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会長コメント/スピーチ 会長スピーチ 「日本経済の再生に向けて」 ~読売ビジネス・フォーラムにおける米倉会長講演~

2012年10月24日

1.はじめに

ただ今、ご紹介を頂きました経団連の米倉でございます。本日は、読売ビジネス・フォーラム にお招きいただき、誠にありがとうございます。北海道経済の中核を担っておられる皆様に直接こうしてお話し申し上げる機会を頂戴し、大変、嬉しく存じます。

先週、経団連ミッションの団長として、1年ぶりに欧州を訪問し、各国の政府ならびに経済界のリーダーの皆様と意見交換してまいりました。ご高承の通り、債務危機が長期化する中、欧州経済は現在、非常に厳しい状況にございます。EUならびに欧州各国では、事態の打開に向けて懸命の努力が続けられておりますが、根本的な問題の解決にはまだまだ時間を要すると見られております。

こうした欧州の状況は決して対岸の火事ではございません。わが国といたしましても財政の健全化に全力で取り組むと同時に、日本経済の再生と持続的な成長を実現するための成長戦略を早急に実行していかなければなりません。

わが国は、現在、「歴史的な円高」、「税や社会保険料などの重い負担」、「行き過ぎた温暖化対策」、「硬直的な労働規制」、「経済連携協定の遅れ」そして「電力の供給不安・コスト増」という、「六重苦」とも言える大きな課題を抱えております。

こうした多くの課題と、さらに激しさを増すグローバル競争を前にして、わが国では日本経済の将来を悲観する声が一段と高まりつつあります。しかしながら、私は、これらの課題を一つひとつ着実に解決し、民間企業が持てる力を最大限に発揮できる環境を作り上げることによって、必ずや、わが国の経済は再び活力を取り戻し、力強い持続的な成長への展望が拓けてくるものと確信しております。

本日は、日本経済の再生に向けて、わが国が直面している重要政策課題の中から、特に早急な取り組みが必要な課題につきまして、経団連としての考え方をお話し申し上げたいと存じます。

2.社会保障と税・財政一体改革の推進

第一の課題は、社会保障と税・財政の一体改革でございます。ご案内の通り、先の通常国会で、「社会保障・税一体改革」関連8法が成立し、2015年度に向けて消費税率が段階的10%まで引き上げられることとなりました。これは、持続可能な社会保障制度の確立と財政再建に向けた大きな前進であり、経団連としても高く評価しております。

しかしながら、消費税の引き上げは改革の一里塚に過ぎないことも事実であり、財政の健全化には、さらなる収支の改善が不可欠でございます。わが国では、2009年度から4年間、税収を上回る額の公債の発行が続いております。この結果、国と地方の長期債務残高は、今年度末には940兆円となり、名目GDPの約2倍となる見込みでございます。また、先般公表されました内閣府の試算、「経済財政の中長期試算」では、消費税率を段階的に10%まで引き上げたとしても、2020年度の国と地方の基礎的財政収支は、GDP比で約3%の赤字となる、とされております。

とりわけ、国の一般歳出の半分以上を占めております社会保障関係費は、毎年約1兆円程度のペースで増加を続けております。社会保障には、医療、介護、年金、子育ての4つの分野がございますが、いずれにおいても、自助、共助、公助のバランスを見直すとともに、給付の効率化・重点化に踏み込む必要があると考えております。

まず、医療分野では、後発医薬品の使用促進などによる医療費の抑制と、診療報酬の適正化、重点化が不可欠であります。さらには、現在、特例で1割となっております70歳から74歳までの高齢者の医療費の自己負担割合を、2割へ戻すことなども重要であります。

また介護分野では、要支援ならびに軽度の要介護者へのサービス給付範囲の見直しが不可欠であります。

年金分野では、過去の物価下落時に年金額を据え置いた「特例水準」を早期に解消する必要があります。加えて、現役世代の減少などに応じて年金を減額調整する「マクロ経済スライド」を着実に実施することも重要であります。

子育て分野におきましては、保育サービスを充実させるために多様な事業主体の新規参入を促進すること、さらに、児童手当の見直しを進めていくことも必要であると考えております。

