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Policy(提言・報告書) 総合政策 今こそデフレから完全脱却し、成長と分配の好循環を実現する ―2024年度事業方針―

2024年5月31
一般社団法人 日本経済団体連合会

日本経済は歴史的な転換点を迎えている。日本銀行が大規模金融緩和政策を変更する中、今こそ30年来のデフレからの完全脱却を目指して、経済社会の変革を促し、成長と分配の好循環に資する活動を多面的に展開していく。そこで、賃金と物価の好循環を実現し、持続的な経済成長につなげる。また、科学技術イノベーションの創出、生産性向上を図り、わが国産業の国際競争力強化に向けて、経済界自らが行動し、攻めの経営に取り組む。

まずは、気候変動を起因とする生態系の崩壊、頻発化・激甚化する自然災害、格差の拡大・固定化・再生産といった相互に連関する深刻で複雑な社会課題の解決を通じた成長を目指す必要がある。グリーントランスフォーメーション、デジタルトランスフォーメーション、AI、スタートアップ振興等を中心に官民連携で国内投資を促進する。同時に、最先端の科学技術が持つ負の側面への対処についても、イノベーションの育成と倫理の適切なバランスに配慮しつつ不断の検討が必要となる。

他方、分配面においては、「サステイナブルな資本主義」の実現を支え、経済社会の中心的な役割を担う「分厚い中間層」の形成に向けて、マクロ経済政策、社会保障・税制、労働政策の三つの分野に一体的に取り組んでいく。中小企業を含む構造的な賃金引上げ、多様で柔軟な働き方の実現に向けた環境整備を進めるとともに、若い世代の将来不安を払拭するために、公正・公平な全世代型社会保障の構築を急ぐ必要がある。

また、活力あふれる地域経済社会の実現とわが国全体の持続可能性、強靭性を高める観点から、国と地方のあり方等について検討する。

さらに、世界が混迷の度を深める中、自由で開かれた国際経済秩序を再構築することがかつてなく重要となっている。経済安全保障の確保に努力する一方、自由な経済活動を出来る限り維持すべく、民間経済外交を積極的に展開する。

以上の観点に加え、深刻な少子高齢化が進む中にあって、高齢化がピークを迎える2040年を目途としたわが国経済社会のビジョン「Future Design 2040」(仮称)を策定し、国内外の幅広いステークホルダーに発信する。

1. 2040年に向けたわが国経済社会のビジョン「Future Design 2040」(仮称)の検討

  • デフレ脱却後も成長と分配の好循環を継続させ、活力ある日本であるよう、持続可能性と公正・公平の視点から、高齢者数がピークを迎える2040年頃の経済社会のあり方を示し、バックキャスティングにより、その実現に向けた道筋を明らかにする。

2. 科学技術・イノベーションを通じた持続的な経済成長の実現

(1) グリーントランスフォーメーション(GX)

  • 環境分野におけるサステナビリティ確保に向け、グリーントランスフォーメーション、サーキュラーエコノミー、ネイチャーポジティブを一体的に推進する。
  • 2050年カーボンニュートラルの実現を目指し、投資の予見可能性を高める環境を整備し、多様な技術の開発・社会実装に向けた官民の投資を最大限引き出す。成長志向型カーボンプライシング構想やサステナブル・ファイナンスなどの政府の検討への参画、アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)構想のさらなる具体化等を通じ、産業競争力の維持・強化および持続的な経済成長につながる形でGXを着実に推進する。
  • 再生可能エネルギーの主力電源化に加え、安全性を大前提とした原子力の積極的活用に向け、既設プラントの着実な再稼働、高温ガス炉・高速炉等の革新炉開発・建設の具体化、核融合開発・産業育成の加速等に取り組む。また、需要増等への柔軟な対応も見据えつつ、次期エネルギー基本計画や電力システム改革の検証の議論に参加し、エネルギーの安価・安定供給が確保できるエネルギーシステムの構築を推進する。
  • 設計・製造段階から再資源化までのバリューチェーン全体での事業者間の連携強化や、地方自治体、スタートアップも含む官民の協力を推進するとともに、経済成長、産業競争力強化に資する施策の構築に取り組み、国際的にも先進的な循環型社会の形成に取り組んできたわが国の強みを活かしたサーキュラーエコノミーの実現を目指す。
  • 「昆明・モントリオール生物多様性枠組」の目標実現等を目指し、経団連自然保護協議会と連携しながら、ネイチャーポジティブ経営の普及に取り組むとともに、自然保護・生物多様性保全に向け実効性の高い活動を展開する。

