの安全に関する指示や指導を一本化して各現場に伝えることができている。

3.自然災害への対応

地震や台風等の自然災害が発生した場合も、SCCに所属する社員が初動対応を行う。自然災害の発生エリア内で施工中の物件を抽出し、D-Cameraを通じて被災状況を把握するとともに、災害発生後30分以内に関係者に報告する体制を整えている。

現場の状況を遠隔で把握可能となったことで、安全管理の指示を迅速に発信できている。

図表:SCCにおける施工現場の遠隔監視の模様

図表:SCCにおける施工現場の遠隔監視の模様

◆ 今後の展望

同社は、DXの推進により2026年度までに戸建住宅の現場監督の作業効率を30%向上させる目標を掲げている。その中核であるD-Cameraについては、社員でない施工店等の関係者もシステムを利用可能にするとともに、音声会話機能を備え双方向の通信を可能とする施工管理に適した新しいカメラの導入・活用も模索していく予定である。将来的には、Webカメラから得られる映像をAIで分析し、安全管理や工程管理など管理業務の自動化・最適化を目指す。さらに、BIM情報、作業員の入退場情報、建機・部材等の位置情報、工程進捗情報等のデジタル情報を組み合わせ、計画主導型でスマートな施工管理を追求していく。

※ Building Information Modelingの略称。コンピューター上に作成した三次元の形状情報に建築物の属性情報(室等の名称・面積、材料・部材の仕様・性能、仕上げ等)を付加したもの。

2.トヨタ自動車株式会社【輸送用機器】
本社所在地:愛知県豊田市
社員数:70,710人(2022年3月末)
事業概要:自動車の生産・販売等

トヨタ自動車は、事業活動のデジタルトランスフォーメーション(DX)推進と並行して、2021年10月から安全衛生活動についてもデジタル技術の活用を積極的に進めている。安全分野に関しては、管理監督者が本来業務に注力できるようにデジタル化を通じた業務負担の軽減を、衛生分野については健康支援アプリケーションを用いた社員の行動変容に取り組んでいる。

1. 管理監督者の負担軽減と本来業務への注力

◆ 背景・経緯

同社の設備上の問題に起因する大規模な労働災害は着実に減少していたものの、個々の労働者の意識を高めれば防止できた事案については、防止の徹底ができていなかった。背景には、管理監督者(職場の組長)が様々な業務に追われ、現場での指導や声掛けなど、部下に寄り添い、サポートする時間を十分につくれないという実態があった。

そこで、管理監督者の業務の無駄を排除し、部下の指導や改善に注力できる環境を整える観点から、デジタル技術の活用を強力に進めてきた。

◆ 取り組みの内容とその効果

同社は、「トヨタ生産方式」を踏襲し、無駄な業務や付加価値の乏しい業務の排除・省力化を進めるため、2022年4月に管理監督者の各業務を分類し、他の作業員の業務との繋がりを可視化した。設備の点検業務を例に挙げると、従来は作業員が点検後に専用の帳票に結果を記入し、管理監督者がその内容を確認していたが、重要なのは点検を実施した事実であり、管理監督者の確認行為自体の付加価値は小さいという発想にたち、帳票をデジタル化し、タブレットやスマートフォンから作業員が点検結果を入力すれば、管理監督者にリアルタイムで情報共有が行われる仕組みに整えた。

デジタル化を進める対象は、「共通性」と「コンプライアンスへの影響」の2つの軸に基づき選定している。とりわけ法的な対応の要請があり、会社全体に影響を及ぼす事項は、デジタル化の優先度が高くなる。例えば、2022年5月に管理方法に関する法令改正が行われた化学物質については、在庫量や健康診断の実施状況、SDS(安全データシート)の情報、資格・免許の保有状況等を管理する各システムを相互に連携させ、必要な情報を一括して見られるシステムを開発している。従来は管理監督者が各システムを個別に確認して必要な情報を取集し、化学物質の管理に関する帳票を作成・管理していたが、各システムを連動させたことで、管理監督者の作業工数は大幅に減少し、最終的な確認や判断に注力できるようになる。

◆ 今後の課題・展望

今後は、デジタル化とデータ連携の対象範囲を拡大し、作業現場の業務に必要なすべてのデータが「面」で繋がる環境をつくるとともに、この取り組みをグループ企業をはじめ外部への横展開を検討している。

2. 健康支援アプリの活用を通じた「次世代の行動変容」

◆ 背景・経緯

過去の健康診断結果から社員の体重の推移を分析すると、20代や30代で増加傾向がみられた。高血圧や糖尿病、脂質異常症の有病率も体重やBMIの高さに比例し、中高年の生活習慣病の背景には若年時からの体重増加があると考えられた。

