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会長コメント/スピーチ  記者会見における会長発言 定例記者会見(5/20)における十倉会長発言要旨

2025年5月20
一般社団法人 日本経済団体連合会

【4年間の総括】

本日は私にとって最後の定例会見である。この4年間で、日本国際博覧会協会会長としての会見も含め、計140回以上の記者会見に臨んできた。定例会見で大変幅広く質問をいただいており、会見に備えて勉強するのが私自身楽しみでもあった。記者の皆様には、和やかな雰囲気をつくっていただき、私の様々な考えを発信させていただく機会を頂戴したことに厚く御礼申し上げる。

2021年6月の就任時はコロナ禍の真っ只中であり、就任当日にワクチン接種に関する緊急提言を取りまとめ、当時の菅首相に手交したことは大変印象深い。

私は就任以来、より良き社会なくして経済は成り立ちえないと考え、“from the social point of view”(社会性の視座)を掲げてきた。そうした考え方に立脚し、行き過ぎた資本主義が招いた二つの課題、すなわち「生態系の崩壊」と「格差の拡大、固定化、再生産」に取り組んできた。その結果として、グリーントランスフォーメーション(GX)の推進や、約30年ぶりの高水準の賃金引上げの実現など、一定の成果を残すことができたのではないか。民間経済外交においても、例えば、韓国経済人協会との間で「日韓・韓日未来パートナーシップ基金」を設立し、日韓両国の関係改善に経団連として貢献できたことは喜びである。

しかし、いまだ課題は山積している。例えば、「公正・公平」で「持続可能」な全世代型社会保障改革や、財政再建を通じた、国民の漠とした将来不安の解消は道半ばである。また、米国の関税措置など国際情勢は混迷の度を深めており、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化に向けて、同志国と連携し、日本が主導的な役割を果たしていく必要がある。

こうした中、2024年12月に公表した中長期ビジョン「FUTURE DESIGN 2040」は、日本のあるべき経済社会の姿を描いたものである。わが国が避けては通れないパスウェイである「科学技術立国」と「貿易・投資立国」に向け、ビジョンが実現されることを強く期待する。経済社会は持続的な成長なくして成り立たず、他方、分配の議論なくして持続的な成長も実現しない、という考えから、ビジョン(FUTURE DESIGN 2040)のキーワードとして、「成長と分配の好循環」を掲げた。経団連の事業方針の中で「分配」という言葉を盛り込んだのは、ここ30年で初めてである。

私は、29日の定時総会をもって退任し、筒井次期会長候補にバトンを託す。「社会性の視座」に立脚し、「正論」を発信し続けていただきたい。

万博協会の会長職は継続し、安心・安全で魅力ある大阪・関西万博にすべく、引き続き全力を尽くす。皆様には是非、万博の魅力発信にご協力いただきたい。

〔4年間の最も印象深い成果とやり残したことについて問われ、〕いずれも思いのあるプロジェクトばかりだが、最も印象深い成果は、GXである。GXは、当時は業界でさまざまに利害が異なり、巨額の投資も必要となる中、逆に日本の経済成長の要としてGXを掲げ、政府に提言した。これは、単にカーボンニュートラルを実現するだけでなく、産業競争力が強化され、さらに日本の技術がアジアをはじめ各国で利用され、日本が世界で評価されるための総合的な成長戦略だと考えている。

やり残した点は、格差の是正の一環としての全世代型社会保障制度の構築である。世界中で分断が深刻化する根底には、格差に対する人々の不安や怒りがあろう。日本でも格差は確実に広がっており、是正しなければならない。そのためには「分配」に注力する必要がある。各企業の努力により、3年連続で大幅な賃金引上げが実現する見通しだが、それが消費に回っておらず、賃金引上げの経済効果が半減している。

消費喚起に向けての課題は社会保障制度改革である。制度創設時と比較して現在は人口に占める高齢者の割合が大きく増加し、支え手である現役世代の負担が極めて大きい。わが国の中福祉・低負担の社会保障制度は持続可能ではなく、より公正・公平な制度とするため、まずは応能負担の徹底、場合によっては消費増税等、税と社会保障の一体改革を断行しなければならない。

〔応能負担徹底の方向性について問われ、〕社会保障制度を持続可能にするため、どのような形で応能負担を進めるかという議論が必要である。一つ言えることは、マイナンバーを活用して、収入や資産を把握することの有用性である。それぞれのデータをマイナンバーと紐づけることで、正確な応能負担の徹底だけでなく、災害等の有事の際に、真に困っている方へ必要な給付を迅速に行うことができるといったメリットがあり、マイナンバーの活用は一刻も早く進めるべきである。

