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Policy(提言・報告書) 産業政策、行革、運輸流通、農業 2023年度規制改革要望 ―日本経済にダイナミズムを取り戻す―

2023年9月12
一般社団法人 日本経済団体連合会

Ⅰ. 基本的考え方:日本経済にダイナミズムを取り戻す

ポストコロナという新しい時代が幕を開けた。
コロナ禍を契機に、デジタル化は人々の行動変容を伴いながら、急速な進展を遂げている。また、気候変動問題等、深刻さを増す地球規模の課題の解決に向けた取り組みによって、わが国産業を取り巻く環境は大きく変化している。
とりわけグリーントランスフォーメーション(GX)とデジタルトランスフォーメーション(DX)は、企業の事業活動を抜本的に変えるゲームチャンジャ―となりつつある。このゲームチェンジに企業が適切に対応していくためには、民間の努力はもちろんのこと、政府としても前例のない政策手段を通じて企業の後押しをしていくことが不可欠である。例えば、規制・制度の中には、技術進歩や経済社会の変化に迅速に対応できず、GXやDXを阻んでいるものがいまだに存在する。企業が創意工夫を通じてGXとDXを推進していくためには、時代にそぐわない規制・制度をスピード感をもって不断に見直していくことが欠かせない。

そこで経団連は、会員企業・団体からの提案を踏まえ、今年度の規制改革要望を4つの柱に沿って取りまとめた。

第1の柱は、「GX・サーキュラーエコノミー(CE)」である。
2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、再生可能エネルギー・低炭素技術の普及促進とともに、水素やバイオメタンの利用拡大に資する規制・制度改革が欠かせない。同時に、サステイナブルな経済社会の実現に向けて、CEにかかる取り組みも一体的に推進していく必要がある。

第2の柱は、「DX」である。
Society 5.0が目指すものは、デジタル技術の活用による社会課題の解決である。現在、政府のデジタル臨時行政調査会は、デジタル改革に向けた集中期間として取り組んでいる#1ものの、デジタル技術は日進月歩で進化を遂げているため、不断の改革が欠かせない。人手不足が深刻化している産業の課題解決へのデジタル技術の活用や、デジタル完結が進んでいない手続の改善に向けた規制を変革し、DXを推進していくことが求められる。

第3の柱は、「人の活躍」である。
経済社会の支え手は「人」である。働き手一人ひとりの個性や強みを最大限発揮できるよう、働き手の自律性を重視した柔軟な働き方の一層の推進をはじめ、多様な人材の活躍に資する制度改革を断行し、イノベーションにつなげていく必要がある。

第4の柱は、「成長産業の振興」である。
日本が産業の国際競争力を強化し、新たな価値の創造により、力強い経済成長を遂げるためには、今後の日本経済を牽引する産業の育成が急務であり、「ヘルスケア・バイオ」や「モビリティ」の分野などが期待されている。こうした分野において、企業が創意工夫を生かせる環境を整備するために、規制・制度のあり方を見直すべきである。

上述の4つの柱は、いずれも産業競争力の強化や成長分野への投資拡大に資する取り組みであり、日本経済にダイナミズムを取り戻すための有効な方策である。そして、経済界としては、これによって得られた成長の果実を適正に分配することを通じて、「成長と分配の好循環」を実現し、サステイナブルな資本主義を実践していく所存である。

政府は毎年、規制改革推進会議の答申も踏まえ、規制改革実施計画を閣議決定している。同計画において、「検討を進める」とされている事項については、期限を明確に区切った上で結論を出し、規制改革の実現に結びつけていくことが重要である。
引き続き、規制改革推進会議はじめ政府関係機関においては、規制改革に全力で取り組むよう求めるとともに、さらなる改革の推進に向けた政治の強いリーダーシップを期待する。

Ⅱ. 2022年度規制改革要望【更新・再提出】

No. 1. 出勤日数の実態を反映しやすい標準報酬制度の見直し
<要望内容・要望理由>

標準報酬制度において、出勤日数が変わることに伴う通勤費の変動は、固定的賃金の変動とみなされず、随時改定の対象外とされている。遠方に住む社員にとっては、月毎の出勤日数の変動が大きい場合、標準報酬月額が出勤実態と乖離してしまう問題がある。

  1. ① 出勤日数の実態を反映しやすい制度の見直し
    2022年度の規制改革・行政改革ホットライン回答(出勤日数の変動に伴う通勤費を考慮した標準報酬月額の随時改定の対象拡大)において、労働契約上の労務提供地を自宅に変更すれば、出社にかかる実費は標準報酬月額の算定基礎に含まれないため、現行制度のままで問題が発生しない旨、厚生労働省より回答があった。
    しかし、労働契約上の労務提供地を自宅に限定すると、業務命令無しに自由に出社できず、出社と在宅勤務を組み合わせた働き方の多様化を抑制する恐れがある。そのため、労務提供地を自宅及び事業所とすることにも合理性があり、こうした場合にも対応できる制度見直しは必要である。
    そこで、出勤日数が変わることに伴い変動する通勤費については、固定的賃金の変動として解釈し、随時改定の対象に含めるべきである。
    これにより、出勤実態に沿った標準報酬月額の算定が可能となる。住む場所を問わない働き方の促進にも繋がり、多様な人材が活躍する可能性が広がる。

  2. ② 月毎の報酬の状況を反映した算出の仕組みの検討
    デジタル化が進展する中、紙ベースの事務を前提とした今の算定方式は、保険事務の効率化や簡素化を阻害しつつある。
    そこで、次のステップとして、4~6月の報酬を基にした標準報酬月額の算定方式そのものを見直し、月毎の報酬額に応じて社会保険料を毎月算出する仕組みの検討にも着手する必要がある。
    これにより、月毎の報酬の状況を的確に反映した、被用者・企業の両者にとって納得感のある社会保険料の支払いが可能となる。

<根拠法令等>
  • 健康保険法第43条
  • 厚生年金保険法第23条
  • 昭和36年1月26日保発第4号厚生省保険局長通知
  • 「標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集」の一部改正について(令和3年4月1日付厚生労働省保険局保険課通知)
No. 2. 地方公共団体の会計事務における民間委託の円滑化
<要望内容・要望理由>

地方公共団体における事務負担の軽減は喫緊の課題である。なかでも支出事務は、毎年、中核市規模で約10万件、政令指定都市規模で約50万件発生していると推測され、関連する執行課・会計課において多数の起票事務や審査事務業務等が生じている。支出に際しては、地方公共団体の会計管理者による「支出負担行為」の確認が必須となっており、専任職員が30名に上る政令指定都市も存在する。これらを効率化できれば、地方公共団体の事務処理の迅速化と負担軽減に大きく貢献する。

「支出負担行為」の補助的な業務については、現行制度下でも民間委託が可能となっており、スタートアップも参入している。しかし、この補助的な業務の定義が不明瞭であるために、民間委託できる範囲を地方公共団体が最小限に止める傾向にある。実例によれば、執行課から送付された支出内容について生じる一連のプロセス(①事前仕分、②審査(一次~平均3回程度)、③審査結果の取りまとめ、④結果確認・承認)のうち、①のみしか受託できていない。

そこで、委託先の適切な選定が行われること、監査委員の毎月例日の検査(地方自治法第235条の2)等によって適切に支出負担行為の管理が行われることを前提に、②審査、③審査結果の取りまとめも含めた民間委託が可能である旨を、技術的助言等によって明確にすべきである。

これにより、地方公共団体サービスを維持したまま組織のスリム化と業務効率性向上が図られる。総務省は、2022年度規制改革・行政改革ホットライン回答において「各地方公共団体の実務に即して判断されるべきもの」として対応しない方針を示している。しかし、全国の自治体における請求書の審査件数は年間計7,300万件超と推測され、仮に職員人件費の時給を2,518円、請求書1枚あたりの処理時間を4.5分と置くと、年間の業務コストは82億円に上る(人件費は総務省「令和3年4月1日地方公務員給与実態調査」、請求書枚数・処理時間は実例を基に試算。いずれも一部事例を基にした試算値であり、全国調査等は行っていないことに注意)。こうした状況も踏まえ、地方公共団体における事務負担の軽減に向けて、改めて対応を求める。

なお、様々な地方行政のデジタル化促進によって「支出負担行為」の負担軽減も進むことが期待されるが、案件数を踏まえれば、アウトソーシングの活用は引き続き有効である。

<根拠法令等>
  • 地方自治法第170条第2項第6号、第232条の4第2項
No. 3. 役職員の株式保有に関する規律の見直し
<要望内容・要望理由>

近年、スタートアップを含む各企業において、株式報酬や持株会等、役職員に株式を保有させることによりその勤労意欲を向上させ、社内人材の活躍につなげる取り組みが進められている。しかし、金融商品取引法等の一部の規定がそのような取り組みの拡大を妨げているため、以下の通りに見直すべきである。なお、いずれの要望についても、2022年度に「検討を予定」との回答を得ており、政府において検討を加速することを期待する。

  1. ① 株式報酬の交付に係るインサイダー取引規制の適用除外
    上場会社等が株式報酬として1億円以上の株式の交付を行う場合、当該交付がインサイダー取引規制上の重要事実に該当する。そのため、当該重要事実の公表前においては、自己株式取得や自己株式の処分等のコーポレートアクションに支障が生じうる。
    そこで、株式報酬としての1億円以上の株式の発行であっても、例えば時価総額に比して発行価額が僅少である場合や、事業報告で開示された取締役の報酬の決定方針に定められた範囲内で行われる場合等、投資者の投資判断に及ぼす影響が軽微である場合には、インサイダー取引規制上の重要事実に該当しないこととすべきである。

  2. ② 自己株式の処分による株式報酬におけるインサイダー取引規制の適用除外
    自己株式の処分はインサイダー取引規制における「売買等」に該当するため、上場会社等が役員・従業員に報酬として株式を交付する場合や、株式交付信託の受託者に株式を交付する場合において、当該会社の役員等が公表前の重要事実を知っているときは、株式報酬としての自己株式の処分がインサイダー取引に該当してしまうこととなり、株式の交付が困難となる。
    しかしながら、インサイダー取引規制の趣旨は、証券市場の公正性と健全性に対する投資者の信頼を保護する点にあるところ、株式報酬の支給のために自己株式の処分を行う場合には、会社法に基づく決議を適正に経て行う限り(役員報酬制度は、取締役会の決定に基づき事業報告で開示された報酬の決定方針に定められた範囲内で行われる)、投資者の信頼を害する危険性は小さい。また、株式の割当てに際しては会社法の手続の他、金融商品取引法上の開示や取引所への適時開示が行われていることからも同様に危険性は小さいものと考えられる。
    さらに、2017年7月に施行された、株式報酬制度の株式報酬等の柔軟な活用を可能とするための開示府令・取引規制府令の改正にて、インセンティブ報酬を阻害しないようにするという観点から、インサイダー取引の未然防止のための法規制である役員等の売買報告書の提出制度等の対象から、役務の提供の対価として生ずる債権の給付と引換えに株式の交付を受ける場合について、ストック・オプションと同様に除外されたこととも整合的と考える。
    そこで、株式報酬として株式を交付する際に行われる自己株式の処分については、インサイダー取引規制上の「売買等」から除外すべきである。

  3. ③ 持株会による買付けの上限額の引上げ
    持株会による株式の買付けがインサイダー取引規制の適用を受けないようにするためには、各役員・従業員の1回当たりの拠出金額が100万円未満でなければならない。しかし、当該規定の制定時に比べ、株式投資による資産形成の重要性が高まっていることから、持株会を通じて、インサイダー規制の対象とならない自社株式の取得を、1回100万円以上行いたいというニーズが高まっている。
    そこで、持株会による株式の買付けがインサイダー取引規制の適用を受けない拠出金額の上限を、現状の1回当たり100万円未満から引き上げるべきである。

  4. ④ 拡大従業員持株会の会員範囲の拡大
    現行法上、上場会社又はその被支配会社の従業員が当該上場会社の株式の取得を目的とする通常の従業員持株会だけでなく、非上場会社の従業員が、当該非上場会社と密接な関係を有する上場会社の株式の取得を目的とする持株会(拡大従業員持株会)も認められている。しかし、通常の従業員持株会と異なり、拡大従業員持株会の会員の範囲は実施会社(非上場会社)の従業員に限られており、その被支配会社の従業員は会員となることができない。そのため、例えば実施会社が分社型会社分割を行う場合や他の実施会社が実施会社の子会社となる場合等には、一部の従業員が持株会の会員資格を喪失してしまうこととなり、これが拡大従業員持株会の利用拡大の妨げとなっている。
    そこで、拡大従業員持株会の会員の範囲に、実施会社の被支配会社の従業員も含めることができるようにすべきである。

  5. ⑤ 持株会による株式の売付けに関する売買報告書提出の免除
    上場会社等の主要株主が当該上場会社等の株式の売買を行った場合、原則として売買報告書を国に提出する必要がある。例外として、持株会による買付けに関しては報告書の提出を免除される一方で、売付けについては提出を免除されないため、持株会の管理者に負担が生じている。しかし、従業員等が持株会を退会する際に持株会名義で売買単位未満の株式の売却をするにあたり、その合計が売買単位に達した場合であっても、その単位数は通常僅少であるため、報告書を提出する意義は乏しい。
    そこで、持株会を通じた株式の売却について、少なくともその単位数が僅少である場合には、主要株主等売買報告書の提出を免除すべきである。

これらの要望が実現することで、企業における株式報酬や持株会の利用が広がり、人の活躍促進に資する。

<根拠法令等>
  • ①・②:金融商品取引法第166条
  • ③:金融商品取引法第166条第6項第12号・取引規制府令第59条第1項第4~8号
  • ④:金融商品取引法第166条第6項第12号・取引規制府令第59条第1項第6号
  • ⑤:金融商品取引法第163条第1項・取引規制府令第30条第1項第2~6号
No. 4. 株式報酬の活用促進に向けた有価証券届出書の開示規制の緩和
<要望内容・要望理由>

新株発行や自己株式処分(以下、新株発行等)における有価証券届出書の開示規制は、有価証券の発行者が、事業内容、財務内容、有価証券の発行条件等を投資家に開示する、重要な制度である。一方で、有価証券届出書の開示規制は、株式報酬制度導入の阻害要因となっている。投資家保護の法目的を損ねない範囲で、以下の通り、株式報酬の活用促進に向けた有価証券届出書の開示規制を緩和すべきである。なお、いずれの要望についても、2022年度に「検討を予定」との回答を得ており、政府において検討を加速することを期待する。

  1. ① 譲渡制限付株式報酬の募集に係る通算規定の適用除外
    譲渡制限付株式報酬を発行した場合、「提出不要の特例」を満たさない場合で、発行額が1億円以上の場合には、有価証券届出書の提出が必要になる。ここで、株式報酬の額が1億円未満の場合でも、割当決議から遡って1年以内に払込期日が到来した募集・売出しがあった場合で、当該募集・売出し行為に関して有価証券届出書を提出していないものがある場合には、その金額も通算して1億円以上となれば、有価証券届出書の提出が求められる(通算規定)。
    こうしたことから、例えば、5,000万円~1億円未満の株式報酬を付与する会社には、「通算規定」が適用され、年度により提出書類が異なることになる(例えば、1年目は有価証券通知書、2年目は有価証券届出書を提出)。
    単年度において1億円未満の金額の譲渡制限付株式を発行するという実態が変わらないにも関わらず、年度毎に提出書類が異なるのは、手続が煩雑であり、実務上の負荷が大きい。
    そこで、ストック・オプションの発行と同様に、譲渡制限付株式の発行においても、「通算規定」の適用を除外すべきである。
    これにより、譲渡制限付株式報酬制度の安定的な運用が可能となり、その導入促進に寄与する。

  2. ② RSUを活用する場合等の有価証券届出書の提出免除
    RSU(譲渡制限株式ユニット)は、一定の在籍期間後に株式を交付される権利であり、権利確定時に株式が対象者に交付(移転)されるもので、米国のIT企業等で導入が進んでいる。RSUは、ストック・オプションのように株価と権利行使価額との差額ではなく、株価の全額を付与対象者が享受できるため、企業価値向上に向けたインセンティブ効果、社員のリテンション効果が高い。また、RS(譲渡制限付株式)と比べると、権利確定前に対象者に対して株式を交付(移転)する必要が無く、権利が確定しなかった退職者等から株式を取り戻す必要がないといった利点もあり、日本においても導入のニーズが高まっている。
    そこで、以下の通り、RSUの導入円滑化に向け、新株発行・自己株式処分時等における、有価証券届出書の開示規制を緩和すべきである。

    【RSUの類型1:権利確定に合わせて新株発行等を行う場合】
    RSUにおいては発行する株式が譲渡制限付株式ではないことが一般的であり、その場合、発行価額が1億円以上となる場合には有価証券届出書の提出が求められる。取締役等が一定期間経過後に株式を取得できる仕組みであるストック・オプションの発行において有価証券届出書の提出を免除する規定の趣旨を踏まえ、RSUについても、同様の規定を創設すべきである。

    【RSUの類型2:信託銀行が企業から株式を取得する場合】
    企業から金銭を信託された信託銀行が契約に基づいて当該企業の新株発行等を引き受けて株式の取得を行い、その後、権利確定時に在籍している取締役等の対象者に株式を交付する場合、その新株発行等の相手方が取締役等ではなく信託銀行となるため、発行価額が1億円以上となる場合には、有価証券届出書の提出が求められる。信託を活用したRSUの仕組みであるものの、信託は導管に過ぎず、取締役等が一定期間経過後に株式を取得できる仕組みであることは変わらないことから、この場合も、ストック・オプションと同様に、有価証券届出書の提出を免除する規定を設けるべきである。
    また、RSUのみならず、信託を活用した株式報酬スキームにより新株発行等を行う場合に、インセンティブ報酬の効果があれば、幅広く有価証券届出書の提出を免除する規定を設けることを検討すべきである。

これらの要望が実現することで、企業における株式報酬の利用が広がり、人の活躍促進に資するとともに、国内外の優秀な人材の採用競争力強化につながる。

<根拠法令等>
  • ①:企業内容等の開示に関する内閣府令第2条第5項第2号
  • ②:金融商品取引法第4条第1項、金融商品取引法施行令第2条の12

Ⅲ. 2023年度規制改革要望【新規】

1. グリーントランスフォーメーション(GX)・サーキュラーエコノミー(CE)

No. 5. 圧縮水素スタンドによって充填可能な容器の対象拡大
<要望内容・要望理由>

現在、各所で「定置式水素ステーション」が設置され、FCV(燃料電池自動車)、FC(燃料電池)バスへの水素供給体制は拡充されつつある。定置式水素ステーションは、一般高圧ガス保安規則第2条第1項第25号で「圧縮水素スタンド」として位置づけられており、「圧縮水素を燃料として使用する車両に固定した燃料装置用容器を充填するための処理設備を有する定置式製造設備」と定義されている。この規定により、定置式水素ステーションにおいて水素を充填できる対象は、FCV、FCバスなど、車両に固定された容器に限定される結果となっており、水素の運搬に用いる充填容器には充填できない。現状では、水素運搬用の充填容器に充填する場合は、同規則第6条が定める技術基準を満たす定置式製造設備において行わなければならない。

供給地から遠く離れた需要地に水素を運搬するには、運搬用の充填容器に充填する必要があるが、前述の基準を満たす定置式製造設備の数は限られており、効率的な水素運搬を可能とするサプライチェーンの構築が困難となっている。

そこで、水素漏洩時の充填停止のための遮断弁の設置や充填容器の温度制御の仕組み等の安全対策を講じることを前提に、車両に固定されていない容器への充填が可能となるよう、一般高圧ガス保安規則第2条第1項第25号の「圧縮水素スタンド」の定義を、「圧縮水素を燃料として使用する車両に固定した燃料装置用容器及び運搬して使用する容器に当該圧縮水素を充填するための処理設備を有する定置式製造設備」に変更すべきである。

これにより、水素の供給体制を大幅に拡充可能となるとともに、「圧縮水素スタンド」の更なる有効活用に繋がる。

<根拠法令等>
  • 一般高圧ガス保安規則第2条第1項第25号、第6条第1項
No. 6. 水素・バイオメタン製造装置に対する規制緩和
<要望内容・要望理由>

日本では、高圧ガス保安法に基づき、圧力1MPa以上を「高圧ガス」と定義しており、水素ガスやバイオメタンの圧力が1MPa以上の場合、同法の適用対象となる。高圧ガスに該当する水素ガスやバイオメタンについては、同法第8条第1項第1号及び第2号において定める通り、製造の方法などに関し、一般高圧ガス保安規則第6条第1項で定める技術上の基準に適合する必要があり、製造装置についても、この基準への適合性について、技術審査を受けなければならない。

高圧ガス保安法の技術要求への適合審査には追加の手間とコストがかかるため、製造装置の開発者は、高圧ガス保安法の適用対象外となるよう、設計上、製造時の圧力や、生成されたガスの圧力が1MPa未満となる製造装置の開発を行う傾向がある。しかしながら、製造時のガスの圧力が高圧であるほど、生成される水素やバイオメタンの体積を小さくできることから、製造装置の小型化ができ、設置スペースも少なくすることができるにもかかわらず、こうした製造装置が十分開発されない現状にある。