そこで、若手社員の健康意識(気づき)を高め、具体的な行動に繋げ、継続する「行動変容」を促すため、2021年10月より健康支援に関する専用アプリケーションの活用を推進している。

◆ 取り組みの内容とその効果

同社は、株式会社WellGoが開発した既存の健康支援アプリに、「ゲーミフィケーション」(ゲームに使われているメカニクスや手法をゲーム以外のビジネスに応用)の要素を付加するかたちで同社の仕様を追加した。具体的には、①歩数や歩行距離、睡眠時間等のランキングを付ける、②社員向けの健康関連イベントに参加エントリーができる、③健康課題や運動目標をクリアすることでストーリーが進む「健康クエスト」、④健康診断結果を表示し、自身の身体の状態を把握するとともに、最適な運動メニュー等の提案が受けられる、⑤アプリの使用により、健康保険組合が発行する「るぷるポイント」が貯まる――などである。社員にとって興味が持ちやすく、楽しみながら取り組みを継続できるように工夫している。

2021年10月に同アプリをリリースしたため、効果検証はこれからとなるが、インストール数は順調に伸びている。また、社内のウォーキングイベントでアプリを活用した結果、参加者の運動の実践率が向上したというデータも得られている。

◆ 今後の課題・展望

今後は、同アプリのインストール数のさらなる増加に加えて、アプリを通じた行動変容が特に求められる社員の活用を促すことが課題である。同社は既に、健康診断で体重やBMIの数値が高い社員に個別にアプローチし、アプリの活用を働きかける取り組みを試行的に実施している。また、現在は安全衛生に関する企画を行う部署がアプリの普及・活用のための施策を検討しているが、将来的には、各事業場の「健康サポートセンター」の取り組みと一体化し、社員の健康づくりを担う基盤ツールとして、PDCAサイクルを回しながら使われていくことを目指している。

3.三井化学株式会社【化学】
本社所在地:東京都港区
社員数(連結):18,780人(2022年3月末)
事業概要:ヘルスケア、モビリティ、フード&パッケージング、基盤素材等

三井化学は、AI(人工知能)を活用して過去の労働災害・トラブル事例やヒヤリハット等の情報を迅速・正確に検索できるシステムを開発し、社員の安全活動レベルの向上を図るなど、安全・安心な作業環境の構築に取り組んでいる。

◆ 背景・経緯

同社は、製造現場における労働災害やヒヤリハット、トラブル報告等の情報を長期にわたり蓄積していたが、膨大な情報を安全衛生活動に十分に活かせていなかった。同時に、過去の事例を知るベテラン労働者も減少していくなか、作業の属人性を解消し、スキル・ノウハウの共有・伝承を進めることが課題となっていた。

そこで、日本アイ・ビー・エム株式会社の言語系AI「IBM Watson」を活用した「危険源、過去事例抽出支援システム(Marsa:Mitsui AI Real-time Safety Assistant)」を開発し、2021年4月から同社の大阪工場で本格的に稼働させている(図表)。

図表:Marsaシステムの概要

図表:Marsaシステムの概要

◆ 取り組みの内容とその効果

Marsaの具体的な活用方法は以下のとおり。

1点目は作業の危険源の抽出である。作業内容を入力すると、労働災害やヒヤリハットのデータベース(DB)からAIが関連情報を危険度の高い順に抽出・提示する。検索結果として個別事例を表示するだけでなく、「被液」「挟まれ・巻き込まれ」「火傷」「激突・衝突」「転倒」等のリスク(事故の型)項目毎に、事例の登録件数や作業とリスクとの相関値を表示する機能も備えている。例えば、検索欄に「ストレーナーの清掃」のように、これから実施する作業を入力すると、当該作業に関する過去のヒヤリハットや労災の登録事例が、件数、相関性とともに危険度順に表示され、この作業においては、「被液」、「火傷」等が件数、相関性ともに高いことを知ることができる。検索した過去の事例を作業前に確認することで、危険予知(KY)活動の実効性を高められる。

2点目はヒヤリハットの解析である。入力した時期に発生したヒヤリハットを分類してその傾向を分析する。ある職場における「1月」のヒヤリハットを解析した結果、火傷の相関値が高く、冬場にトレース配管を蒸気や温水で加熱する作業で該当事例が増えているとわかれば、耐熱手袋の着用徹底等の対策の立案に繋げられる。

3点目は類似トラブルの調査である。トラブル発生時に他の生産現場における類似事例を検索・参照できるため、原因究明や早期解決に役立てている。

4点目は変更管理に伴うリスク要因の抽出である。設備の改造や材質の変更を行う際に類似するトラブル事例を参照し、製造プロセスの変更時における注意点を把握して設計を技術面でサポートしている。