4つの分野のいずれにおきましても重要なことは、現役世代や民間企業の活力を損なわない制度を構築し、将来に対する国民の不安を取り除くことであります。そうした改革を実現できれば、経済成長と社会保障の健全化の好循環が生み出され、財政再建への道筋が、より確かなものになると私どもは考えております。

ご案内の通り、社会保障制度改革の具体像につきましては、「国民会議」を立ち上げて、1年以内に結論を得ることとなっておりますが、残念ながら、昨今の政治状況の中で、この点について進捗は全く見られておりません。経団連といたしましては、ぜひとも、政治の責任として、大局的な観点から、社会保障制度の改革を早急に推進していただくよう、引き続き政府・与野党に強く求めてまいりたいと存じます。

次に、税制改革についてお話し申し上げたいと存じます。冒頭申し上げました通り、消費税率の引き上げを含む社会保障・税一体改革関連法が成立したことは大きな前進として評価できるものでございます。しかしながら、経済活力の回復・強化という大きな課題は、依然として残されたままであり、今後、来年度の税制改正に向けた議論が本格化していく中で、国内の投資や雇用の維持・拡大に資する税制を確実に整備していくことが必要不可欠である、と経団連では考えております。

具体的には、まず、法人実効税率につきまして、速やかに25%程度への引き下げの道筋をつけるべきであると存じます。ご案内の通り、法人減税に関しては、「復興特別法人税が終了する平成27年度以降に検討する」とされております。しかしながら、国際競争がますます厳しさを増す中で、中国や韓国と比べて10%以上も高い税率となっている現状を考えますと、これでは遅きに失するのではないかと深く憂慮しております。また、国内の投資や雇用を維持・拡大することは復興の大前提でもございます。従いまして、経団連といたしましては、復興特別法人税の終了を待つことなく、速やかに法人実効税率引き下げの道筋をつけるよう、政府に求めております。

また、研究開発促進税制の拡充も非常に重要であります。わが国企業が国際競争力を強化していく上で、大きなカギを握るのは「技術革新」であり、企業によるイノベーションを後押しするための税制改革を早期に実施すべきであると私どもは考えております。

さらに、自動車関係諸税を簡素化し、負担を軽減することも重要であります。自動車関連産業は極めて広いすそ野を持っており、国内の生産基盤の維持に資する税制改革を実施していくことは、わが国経済の再生にとりまして非常に重要であります。具体的には、消費税率を8%に引き上げる2014年の4月までに、自動車取得税と自動車重量税を確実に廃止し、二重課税の問題を解消すべきであると存じます。また、石油関係諸税や酒税につきましても、消費税との二重課税の解消が必要であると考えております。

加えて、住宅につきましては、購入価格が高額であること、住宅投資の経済への波及効果や雇用創出効果が高いことなどを踏まえ、消費税率が引き上げられる際には、税負担を増加させないための対策を講じることが不可欠であります。

消費税率の引き上げに伴う低所得者対策につきましては、経団連では、単一税率を維持した上で、8%の段階では簡素な給付措置を実施し、10%の段階では給付付き税額控除を導入すべきであると考えております。そのためにも、マイ・ナンバー法案を早期に成立させる必要があると存じます。

経団連といたしましては、ただ今申し上げました諸改革が着実に実行に移されるよう、税制改正大綱が取りまとめられる年末にかけて、政府・与野党に対し、積極的な働きかけを行なってまいりたいと考えております。

3.エネルギー問題への対応

次に、エネルギー問題についてお話ししたいと存じます。

改めて申し上げるまでもなく、エネルギーは、国民生活ならびに経済活動を支える基盤であり、今後のエネルギー政策を考える際には、安全性を前提に、エネルギーの安全保障、経済性、環境適合性の3つをバランスさせることが極めて重要であります。

ご案内の通り、昨年来、政府において、東日本大震災や東京電力福島第一原子力発電所の事故をふまえ、中長期のエネルギー・環境政策についての検討が行われてまいりました。この間、経団連といたしましても、エネルギー政策のあり方につきまして積極的に意見を発信してまいりました。