そこで、必要な安全対策が講じられることを前提に、高圧ガス保安法第2条における高圧ガスの定義を、「1MPa以上となる圧縮ガス」から例えば「3MPaを超える圧縮ガス」に変更すべきである。

これにより、水素やバイオメタンを効率的に製造可能な装置が普及し、日本で製造されたエネルギーの低コスト化と、水素やバイオメタンの製造装置の国際競争力の向上が期待できる。

<根拠法令等>
  • 高圧ガス保安法第2条、第8条第1項第1号、第2号
  • 一般高圧ガス保安規則第6条第1項
No. 7. 電力の環境価値訴求における国際的な証書の活用
<要望内容・要望理由>

小売電気事業者が小売供給契約締結を行うにあたり、電気事業法では、小売供給に係る料金やその他の供給条件について、需要家への説明義務が規定されている。小売電気事業者が、販売する電気につき再生可能エネルギーであることやCO2排出量が少ないことといった環境価値を主張するには、その主張に対応した非化石証書を取得し使用する必要がある。電気事業法施行規則第3条の12第2項がその根拠であり、販売する電気が「非化石証書」によって環境価値を認められる場合を除いて、当該価値を訴求することなく、供給条件の説明をしなければならない旨、規定されている。

この「非化石証書」は、高度化法施行規則第4条第1項第2号に定義されるものであり、同法は、国内における非化石エネルギー源の利用の拡大等を促進することを趣旨として制定された背景などから、同施行規則に定める「非化石証書」も国内制度に基づく証書に限定していると考えられている。そのため、I-REC(International Renewable Energy Certificate:海外再エネ電力証書)など、国際的に利用される再エネ証書は、小売電気事業者が需要家に対して環境価値を説明する際、非化石価値を証明するものとして利用することができない。

そこで、電気事業法施行規則第3条の12第2項のもとで、発電に伴って二酸化炭素が排出されない電気であるという価値を証明する証書として、非化石証書のほか、これに準ずるものという項目を追加し、環境価値を証明するものとして適切な他の証書の指定を可能とすべきである。

これにより、小売電気事業者が供給する電気の環境価値を説明する際の利便性が向上するとともに、電気の需要家が国際的に利用される証書で証明される環境価値を取得する機会の拡大に寄与すると期待される。

<根拠法令等>
  • 電気事業法第2条の13第1項
  • 電気事業法施行規則第3条の12第2項
  • エネルギー供給事業者によるエネルギー源の環境適合利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する法律(高度化法)施行規則第4条第1項第2号
  • エネルギー源の環境適合利用に関する電気事業者の判断の基準(令和5年経済産業省告示第29号)第1条第3項
No. 8. 温対法SHK制度における証書の利用拡大
<要望内容・要望理由>

地球温暖化対策の推進に関する法律(温対法)に基づき、温室効果ガスの算定・報告・公表を求めるわが国のSHK制度のもとでは、調整後温室効果ガス排出量の算定時、「非化石電源二酸化炭素削減相当量」及び「無効化された国内認証排出削減量」について、排出量から減算することができる。しかし、現行のSHK制度において、排出量から減算できる証書等は、非化石証書・グリーン電力証書・グリーン熱証書に限られている。I-REC(International Renewable Energy Certificate:海外再エネ電力証書)などの他の証書による減算は認められず、SHK制度のもとで排出量からの減算を行いたい場合には、現行制度で規定される証書を取得する必要がある。そのため、国際的なイニシアティブにおいて評価される他の証書を取得することを選択する企業は、非化石証書等と重複のない環境価値を取得している場合であっても、SHK制度のもとでは排出量の削減が評価されない。

そこで、温対法SHK制度において、排出量からの減算に活用できる証書等に、I-RECなど、国際的に利用される証書を加えるべきである。追加にあたっては、環境価値の化体が認められ、国内の非化石証書の環境価値と重複がないこと、その他、SHK制度への適用にあたって支障がなく、適切な証書の制度設計・運用がなされていること等についての政府による確認を経て、適切な証書を選定すべきである。

これにより、国際的に利用される証書が、わが国のSHK制度のもとでも排出量の減算に活用できるようになり、国内企業の利便性の向上に資する。同時に、国際的に利用される証書を取得する企業にとり、SHK制度で報告する排出量の削減と、国際的な評価の向上を両立させることができる。

<根拠法令等>
  • 地球温暖化対策の推進に関する法律第26条
  • 温室効果ガス算定排出量等の報告等に関する命令第4条の2第1項
  • 温室効果ガス排出量算定・報告マニュアル(Ver4.9)(令和5年4月)第Ⅱ編4④
No. 9. 太陽光発電事業におけるFIT・FIP認定取得後の変更手続に係る事後変更届出の対象範囲拡大
<要望内容・要望理由>

太陽光発電事業において、FIT・FIPの認定取得後に、認定を受けた事業計画への変更が発生した場合、経済産業省令で定める軽微な変更を除き、再エネ特措法第10条に基づき変更認定申請が必要とされる。事業者の名称及び住所、役員の氏名などの限られた項目の変更は、事後変更届出による申請が認められているが、多くの項目は変更認定申請が必要とされ、当該申請が受理されるまでには長期間を要する。

FIT・FIPの認定取得後、運転開始までの間には、発注予定設備の廃番といった在庫状況の変化などにより、認定を取得した事業計画に複数の項目で変更が生じ、変更認定申請手続が必要となる現状がある。

変更認定申請が必要とされる項目の中には、電気事業法第42条に基づき、太陽光発電事業者が経済産業大臣に届出を行い、FIT・FIP認定とは別に受理された保安規程に記載される項目も含まれている。この保安規程に記載された項目の変更は、遅滞なく保安規程を届け出ることで足りるとされている。

そこで、以下に記載する調達価格を変更しないなど国民負担の増加に繋がらない項目や、その他軽微な変更につき、変更認定申請が必要とされている現行の扱いを変更し、事後変更届出の対象とすべきである。

  • 発電設備の出力
    ※ 調達価格が変更とならない出力減少時に限る。
  • 太陽電池に係る事項(製造事業者名/種類/変換効率/型式番号/枚数/合計出力)
    ※ 合計出力においては、調達価格が変更とならない基準である「太陽光パネルの合計出力が3%未満又は3kW未満の増加、もしくは20%未満の減少」時に限る。
  • 発電設備設置場所における地番の削除
  • 配線方法
    ※ 全量配線を余剰配線へ変更する場合に限る。
  • 保守点検及び維持管理計画(保守点検及び維持管理計画に記載された点検項目及び実施スケジュール等)
  • セキュリティ管理責任者
    ※ 保守点検及び維持管理計画・セキュリティ管理責任者については、経済産業大臣に対し、保安規程に基づく届出がなされている。変更したときは、遅滞のない届出によることで足りる。

これにより、太陽光発電事業者は発電設備の運転開始までの工程や期間を短縮することが可能となる。具体的には、FIT・FIPの認定を取得してから運転開始までの間に変更認定申請の手続が必要となった場合は、その審査が完了するまでに更に約3~6か月程度の期間がかかることとなる。変更認定が必要な項目を削減し、事後変更届出とすることで、変更認定にかかる期間が短縮され、太陽光発電の導入拡大につながる。

<根拠法令等>
  • 再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法(再エネ特措法)第10条第1項、第3項
  • 再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法施行規則第8条第1項、第10条
  • 電気事業法第42条第1項、第2項
  • 事業計画策定ガイドライン(太陽光発電)第2章第1節 表2
  • 資源エネルギー庁HPなっとく!再生可能エネルギー 50kW以上太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスの変更申請・廃止手続の方法 変更手続きの流れ「変更内容ごとの変更手続の整理表」
No. 10. 洋上風力発電の作業船の活用に向けた規制緩和
<要望内容・要望理由>

政府は「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律(再エネ海域利用)」を2018年に定め、領海及び内水における洋上風力発電の案件形成を進めている。2020年に策定した「洋上風力産業ビジョン(第1次)」では、2030年までに1,000万kW、2040年までに3,000万kW~4,500万kWの案件形成を目標に掲げた。また、遠浅の海域の少ない日本では、水深の深い海域に適した浮体式洋上風力発電の大規模な導入が必要になる。

洋上風力発電の建設にあたっては、クレーンを搭載したSEP船(Self-Elevating Platform)やケーブル敷設船、さらに、浮体式においては曳航・係留に用いるAHTS船(Anchor Handling Tug Supply)等が必要である。しかし、昨今の急速な風車の大型化も相まって、日本国内では大型を含むSEP船やAHTS船が不足しており、洋上風力発電の建設に支障が出る可能性がある。

  1. ① カボタージュ制度の包括的な特許
    今後、洋上風力発電の建設が本格化するなか、SEP船等の海外からの傭船は不可欠である。
    しかし、カボタージュ制度(安定的な国内海上輸送を確保するため、自国内における物品や旅客の輸送は原則として自国籍船に限ることが国際的な慣行として確立)により、日本籍船以外の船舶が日本国内において物品や旅客の輸送を行う場合、国土交通大臣の特許を得る必要がある。このため、海外からSEP船等を傭船する場合、港から施工海域への資材運搬・作業毎に特許を申請する必要があり、同様の申請を何度も繰り返すなど非効率的な事務手続が生じてしまう。また、傭船の予約は施工の数年前から行うことが一般的であるが、予約時点では特許を取得できるか不透明であり、予見可能性の低さは事業参入の妨げにもなる。
    そこで、洋上風力発電の施工にかかる運搬・作業に限定し、航海毎の申請ではなく、促進区域単位や事業単位で、船種、期間等を申請することで複数航海にわたり特許を得られる包括的な特許制度を設けるべきである。なお、本要望は、現行の特許の審査基準(1.当該沿岸輸送が、我が国における安定輸送の確保等の観点から支障を生ずるものではないこと。2.日本の海上運送事業者による物品又は旅客の輸送に支障を生ずるものではないこと。3.他法令に反しないこと。)の変更を求めるものではない。

  2. ② マルシップ方式の期間の延長
    SEP船等を海外から傭船する場合、現状、カボタージュ制度による規制があるため、手続等にかかるコストや船主へのリスクは生じるものの、実務では外国籍のSEP船等を一時的に日本籍化する方法がある。
    その場合、日本籍船に搭乗する船員は日本国籍者に限られるが、現状では海外製の風車を用いており、性能保証等のために外国籍の作業員や技術者の乗船が必要である。このため、マルシップ方式(日本法人等が所有する船舶を外国法人等に貸渡し、当該外国法人が外国人船員を乗り組ませたものを、貸渡人たる日本法人等がチャーターバックしたもの)を活用して、外国籍の作業員や技術者を日本籍化した船舶に乗せることになる。しかし、同方式の取扱いにおいては、当該船舶が日本の港に初めて入港した後、再び本邦外の地域に向けて出港するまでの期間を60日以内とされている。このため、当該船舶は定期的に海外へ出航する必要があり、運搬や作業の稼働率低下が施工費の上昇につながってしまう。
    そこで、SEP船等のより効率的な活用を図るため、マルシップ方式の取扱いにおける日数を延長すべきである。60日以内と定めた2015年と比較して、洋上風力発電の重要性は高まっており、時代にあった形に改善していくべきである。

これらにより、洋上風力発電の円滑な導入につながり、カーボンニュートラルの実現に資することが期待される。

<根拠法令等>
  • ①船舶法第3条
  • ②海外貸渡し方式による混乗客船の事務取扱いについて(平成27年6月26日最終改正 国土交通省海上技術安全局船員部労政課長・労働基準課長通知第91号)
No. 11. 林野庁が設定する保護区域におけるエネルギー開発規制の緩和
<要望内容・要望理由>

再生可能エネルギー(地熱発電)の調査・開発について、これまで自然公園・国有林は規制改革に基づき一定の緩和措置がなされてきた。これにより、自然公園内における開発は、特別保護区・第1種特別地域を除き、地域合意形成をもとに一定の開発が認められ、国有林内は、作業許可期間等について短縮が進んでいる。

一方、再生可能エネルギーの潜在的可能性があるにも関わらず、開発が認められない区域も存在する。特に、「保護林」等では、現状では開発行為が依然として認められておらず、再生可能エネルギー開発の制約となっている。

そこで、保護林設定管理要領を改正し、保護林としての目的を維持しつつ、保護林内における再生可能エネルギー開発について、一定の緩和措置を認めるべきである。

国際的に資源価格が上昇する中、再生可能エネルギー活用範囲を拡大することで、国内の電力供給の一助となることが期待されるとともに、政府の進める脱炭素化にも貢献できると思われる。

<根拠法令等>
  • 保護林制度の改正について 別紙「保護林設定管理要領」(平成31年3月28日最終改正 30林国経第127号)
No. 12. 農地転用基準の規定と適用対象の拡大及び一時転用許可期間の延長
<要望内容・要望理由>

農地を林地化、もしくは農地に再生可能エネルギーの発電設備を設置する場合、各市町村が管轄する農業委員会の許可を得たうえで農地転用を行う必要がある。

特に、①荒廃農地においては再生可能エネルギーの発電設備の導入や林地化、木質系バイオマス燃料生産地への転用による意義が高いと考えられるが、荒廃農地の半分近くが転用の認められない農用地区域内農地であるため、再生可能エネルギーの拡大機会の損失が懸念される。なかでも、林業においては国産材自給率の上昇による主伐作業の増加から、伐採可能な森林は奥地になりつつある。同時に伐採コストや搬送のための運賃も上昇傾向にあり、事業性低下による林業の衰退も懸念されている。

また、②農業委員会の全国で統一的な農地転用の判断基準等が現状では定められていないため、効率的な再生可能エネルギーの発電設備の建設及び林地拡大や木質系バイオマス燃料生産地への転換の妨げとなっている。

さらに、③オフサイトPPAにおいて営農型太陽光発電事業を行う場合、太陽光パネル下部の農地で適切に営農を継続する必要があるが、その一時転用許可期間は原則3年間とされており、更新する際には収穫高が減少していないこと等の条件を満たす必要があり、設置者にとっては投資回収ができないリスクが生じている。

そこで、再生可能エネルギーの導入促進と農地の有効活用に向けて、①荒廃農地となっている農用地区域内農地及び甲種農地については、農山漁村再生可能エネルギー法の適用により転用が認められる第1種農地と同様に農地転用を認めること、②農地転用の手続のさらなる効率化のため、自治体毎の手続に関する統一的なルールを国主導で設定すること、さらには、③オフサイトPPAにおいて営農型太陽光発電事業を行う場合に、農業の継続性が担保されていることを前提にした、一時転用許可の期間延長等を行うべきである。

農林業従事者の減少が加速する中、荒廃農地の半分近くが農用地区域内農地とされていることから、荒廃農地の利活用手続の簡素化は、再生可能エネルギーの導入等を促す効果が期待できる。これにより、再生可能エネルギー拡大と農地の有効活用、及び林業の活性化を通じて、新たな雇用創出に伴う市場拡大にも寄与する。

<根拠法令等>
  • 農地法第4条、第5条
  • 農地法施行令第4条第1項第1号、第2号
  • 農地法施行規則第37条第1項
No. 13. 農地一時使用時における農地転用許可不要用途の項目拡大
<要望内容・要望理由>

電気事業者が農地において送配電施設に係る工事を行う場合、農地法に基づき農地転用許可に係る手続が必要である。農地法施行規則第29条第13項に記載の許可不要用途に該当する場合は、「農地転用許可申請書」ではなく、「事業計画書」の提出という比較的簡易な手続での農地利用が認められている。

しかし、同規則に記載されている許可不要用途は、送電線の架設用装置等に限られている。そのため、あくまでも一時的な設置にとどまる施設等について、同一の工事計画においては、許可不要の用途と比較しても農地利用への影響が小さいと考えられる用途であっても、許可不要用途に記載がないことを理由として農地転用許可申請を求められるものが存在し、再生可能エネルギー設備のための送変電設備の着工期の遅延の一因となっている。

例えば、「事業計画書」であれば求められない添付資料が、「農地転用許可申請書」の場合は要求されるため、書類作成・協議に時間を要する等、追加的な負担が生じている。なかでも、隣地所有者等権利者以外のステークホルダーからの同意書等の承諾を農業委員会から求められた場合、隣地所有者等には何ら補償のない中で土地利用希望者が隣地所有者等から承諾を得る必要が生じることから交渉の難航とともに、場合によっては隣地所有者等から承諾を得られないこともある。

そこで、電気事業者が農地において送配電施設に係る工事を実施する際の許可不要用途を拡大し、送電用施設の設置及び撤去に必要な装置(作業機械等)の設置、またそれらの工事に必要となる道路・索道(搬入路、工事用モノレール、運搬用キャリア等)、及び工事に付随する施設(資材置場、表土置場、ヘリ用地、休憩所、仮設トイレ、仮設鉄板等)を許可不要用途として認めるべきである。

これにより、電気事業者として行政手続の効率化が図られるだけでなく、行政としても事務手続に係る効率化や省力化を見込むことが可能であり、早期の行政手続完了は再生可能エネルギーの拡大に資するものと考える。

<根拠法令等>
  • 農地法第4条
  • 農地法施行規則第29条第13号
  • 電気事業者の行う送電用の電気工作物等の設置に伴う農地転用の取り扱いについて(昭和45年9月22日 45公局第520号)
No. 14. 省エネ法に基づく工場等判断基準における、小容量ガスタービン発電設備を新設する場合の条件緩和
<要望内容・要望理由>

今後の国内電力市場においては、再生可能エネルギーが主力電源の一つとなり、電力需給を調整する調整力がますます必要となる。こうした中、ガスタービン発電などの火力発電設備は、短時間で機動的に出力調整が可能であることから、調整力として有望であり、設置の促進が望まれる。調整力としての運転は、年間数回~数十回ほど稼働し、運転継続時間は1回につき2~3時間程度となることが想定される。この場合、常用の発電設備としては極めて稼働率が低くなることから、事業者にとっては、大規模な設備投資が必要な大規模火力発電設備ではなく、小型火力発電設備の設置が望ましい。とりわけ、小型発電設備の一つである航空転用型ガスタービンの場合は、起動から最大出力に達する時間が5分以内と短く、機動性が高いことから調整力としても優れている。

しかしながら、現行では、大容量で稼働率が高く、高効率の運用ができる常用の発電設備としての火力発電設備を念頭に、省エネ対策として、発電効率の基準が設けられている。この場合、調整力としての運転を想定する、稼働率が低い小容量ガスタービンの発電効率では、現行の発電効率の基準が満たせず、新設ができない状況となっている。

そこで、「工場等におけるエネルギーの使用の合理化に関する事業者の判断の基準」において、発電専用設備を新設する際、別表第2の2に掲げる基準発電効率を適用しない例外である、設備容量が20万kW未満の可燃性天然ガス及び都市ガスによる火力発電装置の基準について、条件の一つである発電端効率の下限値を、現行の44.5%から、現在採用可能な最高効率の機種をベースに、36%程度まで緩和すべきである。

これにより、比較的小容量なガスタービン発電設備の新設が可能となり、事業者にとって設置スペース確保や維持管理が容易になる。また、調整力の提供を増やすことができるようになり、電力市場の需給の安定に寄与する。さらに、多くの地点で小型の火力発電設備の設置が進めば、災害などの際に、地域の非常用発電設備として貢献しうる。将来的に脱炭素燃料として期待される水素やアンモニアが供給されれば、燃料として置き換えることでこれらの火力の脱炭素化が可能となる。

<根拠法令等>
  • エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律(省エネ法)第5条
  • 工場等におけるエネルギーの使用の合理化に関する事業者の判断の基準(平成21年3月31日経済産業省告示第66号)Ⅰ2-2(4-2)、別表第2の2備考3(2)
No. 15. 地球温暖化対策の推進に関する法律に基づく、自治体への報告書・計画書のフォーマットの統一
<要望内容・要望理由>

地球温暖化対策の推進に関する法律及び同法を根拠とする地球温暖化対策計画書等に基づき、事業者はその事業所が立地等する自治体に対し、(小売電気事業者の場合、事業所の立地場所に関わらず当該自治体の域内に電力を供給していれば)各種情報(温暖化対策への取り組み、温室効果ガス排出量、供給電力量 等)を提出(報告書・計画書の作成)することが求められている。他方、その提出フォーマットや提出方法が自治体毎に異なることから、事業者の作業負荷が大きくなっている。

そこで、国は、本報告書・計画書の標準様式を策定の上、「ローカルルール見直しに係る基本的考え方」の「全国的に共通の取扱いとすべき場合には、前記2.及び3.の考え方に則り、技術的助言のかたちで運用のガイドライン等を周知することや、法令改正をすること等の必要な措置を講ずる」を踏まえ、自治体が同様式を使用するよう技術的助言を発出すべきである。

これにより、事業者の作業負荷が軽減されるとともに、同じ基準でのデータの利活用を通じて、温室効果ガス削減のための自治体の施策の奏効について検証可能となることが期待される。

<根拠法令等>
  • 地球温暖化対策の推進に関する法律第8条、第21条、第36条
  • 規制改革実施計画(令和5年6月16日)104頁 ローカルルールの見直し
  • 規制改革推進会議「ローカルルール見直しに係る基本的考え方(令和5年6月1日)」4.(1)
  • 各自治体条例
No. 16. 資源循環を目的とした異なる自治体をまたぐ複数の現場や事業場からの廃棄物回収の円滑化
<要望内容・要望理由>

