1. トップ
  2. Policy(提言・報告書)
  3. CSR、消費者、防災、教育、DEI
  4. 「ビジネスと人権」に関する行動計画 改定版(原案)についての意見

Policy(提言・報告書)  CSR、消費者、防災、教育、DEI 「ビジネスと人権」に関する行動計画 改定版(原案)についての意見

2025年10月28
一般社団法人 日本経済団体連合会
企業行動・SDGs委員会
企業行動憲章タスクフォース
PDF版はこちら

企業は「すべての人々の人権を尊重する経営を行う」(経団連企業行動憲章第4条)。そして、人権尊重経営の効果をより一層高めるためには、企業として主体的に人権尊重に取り組むとともに、様々なステークホルダーとの、とりわけ政府との、連携を強化することが不可欠である。「ビジネスと人権」に関する行動計画 改定版(原案)(以下、「原案」)について、日本経済団体連合会としての見解は、本年9月16日付意見書「「人権尊重経営」の推進-ビジネスと人権」に関する経団連の考え方と政府への期待-」において述べているところであるが、本意見募集#1に際し、原案に即して、以下の点について、改めて政府に対する期待・要望を述べたい。

第2章 優先分野
1 人権デュー・ディリジェンス及びサプライチェーン
(1) ガイドライン等の新設・更新・作成支援

13頁①の「サプライチェーン上における企業の人権尊重の取組促進につながるような情報提供やマルチステークホルダーとの議論の継続」に資するものとして、政府には、「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」の定期的な更新とその周知を施策に盛り込んでいただきたい。また、企業が人権デュー・ディリジェンスの一部である「追跡調査」を行う際に参考となるガイドラインの新設や、各人権課題の解説と当該人権課題が起きうる状況、その予防や是正策の例などの情報の拡充も要望したい。なお、ガイドラインの作成・更新の際には、企業の採用・労務管理担当者が容易に活用できるよう、守るべき最低限の基準と参考とすべきベストプラクティスが分けて記載されることが望ましい。

さらに、業界団体がガイドラインを作成する際などに、政府は国際基準に則っているかを確認するなどの支援をしていただきたい。

(2) サプライヤーとバイヤー双方の負担軽減

13頁①の「サプライチェーン上における企業の人権尊重の取組促進につながるような情報提供者やマルチステークホルダーとの議論の継続」に関して、政府には、サプライヤーに対する質問内容あるいは質問票の標準モデルの提供、デュー・ディリジェンス情報を必要な人が必要な範囲で共有できるプラットフォームの整備、サプライヤーの営業機密を保護しながらサプライチェーンデュー・ディリジェンスを実施できる仕組みの構築など、サプライヤーとバイヤー双方の負担削減につながる取り組みを求めたい。

(3) 海外で活動する日本企業の保護

12頁の、紛争等の影響を受ける地域において事業活動を行う日本企業に対し、高いリスクに応じた人権デュー・ディリジェンスの実施を求めるのに際し、具体的な施策として、政府には強化された人権デュー・ディリジェンスに関する企業実務に役立つガイドラインを作成していただきたい。ガイドラインの内容は、強化された人権デュー・ディリジェンスが必要となる状況を企業が適切に認識でき、かつデシジョンツリーを用いてケースバイケースで対応方法を理解できるようなものが望ましい。

また、14頁②の「独立行政法人等が指導原則に沿って人権尊重に取り組むことの確保」、また14頁③の「諸外国との対話・連携を通じた、指導原則の履行推進に向けた取り組み」に関して、政府・関係機関によるODA案件等に参画する企業に予期せぬ人権侵害への加担が発生しないよう、各ODA案件等については、政府・関係機関が、人権影響評価を実施すべきである。

(4) 相談窓口の設置

13頁①の「サプライチェーン上における企業の人権尊重の取組促進につながるような情報提供や支援策」また、14頁②の「独立行政法人等が指導原則に沿って人権尊重に取り組むことの確保」に関して、企業が人権デュー・ディリジェンスの取り組みを進めていく際に、無料で相談できる政府の窓口を国内外に設置していただきたい。その際は知見の蓄積があり、迅速な対応が期待できる日本貿易振興機構(JETRO)もその一つとして活用することが望ましい。また、寄せられた相談内容と回答について、可能な範囲での公開を求めたい。

(5) サプライチェーンの最終段階である消費者の意識改革

14頁⑤の「ハラスメントのない職場環境の実現」をするために、いわゆるカスタマーハラスメントについては、サプライチェーンの最終段階に位置する、製品やサービスの消費者の理解が欠かせない。また、14頁⑥の「中小企業等の取引条件・取引慣行の改善」に向けて、中小企業における従業員の賃金上昇分を、同企業のサプライチェーン上にある企業全体で価格に吸収し、製品やサービスの消費者も、サービスや製品の価格の上昇を許容することが求められる。

サプライチェーン上での人権課題の解決のために必要な負担について、消費者への理解を進めていくことを、施策に位置付けるべきである。

2 「誰一人取り残さない」ための施策推進

16頁、18頁、22頁、24頁の「マイノリティ別の施策」という表現は、ポジティブに受け止められにくい面があることから、「(人権享有の)主体別の施策」といった表現に改めるべきである。

