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Policy(提言・報告書)  地域別・国別 アジア・大洋州 第13回アジア・ビジネス・サミット共同声明

(仮訳/正文英語

2024年7月5日、アジアの13の経済団体が東京の経団連会館に一堂に会し、第13回アジア・ビジネス・サミットを開催した。

2024年のアジアの経済成長率は4.5%と予測され、アジアは世界の成長センターとしての役割を担っている。他方、世界は対立、分断の色を濃くしている。世界の分断によりブロック化が進展し、国際的な労働移動や技術移転が停滞すれば、世界のGDPの2.5~7%が失われるとの試算も示されており、その場合、アジアへの影響も必至である。加えて、アジアのいくつかの国は高齢化や人口減少といった課題に直面している。アジア各国・地域が、持続可能な成長を達成するためには、官民が連携して、イノベーション、自由で公正な貿易投資の推進、カーボンニュートラル実現への道筋づくりに取り組まなければならない。こうした共通の認識に立ち、我々アジアの経済団体は、以下の諸点で意見の一致をみた。

1.イノベーション

イノベーションは、産業競争力の強化、高齢化社会への適応、ウェルビーイングの向上などの目標を達成する上で鍵となる。イノベーションを実現する観点から、アジアの経済団体は以下に焦点を当てる。

(1)スタートアップエコシステムの構築

スタートアップはイノベーションの源泉である。スタートアップが大企業の資金や経営ノウハウを活用し、その独創性を最大化できるよう、スタートアップと大企業のビジネスマッチングのプラットフォームを作ることが重要である。各国・地域の政府は、投資規制の緩和、行政手続の簡素化、税制上の優遇措置、投融資への保証供与などを通じて、スタートアップにとってビジネスフレンドリーな環境を整備することが求められる。

(2)人の移動

高度なスキルをもつ労働者の国境を越えた自由移動はイノベーションの前提条件である。各政府は、その移動と居住要件の緩和、ライセンスや資格の相互承認の促進、社会保障協定の締結を検討すべきである。また、ビジネス訪問者の短期移動を促進するために、APECビジネストラベルカード(ABTC)の非APEC加盟国・地域への適用拡大も検討の余地がある。

2.自由で公正な貿易投資

2022年に地域的な包括的経済連携(RCEP)協定が発効し、現在、参加15か国の貿易額は世界全体の29%を占めている。RCEPの地理的範囲拡大に向けて、新規加入国・地域に対して門戸を開くことが求められる。RCEPが貿易投資の自由化、サプライチェーンの開放性と強靱性、資源・エネルギーの安全保障において重要な役割を果たすためには、まず輸出入制限の禁止、パフォーマンス要求の禁止、国境を越えたデータの自由な流通の確保、データローカリゼーションの禁止など、協定の履行状況をモニタリングする必要がある。また現在、貿易自由化から除外されている物品の関税削減や、段階的な関税削減のスケジュールの前倒しについても議論を開始するべきである。

環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)についても、現加盟国の合意を前提に、新規加入国・地域に対して門戸を開くべきであるが、協定の高水準の市場アクセスとルールを実施でき、既存のルールを遵守している十分な実績があることが条件である。

WTOの多国間枠組は、グローバルな自由貿易を達成する上で引き続き重要であり、アジアの経済団体として、その改革と機能回復を求める。まず、ルールの執行の最後の砦である紛争解決メカニズムを直ちに回復する必要がある。また、電子商取引に関する規律や投資円滑化に関する協定などについて複数国間で実質的な進展を遂げることが重要であり、併せて競争の公正性を確保するためのルールの策定に向けた議論を推進することも求められる。

各国・地域の政府・当局は、市場の開放を維持し、サプライチェーンの協力を強化すべきである。

3.カーボンニュートラル

地球規模でカーボンニュートラルを実現するためには、世界のCO2排出量の約半分を占めるアジアの脱炭素化が不可欠である。アジアは、電力の多くを火力発電に依存する一方、天候をはじめとする様々な制限のため、再生可能エネルギーの拡大には限界がある。電化やDXの進展に伴う電力需要の大幅拡大に対応して、安価・安定的にエネルギーを供給するとともに、経済成長を遂げるためには、クリーンエネルギーの活用に加え、産業プロセスの革新、水素・アンモニア・合成燃料等の新燃料の活用、二酸化炭素回収・利用・貯留(CCUS)技術の普及といったイノベーションが不可欠である。トランジション期におけるLNGの活用、アンモニアや水素の混焼による火力の脱炭素化などを含め、各国・地域の事情を踏まえた多様な道筋に基づく取り組みを協力して推進すべきである。

アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)構想は、そうした協働のための枠組みとして有用である。また、RCEPなどのEPA/FTAを通じた環境物品の関税引き下げやグリーンインフラに関する投資障壁の撤廃も重要である。さらに、サプライチェーン全体を通じた排出量を捕捉すべく、セクターごとにデータを共有するためのプラットフォームを構築し、地球規模で他のプラットフォームとの相互運用性を確保すると共に、国際標準設定、相互承認を推進すべきである。

加えて、サーキュラーエコノミーへの移行はカーボンニュートラルの実現に貢献するものであり、その移行に向けた取り組みを推進すべきである。

4.デジタルトランスフォーメーション

データの活用は、イノベーション、自由な貿易投資、カーボンニュートラル社会の実現の前提条件である。生成AIを使用したデータ分析によって新たな付加価値を創出するためには、データの偏在とこれに伴う「デジタル赤字」を解消することがその第一歩となる。この点で「信頼性のある自由なデータ流通」(DFFT)の推進が不可欠である。DFFTの実現のためには、電子的送信にかかる関税不賦課モラトリアムの恒久化はもとより、国際的に相互運用可能なルールや国境を越えたデータ流通が必要である。また、サイバー脅威が増大する中、キャパシティビルディングなどを促進すべきである。

アジアの経済団体は、アジア・ビジネス・サミットを最大限に活用し、各国・地域の経済団体間の連携と協力をさらに強化し、より豊かで活気に満ちた魅力的なアジアを実現するために、各国政府に一体的な取り組みを求めていく。

以上

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