一般社団法人 日本経済団体連合会
知的財産・国際標準戦略委員会国際標準戦略部会
1.水素・アンモニアの国際標準化の意義
水素・アンモニアは、脱炭素社会の実現に向けた主要エネルギーキャリアとして、世界各国で研究開発や社会実装が加速している。他方、サプライチェーンの各所における安全性や環境性能等を評価する国際的な規格・基準は整備の途上にあり、国際標準化の重要性は日増しに高まっている。
日本企業は製造・輸送・貯蔵・利用の各工程で、世界の中でも高い技術力や安全管理能力を有するが、国際標準化を他国に先んじられれば「技術で勝ってビジネスで負ける」懸念が生じる。また、日本はエネルギー資源に乏しく輸入に頼らざるを得ないという弱点を持つために、環境性能等について日本に不利な国際標準化がなされた場合には、エネルギー安定供給の確保も困難となる。
そこで、自国の特性を他国に先んじて国際標準へ戦略的に反映させるとともに、国内認証機関の強化と一体的に推進することにより、グローバルな市場形成で国際的な主導権を確保することは、産業競争力の強化およびエネルギー安定供給の確保の観点から不可欠である。加えて、複雑かつ不安定な国際情勢において、経済安全保障の観点からも国際標準化活動を通じた自律性および不可欠性の確保・強化に取り組むことが肝要である。
その際、ビジネスの範囲や環境影響に関する基本的ルールについての議論を主導することに加え、日本より優位な分野を持つ国とも戦略的に連携し、日本に有利となる国際標準の策定を進めていくこと等も必要となる。
以上を踏まえ、水素・アンモニア分野の国際標準戦略において、特に重要かつ早急に取り組むべき施策を以下に示す。
2.標準化活動の棚卸しと協調領域の明確化
現在、JH2A(水素バリューチェーン推進協議会)やHySUT(水素供給利用技術協会)、CFAA(クリーン燃料アンモニア協会)をハブとして、多くの企業・団体が国際標準化活動へ参画している。こうした活動の中には、他国に先駆けて活動組織を立上げ日本主導で議論を進めている活動もあるが、水素・アンモニアのサプライチェーン全体を俯瞰した体系的・戦略的な取組みとはなっていない。
そこで、現在進行中の活動を網羅的に棚卸しし、それぞれのわが国としての優先度とグローバルな市場への影響度を評価していくことが必要である。その際、ISO・IECなどの国際規格やENなどの地域規格の他、実質的に国際標準となっている国別規格、フォーラム規格、さらに各種認証を含めて網羅的に棚卸しを行うことが肝要である。
インフラ設備の安全性・信頼性評価、GHG排出量算定に関する規格・基準の他、ステークホルダー間のデータの標準化は、サプライチェーンの川上から川下までに共通する課題であり、棚卸しのうえ、企業横断で連携すべき「協調領域」として明確化すべきである。これにより、わが国の高い技術力・運用知見を、収益向上につなげるようにこれらの分野の国際標準に戦略的に反映させることで、国際的な優位性を確立することが可能となる。
3.国の司令塔機能と官民連携の強化
上記のとおり、わが国の水素・アンモニアに係る国際標準化活動は、サプライチェーン全体を俯瞰した体系的・戦略的な取組みとはなっておらず、全体の戦略を推進し重要な活動を支援する司令塔機能が不可欠である。また、水素・アンモニアは、国のエネルギー政策・温暖化対策を含むGX(グリーントランスフォーメーション)とも深く関わっており、かかる政策動向とも連動させていく必要がある。国際標準化に向け、政府内の担当部局と一体で取組みが進められることが期待される。さらに、海外における標準化動向は多岐にわたり、個社レベルでの継続的かつタイムリーな情報収集・分析は困難であるため、国際標準化機関における議論や国別規格・関連認証制度の導入状況等について、一元的に整理し、情報発信をする機能が求められる。
そうした中、水素・アンモニア分野は、6月3日に知的財産戦略本部により策定された「新たな国際標準戦略」における戦略領域の中に位置づけられている。また、日本産業標準調査会(JISC)が6月16日に取りまとめた「日本型標準加速化モデル2025」のおけるパイロット分野のひとつでもある。
そこで、これらの政策的フレームのもとで、経済産業省を中心に、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)、JSA(日本規格協会)、HySUT、JH2A、CFAAなどが連携し、司令塔組織「水素・アンモニア国際標準戦略推進会議(仮称)」を設置すべきである。
同会議は、知財のオープン&クローズ戦略と認証スキームのあり方を含む水素・アンモニア分野全体の国際標準戦略(ロードマップ、アクションプラン等)の策定、戦略のフォローアップとアジャイルな改訂、海外動向のモニタリングと共有、関係業界団体を含めた国内調整、国際標準化機関との交渉、CEN/CENELECなど地域標準化機関との連携を一元的に担うことが望まれる。また、ISOやIECでの議長・コンビナー等のポスト獲得に向けて官民が緊密に協働し、アジアやEUをはじめ諸外国との連携#1による戦略的ロビイングを行う他、人材育成・派遣を主導するなど、日本の強みを国際標準へ戦略的かつ着実に反映させる体制を早期に構築することが肝要である。
1. 経団連「AZEC構想の推進に関する第二次提言」(https://www.keidanren.or.jp/policy/2025/058.html)において、AZECの枠組みを利用した基準・認証の統一等に取り組むべきと提言。