一般社団法人 日本経済団体連合会
【労働時間規制の見直し】
「経団連、『働きたい改革』を撤回」との先日の一部報道について申し上げる。
賃金引上げの力強いモメンタムの「さらなる定着」の実現には、労働生産性の向上による原資の安定的な確保が不可欠である。そのための取組みの一環として、働き手の健康確保、時間外労働の上限規制の堅持を大前提に、働き手の意思・希望に合った、より柔軟で自律的な働き方の実現を目指すという、経団連のこれまでの方針は何ら変わっていない。
来年1月公表予定の「2026年版経営労働政策特別委員会報告」においても、裁量労働制の拡充を中心に、労働時間法制の見直しを含めた改革の必要性をしっかりと書き込み、その実現に引き続き取り組んでいく。
〔高市総理が厚生労働大臣に労働時間規制の見直しを指示したことについて問われ、〕高市総理の検討の指示は、時宜にかなったものだと考えている。近年、働き手に合わせた柔軟な働き方を実現する必要性が高まっている中で、心身の健康維持と働き手の選択を前提にした労働時間規制の見直しを行うという方向性だと承知している。
現行の時間外労働の上限規制は堅持すべきだが、自律的に働く方も含めて画一的に適用されていることが問題である。特に、裁量労働制の対象業務の見直しに期待しており、これによって働き手の能力の最大発揮と成長意欲の一層の喚起を促すことが重要だと考えている。
日本の潜在成長力が0.5%前後と低い水準にある中、これを1%台に持っていくには労働供給が制約となっている。より柔軟で自律的な労働時間法制への見直しが、成長戦略の推進につながっていくのではないか。
〔高市総理が、働き方改革の進展に伴って減った残業代を補うために副業することで健康を害する恐れがあるという趣旨の国会答弁をしたことについて、日本の賃金が低いことを示しているのではないかと問われ、〕長らく(マクロ統計の)賃金が上がっていないという問題意識をもって、経団連は賃金引上げのモメンタムの継続・定着に取り組んできた。労働時間規制を緩和することによって残業代が増えて暮らしがよくなる、という流れを志向しているわけではない。引き続き賃金引上げのモメンタムの「さらなる定着」に邁進していく。
なお、経団連は、副業・兼業について、生産性向上やイノベーションの創出に資するものとして前向きに推進してきており、成長意欲の喚起や自己実現の一環で意義のあるものと考えている。
【労働移動】
経団連の主要政策の1つである労働改革の一環で、本日、「『労働移動の積極的な推進』実現に向けたアクションプラン」を公表した。
「FUTURE DESIGN 2040」において、2040年の目指すべき姿の1つとして「円滑な労働移動の推進・定着により、日本全体の生産性が先進諸国トップクラス」となった結果、「賃金総額が安定的に増加し、適度な物価上昇を前提に、実質賃金と個人所得がプラスで推移する好循環が実現している」ことを掲げた。
しかし、わが国の労働移動は、若年層を中心に以前より活発化しているものの、諸外国に比べて十分進展しているとはいえない状況である。
そこで、このアクションプランでは、労働移動の推進に必要な事項を、「企業・経済界が取り組む事項」と「政府に要望する事項」「教育機関との連携事項」に分けた上で、それぞれの優先度と具体策、ここ3年程度を見据えたアクションを提示した。
今後、経団連では、このアクションプランを「2026年版経営労働政策特別委員会報告」に反映するとともに、その内容に基づき、各関係委員会等で活動を展開し、労働移動の積極的な推進の実現に取り組んでいく。
〔労働移動の積極的な推進が構造的な賃金引上げの実現、ひいては生産性向上につながるというエビデンスについて問われ、〕具体的なデータについては承知していないが、自身の価値向上に向けて職場を移ることが一つのモチベーションとなり、結果として価値が向上して賃金が上がっていくという社会をつくることが重要である。その際、平均勤続年数を短縮することが目的ではなく、労働移動によって働き手が自身の価値を向上させ、報酬を上げていくことで生産性の向上につなげることが志向すべき方向性であろう。
【経済財政諮問会議】
〔民間議員に内定した経済財政諮問会議への意気込みを問われ、〕経済財政諮問会議は、政府の経済財政運営の基本方針を議論する極めて重要な場である。高市総理から指名いただき光栄に存じる。これまで同様、「中長期の視点」と「日本全体の視点」を重視しつつ、総理の「責任ある積極財政」の考え方を踏まえ、積極的な意見発信に努めたい。
「責任ある積極財政」の考え方は、単なるバラマキではなく、日本経済の課題である供給力強化に向けて、政府が戦略的に投資を行い、それを呼び水に官民連携で強い経済を構築することと理解している。また、財政健全化の重要性、財政の持続可能性の確保の必要性も繰り返し発信されている。こうした一連のお考えを踏まえ、諮問会議で議論を重ねていくことになろう。