その中で、私どもが、特に強調しております点は次の3点でございます。

第1は、国民生活や企業活動を支えるためには、経済性のある価格で安定的にエネルギーが供給されるべきであるということであります。とりわけ、「名目3%、実質2%」の成長を目指ざす政府の成長戦略との整合性が重要であると訴えてまいりました。

第2に、原子力を含む多様なエネルギーの選択肢を維持すべきであるということであります。燃料となる化石資源が乏しく、島国であるために安価に電力を輸入することができないわが国にとりまして、多様なエネルギーの選択肢を持つことは、リスクを分散させるために極めて重要であり、また、資源国に対する交渉力を確保することにもつながります。その時々の情勢に対応して、様々なエネルギーを柔軟かつ最適な形で活用していくことこそが、国民生活の安定につながるものと私どもは考えております。

第3は、エネルギー政策の策定にあたっては、現実をしっかりと踏まえることが必要である、ということでございます。省エネルギーの推進や再生可能エネルギーの導入は、いずれもわが国にとって大変重要な課題であり、経済成長につなげていく形で、国をあげての取り組みを進めていくべきであります。しかし、こうした取り組みの効果に過度の期待を抱き、それをベースにエネルギー政策を策定することになりますと、将来、需要に見合った十分な電力供給量を確保できないという事態になりかねないと大いに危惧しております。

ただ今申し上げた3点は、いずれも、国民生活や雇用、経済活動の安定を維持するために、極めて重要な観点でございますが、政府には十分に認識されておらず、極めて残念に思っております。

ご案内の通り、先月、「エネルギー・環境会議」がまとめた「革新的エネルギー・環境戦略」では、原発に依存しない社会を目指し、「2030年代に原発稼動ゼロを可能とするよう、あらゆる政策資源を投入する」旨が示されました。この戦略は、省エネルギーや再生可能エネルギーの導入の今後の進展について極めて楽観的な立場をとっており、エネルギー・コストの上昇が企業や家計に与える影響や、原子力の平和利用に関するわが国の国際的な役割などを十分に考慮することなく進められた議論の結果であると経団連は考えております。

この「革新的エネルギー・環境戦略」本体の閣議決定につきましては、私から野田総理に直接、こうした私どもの考えをご説明したことなどもあり、何とか回避することができました。今後、経団連といたしましては、原子力を含む多様なエネルギー源を確保するという観点からこの戦略を抜本的に見直し、より現実的なものとしていくよう、政府に対して働きかけを続けてまいりたいと考えております。

また、年末に向けて、政府が検討を行なうとしているグリーン政策大綱、原子力政策のあり方、電力システム改革戦略などにつきまして、政策の費用対効果や、国民生活ならびに企業活動、地域経済への影響を十分考慮するよう求めてまいる所存でございます。

電力の問題に関しましては、中長期的なエネルギー政策だけでなく、当面の電力の需給問題への対処も大変重要でございます。この夏は、国民や企業の節電努力で何とか乗り越えることができましたが、今後も、夏や冬に電力需要のピークを迎えるたびごとに供給不安が高まるといった事態が続けば、日本において安定した企業活動を行うことは困難になってまいります。

そして、その結果、産業の空洞化が加速していくことになりますと、経済や雇用に深刻な影響を与える恐れがございます。従いまして、経団連では、政府に対し、当面の電力需給の安定、電力価格の安定を確保するための工程表を早期に策定し、着実に実行するよう、引き続き強く求めてまいりたいと考えております。また、原子力発電所につきましては、安全性が確認され、かつ、地元の理解が得られたものについては、再稼働を進めるよう、働きかけてまいります。

エネルギー戦略は国家戦略の根幹をなすものでございます。ぜひとも、政治のリーダーシップのもと、国民に対する説明責任をしっかりと果たしながら、国民生活と経済活動の安定につながる政策を着実に実行していただきたいと強く感じております。

4.経済連携の推進

次に、早急に取り組むべき重要政策課題の三つ目として、経済連携の推進についてお話し申し上げたいと存じます。

諸外国との間で高いレベルの経済連携を推進していくことは、「貿易・投資立国」を掲げるわが国が、今後、力強い、持続的な経済成長を実現していくために必要不可欠な取り組みであります。

