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Policy(提言・報告書)  産業政策、行革、運輸流通、農業 わが国ロボット(AI+)戦略のあり方に関する提言

2026年3月17
一般社団法人 日本経済団体連合会

1.はじめに(趣旨・背景)

(1) 社会経済構造の変化とロボット#1の位置付け

わが国は、人口減少・少子高齢化に伴う構造的な人手不足や老朽化するインフラの維持管理等の社会課題に直面している。また、高度化・多様化するサービス需要への対応も求められている。

こうした中、ロボットは単なる省力化の手段にとどまらず、労働力制約を補完し、生産性や安全性の向上に寄与するとともに、産業構造そのものを高度化する中核的な基盤技術である。とりわけAIを搭載したロボット(以下、「ロボット(AI+)」)は、現実世界における判断・制御・運用等を担う存在として、社会課題解決と産業競争力強化の双方に資する潜在力を有している。

ロボット(AI+)の本質的な目的は、社会課題の解決を通じて人々の生活や産業活動を支え、人と共生しながら社会に貢献することである。こうしたロボット(AI+)の社会実装を通じて、産業競争力の強化と社会課題の解決を同時に実現していく姿を国内外に発信することは、わが国の姿勢を明確に示す有効なメッセージとなる。

(2) グローバル競争環境の変化と日本の立ち位置

AI分野においては、GPU(Graphics Processing Unit:画像処理装置)を中心とする高性能半導体(計算資源)、LLM(Large Language Model:大規模言語モデル)からVLM(Vision Language Model:視覚言語モデル)#2へと進化する高度な基盤モデル、膨大な学習データ、圧倒的な資金等を背景に米中両国が市場を席巻し、ヒューマノイドを含む多用途ロボットの開発・実装に向けた大規模投資でも先行している。米国が分野とアプリケーションを明確化し、工場作業員のロボット化や家事支援ロボット等において社会実装を急速に進める中、中国は国を挙げて米国を猛追している。

一方、現実世界でロボットを自律的かつ安全・安心に運用するためには、アルゴリズムの高度化にとどまらず、制御の再現性や安定運用、セキュリティ、社会受容性といった要素を総合的に満たす必要があるが、各国・地域とも現在その段階にはない。

このため、グローバル競争の軸として、モデル性能の高さに加え、実社会における信頼性・実装力の重要性が増している#3。産業用ロボットを現場で長年使いこなし、改善を積み重ねてきた日本は同分野で世界市場の約3分の2を占めるなど、独自の強みを発揮し得る位置にある。一方、サービス分野では米中等に後れを取っており(図表1)、米中に伍する「第三極」としての立ち位置を確立できるかの分岐点に立っている。

【図表1:産業用/サービスロボットの市場規模】

(3) 求められる総合的なロボット(AI+)戦略の策定

折しも政府は、2025年度中にAIロボティクスの実装拡大・競争力強化に関する戦略を策定する方針を示している#4。技術的ブレイクスルーと国際競争の激化、国内の人手不足の深刻化が同時に進行する今、わが国は、AIを組み合わせたロボットの社会実装を本格化させる重要な分水嶺にある。この機を逸すれば、技術・ルールメーキング・市場等の主導権を海外に委ね、わが国が完全に劣後する事態を招きかねない。

こうした問題意識を踏まえ、経団連として需要者・利用者起点の視点を重視しつつ、ロボット(AI+)を通じた社会課題解決と産業競争力強化に資する道筋を示すべく、以下提言する。

2.基本的な考え方

(1) 目指す社会像

わが国が目指すべきは、ロボット(AI+)が人を一律に代替するのではなく、人の判断や作業が価値を持つ領域では支援・補完を基本としつつ、人手不足や危険・過酷な作業等においては、ロボットによる完全代替も視野に入れ、モノづくりやサービス提供が高度化・自動化している社会である。

アニメやマンガの文化的背景も一因となり、ロボットに対する肯定的なイメージが概ね形成されている日本では、人とロボットが協調しながら現場を支える姿が、現実的かつ望ましい社会像として受け入れやすい土壌がある、との指摘も散見される。こうした「人協調型」ロボット(AI+)の活用は、安全・安心や社会受容性の確保という観点からも、日本が強みを発揮し得る分野である。