建設業の現場においては、建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律(建設リサイクル法)で再資源化が義務付けられている廃棄物以外にも、様々な種類の廃棄物(廃プラスチック、ガラスくず、金属くず、繊維くず等)が発生する。そのため、廃棄物の再資源化を行う場合、各現場で廃棄物を種類ごとに分別したうえで、許可を受けた業者が収集・運搬等を行う必要がある。

しかし、このような廃棄物の排出は、不定期かつ不定量のため、再資源化を行おうとすると回収効率が悪く、各事業者で相応のコストを要している現状がある。そのため、再資源化できる廃棄物が、建設混合廃棄物として排出・処分されることもある。

この対策として、複数現場をまたいで、廃棄物を種類ごとに巡回回収することが有効であるが、異なる自治体(都道府県・政令市)に所在する現場から廃棄物を回収する場合は、廃棄物処理法上、収集・運搬業者は自治体ごとに業許可が必要となり、管理・手続の面で容易ではない。

自治体ごとの収集・運搬許可を要しない制度として、既に「広域認定制度」が設けられている。しかし、同制度は、「製造事業者等(メーカー)」が自らの製品から発生した廃棄物を回収し、自社工場で再資源化する制度である。様々な資材等を用いる建設業の現場においては、廃棄物を建材等のメーカーごとに分別する必要があること、各メーカーが個別に指定する運搬業者で当該メーカーの工場まで運搬する必要があることから、効率性やコストの観点から、必ずしも活用されているとは言えない。

そこで、既に適正に再資源化をする能力を持っている事業者、ないし適正に収集・運搬できる事業者等が、再資源化を行うことを前提に、個別自治体の許可がなくとも、自治体をまたいで収集・運搬することができるような登録または認定制度を検討すべきである。具体的には、再資源化可能な廃棄物を収集・運搬する業務や、収集した当該廃棄物の集積・保管・積替を行い再資源化施設へ搬出する業務について、自治体をまたいで広域的に行える制度が望ましい。

これにより、建設現場に限らず、複数の自治体に事業場を保有する事業者においても、巡回回収体制の構築が容易となり、廃棄物の再資源化促進が期待される。

<根拠法令等>
  • 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法)第9条の9、第15条の4の3
No. 17. 排出事業場から分別施設への混合廃棄物の運搬可能化
<要望内容・要望理由>

法人や企業の形態が多様化する中で、廃棄物処理法第12条の7の「二以上の事業者による産業廃棄物の処理に係る特例(以下、親子特例)」により、親子会社間(完全子会社に限る)での産業廃棄物処理等のような、廃棄物の適正な処理に資する体系整備がなされてきた。この「親子特例」により、事業者は、産業廃棄物の収集・運搬・処理等に係る業許可を取得する必要がなく、子会社が所有する施設等への産業廃棄物の運搬が可能になるため、子会社施設等での廃棄物分別が可能となっており、効率的かつ低コストでの分別・資源循環・リサイクル活動に繋がっている。

しかし、この「親子特例」は、あくまで産業廃棄物の処理に係る特例であり、一般廃棄物には同様の特例は無い。このため、駅や大規模商業施設など、産業廃棄物だけでなく事業系一般廃棄物(駅などで利用客が捨てるごみ、及び産業廃棄物の指定20品目を除く、デパ地下やレストラン街のテナントから出るごみ)を大量に排出する事業者は、一般廃棄物と産業廃棄物の分別を、排出事業場で行う必要がある。現状、駅や大規模商業施設等の排出事業場では、分別要員の人手不足等の課題に加え、排出事業場には大規模な分別機械などを導入できないスペース面での制約もあり、今後のリサイクル活動における事業者の課題となっている。

そこで、リサイクルを促進する目的での排出事業場から特定施設(分別施設など)への運搬に限り、一般廃棄物と産業廃棄物との混載を認める(「親子特例」の対象を「一般廃棄物」まで拡大する等)ような規制緩和を検討すべきである。

これにより、排出事業者側での一般廃棄物・産業廃棄物の分別に係るコストが低減し、より多くの事業者でリサイクル促進の動きが醸成されることが期待される。

<根拠法令等>
  • 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法)第12条の7
No. 18. 大規模商業施設等の施設管理者と収集運搬・処理会社との一括契約可能化
<要望内容・要望理由>

大規模商業施設等では、各テナント(事業者)が、廃棄物処理法上の排出事業者責任に基づき、廃棄物処理業者と個別で契約を締結している。このように、各テナントの排出事業者責任を徹底することで、適切な廃棄物処理が担保されている。

一方で、各テナントが個別契約を行うことで、大規模商業施設等の管理者が、各テナントを統括する立場として、各テナントのリサイクル状況を把握することが難しくなっている現状がある。大規模商業施設等の管理者が、廃棄物回収に係るボリューム(施設全体での排出態様・規模)を確保したうえで、GX・脱炭素化等に取り組む場合、各テナントが個別契約を行っていることが制約となり、情報の一元化が難しい実情がある。また、各テナントが、個別で廃棄物処理業者を選定・契約していることで、施設管理上の物理的な制約から、回収が非効率化している事例(大規模商業施設等で、廃棄物処理のトラックなどが、契約テナントごとに回収に来るため、搬出・搬入口等で混雑する等)も見受けられる。

環境省は、各テナントが「契約締結に関し、委任状を交付し委任するのであれば、各テナント会社はその排出事業者責任までをも転嫁しうるものではないが、ビル維持管理会社等が一括して委託契約を締結することは可能」との見解を示している。しかし、この対象は、あくまで産業廃棄物であり、一般廃棄物に関しては、各自治体での見解が分かれている。

そこで、各テナントが排出事業者責任を全うする前提で、大規模商業施設等の管理者が、各テナントに代わり、一般廃棄物処理業者と一括で廃棄物処理に係る契約の締結をできるよう通達等により明確化すべきである。

これにより、大規模施設の管理者が、リサイクル推進にあたり回収物のボリュームを確保することで、効率的なリサイクルの推進が可能となるとともに、施設全体としての廃棄物のバイオ燃料化に資する活動・検討等が加速することが期待される。

<根拠法令等>
  • 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法)第7条、第12条の1、第12条の3、第14条
  • 内閣府 規制・制度改革に関する分科会 グリーンイノベーションWG第7回(平成22年12月22日)参考資料1 規制評価シート グリーンイノベーション 43(79頁)
No. 19. プラスチック容器トレイの資源循環に取り組む場合の廃棄物処理法の適用除外
<要望内容・要望理由>

プラスチック容器トレイは、「容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律(容器包装リサイクル法)」に基づき、各自治体が収集する場合には、ペットボトル等と同様に、いわゆる「容リルート(指定法人ルート)」にのって、収集・再商品化がなされる。また、スーパーマーケット等で店頭回収された場合でも、同様に「容リルート」にのせられるものと判断する自治体が多く、地域住民の生活に根差した店舗の店頭で回収が行われることにより、広くリサイクルが推進されている。

一方で、プラスチック容器トレイのコンビニエンスストアにおける店頭回収は、異物や食品残渣他が混入する可能性があるとの由で、多くの自治体で「容リルート」にのせられないと判断されることが多い現状がある(同一企業グループにおいても、スーパーマーケット事業において回収したものは、「容リルート」にのせられるが、コンビニエンスストア事業において回収したものは、のせられないとの自治体判断)。このため、各事業者では、廃棄物処理に係るマニフェストの記載義務や、処理・保管・運搬・処分に係る業許可が求められており、事業者側の負担が大きいことから、リサイクルのさらなる推進に向けての課題となっている。

そこで、各事業者が、資源循環を目的としたプラスチック容器トレイの店頭回収を行う場合には、廃棄物処理法に係る許可取得やマニフェスト記載義務を免除する、廃棄物処理法上の特例を検討すべきである。

これにより、全国に多数あるコンビニエンスストア等での店頭回収が加速し、わが国における容器包装リサイクルの一層の促進が期待される。

<根拠法令等>
  • 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法)第12条の3、第14条
No. 20. 化学繊維を含む繊維製品に関する廃棄物処理法規制の緩和
<要望内容・要望理由>

「専ら再生利用の目的となる産業廃棄物または一般廃棄物(以下、「専ら物」)」は、収集・運搬・処理等の業を行うに当たっての許可を要しないとの廃棄物処理法上の規定により、対象となる「古紙、くず鉄、あきびん類、古繊維」については、廃棄物の回収が過去から広く行われるとともに、廃棄物の再生利用と資源循環に貢献してきている。

しかし、こうした中で、「専ら物」の「古繊維」の品目に「化学繊維を含む衣料などの繊維製品」を含むかどうか(「専ら物」への該否)に関しては、各自治体で見解が分かれている現状がある。このため、事業者側が、複数の自治体をまたいだ繊維製品の回収を行う場合、自治体ごとに「専ら物」への該否確認や廃棄物処理の業認可等を取る必要があり、事業者側の管理コスト上昇の要因となっている。また、自治体をまたいだ回収の特例として「広域認定制度(廃棄物処理法 第9条の9、第15条の4の3)」が既に存在するが、廃棄衣料などの繊維製品は、対象外となっている。

そこで、「化学繊維を含む古衣料などの繊維製品」は、「専ら物」における「古繊維」の品目であることを明示し、「化学繊維を含む古衣料などの繊維製品」についても、事業者側の収集・運搬・処理の許可を不要とすべきである。もしくは、「専ら物」の対象とすることが困難な場合は、「化学繊維を含む古衣料などの繊維製品」を広域認定制度の対象品目に追加することを提案する。

各自治体の見解差異など、許認可に関わる社会的な管理コストを抑制すれば、不要衣料などの繊維製品をより効率的に低コストで再資源化・価値転換し、サステイナブルな社会の実現に向けて、新たな需要を喚起できると考えられる。

<根拠法令等>
  • 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法)第7条第1項、第6項、第14条第1項、第6項、第9条の9、第15条の4の3
No. 21. 産業用機器を対象とする広域利用認定制度の見直し
<要望内容・要望理由>

家電リサイクル法等の対象機器(エアコン、テレビ、冷蔵庫、洗濯機他)は、製造事業者等での廃棄物回収が義務付けられており、資源循環や再商品化が広く促進されている。一方で、同法の対象外である各種産業で使用される機器(例:ATM、計測装置(オシロスコープ)、小型コンプレッサ等。以下、産業用機器)は、事業者及び消費者に廃棄物として処理され、製造事業者等での回収が難しい。

この対策として、製造事業者等は、事業者及び消費者から自社製品を積極的に回収するため、廃棄物処理法上の「広域認定制度」を利用することが可能である。しかしながら、製品を廃棄する事業者及び消費者が、自社の回収拠点及び処理拠点から距離的に離れている場合には、「広域認定制度」の申請時に登録した運送業者以外も活用し、回収拠点・処理拠点までの輸送を行いたいケースがある。

現状においても、「広域認定制度」で、複数の運送業者を登録することは可能である。しかし、「会社名」・「代表者氏名」・「拠点名称」・「拠点住所」等の登録が必要であり、これらの情報に変更があった場合には、当該変更の生じた日から10日以内に「広域認定変更届出書」を環境大臣に提出することが求められる。この点について、日本全国をカバーするための回収拠点・運送業者の登録情報をメンテナンスすることは、製造事業者等(広域認定申請者)における事務的な負担が大きい。

また、廃棄される産業用機器は、製品形状を保った中古品の性状と言える状態であることが多く、廃棄品の部品を再利用する場合もあることから、回収時には、自社製品の取扱いを熟知した運送業者(自社製品の納品、移設、撤去の際に使用する運送業者)に委託したい、との製造事業者等の要望もある。

そこで、こうした観点から、産業用機器の製造事業者等が、「広域認定制度」を用いて、事業者及び消費者から廃棄される自社製品を回収する場合においては、輸送業者の追加認定・登録削除に係る事務負担の軽減を求める。

これにより、製品の性状・構造を熟知している製造事業者等が、輸送コストを抑制しながら、高度な再生処理等を目的として自社製品の広域処理を行うことが可能となる。

<根拠法令等>
  • 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法)第9条の9、第15条の4の3
  • 環境省「広域認定制度の概要」、「広域認定制度申請の手引き」

2. デジタルトランスフォーメーション(DX)

No. 22. 運送事業におけるデジタルタコグラフ普及に向けた技術基準の見直し
<要望内容・要望理由>

2024年4月からトラック運転手の時間外労働時間の上限規制が適用されることから、運行管理の厳格化が求められている。そのためにはトラック運転手の労働時間の可視化が必要であり、政府が決定した「物流革新に向けた政策パッケージ」において、デジタル式運行記録計(デジタルタコグラフ。以下、デジタコ)の将来的な義務付けが提言された。

運行記録計とは、自動車の運行状況を把握するため、運行時間や距離、速度の変化(法定三要素)などを記録する機器であり、貨物自動車運送事業輸送安全規則第9条により、4トン車以上のトラックには運行記録計の装着が義務付けられている。運行記録計には法定三要素を記録紙に保存するアナログ式、データとしてメモリに保存するデジタル式(デジタコ)があり、それぞれ「道路運送車両の保安基準」にて技術基準が定められている。

近年、技術革新や通信環境の変更によって、テレマティクス端末(自動車と通信システムを組み合わせて行う情報サービスで用いられる端末)はデジタコと同等の機能を持つようになっている。他方、デジタコにおいては2007年以降技術基準の抜本的な改正がされていないことから、技術革新等の変化に対応できておらず、メモリのデータ改ざんや破損を防止する観点から厳格な基準が設定されている。その基準確保のため、デジタコの価格は約20万円と高くなり、国土交通省の事故防止対策支援推進事業予算にて機器代の3分の1が国から助成されているものの、普及にあたっての制約となっている。なお米国では、デジタコの記録をメモリではなくクラウド上に保存することを認めており、低廉な価格(約2万円)で供給されている。

そこで、技術革新と通信環境の変化を踏まえて、デジタコの技術基準を見直し、米国と同様に記録の保存をクラウド上で認めるべきである。

これにより、オーバースペックとなっていたデジタコの機能適性化が進むことでその普及が加速し、適切な運行管理と「物流ネットワークの見える化」が可能になるほか、政府の予算削減にも寄与する。なお、デジタコの搭載によって進展する「物流ネットワークの見える化」は、政府が「フィジカルインターネット・ロードマップ」において目標に掲げる「フィジカルインターネット」実現の礎となるとともに物流の効率化や物資の安定輸送にも資する。

<根拠法令等>
  • 道路運送車両の保安基準第48条の2、別添89運行記録計の技術基準
No. 23. ダブル連結トラックの特殊車両通行申請手続のワンストップ化・迅速化
<要望内容・要望理由>

トラックドライバーの人手不足が深刻化するなか、物流効率化の取組みとしてダブル連結トラックの導入が期待されている。2024年6月、政府が決定した「物流革新に向けた政策パッケージ」においても、特殊車両通行制度に関する手続期間の短縮化やダブル連結トラックの導入促進が掲げられた。導入促進にあたっては、「特殊車両通行申請手続き」の負担軽減を図ることが欠かせない。

ダブル連結トラックは運転手1名でトラック2台分の荷物を運搬することができる車両で、道路運送車両法施行規則別表の1によって特殊車両に区分されている。特殊車両は道路を通行する際、道路法第47条の2によって特殊車両通行許可の取得が求められている。特殊車両通行許可申請の標準処理期間は3週間であるにもかかわらず、ダブル連結トラックの申請では通常8~14週間程かかっており、審査が長期化する理由についても不透明なため予見可能性、透明性が担保されていない。また地方公共団体を含む審査担当者によって、習熟度が異なるため個別の説明が必要な場合もあり、申請者の負担となっている。

特殊車両通行申請では2004年からオンライン申請が導入されているものの、ダブル連結トラックに限ってはオンライン申請に先立ち、「地方整備局」ならびに申請経路における各地方公共団体の「道路管理者」との個別の事前協議が必要である(関東から関西での運行の場合、約20者との事前協議が必要)。事前に約20者の公共団体と協議を行うとなると、コストと時間(4週間程)がかかるため、ダブル連結トラックの導入が進まない要因となっている。ダブル連結トラックと従来のフルトレーラ連結車(事前協議は不要)は連結全長が異なるだけで、積載重量や構造が異なるわけではないため、事前協議では基本的に交差点などで問題なく曲がれることを確認できれば良い。このため、旋廻軌跡図(交差点でトラックが問題なく曲がれることを示した図)を申請の際に添付できれば、事前協議を不要とする公共団体は多い。

そこで、①ダブル連結トラックの「特殊車両通行申請手続き」について、事前協議を省略したワンストップ手続化を図るべきである。②加えて、ダブル連結トラックを対象とした標準処理期間を新たに設けるべきである。③仮に事前協議が必要と判断される場合には、ダブル連結トラックの通行許可申請(現状8~14週間)の処理期間が長くなる原因を精査したうえで、手続の迅速化に向けた有効な方策(地方公共団体を含む審査担当者の習熟度向上など)を検討すべきである。

これにより、ダブル連結トラックの導入が進み、物資の安定輸送や物流の効率化に寄与する。

<根拠法令等>
  • 道路法第47条の2
  • 国土交通省 特殊車両通行申請手続き「長さが21mを超えるフルトレーラの申請方法」
No. 24. 死亡・相続に係る手続のデジタル完結
<要望内容・要望理由>

デジタル庁では、行政手続だけではなく民間手続を含めて死亡・相続ワンストップサービスを推進することとしている。しかし、起点となる死亡届及び死亡診断書(死体検案書)は法制度上、電子化を阻害する規制はなく、行政手続等の棚卸結果等の調査結果でもオンライン化実施済と公表されているにもかかわらず、いまだオンライン手続の採用自治体はなく、紙での提出となっている。

土地・不動産の相続登記・登録免許税納付・名義変更、相続税申告、未支給年金申請、銀行・証券口座、クレジットカード、電話通信契約・サブスクリプションサービス等の利用停止・解約・名義変更等、行政・民間の様々な手続においても、同じ書類(死亡届、出生から死亡までのすべての戸籍謄本、遺言書情報証明書、法定相続一覧図の写し、相続人の住民票、印鑑証明書等)を再三提出する必要がある。さらに、手続によって必要な書類が異なり、自身で調べて都度書類をそろえなければならないことが、相続人・遺族の大きな負担となっている。

また、公的個人認証サービスを利用する民間事業者は、顧客の死亡により署名用電子証明書・利用者証明用電子証明書が失効状態となった場合、失効理由を地方公共団体情報システム機構(J-LIS)に確認することができるが、回答は「死亡又は海外転出」に留まり、確定的に死亡の事実を把握することができない。

そこで、死亡・相続に係る手続のエンドツーエンドでのデジタル完結及びワンスオンリーを実現すべきである。具体的には、以下4点を求める。

  1. ① 死亡届の届出をデジタル化する。
  2. ② ①を踏まえ、公的個人認証サービスの失効理由を「死亡」と「海外転出」に切り分け、民間事業者が確定的に死亡の事実・死亡日情報を把握できるようにする。
  3. ③ マイナンバーを中核とする行政機関同士のバックヤード連携により情報を取得可能であることから、マイナンバーを利用して相続人であることの確認ができた場合には、死亡・相続に係る手続において、死亡届、被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本、相続人全員の戸籍謄本及び住民票、法定相続一覧図の写し、相続人全員の印鑑証明書の提出を不要とする。
    一部の改製原戸籍は電子化されずに紙で残存しているが、これらもマイナンバーの利用及び行政機関同士のバックヤード連携による一括での情報取得の対象となるよう、自治体に対し電子化の技術的助言を行う。
    その他にも、マイナンバー制度の活用によって取得可能な書類・情報はすべて提出を不要とし、相続人の本人確認のみですべての手続が可能となるよう見直しを行う。
  4. ④ 民間企業に対して行う銀行・証券口座や電話通信契約の名義変更・解約等においても、行政手続と同じく相続人の本人確認のみで完結するよう、マイナンバー制度の活用を認める。

エンドツーエンドでのデジタル完結は、現在必要な各種手続を単にデジタルに置き換えていては実現しない。真に必要な手続のみとなるよう簡素化し、サービスデザインの観点から設計しなおすBPRを行うべきである。

なお、現行の制度において既に、第三者であっても、自己が法定相続人となる遺産相続などの権利行使を目的とする場合には、請求理由等の確認を条件に、委任状を必要とせずに戸籍謄本・住民票の交付を請求できることとなっている。したがって、本要望で実現を求めるマイナンバーの活用においても、使途が死亡・相続に係る手続であることの確認を前提に、現行の制度と同様とすべきである。

これにより、相続人・遺族の書類の収集・提出の負担を軽減できるだけでなく、必要書類の不備等、手続自体に不慣れであることに起因する手続不能の事態を回避できるようになり、相続人・遺族、地方公共団体・法務局等の行政機関、銀行・保険会社等の事業者の三者において利便性が向上する。

民間手続においても、事業者が顧客の死亡情報を確定的に把握できることで、保険金請求手続やサービス利用料徴収の適時停止等、遺族に対する案内を円滑に進めることが可能となる。故人が契約していた各種サービス等の情報を把握していない場合においても、遺族が自身で契約先の特定等を行う必要がなくなり、負担軽減につながる。