キーワードによるDB検索は従来から存在するが、言語系AIには、①単語同士の繋がりを認識し、自然文から高精度の検索ができる、②事例の重要度や危険度を学習し、検索結果を並び替えて表示できる、③検索しない単語やファイルを設定して不要な情報を削減できる、④辞書機能により登録した複数の同義語を認識できるといった特長がある。

◆ 今後の課題・展望

同社は、Marsaの利用拡大と機能の高度化により、安全対策の一層の高度化を図っていく考えである。他の工場や関係会社にも導入を進めるとともに、労働災害やヒヤリハット等の発生が多い協力会社の社員もMarsaを活用できる仕組みづくりを検討している。

また、機能の高度化に向けて、社員が事業場内のPC端末から入力して事例を検索する方法だけでなく、将来的には、作業現場に持ち込んだタブレットやスマホ端末からもリアルタイムで検索できるようにしたり、文章生成AIも含めた、安全・安定生産への活用可能性についても検討している。

4.大成建設株式会社【建設業】
本社所在地:東京都新宿区
社員数:8,613人(2023年3月末)
事業概要:総合建設業

大成建設は、IoT(Internet of Things)やAI(人工知能)を活用し、人・物・職場環境を可視化するとともに、可視化した様々なデータの分析・活用を通じて、建設現場における効率的・効果的な安全対策の実施に取り組んでいる。

◆ 背景・経緯

建設業界における就業者の減少や高年齢化が進むなか、建設現場における作業の効率化や安全性の向上は大きな課題であり、デジタル技術とデータの活用を駆使した対応が求められている。既存のIoTツールを活用することで、労働者の生体情報や建機、資機材の位置情報等を個別に記録・分析することは可能である。しかしながら、複数のデータを一元的に取得し、相互の関連性を分析することは容易でなかった。

そこで、同社はIoTプラットフォームを提供する企業や、検査・診断技術の研究・開発を行う企業と協働し、作業員に関する様々なデータを統合的に分析するツールや、AIの画像認識技術を用いて現場の安全管理を行うシステムを開発した。

◆ 取り組みの内容とその効果

1.IoTを活用した作業状況の見える化ツール

同社は2018年、作業状況を見える化するツールを開発した。スマートウォッチ等のセンサーデバイスから作業者の生体データ(心拍や体温、姿勢等)や位置データ(所在や作業実績、作業時間等)、作業場所の環境データ(温湿度や雨量、特殊ガス濃度等)をリアルタイムで取得し、クラウド上で集積・分析。熱中症や転倒等の発生可能性や作業環境の異常を検知し、作業者本人や管理監督者にアラートで通知する。この見える化ツールをベースに、土木・建築分野それぞれで発展、展開させてきた。

土木現場向けの統合プラットフォーム「T-iDigital Field」では、様々なデータを可視化することで、災害の発生リスクの詳細な把握・分析と実効性のある対策の実施が可能となった。例えば、車両の速度超過等の違反回数と違反者の属性を可視化したことで、経験の豊富な高年齢の作業者や、作業場に入場してから日数が長い作業者ほど違反回数が多い事実が判明した。これにより、不安全行動を取る作業者に対して作業方法の改善指導や配置転換の実施などができるようになった。また、位置情報から作業場所の移動状況を把握し、作業の進捗状況を確認することも可能となった。

建築現場向けの統合プラットフォームとしては、2021年に見える化ツールと無線多段中継技術(網目状に張り巡らせたWi-Fiネットワーク)を一体化したDX標準基盤「T-BasisX」を構築(図表)した。地下や高層階等でのインターネット利用が困難であった建築現場の通信環境を低コストで整備し、IoTやAIを活用したデータ収集・分析が円滑に行えるシステムをパッケージ利用している。

図表:「T-BasisX」機能イメージ(現場内データを一元管理)

図表:「T-BasisX」機能イメージ(現場内データを一元管理)

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2.AI画像認識技術を活用した安全管理

2021年から2022年にかけて、株式会社IIUとの協働でAIを活用した作業員の見守りに関する複数のシステムを開発した。具体的には、①作業現場の入場口に設置したカメラの画像データからAIがヘルメットや防塵マスク等の装着状況を認識し、入場の可否を自動的に判断する「T-iSafety Protection」、②建設機械の操縦席に設置したカメラの画像データからAIが操縦状況を認識し、オペレータの不安全行動を自動検知して警報を発信する「T-iSafety Operator」、③工事現場に設置したカメラの画像データからAIが搬出入車両と作業員との位置を分析し、近接時による警告を発して接触防止を図る「T-iSafety Truck」――などのシステムを運用している。

