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会長コメント/スピーチ 会長スピーチ 「日本の針路」 ~内外情勢調査会における米倉会長講演~

2010年11月17日(水)
於 ホテルニューオータニ ザ・メイン 鶴

1.はじめに

ただいま、ご紹介に預かりました、日本経団連の米倉でございます。このたびは、歴史と伝統のある内外情勢調査会でお話をする機会をいただきまして、誠に光栄に存じます。

APEC CEOサミットを振り返って

さて、先週横浜でAPECが開かれましたが、経団連といたしましても、首脳会議にあわせ、12日、13日の両日、「APEC CEOサミット」を開催いたしました。「APEC CEOサミット」は、21の国と地域から構成されるAPECの経済関係者を中心に行われる公開フォーラムであり、毎年、開催国の経済界が主催いたしております。

今から16年前の1994年、インドネシア・ボゴールで開催されたAPEC首脳会議において、貿易・投資の自由化とアジア太平洋地域の経済協力の強化に向けたAPECの基本方針を示したボゴール宣言が採択され、その中で「先進国・地域は、2010年までに、自由で開かれた貿易と投資を実現する」とする目標が示されました。この目標年にあたります本年のAPEC首脳会議では、その達成状況の評価とともに、APECの今後の進むべき道筋を示すことが重要なテーマとなりました。そして、この度、世界経済の復活と成長軌道への回帰に向けてアジア太平洋地域の果たす役割と責任がますます大きくなっていく、という共通認識のもと、地域経済統合の推進と成長戦略が「横浜宣言」として打ち出されたことは、皆様ご案内の通りでございます。

そうした中、CEOサミットでは、「世界の成長の原動力としてのアジア太平洋−経済危機後の繁栄を目指して」をテーマに、各国の首脳や国際機関の代表、学識経験者の皆様の参加も得て、企業のトップをはじめ、約900人に及ぶビジネスリーダーの出席のもと、APECが直面する諸課題について様々な角度から議論を深めることができました。各セッションで、多くの大変興味深い議論が展開されましたので、いくつかご紹介したいと存じます。

世界経済、アジア太平洋地域の経済の現状と展望につきましては、新興国の台頭を中心に世界経済の構造が大きく変化する中で、アジア太平洋地域が世界経済の成長センターとしての役割を果たしていくべきであるとの見解が多く示されました。また、このような役割を果たしていく上で、域内の一層の貿易・投資の自由化は不可欠であり、FTAAP(アジア太平洋自由貿易圏)の実現に向けて、最近話題となっているTPP(環太平洋経済連携協定)や、ASEAN+6など、個別のEPAの取り組みを積極的に推進していくべきであるとの意見も、数多く出されました。

また、APECが直面する分野ごとの取り組みといたしましては、特に、エネルギー・環境問題、イノベーションとICT等の分野で、APECのメンバー間での具体的連携や共同プロジェクトの推進につき、様々な提案がなされました。さらに、APECの将来のあり方についての議論の中で、来年以降のメンバーの拡大要請についても、前向きに対応していくべきであるとの意見も出されました。

CEOサミットにおきましては、米国、中国など、各国の首脳にも、ご挨拶や基調講演をいただきました。

菅総理からは、「日本屈指の国際港・横浜で開かれる首脳会議を契機に、日本で『平成の開国』ができるよう努力したい。わが国はEPAや広域経済連携について高い水準を追求し、TPP推進のため国内環境を整備するとともに、早急に関係国との協議を開始する」と原稿なしで挨拶されました。

また、APECの来年の議長国であるアメリカのオバマ大統領からは、「米国は、アジア太平洋国家としての役割をより強く意識し、この地域との貿易投資の拡大に努めたい。また、米国はTPPに参加し、アジア太平洋地域での米国の存在を示すとともに、同盟を通じた平和の維持等、民主国家のリーダーとしての役割を果たしていきたい」、という力強いメッセージがございました。

中国の胡国家主席からは、「中国をはじめとする振興国は世界経済の発展に貢献し続けるが、国内格差などの課題を抱えており、その解決には長期の努力が必要である。また、国際社会の一員として、グローバルな課題等に発展段階を踏まえた責任を果たしていくべきである。いかなる保護主義にも反対し、自由貿易を支持し、ドーハラウンドの締結を推進すべきである」とのメッセージをいただきました。