<根拠法令等>
  • 戸籍法第10条第3項、第10条の2第1項、第86条
  • 戸籍法施行規則第49条第2項
  • 住民基本台帳法第12条の3第1項
  • 書面に代えて電磁的記録により作成、閲覧等又は交付等を行うことができる医療分野に係る文書等について(医政発第0622010号)
  • 相続税法施行規則第1条の6第3項第1号、第16条第3項
  • 不動産登記規則第247条、不動産登記令第19条
  • 電子署名等に係る地方公共団体情報システム機構の認証業務に関する法律第7条第3号、第18条第3項
No. 25. 自筆証書遺言の作成手段及び形式の追加的容認
<要望内容・要望理由>

現行制度において主に利用されている方式には、公正証書遺言と自筆証書遺言がある。前者には作成・修正の都度一定の費用が生じ、また、後者は本文の自書・押印が必要であり、必要事項の記入漏れ、氏名や財産目録の不正確な記載、手書きによる誤字・乱筆等により、結果として法的有効性のない遺言書が作成され、相続トラブルに繋がりやすいという課題がある。

遺言の作成は、相続トラブルの未然防止や相続手続きの効率化、遺言者本人の意思に基づく円滑な資産承継を実現するうえで重要な役割を果たす。法務省の調査では、対象者(55歳以上・約8,000人)の90%以上が遺言を作成したことはないと回答した一方で、遺言を残したいと考えている人は35%以上との結果を示しており、利便性の高い遺言作成に対する国民のニーズは高い。

2023年6月16日に閣議決定された「規制改革実施計画」では、2024年4月から相続登記が義務化されることも視野に、手続の電子化によって相続人や関係機関の負担を軽減する必要があるとしている。この中で、デジタル技術を活用した自筆証書遺言についても、「現行の自筆証書遺言と同程度の信頼性が確保される遺言を簡便に作成できるような新たな方式を設けることについて(略)検討を進める」と示した。

そこで、本検討において、本人の真意に基づき作成したことを担保することを前提として、Word等の文書作成ソフトや動画、ノートやソフトウェアの規定された欄に遺言内容を書き込む形式等、幅広い手段によって遺言作成が可能となるよう柔軟な制度設計を行うことを求める。本人の真意に基づき作成したことを担保する手段の一案として、自筆証書遺言書保管制度の保管申請時に本人の意思確認を行うことが考えられる。

これにより、遺言に関する知識が十分でなくても法的要件を満たした遺言を容易に作成可能となり遺言の普及促進が図れるだけでなく、様々な生前対策と組み合わせた終活関連ビジネスの市場規模の拡大が期待でき、結果的に遺言者の安心や利便性につながる。加えて、遺言者に対して、遺留分や相続税等、相続トラブルの原因となりやすい課題について情報提供を行う事が可能となり、非生産的な争いを抑止する効果も得られる。

なお、財産目録と実体の資産情報(不動産登記、金融資産等)を電子的に情報連携できれば、不正確な記述による遺言無効の防止だけでなく、相続手続の官民双方の大幅な簡素化、相続登記義務化の実効性向上等が可能となる。相続手続のデジタル完結を可能とするこうした環境整備についても並行して検討すべきである。

<根拠法令等>
  • 民法第968条
  • 法務局における遺言書の保管等に関する法律第4条第2項
  • 法務局における遺言書の保管等に関する省令第9条
No. 26. 電気用品安全法における遠隔操作規制の撤廃
<要望内容・要望理由>

電気用品安全法は、電気用品による危険及び障害の発生を防止することを目的として、1961年の電気用品取締法から継承されている。しかし、日々技術がめざましく進展する時代において、同法が定める詳細な規制は、企業の技術開発を阻害している。

具体的には、同法「技術基準解釈(別表第八)」において、遠隔操作による動作が確実に行われるよう、「ⅰ 操作結果のフィードバック確認ができること」「ⅱ 動作保証試験の実施及び使用者への注意喚起の取扱説明書等への記載」のいずれかの対応が求められている。このうちiについては、「『解釈別表第八に係わる遠隔操作』に関する報告書」(電気用品調査委員会、2019年)において、電気用品の音声操作では、運転内容の確認や反映内容をフィードバックすることが条件として必須との解釈が示されている。

例えば、エアコンの音声操作では、①人が「リビングのエアコンを25℃で運転して」と言う、②スマートスピーカーが「リビングのエアコンを25℃で運転するのですね」とフィードバックする、③人が「はい」と言う、④運転が開始する、⑤スマートスピーカーが「リビングのエアコンを25℃で運転しました」と回答する、という各段階が必要となる。スマートフォンのアプリケーションから遠隔操作を行う場合にも、類似の同意操作が求められている。

しかしながら、グローバル水準ではフィードバック要件は必須とされておらず、これは日本独自の仕様といえる。実際、本法を遵守している日本の国内メーカーは、AppleやGoogleが提供する「定型アクション」機能(作動時間と操作内容を予め設定することで、アプリケーション上から同一の動作を予約可能な機能)から排除されている。

フィードバック要件を外すためには、動作保証試験の実施が必要となる。しかし、動作保証試験の対象範囲・実施の定義は不明瞭で、各メーカーの自発的な取り組みに任されており、厳密に対応するメーカーであるほどコストが嵩む状況になっている。加えて、メーカー外のサードパーティーのスマートスピーカー等は、動作保証試験の適用対象外となっていることから、市場展開もより迅速に行うことが可能となり、イコールフッティング原則に反している。

そこで、別表第八に掲げる要件「ⅰ 操作結果のフィードバック確認ができること」「ⅱ 動作保証試験の実施及び使用者への注意喚起の取扱説明書等への記載」について、削除を念頭に見直しを行うべきである。

これにより、ユーザーの利便性が向上するのみならず、国内外の公平な競争環境の整備につながる。

<根拠法令等>
  • 電気用品安全法「技術基準解釈(別表第八)」1(2)ロ(ロ)b(d)及び(h)
  • 「解釈別表第八に係わる遠隔操作」に関する報告書
No. 27. 非対面取引における本人確認の円滑化
<要望内容・要望理由>

古物を取り扱うオンラインプラットフォームでは多くの物品が日々売買されており、事業者において古物営業法上の本人確認が必要な場合がある。

他方で、同じ事業者やグループ企業が提供するサービスにおいて、相手方の住所、氏名、年齢等の身分確認を実施している場合がある。例えばキャッシュレスサービスの利用に際して、「犯罪による収益の移転防止に関する法律」(犯罪収益移転防止法)に基づき実施する取引時確認は、古物営業法が定める本人確認の要件をすべて満たしている。加えて、犯罪収益移転防止法において認められる身元確認書類は、公的機関により発行され、かつ被証明者のみに交付されるものに限定されており、より厳格になっている。

さらに、デジタル社会の実現に向けた重点計画(2023年6月9日閣議決定)では、今後、犯罪収益移転防止法に基づく非対面の本人確認手法は、マイナンバーカードの公的個人認証に原則として一本化する方針であることから、より安全性・確実性が高まると期待できる。

そこで、事業者が犯罪収益移転防止法に基づいて非対面取引における本人確認を実施済みであり、かつその情報が当該法令の要件を満たす場合、同一事業者やグループ企業内において、再度の本人確認を不要とすべきである。

これにより、本人確認の法目的を確保しつつ実施頻度や手間を削減でき、サービス利用者の利便性を図ることができる。事業者としても、本人確認実施にかかるシステムコストや個人情報管理コストの低減、より使いやすいインターフェースの提供が可能となる。

<根拠法令等>
  • 古物営業法第15条第1項、第21条の2
  • 古物営業法施行規則第15条第3項
  • 犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則第6条第1項
No. 28. 差押通知書の送達のデジタル完結
<要望内容・要望理由>

税金や各種保険料等の滞納処分の財産差押えにあたって金融機関が行政機関から受領する差押通知書は、現行法規制により書面の持参あるいは郵送による送達が必須となっている。このため、受領する金融機関側は1件ごとに手作業で対応しなければならず、業務の効率化やリモートワーク推進を阻害している。加えて、行政機関からの差押依頼は給料日等の特定日に集中する傾向があり、窓口での行員対応が集中化・属人化し、処理速度の低下が差押執行率の低下をもたらしている。

そこで、行政機関が金融機関に交付する差押通知書の送達について、行政機関・金融機関双方にとって円滑な実務の実現を前提に、書面による持参あるいは郵送を撤廃し、データでの送付を認めるよう法改正すべきである。また、データの送付や取扱による差押実施が問題ない旨、地方公共団体及び事業者に対して明示的に周知すべきである。このとき、法制審議会において民事執行・民事保全・倒産及び家事事件等に関する手続の見直しに向けた議論が進んでいることから、送達の効力が発生する時期や行政機関・金融機関間で利用するシステム等について平仄のそろった制度とすることを求める。

デジタル庁が実施している「行政手続等の棚卸結果等」令和3年度調査では、財務省は差押通知書の送達や差押解除の通知について「オンライン化の検討は可能だが、性質上電子化すべきでなく、書面で扱うことが望ましいため未実施」と回答している。しかし、デジタル庁は2023年4月に「処分通知等のデジタル化に係る基本的な考え方」を策定し、デジタル手続法第7条第1項により処分通知等についてはデジタル化が可能であると示している。加えて、差押通知書や解除通知と同じく本人への到達が重要である民事訴訟法上の公示送達制度のデジタル化についても、デジタル臨時行政調査会において検討を進めているところである。

したがって、性質上書面で扱うべきという結論ありきではなく、デジタル5原則に沿ってアナログ手続を一掃するという政府の方針に従い、データの送付を認めるようデジタル化することを求める。

これにより、金融機関における窓口業務を削減でき、デジタル化による自動処理も可能となることで対応の平準化を図ることができる。行政機関職員にとっても、店舗窓口への差押訪問や郵送処理が不要となり、年間90万通以上と想定される郵送費の削減及び業務効率化につながる。1件ごとの手作業からデジタル対応へと変わることで、金融機関・行政機関双方の業務効率の向上に伴う差押執行率の向上と税収未済額の圧縮が見込まれる。ひいては、郵送費の削減・税収未済額の圧縮による財政安定化と住民サービスの向上が期待される。

<根拠法令等>
  • 国税徴収法第62条第1項、第3項、第80条第1項
  • 国税通則法第12条
No. 29. 保険証券の電子化
<要望内容・要望理由>

保険法においては、損害保険契約(第6条)、生命保険契約(第40条)、傷害疾病定額保険契約(第69条)について、「契約を締結したときは、遅滞なく、保険契約者に対し、(中略)書面を交付しなければならない」旨を定めている。

これは任意規定であり、保険会社は契約者と事前に合意することで、電子的な契約書を交付することが可能となっているものの、書面交付については事前合意が不要であり、書面が原則、デジタルが例外という扱いになっている。保険会社・契約者とも、電子化するための追加手続が必要であり、電子交付の阻害要因となっている。

そこで、保険法を改正し、保険証券の電子交付についても原則可能とするよう位置付けるべきである。政府においては、デジタル臨時行政調査会を中心に、行政手続のデジタル完結を推進している。こうした任意規定についても、書面原則の見直しを行うべきである。

これにより、印刷・郵送等の業務コストの削減、契約者の保管の円滑化、紛失対応の削減に貢献する。一例では、保険証券の書面交付は、約400万件/社(個人向け主力商品)で契約全体の8割に及び、制度改革により電子化比率の向上が期待できる。

<根拠法令等>
  • 保険法第6条、第40条、第69条
No. 30. 病院・診療所の開設許可・変更手続の電子化と様式統一
<要望内容・要望理由>

国内には約18万の病院・一般診療所・歯科診療所があるが(出所:厚生労働省「医療施設動態調査」)、その開設・変更に伴って各施設から地方公共団体(保健所)に対する行政手続は書面で行われている。具体的には、開設許可申請(医療法第7条第1項)、開設届(医療法施行令第4条の2第1項)、開設許可事項一部変更申請(医療法第7条第2項)、開設許可事項一部変更届(医療法施行令第4条の2第2項)、病院構造設備使用許可申請(医療法第27条)等がある。

これらの手続について、厚生労働省は「オンライン化の費用対効果が小さい又は不明であるため」に、書面手続を存続する方針を示している(出所:デジタル庁「行政手続の棚卸結果等」)。しかしながら、本手続は以下の理由により、病院・診療所の負担が大きく、オンライン化・合理化の必要性が高い。

  1. ① 処理時間・回数:診療所の開設許可申請にあたっては、書面の作成、申請、許可書の受け取りをすべて書面・対面で行っており、実例で1件あたり12時間程度かかっている。企業内診療所の場合、年間申請件数が10件を超えるケースもあり、年間120時間以上を費やしている。また、病院の開設許可事項一部変更申請については、一例では年5件程度、年間20時間程度必要となっている。
  2. ② ローカルルールの存在:これら申請書類は、地方公共団体ごとに様式が異なることによって、各都道府県の保健所ごとに取扱い方法の差異が生じている。複数の地域で同様の手続を行う場合には、地域独自の書式・様式にカスタマイズした対応を強いられている。
  3. ③ 手続の煩雑さ:病院開設許可事項の申請は、仮に構造変更を伴わない診療室名の変更等の軽微なものであっても対象となる。加えて病院は、変更した構造設備の使用申請に先立って、変更許可を得る必要があることから、その手順は、第1に、病院等が「病院開設許可事項中一部変更許可申請」を保健所に提出し、保健所が都道府県庁に確認したうえで許可を病院等に通知する(医療法第7条2項)。第2に、病院等は、受け取った変更許可の内容を踏まえ、「病院構造設備使用許可申請」を保健所に提出し、保健所が都道府県庁に確認したうえで許可を病院等に通知する(医療法第27条)、と二巡することが求められている。

そこで、病院・診療所の開設・変更に伴う行政手続について、早期に電子化及び書式・様式の統一を行うべきである。その際、病院開設許可事項の変更手続については、「病院開設許可事項中一部変更許可申請」と「病院構造設備使用許可申請」について同時に提出できるように見直すべきである。規制改革推進会議では、令和5年度答申において、合理的な理由なく国民や事業者に過大な負担を課す行政手続上のローカルルールを見直す方針を示しており、本件標準化はその対象に位置付けられるべきである。

これにより、病院・診療所、保健所双方の行政手続にかかる時間・コストを削減することが可能となり、業務の効率化と本来業務の時間確保に資する。厚生労働省では、2022年度から「医療従事者届出システム」を実装し、三師(医師、歯科医師及び薬剤師)届・業務従事者届等を電子化しており、これに加えて本要望が実現することで、医療関連手続のデジタル完結に向けて前進する。

なお、病院・診療所のなかには、企業が従業員とその家族向けに設置する企業立病院や、新型コロナウイルスワクチンの職域接種でも使用された企業内診療所が存在することに留意が必要である。

<根拠法令等>
  • 医療法第7条第1項、第2項、第27条
  • 医療法施行令第4条の2第1項、第2項
No. 31. 社会保険・雇用保険手続のデジタル完結
<要望内容・要望理由>

老齢基礎年金・障害基礎年金・寡婦年金・死亡一時金等の公的年金の給付申請、未支給年金・保険給付申請、雇用保険の職業訓練受講給付金申請等の手続において、紙による申請及び通帳の写しの提出が求められている。デジタル庁が実施している「行政手続等の棚卸結果等」令和3年度調査においてオンライン化実施済と回答している関連手続(支給繰上げ請求、支給停止事由該当の届出)においても、紙媒体による添付書類等の提出が必要であり、デジタル完結には至っていない。

このように、社会保険・雇用保険手続において紙による申請及び添付書類の紙での提出が残存している。通帳の写しの紙面提出では、コピーミスにより必要箇所が含まれてないとの理由から申請未受理となることもあり、申請者・請求者及び処理する行政機関窓口の双方に負担が生じている。

そこで、2025年度までに書面提出等のアナログ手続を一掃するという政府の方針に従い、紙での申請・提出を廃止し、申請から給付までのデジタル完結を実現すべきである。マイナポータルへの公金受取口座登録によって提出自体を省略可能であるケースは日々増加している。未登録の場合も、コピーによる紙面提出ではなくスキャンデータのオンラインでの提出を可能とすることで、デジタル完結を実現すべきである。

また、通帳の写しの提出は、職業訓練受講給付金の支給要件確認のように資産確認を目的とする場合もあるが、政府は2019年11月に「金融機関×行政機関のデジタル化に向けた取組の方向性とりまとめ」を策定・公表し、預貯金等照会・回答業務をデジタル化していく方針を示している。したがって、現在において通帳の写しの提出はそもそも不要であり、利用者の利便性を最優先に考えて必要書類から削除すべきである。

ほかにも、通帳の写しの提出や紙による申請が残存している手続はないか、規制を所管する各府省が責任を持って洗い出しを行い、一律でアナログ手続を廃止すべきである。

<根拠法令等>
  • 国民年金法施行規則第16条第2項・第5項、第25条第2項、第31条第2項、第60条の2、第60条の4、第61条第2項等
  • 職業訓練の実施等による特定求職者の就職の支援に関する法律施行規則第17条
No. 32. 国民年金第3号被保険者関係届の簡素化
<要望内容・要望理由>

全国健康保険協会管掌健康保険(協会けんぽ)以外の健康保険の被保険者の配偶者が第3号被保険者に該当する場合、医療保険者による被扶養者の認定の確認があることを踏まえ、事業主が「国民年金第3号被保険者関係届」を日本年金機構に提出することとされている。

2024年秋に健康保険証がマイナンバーカードに一本化される(以下、マイナ保険証)ことから、個人番号を介して、被扶養者の認定を含め健康保険の加入状況の確認は簡素化することが可能と考えられる。健康保険の加入状況は、医療保険者から地方公共団体情報システム機構を通じて情報連携されており、事業主を通さずに、日本年金機構が確認できるものと考えられる。

政府の「国民の命と暮らしを守る安心と希望のための総合経済対策」(2020年12月8日閣議決定)では、マイナンバーと各行政手続とシステムとの連結を適切に行うことが明記されている。

そこで、2024年秋以降、マイナ保険証の活用、個人番号を介した行政機関間の情報連携を前提に、第3号被保険者関係届について、事業主による医療保険者記入欄への記載や医療保険者から交付された被扶養者の健康保険証の写しの添付を不要とすることで、簡素化すべきである。

これにより、国民及び各企業の事務負担の軽減や、届出漏れによるリスクを低減することが期待できる。

<根拠法令等>
  • 国民年金法第12条の5、6
  • 行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律第3条の2
No. 33. 個人住民税の特別徴収税額通知書へのマイナンバー記載徹底
<要望内容・要望理由>

地方税ポータルシステムeLTAXにおける個人住民税の特別徴収税額通知について、所定のフォーマット「処分通知等(税額通知)CSVレイアウト仕様書(総務省通知形式)」には個人番号の記載欄が存在している。

一方で、実際に地方公共団体から企業が受領する通知には、マイナンバーが記載されていないことがある。その際、マイナンバーだけではなく受給者番号によって照合することも可能だが、対象者の異動等が生じた場合、地方公共団体から企業が受領する通知において受給者番号も空欄となっていることがある。また、対象者の異動が生じた場合は、「給与所得者異動届出書」によって企業から地方公共団体へ通知するが、同届出書に受給者番号の欄は存在しない。

そこで、地方公共団体に対して、同通知へのマイナンバーの記載を徹底すべきである。

これにより、企業における事務処理が大幅に効率化するほか、政府が活用を進めるマイナンバーのさらなる利便性向上につながる。

<根拠法令等>
  • 地方税法第321条の4
No. 34. 個人情報・仮名加工情報の第三者提供規制の緩和
<要望内容・要望理由>

現行の個人情報保護法においては、個人情報の第三者提供にあたり、原則として本人同意を得ることが求められている。また、仮名加工情報(他の情報と照合しない限り特定の個人を識別できないように加工した個人に関する情報)については、第三者への提供が禁止されている。

他方、DXを推進するうえでは、個人の安心・安全の確保を前提としつつ、様々な主体間で個人情報を含むデータを連携・共有しながら新たな価値を創出することが欠かせない。

そこで、秘密計算技術等により個人識別性を排除したのちの統計処理やAIモデル作成等を目的とする場合や、研究開発や新たな価値創造などわが国が優先的に取り組むべき分野において必要とされる場合等については、第三者提供に関して異なる規律のあり方を検討すべきである。その際、セキュリティや個人の安心・安全を損なうことのないよう、第三者機関による調査等、適正な利用が行われていることを確認するための規律についても検討する必要がある。

これにより、経団連が提言「データ利活用・連携による新たな価値創造に向けて―日本型協創DXのリスタート―」(2023年5月)で提示したとおり、個別事例の特性を十分に踏まえデータを最大限利活用・連携することが可能となり、ひいては政府が掲げるDFFT(Data Free Flow with Trust)の実現にも寄与する。