〔高市総理が国と地方の基礎的財政収支(PB)の黒字化について、単年度でなく複数年度で確認し、債務残高対比のGDP引き下げを目指すと発言されたことについて問われ、〕総理は非常に果敢に成長投資を打ち出している。投資の実行とその評価は中長期の時間軸で行うことである。総理は中期的な時間軸で、成長率を高めるための政策を展開すべく、「数年単位でバランスを確認することを検討している」と発言されたと認識している。
他方、財政健全化の重要性も強調されている。債務残高対GDP比を引き下げていくとの方向性を明確に掲げており、市場の信認確保を図る方針であると認識している。市場の信認を確保する観点からは、単年度のPB黒字化目標も引き続き重要である。一方、成長投資を見る上で、経団連もかねて複数年度の計画に基づき予算を立てることを要望してきたとおり、中長期的での財政健全化も同時に目指すべきであり、数年単位で財政健全化を図るという考え方も合理的である。
〔単年度のPB黒字化目標の重要性の度合いについて問われ、〕複眼的な指標設定が必要であろう。市場から単年度の指標も見られていることは事実であり、単年度のPB黒字化目標も、複眼的な指標設定の中の1つとして位置づけられるのではないか。一方、高市政権が成長投資を推進する政策を掲げる中、財政健全化も中長期的な思考が必要だという考えは合理的である。
【租税特別措置の見直し】
〔旧ガソリン暫定税率の廃止の代替財源として租税特別措置の見直しが検討されていることについて問われ、〕租税特別措置の見直しにあたっては、政策効果を踏まえたメリハリ付けが必要である一方、競争環境のイコールフッティングの観点から、国際競争力の観点で他国と遜色ない税制を整備していくことが重要である。
特に研究開発税制は、経団連が志向している科学技術立国を実現する上で不可欠であり、立地競争力の強化や国内の研究開発投資の促進に資する観点から検討が必要である。加えて、諸外国の研究開発税制と比較し、わが国は控除率・控除上限等の観点で劣位にあることも踏まえ、租税特別措置の見直しのあり方を検討する必要がある。
〔租税特別措置の1つである賃上げ促進税制の必要性を問われ、〕直近3年ほど、賃金引上げのモメンタムが非常に強くなり、高い賃金引上げ率が実現している。賃上げ促進税制の存在は、昨今の賃金引上げの実現に一定程度寄与していると考えている。同税制についても、見直しに当たっては、国際競争力の観点も踏まえた検討が必要である。
他方、本来の賃金引上げの意義を踏まえて、賃金引上げの力強いモメンタムの「さらなる定着」という観点から、経団連としては自律的な賃金引上げに向けた努力を引き続き呼びかけていきたい。
【2026年春季労使交渉・協議】
〔連合が2026春季生活闘争基本構想で、賃金引上げ率の目標を全体で5%以上、中小企業は6%以上と今年と同水準を提示したことの受け止めを問われ、〕連合もこれまでの賃金引上げのモメンタムを維持・強化しようという考え方の下で打ち出しされたと認識している。経団連は、2023年を賃金引上げの力強いモメンタムの「起点」の年、24年を「加速」の年、25年を「定着」の年と位置付けてきており、来年の春季労使交渉は「さらなる定着」という方針を強く打ち出していく。このことが、経団連・企業の社会的責務であると認識し、呼びかけていきたい。米国の関税措置等、先行き不透明な要素はあるが、物価が高止まりしていることも踏まえ、力強いモメンタムをさらに定着させようという強い思いで臨んでいく。
経団連の掲げる目標の達成は、中期的な傾向・動向を踏まえて判断すべきである。ベースアップの実施が浸透し、多くの企業がベースアップを行う状況を複数年度に渡って継続していくことが、「さらなる定着」実現の1つの目安になり得るのではないか。
【外国人政策】
〔今後の外国人政策のあり方について問われ、〕高市総理が政府の外国人政策に関わる司令塔機能を強化されていることを評価したい。先の参議院選挙や自民党総裁選でも大きな論点になった。日本の外国人政策は転換期にあり、適切な外国人政策の確立の必要性が高まっている。
外国人政策は、エビデンスに基づき、質と人数の両面で十分にコントロールされた秩序ある外国人の受け入れが必要である。あわせて、受け入れ後の地域への定着を図っていくことも重要である。健全な国民理解が醸成されていくよう、政治のさらなるリーダーシップを期待したい。
〔高市総理が検討されているとされる外国人の受入上限規制について問われ、〕受け入れの規制のあり方については、一部のルールを守らない外国人の規制にとどまるのか、受入人数の上限規制をするのかなどについて、政府の方でしっかり議論されるものと認識している。
適切な外国人政策のあり方について、経団連としても委員会の議論をベースに検討し、必要な提言も行っていきたい。
【対米投資】
〔トランプ米大統領の来日時に公表されたファクトシートについて、明確な合意のない中で巨額の投資が既成事実化されている可能性がある点について問われ、〕エネルギーや、AIインフラといった分野のプロジェクトについて日米企業が関心を示したものが記載されていると受け止めている。大事なことは、日米双方にとってプロジェクトが有益に組成されることである。日米間だけでなく、日本の官と民のコミュニケーションも通じ、プロジェクトの有益性を確保してほしい。