(2) デジタルトランスフォーメーション(DX)

  • 行政手続のデジタル完結、マイナンバーを活用したデータ連携等の実現を、デジタル庁「デジタル関係制度改革検討会」等を通じて政府等関係方面に働きかける。
  • 経団連提言「データ利活用・連携による新たな価値創造に向けて―日本型協創DXのリスタート―」#1を踏まえ、データ連携・認証基盤の整備を通じ、国際的な相互運用性を担保しながら、中小企業を含む企業間のデータ連携を推進する。経団連提言「AI活用戦略Ⅱ―わが国のAI-Powered化に向けて―」#2を踏まえ、AI-Readyを超えたAI-Poweredな企業・社会の実現に取り組む。
  • 個人情報保護法の次期見直し(2025年)も見据え、ヘルスケア分野におけるデータ利活用のための環境整備に取り組む。
  • Society 5.0 for SDGsとDFFT(信頼性のある自由なデータ流通)の実現に資する安全・安心なサイバー空間を構築する観点から、サプライチェーン全体を俯瞰したサイバーセキュリティ強化に向けた3本柱(産業横断/官民連携/国際連携)の取り組みを推進する。

(3) スタートアップ振興

  • 経団連提言「スタートアップ躍進ビジョン」#3で掲げた2027年までにスタートアップを量・質ともに10倍にするという目標を実現すべく、大学発スタートアップの推進をはじめとする政策提言、大企業の行動変容、スタートアップと大企業との連携促進に注力する。

(4) 新たな成長分野の競争力の強化

  • 成長の制約要因となる人材不足、高齢化への対応として、DXを通じた省力化・省人化・自動化技術に加え、高齢化社会に向けたサービス・製品の開発を推進する。
  • クリエイター人材の育成やグローバル展開の強化など、エンターテインメント・コンテンツ産業をはじめとするクリエイティブエコノミーの振興に取り組む。
  • モビリティ産業が直面する課題について、業界横断的に議論し、政策への反映を目指す。
  • イノベーション創出や国際競争力強化に資する知的財産・国際標準戦略のあり方について検討を深め、経団連提言「グローバルな市場創出に向けた国際標準戦略のあり方に関する提言」#4を踏まえて国際標準戦略の広範な普及啓発等を図る。
  • 新たな成長分野の競争力強化、成長機会の創出や経済社会の変革を促すため、様々な分野において規制・制度改革を推進する。
  • 半導体、AI、量子、バイオ、宇宙等、国際競争力の観点から重要度の高い、いわゆるディープテックの研究開発、実装を推進する。その一環として、世界最先端のバイオエコノミーの確立に向けて、経団連提言「バイオトランスフォーメーション(BX)戦略」#5で掲げた五つの戦略#6を踏まえた政府への働きかけ、大学、スタートアップ、有識者等との連携を進める。

3. 分厚い中間層の形成

(1) 構造的な賃金引上げに向けた環境整備

  • 「デフレからの完全脱却」と「構造的な賃金引上げ」の実現に向け、中小企業を含めた各企業に対し、賃金引上げのモメンタムの維持・強化と有期雇用等社員の処遇改善を引き続き働きかける。賃金引上げを含めた人への投資を後押しするための税制措置のあり方を検討する。
  • わが国全体の生産性の改善・向上に向けて、成長分野・産業への円滑な労働移動の実現に取り組む。
  • 適切な価格転嫁などを通じて取引適正化を推進する。特にソーシャルノルム(社会的規範)として浸透させるため、企業行動憲章を改定して「パートナーシップ構築宣言」の趣旨を盛り込み、各企業に宣言の実効性確保を促す。