<根拠法令等>
  • 個人情報保護法第27条、第41条第6項
No. 35. 森林簿に掲載された情報の取得条件緩和及びオープンデータ化
<要望内容・要望理由>

森林の所有者及び現況等の情報は、森林法第5条に基づき都道府県が「森林簿」として管理している。「森林簿」に記載されている森林情報は、森林の整備(伐採や植栽など)に必要不可欠な情報であるが、現状では、掲載されている森林情報(林班、面積、林齢、樹種等)の様式に統一性がなく、取得制限についても自治体によって規制の内容が異なっていることから、林業事業者が森林の集約化、管理等を行うための森林情報の効率的な収集や分析が困難な状況である。例えば、森林簿の閲覧・取得については、森林所有者もしくはその代理人(委任状が必要)による閲覧及び取得しか認めていない自治体も存在する一方、第三者の取得を認めている自治体であっても、個人情報保護の観点から、所有者に関する情報は公表されていないことに加えて、受付は窓口もしくは郵送のみとしている場合もあり、遠隔地からの取得に支障が生じている。

そこで、森林簿情報についても、様式を統一した上で、オンラインで整備されている不動産の登記事項証明書と同様、全国一律で、第三者であってもオンラインによるデジタルデータの閲覧・入手が可能となるシステムを構築(オープンデータ化)すべきである。

実際に、不動産については、登記事項証明書がオンラインでも整備されており、所有者情報を含めて容易に入手可能となっているため、森林簿情報で所有者を秘匿すべき理由は乏しいと考えられる。

森林の所有者の開示・閲覧にあたっては、個人情報保護の観点を十分に踏まえつつ、当該事業を行う企業にとって必要となる情報について、都道府県の開示条件の現状を精査の上で、民間事業者が活用しやすい形でのオープンデータ化を進めるべきである。

<根拠法令等>
  • 森林法第5条、第191条5項、各都道府県内規
No. 36. 地方公共団体のデジタルインボイス対応の推進
<要望内容・要望理由>

2023年10月のインボイス制度開始以降、消費税の仕入税額控除を受けるためには、適用税率や消費税額の記載など、一定の要件を満たした適格請求書(インボイス)の発行・保存が必要になる。デジタル庁においては、事業者のバックオフィス業務のデジタル完結による効率化を実現するために、デジタルインボイスの国内の標準仕様を整備し普及・定着に向けた取組が行われている。これらを受け、企業向け統合基幹業務システムであるERP(Enterprise Resource Planning:企業資源計画)や会計パッケージ事業者、国においても政府電子調達システム(GEPS:ジープス)等で、デジタルインボイスの標準仕様に対応するための準備が進められている。なお、ここで言うデジタルインボイスとは、電磁的に記録された消費税の適格請求書全般を指す電子インボイスの中でも、標準化・構造化され、システム等による自動的な処理を可能にするものを指す。

一方、地方公共団体については、インボイスの交付には対応するものの、多くは紙での交付等の対応に留まる見込みである。

欧州では2019年から行政機関が請求書を標準形式で電子的に受け取り処理することが義務付けられているなど、公共領域がDXの観点だけでなくGXの観点からも電子インボイスの普及をリードし、手作業による請求書の処理に係るコスト削減等につなげている。

デジタルインボイスを普及させることでDXの推進に寄与し、インボイスの発行者・受領者双方の書面の発行・処理のコスト削減を行うことができるとともに、GXの観点からも紙の使用量や郵送に伴う炭素排出量等を削減することができる。

そこで、日本においても公共領域での対応の遅れが、国全体のデジタルインボイス普及・定着のボトルネックにならないよう、中小・小規模事業者などデジタルに対応できない事業者に十分配慮したうえで、率先して官公庁、とりわけ地方公共団体が、事業者の要望に応じて発行・受取の両面においてデジタルインボイスに対応するよう国として通知・通達を発出すべきである。

これにより、デジタルインボイスの普及に資することとなり、ひいては日本全体のDX、GX双方を促進することとなる。

<根拠法令等>
  • 各地方公共団体の財務会計規則
  • 総税都第44号「消費税の適格請求書等保存方式(インボイス制度)への対応に係る留意事項等について(依頼)」(令和4年6月20日)

3. 人の活躍

No. 37. 副業・兼業の推進に向けた割増賃金規制の見直し
<要望内容・要望理由>

現行法では、本業と副業・兼業の労働時間が通算される。そのため、例えば本業の所定労働時間が1日8時間、週40時間の場合、副業先における就労のすべての時間に割増賃金が発生する等の事象が多く発生する。これは、副業・兼業先にとって重い負担となり、国全体として副業・兼業を推進するうえでの大きなハードルとなっている。また、副業に従事している社員からも、割増賃金が適用されることで副業先の他の社員に気を遣ってしまうなどの声がある。

割増賃金規制は、法定労働時間制または週休制の原則を確保するとともに、長時間労働に対して労働者に補償する趣旨であるが、本人が自発的に行う副業・兼業について適用することはそもそもなじまない。

そこで、真に自発的な本人同意があり、かつ管理モデル等#2を用いた時間外労働の上限規制内の労働時間の設定や一定の労働時間を超えた場合の面接指導、その他健康確保措置等を適切に行っている場合においては、副業・兼業を行う労働者の割増賃金を計算するにあたって、本業と副業・兼業それぞれの事業場での労働時間を通算しないこととすべきである。

これにより、副業・兼業が促進され、働き手の主体的なキャリア形成や企業の多様な人材の確保などにつながることが期待される。

<根拠法令等>
  • 労働基準法第37条第1項、第38条第1項
  • 副業・兼業の促進に関するガイドライン
No. 38. 介護の両立支援等に資する、深夜労働の割増賃金規制の見直し
<要望内容・要望理由>

在宅勤務の普及により、日中に介護等のために中抜けをするなど柔軟な働き方が定着してきている。そうしたなか、夜間も含め就労時間帯を主体的に決めたいという在宅勤務者のニーズがある。企業側としても、個人の自律的で柔軟な働き方を後押しする観点から、上記のような個々人のニーズに応じた働き方を認めていきたいと考えるところ、現行法では、深夜労働規制が適用されており、深夜労働を認めにくい状況にある。

そこで、真に自発的な本人の同意があり、かつ労働者の自律的・主体的な働き方が認められるフレックスタイム制や裁量労働制の適用者等で、在宅勤務を実施し労働時間終了後通勤を要せず即時に休息ができる場合には、本人の希望に応じ、深夜労働を行った労働者に対する健康診断又は産業医による面接指導などの健康確保措置を行うことを前提として、以下のいずれかを認めるべきである。

  1. ① 各月の深夜労働の回数制限を設けたうえで、深夜労働に対する割増賃金規制を適用しない(ただし、深夜の勤務時間をあわせて1日の労働時間が8時間を超えた場合は、通常どおりの割増賃金を払うこととする)
  2. ② 現行法で厚生労働大臣が必要と認める場合はその定める地域又は期間について深夜割増賃金規制の対象時間を午後11時から午前6時までとすることが認められているところ、就業規則等により割増賃金規制の対象時間を数時間後ろ倒しする

これにより、労働者の健康に十分配慮しつつ、介護等との両立をはじめとする、個々人の就労ニーズにあわせた柔軟な働き方が広がると期待される。

<根拠法令等>
  • 労働基準法第37条第4項
No. 39. 安全運転管理者等が行う点呼の遠隔実施及び外部委託の明確化
<要望内容・要望理由>

道路交通法第74条の3に基づき、いわゆる白ナンバー事業者において乗車定員11名以上の自動車を1台以上使用したり、その他の自動車を5台以上使用したりする事業所では安全運転管理者等の選任が規定されている。

2022年で約34万人の安全運転管理者等が選任されており、その数は毎年増加している。この安全運転管理者等が実施すべき業務として、「点呼」が挙げられるが、2022年4月より新たに「酒気帯び確認」が追加された。「酒気帯び確認」は、直行直帰の場合など対面での確認が困難な場合を想定し、警察庁通達(「安全運転管理者制度に関する留意事項について」2022年9月9日付、「道路交通法施行規則の一部を改正する内閣府令等の施行に伴う安全運転管理者用務の拡充について」2021年11月10日付)にて遠隔実施及び外部委託が認められている。他方、「点呼」については遠隔実施及び外部委託について明文化されておらず、非公式に警察庁に確認したところ、認めない旨の回答があった。

一般的な実務としては、「点呼」と「酒気帯び確認」は一体的に実施されている。そのため、「酒気帯び確認」が遠隔実施や外部委託が可能であったとしても、対面で行う必要のある「点呼」に合わせて「酒気帯び確認」も対面で実施するしかなく、整合性が取れていない規制となっている。なお、いわゆる緑ナンバーのトラック事業者においては、貨物自動車運送事業輸送安全規則第7条の第2項に記載されている通り、「点呼」と「酒気帯び確認」は一体のものとして取り扱われており、同時かつ一体的に実施されている。また緑ナンバーのトラック事業者ではIT技術を活用した「点呼」の遠隔実施が2007年から認められており、バス、タクシー事業者においても2018年から遠隔実施が認められている。

そこで、白ナンバー事業者における安全運転管理者等が行う点呼について、酒気帯び確認と同様に、遠隔実施及び外部委託を可能にすべきである。

これにより、白ナンバー事業者における安全運転管理業務のデジタル化が推進され、34万人に及ぶ安全運転管理者等の働き方改革が期待できる。

<根拠法令等>
  • 道路交通法施行規則第9条の10
  • 安全運転管理者制度に関する留意事項について(通達2022年9月9日付)
  • 道路交通法施行規則の一部を改正する内閣府令等の施行に伴う安全運転管理者用務の拡充について(通達2021年11月10日付)
No. 40. 国外滞在中の日本人(留学生等)の帰国後の円滑な就労に向けた職業紹介事業にかかるルールの見直し
<要望内容・要望理由>

留学生をはじめとする国外滞在中の日本人の帰国後の就業支援を通じ、国際性を備えた優秀な人材を確保する重要性が高まっている。とりわけ、コロナ禍を契機にオンラインでの意思疎通が一般的になるに伴い、国外滞在中の日本人を対象としたオンラインを活用した職業紹介のニーズが拡大している。

現在、国内の有料職業紹介事業者が、日本人を含めた国外滞在中の求職者を対象に職業紹介を行うには、当該相手先国に関する書類(相手先国の関係法令やその日本語訳等)の提出が許可要件として求められている。

オンライン会議を利用した職業紹介は求職者の居住地に関わらず国境を越えて行うことが可能だが、こうした新たな事業形態が同許可要件の中で想定されていない。そのため、国内事業者がオンラインで職業紹介を行う過程で、求職者が海外在住であることが判明した場合、許可を得ていない事業に該当する恐れがあることから、結果的に、サービスの提供を中断せざるを得ないといった事案も発生している。

そこで、有料職業紹介事業の許可要件において、「国外滞在中の日本人(留学生等)を対象にオンライン会議を活用してあっせんサービスを提供する場合」について、手続の簡素化も見据えルールを見直すべきである。

これにより、オンラインを活用した職業紹介事業の活発化を通じ、留学生をはじめとする国外滞在中の日本人の円滑な就労に資することが想定される。また、こうした人材が有する多様な経験や技能が国内企業に還元されることで、わが国の産業競争力の維持・強化に繋がることが期待される。

<根拠法令等>
  • 職業安定法第31条
  • 職業紹介事業の業務運営要領
  • 第3 許可基準
     3 有料職業紹介事業の許可基準に関する留意事項
      (3) 法第31条第1項第3号の要件について
       ト 許可基準の3の(4)「適正な事業運営」について
        (ホ) 国外にわたる職業紹介に関する要件
  • 第5 申請、届出等の手続の原則
     2 申請、届出等の添付書類
      (1) 有料職業紹介事業に係る主な申請、届出等の添付書類
       イ 有料職業紹介事業許可申請書の添付書類
        (9) 相手先国に関する書類
No. 41. 職業安定法における職業紹介事業と募集情報等提供事業との区分等に関するルールの明確化
<要望内容・要望理由>

職業安定法では、有料職業紹介事業は許可制、特定募集情報等提供事業は届出制とされている。近年、テクノロジーの進展に伴い、スタートアップを始めとする多くの企業が、デジタル技術を活用し雇用の需給調整機能の強化に資する様々なビジネスモデルの開発を進めている。

  1. ① 多様な事業が生み出される中、その事業が「職業紹介事業」又は「募集情報等提供事業」のいずれに該当するか、以下のとおり事業者が自ら判断することが困難なケースがあり、円滑な事業活動に支障が生じている。

     a 職業紹介事業の一形態として、自社で開発したソフトウェア等を用いてサービスを提供するものがある。サービスの一部(システムの使用方法の説明業務等)を外部に業務委託する際、委託業務が具体的にどの範囲までであれば職業紹介事業とみなされず、名義貸し禁止条項(職業安定法第32条の10)との関連で問題とならないか、「申し込みを受け」や「あっせん」といった職業紹介の意義(職業安定法第4条第1項)の論拠が不明瞭であるため判断が難しく、業務委託を活用したサービス拡大に躊躇している。

     b 事業者が、全ての求人に関する情報を全ての求職者に対して閲覧可能な状態で提供した上で、メール等の配信によりその一部の求人に関する情報を一部の求職者にのみ送付することは、「選別した提供相手にのみ提供を行うこと」又は「選別した情報のみ提供をおこなうこと」に該当せず有料職業紹介事業の許可は不要だが、「メール等」に、例えば、自社のツール上の全件表示画面以外の画面にて一部の求職者等の情報を表示することや電話による情報提供等が含まれるか、「メール等」としている論拠が不明であるため判断が難しく、メール以外の手段が取りづらい状況となっている。

  2. ② また、有料職業紹介事業者には、事業所ごとに法定の帳簿書類を作成して備付ける義務や雇用主に対しあっせんした無期雇用就職者に関する離職調査を行う義務が課せられており、当該義務の履行には、事業者が雇用主から無期雇用就職者に係る個人情報の提供を受ける必要があるが、個人情報保護法抵触の恐れがあることを理由に提供されないことがある。

そこで、テクノロジーの進展による事業形態の多様化を踏まえ、「職業紹介事業」の意義・具体的範囲や、募集情報等提供事業との区分基準を明確にするとともに、雇用主・事業者間にて、職業安定法に則って就職者に関する個人情報の授受をすることは、個人情報保護法に抵触しないことを明確にすべきである。

これにより、求人・求職サービスに関わる事業者の迅速かつ適正な事業遂行の推進に繋がり、労働市場におけるマッチング機能の強化ひいてはわが国産業の競争力向上・維持に繋がることが期待される。

<根拠法令等>
  • 職業安定法第4条第1項、第32条の10、15、16
  • 職業安定法施行規則第24条の7、第24条の8第5項
  • 個人情報の保護に関する法律第27条第1項第1号
  • 職業紹介事業の業務運営要領 第1 4労働者派遣事業等との区別(4)
  • 平成11年労働省告示第141号
No. 42. 外国人労働者採用時の厚生年金保険等資格取得手続・管理における氏名フリガナ欄の記載緩和
<要望内容・要望理由>

厚生年金保険法施行規則では、厚生年金保険の適用事業所の事業主は、日本国籍を有しない外国人労働者のうち、個人番号と基礎年金番号が結びついていない者や番号制度の対象外である者を採用した場合、「被保険者資格取得届」とともに、「厚生年金保険被保険者ローマ字氏名届」を日本年金機構に提出することとなっている。日本年金機構は、これらの届と住民基本台帳との間でフリガナを含む項目を照らし、本人確認を行っている。

しかし、日本国籍を有しない外国人労働者とその被扶養者の氏名には、そもそも正しいフリガナが存在せず、フリガナ記載の必要性が乏しい。ある企業では対象者の7~8割に、住民基本台帳に記載されたフリガナとの相違によるエラーが発生し、届出事務が極めて煩雑化している。

そこで、日本国籍を有しない外国人労働者に限り、資格取得届やローマ字氏名届におけるフリガナ記載を廃止すべきである。外国人の本人確認の手続は、エラーが生じにくいローマ字をもとに、氏名・生年月日・個人番号等で総合的に行うことで、円滑に進むものと考える。

なお、フリガナ記載の廃止が難しい場合、通常の日本語には無い多様な氏名を持つ外国人労働者に配慮し、記入ミスや読み取りミスを起こしにくくするため、少なくとも資格取得届やローマ字氏名届における氏名欄・フリガナ欄の幅を拡大すべきである。また、フリガナ記載内容の妥当性について、日本年金機構を所管する厚生労働省は、わが国での就労者の多い国を中心に、在日大使館などを通じて意見照会、確認を行い、企業側へ周知することも必要である。

これにより、外国人材の実情に即した、受入れ時に必要となる制度整備の推進、手続の事務負担の軽減が期待できる。

<根拠法令等>
  • 厚生年金保険法施行規則第15条、附則(昭和54年4月21日厚生省令第18号)の2
  • 厚生年金保険法附則第73条
  • 行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律第3条の2
No. 43. 機械器具設置工事の監理技術者となるための技術検定の創設
<要望内容・要望理由>

建設業の監理技術者の資格を得るためには、建設業法や関連法に基づく国家資格の取得、または、一定の要件を満たす実務経験(但し指定建設業7業種を除く)が必要である。現状、建設業29業種のうち4業種のみ、監理技術者となり得る国家資格にあたる建設業法に基づく技術検定が整備されていない。このため、それら業種の監理技術者の多くは、元請4,500万円以上の工事で指導監督的な実務経験を2年以上経て、監理技術者の資格を取得している。

このうち、機械器具設置工事は、監理技術者の資格保有者数は横ばい傾向であるものの、元請完成工事高は大幅な増加傾向にあり、人手不足が続いている。また、工事の性格上、工事期間が短い場合が多く、2年の実務経験を積むまでに長い期間を要することから、若手の資格取得は難しく、有資格者の高齢化が進んでいる。

そこで、機械器具設置工事の監理技術者となり得る技術検定を早期に創設すべきである。

これにより、監理技術者の確保が進み、工場の生産設備や港湾の荷役設備をはじめ機械器具の設置工事がより円滑に実施できるようになれば、国内投資の拡大につながることが期待される。また、若手の監理技術者資格の取得を促すことができ、若手の活躍促進にもつながると考えられる。

なお、国土交通省の「適正な施工確保のための技術者制度検討会」(2014年9月~2017年6月)では、機械器具設置工事の技術検定の創設が論点に上がった。しかし、当時、機械器具設置工事の監理技術者の資格保有者数は横ばい傾向で、元請完成工事高は減少傾向にあるとして、具体的な検討は見送られた。また、同検討会の「とりまとめ」では、技術検定の無い業種はその創設の必要性が高まっていないか適宜検証していくべきとの旨が盛り込まれている。既述の通り、機械器具設置工事の元請完成工事高が増加傾向に転じるなど状況は変化しており、早期に検証を開始することが求められる。

<根拠法令等>
  • 建設業法第15条第2号、第27条第1項
  • 建設業法施行令第34条第1項
No. 44. 大学の卒業要件として修得すべき単位のうち、遠隔授業により修得可能な単位数の上限の撤廃・緩和
<要望内容・要望理由>

グローバル化やデジタル化が加速度的に発展するなど、大学をめぐる内外の環境は大きく変わっている。特に、コロナ禍を契機に、世界中の大学でオンライン授業が普及し、教育環境は大きく変化するとともに大学教育の可能性が拡大している。遠隔授業には、空間的・時間的な制約が少ないことから、様々な利点がある。例えば、(1)ライブ配信型の遠隔授業では、教員・学生間や学生同士による双方向のコミュニケーションが可能である、(2)オンデマンド型の遠隔授業では、一度聞いただけでは理解できなかった箇所を理解するまで繰り返し聞くことで習熟度を高められる、(3)オンデマンド型の事前学習で知識を習得した上で、ライブ配信型や対面での授業でグループ討議やプレゼンテーション等を実施することで、学びを深められる、(4)授業を受ける利便性が向上し、時間や交通費の節約につながる上に、課外活動に取り組みやすくなる、(5)海外にいる学生や障がいを持つ学生が授業を受けやすい、などの利点があり、学生の学修効果や教育の質の向上に寄与している。

そこで、大学の卒業要件として修得すべき単位のうち、遠隔授業により修得可能な単位数を60単位とする上限について、撤廃あるいは緩和すべきである。現状、教育課程等における特例制度の活用により、60単位を超えて遠隔授業を卒業要件単位に含めることが可能となっている。しかし、各大学がデジタル化やグローバル化の急速な社会の変化に対応しつつ、特色ある教育を展開するには、特例制度では不十分であり、幅広い大学で認めるべきである。

これにより、大学が教室の設置等に係る設備投資を抑えられる一方で、そのコストを教育の質向上に投資しやすくなる。また、大学がリカレント教育を受ける学生を取り込みやすくなり、授業料収入の増加が期待できる。

社会的効果としては、地方の大学が大都市圏の学生を取り込むことができ、東京の一極集中防止、地方の活性化につながる。

さらに、海外大学の教員による授業を増加させることができ、質の高い教育環境を整備できる。それによりグローバルな交流が可能となり、日本人学生がグローバル社会で活躍するための経験を培うことができるとともに、グローバルな人材獲得競争においてわが国の国際競争力を高めることができる。

加えて、授業のオンライン化の比重を高めることで、データの蓄積やデータに基づく授業改善・教育改革が可能になり、国全体の教育の質向上につながる。

<根拠法令等>
  • 大学設置基準第25条第2項、第32条第5項
No. 45. 届出電気通信事業者の報告負担軽減に向けたBPR(業務改革)
<要望内容・要望理由>