アジア太平洋地域は、まさに世界の成長センターであり、域内各国がダイナミズムを一段と発揮するとともに、地域経済統合への機運が急速に高まりつつあります。わが国は、こうしたアジア太平洋の地域統合の流れに後れをとることなく、積極的にそれをリードし、ともに成長していかねばならないと、改めて思いを強くしたわけであります。今回のAPECの開催をきっかけに、わが国の経済が一日も早く活力を取り戻し、持続的な成長を遂げていくことを、強く期待するところでございます。

しかしながら、現在のわが国は、克服すべき課題が山積している状況にございます。本日は、まず、日本経済の現状についての認識を申し上げ、経団連が特に重要な課題と位置付ける「税財政・社会保障の一体改革」「地球温暖化問題」「日本経済の復活・再生に向けた民間主導の取り組み」、という3つのテーマについて、お話し申し上げたく存じます。

2.日本経済の現状と課題

(1)日本経済の現状

ご承知の通り、世界金融危機に続く世界同時不況の中で、わが国経済は戦後最大の落ち込みを記録いたしましたが、その後、新興国の経済回復をきっかけに、昨年春頃から本年の前半まで緩やかに持ち直してまいりました。とくに、輸出に関しましては、中国をはじめとする新興国向けを中心に上向きになり、これに伴い生産も順調な回復を見せ始め、こうした動きに合わせて、設備投資も、依然として低水準ながら、持ち直しの方向に転じつつありました。また、個人消費は、エコ関連の各種経済対策の効果や猛暑の影響から、自動車やエアコンなどの家電を中心として、緩やかに改善を続けてまいりました。この結果、一昨日発表された2010年7-9月期におけるわが国のGDPは、前期比年率で3.9%増と高い伸びを記録いたしました。

しかし、雇用情勢は、失業率が5%台の高水準で推移するなど、厳しい状況が続き、全体として、自律的な回復を示すまでには至っていない状況となっております。

さらにここにきて、足もとの景気回復の勢いは、明らかに鈍化しており、景気の先行きに対する見通しも厳しさを増しております。このような変化の背景といたしましては、エコカー購入補助金制度など、経済対策の終了とともにその効果が剥がれ落ち、さらに世界経済の減速や急速な円高の進行による影響が大きくなっていることがあげられるものと存じます。

(2)世界経済の現状とその影響

そこで、世界経済の直近の状況を見てみますと、これまで世界経済の回復を牽引してきた中国をはじめとする新興国におきましては、景気の過熱に対する警戒感から、経済政策をやや引き締めの方向に転換しておりまして、景気拡大の勢いは鈍化しつつあります。

また、米国では、雇用・賃金の回復が極めて緩慢になっていることに加えて、個人消費や住宅などの各種の指標が示すとおり、夏場以降、内需が力強さを欠き、景気の先行きに対する懸念が急速に高まっております。

欧州では、ドイツを中心に堅調な回復を維持しておりますが、各国間で回復の勢いにバラツキが生じております。特に、ギリシャをはじめ、財政健全化が大きな課題となっている南欧諸国は、依然として低成長を脱しておらず、こうした中で、金融市場は、予断を許さない状況が続いております。

(3)円高・デフレ対策

このように世界経済の先行きに対する不安が高まる中、わが国では、企業の想定を上回る勢いで急速に円高が進行しておりまして、日本企業の輸出は深刻な打撃を被っております。一方、日本政府は内需主導の自律的な経済への転換を目指し、さまざまな施策を打ち出しておりますが、内需に力強さは戻っておらず、当面は外需に頼らざるを得ない状況にあります。また、国内市場における需要と供給のギャップは依然として大きく、デフレ脱却の目途は依然として立っておりません。

このような状況にあって政府は、およそ6年半ぶりに円売り・ドル買い介入を実施するとともに、2度にわたる緊急経済対策を決定いたしました。また、日銀も先月の金融政策決定会合において、包括的な金融緩和政策の導入を決定いたしました。しかし、残念ながら、政府・日銀のこうした取り組みも、円高・デフレの動きにストップをかけるには至っておりません。

特に為替については、現状のレベルの円高が定着いたしますと、わが国産業の海外移転を加速させ、ひいては国内の雇用機会を喪失させる恐れがあると経済界では強く危惧しております。