(2) DEI、多様な働き方と教育改革の促進

  • 働き手一人ひとりの個性や強みを最大限発揮できるよう、人権の尊重はもとより公正性・公平性の観点を踏まえながら、「DEI(多様性、公平性、包摂性)」を担保する取り組みを広く国内外で加速し、女性や外国人、若年者、高齢者、障害者、有期雇用等労働者等、多様な人材の活躍を推進する。より幅広い企業の経営トップに「2030年30%チャレンジ」#7への賛同を呼びかけ、社会全体としてのムーブメントを形成する。
  • 働き手のエンゲージメントと労働生産性の改善・向上の観点から、企業における働き方改革の継続・深化を促進する。多様で柔軟な働き方を可能とする労働時間法制の実現とともに、男性の家事・育児促進をはじめ、仕事と育児・介護等との両立を支援する環境整備等に取り組む。
  • 産学官の連携を強化しつつ「仕事と学びの好循環」の確立を目指し、大学等とも連携したリカレント教育・リスキリング、学生時代からのキャリア形成支援、博士人材と女性理工系人材の育成・活躍等を一層推進する。また、日本の産業競争力強化に資する高等教育のあり方を検討する。併せて、多様性を重視し、かつ主体性を育む教育を実現すべく、初等中等教育改革を政府等関係方面に引き続き働きかける。
  • グローバルな視野を持った人材の育成に向けて、高校生・大学生・大学院生の海外留学を奨励する。
  • 国際的な人材獲得競争が激しくなる中、真に有為な人材が日本で働くことを選び活躍できる環境の整備を推進する。具体的には、一定の専門性・技能を持つ外国人材の戦略的誘致や、外国人のライフサイクルを踏まえた在留施策の構築等を政府に働きかける。

(3) 公正・公平な全世代型社会保障の構築

  • 政府に対して、社会保障分野の歳出改革の実行と併せ、今後の人口減少を前提に、現役世代の保険料負担増の抑制、効率的な医療・介護提供体制はじめ国民の安心・安全、イノベーション推進、持続可能性を高める制度の全体像を改めて提示するよう働きかける。
  • 少子化対策も含め、公正・公平な全世代型社会保障にふさわしい給付と負担の確立を図るために必要な税・社会保障の一体改革のあり方を検討する。

4. 力強い経済成長を支える財政・税制の改革

  • デフレからの完全脱却を見据えて、官民連携による「ダイナミックな経済財政運営」のもと、経済再生と財政健全化の両立に取り組む。その観点を、政府の次期経済・財政再生計画の策定に反映させるべく働きかける。
  • 防衛力強化に係る税制措置の検討状況を注視しつつ、機動的に対応するとともに、国内投資の拡大等に資する法人課税のあり方について検討する。経済のデジタル化に伴う課税上の課題への解決に向けて、国際課税に係る詳細な制度設計および国内法制化に引き続き対応する。