電気通信事業法は、届出電気通信事業者(他人の通信を媒介するが、電気通信回線設備を設置しない電気通信事業者)に対し、通信の秘密の漏洩やサービスの停止等、重大な事故が発生した際、総務大臣への遅滞ない報告を義務付けている。また、「電気通信役務の提供を停止または品質を低下させた事故」で、「影響利用者数3万以上又は継続時間2時間以上」に該当する場合、サービスの一時停止・品質低下など重大事故に該当しない事故であっても、四半期ごとの事故報告が求められる。しかしながら、当該四半期報告結果の利用は統計データとしての集計・公表にとどまり、費用対効果(事業者が多大なリソース・工数を割いて、四半期ごとの頻度で提出することの必要性・妥当性等)が明確でない中、スタートアップを含む各事業者に過度な負担を強いているのが現状である。

こうしたなか、当該事故報告の対象となる届出電気通信事業者は約20,000社、報告件数は年間で約7,000件であるが、メッセージングサービスの普及や改正電気通信事業法の施行(月間アクティブ利用者数1,000万人以上の検索サービス、SNSを提供する事業者が届出電気通信事業者に追加されたところ)に伴い、報告件数のさらなる増加が見込まれている。

そこで、日本全体の届出電気通信事業者に及ぼす経済的・社会的インパクトを斟酌し、事業者の負担軽減ならびに生産性向上という観点からBPRを徹底し、報告頻度と報告プロセスを抜本的に見直すべきである。具体的には、重大事故に該当しない事故の場合には「報告頻度を年1回」としつつ、各地方総合通信局からの重複的な提出要請を廃止し、受付窓口を完全に一本化すべきである。また、事故報告制度を嚆矢とし、ゆくゆくは、届出事項の変更や利用者数の報告等を含むあらゆる手続を行うことが可能なポータルを整備するなど、BPRの対象を電気通信事業法上の手続全般に拡大していくことが望ましい。

これにより、スタートアップを含む事業者の報告負担が軽減されることで、生産性の向上が期待される。

<根拠法令等>
  • 電気通信事業報告規則第7条の3
  • 電気通信事業法第166条第1項
No. 46. 退任者・退職者への株式報酬における開示事項の見直し
<要望内容・要望理由>

株式の第三者割当にあたって有価証券届出書又は臨時報告書を提出する場合、同書には原則として「第三者割当の場合の特記事項」欄を設けることとされている。例外的に、提出会社等(提出会社又はその関係会社)の役員等に報酬として、一定の方法で株式等(株式又は新株予約権)の第三者割当てを行う場合には、同欄の記載が不要となる。

しかし、提出会社等の退任者・退職者(役員等を退任した者又は提出会社等を退職した者)に対して、在任中・在職中の職務への対価として株式等の第三者割当を行う場合には、そのような例外が認められていない。そのため、退任者・退職者の氏名、住所、現在の職業及び提出会社への出資状況(個人の氏名に紐づけた保有株式数)を「第三者割当の場合の特記事項」欄に記載することとなる。これらの情報を公衆縦覧に供することはプライバシーの観点から懸念があり、株式報酬の導入・拡大の妨げになるおそれがある。他方で、退任者・退職者への株式報酬の交付によって、既存株主の権利が希薄化されるとしても僅かであり、また、支配権の不透明な移動が起こることも考え難いため、同欄による開示を求める必要性は乏しい。

そこで、提出会社等の退任者・退職者に対して、在任中・在職中の職務への対価として株式等の第三者割当を行う場合も、有価証券届出書等において「第三者割当の場合の特記事項」の記載を不要とすべきである。それが難しい場合であっても、有価証券届出書等の「第三者割当の場合の特記事項」中の「割当予定先の概要」のうち、氏名、住所、職業の内容、及び提出会社への出資状況の記載は不要とすべきである。

<根拠法令等>
  • 企業内容等の開示に関する内閣府令第19条第2項第1号ヲ
  • 企業内容等の開示に関する内閣府令第二号様式 記載上の注意23-2
No. 47. 株式の無償交付の従業員等への拡大
<要望内容・要望理由>

2019年会社法改正では、上場会社の取締役・執行役に対して、報酬としての株式の無償交付(金銭の払込み等を要しないこと)が認められた。しかし、上場会社の従業員および子会社の役職員(取締役・執行役および従業員)に対しては、株式の無償交付が認められていない。

上場会社の従業員に対して株式の無償交付ができないため、会社が対象者に対して金銭債権を付与したのち、当該債権の払込みと引き換えに株式を交付するという現物出資形式が採用されている。しかし、現物出資形式では、株式交付の対象者が具体的な内容を理解しにくいという問題点がある。

子会社の役職員への株式報酬については、子会社が役職員に付与する金銭債権に対して、親会社が子会社の債務を併存的に引き受け子会社と連帯して履行する契約を締結している。この契約に基づき、親会社は金銭債権と引き換えに子会社の役職員に株式を交付した後、子会社ごとに金銭債務額を求償する必要があり、運用が煩雑である。

また、国際会計基準(IFRS)を適用している上場会社で、上場会社の従業員および子会社の役職員にRSU(譲渡制限付株式ユニット)を付与する場合、権利付与と株式交付の時点が異なるため、上場会社が費用計上すべき金額および子会社に請求すべき金額(株式を受け取る権利が確定したときの株価)と、連結会計においてIFRSに従い計上すべき金額(当該権利を付与したときの公正価値)に差異が生じる。

そこで、上記の課題を解決するため、上場会社の取締役・執行役のみならず、上場会社の従業員および子会社の役職員に対しても、株式の無償交付を認めるべきである。

<根拠法令等>
  • 会社法第199条第1項第2~4号
  • 会社法第202条の2第1項第1号
No. 48. RSUの権利確定時における開示書類の提出の不要化等
<要望内容・要望理由>

RSU(譲渡制限付株式ユニット)は、一定の在籍期間後に株式を交付される権利である。

RSUの付与がインサイダー取引規制における重要事実に該当しうるため、コーポレートアクションに影響が出ないように、発行登録制度を利用して、事前にRSUの付与について開示している企業がある。その場合、RSU付与時における発行登録書提出と、RSUの権利確定時(株式交付時)における追補書類提出の2度にわたり、開示を実施する必要性が生じている。

そこで、米国のForm S-8にならい、RSUの付与時に株式の発行または処分に必要な届出を行うことで、権利確定時の届出を不要とする新たな開示様式の創設等をすべきである。

これにより、企業におけるRSUの利用が広がり、人の活躍促進に資するとともに、国内外の優秀な人材の採用競争力強化につながる。

<根拠法令等>
  • 金融商品取引法第4条第1項
  • 企業内容等の開示に関する内閣府令第19条第2項第2号の2

4. 成長産業の振興

(1)ヘルスケア・バイオ
No. 49. オンライン服薬指導の要件緩和
<要望内容・要望理由>

患者がオンライン服薬指導を希望する場合、医療機関は、患者に処方箋原本を渡さずに、患者希望に沿った調剤薬局に対して処方情報の送付や処方箋原本を郵送する必要がある。しかし、患者の希望に沿って薬局が選定されるため、医療機関によっては、時間的・人的コスト増により、その管理ができず、患者要望に沿うことができないケースが発生している。

一方、患者希望に沿った調剤薬局へ医療機関経由で処方箋原本を送付する以外で、仮に患者が処方箋を受領した後にオンライン服薬指導を実施するためには、患者が処方箋原本を薬局に持参あるいは事前に郵送する必要があるため、オンライン服薬指導のメリットを十分生かすことができない。令和5年1月26日より運用が開始された電子処方箋を活用することで、本課題は解消され得るが、その普及率は依然として低い水準にあるため、患者希望に沿ったオンライン服薬指導を促進するためには、電子処方箋の普及過渡期において、それを補完する対応が必要である。

また、処方箋原本を薬局が回収する手法についても課題が残る。来局困難な患者や遠隔診療の場合においては、薬剤師が患者宅を訪問して処方箋原本を受領し、内容を確認することにより、遡って当該処方箋による薬局での調剤とみなされる。このとき、調剤される薬剤が前回と同一であるために薬剤師が対面により情報提供を行う必要がないと判断し、「ファクシミリを利用した処方せん受入体制と患家での薬剤の受渡しについて」に規定された患者健康状態等を含めた特定条件を全て満たした場合には、電送された処方内容に基づいて行う薬剤の調製等は、(薬剤師以外の)配達を行った従業者が回収した処方箋原本を当該薬剤師が受領して内容を確認することにより、遡って当該処方箋による薬局での調剤とみなされる。つまり、いずれの場合においても薬剤師による処方箋原本の確認が求められている状況である。

一方で、現在では、情報通信技術等の進展により遠隔でも処方箋が電送されたものと同一であることは確認可能であり、処方箋原本が改ざんされたものでないことを確認することは可能である。

そこで、患者あるいはその介護者から処方箋情報を電送したときも、オンライン服薬指導を経て調剤薬の販売・交付ができるようにすべきである。また、上述の特定条件を満たした場合において、電送された処方内容に基づいて行う薬剤の調製等も、薬剤師による訪問確認を前提とせず、「オンライン服薬指導後、薬剤師以外の従業員や配送員が患家を訪問し、処方箋を受領・内容を確認することにより、薬剤師本人による当該処方箋原本の受領・確認なしでも、遡って当該処方箋による薬局での調剤とみなす」こととすべきである。

これにより、医療機関の負担軽減や患者要望に沿ったオンライン服薬指導をより多く実施することに繋がる。

<根拠法令等>
  • 「オンライン服薬指導における処方箋の取扱いについて」の改定について(令和4年3月31日付事務連絡 令和4年9月30日最終改正 厚生労働省医薬・生活衛生局総務課・厚生労働省医政局医事課 通知)
  • ファクシミリを利用した処方せん受入体制と患家での薬剤の受渡しについて(平成10年12月25日付 医薬企第90号 各都道府県衛生主管部(局)長あて厚生省医薬安全局企画課長通知)
No. 50. オンライン営業に特化した薬局業態の容認
<要望内容・要望理由>

2022年にオンライン服薬指導要領(2022年9月30日、薬生発0930第1号)がまとめられるなど、近年オンライン服薬指導は大幅に規制緩和された。また、薬局薬剤師の業務及び薬局の機能に関するワーキング・グループが公表したとりまとめ(令和4年7月11日、厚生労働省)では具体的な対策(アクションプラン)として調剤の外部委託の一部緩和(一包化)が掲げられており調剤受託専門薬局という形態も今後想定され得る。

しかし、オンラインでの処方・販売に特化した薬局・店舗販売業(以下「薬局等」)についてはいまだ認められていない。このため、薬局等は患者との対面機能を持たなければならない状況にある。

健康保険法第63条第3項では、(患者が)「自己の選定するもの」から保険給付を受けるものとされているが、これは患者が公道から保険薬局を選定できなければならないと解され、保険薬局開設にあたっては公道からの容易なアクセスを求める行政指導が行われている。厚生労働省保険局医療課発の事務連絡「保険薬局の指定について」でも、公道から容易にアクセスできなければならないとみえる記載がある。

また、同省の「薬局、医薬品販売業等監視指導ガイドライン」では、薬局開設者又は店舗販売業者は開店時間の1週間の総和が30時間以上であることが必要とされている。同ガイドライン及び「薬局並びに店舗販売業及び配置販売業の業務を行う体制を定める省令」では、開店時間中の薬剤師の常駐も求められている。さらに、薬局等構造設備規則(厚生労働省令)においては第1条の第1号(外観)、第4号(面積)、第5号(明るさ)、第10号(調剤室)にて対面での販売、授与のみを前提とした各種の規制が存在するため、店舗としての設備を維持しつづける必要があり、金銭的・人的コスト面において無駄が発生している。加えて、当該規則が医薬品の安全性確保の上でいかなる便益があるか必ずしも明らかでない。オンラインでの営業に特化した薬局等には患者が実際に訪れる必要はないため、これらの規制が想定していた事例がそもそもそぐわない状況にある。

2021年度の「規制改革・行政改革ホットライン」における厚生労働省の回答では、「一般用医薬品のインターネット販売に係る制度見直し」の要望に対し、「対応不可」との回答があった。この根拠として「一般用医薬品を販売するにあたっては、薬剤師や登録販売者による情報提供や確実な相談応需を行う体制が必要です。また、当該医薬品の販売を行う店舗の薬剤師・登録販売者が責任を持つことが困難な事態が発生しないよう当該店舗での管理の下、貯蔵、陳列している医薬品を販売することが求められます。」との回答があったが、店舗形態でないとそれらが行えない理由が必ずしも明確でなく、オンラインでの営業に特化した薬局等でも、それに適した構造設備規則を整備することにより、情報提供や相談応需、及び適切な医薬品の管理は対応可能であると考える。

そこで、近年の環境変化に鑑み、清潔に保つなどの医薬品の安全な販売に必要な現行基準は存置しつつも、診療から調剤までオンライン完結できる仕組みを実現すること及びオンラインでのOTC医薬品購入の利便性を向上させセルフメディケーションの一助とするため、対面機能を持たず、オンラインでの営業に特化した薬局等の業態を容認すべきである。

具体的には、

  1. ① 保険薬局における「公道に面する」規制の撤廃
  2. ② 開店時間の義務付け(週30時間以上)の撤廃
  3. ③ 実店舗内での薬剤師・登録販売者配置等の緩和(オンラインでの相談応需・情報提供を行う者の実店舗以外での配置を可能にすべき)
  4. ④ 薬局における調剤室・待合室基準の緩和、薬局等の店舗における医薬品陳列ルールの緩和

が必要である。

これにより、オンラインでの営業に特化した薬局等を可能とすることで、オンラインに特化した薬局等は合理的な経営を行うことが可能になり、従来発生していたコストの削減と、より多くの事業者による市場参入が期待できる。

これが薬局DXを推進し、ひいては患者の利便性向上や薬剤師の多様な働き方につながるものと考える。なお、貯蔵等に必要なルール(換気設備、冷温設備等)は引き続き適用することにより、適切な構造設備は維持できると考えられる。また、店舗毎の特徴を活かした機能分化・連携を強化し、一包化等の対物業務については、機械化が進む薬局に外部委託するなどして効率化を図ることで、薬剤師は、重複投薬や飲み合わせ等の処方箋内容チェック、医師への処方箋内容の照会、より丁寧な服薬指導、在宅訪問での薬学管理、効果や副作用あるいは服薬状況の有無に関するフィードバック、処方提案や残薬の解消等、専門性を活かした対人業務に集中し、患者に寄り添った付加価値の高い服薬指導を実施することが可能となる。

<根拠法令等>
  • 保険薬局の指定について(平成28年3月31日、厚生労働省保険局医療課事務連絡)別紙1
  • 健康保険法第63条第3項
  • 薬局等構造設備規則第1条、第2条
  • 薬局、医薬品販売業等監視指導ガイドライン
  • 薬局並びに店舗販売業及び配置販売業の業務を行う体制を定める省令
No. 51. オンライン診療における医療提供施設の緩和
<要望内容・要望理由>

医療法第1条の2第2項及び医療法施行規則第1条において、「医療は、(略)、病院、診療所、介護老人保健施設、介護医療院、調剤を実施する薬局その他の医療を提供する施設(以下「医療提供施設」という。)、医療を受ける者の居宅等(居宅その他厚生労働省令で定める場所をいう。)において(略)提供されなければならない」とされている。また、「オンライン診療の適切な実施に関する指針」(令和5年3月一部改訂)において、「医療は、医療法上、病院、診療所等の医療提供施設又は患者の居宅等で提供されなければならないこととされており、この取扱いは、オンライン診療であっても同様である。」との記載がある。同指針ではオンライン診療の実施に当たっての基本理念として、①患者の日常生活の情報も得ることにより、医療の質のさらなる向上に結び付けていくこと、②医療を必要とする患者に対して、医療に対するアクセシビリティ(アクセスの容易性)を確保し、よりよい医療を得られる機会を増やすことが掲げられている。

こうしたなか、「規制改革推進に関する答申(令和5年6月1日、規制改革推進会議)」では、「今般へき地等において公民館等にオンライン診療のための医師非常駐の診療所を開設可能としたことを踏まえ、へき地等に限らず都市部を含めこのような診療所を開設可能とすることについて、引き続き検討し、結論を得る」とされた。上述の基本理念を実現させるには、患者自身の生活スタイルに合わせた都合の良い時間・場所で受診できる環境を整備する必要があり、こうした検討を加速させていく必要がある。

そこで、医療法で定められている「病院、診療所、介護老人保健施設、介護医療院、調剤を実施する薬局その他の医療を提供する施設(以下「医療提供施設」という。)、医療を受ける者の居宅等(居宅その他厚生労働省令で定める場所をいう。)」について、オンライン診療拡大の観点から、医療提供を可能とする対象施設・場の拡大を検討すべきである。例えば、図書館や郵便局、薬局、介護施設、駅及びコンビニエンスストアのような空間においても自身のプライバシーを確保できる電話ボックス型個別ブース等におけるオンライン受診等、オンライン診療の実施を可能とすべきである。

これにより、上述の指針における基本理念が実現できる。オンライン診療における医療提供施設の緩和を行うことは、患者の定期受診徹底など広い患者ニーズに対応でき、健康寿命の延伸、予防医療の増進にもつながることが期待される。

<根拠法令等>
  • 医療法第1条の2第2項
  • 医療法施行規則第1条
  • オンライン診療の適切な実施に関する指針(令和5年3月一部改訂)
No. 52. D to P with D(患者が医師といる場合のオンライン診療)の実施要件緩和
<要望内容・要望理由>

「オンライン診療の適切な実施に関する指針」(以下「同指針」という)において、現在のD to P with D(Doctor to Patient with Doctor)の適用対象は、「希少性の高い疾患等、専門性の観点から近隣の医療機関では診断が困難な疾患であることや遠方からでは受診するまでに長時間を要すること等により、患者の早期診断のニーズを満たすことが難しい患者を対象に行うこと」とされている。他方、「希少性の高い疾患等」にどのような疾患が含まれているか明確ではない。また、オンライン診療の目的が「患者の早期診断のニーズを満たすことが難しい患者を対象に行うこと」に限定されており、診断後の治療継続(フォローアップ)については適用が明記されていない。

日本における地域医療の維持、確保、専門医の地域偏在等の課題を踏まえると、特に難病・希少疾患分野ではDXによる課題解決が求められるが、現状では対応が十分ではないと考える。

遠隔連携診療による専門医との連携は、将来の専門医育成と確保にも資する重要な取組みでもある。難病・希少疾患分野は全国的に専門医が少なく、D to P with Dは、完治が困難な難病・希少疾患分野において安定的かつ長期的に患者の疾患管理を行うことで、患者に便益をもたらす選択肢である。

そこで、同指針のD to P with D適用対象のうち、「希少性の高い疾患等」については、難病・希少性疾患がすべて対象となるのか明確化すべきである。また、「患者の早期診断のニーズを満たすことが難しい患者を対象に行うこと」については、患者の早期診断ニーズの充足のみでなく長期的治療を提供するため対象患者に「診断後の治療継続(フォローアップ)が必要な患者」を追加する等対象患者の拡大を要望する。

これにより、難病・希少疾患で苦しむ患者の居住地にかかわらず、D to P with Dへの適切なアクセス確保を行うことができる。

<根拠法令等>
  • オンライン診療の適切な実施に関する指針(平成30年3月(令和5年3月一部改訂))
No. 53. 医療保険情報取得API利用時の包括同意の容認
<要望内容・要望理由>

マイナポータルの医療保険情報等取得APIを活用して利用者の医療保険情報の提供を受ける事業者は、その度に、利用者本人の同意を得る必要がある。

例えば、給付金支払事由に該当する入院を、期間を置いて複数回した場合において、入院給付金請求をする度に、マイナポータルの画面上で、給付金請求手続に必要となる自身の医療保険情報を保険会社に提供することについて同意する必要がある。

この同意の確認については、手間が煩わしいとして、利用者が医療保険情報等取得APIを用いた民間サービスの利用を躊躇する理由の一つになっている。その結果として、事業者は、医療保険情報取得API等の利用による恩恵を十分には得られなくなっており、利用者も適切なサービスを得る機会を失う恐れがある。

そこで、マイナポータルの医療保険情報取得APIを活用して事業者が利用者から医療保険情報の提供を受けるにあたり、本人の同意を得た利用目的、開示範囲、開示先、期間に限り、入院・手術や健康診断等を受けた際に医療保険情報が事業者に自動連携されることについて本人の事前同意を得ることを可能とすべきである。具体的には、ガイドラインで包括同意が可能であることを明示するとともに、これと合わせる形でシステム改定を行うべきである。

これにより、利用者の利便性向上につながるとともに、本人同意に基づく医療保険情報の民間利用が促され、民間企業による新たなサービスの創出や、既存サービスの利便性向上が期待される。

<根拠法令等>
  • 行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律第8条第2項第1号
  • マイナポータル医療保険情報取得API利用ガイドライン
  • マイナポータルAPI利用規約
No. 54. 医療用医薬品の安全性情報の提供・収集のデジタル化促進
<要望内容・要望理由>