〔就任時と比較して日本経済の現状についてどう見ているかを問われ、〕コストプッシュを起点に物価が上昇したことで、賃金引上げの機運が高まり、賃金と物価の好循環が回り始めた。インフレもコストプッシュ型からデマンドプル型に移行しつつあることは事実であろう。

また、国内投資も堅調に増加している。日本経済が順調な時は、GDPの約20%程度の国内投資がなされていたが、現在はそうした状況に近い。引き続き、官民連携で国内投資を活性化し、それが生産性向上、賃金引上げにつながり、消費が増える、というサイクルを回し、「成長と分配の好循環」を実現することが理想である。

ただし、社会保障制度が持続可能でない中では、若者は賃金を消費に回さない。好循環を回すためには、全世代型社会保障制度の構築は待ったなしの重要課題であり、時間がかかるからこそ今すぐ検討しなければならない。

〔サステイナブルな資本主義の実現や分厚い中間層の形成に向けた取り組み、および賃金引上げの達成度、自身が果たした役割について問われ、〕達成度は自分でつけるものではないが、その時々で全力を尽くしてきた。こうすべきであったという反省はあるが、努力が足りなかったというような後悔はない。

賃金引上げについては、時々の経済情勢に左右されるものである。失われた30年のデフレ環境下とは違い、物価が上昇し、金利のある世界が到来しつつあるというタイミングで会長職を務めたことは非常に幸運であり、この機を逃してはならないという思いで取り組んだ。また、連合の芳野会長とは多くの点で考え方が一致しており「闘争」というより「共闘」した実感があり、日本商工会議所の小林会頭や三村前会頭とも非常に波長が合った。経団連内の取りまとめでは、経営労働政策特別委員会の大橋委員長に4年間にわたって大いに支えていただいた。そうした環境に恵まれたことが、大幅な賃金引上げの実現という結果に繋がったと考えている。

〔「FUTURE DESIGN 2040」で「科学技術立国」を掲げ、科学研究費助成事業(科研費)の倍増等による研究力の強化を訴えたことについて問われ、〕「貿易・投資立国」になるためには「科学技術立国」でなければならず、イノベーティブなモノやサービスを海外に展開する上で、研究力の強化は欠かせない。

そのためには、研究者に資金と時間で不自由をさせてはならない。より自由度を高めて創発的に基礎研究に取り組むことを可能にすべきである。科研費は若手研究者が自由に使える数少ない研究費であり、少なくとも倍増することが急務である。

〔経団連はかつてのような産業政策の提言に集中すべきではないかという意見があることについて問われ、〕日本経済にとって成長は不可欠であり、成長に資する産業競争力の強化は重要である。他方、分配の議論なくして持続的な成長も実現しない。その意味で、「社会性の視座」を掲げ、経団連活動の幅を広げて取り組んできたことは間違いではないだろう。

【日本製鉄によるUSスチール買収】

〔日本製鉄によるUSスチール買収について問われ、〕日本製鉄によるUSスチールの買収計画は、まさにトランプ大統領が外国企業に求めていることではないか。米国の同盟国である日本の企業が、米国で多くの労働者を雇用し、育成していく計画であり、なぜ経済安全保障上の懸念があるとされるのか、理解しがたい。一般論として、米国が過半に満たない出資しか認めないということであれば、その中で虎の子の技術を経営権のない会社に移転することは非常に稀なケースであろう。買収が成功することを願っている。

【選択的夫婦別姓】

〔選択的夫婦別姓の制度創設に向けた提言「選択肢のある社会の実現を目指して」における、「(別紙)旧姓の通称使用によるトラブルの事例」に注記を追加した(5月7日)ことについて問われ、〕旧姓を通称として使用することで生じるビジネス上のトラブルを減らそうと、関係者が努力しており、トラブルが減少していることは非常に結構である。そうした状況や外部の指摘も踏まえてトラブル事例に注記を追加した。今後も大きく状況が変われば更新していく場合はあるが、その都度会見を開くことは考えていない。

ただし、そもそも、選択的夫婦別姓制度は便利か不便かというだけの問題ではなく、別姓を選択したい人のアイデンティティに関わる問題でもある。この問題は万機公論に決すべしであり、政治の側で大いに議論をしてほしい。

*事務局注:提言「選択肢のある社会の実現を目指して」の注記の追加に関しては、経団連として、5月7日に経済団体記者会に資料配布を行うともに、WEB上の提言更新を行った。

以上

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