経団連といたしましては、こうした大変厳しい状況を打破するために必要なあらゆる政策を、迅速かつ果敢に遂行することを菅内閣に強く求めております。

具体的にはまず、円高是正のための外為市場への介入に加えまして、デフレ脱却に向けて政府・日銀が一体となった取り組みをさらに強化すること。二つ目には、国内での投資促進、雇用創造を目指し、政府の「新成長戦略」を早期かつ着実に実施すること。三つ目は、自由で円滑な企業活動を促すため、法人税の軽減、公平かつ適切な地球温暖化政策の策定など、わが国の事業環境の国際的なイコールフッティングを確保するとともに規制・制度改革を徹底すること。そして、税財政・社会保障の一体改革を推進し、将来に対する国民の不安を払拭し、消費と投資の拡大を促すこと。さらに、WTOドーハラウンド交渉の早期妥結やアジア太平洋地域における経済統合の拡充など、国際協力・通商・投資政策を積極的に推進すること、を要望いたしております。

3.税財政・社会保障一体改革

(1)政府の取り組み

ここで、経団連が特に重要視しておりますテーマの一つである「税財政・社会保障の一体改革」についてお話申し上げたいと思います。

菅総理は、先の臨時国会の所信表明演説において、財政健全化と社会保障改革を改めて重要政策と位置付けることを明言されました。これを受け、総理を本部長とする「政府・与党社会保障改革検討本部」と民主党の「税と社会保障の抜本改革調査会」が一体となり、年内にも改革の中間的な取りまとめが示される予定であると伺っております。

本日は、少々時間をいただき、経団連の考えております税財政・社会保障の一体改革のあるべき姿をご紹介させていただきたいと存じます。

(2)社会保障制度改革

それでは、まず、社会保障制度の改革についてお話ししたいと思います。ご承知の通り、高齢化が急速に進展しているわが国では、現役世代3人で高齢者1人を支えている現在の構造は、2055年には1.3人で1人の高齢者を支える姿に変わります。また、2010年時点で105兆円の社会保障給付費は、2015年には117兆円、2025年には141兆円まで膨らむと推計されております。人口増加を前提に事業主や勤労者の社会保険料で支えてきたこれまでの制度は、将来立ち行かなくなることは明白であります。また、働き方が多様化する中で、現在の制度は必ずしもセーフティネットとして機能しておりません。こうした社会保障制度の現状を目の当たりにして、国民の不安は急速に高まってきています。将来について悲観的な見方が広がり、それが消費や投資の足かせとなり、経済の低迷の大きな原因となっていることに、経済界は強い危機感を抱いております。一方で、社会保障制度の改革といっても、単に社会保険料を引き上げることで給付拡大を賄うのでは、経済の活力を削ぎ、雇用の創出を阻害することになります。

そこで経団連では、かねてから「中福祉・中負担国家」を目指し、消費税の社会保障目的税化と消費税率の引き上げにより、社会保障制度を国民全体で支えていく仕組みへ転換すべきことを提案しております。

これにより、日本の国民負担率は、現在の40%からイギリスやドイツ並みの50%台となりますが、本格的な少子高齢化の時代を迎える中で、将来の世代へ「つけ」を回さないという強い責任感をもって、国民全体でこの負担増を受け入れることを今こそ決断すべきである、と考えております。

ここで社会保障分野の中の、高齢者医療制度、介護保険制度、子育て支援、そして公的年金の四つの分野についてお話を申し上げたいと思います。

一つ目は高齢者医療制度改革であります。現在、健康保険組合の保険料の約4割から5割は高齢者の医療給付費への支援に使われております。こうした負担もあって、企業の健康保険組合の運営は、年々厳しさを増しておりまして、平成21年度決算では、約8割の組合が赤字決算に陥っております。中小企業で構成される「協会けんぽ」の状況はより深刻でございまして、現役世代からの支援は既に限界に達しております。

しかしながら、新たな高齢者医療制度について議論を行っている「高齢者医療制度改革会議」では、現役世代の過度な保険料負担をかえりみることなく、さらなる負担を企業や勤労者に求める形で検討が進められております。これに対し、経団連、そして連合におかれましても、制度の持続可能性を高めるとともに、世代間の扶助に関する負担は税に求めることを基本とすべきであるという考えのもとで、公費負担割合を高める形での制度設計を求めております。しかしながら、新たな負担のあり方については、いまだ十分な議論が行われているとは言えない状況であります。今後の少子高齢化社会における制度の持続可能性を考えれば、高齢者の負担の水準はどうあるべきか、あるいは結婚・出産・子どもの教育・住宅など多様なライフイベントが想定される現役世代の負担はどうあるべきかについてなど、公平な議論を行った上での制度移行が欠かせないものと考えております。