そこで、わが国として短期・中期・長期といった時間軸を設定し、フェーズごとに現実的かつ野心的な目標と投資の重点を設定することが戦略的に重要である。こうした時間軸を意識した戦略設計によって過度な期待の先行や投資の空洞化を回避しつつ、現場での実装と改善を通じたロボット(AI+)の社会実装の着実な前進を図ることが求められる。

(2) 利用者起点のロボット(AI+)

ロボット(AI+)の実装はあくまで手段に過ぎず、社会課題の解決を通じて人々の生活をより豊かにするとともに、産業活動等における価値を創出することこそが目的である。このため、ロボット(AI+)の開発・導入・活用に当たっては、技術的な可能性や供給側の論理に立脚するのではなく、現場でロボットを活用する需要者の視点に立った「利用者起点」の徹底が不可欠である。

わが国ではこれまで、ロボット技術の研究開発や実証が数多く行われてきたものの、必ずしも社会実装や市場拡大に結び付いていない。その背景には、個別技術の高度化や実証を重視するあまり、導入後の実運用や現場での改善、費用負担といった、利用者側の視点が十分に織り込まれてこなかったことがある。

実際、経団連が会員企業を対象に実施したアンケート#5でも、ロボット(AI+)の社会実装や市場拡大が進まない要因として、「需要側の受け入れ・導入環境(インセンティブ・支援策ほか)が未整備」との回答が多く挙げられている(図表2)。この結果から、技術の成熟度もさることながら、導入・運用段階における実務的・構造的な課題が社会実装を進める上でボトルネックとなっている実態がうかがえる。

【図表2:社会実装・市場拡大が進まない要因】

ロボット(AI+)を真に社会に根付かせるためには、経団連アンケート結果(図表3)でも示されたように、労働力不足への対応や生産性・安全性の向上、サービス品質の向上等、利用者にとっての具体的な価値を明確化した上で、技術開発から導入・活用、運用・改善に至る一体的な展開が求められる。

【図表3:ロボット(AI+)導入により期待する効果】

「利用者起点」は、現場の要望を受動的に取り入れることを意味しない。業務全体の流れや制約条件等に鑑み、ロボット(AI+)を導入すべき工程、導入後の運用・保守・改善といった点を含め、利用者の視点から全体最適を構想する必要がある。

ロボット(AI+)の価値は実運用を通じて向上する。現場での使用状況やトラブル対応、改善の積み重ねによって得られる知見は、他の産業分野や用途への横展開にも活かされる重要な資産である。利用者起点のアプローチは、ロボット(AI+)の信頼性や実装力を高めると同時に、市場の拡大や産業競争力の強化に資することを認識すべきである。

(3) 競争力の源泉

センサーや精密制御部品、アクチュエーターといった要素技術は、ロボット(AI+)分野において不可欠であり、わが国のロボット産業の競争力の根幹をなすものである。これらは、ロボットの性能や信頼性を支える礎であり、日本のロボット産業が長年にわたり磨き上げてきた中核的強みとして維持、強化していくべきものである。

こうしたハード面での優位性とともに、競争力をさらに高みに引き上げる潜在力を有しているのが、現場での実装と改善の積み重ねを通じて培われてきた無形資産である。すなわち、①高品質への信頼を基盤として蓄積されてきた産業データ、②ロボットが社会実装され、日常的に稼働する中で蓄えられた運用・改善の知見(いわゆる「現場知」)および各種アプリケーションである。

ロボットの挙動や制御結果、異常発生時の対応、改善の履歴ほか、現場での運用を通じて得られるデータの蓄積と活用が競争力を左右する中、これら産業データや現場知の多くは、個別の企業や現場に閉じた形で管理されてきた。

わが国が目指すべきは、量的拡大や価格競争に依拠するのではなく、高品質・高信頼を基盤とした高付加価値型のロボット(AI+)モデルを確立することである。ロボット(AI+)の開発・社会実装を推進する観点からは、企業・業界の垣根を越えてデータを連携する基盤として「産業データスペース」(各主体が自らのデータに対する主権を保持しつつ、相互運用性を確保するための枠組み)の構築#6が喫緊の課題である。