経団連では、かねてより、2020年を目途に、成長著しいアジア太平洋地域における広域自由貿易圏、いわゆる「FTAAP」を構築するべきであると主張してまいりました。そして、そのための道筋として、TPPへの参加を実現し、ASEANなどとのASEAN+6経済連携協定、ならびに、日中韓FTAを推進するよう求めてまいりました。

経済連携の推進における当面の最重要課題はTPP交渉への参加でございます。ご案内の通り、TPPは成長著しいアジア太平洋地域における21世紀の貿易・投資ルールを構築するものであります。TPPによって関税引き下げや投資ルールの整備を実現できれば、日本経済の活性化や国内雇用の拡大に大きなプラスとなるほか、資源・エネルギー、食料の安定供給など、国民の安全・安心を確保することにもつながってまいります。

さらに、世界最大の経済国である米国が参加するTPPに日本が参加することになれば、わが国の他の経済連携を推進していく上での大きな梃子ともなることも期待されます。このような状況を作り出すためにも、わが国は早期に交渉に参加し、主体的にルール作りに関与していかねばならない、と経団連では考えております。

日本がTPP交渉への参加に踏み切れない背景の一つとして、「例外なき関税撤廃」を、すぐさま実施することを余儀なくされるのではないか、といった理解があるものと存じます。

全ての品目を交渉のテーブルに乗せることが求められることは確かでありますが、「例外なき関税撤廃」は最終的な目標と申せようかと存じます。そもそもTPP交渉には、発展段階の大きく異なる国々が参加しております。このため、全ての国がTPPの発効当初から例外なく関税を撤廃するということは考えられません。

政治的に困難な品目を抱えているのは、わが国だけではございません。各国には、高いレベルの自由化を達成するために最大限の努力が求められますが、最終的には何らかの例外が避けられないということは、米国の経済界などにおきましても、認識されていることでございます 。

従いまして、早期にTPP交渉に参加し、主体的にルール作りに関与することこそ、日本の国益に叶うことになるものと存じます。

野田総理は、さる10月11日に都内で行われた会合で、TPPについては「国益確保を前提に、日中韓のFTAなどと同時並行して推進したい」と述べられました。経団連では、これまでも、早期のTPP交渉参加に向けた政策提言を繰り返し行ってきたほか、伊藤元重東大教授らを代表世話人とする「TPP交渉への早期参加を求める国民会議」を支援するなど、積極的な活動を推進してまいりました。今後も一刻も早い政治決断を求めて最大限の努力を行ってまいりたいと考えております。

FTAAPへのもう一つの道筋であるASEAN+6の経済連携協定につきましては、来月開催される第7回の東アジア・サミットの場で、交渉開始が合意される見通しとなっております。経団連といたしましては、物品貿易のみならず、投資の自由化と保護、サービス貿易、知的財産権等を含む包括的で質の高い協定が実現するよう、関係各方面への働きかけを続けてまいります。

ASEAN+6による経済連携協定を推進するためには、この協定に参加する地域全体のGDPの7割強を占める日本・中国・韓国の間で貿易と投資の自由化を実現することが大前提となります。そこで、経団連では、日中韓FTAに関する産官学共同研究に参画するとともに、三か国の首脳に対して交渉の早期開始を直接訴えてまいりました。

そして、今年5月、日中韓首脳会議において、年内の交渉開始が合意されました。その後、実務レベルの折衝も行われております。この日中韓のFTAにつきましては、鉄鋼、自動車、化学品等の主要品目の関税を引下げるとともに、外資制限の撤廃などの投資の自由化、鉱物資源等の輸出規制の緩和などが重要であると考えております。経団連といたしましては、こうした事項が協定に盛り込まれるよう、政府ならびに関係各方面に対し、引き続き働きかけを行ってまいりたいと存じます。

アジア太平洋地域以外では、EUとの間で経済連携協定交渉を開始できるかどうかの非常に重要な局面に差し掛かっております。

今年7月、欧州委員会は、日本とのFTA/EPAの締結は、EUの成長と雇用に大いに貢献するとして、日本との交渉開始について加盟国に承認を求めることを決定しました。EU加盟国による交渉開始をめぐる議論が佳境を迎えつつある中、今月、私ども経団連はミッションをベルギー、ドイツ、フランス、英国に派遣し、速やかに交渉を開始するよう、政府首脳ならびに経済界のリーダーに対して直接働きかけてまいりました。