二つ目は介護分野であります。介護保険制度の見直しの議論をめぐっては、新たな財源が確保されないまま、サービスの機能強化や拡大を求める声だけが強くなっている傾向にあります。現在、日本の介護給付は諸外国と比べて相対的に手厚く、軽度の要介護者も給付対象とされております。今後、高齢化の進展に伴い、要介護者の増加や重度化が見込まれるため、介護保険給付対象者や、給付水準のあり方についても議論を行い、重度の要介護者に資源を集中するなど、給付と負担のバランスを図っていくことが重要であると考えております。

また、医療と介護は現在、保険制度がそれぞれ別々に運営されておりますが、サービス提供の場面では密接不可分の関係にあります。制度横断的な改革により、提供するサービスの連携と、効率化・重点化を図る必要があります。

三つ目は、子育て支援であります。政府は、「子ども・子育て新システムの基本制度要綱」を公表いたしましたが、この中で子育て支援対策の制度、財源、給付を一元化するために「子ども・子育て勘定」という特別会計の創設を謳っておりまして、厚生年金保険料に上乗せする形で、さらなる費用負担を求める動きがあります。しかし、子育てを担う現役世代に限って負担を求めるシステムは、政府が強く推し進めようとしている雇用政策にもマイナスの影響を与えることになります。経団連といたしましては、子育て支援政策において企業が担うべき基本的な役割は、ワーク・ライフ・バランスを積極的に推進することであり、子育て支援に向けられる財源は、幅広い世代の負担の下で、公費により対応するべきであると考えております。

四つ目は、公的年金分野であります。喫緊の課題は、基礎年金国庫負担2分の1を維持するための2兆5千億円といわゆる安定財源の確保であります。そもそも、基礎年金国庫負担金を3分の1から2分の1に引き上げた2年前、当面の財源はいわゆる埋蔵金で賄い、2年後には安定財源を確保するとされておりました。これを受けて、厚生労働省は財源の確保を目指してはおりますが、平成23年度予算で安定財源の確保ができない場合には、年金積立金の取り崩し等が検討され、国民の年金に対する不安、不信をより一層高める恐れがあります。

公的年金の制度改革については、国家戦略室に設置された「新年金制度に関する検討会」において議論が行われ、6月には、中間とりまとめとして、基本原則として7つの項目が示されました。しかしながら、新たな年金制度の創出にあたっては、「社会保障・税に関わる番号制度や様々な分野の制度との整合性を図りながら進めていく」としているにとどまっており、国民の将来不安を解消する具体的な改革案が示されるには、いまだ至っておりません。協議や議論を早急に深め、改革の具体像を示す必要があります。

(3)税財政の抜本改革

次に、税財政の抜本改革についてお話ししたいと存じます。政府は、財政運営戦略や中期財政フレームを閣議決定し、財政健全化に向けた道筋を明示されております。経団連といたしましても、こうした政府の姿勢を全面的に支持しており、政府が財政健全化の方針を堅持しつつ諸施策の実行にあたられることを強く期待しております。

私どもが財政健全化にあたり重要であると考えておりますことは、新成長戦略の実現を通じて名目成長率を向上させることで、税収を増やすことであります。低い成長率やデフレが中長期にわたって続けば、過去の債務負担が重くのしかかる上、税収の増加も期待することができません。新成長戦略を確実に実行に移し、持続的な経済成長を果たしながら、財政健全化を進めていくことが大切であると考えております。

同時に、財政の圧迫要因となっている社会保障関連の歳出について、徹底的な合理化、効率化を進めることも重要であります。具体的には、社会保障・税共通番号の導入やICTの利活用を推進するとともに、非正規労働者への社会保険の適用範囲の拡大などセーフティネットの充実も加味しながら、選択と集中による給付の適正化を実現していくべきであると、私どもは考えております。

税制についてでありますが、ただ今申し上げました社会保障制度の改革と財政の健全化を成し遂げるためには、安定した財源の確保が欠かせません。しかし、わが国の現在の税制においては、所得税では課税ベースの浸食が著しく、消費税についても税率が低いため、財政を安定的に支えるという、税制に本来求められる重要な機能が十分に果たされておりません。

今、求められる税制改革とは、将来世代への付け回しを回避することを目指し、消費税率を速やかに引き上げるとともに、各種控除を見直して所得税の基幹税としての機能を回復し、法人税への過度な依存を改めることであり、社会保障給付をはじめとする中長期的な歳出の増大に対応できる税体系を構築していくことであります。