その際、データ連携の実効性を高めるためには、データ量の確保に加え、現場で取得されるセンシングデータ等の品質およびメタデータ(時刻同期、座標系、取得条件等)を適切に管理することが重要となる。ロボット(AI+)の高度化や横展開を促進する観点から、センサー、アクチュエーター、バッテリー等のフィジカル基盤を含め、共通のインターフェースやルールの下でデータ連携を可能とし、制御再現性やセキュリティの確保が欠かせない。

また、データ主権を前提とした、オープンな参加形態の産業データスペースの整備は、大企業のみならず、スタートアップや中小企業、システムインテグレーター(SIer)、研究機関等、多様な主体の参画を促す上でも重要である。ロボット(AI+)分野においてイノベーションを創出し、国際競争力を強化する観点からは、既存産業の強みと新たな発想・技術が融合するオープンなエコシステムを構築することが求められる。

さらに、データ基盤の整備を着実に進めると同時に、今後のヒューマノイド開発も見据え、これらのデータを支えるフィジカル基盤の強化が不可欠である。具体的には、センサーやアクチュエーター、バッテリーといったコアコンポーネントに関する要素技術について、技術基盤の確立と国際競争力の一層の向上を強力に推進していくことが極めて重要である。

3.政府への要望

ロボット(AI+)の社会実装にあたっては、企業がリスクを取り、主体的に投資を行うことが大前提となるが、最終的な判断が経営者の意思決定に委ねられる中、人手不足への対応という必要性が明らかでも、投資回収の見通し、既存業務との整合性、組織体制や人材確保の課題等から、導入に踏み切れない現場も少なくない(図表4)。

とりわけ、導入後の現場での定着や運用改善には一定の時間を要することから、短期的な費用対効果のみで投資判断を行うことは適切とはいえない。このため、ロボット(AI+)への取り組みを単年度の収益性で評価することなく、中長期的な価値創出を見据えたマインドセットへの転換が、産業界全体に求められる。

【図表4:社会実装・市場展開を阻害する要因】

また、初期投資負担はもとより、共通プラットフォームや法制度の未整備といった、民間の自発的な取り組みだけでは克服しがたい課題も少なくない(図表5)。とりわけ、減価償却制度や補助制度の設計、業法・安全規制の不確実性等、経営判断に直接影響を与える制度面の課題は、民間の努力のみで解決することは困難である。

そこで政府には、民間の挑戦を後押しする環境を整備すべく、緊密な産官学連携を大前提とし、大胆な投資促進策、規制・制度改革、国際標準化、国際展開支援、人材育成等を一体的かつ戦略的に推進することが求められる。

こうした基本認識や経団連アンケート結果も踏まえ、以下要望する。

【図表5:政府に期待する施策】

(1) ルール形成:規制・制度改革および国際標準化の推進

ロボット(AI+)の社会実装にあたっては、技術開発や投資を支えるルール形成が欠かせない。ロボット(AI+)の活用領域は工場内等にとどまらず、インフラ点検や建設、物流、介護、防災等、人や社会インフラと直接関わる領域へと急速に拡大しており、適切な制度設計が極めて重要である。

国内にあっては、わが国がこれまで培ってきた品質と信頼を軸に、民間の創意工夫、イノベーションを誘発すべく、禁止事項を明確にするネガティブリスト方式を基本とした「ガードレール型」ルールを整備し、その枠内で企業や現場が柔軟に運用できる環境を構築することが肝要である。

また、ロボット(AI+)が実社会で安定的に稼働するためには、制御可能性や制御再現性の確保、サイバー・フィジカル両面のセキュリティ対策、異常時のフェイルセーフ設計(システムや装置が故障した際に安全を確保し、被害を最小限に抑えるための設計手法)等が不可欠である。こうしたルールの策定に当たっては、実証や社会実装の現場で得られた具体的な知見を丁寧に汲み取るべきである。

さらに、社会受容の拡大やグローバル市場の開拓・獲得という観点から、国際標準化を念頭に基準・規格等を策定していく必要がある。産官学が緊密に連携し、オープン&クローズ戦略のもと、日本が強みを有する高品質・信頼性を軸とした国際標準化の戦略的な推進によって、競争力強化とグローバル市場獲得につなげることが極めて重要である。

(2) 人材育成:ロボット(AI+)エコシステムの構築

ロボット(AI+)の社会実装と持続的な競争力確保において、成否を左右するのは人材である。高度な研究・開発人材のみならず、ロボットを現場で運用、改善を積み重ねる人材が有機的に連携することで、ロボット(AI+)が初めて社会に定着する。