一連の会合を通じて強く感じましたことは、未だ交渉開始に慎重な国や業界はあるものの、昨年7月にミッションで訪問した時に比べまして、総じてEU側が日本との経済連携協定交渉に、より前向きになっている、ということであります。同時に、EU側が抱いている懸念や不満の中には、具体的な背景や事実について説明を尽くし、認識の溝を埋めていくことによって解消できると考えられるものが、今なお、少なからずあり、様々なレベルでEUとのコミュニケーションを、より一層、密にしていかなければならない、との意を改めて強くいたしました。

経済連携協定の締結を通じて、EUとのパートナーシップをさらに発展させることは、日本経済の再生と持続的な成長を実現するために必要不可欠であります。世界の二大先進経済であり、ともに高い技術力を誇る日本とEUの間で経済連携協定が実現すれば、必ずや双方において新たな成長と雇用が生まれ、産業協力を通じたイノベーションの創出の可能性も高まるものと存じます。さらには、協定を通じて、ビジネスのルールづくりや規格・基準の調和などを協力して進め、その成果を新興国などの第三国市場へ展開することによって、新たなビジネス・チャンスを開拓していくことも可能になるものと期待されます。

昨年来、経団連では、非関税措置をはじめ、経済連携協定にかかわる課題の解決に向けて、日本とEUの産業界同士の対話を促進するための取り組みを続けております。こうした業界対話は今回のミッションの訪問先でも高い評価を受けており、先月の19日には、欧州の産業界の10の団体が日本との経済連携協定の交渉開始を求める共同声明を発表するなど、具体的な成果も出始めております。

私ども経団連といたしましては、今後も引き続き、交渉開始の早期実現に向けて、日本とEUの業界対話の促進に注力し、政府の取り組み、ならびに交渉を側面から支援してまいる所存でございます。

5.農業の活性化への取り組み

TPPをはじめとする諸外国との経済連携協定につきましては、わが国の農業に少なからぬ影響を与えるのではないかとの懸念が、かねてより示されております。

農業は、私たち国民の生活に欠かすことのできない食料を供給する重要な産業であります。そして同時に、ご当地北海道がそうであるように、地域の基幹産業として地元経済の維持・活性化にも大きな役割を果たしております。また、近年、食品関連産業に対する関心はかつてないほど高まっており、今後の成長分野として農業は大きな可能性を秘めております。

その一方で、全国的には、農業従事者の6割が65歳を超えるという状況であり、加えて、全耕地面積の約1割に相当する約40万ヘクタールが耕作放棄地となっているという現実もございます。こうした人と農地の両面での深刻な状況を打開するために、農業の抜本的な競争力の強化と活性化が急務となっております。

経団連では、農業の競争力強化に向けた取り組みとして、新規就農や企業の参入促進による多様な担い手を確保するとともに、これらの担い手に農地を集積させ、経営規模の拡大と生産性の向上を図ることが重要であると考えております。

また、農業をこれからのわが国の「成長産業」としていくためには、他の産業との連携や協力を進め、生産、加工、販売などを一体化した、いわゆる農業の「6次産業化」や農商工連携の推進を図るとともに、世界に誇る高い品質を活かして、日本の農産物の輸出を促進していくことも重要でございます。

ご当地北海道では、先人の英知を活かしながら、「主業農家」を中心とした生産性向上の取り組みが、関係者の皆様の大変な努力のもとで進められております。販売農家1戸あたりの経営耕地面積は、全国平均が約2ヘクタールであるのに対して、北海道では22ヘクタールを超えており、農業従事者も64歳以下の方々が全体の約7割を占めるなど、大規模で活力あふれる先進的な農業経営が実現されております。

昨年10月に、JAグループ北海道さんのご協力により、新篠津村の農家を訪問し、栽培状況や施設などを視察させていただきました。米、麦、いも、野菜、花卉など、多種多様な作物を全国に供給するご当地の農業の力強い活動を拝見し、大変心強く感じた次第でございます。