16頁③の「選択的夫婦別氏制度を含む夫婦の氏に関する具体的な制度のあり方について、国民各層の意見や国会における議論の動向を注視しながら、司法の判断も踏まえた更なる検討の実施」について、生来の氏を名乗り続けることができないことを人権上の課題であると捉える人を「取り残す」表現となっている。既に国会で議論をしている情勢に鑑みれば「選択的夫婦別氏制度を含む夫婦の氏に関する具体的な制度のあり方について、早急に検討を実施」といった表現に改めるべきである。

23頁アの課題認識としてそもそも明示されていないが、高齢者の認知機能の低下、高齢者の介護といった課題もある。企業では、適合性の原則に基づく取引、従業員の介護への配慮といった取り組みを進めており、施策としても盛り込むことを検討いただきたい。

3 テーマ別人権課題

25頁の①の「AIイノベーションの促進とリスク対応の両立」について、「人間中心、人権尊重、法令遵守等の原則を踏まえた、人とAIの安全な協調等に関する研究の推進及びAI法等の法令等を通したガバナンスの実現【内閣府、関係府省庁】」とあるが、「著作権に関する整理、子どもへの影響、AIの過誤による事故の責任の所在」など、具体の論点を並べたうえで、関係省庁を示し、それら省庁が一体的な検討を行うこととすべきである。国内外のAI倫理規制について人権観点からの整理・解説を行い、倫理規制とAI利活用政策との一貫性の確保を行っていただきたい。

26頁の①の「人権課題と環境課題の双方を視野に入れた環境DDの推進」について、関係府省庁間での連携を強化し、人権デュー・ディリジェンスと環境デュー・ディリジェンスを一体的に実施するための統合的ガイドラインを作成していただきたい。なお、環境分野は気候変動、資源循環、化学物質管理、生物多様性など広範囲にわたる。既存の規格や法規制とのハーモナイゼーションに留意したものとすべきである。

4 指導原則の履行促進に向けた能力構築

28頁の①の「中小企業を含む企業に対する情報・助言・支援等の提供」について、政府には、中小企業への経営支援策の一環として、ビジネスと人権に関する基本的な考え方や知識についての研修を行っていただきたい。具体的には、経営トップの意識改革、中小企業向け人権デュー・ディリジェンス・チェックリストの作成による最低限の要請事項の明確化、インセンティブの整備、ベストプラクティス・事例集の作成、情報の一元化などを要望したい。

5 企業の情報開示

30頁の①の「国際的な基準の動向を踏まえ、企業による人権尊重に関する情報開示について必要に応じた議論の実施」について、企業の人権尊重に関する情報開示は、国際的な基準との整合性・調和を図ること、サステナビリティ情報開示に関して企業の負荷が急増している実態を考慮することが重要である。

またサステナビリティ開示規制、デュー・ディリジェンス規制に関し、各国・各法域における人権尊重に対する考え方の違いを踏まえつつ、相互運用可能性の確保に向けて、欧州当局をはじめとする各国・地域の複数のイニシアティブと政策対話を行い、企業における追加的な対応負荷が生じないよう、働きかけていただきたい。

6 公共調達・補助金等を含む公契約

31頁の①の「公共調達における企業等による人権尊重の推進」について、政府が公共調達において設定した人権配慮の要件の具体的な運用や基準が明確となれば、民間の業界団体等がビジネスと人権に関するガイドラインを作成する際の参考となる。公共調達の際の人権配慮要件、運用基準等をできるだけわかりやすく明示していただきたい。

7 救済へのアクセス

33頁の④の「個別法令に基づく対応の継続・強化」について、侵害された人権ごとに、どのような既存の裁判外紛争処理手続(ADR)があるのかを整理して情報を提供していただきたい。その際、外国人にも利用しやすいよう、多言語対応可能な窓口を用意して情報提供していただきたい。

第4章 今後の行動計画の実施及び見直しに関する枠組み
1 行動計画の実施体制

まず、ビジネスと人権に関する政策を主導する、政府の責任者である、内閣総理大臣、外務大臣のメッセージや署名を新計画の冒頭に盛り込むなど、新計画の狙いを明確にしつつ、政府としての決意を示していただきたい。

そのうえで、39頁において示されている「関係府省庁とステークホルダーとの間における信頼関係に基づく対話の機会」について、指摘の通り、「ビジネスと人権に関する行動計画推進円卓会議及び作業部会」を設けていただくほか、ステークホルダーが開催する会合にも担当官を派遣するなど、ステークホルダーとの個別あるいは団体での対話の機会を積極的に設けていただきたい。そのうえで、どのような人権問題について、どのようなライツホルダーとの対話が行われたかをまとめた事例集を作成するなどのツール整備などを進めていただきたい。

また、対話の実効性を高めるために、国内外を問わず、建設的な対話の実施が困難となるような個人・団体への対応に関しては、対応の手引きや相談窓口の設置など支援の充実を求めたい。

2 行動計画の実施工程

39頁において示されている通り、新計画の実施状況は、毎年、「ビジネスと人権に関する行動計画の実施に係る関係府省庁施策推進・連絡会議」において確認されるべきだが、併せて「ビジネスと人権に関する行動計画推進円卓会議及び作業部会」を定期的に開催すべきである。加えて、テーマに応じて、それにふさわしいステークホルダーにも意見照会するなど、ステークホルダーの視点からも、計画の実施状況を確認し、進捗に応じて追加の措置を講じるなどの施策につなげるべきである。

以上

「CSR、消費者、防災、教育、DEI」はこちら