とりわけ、AI・ロボット技術と現場、さらには経営判断を横断的につなぐ「統合型人材」の育成が重要である(図表6)。技術の可能性と現場の制約、投資判断や事業戦略を同時に理解し、関係者間の橋渡しを行う人材が不足してきた実態を踏まえ、これら人材を意識的に育成・評価し、キャリアとして確立していくことが求められる。

また、ロボット(AI+)の現場では、ロボットと物理的に向き合い、調整や保守、改善を担う人材の役割が極めて重要である。最先端のAIや制御技術を搭載しても、現場での調整や継続的な改善なくして、安定的な稼働は覚束ない。現場人材の技能や知見を適切に評価し、次世代へ継承していく仕組みの構築が不可欠である。

【図表6:人材確保・育成面の課題】

さらに、大企業やSIer、中小企業、研究機関、スタートアップほか、多様な主体がそれぞれの強みを発揮しつつ連携するエコシステムの構築が重要である。オープンプラットフォームを前提とした環境を整備することによって、新規参入や技術融合を促進し、産業全体としての厚みを増していくことが重要である。政府は、リスキリングやOJT、産官学人材循環等を通じて、かかるエコシステムを支える人的投資への支援を強化すべきである。

加えて、持続的なロボット(AI+)人材育成という観点から、幼少期から初等・中等教育、高等教育、社会人に至るまで、技術への関心と挑戦意欲を段階的に育める仕組みを構築することが重要である。この点、ロボット競技会や育成プログラムを通じて若い世代に実践的な学びの場を提供する活動は、技術力の底上げにとどまらず、ロールモデルやスター人材を生み出し、分野全体の活性化を促す効果も期待できる#7

教育・研究の成果を社会実装につなげ、その成果が人材や技術への投資に還元される循環によって、若い世代が挑戦するインセンティブが明確となる。諸外国で時価総額数千億ドルを超えるスタートアップが躍進する中、わが国でも緊密な産官学連携の下、スタートアップを含め社会実装とマネタイズを可能とする持続的なエコシステムを構築すべく、ステークホルダーの結集に向けて政府がイニシアティブを取ることが戦略的に極めて重要である。

(3) フェーズ別にみた勝ち筋

ロボット(AI+)分野における競争優位は、単一の技術・製品で勝敗が決まるものではなく、社会実装を通じた信頼の蓄積と市場形成の積み重ねによって獲得される。そのため、先行する米中とは異なる日本の勝ち筋を産官学で明確化し、共有すべく、社会実装のターゲットとなる分野・アプリケーションの優先順位付けを行うとともに、「要素技術」と「活用分野」の2軸によるマッピングが必要である。

さらに、中期的には現在議論されている「産業データスペース」(既述)の枠組みに、品質や生産性向上に関わる「現場知」を組み込んでいくことが重要となる。こうした分析やマッピングを踏まえ、短期・中期・長期の時間軸を明確に意識し、それぞれのフェーズにおいて現実的かつ戦略的な社会実装を進めていくことが不可欠である。時間軸に応じた勝ち筋を、以下の通り3段階で示す。

なお、本提言では、短期・中期・長期の各フェーズを順に進めるのではなく、相互に連関しつつ、アジャイルに並行して推進していくことを前提としている。また、中長期の戦略については、現時点では想定しえない技術の進化や産業を取り巻く環境の変化に合わせた柔軟なアップデートが不可欠である。

① 短期(~5年):Build & Run(「信頼の基盤」蓄積を踏まえた社会実装の加速)

短期においては、国際競争力を確保できる分野として、産業用ロボット(AI+)に重点的に資源を投入すべきである。とりわけ、工場内にとどまらず、工場外フィールドを含む現場での社会実装を通じて、制御再現性、安定運用、安全確保、保守・改善といった「信頼の基盤」を着実に蓄積することが重要である。

精密制御、品質管理、安定稼働等の領域で世界的に高い評価を得ているわが国として、ハードウェア単体ではなく、AIアプリケーション、システムインテグレーション(SI)、運用・保全に至るまでサービス事業として高度化を図るべきである。