AIの画像解析技術を活用することで、現場の監視員や誘導員の負担軽減のほか、正確・迅速な安全確認や災害の未然防止を実現している。

◆ 今後の課題・展望

同社は、土木・建築現場向けの統合プラットフォームの活用により建設現場のDXを推進するとともに、これまで開発したパッケージソフトウェアを他分野に応用することも検討している。例えば、医療現場への応用例として、入院患者にウェアラブル端末を装着して生体データや位置データを収集できれば、ベッドでの心拍異常や転倒発生の自動検知や、離院トラブルの未然防止に繋げることができる。2019年から2020年にかけて病院を対象に実施した実証実験では、医療従事者と患者の双方が可視化の効果を実感する結果が得られた。

同社は今後も、建物の設計・施工と併せ、IoTをはじめとするデジタル技術を駆使して顧客の課題解決を支援していく考えである。

5.株式会社USEN-NEXT HOLDINGS【情報・通信業】
本社所在地:東京都品川区
社員数(連結):4,846人(2022年8月末)
事業概要:グループ会社の経営管理等

USEN-NEXT HOLDINGSは、Withコロナ・Afterコロナにおける新しい生活様式・働き方に対応する観点から、デジタル技術を最大限活用し、グループの全社員を対象とした産業保健活動に取り組んでいる。

◆ 背景・経緯

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大に伴い、生活様式や働き方の多様化が進む中で、社員のメンタルヘルス不調や体調不良が目立つようになった。このため、社員一人ひとりが健康で持続的に活躍できるよう、旧態依然とした福利厚生を刷新し、新しい生活様式や働き方に即した健康サポート・持続的活躍支援プログラム「Well.U(Sustainable Well-being Program)」を2021年5月から開始した(図表)。そして、Well.Uを支えるのが、株式会社Mediplatが提供するクラウド型健康管理サービス「first call」である。元々は健康保険組合が2018年4月から独自に契約をはじめたサービスであるが、グループ全体の福利厚生や健康支援の課題を解決するため、2021年9月に同社主体の契約に切り替え、産業保健活動の柱として最大限に活用している。

図表:Well.Uの概要

図表:Well.Uの概要

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◆ 取り組みの内容とその効果

first callが提供する主なサービスは、①チャットやテレビ電話を用いた医療相談、②長時間労働者や高ストレス者を対象とした産業医のオンライン面接、③健康診断結果のデータベースでの一元的・経年的な管理、④オンラインでのストレスチェックの実施・集団分析――である。

これまでは、本社やその周辺の事業場に勤務する社員と、地方の事業場に勤務する社員との間で利用できる産業保健サービスに差異が生じていた。例えば、健康面の不調を感じた地方の事業場に勤務する社員は、人事部門に連絡し、必要に応じ産業医の面接を受ける体制であったため、自身が医療従事者へ個別に相談できなかった。first callの利用を開始したことで、全国約150の事業場に勤務するすべての社員や、リモートワークをする社員が均一のサービスを享受できる体制となった。利用した社員からは、チャットで気軽に医療相談ができる点や、面接の予約から実施までオンラインで行える使い勝手の良さを評価する声が寄せられている。また、サービスはオンラインでの提供が基本だが、社員の希望や状況に応じて、産業医による対面での面接指導を受けることもできる。

first callはグループ全体のオペレーションの効率化にも寄与している。従来は、各事業場や企業が個別に産業医と契約していたため、契約毎に期間や金額が異なっていた。また、産業医の面接結果の報告は、書面と電子メールが混在し、就業判定の結果についても個別に管理せざるを得ない状態であった。2017年12月にグループを統合し、25の事業会社の人事機能を集約していく過程において、first callを介し産業医との契約を同社に一本化するとともに、法令上の選任が必要な50人以上規模の事業場に担当の産業医を適切に割り当て、各産業医の就業判定の結果をfirst callで一元的に管理できるようになった。

◆ 今後の課題・展望

今後は、Well.Uのコンセプトである「よく知る・よくする・よく生きる」を実現するため、デジタル化された様々なデータを1つのプラットフォームに格納し、分析・活用を推進する。具体的には、フィジカル・メンタルエンゲージメントとそれに紐づく生産性を可視化するとともに、フレックスタイム制やリモートワークで働く社員のメンタル不調を事前に把握するためのコンディションチェックを実施していく。可視化されたデジタルデータを健康診断結果や勤怠実績と組み合わせて集計・分析し、社員が心身の不調に陥る前に予防や手当の対策を講じることや、配置転換を含めた社員のキャリア形成に活用することを考えている。first callを中核としたデータドリブンの取り組みを通じて、社員のサステナブルな活躍と組織のサステナブルな成長の実現を同社は目指している。


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