5. 活力あふれる地域経済社会の実現

  • 人口減少、経済社会の変化を前提とした国と地方の行政システムや社会機能の集中と分散、老朽化する社会インフラ整備のあり方等について、経団連提言「内発型の地域づくりに向けた地域経済活性化~人口減少・経済社会の変化を踏まえた地域連携のあり方~」#8等を踏まえ、引き続き検討する。
  • 経団連「地域協創アクションプログラム」#9を通じて政府・自治体・大学・スポーツ団体・文化団体等との連携を進め、多様な協創を通じた活力ある地域づくりを推進する。
  • 「第4次観光立国推進基本計画」の着実な実施に向けて、観光立国の実現に係る先進的な取り組みの共有や視察、政府や関係団体との意見交換等を行う。
  • 次期「食料・農業・農村基本計画」に向けて、食料安全保障の強化や、農業の生産基盤強化、輸出拡大、環境負荷軽減等、持続可能な農業の実現につながる施策を継続的に検討する。
  • 各地経済団体と懇談会を共催し、地域経済の活性化に向けてテーマを決めて議論するとともに、地域の実情を把握し、経団連活動に反映させる。
  • 能登半島地震について、引き続き被災者・被災地支援に取り組むとともに、災害復興の現状や課題把握を目的に被災地視察を実施する。北陸経済連合会との意見交換を通じて、能登地域の復興ビジョンの作成に協力する。
  • 東日本大震災について、地元産品の消費拡大、産業振興、風評の払拭等を目的として、三陸・常磐ものの活用や「東北復興応援フェスタ」等、東北の再生・創生に向けた活動に引き続き取り組む。
  • 南海トラフ地震、首都直下型地震等の広域に及ぶ未曽有の大災害に備えて、防災DX、事前復興、オールハザード型BCPの策定等の社会機能の強靭化等を進める。

6. 自由で開かれた国際経済秩序の再構築

(1) ルールに基づく自由で公正な貿易投資の推進と経済安全保障の確保

  • CPTPPをはじめとするEPA・FTAの拡大、WTOの改革等を通じて高水準のルールに基づく自由で公正な貿易投資を推進する。並行して、安全保障例外の見直し、経済的威圧への対応など経済安全保障の要素を取り込んだ国際経済秩序の再構築のあり方を検討する。
  • 経済安全保障分野のセキュリティ・クリアランス制度に関する法律の施行に向けて、新制度が既存制度と併せて企業ニーズの受け皿として有効に機能するよう働きかけを行う。また、基幹インフラ役務の安定的提供および特許出願の非公開制度に係る経済安全保障推進法の施行状況を注視し、必要に応じて経済界の意見を発信する。
  • 経済発展に伴い、国際場裡において発言力を増すグローバルサウスとの連携強化を戦略的に推進することによって、国際秩序の再構築を進めるとともに、その活力を取り込み、エネルギー・資源・食料の安定的供給の確保を図る。併せてグローバルサウスが抱える社会課題の解決に貢献していく。

(2) 民間経済外交の積極的な展開

  • ミッションの派遣、経済合同会議の開催等を通じた民間経済外交を積極的に展開することにより、世界各国・地域との協力関係を強化し、地球規模課題の解決に貢献する。併せて、各国・地域が抱える社会課題の解決や成長戦略の推進に協力するとともに、国際的な人材交流を促進する。

7. 国家的イベントの成功

(1) 2025年日本国際博覧会

  • 2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)は、経団連が掲げる「Society 5.0 for SDGs」の実現や、わが国の経済社会の持続的な成長につながるものであるとの認識の下、2025年日本国際博覧会協会、政府、地元自治体・経済界等との連携を深めながら、万博の成功に向けた開催準備に全面的に協力する。2025年4月の開幕に向け、さらなる機運醸成を図る。

(2) 2027年国際園芸博覧会

  • 2027年に神奈川県横浜市で開催される2027年国際園芸博覧会(GREEN×EXPO2027)は、気候変動や生物多様性の喪失などの課題に対して、わが国の自然観や美意識を用いた解決策を世界に示す機会との認識の下、2027年国際園芸博覧会協会、政府、地元自治体・経済界等との連携を深め、取り組みに協力する。
以上

  1. https://www.keidanren.or.jp/policy/2023/034.html
  2. https://www.keidanren.or.jp/policy/2023/067.html
  3. https://www.keidanren.or.jp/policy/2022/024.html
  4. https://www.keidanren.or.jp/policy/2024/013.html
  5. https://www.keidanren.or.jp/policy/2023/015.html
  6. ①エコシステムの構築、②経済安全保障の確保、③グローバルなルール形成、④司令塔による政策の一元化、⑤国民理解の醸成。
  7. 2030年女性役員比率30%を目標として、人材育成等に取り組む運動
  8. https://www.keidanren.or.jp/policy/2023/083.html
  9. https://www.keidanren.or.jp/policy/2021/105.html

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