特に、製造現場における実装実績を着実に積み重ねることで、信頼性や再現性に裏打ちされた競争優位を確立し、グローバル市場におけるデファクトの地位獲得を目指すべきである。また、中小・零細企業でも導入を促進すべく、サブスクリプションやリース等の柔軟な導入形態の普及を促進することが肝要である。その際、スタートアップ参画を促すエコシステムを確立できる導入支援も検討すべきである。

産業用ロボット等を核とした社会実装を着実に進めると同時に、工場内外を問わず多様なユースケースを通じて、制御、運用、データ活用、人との協調に関する知見を蓄積していくことが重要である。こうした取り組みは、将来の人協調型・サービスロボット(AI+)や高度自律型ロボットの展開を見据えた基盤形成としても位置付けられる。特にスタートアップについては、実証にとどまることなく、品質確保や運用・保全を含めた事業化段階へ移行できるよう、大企業やSIerとの連携、調達・導入、M&A 等を通じて、エコシステム全体で支えていくことが求められる。

加えて、センサーやアクチュエーター、バッテリー等のコアコンポーネントに関する要素技術の確立と国際競争力の強化を進めるとともに、経済安全保障の観点から重要部材・部品を含むサプライチェーンの強靭化と安定供給の確保を図る必要がある。これらは、中期フェーズ以降のサービスロボットの展開や、長期的な高度自律型ロボットの実現を支える共通基盤として位置づけられる。

こうした取り組みを通じて、ロボット(AI+)の社会実装を点から線、線から面へと拡げ、わが国のロボット(AI+)戦略が実行段階へと大きく動き出す「うねり」を形成していくことが重要である。

② 中期(5~10年):Expand & Scale(運用領域拡大)

短期フェーズにおいて産業用ロボット等で培った技術、信頼性、運用知見等を基盤とし、2040年を見据え#8、生活・サービスロボット(AI+)への展開を本格化させる段階に入る。このフェーズでは、機密性・権利・安全保障等に配慮しつつ、わが国の競争力の源泉である「現場知」(日常的な稼働から得られる運用・改善の知見)をデータ化し、データ主権を担保した上で広範に連携できる「産業データスペース」の本格運用が必須となる。

多様な現場実装から得られるデータ・知見を「産業データスペース」で相互に連携し、制御安定性やセキュリティ、再現性を高めつつ、日本の強みとなる分野でグローバルな優位性を確保し、社会実装の対象国・地域を拡大していくことが極めて重要である。具体的には、エッセンシャルワーカーの補完・代替となる生活・サービスロボットへの展開を本格化させつつ、物流、介護、建設、インフラ点検、清掃等、人と同じ空間で稼働する分野では、日本が誇る「安全性・安心感・社会受容性」を競争力の中核に据えていくことが重要である。

なお、本フェーズで想定する取り組みの一部は、既に短期フェーズと並行して始まっており、とりわけインフラ点検・保全や災害対応、建設等の分野においては、安全確保や人手不足の観点から、社会実装の加速が待ったなしの課題である。このフェーズでは、単なる省力化にとどまらず、サービスの質向上や新たな価値創出につながるユースケースを創出#9していくことが重要である。需要者・利用者のニーズを踏まえ段階的に実装領域を拡大することによって、持続的な成長を実現する必要がある。

③ 長期(10年~):Global Presence(第三極としての国際的地位確立)

ヒューマノイドを含む高度自律型ロボットは、現実世界における制御や運用の知見を長年積み重ねた先に到達し得る技術的フロンティアである。短期・中期フェーズにおける社会実装を通じて蓄積された信頼と技術を土台とし、自律性や汎用性を着実に高め、米中に伍する「第三極」としてのポジションをわが国が確立していくことが現実的なアプローチとなる。

この分野では、単に技術的な先進性を追求するのではなく、人間社会との共存を前提とした設計思想や倫理・安全への配慮を組み込みながら、実装を目指すことが重要である。こうした積み重ねを通じて、日本の強みである「現場力×安全×品質」が評価される形でのグローバル展開を実現すべきである。グローバル市場において、対象分野の広がりと社会実装の深化を図り、わが国の勝ち筋である「ロボット(AI+)システム」の存在感を存分に発揮することが期待される。

【図表7:短期・中期・長期を並行的に進めるロボット(AI+)戦略の全体像】

4.おわりに

今夏に予定される「日本成長戦略」の策定に向けて、AI・半導体を含む17の戦略分野において、大胆な投資促進や国際展開支援、人材育成、産学連携、国際標準化等の総合的支援が検討されていることは、まさに千載一遇の機会である。