「緊急安全性情報等の提供に関する指針について」の一部改正について(令和2年5月15日)において、製薬企業が行う医薬品安全性管理活動のうち、緊急安全性情報等の提供については直接配布(対面での資料配布等)が原則とされている。

また、「医療用医薬品の市販直後調査の実施方法等について(令和4年5月31日)」では、医薬品の製造販売業者が販売を開始した時点から6か月間行う市販直後調査の実施において、原則として、納入前に医薬情報担当者(MR)等が医療関係者に対し、対面やオンラインによる面談等によって行うこととされている。これに関連した「医療用医薬品の市販直後調査に関するQ&Aについて(令和4年5月31日)」では、代替手段として手紙、ファクシミリ、電子メール、ダイレクトメールが挙げられている(Q22)。

一方、市販直後調査実施報告の際に提出する別紙様式においては、MR等による対面やオンラインによる面談等が未実施の施設がある場合には、その理由が求められており(Q28)、日本国内で製薬企業はMRを介した情報収集・提供を実施していることが現状である。例えば、市販直後調査は、販売開始から2か月間はおおむね2週間以内に一度、その後は概ね1か月以内に一度のペースで調査対象となる納入先医療機関の全件を訪問し当該製品の情報提供・収集を実施している。

昨今、デジタル技術が格段に進歩し、MR等による対面やオンラインによる面談以外の情報提供又は収集のプラットフォームを活用すること等により、多様な働き方が推進される時代になっており、欧米においてはコールセンターによる電話・メールやシステム入力等を利用した医薬品安全性管理活動が一般的である。

そこで、緊急安全性情報や市販直後調査の実施において、MR等による対面やオンラインによる面談等を原則とする規制から、MR等による対面やオンラインによる面談等を前提としない規制に改めるべきである。併せて、医療機関に対し確実かつ迅速な情報提供及び情報収集ができる方法であることを説明できる場合には、面談等が未実施である個別医療機関ごとの理由を求めない規制に変更すべきである。

これにより、時代のニーズに合わせたデジタル活用を前提とした、医療用医薬品の緊急安全性情報等の提供及び市販直後調査の実施に向けた仕組みがより構築される。その結果、医療関係者等のニーズに合わせた柔軟な対応が出来るようになり、これまで以上に迅速かつ的確な情報収集・提供の実現が可能となる。また、このようなDXを産業界全体で推進することにより、医薬品の有効性、安全性及び品質をこれまでと変わらず担保しつつ、安全性情報の収集・提供の質が向上し、国民の健康増進につながるものと考える。

<根拠法令等>
  • 医療用医薬品の市販直後調査の実施方法等について(令和4年5月31日薬生安発0531第1号厚生労働省医薬・生活衛生局医薬安全対策課長通知)
  • 医療用医薬品の市販直後調査に関するQ&Aについて
  • 「緊急安全性情報等の提供に関する指針について」の一部改正について(令和2年5月15日薬生安発0515第1号厚生労働省医薬・生活衛生局医薬安全対策課長通知)
No. 55. スイッチOTC医薬品候補の総審査期間の設定
<要望内容・要望理由>

行政手続法第6条では、「行政庁は、申請がその事務所に到達してから当該申請に対する処分をするまでに通常要すべき標準的な期間を定めるよう努める」ことが定められている。1985年に厚生労働省は通知で、新医薬品の承認の予見可能性向上に向けて、医療用医薬品は1年、要指導・一般用医薬品は10か月の標準的事務処理期間を総審査期間として設定しているが、スイッチOTC医薬品候補の総審査期間は示されておらず、1985年以降見直しもされていない。

スイッチOTC医薬品候補の承認申請の過程では、医薬品医療機器総合機構(PMDA)で承認申請がされた品目であっても、その審査とは別に厚生労働省の実施する「医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議」で審議されることになっている。

他方で、本検討会議での審議時期や進行状況が示されておらず、審査が長期化し、企業における開発の予見可能性が高まらない。例えば、2018年以降にスイッチOTC医薬品として承認された医薬品10成分の総審査期間は10~102ヶ月であり、申請後に本検討会議に掲題、または、審査中に臨床試験等の実施を求められた4成分に限れば、37~102ヶ月であった。開発において他社との契約が必要な場合は、予見可能性の低さを理由に契約締結に支障が生じることがあり、開発上の大きな障害になっている。

そこで、医療用から要指導・一般用に転用する有効成分(スイッチOTC医薬品候補成分)等の標準的事務処理期間を総審査期間として設定することを求める。なお、医療用医薬品の標準的事務処理期間が1年であることを鑑みると、スイッチOTC医薬品候補等においては1年よりも短い期間とすることが妥当である。

これにより、予見可能性向上による企業の開発意欲の向上、審査の迅速化による承認品目数の増加、国民にとって新たな一般用医薬品の選択肢の増加によるセルフメディケーションへの意識醸成に寄与できる。

<根拠法令等>
  • 行政手続法第6条
  • 薬発第960号 厚生省薬務局長通知
No. 56. 医薬品開発における先端技術利用の促進
<要望内容・要望理由>

医薬品開発の効率化・促進を目的に、動物実験の代替となり得る生体模倣システム(Microphysiological Systems:MPS)などの先端技術(例:臓器チップ等)を医薬品開発の際の評価等のツールとして利用する動きが世界で加速している。アメリカ食品医薬品局(FDA)や欧州医薬品庁(EMA)では、新薬の承認申請等に必要な試験(薬理試験、薬物動態試験、安全性試験などの非臨床試験)の際の、先端技術利用に関するガイダンスが発出されるなど、先端技術を取り入れたより効率的な創薬環境の整備が進められている。

一方、わが国では、独立行政法人医薬品医療機器総合機構法において、当局の医薬品等の品質、有効性及び安全性の向上に資する審査等の業務が規定されているが、先端技術の利用に関する具体的な記述に踏み込んでいないために、企業は国内の医薬品開発に関わる申請用試験の評価に先端技術を用いることが困難な状況にある。レギュラトリーサイエンス総合相談/戦略相談といった当局に個別相談できる制度が存在するものの、先端技術毎に相談する仕組みだけでは非効率であり、わが国の先端技術利用の遅れを根本的に取り戻す解決策とはならない。医薬品開発ツールは、科学技術の進歩とともに更新されていく必要があり、医療の進歩と直結することから、わが国においても、先端技術を積極的に導入する仕組みを用意しておくことが求められる。2022年11月に開催された日本学術会議の公開シンポジウムにおいても、複数の委員会から仕組みの必要性が謳われている。

そこで、先端技術を用いた医薬品開発ツールの適格性認定に関して必要なプロセスを明確にすべきである。

これにより、新たな医薬品開発ツールの開発で求められる性能要件の見通しが立てやすくなる。先端技術の医薬品開発ツールとしての活用は、動物実験と比べて同等以上の精度で安全性・有効性を評価できる可能性を有し、米国における新薬開発における動物実験の義務付け撤廃のためのFDA近代化法2.0の成立で改めて注目されている。国際的な動物実験3Rs(①動物の苦痛の軽減:Refinement、②使用数の減少:Reduction、③代替法の活用:Replacement)の推進などSDGsへの貢献にもつながる。医薬品開発の効率化・促進や、わが国の創薬研究開発力の維持、関連産業の発展に資するものである。

<根拠法令等>
  • 独立行政法人医薬品医療機器総合機構法第15条の5
No. 57. 医薬品の臨床試験における治験薬管理者の要件見直し
<要望内容・要望理由>

新しい技術や手法の活用(オンラインでの診療、デジタル機器の活用等)により、患者中心の臨床試験を実現するための取組みとしてDCT(Decentralized Clinical Trial:分散型臨床試験)が注目されている。具体的には、DCTを行うことで、治験参加者の医療機関への通院負担が大幅に軽減できることから、従来は難しかった遠隔地に居住する患者等の治験参加が期待される。

しかし、現在の「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」(以下GCP)では、治験薬の適切な管理のために選任される治験薬管理者について、原則として治験実施医療機関の薬剤師に限定されている。そのため、治験実施医療機関から離れた場所に居住している治験参加者が治験に参加する場合、注射薬などの治験薬投与のために、治験参加者の治験薬が保管されている遠方の治験実施医療機関への通院を余儀なくされている。

そこで、該当の治験使用薬(注射剤等)について、調剤経験のある薬剤師であれば、医薬品の適応拡大の場合や該当成分が内服の医薬品として既に販売されている注射剤の場合等において、治験実施医療機関以外の所属でも治験薬管理者として選任できるような改正を検討すべきである。治験薬が新規成分の医薬品でなく、かつ、既に通常診療科において適応症を獲得している疾患への投与のための調剤経験が当該薬剤師にある場合は、通常診療と同じプロセスで調剤が可能であり安全性上の問題が生じないと考える。

具体的には、GCP 第39条第2項に記載されている「原則として、当該実施医療機関の薬剤師を治験薬管理者として選任すること。」について、「ただし、該当治験薬の調剤経験のある薬剤師の場合で、実施医療機関の長が治験薬管理者として適格と判断した場合には、当該実施医療機関以外に所属する薬剤師でも治験薬管理者として選任することを可とする。」と追記すべきである。

これにより、DCTの推進・治験の円滑化による、医療・製薬・ヘルスケア分野における産業競争力強化、ドラッグラグ・ドラッグロスの解消が期待される。

<根拠法令等>
  • 医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令(GCP)第39条第2項
No. 58. 医薬品の適正使用に資する情報提供の規制緩和
<要望内容・要望理由>

現在、医療関係者以外の一般人に対する医療用医薬品の情報提供は、法規制のもと、その要件が厳格に制限されている。

しかし、患者及び患者団体を中心に、医薬品の適正使用に資する情報に関しては、医薬品の製造・販売を担う製薬企業自らによる情報提供や開示へのニーズが年々拡大している。一方で、現在の法規制下においては、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌といった従来のメディアは勿論、WEBやSNS等といったIT系のインフラに至るまで、一般人に対する医療用医薬品の情報提供に際しては、製品名を使用することが一律に顧客を誘引する行為(広告行為)に該当する可能性が高いと判断されてしまう。

そのため、医薬品に関する不適切あるいは誤った情報がSNSで拡散されているケースにおいてさえ、製薬企業自らが対処しにくいため、健康被害や不適切な自己判断を阻止しきれないケースが生じている(例:コロナ禍における、イベルメクチンのエビデンスに基づかない情報拡散による健康被害の発生、ワクチン副反応に対する不適切な自己判断による重篤事象の発生)。その他にも、医薬品安定供給に関する不十分な情報のインターネットでの拡散による、患者・家族の不安・恐怖感に繋がるケースも発生している(例:アブラキサンの供給停止)。

そこで、今後は製薬企業からも必要に応じて、患者や患者団体及びその家族に対し、医薬品の安全性に関わる情報のほか、安定供給に関わる情報を医療関係者に提示するものと近いレベルで提示できるようにすべきである。

具体的には、昭和55年薬務局長通知第1339号「医薬品等適正広告基準について」において、医薬品の安全性に関わる情報、または安定供給に関わる情報である場合は規制対象外とする旨を記載するなど、薬機法・医薬品等適正広告基準に規定された広告行為と見做される要件を必要十分な水準に緩和すべきである。

これにより、医薬品の適正使用推進に繋がることが期待できる。

<根拠法令等>
  • 薬機法第66条
  • 薬事法における医薬品等の広告の該当性について(医薬監第148号厚生省医薬安全局監視指導課長通知)
  • 医薬品等適正広告基準について(昭和55年10月9日薬発第1339号各都道府県知事あて厚生省薬務局長通知 改正平成14年3月28日医薬発第0328009号)
No. 59. 医療機器該当性判断の明確化
<要望内容・要望理由>

近年の科学技術の発展により、患者の健康・医療に係るソリューションが種々開発されているが、これが医療機器に該当するか否かは、開発プロセスや上市後のビジネスの観点で重要である。

特に、その判断に用いられる「プログラムの医療機器該当性に関するガイドライン」のうち、医療機器該当性に係るフローチャート①-2Cの分岐点「疾病の診断・治療・予防に使用されることを目的としているか?」の存在が、新たなソリューション開発の阻害要因となっているケースが存在する。

具体的には、抗がん剤治療に伴う副作用をレポートするソリューションは、その後の治療に影響が及ぶにも関わらず医療機器非該当とされ、一方で間質性肺炎の可能性を早期に検出して受診を促すソリューションは、直接的な確定診断には至らない可能性があるが医療機器に該当する。

前者の例は、いわゆるDigital Patient Monitoringに相当するものであり、こうしたモニタリングを主とするソリューションは、現行フローチャートでは、医療機器に該当しないと判断されてしまう。こうしたソリューションには保険適用がなされなくなることから、医療機関が当該ソリューションを積極的に利用するインセンティブが働かない。そのため、患者が本来享受できるアウトカムにつなげられていないという問題が生じている。

そこで、どのような疾病の診断や治療であれば医療機器に該当するかをガイドラインにおいて明瞭にすべきである。

これにより、開発者側にとって、開発しようとするソリューションの医療機器該当性についての予見可能性が高まり、開発が進みやすくなる。結果として、市場により多くの製品が登場し、健康の維持・管理・治療などの促進につながると期待される。

<根拠法令等>
  • プログラムの医療機器該当性に関するガイドライン
No. 60. 医療機器(認証品目)のサーベイランス審査制度の見直し
<要望内容・要望理由>

当局承認が必要な医療機器(クラスⅢ及びクラスⅣ)に比べ、不具合が生じた場合の人体へのリスクが低いと判断されるクラスⅠに該当する医療機器は自己認証、クラスⅡに該当する医療機器は一部例外があるものの第三者認証での製造販売が可能である(自己認証、第三者認証での製造販売が可能な品目を以下、認証品目とする)。

しかしながら、認証品目の医療機器は、クラスⅢ及びⅣの当局承認が必要な医療機器には対しては求められていない当局調査への対応が求められる。具体的には、厚生労働省令で定める基準に適合し、適正な管理の下に、これら医療機器等を製造しているかどうかを調査するために当局が実施する定期QMS適合性調査の年を除き、「登録認証機関によるサーベイランス審査」を毎年受審する必要がある。

対象となる製造販売業者は、これに対応するためのリソースが追加で必要になっている。サーベイランス審査日の前後で計半年程度、対応のための期間が発生しているほか、審査日は30人程度が対応する必要があることから、新たなソリューション開発等に従事すべき人員を、当該対応に従事させる必要がある。

その結果として、上述の規制が、社会にとって新たなる有益な医療機器を迅速に市場に普及させることの障壁となっており、当該サーベイランス審査を医療機器に係るリスク区分に基づいて適正化する必要がある。

そこで、不具合が生じた場合の人体へのリスクが相対的に低く、クラスⅢ及びⅣに該当する医療機器と同じく、認証品目の医療機器について5年ごとの定期QMS適合性調査のみであったとしても安全性は確保されるため、薬食機参発0401第1号を改正し、認証品目の医療機器についても5年ごとの定期QMS適合性調査のみとすべきである。

これにより、社会にとって有益なソリューションの市場への普及を推進することができ、国民の健康増進が図られる。

<根拠法令等>
  • 薬食発第0720022号
  • 薬機法第2条第5~7項、第23条の2の5第1項、第23条の2の23第1項及び第23条の2の12第1項
  • 平成17年厚生労働省告示第112号
  • 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律第23条の7第1項第1号に掲げる登録認証機関の登録の基準に係る留意事項等について(平成27年4月1日厚生労働省大臣官房参事官通知、薬食機参発0401第1号)
No. 61. 感染症指定医療機関における第一種病室の設置要件の緩和
<要望内容・要望理由>

第一種感染症指定医療機関の病室(第一種病室)では、隣接する空間との空気の流入出を防ぐ「空気の緩衝帯」として、「前室」の設置が要件である。しかし、スペースの制約から「前室」を設けることが困難な場合があり、第一種感染症指定医療機関における第一種病室設置の妨げになっている。病室の新設が医療機関のスペースによって制限されるため、特にパンデミック時の柔軟な対応が困難となる。また、この要件を定めた感染症指定医療機関の施設基準は、厚生労働省が2020年に公表した「新型コロナウイルス感染症患者等の入院病床の確保について(依頼)」でも引用されているため、新型コロナウイルス感染症のまん延時に使われる病室数の制約となった。

2022年に日本医療福祉設備協会が示した「病院設備設計ガイドライン(空調設備編)」に、「前室以外の対策として、低速の一方向流など気流で空気の緩衝帯を作る技術がある」と記載されているように、スペースに依存しない「空気の緩衝帯」の設置のための技術の開発も進められている。そうした技術が、実験によっても隣接する空間への空気の流入出を防ぐ効果も実証#3されている。

そこで、感染症指定医療機関の施設基準における第一種病室の要件として「前室」の設置のほか、技術的な措置により「空気の緩衝帯」を設置することも認めるべきである。

これにより、第一種感染症指定医療機関において、「前室」を設置するスペースがない場所にも第一種病室を新設できるようになる。また、第一種感染症指定医療機関の指定が増える可能性もある。さらに、「前室」の利用時には「外部と前室、前室と病室の扉が同時に開かないこと」といった運用上の注意点に係る人為的なミスが起こりえる一方、技術的な措置を行った場合はそうしたミスは起こりえないため、特に第一種病室の周辺で働く医療従事者の安全性向上につながる。こうしたことから、次のパンデミック時に、医療従事者の感染リスクを減らしながら医療を継続できる医療機関が増やすことにつながる効果が期待できる。

<根拠法令等>
  • 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律第38条第2項
  • 感染症指定医療機関の施設基準に関する手引きについて
No. 62. 有機シアン化合物及びこれを含有する製剤の包括的な劇物指定の見直し
<要望内容・要望理由>

毒物及び劇物指定令第2条第32号において、「有機シアン化合物及びこれを含有する製剤」は、試験等により毒性が否定された一部の化合物及び製剤を除き、劇物相当の毒性が懸念されない化合物も含めて包括的に劇物指定されている。

有機シアン化合物はユニークな薬理特性を有するものが多く、これまで2型糖尿病治療薬ビルダグリプチンなど90以上の化合物が医薬品として使用されている。他にも、化粧品や殺虫剤に活用されるなど、医薬品及び化学製品などの研究開発に極めて有用であるが、劇物指定により劇物相当の毒性が懸念されない化合物についても、必要な管理が格段に増えることで、利活用が著しく妨げられている。具体的には、盗難紛失・漏洩流出防止のための厳格な保管体制の構築、輸送・譲渡時に求められる業登録や表示通知義務への対応、輸入通関に要する手続等が挙げられる。

このようなことが原因となり、わが国では合成化学的及び薬理学的に魅力のある有機シアン化合物であっても、研究開発利用の忌避が発生しており、創薬研究に十分に活用できていない状況である。例えば、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の産学協同スクリーニングコンソーシアム(DISC)事業は、参加企業が保有する化合物を提供し合ってライブラリーを構築することにより、より多様な化合物の中から医薬品の候補化合物を効率的に見出すことを目的としたものであるが、その化合物ライブラリーから劇物である有機シアン化合物は除外されている。こういった利用の忌避による創薬機会の喪失は企業内でも起きており、海外メーカーとの競争における足かせとなっている。

現在も化合物毎に毒性確認のうえ、劇物指定解除を申請することは可能であるが、試験開始から終了までに数か月から年単位の期間を要する。また、製薬企業においては、数千種以上の有機シアン化合物を保有しており、個々の化合物について指定解除を申請することは現実的ではない。

そこで、人体への毒性が懸念されない化合物も含めた包括的な劇物指定ではなく、毒性の確認された、または毒性を有する科学的根拠のある有機シアン化合物及びこれを含有する製剤のみを劇物指定すべきである。

これにより、新薬の候補となりうる有機シアン化合物の特定や製品化にかかる期間が短縮されることで、日本の創薬力・化学力が向上し、国民の健康及び産業力の向上に資すると考えられる。

<根拠法令等>
  • 毒物及び劇物指定令第2条第32号
No. 63. 新医薬品の毒薬及び劇薬の指定基準明確化
<要望内容・要望理由>

新医薬品の毒薬及び劇薬については、薬事・食品衛生審議会の医薬品部会に諮問され、厚生労働大臣が指定することになっている。製薬企業は指定結果の公示日である承認日以降、毒薬及び劇薬の指定区分となった場合は、薬価収載後、速やかに当該医薬品を流通させるために約2か月間で劇薬に指定された場合には「劇」の文字が、毒薬に指定された場合は「毒」の文字が表示された容器又は被包(包装)を用意するため、多大な労力を要する。製薬企業にとっては、毒薬及び劇薬に指定されるか否かの判断が事前に予見しやすくなるだけで、このような労力が解消されることも多い。

そこで、新医薬品における承認時の「毒薬・劇薬指定基準(平成10年3月12日中央薬事審議会常任部会にて了承)」のうち、現状定性的な表記となっている基準②2)から6)の明確化を求める。基準の明確化が難しい場合は、少なくとも他社製品を含め、新医薬品における承認時の毒薬・劇薬指定の根拠の公表を求める。

