1. トップ
  2. 会長コメント/スピーチ
  3. 記者会見における会長発言
  4. 定例記者会見における十倉会長発言要旨

会長コメント/スピーチ  記者会見における会長発言 定例記者会見における十倉会長発言要旨

2025年4月22
一般社団法人 日本経済団体連合会

【トランプ関税】

〔赤澤大臣が参加した日米の関税協議の初回会合について問われ、〕まずは協議が開催されたことを歓迎する。「可能な限り早期に合意し首脳間で発表できるよう目指すこと」について一致したことも結構である。他方、石破総理もおっしゃっているとおり、本質を外して合意を急ぐあまり、易きに流れてはならず、長期戦も視野に対応する必要がある。

今回の交渉では、中長期と短期の両方の対策を検討しながら、粘り強く交渉を進めてほしい。

日本は資源を持たない島国であることから、「科学技術立国」と「貿易・投資立国」の実現が不可欠である。したがって、中長期的には、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化に向けて、同志国やグローバルサウスも巻き込んで、日本がリーダーシップを発揮すべきである。

短期的には、トランプ関税の影響を受ける中小企業に対し、資金繰り等の支援を切れ目なく実施する必要がある。

〔米国が日本に対し、在日米軍の駐留経費の負担増を求め、関税とリンクさせて交渉する姿勢を示していることについて問われ、〕本来、関税と安全保障は別の問題であり、そのことを明確に伝えるべきであろう。日本は1978~2024年度の予算の累計で約8兆5000億円もの在日米軍の駐留経費を負担しているという事実を伝えながら、関税と切り分けて議論する必要がある。

〔米国が求めているとされる自動車に関する非関税障壁の撤廃や、農産品市場の開放について問われ、〕それらの分野に関する今後の交渉について特段申し上げられることはない。

やはり最も影響が大きいのは自動車業界であろう。産業の裾野が広く、また相互関税とは別に、既に25%の自動車関税が発動している。引き続き、日本企業の対米直接投資残高が1位、雇用創出が2位と、米国に多大な貢献をしていることを訴えていくにしても、そのことをもって自動車関税の取り下げができるかどうかはわからない。

今後、サプライチェーンの下流に属する中小企業に影響が生じるかもしれない。短期的には資金繰り等の支援を政府が打っていくということだろう。

〔トランプ関税が今後の賃金引上げと最低賃金引上げに向けた議論に与える影響について問われ、〕今年の春季労使交渉における賃金引上げ状況は順調な滑り出しをしたと感じている。他方、連合の集計では、回答組合数が昨年同時期よりやや減少しており、トランプ関税の行方を見定めようという動きが出ているのではないか。いずれにせよ、賃金引上げの力強いモメンタムの「定着」に向けた動きに対し、トランプ関税がマイナスの影響を及ぼさないことを願っている。

最低賃金については、市場の競争原理の中で、生産性の低い企業が淘汰されることは自然の摂理である。他方、最低賃金のような法的強制力のあるものについて、多くの中小企業が到底達成できないような引上げを行い、強制的に市場から退出させるという考えはいかがなものか。トランプ関税が与える影響も踏まえ、丁寧に議論を重ねる必要がある。

〔日米の関税交渉を受けた足元の為替の動きについて問われ、〕今回に限らず、為替はできるだけ安定することが望ましく、急激な変動は極力避けてほしい。

〔ドル安・米国債券安・米国株安というトリプル安や、それに伴う金の価格上昇につながっている不安定な米国金融市場の見通しについて問われ、〕米国金融市場の混乱は、トランプ政権の関税政策など、先行きの不透明感に対する懸念の表れであろう。今後の金融市場の動きもトランプ米大統領の動向次第であり、予断を許さない。

トランプ米大統領の政策の目的は、①貿易赤字の減少、②国内製造業の復活、③税収増、の三つだと言われている。しかし、そもそも貿易は比較優位原則の上に成り立って、現状の貿易収支、産業構造が形成されている。産業構造の移行には、新たな技術や人材の確保などが必要であることを踏まえれば、とりわけ製造業の国内への呼び込みは簡単ではない。むしろ、比較優位原則に基づいて、デジタル、金融といった米国が競争力を有する産業が形成されており、米国も利益を享受しているのではないか。

トランプ米大統領の動向は引き続き予測困難であり、金融市場や金市場も多分にその影響を受けるだろう。

〔初回の交渉において、トランプ米大統領の急な参加や、日本の防衛分野の関係者が不在の中で在日米軍の駐留経費の話題が出たことについて問われ、〕今回はまず協議を開始するという段取りをつける目的の会合であり、米国側の提示したアジェンダにその場で応じることができなかったことがあったとしてもやむを得ないのではないか。

今後は合意を急ぐことなく、中長期の課題と短期の課題を分けて提案をしてほしい。米国の関税措置に関し、様々な事態に的確に対応できる省庁横断的な総合対策本部を政府は設置していると聞いており、適切な対応を期待したい。

【大阪・関西万博】

〔大阪・関西万博が開幕して1週間経った現状や機運醸成に向けた課題について問われ、〕幾多の困難があったが、一つひとつ乗り越えて開幕を迎えられたことは非常に感慨深い。

運営において不慣れな部分もあり、混雑等の問題も生じているが、日々改善を重ねていきたい。全体として来場者からは非常に好評と聞いており、来場者アンケートでも約8割の方が再訪を希望している。来場者に大屋根リングを見てもらえれば、万博の魅力を一層感じてもらえるだろう。1日で見切れないほど魅力的なパビリオンが数多くあり、引き続き魅力を訴求していく。

朝日新聞の世論調査では、万博に「行きたい」と回答した人が全体の32%だが、年代別に見ると18~29歳の45%が、地域別に見ると近畿地方では51%が「行きたい」と回答している。その意味で、良いスタートが切れたと感じている。同時に、会期後半に来場者が集中しないよう、来場者の分散を図るためにも、一層の機運醸成に努めていく。

【選択的夫婦別姓】

〔選択的夫婦別姓の制度創設を巡り、旧姓使用の弊害の多くは既に解消済みであるとの指摘を受けて、旧姓の通称使用によるトラブル事例集を更新する考えはあるか問われ、〕(今後、必要があれば)更新する考えがないわけではないが、現状、トラブルがなくなったわけではない実態がある。例えば、政府調査によれば銀行の7割がすでに旧姓名義での口座開設が可能であるとの指摘もあるが、今も旧姓では約3割の銀行や多くの信用金庫、信用組合などでは口座開設ができず、解決はしていない。

また、そもそも、選択的夫婦別姓制度は便利か不便かというだけの問題ではなく、別姓を選択したい人のアイデンティティに関わる問題でもある。万機公論に決すべしであり、政治の側で早期に議論を進めてほしい。

〔夫婦別姓を選択した家庭では親子の姓が異なるということについて問われ、〕子どもの姓については様々な考え方がある。経団連は、1996年の法制審議会の答申案(婚姻時に子どもの姓を選択し、兄弟姉妹の姓は同一とする)が望ましいとのスタンスであるが、そこも含めて政治の側でよく議論し解を得ていただきたい。

以上

「会長コメント/スピーチ」はこちら