中小企業や研究機関等がロボット(AI+)を容易に導入できる環境の整備にあたっては、海外のロボット・サービス事業者による国内市場の参入・拡大を防ぎ、わが国の産業自律性・競争力を確保する観点からも、政府による強力な支援が不可欠である。

ロボット(AI+)を通じた産業競争力の強化と社会課題の解決への貢献は「車の両輪」であり、両立してこそ持続可能な成長が可能となる。特に産業用ロボット分野で世界シェア6割超を維持する優位性を活かしつつ、社会実装を通じて培われた信頼や運用知見を付加価値として重ね合わせることで、スタートアップを含む多様な主体による事業創出や、日本発ロボット・サービスの国際展開につなげていく視点が重要である。品質や信頼の面でわが国が培ってきた国際的な評価を礎に、産官学の緊密な連携の下、フェーズ別の勝ち筋に沿った戦略を着実に展開することが欠かせない。

経団連としても、「投資牽引型経済」への転換に向けて挑戦と実装を積み重ね、産官学の結節点として先導的な役割を果たすことで、わが国経済の潜在成長力の強化に注力していく決意である。

【図表8:ロボット(AI+)による社会課題解決と産業競争力強化のイメージ】

以上

  1. 本提言では日本産業規格(JIS)に準じて、ロボットを「二つ以上の軸についてプログラムによって動作し、一定の自律性を有し、環境内で所期の作業を実行する運動機構」と定義。「センサー」「知能・制御」「駆動系」という3つの要素技術によって知能化された機械システムも含め、産業用ロボットはもとより、サービス分野やフィールドで稼働するロボットや、AI等と組み合わせることによって実世界で自律的・半自律的に判断・動作するシステムを広く含意
  2. 画像や動画等の視覚情報と、テキストで書かれた言語情報をつなぐAI技術。LLMよりも幅広いタスクに対応できるのが特徴
  3. EUのAI法(2024年8月施行)、日本のAI事業者ガイドライン(2025年3月)、米国国立標準技術研究所(NIST)のAI Risk Management Framework(2023年1月)等に見られるように、各国・地域の政策・規制はAIの性能水準に加え、信頼性やガバナンス、実装・運用段階のリスク管理を重視
  4. 「経済財政運営と改革の基本方針2025」(「骨太方針2025」2025年6月13日閣議決定)において、「AIや先端半導体の実装先となるロボットについて、2025年度中に、実装拡大・競争力強化に関する戦略を策定する」旨明記
  5. 2025年12月8日~2026年1月16日、産業競争力強化委員会・同企画部会、デジタルエコノミー推進委員会・同企画部会・AI活用戦略TF、イノベーション委員会・同企画部会委員企業を対象に実施
  6. 経団連は2025年5月13日、「産業データスペースの構築に向けた第2次提言」を公表。「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2025年改訂版」「デジタル社会の実現に向けた重点計画」(いずれも2025年6月13日閣議決定)における官民連携の枠組みの整備やエコシステムの形成に関する記載に基づき、同年6月20日、デジタル庁と経団連は「デジタルエコシステム官民協議会」を設立
  7. 一般社団法人次世代ロボットエンジニア支援機構(通称「Scramble」)は2020年5月設立以来、「価値創造人材」を育成する早期エンジニアリング教育基盤と全世代型教育基盤の展開に向けて取り組み。米中のエンジニア育成システムも念頭に、小中学生向け地域ロボット部活動や、小中学生によるAIを使ったプロダクト開発ハッカソン、スポーツチームのように地域に根ざした活動を展開。全世代育成を目指したエンジニア育成の場を提供するなど、裾野の広いロボット人材の発掘に向けて活動
  8. 生産年齢人口(15~64歳)は今後も減少を続け、2040年頃には6,000万人程度まで減少する見込み(国立社会保障・人口問題研究所の将来推計人口。2023年4月公表)
  9. 人と同じ空間で稼働する人協調型・サービスロボット分野においては、遠隔操作や人協調を前提としたロボットの社会実装(例:MotionLib社)や、小売・サービス現場での自律ロボットの実運用(例:Telexistence社)等、スタートアップを含む多様な主体による実装に向けた動きが活発化

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