また、当局の新医薬品に係る承認審査の標準的プロセスにおけるタイムラインのうち、現在初回面談時に品目の販売名変更が必要な場合にはその旨を医薬品医療機器総合機構(PMDA)から情報提示することになっているが(薬機発第1227001号、平成22年12月27日)、毒薬及び劇薬に該当する可能性がある場合においても同様に初回面談時にその旨の情報を提示すべきである。

これにより、毒薬・劇薬指定結果に対応するために製薬企業が割いてきた労力が削減され、当該医薬品流通がより確実なものとなる。ひいては、一日でも早く安定的に患者に新薬を届けることが可能となり、国民の健康増進に貢献できる。

<根拠法令等>
  • 毒薬・劇薬指定基準
  • 新医薬品の承認審査の進捗状況の確認について(薬機発第1227001号 平成22年12月27日)
No. 64. 低リスク遺伝子治療用製品の開発における治験開始前の環境影響評価の免除
<要望内容・要望理由>

遺伝子治療用製品の開発においては、「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律(カルタヘナ法)」に基づき、治験開始前に環境影響評価を実施し、主務大臣(厚生労働大臣及び環境大臣)の承認を得ることが求められている。現在、日本では治験開始前の申請書の提出から承認を得るまでの総事務処理期間の中央値が5.0か月(2022年度参考値)である。一方、米国においては原則、治験開始前の申請は不要とされ、承認審査の段階で環境影響評価の情報を添付し同時に審査を受けることとなっている。

このように、日本では米国に比べ治験開始に長い対応時間が必要となる。加えて、申請のための日本独自の資料作成・手続も必要であり、これらの要因が、米国と国内の遺伝子治療薬開発品目数の大きな差の一因となっていると考えられる。

カルタヘナ法は生物の多様性を確保するための国際ルールである「カルタヘナ議定書」を適切に運用するために定められた法律であるが、米国では議定書に批准していない。日本と同様、議定書に批准している欧州では、治験開始前の環境影響評価が求められており、業界団体であるARM(Alliance for Regenerative Medicine)、EFPIA(European Federation of Pharmaceutical Industries and Associations)、EuropaBio(European Association for Bioindustries)から欧州委員会に対し、治験開始前の環境影響評価を免除すべきとの共同声明が公表されている#4

遺伝子治療用製品に使用されるアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターは、自己増殖能がなくヒトに対する病原性のないウイルスに由来し、非分裂細胞では遺伝子発現が長時間持続することから、遺伝子治療用ベクターとして有力なベクターである。これまで、AAVベクターを利用した遺伝子治療用製品が複数承認されており、現在も様々な治験が実施されているが、これまでAAVベクターを用いた遺伝子治療による環境リスクは認められていない#5

そこで、欧州等の他のカルタヘナ議定書締約国と協調し、わが国においても少なくとも医療機器総合機構(PMDA)が公開している生物多様性影響評価書(AAV記載例 令和5年2月版)に事例としてあるAAVベクターのように、承認済みの複数の遺伝子治療用製品等医薬品で安全性が確認されている非増殖性で低病原性のリスクの低いベクターについては、治験開始前の評価を免除し、例えば米国と同様に承認申請時に審査を行うこととすべきである。

近年、PMDAの取り組みにより、カルタヘナ法関連承認審査の運用改善がなされ、事務処理期間の大幅な短縮が実現した。しかし、治験開始前の環境影響評価を要する欧州や日本よりも米国で遺伝子治療の開発が進んでおり、国内での承認が遅れる、または承認されない、いわゆるドラッグ・ラグやドラッグ・ロスに繋がることも懸念される。

本要望の実現により、ドラッグ・ラグやドラッグ・ロスの解消だけでなく、遺伝子治療用製品の開発における国際競争力の強化に資することが期待できる。

<根拠法令等>
  • 遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律(カルタヘナ法)第4条
  • 「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律に基づく手続の見直しについて」の一部改正について(令和3年11月25日 薬生発1125第1号) 別紙 第2の2
No. 65. 再生医療等製品及び医薬品の製造に使用する生物由来原料等に関わる規制の合理化
<要望内容・要望理由>

再生医療等製品及び医薬品(以下、製品)の製造にあたっては、使用される生物に由来する原料等について、細菌・真菌・ウイルス等の感染リスクから、製品の品質、有効性及び安全性を確保すること等を目的として、製造に使用される際に講ずべき必要な措置に関する基準が定められている(生物由来原料基準)。

  1. 1.リスクの管理基準について
    生物由来原料基準は、原料等の種類別に基準が設けられているが、原料等の段階で異なる感染リスクを持つものに同じ基準が適用されているものがある。

    例えば、ヒト/動物由来原料基準では感染リスクが低いと考えられる「ヒト/動物細胞株を用いた遺伝子組換えタンパク質」(既にウイルス検査等様々な検査が実施され、一般的に使用が認められている細胞株を使用して作成した遺伝子組換えタンパク質)が、それと比べれば感染リスクの高い「ヒト/動物細胞・組織に直接的に由来した原料等」(直接ヒト/動物の血漿等に由来するタンパク質)と、製造工程において同等の細菌、真菌、ウイルス等を不活化又は除去する処理が求められている点があげられる。

  2. 2.リスクアセスメント手法について
    日本においては、生物由来原料基準により原料等の段階で基準が定められ、基準に適合した原料等を使用して製品を製造することが求められる。これにより、感染性物質の製造工程への持ち込みリスクを管理することで、製品の安全性の確保が図られている。一方で、欧米においては、原料等からの感染性物質の持ち込みリスクだけで判断するのではなく、製品製造における当該原材料の使用工程、使用量、除去可能性また感染性物質の検出可能性などを考慮し、それぞれの製品製造工程全体として包括的なリスクアセスメントを行うことで最終的な製品の安全性を確保することが可能となっている#6

    このため、欧米では包括的なリスクアセスメントの結果、使用可能と判断される原料等であっても、日本では生物由来原料基準に適合しないことから使用不可と判断され、同じ製品であっても日本での開発に当たって生物由来原料基準に適合した原料等への変更を余儀なくされる場合がある。その結果、日本における開発の大幅な遅延や停滞を引き起こすとともに、海外で開発が先行している製品の日本導入の障害となっている。なお、生物由来原料基準通則9において「医薬品等の品質及び安全性について、本基準中の規定により求められるものと同等以上の妥当性を有することが確認され、その旨が、製造販売の承認等の際に交付される承認書に記載されている医薬品等については、本基準の当該規定を適用しないものとする。」という、リスクに基づいた柔軟な運用を許容する記載はあるが、実態としては当局からは生物由来原料基準への準拠が強く求められている状況である。

    再生医療等製品及び医薬品における原料等の変更は、有効性や安全性に影響を及ぼす可能性があり、海外製品との同等性を証明できず、日本において開発が遅延するまたは開発されないドラッグ・ラグやドラッグ・ロスに繋がることが懸念される。この一因となりうる日本特有の規制について、海外との整合化を図るよう、基準の改定及びリスクアセスメントを踏まえた柔軟な運用が不可欠である。

そこで、以下の規制改革を要望する。

  1. 「生物由来原料基準」で定められている生物由来原料等の管理について、ウイルス等の感染リスクが低い「ヒト/動物細胞株を用いた遺伝子組換えタンパク質」については、リスクに応じた新たな管理基準の設置を求める。
  2. 「生物由来原料基準の運用について 1 第1通則関係」に生物由来原料基準の通則9の取り扱いを追記し、原料等の段階での管理に限らず、再生医療等製品や医薬品の製造工程や特徴も踏まえて、欧米で実施されているような包括的なリスクアセスメントも取り入れることを求める。

これにより、日本のドラッグ・ラグやドラッグ・ロスの解消だけでなく、再生医療等製品及び医薬品の開発における国際競争力の強化に資することが期待できる。

<根拠法令等>
  • 生物由来原料基準 通則1、通則9
  • 生物由来原料基準の運用について(平成26年10月2日 薬食審査発1002第1号及び薬食機参発1002第5号)
  • ヒト由来原料基準(生物由来原料基準 第3「ヒト由来原料総則」の3)
  • 動物由来原料基準(生物由来原料基準 第4「動物由来原料総則」の3)
No. 66. 遺伝子組み換えバイオ系次世代食品原料・食品添加物における安全性評価基準の緩和
<要望内容・要望理由>

これまで比較的容易かつ安定的に調達できていた海外産食品原料や天然由来の食品添加物が、昨今の地球規模での気候変動の影響を受けるようになっている。年を追うごとに原料農産物の品質面・供給面における不安定性が高まる一方で、日本における小売のコスト削減圧力を前に、所謂日本勢の“買い負け”が海外において以前にも増して顕著となっている。

このような中、一つの解決手段として農産物の海外からの調達リスクに晒されることなく、バイオ技術によって既存の食品原料、食品添加物に取って代わる、もしくは供給をサポートする次世代食品原料の開発が世界中で進んでいる。特に海外各国のスタートアップ企業は代替タンパク生成、精密発酵、培養肉のようなこれまでにない技術を獲得し、着実に資金調達を進め、海外大手食品メーカーとのタイアップが加速度的に進行している。

原料トレーディングの現場では、既に様々な食品原料において物量面での“買い負け”が起きているにも関わらず、質的な面で、新規性の高い科学技術によって開発された製品の導入が安全性審査の一部規定によって妨げられることがあってはならない。上述の次世代技術は、原料となる農産物を不要とすることから、その栽培にこれまでであれば要していた水資源の保全、原料保管・流通にかかるCO2削減等、環境負荷低減にも寄与し、ひいてはSDGsの「目標6 安全な水とトイレを世界中に」や「目標13 気候変動に具体的な対策を」の消費者へのさらなる啓蒙が進むことが期待される。

膨大な時間を要する安全性審査に起因する、国内の研究開発スピードの鈍化による日本の競争力低下や、日本の規制が厳しいがために海外から輸出困難なマーケットとして日本が位置付けられることは、世界の潮流に後れを取るリスクにもなり得る。

そこで、食品安全委員会決定「遺伝子組換え食品(種子植物)の安全性評価基準(平成16年1月29日)」に規定されている、遺伝子組み換え食品の高度精製添加物と認める定義について規制緩和すべきである。具体的には、通常、ゲノム編集技術応用添加物を輸入する場合、例外なく安全性審査が必要となる。現状は微生物を利用した精密発酵技術等により精製された添加物に、外来遺伝子や由来タンパク質が存在しない場合でも、微生物自体に組換遺伝子が使用されている時点で安全性審査の対象となっているが、このような製品は溶媒であるPG(ポリプロピレングリコール)と香気成分(既に指定添加物として認可済み)しか製品中に残存しないため、安全性について問題無いと言えることから、安全性審査の対象外とすべきである。

これにより、現行の輸入・上市までの手続に要する膨大な時間(1~2年)の短縮が可能である。米国(FEMA GRAS List)や欧州(Regulation (EC) No 1334/2008)では、精製された添加物に外来遺伝子や由来タンパク質が残存しない場合で、かつ香気成分が既存の登録添加物であれば、安全性審査の対象外としており、残存しないことを証明できれば承認されるというプロセスになっている。そのため、収益化を急いでいる新規バイオ技術を有する海外メーカーの日本市場への進出優先度にも影響しかねない。

この規制緩和により、日本国内に高品質な食料原料を安定的に供給することが可能となる。また、水資源の保全、原料保管・流通に掛かるCO2削減等、環境負荷低減にも貢献することが期待される。

<根拠法令等>
  • 遺伝子組換え食品(種子植物)の安全性評価基準(平成16年1月29日、食品安全委員会決定)
No. 67. 農地所有適格法人の要件緩和
<要望内容・要望理由>

現行の農地法において、農地所有適格法人となる株式会社は「公開会社でないもの」に限られている。そのため、農地所有適格法人になることができない農業法人は、賃貸借形式でしか農地や採草放牧地を確保することができず、また、農地所有適格法人は上場による資金調達が難しい。

特に、このことが農業を大規模かつ安定的に経営していく上で障害となっている。例えば、天候による影響を受けにくい生産施設(農業用ハウス、ICT等の先端技術と販売力を融合させ、かつ地域資源エネルギーを活用した次世代施設園芸)や、アニマルウェルフェアにも配慮した大規模な酪農施設などを建設・運営しても、土地に関して期間満了に伴う返却を求められた際は多額の建設費用をかけたものが何ら補償なく原状回復を行わねばならず、資産除去債務を計上する必要があり、損益計算上のコストが増大するという実態が発生する。

また、農業法人の経営にあたって、上場による資金調達を志向する企業も近年増加している中、農地所有適格法人では、農業者以外の者の議決権は総議決権の2分の1未満とされており、株主による牽制機能等ガバナンス面での問題が考えられる。

そこで、わが国農業の振興や農地の荒廃を回避するためにも、農地所有適格法人の要件を緩和すべきである。特に、①一定の要件を満たす公開会社による農地所有の容認や、②上場持株会社(HD)の連結子会社の農地所有適格法人に関しても、農業者以外の者の持株比率を100%まで認めるべきである。

これにより、上場後も資本政策や資金調達等において不透明な制限を受けることがなくなり、かつ公正な開示ルールに従うことで社会全体による適切な企業統治・牽制も保たれると考える。併せて、わが国の食料自給率の向上に向け、農業の大規模化や6次産業化の推進の観点からも、農地を所有する株式会社に係る株式を上場させることは、ヒト・モノ・カネの側面からも少子高齢化に伴うわが国農業の衰退を回避する上での有力な選択肢になると期待される。

<根拠法令等>
  • 農地法第2条第3項
(2)モビリティ
No. 68. 自動車の保管場所標章の撤廃
<要望内容・要望理由>

現状、自動車の保管場所の確保等に関する法律及び自動車の保管場所の確保等に関する法律施行規則により、車両保有者は、警察署で交付された保管場所標章のステッカーを原則、自動車後面ガラスに貼付し、表示する義務がある。そのため、車両への保管場所標章の貼付のため、標章原本取得のための警察署への出頭及び現地での手続や、レターパックによる郵送手続が発生している。

保管場所標章は自動車保管場所証明(車庫証明)が交付された自動車であることを示すものであるが、ナンバープレートの取得には車庫証明の取得が要件であり、国土交通省もナンバープレートには車庫証明の取得が行われていると推定する機能が付加されていると整理している。そのため、外形的に車庫証明が交付された自動車であるかどうかの判断にあたっては、ナンバープレートの有無を確認することで代替可能であると考えられる。

そこで、保管場所標章を貼付する趣旨を考慮すれば、保管場所標章自体が不要と考えられ、撤廃すべきである。

令和3年度の国内新車登録台数は約268万台、移転登録は約604万台、変更登録は約126万台となる。保管場所標章の撤廃による車両登録に係る警察への出頭、郵送対応の業務効率化が進むことにより、自動車ユーザーの利便性向上とともに、警察署内における事務効率化にも繋がることが想定される。

<根拠法令等>
  • 自動車の保管場所の確保等に関する法律第6条
  • 自動車の保管場所の確保等に関する法律施行規則第7条
No. 69. 同一車体を複数種類のバッテリーで運用することを可能にする認証制度改革
<要望内容・要望理由>

現状、自動車技術総合機構が定める審査様式(自動車型式認証実施要領)の通り、車体とバッテリーは一体認証であるため、新しい型式のバッテリーを使用する際は自動車型式認証を再取得する必要がある。また、新しい型式のバッテリーで自動車型式認証を行った場合は、前回認証を受けたバッテリーの使用はできない。このような同一バッテリーの利用を前提とした現状の制度は、脱炭素化への貢献が期待されるバッテリー交換式EVの普及の妨げとなっている。

EVに搭載するバッテリーについては、装置型式指定規則第5条5の17に記載の通り、UN認証を受けているバッテリーであれば、装置型式指定を受けたものとみなされる。

そこで、UN認証を受けたバッテリーに関しては、仕様差があるバッテリーであっても自動車型式認証時の並行設定(複数型式の部品が使用可能となるよう、予め想定される部品型式(装置認証済みのもの)全てで自動車型式認証を得ること)を可能とすべきである。また、並行設定されているバッテリーの範囲であれば自動車検査登録の変更申請等の手続は不要とすべきである。

これにより、バッテリー交換式EVの普及拡大につながり、以下の点からの脱炭素化への貢献が期待される。第一に、バッテリー交換式EVのバッテリー交換時間は3分以下であり、EVへのエネルギー充填における時間効率が高い。第二に、バッテリー交換式EVのバッテリーへの充電は時間をかけて行われるため、急速充電と比較してライフサイクルが長いうえ、再生可能エネルギーが発電するタイミングを計って蓄電する使い方が可能である。第三に、車両では使えなくなったバッテリーを回収し、二次用途にリユース・リサイクルすることも容易である。第四に、ステーション内の複数のバッテリーを活用し、分散電源として系統調整力や災害時電源などへ活用可能となる。さらに、ユーザビリティの観点からも、車体とバッテリーが分離できるため、車体を入れ替えることなく新型のバッテリーを導入・入替え可能となり、車体変更せずにEVの走行可能距離等のスペックを維持・向上させることができる。

<根拠法令等>
  • 自動車型式指定規則第3条
  • 自動車型式認証実施要領
  • 装置型式指定規則第5条
No. 70. バッテリーステーションにおける車載用リチウムイオン蓄電池の貯蔵要件緩和
<要望内容・要望理由>

車載用リチウムイオン蓄電池を含め、指定数量以上の危険物に係る設備については消防法のもとでの規制に服しており、指定数量未満の場合は、自治体が策定する火災予防条例に服することとなる。自治体の火災予防条例においては、指定数量未満であって、一定の数量以上の危険物の貯蔵に必要な防火設備等に関して規定を設けている。

車載用リチウムイオン蓄電池の貯蔵に関する運用については、「消防危第295号(令和4年12月26日)」により、車載用リチウムイオン蓄電池を複数置く場合には、特定防火設備と同等の耐火性能を有する布でそれぞれを覆うことにより、当該蓄電池ごとの「指定数量の倍数を合算せず、それぞれを指定数量未満の危険物を貯蔵する場所」として取り扱うことが可能である旨、自治体に対して通知がなされた。これによって、車載用リチウムイオン蓄電池を複数貯蔵する場合、指定数量については、複数の蓄電池の合計値ではなく、それぞれの蓄電池ごとに判断できることとなった。しかしながら、耐火性布で覆う場合、バッテリーとコネクタ部の接続部分まで覆うことが求められており、頻繁に蓄電池の取り出しや格納を行うにもかかわらず、耐火性布を都度取り外ししなければならないため、運用において困難がある。

そこで、安全性が担保されることを前提に、消防危第295号で示された耐火性布で覆う要件とは別に、一定の要件を満たす場合にも、車載用リチウムイオン蓄電池の指定数量の判断において、合算を不要とすることを明確化すべきである。その要件のひとつとして、蓄電池を地上高さ3mからコンクリートの床面に落下させる試験を実施し、蓄電池内部から漏液や可燃性蒸気の漏れが確認されないこと、などが考えられる。「消防危第303号(平成23年12月27日)」には、リチウムイオン蓄電池の貯蔵・取り扱いに係る運用にあたり、当該落下試験を実施して上記の結果が得られる場合、電気設備を防爆構造とすることや、可燃性蒸気の排出に係る設備の設置などの措置を講ずる必要はないとされている。

これにより、車載用リチウムイオン蓄電池の貯蔵にあたり、円滑な取り出しや格納が可能となり、バッテリーステーションの運用の効率化に資する。それに伴い、バッテリー交換式EVやバッテリーステーションの普及が加速し、運輸部門における脱炭素化への貢献が期待できる。

<根拠法令等>
  • 消防法第9条の4
  • 危険物の規制に関する政令第1条の11
  • 消防危第295号、第303号
以上

  1. 政府のデジタル臨時行政調査会にて、デジタル改革に向けた集中改革期間(2022年7月から2024年6月までの2年間)として取り組んでいることを踏まえ、デジタル化に関する要望は同調査会「デジタル原則を踏まえたアナログ規制の見直しに係る工程表(2022年12月)」に取り上げられていない新たな提案のみを対象としている。
  2. 「簡便な労働時間管理の方法」のこと。管理モデルで定めた労働時間の上限を超えない限りにおいて、他の使用者の事業場の実労働時間を把握することなく労働基準法を順守できる。「副業・兼業の促進に関するガイドライン」で示されている。
  3. ①「飛沫核の漏洩を防ぐプッシュプル気流の検討」、環境感染誌、Vol.26、no.2、2011
    ②「医療・福祉施設における感染制御に関する研究(第9報)実験による飛沫核の漏洩を防ぐプッシュプル気流の検討」、空気調和・衛生工学会大会学術講演論文集、2011
  4. Alliance for Regenerative Medicine, European Federation of Pharmaceutical Industries and Associations, and European Association for Bioindustries Call for Advanced Therapies to be Exempt from EU GMO Legislation - Alliance for Regenerative Medicine
  5. Call for More Effective Regulation of Clinical Trials with Advanced Therapy Medicinal Products Consisting of or Containing Genetically Modified Organisms in the European Union | Human Gene Therapy
  6. United States Pharmacopoeia (USP) 1043: Ancillary materials for cell, gene, and tissue-engineered productsやPh. Eur (EP). General Chapter 5.2.12: Raw materials of biological origin for the production of cell-based and gene therapy medicinal products。ウシ血清やブタトリプシンなど、原料等レベルでの管理が規定されているものもある。

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