経団連といたしましては、とりわけ消費税の改革を重視しております。消費税は様々な税目の中でも、特定の対象に負担が集中することがないだけでなく、経済活動への影響が最も中立的な税であります。また、消費税は、持続可能な社会保障制度を実現する上で、現役世代の重い社会保険料負担を抑え、広く国民全体で制度を支えるための安定財源として、最もふさわしい税目と考えられます。

そこで、社会保障費用の増加分、すなわち、高齢化に伴う自然増ならびに公的負担割合の引き上げ分には、消費税率の引き上げによって対応するとの原則を確立し、景気動向を注視しつつ、速やかに、かつ、段階的に、少なくとも10%までは引き上げるべきであると経団連は主張しております。そしてその後も、国民の合意を得つつ、2020年代半ばまでに、消費税率を欧州諸国並みの10%台後半、ないしはそれ以上に引き上げていく必要があると考えております。

消費税の引上げに際しましては、いわゆる逆進性対策が必要となりますが、参考となるのが、カナダのGST(Goods and Services Tax)控除制度であります。これは、低中所得者に対し、生活必需品に係る消費税率の引上げ相当額を低額で交付するという制度でありますが、我が国においてもこうした対策を導入すべきであると私どもは考えております。そして、所得を正確に把握し、セーフティネットにかかる各種給付や減税措置を適切かつ効率的に行っていくために、社会保障・税の共通番号制度を早急に導入すべきであると存じます。番号制度が導入されれば、消費税の逆進性対策のみならず、所得や家族構成に応じた給付つき税額控除など、社会保障と税を融合させた、きめ細かな制度設計が可能となります。

また、法人課税につきましては、企業の国際競争力を向上させ、内外からの投資意欲を増大させることにより、企業の海外移転の抑止と国内雇用の維持・増加を図るという観点から、平成23年度税制改正において、実質的な負担の軽減を伴って、少なくとも5%程度の法人税率の引下げを行うことが不可欠であると主張しております。最終的には、アジア近隣諸国と均衡する20%半ばまで、法人実効税率を引き下げることが必要であると考えております。

こうした改革によって、持続可能な社会保障制度を構築し、国民の将来不安を払しょくして、消費の拡大を図るという好循環をつくることができるものと確信いたしております。

政府におかれましては、税財政・社会保障の一体的な抜本改革の実現に向け、その道筋をしっかりと示し、不退転の決意でのぞんでいただきたいと存じます。そして、与党ならびに野党におかれましても、超党派による取り組みも含め、国民本位、国益本位の観点に立った合意形成と諸施策の実行のためにご尽力をいただきますようお願い申し上げたいと思います。

4.地球温暖化問題

(1)産業界の取組み

次に、地球温暖化問題についてお話したいと存じます。言うまでもなく、温暖化問題は、人類全体が取り組んでいかなければならない最重要課題の一つであります。長期的視野に立って、地球規模で低炭素社会を構築していく必要があります。経済と両立させながら、低炭素社会を実現していくための鍵を握るのは、申すまでもなく技術であります。幸いなことに、われわれ日本の産業界には、これまでの努力で培った世界最高水準の省エネ、新エネ技術があります。これを最大限活かし、国内のみならず、地球規模で普及させるとともに、次なる革新的技術の開発で世界を常にリードしていくこと、それが温暖化問題の解決につながり、また、日本の成長をもたらすものであります。

産業界が取り組むべき課題は、第1に、自らの事業活動から排出されるCO2の削減、第2に、優れた省エネ製品・サービスの市場への提供、第3に、低炭素技術の海外への普及、第4に、革新的な技術の開発である、と私どもは考えております。経団連では、昨年12月、この4分野での活動を柱とする、「低炭素社会実行計画」の基本方針を公表しました。経団連の呼び掛けに応えて、既に40の業界団体が、実行計画の具体化に取り組んでおります。私は、この実行計画の着実な推進を通じ、「『2050年に世界の温室効果ガスを半減』させるという長期目標を達成するうえで、日本の産業界が技術で中核的役割を果たす」ことができると確信しております。ここで、先ほど申し上げました4つの各領域についてもう少し詳しくお話を申し上げたいと存じます。

