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会長コメント/スピーチ 会長スピーチ 経団連定時総会における十倉会長就任挨拶 「。新成長戦略」でサステイナブルな資本主義を目指す

2021年6月1日

本日、この定時総会において、会長にご選任いただきました十倉雅和でございます。

重責に身の引き締まる思いですが、会員の皆さまのご支援、ご協力のもと、責務を全うするべく、全力を傾注する覚悟であります。何とぞ、よろしくお願い申し上げます。

また、中西前会長におかれましては、病身をいとわず、経済界をリードし、意見を発信してこられたその不屈の精神と、多大なご功績に、あらためて、心からの敬意と謝意を表したいと存じます。

私も、経団連会長として、Society 5.0 for SDGs、サステイナブルな資本主義といった路線をしっかりと継承し、まずは、新型コロナウイルスの一日も早い収束を目指して、感染拡大防止と経済活動の両立に全力で取り組みたいと思います。

世界に目を向けますと、行き過ぎた資本主義による格差の拡大、地球温暖化などの生態系の破壊、保護主義やポピュリズムの台頭による地政学リスクの高まり、また民主主義の危機などの世界の本質的課題があります。新型コロナの問題は、これらの問題を一層、増幅、先鋭化させております。一方で、こうした経済社会の状況を受け、世界でサステイナビリティへの関心が非常に高まってきております。

このようななかで、就任にあたり、会員の皆さまに、私自身の考えとして、3つのキーワードを申し上げたいと存じます。

一つ目は、社会性、すなわち、ソーシャル・ポイント・オブ・ビューであります。これは、市場経済のなかに社会性の視点を入れるという考え方であり、今から50年も前に経済学者の宇沢弘文先生が提唱された考え方です。

申し上げるまでもないことですが、こうした考えは、効率的な資源配分、自由で活発な競争やそれによるイノベーションの創出を重視する資本主義/市場経済の仕組みが前提となります。

ハンガリーの経済学者のカール・ポランニーは、「市場が社会から切り離されるとき、すべては市場の要求に従属する」とまで申しております。社会から切り離された経済ではなく、「より良き社会」を実現するための資本主義/市場経済とは何かを模索していくべきと考えます。

二つ目は、パクス・コンソルティス、すなわち国際協調であります。米中対立に代表される地政学リスクの高まりは、企業活動にも大きな影響を及ぼしております。また、自国だけで対応することはできない課題として、地球温暖化、パンデミック等に代表されます生態系の破壊があります。加えて、人類が制御できなくなるおそれのあるAIなどのデジタル技術、デザイナーベイビー、エンハンスメントのようなバイオテクノロジーといった人類に破壊的な影響を及ぼすおそれのある技術への対応があります。これら課題の解決は、一国ではできません。国際協調が必要であることは申し上げるまでもございません。わが国は、自由・民主主義・人権・法の支配といった価値観を共有できる国々との連携をより一層強め、経団連としても、パクス・コンソルティスの実現に貢献してまいりたいと思います。

三つ目は、デジタルとグリーンです。菅総理のリーダーシップのもと、政府においても、デジタルとグリーンの成長戦略が掲げられております。これは、サプライサイドの視点に立ち、われわれ企業の研究投資、設備投資、システム投資を呼び起こしています。今後とも、政府と密接に連携しながら、経団連として、DX(デジタルトランスフォーメーション)、GX(グリーントランスフォーメーション)を推進してまいります。

経団連は、昨年11月に、サステイナブルな資本主義の確立を掲げ「。新成長戦略」を策定しました。今、私が申し上げた3点は、このなかに盛り込まれていると思います。

コロナ禍を乗り越え、わが国の経済社会の発展のため、「。新成長戦略」を行動指針として、施策の具体化を進めてまいります。

DXは、Society 5.0が目指すオールインクルーシブな社会の実現に不可欠なツールであります。従来できなかった多様な個人のwell-beingの実現と社会全体の最適化の両立を可能とするDXに対して、医療、教育、行政などあらゆる分野で集中投資を進め、各分野で徹底した規制改革とデジタル化、データ共有を促すことが重要であります。経団連は、生活者が暮らしやすさを実感できる社会を目指して、「経団連DX実装プロジェクト」を加速・強化してまいります。

また、コロナ禍のこの1年を経て、DXの必要性が、社会全体で一層強く認識されており、その担い手として、スタートアップは非常に重要であります。引き続き、スタートアップと大企業の連携促進などに積極的に取り組んでまいります。

また、グリーンに関しましては、昨年10月、菅総理は2050年カーボンニュートラルを宣言し、本年4月には、2030年度に対2013年度比46%の温室効果ガス削減目標を掲げられました。11月のCOP26でNDCとして表明する予定であります。今般、経団連としても、従来から取り組んできた「低炭素社会実行計画」を「カーボンニュートラル行動計画」と改め、取り組みを強化してまいります。この「カーボンニュートラル行動計画」や、「チャレンジ・ゼロ」を中核として、今後も、経済界の取り組みを積極的にリードし、わが国ひいては世界のカーボンニュートラルの実現に貢献してまいります。

さらに、地方創生の観点からは、地域経済の活性化と大都市圏への集中の是正が重要です。コロナ禍で定着したテレワークなどの新たな働き方の拡大は、地方創生の強力な追い風になります。この機を逃さず、地方自治体も含め、各地でデジタル化を進めることで、「地域の魅力向上」と「地方への人の流れ」の好循環を実現していく必要があります。

さらに、グローバルに視野を広げますと、自由で開かれた国際経済秩序の再構築は急務です。経団連は、米国、中国、欧州、アジア諸国をはじめとする各国の政府や経済団体との連携・対話を進めるとともに、B7サミット・B20サミット等への主体的な参画を通じて、民間外交を精力的に展開してまいります。

また、安全保障とグローバルな事業活動の両立も重要な課題であります。社会、経済といった下部構造が、政治、イデオロギーといった上部構造を規定するのではなく、上部構造と下部構造が密接不可分となっている現代にあっては、経済安全保障の確保について、企業の実状を踏まえながら、わが国政府と緊密に連携して検討を進めることが肝要かと思います。

そのほかにも、働き方改革、財政健全化、全世代型社会保障制度改革、ダイバーシティ&インクルージョンの推進など、内外の重要政策課題について、会員の皆さまと共に取り組んでまいります。

最後になりますが、今回の経団連会長就任は、率直に申し上げて、私にとって非常に難しい決断でした。しかしながら、「義を見てせざるは勇なきなり」という言葉がございます。このような火急の事態でございますが、志を高く持ち、全力を尽くす所存であります。マルチステークホルダーの要請に応え、広く国民各層、社会全体から支持される経団連を目指してまいりますので、皆さま方のご理解とご協力を重ねてお願い申し上げます。

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