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Policy(提言・報告書) 環境、エネルギー EUにおけるPFAS規制案へのコメント

2023年6月21
一般社団法人 日本経済団体連合会
環境委員会 環境リスク対策部会
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経団連は、日本の代表的な企業・業種別団体約1,500社・団体から構成される総合経済団体である。メンバーは化学、繊維、電機電子、自動車、鉄鋼、製紙、セメント、機械、造船をはじめとする製造業全般、電力、石油、鉱業、ガス、建築を含むサービス業等、多岐にわたる。グローバル化のもと、企業のサプライチェーンはEUを含む広範に及んでいる。

本年3月に欧州化学物質庁(ECHA)より公表されたPFAS規制案(以下、規制案)に対するパブリックコンサルテーション#1に際し、経団連において環境リスク政策を所掌する環境リスク対策部会を代表し、以下の通り、意見を提出する。

(1)人の健康又は環境への影響に関する評価の適切性

規制案#2では、「PFASs」を一括して、製造、上市又は使用を禁止する方向性が示されている。当該「PFASs」の定義は、OECD「Reconciling Terminology of the Universe of Per- and Polyfluoroalkyl Substances: Recommendations and Practical Guidance」(2021年)#3を踏まえたものであるが、これは化学構造に基づく分類であり#4、有害性等に基づくものではない。

規制案の「1. Problem identification 」等でも言及されている通り、ほとんどの「PFASs」については人の健康と環境への影響を適切に評価するためのデータが不足している。規制案では、難分解性と高い残留性という特性をもって、「危険な性質(hazardous properties)」と評価している#5が、人の健康又は環境に悪影響をもたらすことは実証されていない。

規制にあたっては、「PFASs」を一括して製造、上市又は使用を一律に禁止するのではなく、個別の物質ごとに、人の健康又は環境への影響について、科学的知見を根拠にリスクを評価したうえで、必要な規制を検討すべきである。REACH規則第68条第1項においても、物質の製造、上市又は使用から生じる人の健康又は環境への許容できないリスクがある場合に、制限導入又は改正を行う旨が規定されている。

特に、フルオロポリマーなど、分子量が大きく水にほとんど解けないため人体に吸収されない物質や、フッ素ガスのうち、有害性を確認できない物質は、規制の対象とすべきでない。

(2)経済・社会への影響に対する適切な考慮の必要性

「PFASs」は耐熱性や化学的安定性等、他の物質にはない様々な性質を有していることから、エネルギー(燃料電池、リチウムイオン電池等)、半導体製造や自動車部品、各種機械器具、通信、医療、建築、生活用品等の幅広い用途で不可欠な素材として利用されてきた。仮に、「PFASs」の製造、上市又は使用を一律に禁止した場合、経済・社会に重大な影響が生じかねない。代替物質が利用困難ななかで市場から排除すれば、日常生活への広範な悪影響に加え、グリーン化(green transition)といった政策目的達成の妨げともなるだけでなく、エネルギー安全保障、経済安全保障の確保にも影響が懸念される。

また、グローバルにサプライチェーンが広がる中、このような規制により、「PFASs」が使用されている製品の国際貿易を大きく混乱させる恐れがある。政策目的の実現のために国際貿易に必要以上の障害をもたらすことは、貿易の技術的障害に関する協定(TBT協定)第2.2条#6とも整合性を欠く。同協定を含むEUの国際的義務との整合性の観点を含め、サプライチェーン、国際貿易への影響と政策目的の達成のための必要性とのバランスを十分精査せずに、当該規制を導入すべきでない。

加えて、規制の例外や猶予期間の在り方も適切とはいえない。規制案では、代替物質が開発段階か十分に入手できない物質については5年、代替物質がいまだ特定されていない場合は12年の猶予期間が認められているほか、無期限の猶予期間(time-unlimited derogations)も設定されているが、対象は一部に限定されている。しかしながら、代替物質については、開発段階にあっても社会実装の実現可能性自体に不確実性が存在するうえ、想定以上の期間を要する場合もある。また、代替物質の特定や開発のために追加的な負担が企業に発生する。これらの不確実性や追加的な負担に鑑みても、数千種類を超える「PFASs」を一括して対象とする規制方法を採用すべきでない。

(3)結論

上述の理由の通り、規制の対象は、経済・社会への影響を考慮しつつ、科学的根拠に基づくリスク評価によって、人の健康又は環境への影響が認められるものに限定すべきである。

また、規制の対象とする物質については、パブリックコンサルテーションにおける意見を含め、幅広い知見を踏まえたうえで、代替物質の有無を慎重に見極めつつ、選定すべきである。併せて、制度導入後に経済・社会への影響が明らかになった場合や、猶予期間の間に代替物質の開発と社会実装が十分見込めない場合、規制対象からの除外や猶予期間の延長が可能となるよう、必要な措置を講じるべきである。

加えて、グローバルなサプライチェーンの混乱や、国際貿易への悪影響を及ぼすことのないよう、TBT協定はじめ国際ルールとの整合性の確保を前提とし、WTO(TBT委員会等)の手続きを通じた議論を尽くす必要がある。同時に、日本をはじめ関心を有する国の政府、民間と十分に対話しその意見を規制に反映すべきである。

以上

  1. https://echa.europa.eu/de/restrictions-under-consideration/-/substance-rev/72301/term
  2. https://echa.europa.eu/documents/10162/f605d4b5-7c17-7414-8823-b49b9fd43aea
  3. https://www.oecd.org/chemicalsafety/portal-perfluorinated-chemicals/terminology-per-and-polyfluoroalkyl-substances.pdf
  4. 19頁、OECD「Reconciling Terminology of the Universe of Per- and Polyfluoroalkyl Substances: Recommendations and Practical Guidance」
  5. 20-21頁、規制案
  6. 加盟国は、国際貿易に対する不必要な障害をもたらすことを目的として又はこれらをもたらす結果となるように強制規格が立案され、制定され又は適用されないことを確保する。このため、強制規格は、正当な目的が達成できないことによって生ずる危険性を考慮した上で、正当な目的の達成のために必要である以上に貿易制限的であってはならない。(中略)当該危険性を評価するに当たり、考慮される関連事項には、特に、入手することができる科学上及び技術上の情報、関係する生産工程関連技術又は産品の意図された最終用途を含む。

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