まず、第1の事業活動から排出されるCO2の削減についてであります。皆様ご承知の通り、経団連では、京都議定書が採択される前の97年6月に自主行動計画を策定いたしました。そして、産業・エネルギー転換部門からのCO2排出量の削減について、共通の目標を掲げ、毎年フォローアップを行っております。こうした取り組みの結果、2008年度のわが国のCO2排出量は、家庭部門、業務部門が90年度比で4割程度増加しているのに対し、産業部門は、13%減少しております。また、産業別に見ましても、世界最高レベルのエネルギー効率を達成しております。マクロ的に見ましても、日本のエネルギー効率は世界一で、世界のGDPに占める日本のGDPの割合が8%であるのに対し、CO2排出量の割合は4%となっております。こうした実績から、政府が2008年に閣議決定した「京都議定書目標達成計画」の中で、「経団連の自主行動計画は産業部門による対策において中心的な役割を果たしている」と高い評価を受けました。こうした産業界の取組みにより、京都議定書の目標達成も視野に入ってまいりました。そこで、“ポスト京都”におきましても、経団連は、新たな低炭素社会実行計画の中で、各業界が、利用可能な最先端の技術の最大限の導入を前提とした中期目標を設定し、その実現に向けた対策を着実に実施するよう、強く働きかけてまいりたいと考えております。

産業界による温暖化問題への取り組みと言えば、製造プロセスなど事業活動において排出するCO2の削減に焦点が当たりがちでありますが、製造業が排出するCO2は日本全体の排出量の3分の1に過ぎません。しかしながら、この分野での削減努力は、今後も着実に、粘り強く続けてまいります。

第2に、優れた省エネ製品やサービスを市場に提供することで、製品のライフサイクル全体を通してのCO2削減に貢献してまいりたいと考えております。例えば、ハイブリッド車は、従来の自動車に比べて、製造段階のCO2排出量が増加しますが、使用段階での燃費がほぼ半減することにより、ライフサイクル全体ではCO2排出量を従来の57%にまで削減しております。化学業界でも、化学製品によるCO2削減の貢献を試算いたしましたが、LEDや太陽電池用材料、建築用断熱材など6つの製品による2020年までのCO2削減量は、1.1億トンになります。これはわが国の2008年度のCO2排出量の9%程度に相当いたします。また、世界の化学産業を代表する業界団体であるICCA(国際化学工業協会協議会)は、マッキンゼーに調査を委託し、その結果、2005年時点で、全世界の化学産業が高機能の素材を開発・普及したことにより、世界全体で69億トンのCO2削減に貢献したとの試算を公表しております。このように、優れた低炭素型製品を開発・普及させることによる排出削減効果は極めて大きいものがございます。

第3の重要課題は、国際貢献であります。わが国のエネルギー効率は既に非常に高い水準に達しております。そのため、国内での今後の削減ポテンシャルは、IEAといった国際機関の調査結果をみても極めて限られているのが実情であります。しかし、日本が持つ優れた技術を海外、とくに途上国に広く展開することにより、地球規模の低炭素社会の構築に大いに貢献することができるものと考えております。例えば、世界の発電は、石炭火力発電が主流でありますが、電力業界では、効率の高い日本の石炭火力発電の技術を、米国や中国、インドに導入すれば、13億トン分のCO2を削減できると試算しております。これは、わが国のCO2総排出量に相当するものであります。また、日本の鉄鋼業界が、その優れた技術を世界に展開した場合には、日本のCO2排出量の25%にあたる3.4億トンのCO2を削減することが可能であると試算されております。わが国産業界は、これまで、日本、米国、中国、インド等の7カ国が参加する「アジア太平洋パートナーシップ(APP)」において、途上国の技術支援を行ってまいりました。今後とも、こうした活動をさらに強化し、世界の低炭素化に貢献していきたいと考えております。

第4の課題は、革新的な技術の開発であります。先進国は現在、2050年に世界の温室効果ガスを半減するという目標に合意しております。この目標は、既存の技術の延長線上にある技術では到底達成できません。様々な分野で、ブレークスルーとなるような、革新的な技術の開発が必要となってまいります。産業界は、大学などの協力も得ながら、優先的に開発・実用化に取り組むべき新技術やその削減ポテンシャルを明確化し、革新的技術の開発・普及のための中長期のロードマップを作成、推進してまいりたいと考えております。

(2)ポスト京都の国際枠組のあり方(COP16)

以上申し上げましたとおり、産業界は、温暖化という人類共通の課題に積極的にチャレンジしていく決意であります。そのためには、「全ての主要排出国が参加する、公平で実効ある国際枠組」と「企業活動を阻害しない温暖化政策」が不可欠であります。