今年8月末には、経団連農政問題委員会のメンバーが十勝地方に伺い、先進的な畑作と畜産の現場を勉強させていただきました。参加者一同、大変感銘を受けたとのことでございました。

農業の6次産業化や農商工連携でも、北海道では先進的な取り組みが行われております。

中でも、昨年12月に国際戦略総合特区に指定された「北海道フード・コンプレックス国際戦略総合特区」、いわゆる「フード特区」では、農業界、経済界、行政などの関係者の皆様が、まさに「オール北海道」で連携し、戦略的に6次産業化に取り組んでおられます。

私ども経団連では、こうした活力溢れる北海道の農業が、今後一層の発展を遂げ、わが国の農業の活性化と成長産業化をリードしていくことを大いに期待しております。

産業界といたしましても、農業分野の皆様との連携に引き続き積極的に取り組んでまいります。すでに経団連会員各社は、契約栽培、農業生産法人への出資やリース方式での農業参入、生産技術・資機材などの提供やコンサルティング、そして、輸出促進や販路開拓に向けたビジネスマッチング、さらには、社員食堂などにおける地産地消の推進や社内マルシェなどでの国産農産物の販売、農山漁村との交流促進といった、幅広い、具体的な取り組みを進めております。経団連といたしましては、こうした各社の活動を後押ししていくとともに、今後も農業界との対話を深め、産業界と農業界の連携・協力の促進に継続的に取り組んでまいりたいと考えております。

経団連におきましても、昨年より、未来都市モデルプロジェクトを全国11の自治体で展開しております。これは、民間企業の有する最先端の技術を持ち寄って、医療、エネルギー、交通、農業等の分野において大規模な実験を行い、確立していこうというものでございます。そして、こうした都市のモデルを、できれば内外に展開していきたいと考えております。その一つとして、農業革新未来都市プロジェクトに取り組んでおり、GPSを活用した耕作機械や農薬散布等の実験を行い、効果をあげております。こうした取り組みによって、農業の競争力、農産品の品質向上に向けた取り組みを考えてまいりたいと考えております。

6.日中関係

さて、ここまで、わが国にとりまして、特に早急な取り組みが必要な重要政策課題として、社会保障と税・財政の一体改革、エネルギー問題への対応、そして、経済連携の推進ならびに農業の活性化につきまして、お話ししてまいりました。

本日は最後に、現在の日中関係につきまして、一言、申し上げたいと存じます。一衣帯水の隣国である中国と日本は、世界第2位、第3位の経済大国でもあり、日中両国の関係は、アジアはもとより、世界全体に大きなインパクトを及ぼし得るものでございます。

ご案内の通り、9月にわが国政府が尖閣諸島を国有化して以来、日中関係は極めて厳しい状況が続いており、企業活動や経済にも深刻な影響が出始めております。

私が遺憾に思っておりますのは、ここに至るまでの段階で、日中間のコミュニケーションが不足していたのではないか、ということであります。

経団連といたしましては、今後も、様々な分野における両国の交流をさらに深め、日中関係の改善と強化に努めてまいる所存であります。

同時に、両国政府に対しましては、冷静な対話と外交努力を通じて、現在の状況の早期改善に取り組まれるよう、強くお願いしてまいりたいと考えております。

7.おわりに

本日は様々な課題についてお話しさせていただきましたが、震災からの本格復興も含め、わが国には、国の先行きを左右する、待ったなしの重要政策課題が文字通り山積しております。

こうした状況を打破するためには、与野党が党利党略を超え、真の意味で国民本位・国益優先の観点から協力し、政治の強いリーダーシップのもとで重要政策を具体的に前に進めていくことが必要であります。私ども経団連では、このような政治状況を作り出すために、ぜひとも、先の三党合意にございます通り、近いうちに国民の信を問うていただきたいと考えております。

経団連といたしましても、民主導による日本経済の再生と持続的な成長の実現に向けて、今後も全力で取り組んでまいる所存でございます。

引き続き、皆様のご理解とご協力を賜りますよう、改めてよろしくお願い申し上げます。

以上

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