まず、国際枠組についてお話しいたします。ポスト京都議定書の国際枠組につきましては、今月末からメキシコのカンクンにて開催されるCOP16において、議論が行われます。現在の京都議定書は、人類が温暖化防止に向けて初めて合意した国際枠組であります。しかし、残念ながら、米国の離脱や中国をはじめとする新興国の急速な経済成長により、削減義務を負う国のCO2排出量は世界の排出量の3割を切っております。一方、昨年末のCOP15におきましては、主要排出国が署名した「コペンハーゲン合意に留意する」という決定がなされましたが、この合意に賛同した国・地域は、世界全体のCO2排出量の8割以上を占めます。われわれとしては、この合意を土台として、包括的な国際枠組が構築されることを期待しておりました。

しかし、今年に入っても、先進国と途上国の対立は未だ解消されず、交渉は難航しており、今や、COP16における法的な合意は困難であるとの見方が主流となっております。こうした中、先月、EUは条件付きながら、京都議定書の延長を容認する立場を表明いたしました。多くの途上国は、自らは削減義務を負いたくないため、当然、議定書の延長には賛成であります。一方、米国が京都議定書に復帰する可能性はありません。すなわち、京都議定書の延長は、世界の排出量の3割を占める国しか削減義務を負わない現状を、固定化してしまいます。世界が連帯して取り組まない限り、温暖化問題は解決いたしません。ポスト京都議定書の国際枠組につきましては、世界の排出量の20%ずつを占める米国、中国はもとより、世界の主要排出国が参加する、単一の国際枠組を構築する必要があります。経団連は、COP16において、単一の国際枠組構築の土台となる合意の実現を強く期待しております。そして、そうでない、いかなる合意にも、日本政府は断固として反対すべきである、と私どもは考えております。

また、ご案内の通り、わが国政府は、前提条件付ながら、2020年において、温室効果ガスを90年比で25%削減することを表明しております。しかし、わが国の中期削減目標については、90年比25%削減ありきではなく、国際的公平性、実現可能性、国民負担の妥当性の観点から、透明で国民に開かれた議論を改めて行う必要があると考えております。

(3)国内政策

次に、国内の温暖化政策についてお話したいと存じます。経団連は、政府において、国内排出量取引制度、地球温暖化対策税、再生可能エネルギーの全量買取制度のいわゆる「3点セット」の導入が議論されていることを、強く懸念しております。申し上げましたように、温暖化問題を究極的に解決するためには、革新的技術の開発と普及が必要となります。そのためには、技術の担い手たる企業の活動を後押しし、企業活力を活かしていく必要があります。しかし、現在議論されている政策は、むしろ、企業に負担を強い、その活力を削いでしまうことになります。例えば、現在検討されている再生可能エネルギーの全量買取制度は、4,600億円〜6,300億円の買取費用が必要となります。また、地球温暖化対策税は、昨年の環境省案で石油石炭税の1兆円の増税でありました。この上、さらに排出量取引制度が加わろうとしています。一般的に、優れた低炭素型製品の製造は、工程数が多いため、CO2排出量が増える傾向にあります。生産・製造活動に負担をかけることは、温暖化対策にとって最も重要な低炭素型製品の製造を阻害しかねません。また、技術開発の資金を企業から奪うものであります。現在、日本企業は急激な円高と長引くデフレのもとで、大変厳しい状況に置かれております。こうした政策が導入されれば、多くの企業は、雇用の維持さえ、ままならなくなります。そうした観点からも、3点セットの安易な導入には強く反対するものであります。

先ほど申し上げた通り、日本は優れた技術を有しております。世界最高水準の技術を誇る日本企業が、国内でのモノづくりをあきらめざるを得なくなるような政策を、政府はとるべきではありません。むしろ、日本を世界の低炭素型製品・サービスの集積地としていくための政策を実施すべきであります。しかし、残念ながら、現在検討されている温暖化政策は、日本政府がアンチビジネスであるとのメッセージを発信するようなものであります。経団連といたしましても、産業界の思いを十分に理解していただけるよう、引き続き政府と対話を続けてまいりたいと考えております。繰り返しになりますが、産業界は、企業活動のあらゆる分野を通じて、温暖化防止に向けた取り組みを行っていく決意であります。政府には、是非こうした産業界の取り組みを信頼し、任せていただきたいと存じます。そして、わが国産業界の有する力を最大限活かせるような政策の実行をお願いしたいと存じます。

5.日本経済の復活・再生に向けた民間主導の取り組み
〜「サンライズ・レポート−未来都市モデルプロジェクト−」〜

最後に、「日本経済の復活・再生に向けた民間主導の取り組み」についてお話を申し上げたいと存じます。菅総理は、わが国の最重要課題である経済の再生・活性化に向けて6月に策定した「新成長戦略」の実現に強い意欲を示されており、大いに期待しているところでございます。政府の「新成長戦略」には、経団連が提言した内容の多くが盛り込まれる結果となりました。そして現在、私も委員の一人として参加させていただいております「新成長戦略実現会議」におきまして、その戦略を具体的に実行に移すための検討が重ねられているところでございます。経済界といたしましても、「新成長戦略」の実現に向けて、できる限りの支援をさせていただくとともに、経済界自身が知恵を絞り、自らが経済成長の実現に向け、行動を起していきたいと考えております。

私は企業が元気を出し日本経済が成長してはじめて、雇用の創出、財政の健全化、持続可能な社会保障制度の確立といった諸課題への対応が可能になる、と考えております。そして、グローバル化が一段と加速する現在、日本経済の持続的な成長を実現するためには、わが国の企業の国際競争力の強化が不可欠であります。

こうした観点から、経団連では年末を目途に、民間主導の競争力強化のための新たなアクションプランを示した「サンライズ・レポート」をとりまとめることといたしました。

本日は最後に、この構想の目玉となる「未来都市モデルプロジェクト」についてご紹介いたします。このプロジェクトは、都市を舞台に、環境・エネルギー、ICT、医療、交通などの分野で日本企業が有する最先端の優れた技術を結集して、実証実験を行い、革新的な製品、技術、システムを開発し、さらに教育・子育て支援、観光振興などの取り組みも含めながら、安心で安全な生活を実現していくことを目指すものであります。

具体的なプロジェクトの内容としては、「低炭素・環境共生」、「先進医療・介護」、「次世代交通・物流システム」、「先端研究開発」、「次世代電子行政・電子社会」、「国際観光拠点」、「先進農業」、「子育て支援・先進教育」などを考えております。

世界では、技術やサービスの開発スピードが加速する中で、個別の技術や製品単体だけで国際競争力を維持することは難しくなりつつあり、産業分野や業種の垣根を取り払い、高度な技術やサービスを組み合わせたシステムとしての総合力で勝負する時代を迎えているのではないかと思います。このプロジェクトでは、実証実験を通じて得られた成果をパッケージ化いたしまして、付加価値を高めて広く市場に展開して参ります。国内にとどまらず、アジアを始めとする海外市場へも積極的に展開することによって、新しい内需を創出しながら、外需を取り込み、中長期的には、わが国の新たな成長産業をつくりあげていくことを目指します。

実施する都市については、インフラ整備や事業展開のしやすさ、地域活性化への貢献などを考え、人口20万から30万人程度の都市を考えておりますが、最終的な都市の指定は実証実験の内容や地域特性なども踏まえて、柔軟に行いたいと考えております。

民間主導のプロジェクトでありますので、参加企業が資金を負担し、各社が持つ最先端の技術、アイデア、製品等を投入するという形で進めることといたしておりますが、規制緩和や税制などの面で、必要に応じて政府や地方自治体のご協力をお願いすることになるものと考えております。

今年6月の政府の「新成長戦略」では、区域を絞って集中的に規制改革、予算や税制、金融措置を行う「総合特区制度」や「環境未来都市構想」の創設が謳われ、現在、具体的な制度づくりが進められておりますが、可能であればこうした制度との連携も検討して参りたいと思います。

現在、プロジェクトの全体像、実証実験の内容、スケジュールなどについて検討を進めているところであります。今後さらに、全国の自治体と対話を重ね、どの場所で何を行うか、その地域の住民にとってどのようなメリットがあるのか、規制緩和等どのように施策が必要になるかなど詳細を詰め、できるだけ早い段階でプロジェクトを開始したいと考えております。

経団連は、政策の提言にとどまるのではなく、より豊かな社会を実現するために行動する集団でありたい、と私は考えております。この未来都市モデルプロジェクトへの取り組みが、長期にわたる低迷によって閉塞感が漂うわが国に、新しい風を吹き込み、日本の産業・経済に活力を与えることにつながればと願っております。

6.おわりに

以上、本日は、「日本の針路」というテーマで、お話して参りました。私は経団連会長に就任いたしました際、「国民とともに歩む経団連」と申し上げましたが、本日申し述べました経済界としての様々な政策や取り組みを推進していくためには、国民の皆様のご理解とご支持が不可欠であります。本日、多くの皆様方に、こうした形で私どもの考え方を、直接お話しする機会を頂戴したことは大変ありがたく、有意義であり、心より感謝を申し上げる次第であります。本日は長時間、ご静聴いただき、誠にありがとうございました。

以上

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